【フィギュアスケート】高橋大輔が始動。王者の風格と驚きのプログラムスポルティーバ8月27日(金) 19時28分配信 / スポーツ - スポーツ総合まず氷上での公開練習では、軽くジャンプを跳んだ後、ショートプログラムとフリーのジャンプ抜きのランスルー(音楽を流しての通し練習)を何度も見せてくれた。ショートプログラムは、マンボのスタンダード『ある恋の物語』『エル・マンボ』。これにまず度肝を抜かされる。 フィギュアスケートで人気のラテン音楽といえば、タンゴだ。高橋も『ロクサーヌのタンゴ』『eye』などを滑っているし、今年3月の世界選手権の会見で、外国人記者に「なぜ日本人の君にラテンの血が流れているのか!?」と問われたほどの得意ジャンル。 ここ数年、男子のライバル選手たちにも、タンゴを滑る選手が引きも切らない。そこから少しベクトルをずらして、ラテンでも選ばれることの少ない、マンボ。音楽に乗って動きだす彼を見て「こう来たか!」と、まず思う。 インパクトの強い静止ポーズも、くねくねと妖しい、スケートで滑っているとは思えないようなダンサブルなステップも、たっぷりとマンボの風味。これは振付師シェイ・リーン・ボーンと高橋の大いなるいたずらだろう。 高橋は『白鳥の湖』など、ショートからいきなり話題をさらってしまうプログラムが多いが、今シーズンのマンボはさらに、試合初日から印象でも点数でも突き抜けてしまいそうなプログラムだ。 何より驚いたのは彼の表情。リンクサイドに数十名の記者はいたけれど、あくまで練習中。それなのにその表情は、驚くほど本番仕様だったのだ。 強い視線を投げかけたと思ったら、一瞬後には嫣然(えんぜん)と微笑む。人々の心を射抜くように、どのシーンでもしっかり顔の表情をつくりこんで滑る。練習でここまで気持ちを盛り上げて滑る選手は、そうそういない。これが本番で、観客たちの熱気に彼自身が乗せられてしまったら……もう誰も敵わないだろう。 続いて、こちらも初公開となったフリープログラムは、ピアソラのタンゴ。キドン・クレーメルの演奏する『ブエノスアイレスの四季』だ。ショートに続き、フリーもラテン。しかもスケート界では少々食傷気味ともいえるタンゴ。その選曲に驚かされるが、「またタンゴ?」という声があったとしても、大輔にこれを滑らせたかった――フリーの振付師、パスカーレ・カメレンゴはそう考えたのだろう。 また、すでにドリームオンアイスなどで披露されているエキシビションナンバーは、ステファン・ランビエールが振付けた映画音楽『アメリ』。今年はさまざまな振付師による、さまざまな顔の高橋大輔が見られる。 以前、高橋がニコライ・モロゾフに師事していた時代。『オペラ座の怪人』など、名プログラムも革新的なプログラムもたくさん高橋に与えてくれるのはいいが、このまま彼がモロゾフ作品だけを滑り続けるのはもったいないな、と思ったことがあった。 07年、世界選手権で初めて銀メダルを獲得した直後、「他の振付師の作品を滑ることに興味はないか?」と高橋に聞いたことがある。コーチが振付師を兼ねている彼には、答えにくい質問だっただろう。しかし彼はきっぱりと、「この人のプログラムを滑ってみたい、そう思える振付師さんはたくさんいますね」と答えた。それが今、実現したんだな、と思う。 「フリーはショートと同じ、ラテン音楽。同じような印象にならないように気をつけないと!」と彼は言うが、これは心配ない。どちらのプログラムも長光歌子コーチに言わせれば「大輔得意のお色気系」。そこに、昨年のフリー『道』で掴んだ遊びの雰囲気が少し加わったのが、今年のショートプログラムのマンボ。 それに対してフリーの「タンゴ」は、100%高橋の真骨頂。野獣のようなステップを筆頭に、「これぞ大輔」と唸りたくなるようなムーブメントの連続だ。フィギュアスケートでタンゴといえば、ダイスケ・タカハシ。そう、歴史に刻んでしまいそうなプログラムだ。 練習後の囲み取材で高橋は、ふたつのプログラム成立のいきさつから、今シーズンへの意気込み、札幌で制覇したラーメン店の話題まで、「何でも聞いて!」とばかりにどんな質問にも軽快に、笑顔で答えてくれた。 こんなに気持ちの状態が良好なシーズン前の高橋は久しぶりだ。ケガ明けで五輪シーズンを迎えた昨年は、この時期から緊張感でいっぱいだったし、多少の焦りも感じられた。一昨年は少し休憩気分で、なかなかシーズンに向けてスイッチが入らない様子だった。 しかし今年は、滑る大輔も、話す大輔も、どちらも100%の世界チャンピオン。王者を取材している実感が、確かにあった。見せてくれるプログラムにも、出してくれる結果にも。今シーズンの高橋大輔のすべてに、最大限の期待を寄せていい。 青嶋ひろの●取材・文 text by Aoshima Hirono 【関連記事】 ・ 【水泳】北島康介の新たな水泳人生〜アメリカで取り戻した楽しさ ・ 【テニス】全米オープン〜クルム伊達公子が39歳にして掴んだ新スタイル ・ 【女子ゴルフ】宮里藍、米LPGAシーズン5勝が示す“偉大なる価値” ・ 【プロ野球】優勝を争う阪神、巨人、中日が脅える“刺客”たち ・ 【高校野球】甲子園決勝“大差”のワケ。明暗を分けたセンバツ後の両エース
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