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[21290] とある科学の絶対包囲【とある科学の超電磁砲 オリ主 最強】
Name: ゼブラ◆ade9e36a ID:72a9f08e
Date: 2010/08/28 01:44



 総人口230万人、その実に八割を学生が占める街――それが学園都市。
「記憶術」だの「暗記術」という名目で超能力研究、つまりは「脳の開発」が行われている。
 その為に人為的に生徒の脳にある種の障害を起こさせ、通常の人間と違う『才能ある人間』に身体をつくりかえる。
 何十年か前ならば神の御業とでもいうような奇跡が人間の手によって開発されている。

 そんな不可思議が当たり前のことのように現実としてある学園都市に席を置くようになってそろそろ十年が経つ。
 完全な無能力と断定された初診からとある機密の研究部署に所属し、五ヶ年計画を経て“能力開発”に成功。以後、年単位で能力のさらなる向上の日々が続いていくはずだった。


 そんな俺の現在はというと。

「をい、こっちん! おいらの勇姿を見てみぃ、やっ!」

 数少ない“普通の友人”である天木 雨靖(あまき あまやす)、通称あまちゃん少年が無駄に甲高い叫びと共に検査用の砲丸(10kg)をオーバースローで投擲した。

「たーまやー、とでも言えば良いのか?」

 雨靖が投擲した砲丸は、その掌から離れたと思った次の瞬間には100m先に設置されていた専用の緩衝材に深々とめり込んでいた。
 そして、雨靖が立っている円の隣に大層な機材を設置してモニターを睨んでいた担当者は端末を操作しながら事務的に『記録 283m/sec 』とだけ告げた。

「ヲッシャーー! 記録更新やっ!」

 片手を天に突き上げながら片足も膝蹴りの要領で上げて喜ぶ雨靖は、遥か上空へと嬌声を轟かせながら自身も天へと昇っていった。
 雨靖が晴天に漂う雲のひとつに突っ込んだところで俺の番が回ってきた。

「次、大河内 青(おおこうち あお)」

「……はい」

 青。大河内 青――それが俺の名前だった。名前が【青】ってどうよ。たまに【あお】が【あほ】って聞こえるのが悔しいです。
 今日は、俺が通う四條坂高校で身体検査システムスキャンが行われていた。四條坂高校は、基本的に中階層の能力者が多く在籍しており、大能力者レベル4が2人、強能力者レベル3が5人、残りの8割が異能力者レベル2、あとの数%が低能力者レベル1と無能力者という構成になっている。もちろん、中には成長を続けている生徒もそれなりに居るので徐々にだが学校全体のレベルは上がっていると思われる。
 そんな四條坂高校の出世頭といえば、ようやく天上の雲を引き裂いて落下してくるあまちゃんこと雨靖である。
 凄まじい落下速度で降って来る雨靖の存在に他の生徒達は気付いており、すでに避難も完了している。

「ぉぉぉぉぉぉぉぉおををををををををっ、しゃ!」

 推定数百m上空から自由落下してきた雨靖は着地寸前で一回転し、【ドッゴンッ!】というおよそ人間が高所から落下した際に生命を失うのに十分な轟音と振動を生み出した。雨靖の能力は【万能発射台カタパルト】。鉄球だろうと人間だろうと生卵だろうと子猫だろうと物理的に接触できる物体ならば何でもかんでも射出できる人間砲台だ。但し、まだ射出する対象が雨靖本人よりも軽く小さいモノに限られている。そのため雨靖は鍛えに鍛えて鋼の筋肉というウェイトを備えている。2mを越える長身と巌の如き豪筋を軋らせるその威容はまるで鬼ようだとよく言われているが、本人はそのことを気にするどころか喜んでいるのだから羨ましい。

