きょうの社説 2010年8月29日

◎新規着工先送り 期限を区切り責任ある議論を
 国土交通省は、来年度政府予算の概算要求前に北陸新幹線金沢―敦賀など整備新幹線の 未着工区間の着工の是非について、結論を出すことができなかった。結局、「夏までに」という約束は、ほごにされた格好である。前原誠司国交相は1カ月も前に早々と結論の先送りに言及しており、「予告」が現実になっただけとはいえ、その後も沿線関係者が要望を重ねたにもかかわらず、議論が早まる気配がみられなかったことは残念だ。

 前原国交相は27日の閣議後会見で「(結論を出す)明確な期日は設けていない」と述 べたが、これはあまりにも無責任な発言ではないか。沿線の期待を裏切ったことをわびよとは言わない。ただ、せめて期限を区切ってしっかりと検討作業を進めるという意欲だけでも見せてほしかった。

 未着工区間をめぐっては、年明け以降、国交、財務、総務省の政務官による整備新幹線 問題調整会議で協議が行われてきた。だが、会議では沿線知事や有識者らのヒアリングが繰り返され、最も重要で、かつ答えを出すのが難しい財源問題に真正面から踏み込まずに期限切れを迎えた感がある。「これからも似たような議論が延々と続くかもしれない」。前原国交相の発言を知り、不安を覚えた向きも少なくないだろう。

 北陸について言えば、先行して完成している新幹線対応の福井駅を、いつまでも宙に浮 いたままにしておくわけにはいかないという事情もある。沿線関係者からは「来年度政府予算案が固まる年末までには結論を」との声が早くも上がっているが、今度こそ、そんな期待に応えるつもりがあるのか。前原国交相には、まずきちんとした意思表明を求めたい。

 概算要求では、北陸の長野―金沢など既着工区間の総事業費として今年度当初比350 億円増の2950億円を盛り込んだ。前原国交相は、先の参院選応援で北陸を訪れた際にも、既着工区間を目標通りに完成させると「宣言」しており、この約束を堅持する姿勢を示したことに関しては、評価できる。今後もぶれずに前へ進んでもらいたい。

◎民主党代表選 景気、円高対策を語れ
 民主党代表選に出馬する菅直人首相と小沢一郎前幹事長に聞きたいのは、円高と株安の 圧力で、減速感が強まっている景気をどう支え、回復軌道にのせるのか、という問いへの明確な回答である。現在の円高は日本経済の実力を示すものではなく、円高を演出して利ざやを稼ぐヘッジファンドなど投機筋の仕掛けがあるという。しかし、参院選での敗北後、菅政権はこの仕掛けに対処できず、日本企業は孤立無援のまま不利な戦いを強いられている。これでは雇用環境が悪化し、個人消費が低迷するのも当然だろう。

 菅首相は経済問題は不得手と見られており、円高や株安についての発言も一般論の域を 出ていない。27日の会見では、円高への対応について、「必要な時には断固たる措置をとる」と述べ、週明けに日本銀行の白川方明総裁と首相官邸で会談することを明らかにした。政府・日銀による市場介入の可能性を示唆したつもりだろうが、「口先介入」のタイミングが余りにも遅い。会見では、代表選に向けて「経済対策の基本方針の道筋をつくる」とも言っているが、1ドル=80円台前半まで円高が進み、日経平均株価が9000円を割った状況下で、方針を示すだけでは物足りない。

 一方、昨年の衆院選マニフェストへの回帰を主張している小沢氏の場合も、経済政策に ついての手腕は未知数で、この難局をどうやって乗り切る腹づもりなのかがさっぱり伝わらない。今必要なのは、財源の裏付けを抜きにしたマニフェストの夢を語ることではなく、喫緊の課題である景気対策について、円高、株安問題も含めた対処方針をしっかりと示すことではないのか。出馬に際して、自身の「政治とカネ」の問題に関して説明責任を果たすことも重要だ。

 日銀は来月6、7日の金融政策決定会合を待たずに追加金融緩和に踏み切る可能性が出 てきた。低利の固定金利で資金を供給する「新型オペレーション」の充実などが検討されているようだが、これで円高に歯止めがかかるとは思えない。長期国債の買い入れ増額が必要ではないか。