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[15099] 【習作・ネタ】SDガンダム東方総色劇場【SDガンダムフルカラー劇場×東方シリーズ】
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/05/19 12:33
 どうも。
 今回、ネタを書く事にしましたタクラマカンです。

 ついこの間、最終巻が出たSDガンダムフルカラー劇場を読んで何故か幻想郷の住人達との絡みを妄想したのでやってみました。

 このネタは次の点を含みます。

1.駄文

2.一部のモビルスーツ最強系。(ガンタンク、ララァ、マスター等)

3.フルカラーは原作設定を主にとしてますが、新訳も設定してます。例えば原作で陰が薄いとゆーか出番があまりなかったターンXを最強系に昇格してます。

4.幻想郷の年表としては聖蓮船が終わった後になります。東方組も原作設定を取り込みつつ二次創作で生まれたネタとかを入れた自己解釈でやっていきます。

5.東方のキャラとフルカラーのキャラでラブコメ?みたいな展開もあったりします。

6.キャラ崩壊もあるかもしれません。

7.たまに台本形式になります。

 以上が無理ならこの作品を楽しむことが難しくなるので読むことをオススメしません。また、感想批評とかありましたらどうぞー。



[15099] その1
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2009/12/27 09:40
 むかーしむかし。

 あるところにフルカラーな住人たちがいました。

「お兄さん、昔話じゃありませんよ!?」

 じゃあ、いまーしいまし。

 住人はみんなモビルスーツやモビルアーマーといったロボちっくな生き物で、ふしぎなことに蚊に刺されてかゆくなったり、人間の風邪とかにもかかるツッコミ要素まんさいしていました。
 でも細かいことはツッコんじゃダメなんです。




 ダメなんです。

「顔が近い」

 赤い奴をはじめ、彼らは機動戦士ガンダムのシリーズに関わってたりします。

 れんぽーとじおん。

 えぅーごとてぃたーんず、そしてあくしずなどなど……。


「さらりと飛ばされた!?」

「まぁ、知恵熱が出るぐらい多いしな」

 デスティニーとウイングが何か言いましたが不思議なことにオレには聞こえません。

 自爆魔、おバ格闘やろー、自由とか。とにかく色んな奴がいます、フルカラーだけに。

「上手いこと言って説明ごまかしたな」

「うわー、悪気ゼロパーセントの笑顔」

 シャアとマークIIも何か言ったけど聞こえなーい。


 春には花見やNEW学式を。

 夏には海水浴や山登りゃー。

 秋には運動会や文化祭を。

 冬には雪合戦やスキー。


 他にもカレンダーに書き込みきれないぐらいの行事がいっぱいあります。
 そして、アルバムにおさまりきらないぐらいの色んな思い出もあります。

 無事テレビ放送も終わって、映画化も決定した新人達それ・びーも加わったフルカラーなオレ達のフルカラーな毎日は……これからもたくさんの衝撃が待っている気がします。
 でも神様。


 突然すぎやしませんかコンチクショウ?

 ある日のこと。目が覚めてホワイトベースのブリッジに背伸びをしながらオレは足を踏み入れた。

 季節は春、ぽかぽかのあさひが身体に心地よくて。ホントは三度寝ぐらいだったりする。
 もう昼下がりだからブリッジにはオレの妹のアレックスやガンキャノン兄弟、ガンタンク。
 ジム、ボール。
 そんで呪い好きのへたれ野郎ストライクノワール、ロボットのスターゲイザーが集まってた。

 あちゃー、みんなもう起きてたんだ。

 自分だけが寝入ってたことをツッコまれるんだろなって恥ずかしくなりながらみんなに朝の挨拶をしたんだけど……少し変だった。

 変とはどういう意味か。
 なんでか誰もがブリッジから望む外へ顔を向けたまま固まってて、ノワールは隅っこでがたがた震えてるし。
 ガンタンクは喜んでるし。
 どうしたんだろって思ってアレックス達の視線の先へ、顔を向けると。

 そこにはよくある街の風景じゃなく……あるのは大自然。もしかしたら寝てる間にコロニーへ戦艦飛ばしたのかなぁ?

 そう思って唯一ちゃんとしてる? ガンタンクに聞いた。

「ここ何処のコロニー?」

 でも、ガンタンクは首を横に振った。

「コロニーじゃないなら、地球のどこか?」

 それでもガンタンクは首を振るだけで頷こうとしなかった。
 だからオレは思い切ってガンタンクに聞いてみることにした。

「じゃあ、何処なんだよ?」

「げんそーきょー」

 げんそーきょー?