「をいをい、こっちん! 成長期真っ盛りのおいらはすっごいやっ!?」

 どこぞの世界記録保持者の決めポーズのようなポージングをする雨靖のキラリと光る白い歯が眩しい。

「雨靖は、いつでもすごいよ。たった1年で低能力者レベル1から大能力者レベル4に成長した四條坂の出世頭だもんな」

「ち、ち、ち! おいらを褒める時は【四條坂の鬼神】と呼ぶやっ!」

 雨靖には悪いがその通り名を呼んでやれるほど俺の羞恥心は薄くはない。
 いい加減、事務的な表情が崩れそうになっていると思われる担当者の無言のプレッシャーが背中を引っかくので手にした砲丸を標的に向かって構える。

「こっちんは、前ん時ゃあ散々だったんし、今日は頑張りぃやっ!」

 眩しい白い歯を覗かせる真夏の太陽のようなサムズアップに脱力してしまう。

「ま、前ほど悪い結果にはならないと思うけどな」

 四條坂に2人だけ在籍する大能力者レベル4のひとりは、【四條坂の鬼神】こと天木 雨靖。もうひとりの大能力者レベル4、それは俺だったりする。数年前の身体検査システムスキャン大能力者レベル4の判定を受けた俺は、それなりに高待遇で四條坂に迎えられたのだが、四條坂に入学する直前に遭遇したとある事件以後、能力が安定して行使できなくなっていた。それからの数ヶ月は地獄のような毎日だった。
 俺は中学校時代から学園都市の治安維持組織のひとつである風紀委員ジャッジメントに所属していたこともあり、中学校時代からの知り合いが多く進学していた四條坂では、俺が大能力者レベル4だったということが周知されていたため、昔のように能力行使ができなくなったことが広まると結構な数のお礼参り希望者が集まった。
 そんなときに俺を助けてくれたのが、まだ大した力もない低能力者レベル1だった当時の雨靖だ。

『 をいをい、逃げるときも格好良くしぃやっ! 』

 そんな台詞をそれほど親しくもない中肉中背のクラスメイトが言ってきたら感激するか、それとも呆れるか。俺の場合は驚いて声もでなかった。何しろ、雨靖が低能力者レベル1だというのは、その数日前の身体検査システムスキャンで俺もお礼参り希望者たちも知っていた。そんな奴がいきなり現れても怪我人が増えるだけだと思ったものだ。それがどうだろう。雨靖は得意の【万能発射台カタパルト】を使って俺を校舎の2階(実際はベランダの鉄柵をギリギリ掴めるくらいの高さ)へと射出し、本人も同じように2階の鉄柵を跳び掴み、颯爽と現場から離脱することに成功した。もちろん、2階に逃げた程度では少しの時間を稼いだだけ。それから数ヶ月、俺は力が回復するまでの間は雨靖の“遊び”付き合うことにした。
 あのときの似非ヒーローも気が付けば大能力者レベル4にまで成長し、名実共にヒーローと呼んでも良い男になった。友人付き合いするようになって気付いたのだが、雨靖に英雄願望はない。どちらかというと冒険心といった感じだった。ここ1、2年で怖いくらいの筋肉男になってしまったが、雨靖は良い意味で子供のままで居てくれる貴重な人材だ。

「こぉぉぉおっちん、ファイヤ、やっ!」

 凄まじく逞しい子供な友人の声援を受けて少しだけ前向きな気持ちで能力を発動させる。
 突き出した右手に持っていた砲丸を掌の上で転がして回転をかけながら標的へ向かって優しく放る。

 緩やかな回転が砲丸の落下するにしたがって徐々に回転が増す。
 掌の上では、2秒で1回転。地面に落着した時点で1秒1回転。地面に落下した砲丸はまるで自身の重さを忘れたように軽い調子で地面を標的に向かって転がっていく。
 ゆっくりと、しかし、はっきりと分かるペースで砲丸の回転は加速する。
 そして、標的の数m手前まで接近した砲丸に向かって突き出していた拳を引き戻し、渾身のストレートを虚空に叩き込む。

五重回転フィフスドライヴ交叉加速クロスバースト

 約97m前方の砲丸に叩き込むように突き出した拳。
 すると、98m前方へと進んでいた砲丸が、突如として物理法則を無視した回転を始めた瞬間、現実の法則を超越し、俺の現実が新たな法則を砲丸の回転に【力】を与えた。







