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田中寿美
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18.ブロンド・ジョーク「ヒューストンに行くの」

いつの世もどの社会でも、美しい人、お金持ち、上に立つものは賞賛を得、また憧憬や羨望の的となる代わりに、鋭い批判とその人を小馬鹿にしたジョークが浴びせられるものだ。アメリカでは、アメリカン・ジョークが不平等、格差社会の潤滑油の役割を果たしているように思う。その中でも金髪“Blonde Jokes”は人気があり、弁護士ジョーク“Lawyer Jokes”(No.17踏み倒したファックス代「番外編」参照)と張り合っている。

ブロンド女性といえば、美しい人は本当に美しいと思う。中には、美人とか何とかのつける言葉がないほど神秘的で、彫刻のような顔をずーと見つめていたくなるような人もいる。長い輝くブロンドの髪に、真っ白い肌、青色や緑色の大きな目をした女性を見ると、自分と同じ人間だろうかと思うほどだ。しかし、「美しい」と言う言葉は形容詞であり、形容詞であるということは、視覚、味覚、聴覚などを含め人それぞれ感じる程度がずいぶん違うと言える。「白人の金髪なんて美しいとは全く思わない」という人もいるだろう。しかし、「ミス・アメリカ」「ミス・ユニヴァース」「ミス・○○」などのコンテストでは、長い間、白人金髪の女性たちが栄冠を勝ち得てきた。アメリカでは、「blonde」という言葉は、それだけで美人の代名詞になっている。

さて、九州の田舎で外国人を見かけることが少なかった時代に育った私にとって、金髪(blonde)や赤毛(redhead)というのは、まるで宇宙人のような存在だった。白髪(gray hair)は廻りに老人がたくさんいたので納得できたが、どうして頭に黄色やオレンジ色の髪の毛が生えてくるのか。これは青や緑色の目にも言えることだった。どうして目が青や緑色になりうるのか……。進化論?科学的根拠など知る由もなく……。そんな私が、アメリカに長年住み、出会った金髪女性は数知れない。慣れとは不思議なものだ。最近は、どんな髪の毛、目の色であろうと人間と思えるようになった。

アメリカでは、ブロンドの女性は、その髪の美しさゆえに小さいころからちやほやされ、成長するにつれ男が群がってくると思われている。ブロンド女性が全て美しいとは限らないが、その長い髪がキラキラと輝き、ちょっと前髪を掻きあげるしぐさをすれば、色気が漂い男を虜にするらしい。

ブロンドでもなく美人でもなければ、人に好かれるように性格を良くするとか、一生懸命勉強するとか、化粧でごまかすとか、人から認めてもらうため、あるいは男を魅了する術を、頭を使って研究するなり努力するものだ。ブロンド美人は、それらの努力や苦労をせず、成功した金持ち男や人生のおいしいところを、楽々と自分のものにできると思われている。ブロンド女性は、深く考えることなく育つため、頭の中は空っぽ、生活の判断能力にかけるとあえて皮肉っている。

つまり、ブロンド・ジョークって、もてない者のひがみなのね……。

さて、息子が中学生の時の担任ミス・マウ(Ms. Mow)は、ジョークが大好きだった。彼女はもちろんブロンドではなく、背が低いちょっと太めの30歳代の女性であった。毎朝、開口一番、前夜ラジオ番組で仕入れてきたホットなジョークを生徒に披露し、彼らの反応を楽しみながら一日を始める。息子は、家に帰ってそのジョークを母親に聞かせ、母親がどれほど理解できるか、どれほど笑うかで笑いの純度を決めた。「私は、ヒューストンに行くのよ」は、息子から聞いた私のお気に入りのブロンド・ジョークである。

【私は、ヒューストンに行くのよ】

ヒューストン行きの飛行機のファーストクラスに、美しいブロンド女性が座っていた。客室乗務員が調べてみると、この女性はファーストクラスではなく、エコノミークラスの客であることがわかった。客室乗務員がブロンド女性に近づいて言った。
「お客様、お客様のお席はファーストクラスではなく、エコノミークラスの方になっています。すぐにお移りいただけませんでしょうか」