 ガンタンクはようやく答えてくれたけど、よくわからない。
 オレは聞き返した。

「切り傷とかに貼るものだったっけ?」

「ガンダムサン、ソレハ『バンソーコー』デハ?」

 スターゲイザーにツッコまれた。日に日にツッコミの腕が上がってくれるから助かるけど、違うみたい。
 どうしてもわからないから、もう一回ガンタンクに聞いてみた。

「げんそーきょーって何なんだよ?」

「私の楽園よ」

 尋ねたオレにそう答えたのはガンタンクの声じゃなかった。
 一度も聞いたことがない女性の声……。
 オレにはどんな姿か想像が尽かなかった。

 誰?

 気になり、声のしたほうへ振り向くとそこには見たことがない金髪の女の子が空間に出来た切れ目から姿を出していた。

 牛乳ビンのビニール蓋みたいな帽子を被っててなんだかいろいろと企んでそうな印象を持った。
 うわぁ、ララァさんみたい……。

 どう答えて良いかわからないのでしばらく考えていると、ガンタンクがあのねーって説明してくれた。


「ぼくのおともだちなの」

「すきまの妖怪……八雲紫よ。れんぽーのみんな、そしてガンダム。よろしくお願いしますわ」

 …………。

 タンクの言った意味は分かった。分かったけど彼女の言ったことがよく分からなかった。
 ようかい?
 ヨウカイ?
 溶解?


「え……ようかいって、あの?」

 切れそうになった電源スイッチをなんとかオンで留め、そう聞くと紫って名乗った子が微笑みながら頷いた。
 すると途端に辺りがざわめき立ったのが分かった。
 ブリッジ内を見渡してみるとガンキャノンは兄弟ともに驚き、アレックスは目を見開いてわくわくしている。
 相変わらずスターゲイザーはカタカタとモーターの音を鳴らしてボールと無表情でこの光景を眺め、逆にノワールやジムは真っ青になっていた。

「あ、あとねーがんだむ」

「何タンク? まだ何かあるの?」

 もうこれ以上、驚くようなことはないだろう。というかタンクが何を言うか薄々分かる自分が悲しくなってきた。
 ため息をつきそうになるのを堪え、ショートケーキにおしょうゆをたらした奴を茶菓子に出してやる気持ちでタンクの答えを出迎えた。
 でも、オレの考えは甘かった。

 ミルクティーに練乳とハチミツとメープルシロップを全部投入しちゃったぐらい甘かった。

「しゃあとかみんなもげんそーきょーにきてるから」

 どうやらオレは、知恵熱とは切っても切れない絆らしい。




 ガンダムがガンタンクにそう言われた頃。
 彼らの話題に上がっていたモビルスーツがとある戦艦で愛妻と共にソファーに腰掛け、メイド長から受け取ったティーカップに口をつけていた。
 モビルスーツはほぼ赤でボディを構成しており、前頭には後ろ向きに生えたツノを持っている。

 そして、彼の妻は例えるならトンガリ帽子のようであった。


「お、美味いな」

「ウフフフフ、流石メイド長ね」

 湯気は立つが、飲むのにちょうど良い熱さを保っている紅茶を素直に二人は褒めた。
 もちろんメイド長としては当然のことなのだが、褒められて悪い気はしない。
 ありがとうございます。微笑みを浮かべて一礼し、直ぐに彼らと反対方向へ歩み寄った。

「ウチの咲夜なのだから当たり前さ、シャア」

 アンティークな気品を放つ椅子に腰掛け、さらにその椅子に気品負けしないオーラを放ち。不敵な笑みを浮かべる少女が面と向かってザクIIのボディのシャアにそう告げた。
 咲夜と呼ぶメイドを傍にひじ掛けに置いた右手でほお杖しながら佇む彼女は普段ならカリスマで満ち溢れているだろう。

「レミリア」

 シャアに声を掛けられ、レミリアと呼ばれた少女は表情を崩すことなく「なあに」と聞き返すが……。

「いまさらこの状況でそんな口調しても無理があるぞ?」

「…………」

 シャアの告げた台詞。それは咲夜が能力を使っていないにも関わらずレミリアの時を止めることが出来た。
 思わず咲夜は「あ」と声を漏らし、ララァは相変わらず「ウフフフフ」言っていた。