 身体検査システムスキャンも終わり、俺に下された今回の判定結果を自分のことのように喜んではしゃいでいた雨靖とも別れて帰路に着く。
 本当ならば放課後には風紀委員ジャッジメントの仕事に就かなくてはならなかったのだが、雨靖に付き合わされて時間に大分遅れてしまった。これから支部に向かっても最終下校時刻が迫っているので今日の業務には結局間に合わない。仕方ないので直属の先輩に連絡を入れようと思ったら先方の方から連絡が入った。

『まずは、大能力者レベル4復帰おめでたいさね』

 皮肉ったような台詞を何の裏もなく口にする尊敬しつつも怖いと思う先輩の第一声に笑えない気まずさを強いられる。

『ま、今日の無断欠勤はあまちゃん君から聞いていたさね。彼、子供な癖にそういった手回しはこっちんの3倍くらいは巧いさね』

「すみません。次からは自分で報告するようにします」

『それは結構さね。けど、ドタキャンは勘弁して欲しいさね』

「了解です。次はないようにしますよ」

 本当にこれからはそうする。俺が本気でそう答えたと信じてくれたのか、先輩は『支部の蓄えが尽きかけてるという現状をお知らせしつつ、バイバイさね』と分かりやすいおねだりの言葉と共に通話を終了した。

「貴女も子供でしょうに」

 繋がりの切れた携帯電話にまったく気にしていない愚痴をこぼす。
 夜の時間に入った街の中、とある陸橋の中ほどを歩いていると突然目の前に風力発電機の羽根が突き刺さった。

「……いや、死ぬから」

 突き刺さった発電機の羽根。それに“最初に気付いた”のは俺だ。いや、俺以外の人間は“まだ気付けない”のだろう。
 それは“ずれた認識”だからだ。“ずれ”に気付いた俺は、その瞬間に“ずれた認識”の流れに乗ってしまった。
 ゆえに俺は“ずれた認識”の流れに正常な認識が追いつくまでもとの流れに戻れない。

「もしくは、この“ずれ”の元凶を正すか。……らしくない物騒な考えだぞ、馬鹿」

 静かに待てばいい。このような“ずれ”を長く続けることは世界が許さないだろう。
 視線を動かせば見覚えのある黒髪の少年が、凄まじくあれな格好の鋼糸使いの女侍?に苛められている現場が見て取れる。
 女侍の方は俺に気付いているようだが、現状はこちらから行動を起こさなければ無視する方向らしい。少年の対応が終わればこちらに何某かのアクションを起こす可能性は十二分にあるが、この“ずれた認識”から抜け出せれば逃げの一手で面倒も回避できる。“動くモノ”が無数に存在する街中は俺の能力の幅を広げるフィールドであり、今日は2年ぶりに“感触”を思い出すほど調子が良い。

「うわっちゃぁ~。痛そうだが、“そっち”に俺の居場所はなさそうだ。勘弁な」

 女侍に苛められて血だらけになる少年に心の中で謝りつつ逃げ出すチャンスを狙って“事前準備”を始めることにした。


























 ※ 指摘を受けまして冒頭を数話先のネタと入れ替えてみました。
   








[21290] 第1話 VS最強
Name: ゼブラ◆ade9e36a ID:72a9f08e
Date: 2010/08/28 01:44






 俺とはまったく関係のない状況にたまたま遭遇してしまったが、その状況もすぐに終わっていた。
 学園都市に有り触れている【異能の力】とは異なった力による一定範囲の隔離。
 似たようなことなら俺もできるが、隔離範囲の規模は個人の演算能力を軽く超えているように思った。少なくとも俺が同じ事をすればぶっ倒れること必至だ。
 ならばあの連中が凄まじい演算能力を持っているか、個人で運用するタイプの能力ではないのかもしれない。
 そんな異質な存在と関わりを持ったと思われる見覚えのある学生のことは放っておいた。
 彼には彼の事情がある。そこに首を突っ込んで余計な面倒ごとを背負い込むのはよろしくない。
 何しろこちらはこちらで色々な事情を抱えているのだから。

