民主党の小沢一郎前幹事長の党代表選出馬が、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題にも影響を与えそうだ。沖縄県名護市辺野古に移設するとする日米共同声明を継承する菅直人首相に対し、小沢氏は辺野古移設に慎重で、代表選でも普天間は争点になるとみられる。菅政権は代替施設の工法などの決定を11月の知事選後まで先送りし、仲井真弘多(なかいまひろかず)知事の再選を経て連携に期待を抱くが、小沢氏が知事選で「第3の候補」擁立に動くとの見方も浮上。普天間問題の行方は混とんとしてきた。【井本義親、西田進一郎、野口武則】
「民主党の基本的な考えが分かりにくく、県民の怒りがどこまで通じているかも分からない。代表選で何が争点になるかは、私としては見守るしかない」
仲井真知事は27日の記者会見で、民主党代表選への感想を問われ、困惑した表情を浮かべた。県幹部は「小沢さんが当選すれば政府の対応が変わる可能性もある。誰も先が見通せなくなった」と知事の思いを代弁する。
菅政権は沖縄との協議機関を設置し、共同声明を実施したい考え。だが協議機関は、沖縄側にとって県内移設を受け入れたと見られ反対派を勢いづかせかねず、政府は知事選が終わるまで待つ方針。知事は「県内移設反対」を明言しておらず、政府は知事との関係維持を最優先に慎重に対応する構えだ。
28日は外務省で日米の外務・防衛当局の専門家協議を開き、代替施設の滑走路2本をV字形に配置する案と1本にする案を併記する報告書の31日公表に向けた最終調整をした。
これに対し小沢氏は、かつて「きれいな海を埋め立てるのはダメだ」と発言し、辺野古移設に否定的な考えを示しており、共同声明見直しも視野に入れているとみられている。代表選で「小沢氏支持」を明言する川内博史衆院議員(鹿児島1区)は6月11日、東京都内で小沢氏に対し「普天間は国外移設」との持論を説明。川内氏の説明によると、その際、小沢氏は「普天間問題は代表選の争点になるよな」「まず米国にしっかり話すべきだよな」と語ったという。
防衛省幹部は「代表選で小沢氏が勝って首相になったら普天間はどうなるのか。またやり直しか」と嘆く。
11月の知事選は、自民、公明両党が支援する現職の仲井真氏と、社民、共産両党などの支援を受けて「県内移設反対」を掲げる伊波洋一・宜野湾市長との「一騎打ち」と見られてきた。だが、小沢氏の代表選出馬で、同氏と親交がある儀間光男・浦添市長を中心とする「第三極」と呼ばれるグループの動きが焦点となってきて、「三つどもえ」の可能性も出てきた。儀間氏は「指導力ある人が求められている。荒療治でも小沢さんが必要かもしれない」と話す。
「第三極」は「辺野古移設反対」を掲げる一方、一時的な県内移設は容認する立場。菅政権は「政府の方針が『県内移設』だから知事選で民主候補擁立は困難」との方針で、参院選でも「不戦敗」を喫した。これに対し小沢氏は「民主党の影響が及ばない知事になれば、普天間問題は4年間平行線という危機感がある」(小沢氏支持の若手議員)という。
伊波市長は27日、「小沢さんが辺野古移設以外への転換を打ち出して勝てば、転換が始まる。そうでなければ知事選で転換を図りたい」と語った。
民主党県連は知事選への対応を代表選後に決定する方針だ。日米共同声明から3カ月、知事選の投開票まで3カ月。普天間問題の霧は深まるばかりだ。
オバマ米政権は過去1年間で、日本の国内事情に配慮する柔軟路線に転換してきた。鳩山前政権でぎくしゃくした日米関係が、菅政権発足で同盟関係深化に向け仕切り直しになったばかりだけに、日本政治の早期安定化を望んでいるというのが米政府の本音だ。
先月の下院軍事委員会の公聴会。キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は「次々と首相や閣僚が代われば関係を確立するのは極めて困難だ。政府の関係は組織だけではなく個人の関係でもあり、日本政治の継続性を望んでいる」と答弁した。内政干渉と受け取られかねない、米政府高官としては極めて異例の発言だった。
日米同盟をアジア政策の礎石と位置づけるオバマ政権は、菅政権が、発足直後から日米同盟を重視する姿勢を強調していることを高く評価。時間をかけながらも、普天間移設を実現する素地が整いつつあるとの認識が広がっている。
それだけに、小沢氏の代表選出馬は想定外で、当惑しているというのが実態だ。小沢氏については、昨年末に民主党国会議員約140人を連れて訪中したことや、キャンベル氏の訪米の誘いを受け入れなかったとの印象が強い一方、現実主義者との評価もあり、必ずしも米国での見方は定まっていない。
有力シンクタンク、外交問題評議会(CFR)のシーラ・スミス上級研究員は「同盟関係を強化する余地があるにもかかわらず、日本の政治状況でその機会が失われるような事態にならないか懸念している」と語る。【ワシントン古本陽荘】
毎日新聞 2010年8月29日 東京朝刊