「……あ、あのねぇ」

 そして、凍結された時がゆっくりと溶けていくようにレミリアはその表情を次第に歪ませ、身体をわなわなと震わせながら声を出した。

「私の部屋消し炭にしといてよく言えるわね!」

「いや、ちがうな」

 手にしていたティーカップを受け皿に乗せ、テーブルの上へ置きながら冷静にシャアがそう答えると。

「は、何が違うのよ!?」

 意味がわからないと言うようにレミリアはシャアを睨みつけ、強くテーブルに手を叩き付けて尋ねた。
 紅魔館に仕える者ならばそれであわてふためくだろう。しかし、それでもシャアは動じずに答える。

「蒸発の間違いだろう」

「余計悪いでしょうが!」

 レミリアの部屋。というより彼女の館は一部蒸発した。
 何故、そうなったかだが……理由はこうだ。


 気付いたら、シャア達を乗せたムサイはレミリアの館--紅魔館の隣に着地しており。
 偵察兼ご近所の挨拶をするべく、シャアとララァが引越し蕎麦を持参して紅魔館に出向くと、大歓迎で取り次がれ。
 じおん、紅魔館の両方のトップとして蕎麦をざるそばにした食事会が開かれた。
 だが、一方でじおんの居候である三つ子--スローネ達が紅魔館を探険しレミリアの妹と遭遇してしまい。
 直後、地下で弾幕ごっこをはじめ。その最中にスローネアインから放たれたビームカノンがちょうど真上に位置していたレミリアの部屋を貫通、蒸発させてしまったのだった。


「引越し蕎麦が食べられるから特別に客間に移動していたから良かったけどね!」

 刺々しくそう告げるレミリアにシャアは頷き、ブリッジから隣にある紅魔館にモノアイを向ける。
 そこには綺麗に大穴が出来た立派? な洋館があった。
 今はザク達や妖精メイド達、それらをレミリアの親友であるパチュリーが先導して修復魔法をかけている。
 紅魔館は主の妹が暴れた時を想定して、多重的に魔法が組み込まれている為に完全に修復するには時間がどうしてもかかり。
 レミリアは仕方なく、日光を避ける為に咲夜と、騒動の元凶である妹を連れてムサイに居場所を移したのである。
 見たことも経験したこともない戦艦内部に飽きはこない。
 それでも自分の部屋がロストは嫌なものに違いはない。

「全く、まあしばらくは厄介になるわよ」

「ええ、それに関しては私達も寧ろ喜んで受けるわ」

 ふよふよとソファーの上で座る? ララァに「当然よ」とレミリアは付け加え、テーブルに置かれたティーカップに手を伸ばすが。

「紅魔館が直ったらまた遊ぼーね」

「おお」

「やってやんよ」

「もっちろん」

「やめなさいそこの元凶ども!」

 また弾幕ごっこを約束するフランとスローネ三兄弟に慌ててツッコミを入れるのであった。


※※
あとがき


 タクラマカンです。どうも読んで下さった方、ありがとうございます。

 前半はガンダム視点、後半のシャアは普通にやってみました。いかがでしょか。
 どうぞ茶菓子でも。

 つショートケーキ(おしょうゆがけ)




[15099] その2 1/2
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:38
 木々が生い茂る深い森、その中をえぅーごに所属する四体のガンダムタイプが辺りを見回しながら歩いていた。
 うち二体はへの字フェイスを持つマークII、ダブルゼータ。
 残り二体は真逆につるりとしたフェイスをしているゼータとゼータプラスである。
 そして彼らには同じ所属ということの他にもうひとつ共通点があった。
 それはゼータを冠する三体は一族であること……。

 振り分けた場合、ゼータ、ゼータプラスは兄弟。ダブルゼータは彼らの親戚にあたり、今此処には居ないがリガズィという親戚も存在している。
 電波、ガテン系、馬鹿、普通。とそれぞれ個性があるのだが一度スイッチが入った場合や天然な部分はまさに一族である。
 彼らのキャラに変な空気を味わあされたり、ツッコミ役を与儀無くされたモビルスーツは多い。
 マークIIもまたその一体だったりする。


 そんな四体が何故、森の中にいるか……理由は至極簡単だ。

 気付いた時。えぅーご(おうち)が何故か地球のとある街から、見たこともない森の中にあったのだ。

 当然、コロニーに行った覚えも旅行に行った覚えもなく。いきなりな出来事にえぅーごのメンバーは「何か異変が起きたのでは?」と口々に述べた。
 しかし、だからといっておちおち篭っているのも気持ちが落ち着くものではない。
 そこで状況を打破すべくマークIIが偵察を提案、ゼータ達もそれに同意して今に至っている。