 その事情のひとつは、幻想御手レベルアッパーという都市伝説が発端となった各種事件。
 各学校内及びその生徒達の通学経路付近で幻想御手レベルアッパーを金銭で売買をしようとしていた無能力集団スキルアウトたちの取り締まりという名の監視や風紀委員ジャッジメントが狙われた虚空爆破グラビトン事件やらがあった末、幻想御手レベルアッパーを作成した一連の事件の元凶である木山春生を学園都市が誇る超能力者レベル5の第3位である超電磁砲レールガンの協力を得た風紀委員ジャッジメント警備員アンチスキルにより拘束された。
 その現場で存在が確認されたAIMバーストなる怪物と超電磁砲レールガンの戦闘。その記録を後に見る機会があったが、どこの怪獣映画だ、と思った。きっと映像作品として売り出せば超電磁砲レールガンのキャラクターも相まってそれなりの興行収入を期待できるのではないかと本気で考えた。もちろん、その映像記録をコピーすることは不可だった。

「そういう時に居合せないのは狙ってたのかな?」

「うちの学校は身体測定システムスキャンだと報告してただろ。夜は夜で変な連中に絡まれるしでそれなりに大変だったんぞ?」

身体測定システムスキャンは規定の行事だから仕方がないとしてもね。青君に大変な思いをさせる人たちね~」

 まるで信用していないような呆れ顔でため息混じりに言う第一七七支部の同僚、固法 美偉。
 以前所属していた風紀委員ジャッジメントの支部が解体された2年前、俺も佐々木先輩も能力がズタボロになっていた折にたまたま関わった別件が縁で風紀委員ジャッジメントの研修期間も受け持った数少ない【普通の友人】だ。出会った当初は風紀委員ジャッジメントの先輩として多少は遠慮してくれていたが、いまでは同い年ということもあってか軽んじられているように感じる。その対応事態は心地良いので構わないのだが、妙なところで小言が多くなるのは勘弁して欲しいと思ってしまうのは贅沢なことだろうか。
 
「まあ、そのことは置いといてくれ。それより白井たちはもう帰ったのか?」

 言いながら第一七七支部内を見渡すが同僚の姿は固法以外に見えない。

「それはそうでしょ。今日の活動はとっくに終わってるわよ。私も報告書を上げたら帰らせてもらうわよ」

 とこちらを見ることなく着々と活動報告書を仕上げていく固法。
 第一七七支部を構成する風紀委員ジャッジメントのメンバーは俺と固法以外に数名存在する。この支部のリーダーである佐々木 芳子の他に学園都市でも有数の名門校である常盤台中学に通っている白井 黒子や第一七七支部が設置されている柵川中学に通う初春 飾利など能力や人格に個性が強い人物達で占められている。戦力的には、前衛・後衛・支援と学園都市でも上位に入るバランスの取れたメンバー構成となっているが、いまいちそこら辺が周知されていないように感じる。
 まあ実力行使するような事件もそうそうない。大抵はそれぞれの学校内のいざこざの仲裁、校内や周辺の清掃や街のボランティア活動などが日ごろの活動内容になる。先の幻想御手レベルアッパーによって引き起こされた各種事件は、その関係者のほとんどが学生であったこともあり、珍しく風紀委員ジャッジメントもかなり多くの仕事が回ってきた。かく言う自分も虚空爆破グラビトン事件では捜査の傍らターゲットにされたりもした。もちろん、犯人逮捕に貢献することもなかった。実際、俺の能力は【他人】に直接干渉することができないということもあり、純粋な戦闘以外でなかなか活躍させることができないから能力が回復し始める前は、風紀委員ジャッジメントの仕事も雑用ばかりだった。そのことに文句はないし、不満もない。なにしろ俺が何かをしなくてもこの2年の間に発生した事件の数々は何の問題もなく解決されている。