ブロンド女性は、
「ふん、私はブロンドよ。ブロンドの私が、どうしてエコノミークラスに移らなきゃならないの。私はファーストクラスでヒューストンに行くの」

と答えた。困った乗務員がチーフ乗務員に相談した。チーフは、女性のところに行き、同じように丁寧に頼んだ。
「お客様、お客様のお席はファーストクラスではなく、エコノミークラスの方になっています。すぐに後方のお席に移っていただけませんでしょうか」

すると、ブロンド女性は、
「ふん、私はブロンドよ。ブロンドの私が、どうしてエコノミークラスに移らなきゃならないの。私はファーストクラスでヒューストンに行くの」

同じように応えた。

乗務員たちは頭を抱えてしまった。どうすればいいのだろうと思案したが、よい案が浮かばない。そこで、キャプテンに相談することになった。キャプテンは、
「わかった、私の妻もブロンドだ。実は、僕はブロンド語が話せるんだ。任せなさい」

彼は、ブロンド女性のところに行って耳打ちした。すると、
「あっ、そうなの。知らなかったわ」

と言って、さっさとエコノミークラスに移っていった。驚いた乗務員たちは聞いた。
「キャプテン、何と言ったのですか。あんなに動かなかった人が、どうしてすぐ移ったのですか」

キャプテンは答えた。
「僕は彼女に、『この飛行機のファーストクラスはアトランタ行きで、ヒューストンには行きません。ヒューストンに行くのはエコノミークラスですよ』と言っただけだよ」

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ジョークやユーモアは、外国人が言葉を読んだり話したりできるから理解できるというものではない。言語能力の上に、その国の文化、生活習慣、時事、スラングなどがわからないと楽しめない。これには、人生経験や年齢も関係してくる。どんなに可笑しくても、子供や外国人には理解できないジョークも多い。

息子から聞いて涙が出るほど笑った「私は、ヒューストンに行くのよ」を、3年ほどアメリカに住んでいる日本人の友人に話した。友人は言った。
「この話の何が可笑しいんですか?」

私は、どうして彼女がこのジョークの可笑しさを分からないのかと不可解だった。日本人の私が面白いと思うのだから、きっと誰でも同じ思いだと考えていたからである。しかし、彼女はアメリカ人との交友の中で、私がブロンド女性に持っているようなイメージをまだ持っていなかったのかもしれない。それは、私がブロンドの友人たちにではなく、一般的なブロンド女性に対して持っている、彼女たちの「優越感、強引さ、虚栄」が見えるときへの反感である。

しかし、長年アメリカに住む私にとっても、ユーモアやジョークは理解しがたい会話の一つである。

アメリカのジョークは、カテゴリーごとに分けられ、ブロンド、弁護士、医者、家族、政治、宗教、セックス、スポーツ、車やコンピューター等など、そして子供には子供向けのジョークがある。アメリカ人のユーモアのセンスは、小さい頃から、大人たちのこのようなジョークやユーモアを楽しむ生活の中で培われていく。

【賭け】

ブロンド女性と赤毛の女性が仕事帰りにバーに立ち寄った。二人は、お酒を飲みながら6時のニュースを見ていた。テレビには、一人の男が、ニューヨークのブルックリン・ブリッジからまさに飛び降り自殺をしようとしているところが写っていた。ブロンドが赤毛に言った。
「ねぇ、あの男が飛び降りるかどうか、50ドル賭けない?私は飛び降りないと思う」
「いいわよ。もちろん賭けるわ!私は、あの男が絶対に飛び降りると思う」
男は飛び降りた!

ブロンドは赤毛に黙って50ドルを渡した。すると赤毛は言った。
「ごめんなさい……。やっぱりこのお金はもらえない。友だちからお金を取るなんてできないわ」

ブロンドはきっぱり言った。
「いいえ。友だちでも、賭けは賭けよ」

赤毛は申し訳なさそうに言った。
「聞いて。実は、この男の自殺のことは、もう5時のニュースで聞いていて知っていたの。だからこの50ドルは貰えないのよ」

ブロンドは、驚いたように応えた。
「あら、私だって5時のニュースを見たから、この話のこと知っていたわよ。でも、私は、彼がもう一度あそこから飛び降りるなんて思ってもみなかったのよ……」