「しかし……木以外は見事になにもないな」

「そりゃそうだろ」

 時間にして三十分程ぐらいであろうか。ずっと同じ景色が続いていることにゼータが冷静に感想を述べ、マークIIはため息をつきながらツッコミを入れた。
 家にはメタスとリィナ、番犬としてバウンド犬が留守番をしている為。心配は無いが、こうして面白みが無いのはいろいろきつかったりする。

 そこでマークIIは気を紛らわせる為、後ろにいるゼータプラスへ声を掛けることにした。

「何か見つけたか?」

「いーやなんも」

 短絡的に返ってきた彼の言葉に、マークIIはダブルゼータにも同じ内容で話し掛けたが彼もまた「全然」と首を横に振った。
 言い方が違うだけで意味は一緒か……。

「はぁ」

「おいおいマークII、辛気臭せーぞ」

 二度目のため息を付くマークIIにそう言ったダブルゼータは変わらずにこやかだった。

 何処に行っても難しい話が出来ない奴だぜ。

 しかし、それでもこんな時にもそんな感じでいられるダブルゼータをマークIIは羨ましく思ったた。


「よーし歌おうぜゼータプラス」

「おっしゃー来いダブルゼータ」

 確認を取り、高いテンションでセッションを始める二人にマークIIは苦笑いを浮かべ、ゼータは無表情で前を眺めた。
 同類だ、同類がいる。


「ある~日」

「ある~日」

「森の中」

「森の中」

「熊さんに」

「熊さんに」

「殺られた」

「殺られた」

「縁起でもねぇなオイ!」


 立地条件だとかいろいろ想像しやすい歌詞は思わしくない結末を迎え、マークIIは慌ててツッコミを入れた。
 いつもながら過ぎるのもどうかと思う。
 もし、二体が言ったように熊が出て来たら洒落にもならないからだ。

「ダメじゃないかふたりとも……」

「ゼータ」

 珍しいことに進んで注意らしくゼータが声を出した。
 雪でも降るんじゃないだろうか。
 失礼な気もするが、是非この馬鹿ふたりに言ってやってくれ。

 マークIIはゼータに期待した。

「熊はお嬢さんの貝殻イヤリングを拾って届けるんだ」

「えええぇぇぇ!?」

 おい、そこ「あ、そっかー」じゃねぇよ馬鹿ふたり。
 ゼータのズレた着眼点にマークIIは表情を驚愕に染まりながらツッコミを入れた。
 今、期待した自分はいったいなんなんだよ。と思わずマークIIは痛くなった頭を白玉のような手で押さえるのだった。

 注意するとこそっちかい。


 それから、マークII達はゼータプラスとダブルゼータの賑やかな歌声をBGMに自然が織り成すでこぼこ道を歩いた。
 SDという身体ゆえ、長くくねって張られた木の根っこには足が引っ掛からないよう避けたり。
 途中、黒い傘に赤い水玉模様の茸を見つけて噛り付いてしまったダブルゼータがハイメガキャノンを暴射させたりと。
 いろいろ経験しながら彼らは森を抜けていく。

 そして自然のトンネルを出た直後、霧がかかった大きな湖がゼータ達を待ち受けていた。
 ひどく濃度が高く、天を見上げても森の中に居た時と同様に太陽すら見えず。
 薄暗いままで今が朝なのか昼なのかさえ分からない。また、四体の立つ場所から向こう岸を臨むことは難しかった。
 だが……それよりも彼らはこの湖に感じたことがある。

「でけー湖」

 思ったはずがゼータプラスは感想を口に出していた。
 しかしそれに関しては傍にいるマークII達も同意するしかなく。
 眼前に広がる光景にただ息を飲んでしまうだけであった。
 もちろんこんな場所は見たことも、そして聞いたこともない。


「何も見えないからどうしようもない」

「だな、とりあえずえぅーごに戻ったほうが良いかも……」

 相も変わらず自分のペースで述べたゼータにマークIIも意見を合わせた。
 天候の動きなど勉強したこともない為、この濃霧が何時晴れるか分かるわけがないのだ。
 とりあえずは帰還してバウンドドックを撫で回してやろう。
 そうマークIIが思った時。

 ふとダブルゼータとゼータプラスを見ると。彼らは目を細めて湖の向こうを眺めていた。


「どうしたんだ?」

 ゼータがそう尋ね、答えを待つ。すると二体は一様に霧が掛かる湖面を指し示し、ゼータとマークIIも視線でその指先を辿っていく。

 そこには人のようなシルエットがいくつか、もやもやした中に浮かんでいるのだ……。

「あれ人じゃねーのか?」

 そうダブルゼータが尋ねた。

 ここに来てようやく状況判断が出来る可能性がでてきた事に一同はしきりに頷き、ゼータ以外は安堵した表情を浮かべる。
 後はゼータにウェブライダーになってひとっ飛びしてもらえば話を聞くことが出来る。