「平和なのは良いこと……ということだな」

「何、いきなり言ってるのよ。今日はもう閉店よ。ほらほらさっさと帰った帰った」

 最近は風紀委員ジャッジメントらしい活動ができていないことを思い出し、微妙な現実逃避に入っているところを報告書を書き終えた固法に押されながら支部を退出させられた。もともと居座るつもりなんてないがやはり雑な扱いを受けているように感じる。この固法の反応が後輩達にも伝播しており、白井にいたっては穀潰しとか言うしな。後輩に尊敬されたいとも思わないが、俺だけを邪険に扱っておきながらそれが天邪鬼的な意味ではないというところが激しく虚しいと感じるのは俺が俗物だからなのだろう。



 以前は男女半々だった同僚も今では女だらけ。それが嫌だとか女性が苦手だとか硬派を気どるつもりもないし、むしろバッチこいな環境だ。そんな環境を年単位で過ごしている現在に至っても好感度に変化はなく、信頼度もそれほど上昇しているようなこともない。一番長い付き合いの佐々木先輩でも信頼5、友情3、愛情2くらい(自己申告)だという。別に青春的な恋愛がしたくて風紀委員ジャッジメントに入ったわけではないので良いのだが、これだけ恵まれた環境でそういう雰囲気に微塵もならないというのは、将来的に苦労してしまいそうだ。
 などと俗物的なことを考えていると何処からともなく爆竹が破裂したような音を無駄に高感度の俺の聴覚が拾った。

「……うん、これは爆竹だ。どう考えても爆竹の音だ。まったく、やんちゃな若者が多くて実にけしから――「突然ですが前を失礼します、とミサカは颯爽と駆け抜けます」 ……あ~実にはっきりと見える錯覚だっ「不躾ですが前を失礼します、とミサカは許しも待たずに去ります」 ……常盤台の超電磁砲レールガン【分身の術】が使えたんだ……」 

 第一七七支部の同僚、白井 黒子が敬愛する常盤台のエース。超能力者レベル5超電磁砲レールガン】の御坂 美琴。白井を通して面識くらいはあったが、双子だとか三つ子だとかの情報は入っていない。というか、御坂と思われる2人の少女が目の前を駆け抜けて十数秒ほどで爆竹の破裂音にも似た雑音の発信源が増え、そしてすぐに消えていく。
 音の感じからして複数人による銃撃が行われていると思われる。
 しかし、銃撃の数は一時的に増えてはいたもののすぐに聞こえなくなった。それから判断するに銃を発砲した者達は何某かの理由で銃撃を止めているということ。それが標的をし止めたからなのか、単に機会を狙って待ちに徹しているのかはわからない。ここに佐々木先輩か固法が居れば熱感知サーモ透視能力クレアボイアンスで闇の向こうの路地裏で起きているであろう非日常を安全に確認できただろう。
 これは明らかに事件の匂いがする。しかも、即警備員アンチスキルを要請するべきな緊急性もある。

「……はずなんだけどな」

 確認するまでもなく、俺に英雄願望はない。あるのは俗物的な損得勘定だけだ。
 だから、上条 当麻が妙な奴に絡まれているときも助けに入らなかった。とある事件で上条 当麻の【右手の力】を知っていた俺は、あいつなら乗り切れるだろうという判断と相手の戦意が微妙だったこともあり関わりを避けて逃げた。
 しかし、今しがた眼前を駆け抜けた御坂似の武装少女が消えた路地裏の向こうからは、今も散発的に聞こえてくる銃声と都市の闇を引き裂く放電現象を確認できる。
 学園都市において、俺が知る電気使いエレクトロマスターの代名詞といえば御坂 美琴だ。
 御坂似の少女たち……それほど親しいわけではないが、御坂本人ではないことだけは分かる。これは直感ではなく、白井に紹介された御坂 美琴と今の少女たちでは【持っているモノ】に差があり過ぎるからだ。俺の能力は【他人】に干渉することはできない。しかし、観測することくらいはできる。その結果はパッと見でも判別がつくほど明確なものだった。





