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医療費:新薬、膨張に拍車 月1000万円超す患者、22年で10倍

 患者の生活を圧迫する薬の高額化は、近年加速する医療費の拡大を生んでいる。一定規模以上の企業が加盟する「健康保険組合連合会」(健保連)の調査では、医療機関が発行する1カ月に1000万円以上の高額レセプト(診療報酬明細書)の件数が年々増加。その背景には、画期的な新薬の登場がある。経済的負担から治療中断に追い込まれる患者も後を絶たず、命を巡る負の連鎖が浮かんだ。【大場あい、河内敏康、永山悦子】

 「医療費が1人で月1000万円以上の患者は、22年で10倍以上に増えた。今後もこの傾向は続くだろう」。各健保から集まるレセプトに基づき、高額医療費の実態を分析する健保連の担当者はそう話す。1カ月で1000万円以上のレセプトが初めて登場したのは86年度。この年12件あった。07年度に過去最多の140件、08年度は134件に上った。これまでの最高額は4007万3310円だった。毎月のように1000万円超の医療費がかかり、「年1億円を超す人もいる」(健保連)という。高額な血液製剤を使う血友病患者では、医療費の9割以上を薬剤費が占めることもある。

 厚生労働省がまとめた昨年度の医療費の概要によると、7年連続で過去最高を更新し、35兆3000億円に達した。そのうち外来患者が使う薬の費用を示す調剤費は全体の約2割を占め、前年度比で7・9%伸びた。調剤費は04年度以降、一貫して増加している。

 厚労省によると、2年に1度の薬価改定は、薬の公定価格を市場の実勢価格に近い値段に引き下げる「減額方向」で実施される。それにもかかわらず調剤費が伸び続ける理由は「新薬の単価が上昇していることが一因」(厚労省)という。新たな治療によって延命につながるなど、患者の利益は確かに大きい。だが、薬剤の高額化は医療費の拡大に大きな影響を及ぼしている。

 医薬品市場や新薬開発に詳しい吉川徹・吉川医薬研究所代表は「がんなどの画期的な治療薬として注目される分子標的薬などの新薬は、従来の薬に比べて格段に高い。国内の薬剤1剤あたりの単価が上昇しているのは間違いない。今後、このような新薬が国内の医薬品市場全体を拡大させる状況になるかもしれない」と話す。

 ◇「負担理由に患者が薬拒否」 開業医らの4割経験

 医療費の自己負担が重いため、治療をやめたり、受診を控えるケースが全国で相次いでいる。

 開業医が中心の「全国保険医団体連合会」が今年5~6月に実施した会員対象の調査(回答3242施設)によると、「主に(患者の)経済的理由」から治療を中断・中止した経験があると答えた施設が約4割あった。「家族の薬を共有する」「インスリンを使う患者から内服薬だけにしてほしいと訴えられた」などの声が寄せられた。「医療費負担を理由に検査や投薬を(患者から)断られた」との回答も4割を超えた。保団連は「患者負担のあり方を改善し、長期治療が必要な病気の患者負担を軽減できるよう、負担上限額を引き下げるべきだ」と訴える。

 海外でも、高額医療による受診抑制が問題視されている。今月5日の米医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」で、米カリフォルニア大の研究チームが、「景気悪化でイマチニブ(製品名グリベック)を中断」との題で、患者の治療中断実態を報告した。小売価格が月4500ドル(38万2500円)を超えるグリベックは、一部の患者にとって経済的負担が難しい法外な値段となっており、慢性骨髄性白血病などの患者の約30%が治療を中断していると指摘した。

 厚労省は、高額療養費制度での患者負担軽減を目指して新たな仕組みを検討しており、年内には結論をまとめる予定だ。

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毎日新聞 2010年8月29日 東京朝刊

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