 マークIIがそう考えた時、幾つか浮かんでいたシルエット。その中から二つがこちらへ叫びながらやってきた。

「こらー、アンタ達何勝手にあたいの縄張りに入ってきてんのよ!?」

「ち、チルノちゃ~ん」



[15099] その2 2/2
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:39
 霧の中、シルエットが近づいてきたところで正体は克明にゼータ達のメインカメラに映った。
 女の子が二人、彼らの眼前で止まるのだが……
 モビルスーツ達には、彼女らが何かおかしく思えた。

 ひとりは勝ち気そうな青い服を着た少女。
 もうひとりはどこかこちらを警戒し、おどおどした雰囲気をもった緑色の服を着ている少女。

 そこだけ見れば何も不思議に思わない普通の女の子と済ますが、重要なのはそこではない。
 注視すべきは彼女らの背中に羽があり、さらに水上を浮いているという二点である。


 マークIIは時が止まった。

 おかしい。人間は浮かびはしないし、背中に羽を生やしていない。

 何だ? この子達は何なんだ?


「ちょっとアンタ達答えなさいよ!?」

「ち、チルノちゃんてば~」


 何やら勝ち気な少女が苛立ちをあらわにして手をぐるぐる回しながら声をかけてきた。
 もうひとりが彼女を抑えようとしていた中でマークIIは幾つも疑問を浮かべたが。
 その疑問はすぐに仲間の声で解消されることになった。


「「すげえぇぇ!」」

「ふぇっ!?」

「きゃっ」


 大声をあげて驚いたゼータプラスとダブルゼータに少女達もまた驚いた。
 まあ、話し掛けて叫び声で返ってきたらなぁ。

 彼らの反応で意識が正常に働き、マークIIは頬をかきつつゼータを見た。
 こいつはそんなに驚いて……るし。

 言葉で聞かなくても、見た目表情が余り変化していなくても。
 長いこと付き合ってきてマークIIはゼータのことがよく分かってしまう。

 こいつが驚いているなら、夢じゃねーんだな。

 普段冷静な親友が動揺している姿を見て、マークIIは妙に心が落ち着いき。

 とりあえずは話をしてみないとな。そう思った。

「霧、濃いな!」

「うっわ、可愛い!」

「今日、ドライアイス入れてないな」

「それかああぁ!」


 やはりゼータの一族はマイペースだった。
 マイペース過ぎるだろうと言いたい気持ちを篭めて繰り出されたマークIIのツッコミがビシィっと三体に入り。
 同時に、青い服の少女がすっかり置いてかれた感に我慢することが出来ず……。少女はマークII達に抗議した。


「アタイを無視するなー!」

「ち、チルノちゃん!?」

 ウガー!

 何よ! アタイ自ら聞いたのに無視して。
 もしかして喧嘩売られてる? なら買ってやろうじゃない!

 自問自答し、眼にものを見せてくれるというように口の端を吊り上げ。チルノはゼータ達に宣言した。

「上等じゃない! アタイをこけこっこにして……お仕置きしてあげる!」

凍符【マイナスK】

 辺り一帯の温度が急に降下した。

 肌寒い、というより冷たい感覚がマークII達を襲う。だが、それよりも彼らを驚かせる現象が起きた。
 氷による薄い弾幕がチルノを基点に出来ていたのだ。

「あーはっはっはっは、どうよ? アタイの最強っぷりは」

 眼の前でジーと見ているモビルスーツ達に気付かず、いまだ三方向に氷の弾を飛ばしつづけ勝ち誇った笑顔を青い少女は浮かべる。
 確かに彼女の周りに氷弾が幾つも精製された際にマークII達は驚いた。
 まるでRPGの魔法攻撃みたいで、当たればいかにロボットな自分達でもダメージは免れないだろうと思った。