 学園都市の夜。柵川中学から俺が暮らす学生寮のある地区までの道程は、それほど人気がないというわけではない。途中にも学生寮や商店があるので街灯の類もそれなりにある。この学園都市に来てから本当の夜というものを経験できない。外より建物の中の方が真っ暗を体験できるというのはこれいかに?
 そんな夜を染める紫電を目印に路地裏を100m10秒切る速度で【警戒しながら静かに歩く】。
 銃声が止み、僅かな放電も途切れた。
 どうやら俺の決断は凄まじく遅いものだったようだ。

「あ~……何してんの?」

 路地の角から覗き見たあまりの惨状に呆気にとられてついつい声を出してしまった。

「……なァおい。『実験』ってなァ誰それに見られて構わねェもンだったのか?」

 路地に居たのは白い短髪の少年だった。まるで少女のように線が細く、陽の下を歩いたことがないとでも言うような白い肌でありながら病弱さのようなものは一切見て取れない。鋭い刃を向けられたような印象を与える視線からも絶対的な王者の風格……は言いすぎか。

「とりあえず、その足くらいは退かさない? 君にも羞恥心くらいあるだろ?」

「あァ? 言ってる意味が分かンねェなァ。つーか、オマエ何者だ?」

 佇まいや纏っている雰囲気はそれなりにやばくて凄くて強い感じがするのだが、口調だけは明らかに三下の台詞だった。
 アルビノ?少年の足は茶色い髪の小さな頭の上に乗っている。少年に足を乗せられているのは、先ほど俺の目の前を横切った御坂似の少女だった。さらに周囲を見渡すと数人、御坂似の少女が倒れている。その誰もが身体のあちこちから血が溢れている。銃を持っていたのは御坂似の少女の方なのにその身体には弾創があったり、破砕したと思われる銃の金属片による切創、刺創。唯一立っている少年が無傷なのも御坂似の少女達の惨状を際立たせている。

「何者って、そりゃあ通りすがりの風紀委員ジャッジメントですよ。もう一度言うけどできればその足を退けてくれないかな? 救急車とか警備員アンチスキルとかに通報したいところだけど、先に応急処置くらいは済ませて起きたいからさ。その間に逃げてくれれば、君のことは黙っていてあげるからさ」

 直接触れてみるまでは分からないが、生存の可能性があるのならば【多少のリスク】を負ってでも応急処置を施す価値はある。実際問題として警備員アンチスキルを呼んでも銃撃や雷撃を受けても無傷で居るような能力者を取り押さえられるとも思えない。この場は見逃しても後日、情報を集め相応の戦力を整えてから確保すればいい。この場は人命が優先されるのだから。

「……オマエ、誰に向かって見逃すとか言っちゃってくれてンの? しかも、この人形どもに応急処置だァ? こいつらはとっくにおっ死ンでるンだよ。なンだったら、ついでにオマエもおンなじ体験してみるかァ?」

「え、何、何で苛立ってんの?」

 沸点低いにも程がある。
 その場だけでも見逃すと言えば大抵のスキルアウトたちはいい顔はしなくてもすぐに立ち去るんだけどな。
 しかも、少年は俺のそんな反応も気に入らなかったらしい。

「はい、決定。オマエ、死ンだぜ?」

 言うが早いか少年は御坂似の少女からようやく足を退かしたかと思ったら足元に転がる御坂似の少女が持っていたと思われる損壊した銃を爪先で軽く小突いた。それはもう歩くための一歩を踏み出すかのごとく緩やかに、自然に、動いただけ。ただそれだけの動作が、文字通り【必殺】の一撃だった。
 少年との間合いは、距離にして10m弱。少年の緩慢とさえいえる動作で蹴り出された鉄屑と化した銃の凶弾は、瞬きする間さえも与えずに俺の身体に突き刺さる軌道をとっていた。