【浮気】

ブロンドの若妻は、最近、夫が浮気をしているのではないかと恐れ極度に落ち込んでいた。

ある日、彼女はガン・ショップに行き、拳銃を買った。その日、早めに家に帰ったブロンドは、夫が赤毛の美しい女と一緒にベッドにいるのを見つけた。

彼女は、すぐに拳銃を取り出した。そして、目を閉じてゆっくりと自分のこめかみに銃口をつけた。驚いた夫はベッドから飛び出して、彼女の足元に膝まづき、どうか自殺するのだけはやめてくれと頼んだ。

ブロンド妻は、狂ったように夫に向かって叫んだ。
「頼んだって無駄よ!わかっているの!次はあなたの番よ!」

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ブロンドの女性の中には、優秀な人も多い。自分がブロンドであるがゆえに頭が悪い(stupid, dumb, fool)と思われるのを嫌い、一層努力研鑽する人もいる。ブロンド・コンプレックスである。私の金髪の友人たちは、ほとんど優秀で素晴らしい。これは当然のことだが、人の性格や価値判断が外見からではなく実際に話し親しくなって初めて評価できると言うことだろう。

多くのアメリカ人女性、特に白人女性の髪の色は、ブラウン(brown)やブルネット(brunette)、つまり茶色であるらしい。どうして「らしい」かというと、金髪に染めている女性が多いので、地毛の色がわからないのである。これ程揶揄嘲弄されても、金髪でありたいと思う女性の気持ちとは何か……。「ブロンドへの憧れ」「美しく見られたい」「男にもてたい」の一念だろうか。

そう言えば、日本でもその昔「みどりの黒髪」という言葉があったが、この言葉は美人の代名詞、男にもてる条件の一つだったのだろうか。女性の髪にかける執念は古今東西変わらぬものらしい。

しかし、憧れのもてる男性の外見は、「tall, dark and handsome」背が高く、黒髪で、ハンサムであることらしい。こちらを馬鹿にしたジョークは、あまり聞かない。何故だろう……。

ブロンドとブルネットの女性。金髪は日本人のブラット直美さん。私のエッセイNo.7「乳癌治癒募金運動に参加して」に協力していただいた、あの明るく楽しい直美さんである。昨年ハロウィーンの日、金髪ヒッピーの仮装で会社に行ったときの写真。ブルネットの仮装妊婦は同僚のAndreaさん。彼女は赤毛の美しい人だが、このときはブルネットに染めていたそうだ。直美さんは、ハロウィーンでない普通の日にも、よく奇想天外の面白い格好をして会社に行く。いつか彼女の他の写真も紹介したい。

次の違いがわかりますか?髪の色は女性の代名詞になっています。

★ a blonde-殆ど女性に使われる
She is a blonde.(美しい女性と言う意味)
He has blonde hair.
★ a redhead-女性に使われるほうが多い
She is a redhead.(意志の強い女性という意味が含まっている。髪の色なのにどうしてredheadと言うのか?)
He has red hair.He is a redhead.
★ a brunette-女性のみに使われる
She is a brunette.(外見や個性についての特別な意味はない。茶色い髪の女性)
She has brown hair.He has brown hair.
★ a black hair-誰にも使われない。
She is a black. (このような言い方は米語にはないそうである)
She has black hair. He has black hair.

それなら、She is a black.これを「黒人」と訳しそうになるが、黒人は、She is black. He is black. という。

高校生の娘のインド人の友だちが、自分たちインド人のことを「”I'm brown.” ”My brown friend”とちょっとプライドをもって言う」と興味ありげに話してくれた。黒人ではないけれど肌色が褐色という意味だろうか。肌の色 “red”は、Native American(インディアン)をさす。

私が娘に「お母さんは黄色人種のアジア人だから、これからは誇りを持って“I'm yellow.”と言おうか」と言ったら、「お母さん、お母さんはバナナじゃないんだから、やめたほうがいいよ」と諭された。

スラングで「バナナ」の意味は、外見が黄色く中身が白い、つまり、白人の価値観を持ち白人のように振舞うアジア人。白人のように振舞う黒人を「Oreo」と言うが、これは子供たちに人気のある「Oreo Cookies」からきている。外側が黒いチョコレートビスケットで、挟んであるクリームが白いクッキーである。

「はて?これらのスラングは、どの肌色の人種がつくった言葉なのだろう……」