 まあ……当たればの話だが。

 全然見当違いな方向に弾を飛ばし続けるチルノと呼ばれる少女にマークIIは推察した。

 ああ、ダブルゼータと同類だと。


「あのさ」

 ひそかにチルノの傍でおろおろしていた緑の少女にマークIIが声をかけると少女は驚き、小さく悲鳴をあげる。

「は、はい。な、なんでしょう!?」

「あのさ、オレ達どうしたら良いんだろ」

 気さくにそう話すマークIIに何かを感じ、少女も心を落ち着かせた。

 何だろう。見たことない妖怪さん達だから怖かったけど……話はわかるみたい。


「あの……しばらくしたら気付くと思いますので、その時に私が声をかけてみます」

 飛び行く火線ならぬ氷線を背景にそう返事をした少女にマークIIもまた、話が分かる相手に安堵しながら礼を述べた。


「ありがとな。よかった……ようやくまともな話し相手が現れて」

 いろんな意味を含ませ、ほろりとそう告げたマークIIにどこか同じ何かを感じ、少女は苦笑いを浮かべて告げた。

「あの、私大妖精って言います。あの……」

「ああ、オレは--」

「ぶえっくしょい!」

 ガンダムマークIIだ。そうマークIIが名乗ろうとした時、誰かがくしゃみと共に聞き覚えのあるビームの音を辺りに響かせた。
 アイツか……。
 本日あいつのくしゃみとハイメガキャノンのセットを耳にするのは何度目だろうか。 
 もはや確認を取らなくても良い、マークIIは今のくしゃみが誰のものかすぐに分かった。
 威勢よくビームをぶっ放したであろう本人に向けると。
 そこには鼻を指で擦るダブルゼータがおり、やはり彼の額に取り付けられている砲からは煙が立ちのぼっていた。

「うぃー寒いからやっちまったぜ」

「あぶねーな」

 大妖精は固まった。

 今の極太ビームはいったいなんなの!?
 くしゃみでビームって、ええぇ!?

 しかも額から……。

 何気に視界に入った有り得ない光景、そしてダブルゼータの周りにいた三体はいかにも何時もの光景ですと言うように反応を見せていた。



「あ……アタイの横を光がこう、ずぎゅーんって」

 そして、今起こった状況がついてゆけず。チルノが目尻に涙を溜め、ただ呆然と座り込んでいることに姿があった。
 ゼータの言葉にすら反応できないこと、右半身の服やリボンが溶けてびしょびしょになっている状態から大妖精は察した。

 ああ、掠ったんだ……。

「へっくしょい!」

 ズギューン。と再び光の奔流がダブルゼータの額から飛び出していった。

「風邪引いちまったかな?」

「馬鹿は風邪を引かないから安心だろう」

「そっか、なら安心だな」

「おめぇはただの馬鹿じゃねぇんだから当たり前だって」

「だよなー」

 そしてゼータ兄弟に馬鹿と言われたにも関わらず、怒ることなく笑顔で流せるダブルゼータに大妖精は彼が誰かに似ているように思えた。

 誰だろう。

「大丈夫か?」

「あ、ああああ、アタイさささ最強だもん」

「あーはいはい」

 ああ、チルノちゃんとは真逆だけど……チルノちゃんの同類だ。
 マークIIの声にがたがた震えながら強がる親友の姿を見て、大妖精はそう答えを出すのであった。


…………


 えぅーごのガンダムチームが湖に居た頃、とある竹林では二人の少女が五機のガンダムに水をぶっかけられていた。

「その紛争を根絶する! それすたるびーいんぐ、トランザム!」

「な、何なのよ妹紅なんとかしなぶは!?」

「あんたなんかに命令されたくないわ、輝夜こにべろ!?」

 当初、殺してやるやってみなさいと互いに言い。何時ものように終わらない殺し合いを蓬莱山輝夜と藤原妹紅はしていた。
 だが、突如姿を現した彼らによってそれは中断されてしまう。
 普段から強気な二人を知る者ならば、彼女らの闘いに水をさすような真似をしたら直ぐに力で捩伏せるだろう。と考えるが……対抗しようにも超高速で動く相手には成す術も無かった。
 また、れんぽーの居候であるそれすたるびーいんぐが行うバケツリレー。そこから放たれる冷水は輝夜達の互いの怨念を急激に冷やしていた。


 そして、闘う気力が失せた二人はバケツをリレーしつづける彼らにただひとつの思いを請い願った。

 もうゆるしてください。

 冷たい水をぶちまけられている中で、何故か不死の少女達は目から熱いなにかを溢れさせたが。
 一度トランザムを発動したダブルオー達が手を休めるには一時間ほど掛かった。
 まだ三十分、輝夜と妹紅は冷や水に耐えなければならないのだ……。



[15099] その3 1/2
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:40
 幻想郷は東にある神社。そこに郷の異変解決を専門とする博麗の巫女がいた。
 最近でも空飛ぶ宝船に乗り込むという大活躍を見せた彼女は巻き込まれ気質が何処かあるのだろう。
 過去から現在に至るまでに出会った者達に今や信を置かれ。
 また彼女達は口実が出来れば直ぐに巫女の居る神社で宴会を開くのだ。
 だが、そこには人間のみならず。妖怪や鬼、幽霊なども訪れて酒を片手に楽しむ姿があった。

