プロの音響、会場敏 後編

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須山浩継(すやまひろつぐ)
1963年広島県出身。大学卒業後、5年間のサラリーマン生活の後に「趣味で食えたらラッキー」と、プロレス&格闘技を主に取材対象とするフリーライターに。 プロレスに関してはもっぱらインディー系と女子が専門分野で、メジャー団体や選手の取材経験は非常に少ない特殊マスコミ。 現在はサムライTVの怪番組「インディーのお仕事」の企画構成、大日本プロレス中継の解説などを担当。

プロの音響、会場敏 後編

2010年08月28日アダルト

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普通、イベントにおける音響の仕事とはお客さんに最高の音質を届けることです。しかしプロレスの興行における音響の仕事には、音質以上に重視される大事なことがあります。それはその時々における正しい音楽を、最高のタイミングで流すことです。

ご存知のように現在のプロレスでは第1試合から選手の入場時にはテーマ曲が流れます。試合後にも勝者のテーマ曲が流れます。これを間違えてしまうと、選手も気合いが入りませんし、お客さんもシラけてしまいます。

さらに曲をフェードアウトするタイミングも大事です。選手はすでに入場しているのに、延々と曲が続いているのもみっともないですし、逆にあまりに早く曲が終わってしまうのも締まりません。

試合後の勝者のテーマ曲にしても、リングアナが「ただ今の試合は○分○秒、誰それ選手の勝利」とコールした直後が最高のタイミングなのですが、これが遅れてしまうと非常に間抜けな光景となります。

ましてやプロレスにはタッグマッチという独自のルールがあります。これが6人タッグや8人タッグになると、試合の決着がついてリングアナが試合結果をコールするまでの10秒弱の間に、勝利した選手のテーマ曲を選んで流さなくてはならないワケで、最高のタイミングで曲を流すためには熟練が必要になってきます。

さらに当節では時間差入場バトルなんてルールの試合もあります。つまり1分から2分の間に、次から次へと選手が入場してくるルールなのですが、登場する選手が30人以上なんてことも珍しくありません。ここで間違った曲を流してしまうと、下手をしたら試合自体がぶち壊しになってしまうこともあります。

こんな具合に独自のコツやカンが必要なこともあって、慣れない人間が音響をやるとミスが頻発します。ところが我らが会場敏はかくも複雑なプロレス興行の音響を長年やりながら、私が知る限りミスらしいミスをしたことがありません。さらに音を出すタイミングも切るタイミングも常に最高です。

時間差バトルでは昨年末に108人参加という常軌を逸した試合も担当しましたが、やはり一曲たりともミスはありませんでした。まさにプロの仕事です。彼のような熟練の裏方もいるからこそ、選手も気持ち良く試合をすることができますし、お客さんもよりプロレスを楽しむことができるのです。

ただ、よくわからないのが会場敏の日常生活です。プロレスの音響の仕事だけでは食っていけないと思うのですが、平日だろうが休日だろうが試合があれば現れるところを見ると、いわゆるサラリーマンでもないようです。

年齢も40歳を過ぎていると思うのですが、地べたに座って前に空き缶でも置けば、優しい人なら100円くらい投げ込んでくれそうなくらい、いつもボロボロの服を着ています。しかし近くに寄っても臭ってきたことはないので、風呂にも入っているようですしボロボロの服もファッションなのかもしれません。

さらに以前にあるイベントでブルースハープを吹いているところを見たのですが、これがプロ並みの腕前でした。聞けばバンド活動もしているようですが、かといってそれで食っているワケでもないようです。とにかく私生活に関しては謎だらけの人物なのです。

ちなみに現在の彼は主にDDTの会場で音響を担当しています。スタッフのパスを付けた坊主頭のボロボロ服がいたら会場敏なので、「会場さんですか?応援してますから今日も最高の音をお願いします」と一声かけてあげてください。とりわけ若い女性なら非常に喜ぶと思います。ただ、電話番号の類は教えない方が賢明です。


※こちらとは別に「須山浩継伯爵の身勝手日記」というブログの方もご愛読頂ければ幸いですhirotsugukunというアカウントでツイッターもやっております

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