「……おい、何だそりゃあ?」

 今まさに死体を1人分生産しようとした少年が怪訝な表情で俺と今しがた蹴り飛ばした銃の残骸が【空中に停止している】のがそんなに信じられないのだろうか。

「はっ、遠慮はいらねェってことか、よ!」

 初撃を未知の能力で防がれた程度では様子見すらしないということか。

「って、うぉい!」

 少年が次に撃ち出したのは、あろうことか足元に転がる御坂似の少女を蹴り跳ばしてきた。
 蹴り跳ばされた瞬間、御坂似の少女はグヂャっという人体が発してはいけない衝撃音を鳴らした。
 人体を弾扱いするのは、雨靖で慣れてはいるが雨靖の射出能力は、砲弾そのものを固定化し保護するという技能が備わっているため例え人間を砲弾にし、硬質な物質に着弾させてもその人間が死ぬことはない。それを利用してたまに風紀委員の仕事の手伝いをしてもらっている。
 しかし、この少年にはそういった配慮はまったくないようだ。

「チッ、やっぱ防がれちまうか」

 先ほどの驚きから一変して獰猛な笑みを湛えている少年は餌を前に涎を垂らす獣のようだ。
 どちらにしろこれ以上、この少年に付き合っていては助かる命も助からなくなる。
 地面に転がる御坂似の少女達の位置と少年の立ち位置を改めて把握する。
 俺の能力は【他人】に直接作用しない。ゆえに通常の物理干渉でダメージを与えられそうにない少年をどうこうするには、一定空間内に能力を発動させるしかない。
 対象が物質ではなく、【空間そのもの】である場合、どれほどのリスクを伴うか。少なくとも行動不能になることは間違いない。
 それでも複数の負傷者を抱えて離脱するならそれ以外に確実な方法はないし、詳細が分からない相手を説得できるほどの話術の心得もない。これ以上の被害を出さないためには、物理的に少年から離れるしかない。

「どンな能力で防いでるか知ンねェが、直接ぶン…………あァ?」

 少年が次の攻撃を繰り出そうとしていたが、視界に収めていたはずの大河内 青と空中に留められていた損壊した銃や御坂似の少女と共に霞も残さず消失していた。
 突然の状況変化に少年は唖然としながらも背後を振り返る。そこにはやはり転がっているはずの御坂似の少女の姿がなかった。
 少年は青が何らかの能力を使って透明になっている、もしくは幻覚を見せていると思って地面を踏みつけ、周囲にコンクリートの散弾をぶち撒ける。

空間移動能力者テレポーターだと? ンなわきゃねェ……チッ」

 自身の攻撃を二度も防いだ青が単なる空間移動能力者テレポーターだと思えず、そんな相手の逃走を易々許してしまったことに舌打ちするも募った苛立ちをぶつける相手が目の前に存在しないのであればどうしようもない。判然としない面持ちのまま少年はその場をあとにした。










 俺が目を覚ました場所は、人気の少ない公園だった。
 意識がブラックアウトする前に居た座標からはそれほど離れてはいない。空を見上げると淡い夜明けの光が広がっていた。

「午前6時過ぎってとこか」

 まるで飲酒でもした後のように頭がゴンゴンと鈍い痛みが響く。

「未成年の飲酒は法律で禁止されています、とミサカは当然の指摘を口にしてみます」

「飲みたくて飲んだわけじゃないよ」

 ゴンゴンと続く鈍痛に耐えながら周囲を確認する。
 俺が指定した効果範囲内には、御坂似の少女が4人いた。

「……他の3人はどこにいるかわかるか?」

「把握しています、とミサカは即答します。検体番号シリアルナンバー9997~10000号は『集団戦闘および時間差・波状・遅延攻撃への対処法』の第九九九七~第一〇〇〇〇号実験により消費されました」

「消費されたって……いや、待て。そもそも検体番号シリアルナンバーってなんのことだ? それに『実験』ってなんだ? あの色白が御坂似のアンタらを殺すのが『実験』なのか!? そもそもアンタらは何者なんだ?」