 博麗霊夢。それがあらゆる者を引き付ける巫女の名前だ……。

 しかし、その霊夢は今。いつも以上に多い宴の参加者数に頭を悩ましていた。

 はぁ、いつになく多くなったわね。

 神社の中で開かれている夜会を眺めながら、霊夢は事の発端を思い出す。

 霊夢の友人? である八雲紫が昼下がりに「宴を開くわ」と予約をしてきたのだが。
 うちは宿屋じゃないんだけど? そう言いたいが所詮、言ったところで流されるだろう。今更なこと。
 だからか、霊夢はやれやれと肩を浮かせながらも神社内を宴用に準備をしたのだ。

 何だか見たことない妖怪? も居るし……。

 ぞろぞろと自慢の酒や肴を手にやってきた幻想郷の住人にまじって妙な連中が紫と共に現れた。
 紫曰く、「彼らはモビルスーツという種なの」だそうだ。

 まあ、今まで見なかったんなら知らなくて当然ね。

 霊夢は自分でそう納得した。


「みんな~」

 ちょうど住人達が用意された座布団に腰をおろしたタイミングで紫が手を叩いて話を聞くよう促した。
 一斉に集中した目線、少し間を置いて紫は話す。

「何人か既に会っていると思うけど。今日は新たな友人達を郷に招いているの」

 そう彼女が述べ、少女達は直ぐにこの場にいる異様な姿をした者達へ視線を移した。
 そこにはガンダムと呼ばれる者をはじめ、ありとあらゆるモビルスーツモビルアーマー達が居る。
 中には既に幻想郷の住人達と出会っている者や、ここで初めて彼らの存在を知った住人で綺麗に分かれた。
 だがそれにも関わらず、宴会に参加しているほとんどの住人が新顔達を歓迎する雰囲気を持っていた。

 変わった種族も居たものね。

 様々なざわつきがあったがそう納得した者がほとんどである。
 そうして、幻想郷で暮らす住人達は今回の主催者である紫に顔を戻した。

 はやくおっぱじめよう。
 そんな声が聞こえてきそうな表情をする住人達に紫は肩を浮かして言葉を続ける。


「とりあえず今夜は親善を兼ねているからどうするかはあなた達に任せるわ。
 じゃあ新顔達を代表してれんぽーのガンダム、じおんのシャアの二人に音頭を取ってもらうとしましょうか」

 紫の言葉に入れ代わるようにガンダムとシャア(百式)が大衆の前に姿を出し、視線は彼らに集中した。
 実を言うと、モビルスーツ達の中には目覚めた時、幻想郷(ここ)にほおりだされていた者もいた。だからかそんな経験をし、混乱したまま紫に連れて来られたフルカラー組にとって自分が置かれた状況を知るには二人の説明が何よりの頼みであった。

「ガンダムでーす」

「シャアだ」

 挨拶するトリコロールと金ぴか、ほぼ初対面がそこらじゅうに居るというのに彼らは全く気にしない。
 流石は年中司会コンビとモビルスーツ達は関心するが、反対に幻想郷の住人達は何人も視線をシャアに向けていた。

 金色に輝くボディがなんとも珍しいのだ。とある白黒に至ってはシャアをはじめアカツキやハリースモーに目をつけ。
 家に一人来ないだろうか? と考えたり。

 とある妖怪に至ってはパルパルしていた。
 何よ金キラしちゃってゴージャスじゃない!? 妬ましい……。

 その気持ちがまた騒動を起こしてしまうのだが、それはまた別の話である。


「えーっと、モビルスーツとモビルアーマーのみんなも突然のことに驚いてるよね」

「そこの紫とかいう妖怪とガンタンクが結託して此処に私達は来たらしい」

 ガンダム、シャアの順に説明され。フルカラー組は口々に反応を見せた。
 えぇぇっと驚く声。

 じゃあしかたないなと状況を受け入れる声。

 最初の驚くという感情表現こそ、まともな反応である。
 しかし、今までに何百と騒動に巻き込まれてきた彼らフルカラー組にはどちらかといえば後者が多かった

 ちなみにガンダムとシャアも紫から説明され、既に納得している。

「で、俺達は幻想郷でゆっくりしていっても良いんだってー」

「まあ、そういわけだ」

 だから難しいことは考えないで~とにこやかな笑顔を浮かべ、手をぱたぱた動かしながらガンダムがシャアの言葉に付け加えると。
 今まで驚くだけだった者も考えを改め、しばらく間を置いてから頷いた。

 そういうわけならしかたないな。

 いや、どういうわけぇ!?

