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安保懇:「基盤防衛力」脱却提言 「複合事態」に対応--報告書

 ◇武器輸出三原則「緩和を」

 菅直人首相の諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長=佐藤茂雄・京阪電鉄最高経営責任者)は27日、将来の安全保障に関する報告書をまとめ、首相に提出した。独立国として必要最小限度の防衛力を保有する「基盤的防衛力」構想から脱却し、複数の多様な事態が同時に発生する「複合事態」に対応できる防衛力の整備を提言。兵器の輸出を原則禁じる武器輸出三原則については、米国以外の国とも共同開発・生産が可能になるよう見直しを求めている。【仙石恭】

 政府は報告書を踏まえ、年末に新たな「防衛計画の大綱」(防衛大綱)をまとめる。報告書を受け取った菅首相は「防衛大綱の見直しは国家の安全保障にかかわる重要な課題だ。報告書は検討材料の一つとさせていただく」と述べた。

 報告書では基盤的防衛力について「もはや有効でない」と強調。武器輸出三原則の見直しについては防衛産業が共同開発に参画できない現状を踏まえ、「見直しの決断は、できるだけ早く行われるのが望ましい」と踏み込んだ。ともに民主党内でも異論は少なく、新たな防衛大綱に反映される可能性が高い。

 核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」とする非核三原則については「当面改めなければならない情勢にはない」としながらも、「持ち込ませず」に関しては「米国の手を縛ることを決めることは必ずしも賢明ではない」と指摘した。

 集団的自衛権行使については、日本を飛び越え、米国へ向かう弾道ミサイルの迎撃などを例示。「日本として何をすべきか考え、解釈の再検討はそのうえでなされるべきだ」として、憲法解釈の変更を促した。

 ◇問われる部隊の有効活用

 政府の安保防衛懇談会が菅直人首相に提出した報告書で、冷戦時代に登場した「基盤的防衛力構想」からの脱却を打ち出したのは、「存在すること」が抑止力になるという「静的抑止」から転換し、日ごろの警戒監視活動強化や南西諸島を念頭にした島しょ部への部隊配備など「動的抑止」への移行の必要性に迫られたためだ。

 テロや弾道ミサイルの発射、国連平和維持活動(PKO)、災害派遣など自衛隊がかかわる任務は増大し、核実験を繰り返す北朝鮮や軍事力の増強を続ける中国の存在など、日本周辺の安全保障環境は好転する兆しが見えない。そんななか、「ポイントは基盤的防衛力構想の呪縛からの脱皮だ。これからは自衛隊の持つさまざまな機能を、差配しながら活用していかなければならない」と関係者は指摘しており、限られた部隊をいかに有効に運用するかが、一層問われることになる。

 報告書では、「動的抑止」について、重火器中心の装備から機動力を持つ陸上戦闘力の保有や、潜水艦の増強などを例示している。

 さらに「特殊部隊による重要施設への攻撃とサイバー攻撃の同時発生」など複数の脅威が押し寄せることを「複合事態」と定義。効果的に対応できる防衛力の設計を目指すべきだと指摘している。

 また報告書は、非核三原則について見直しを打ち出した草案を修正し、最終的に「当面改めなければならない情勢にはない」と、非核三原則の堅持を求める一文を挿入して表現を弱めた。結果的に、自民党政権下の有識者懇による報告書と似通った内容にとどまり、継続性が重視された形となった。

    ◇

 懇談会の座長以外のメンバーは次の通り。

 ◆委員

 岩間陽子政策研究大学院大教授▽白石隆日本貿易振興機構アジア経済研究所長▽添谷芳秀慶応大教授▽中西寛京大大学院教授▽広瀬崇子専修大教授▽松田康博東大東洋文化研究所准教授▽山本正日本国際交流センター理事長

 ◆専門委員

 伊藤康成元防衛事務次官▽加藤良三前駐米大使▽斎藤隆前統合幕僚長

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 ■ことば

 ◇基盤的防衛力構想

 軍事的脅威に直接対抗するよりも、力の空白となって周辺地域の不安定要因にならないように、独立国として必要最小限の基盤的な防衛力を保有するという考え方。冷戦期だった76年の防衛大綱で初めて表明され、95年の大綱でも踏襲。04年の現大綱でも有効な部分は継承している。

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 ■安保・防衛懇報告書の骨子

▽「基盤的防衛力構想」からの脱却

▽「複合事態」を想定した防衛体制への改編

▽離島・島しょ部への自衛隊部隊の配備

▽武器輸出三原則を修正し国際共同開発などを容認

▽集団的自衛権の憲法解釈変更の検討

▽PKO参加5原則の修正

▽非核三原則の問題点を指摘

毎日新聞 2010年8月28日 東京朝刊

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