 矢継ぎ早に出てくる言葉。らしくない落ち着きを失った台詞。
 実験、実験、実験。思い出したくもない過去が走馬灯のように脳内を駆け巡る。

「まずは落ち着いてください、とミサカは嗜めます」

 無表情に言う御坂似のミサカ。
 その身体に傷らしい傷はない。観測結果からこの少女は、間違いなくあの場にいた御坂似の少女で間違いない。
 傷が消えているということは【空間そのもの】に掛けた力が何らかのバグを起こして彼女にも作用したのだろう。今の俺では【他人】に直接干渉することはできないのだから。
 そして、この場に他の3人がいないということは……

「9997号及び9998号、9999号は所定の手順に従い『処理』されました、とミサカは簡潔に説明します」

 さらに言えば一定期間その消息が完全に掴めなくなっていたミサカたちは所属する研究室から死亡扱いされており、目の前にいるミサカも『実験』とやらで行わなければならないことはすでに果たされたと判断されたという。あの少年、学園都市最強の超能力者レベル5の頂点に立つ一方通行アクセラレータにシナリオ通りに殺されることが彼女達の存在意義であった。
 しかし、シナリオ通り殺されたはずのミサカが【なぜか蘇生した】という現実があった。

「実験の関係者ではない貴方にこれ以上の情報開示はできません、とミサカは黙秘権を行使します。そして、ミサカも貴方に疑問をぶつけます、とミサカは問い返します」

 無表情の中にも疑問という表情が含まれるらしい。
 当たり前だ。死んだ人間が生き返るなんてことはない。それは絶対だ。

「……それでもミサカ10000号はここに生きています、とミサカは現実を述べつつ解答を要求します」

 そんなものの答えはなど俺も持っていない。少なくとも御坂似のミサカは『完全には死んでいなかった』というしかない。
 そうでなければ例えバグでも死者が生き返るなんてことは在りえない。
 誰もが知る既知でありながらどこまでも広がる未知。整然と在り続ける秩序でありながら延々と乱れ続ける混沌。誰も逃れられない凶悪無比の猛毒。
 こいつが【人体】にも作用するようになれば、晴れて俺は学園都市8人目の超能力者レベル5に名を連ねることになる。

「せっかく復調したと思った矢先にこんなバグが出てくるなんてな。このまま成長するか、それともこのまま壊れていくか」

 どちらにしろ身の振り方を考える時期に来たのかもしれないな。

「それで? 死んだはずの命を拾ったんだ。わざわざ殺されるために研究室に戻るなんて言わないよな?」

「それは今のミサカ10000号が抱える懸案のひとつです、とミサカは愚痴っぽく呟きます」

 無表情なくせに愚痴るとは、器用な感情表現だ。
 俺としては、その懸案を解決する手伝いができるのならばする。
 事情はどうあれ、目の前で人が殺されているのを見過ごしたという負い目もある。
 その嫌な『実験』とやらも俺の手に負えるのならば潰すべきだとバカな願望が心に芽生えている。

「あ~もう駄目だな。本格的にバグってきてやがる」

「それは可哀想に、とミサカは本気で心配して診ます」

 心配されるのは良い。しかし、診ますとか言って人様の頭にビリビリと干渉するのは止めてほしかった。

「脳波に異常は見られません、とミサカは診断結果を伝えます」

 どうにも御坂似のミサカとの会話は疲れる。
 時間もそろそろ今日の学校の準備をしなければいけない時間になってきている。
 疲労が蓄積して気だるさ満載の体と過負荷とビリビリによりグゥワングゥワンな頭を押さえつつ歩き出す。

「どこへ行くのですか、とミサカは訊ねます」

「学校だよ、学校。その前に寮に戻って準備しないと」

「それならば身体を洗浄することを推奨します、とミサカは鼻を押さえつつ忠告します」

 かなり無礼なことを言った御坂似のミサカを軽く睨むが無表情に変化は無かった。
 久々に最大限に行使した能力は、2年前よりもわずかだが成長していたように思う。
 しかし、そこには正体不明のバグまで付いてきていた。

「ま、なるようになるさ」

 とりあえず逃げ場の無い現実という名の学業生活に戻ってから考えても遅くはない。
 何故だか俺の後を付いてくる御坂似のミサカを咎める気も、これからの予定を聞く気にもなれずに俺は俺の日常へと帰った。




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