 レミリアとデスティニーのツッコミが炸裂したがガンダム達は気になどしない。


「じゃ、住人のみなさん。これからオレ達をよろしくお願いねー」

「何か私達に関して気になるならいろいろ聞いたりしてくれー」

 そう告げた直後、「乾杯」というみんなの声が博麗神社に鳴り響いた。
 もう、こうなったらとことん巻き込まれような精神でこれまでも騒動を楽しく乗り切った彼らにはたいしたことじゃなかった。

「それにしても、本当順応早すぎるんじゃない?」

「ん?」

「そうか?」

 お酒が飲めないガンダムはジンジャエールを片手に、お酒が飲めるシャアはワインを片手に宴の様子を楽しんでいるのだ。そんな彼らに霊夢は呆れつつ尋ねた。
 普通、幻想郷に来た者ならば妖怪とかいろんなのがすぐそこに居ると聞いた場合、怯える反応が一般的である。
 しかし、今神社の中で繰り広げられる宴席ではフルカラー組が怯えるどころか……。

 ある席ではちゅうご--美鈴がゴッドやナタクと修業談議をしていたり。
 こいしが能力の通用しないスターゲイザーに興味を示したり。
 きんぎょすくいは武力介入に適応しないことを妖夢にツッコまれ、ショックを受けているダブルオーがいたり。
 怖がるノワールに幽香が興奮したり。
 三月精がステイメンやヴェルデ達とゲームをしていたり。
 ゴッグと秋姉妹が睨み合い、それ・びーメンバーに水をぶっかけられたり。
 ジャスティス、デュナメスがにとりと機械話で盛り上がっていたり。
 椛がガイアガンダム兄妹と何故か仲良くなったり。
 ターンA、ガンダムXが輝夜達と月の話をしていたり。
 ゼータ達がバカルテットと口論していたり。
 早苗がガンキャノン兄弟と神奈子を見比べて感心していたり。
 V2、魔理沙、文が最速決定戦を予約していたり。
 ララァと咲夜がお茶の淹れ方で話を弾ませていたり。
 マスターの放つカリスマにレミリアが落ち込んでいたり。
 アレックスやメタスがアリスの人形の出来に感動していたり。
 F91、デスティニーの分身に星が驚いていたり。
 萃香と勇儀がガンタンクに炒った豆をキャノンから放たれてたり。
 ギャンと永琳が怪しい笑いをしていたり。
 ウイングに冷たくスルーされて天子が感じていたり。
 デスサイズの成績に映姫が感心し、勧誘していたり(小町は「クビは、クビだけはあぁ」と泣いているし)と。
 他にもいろいろ組み合わせが出来ており、これが早過ぎと言わずにおれるわけがなかった。


「まあ、そりゃあ驚いたよ」

「ああ、でも--」

 でも何よ? 霊夢がそう聞き返すと二人はしれっと答えた。

「妖怪だとか幽霊だとか鬼だとか、ノワールを除いたらみんな気にしないよ」

「難しいことは抜きだ」

「そう……」

 凄いんだか、暢気なんだか……。
 グラスを酌み交わしている二人の述べた台詞に霊夢は妙に納得し、酒を煽るのだった。


「ねー霊夢」

「何よガンダム」

「今からツッコミに回ろうか」

「ああ……そうね」

 ガンダムと霊夢、静かに立ち回る二人の姿をバイザーに映しながらシャアは意を決した。

 今回は二人に丸投げして、私は辞退しよう……と。



[15099] その3 2/2
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/04 18:51
 宴とは飲食をしながらコミュニケーションするもの。
 それまで付き合い難かった関係や、はじめての者を。このひと時はいつのまにか良好なものに変えていく。

 それは悪いことではない。
 ないのだが……。

「ゴッドオォォォ、フィィンガアァ!」

「ぎゃあああああ!」

 慣れすぎではないだろうか。

 恐るべき存在とフルカラー組に謳われるマスターガンダムと是非闘いたい。
 幻想郷の住人達から妖夢、美鈴がそう名乗り出たのだが(何故か永琳に強制された鈴仙も)。
 マスター曰く「ゴッドに勝てたなら相手をしよう」

 そういうわけで三人はゴッドと相対した。
 しかし「言い忘れたが奴は弾より速いぞ」とマスターが付け加えたが、時は既に遅く……。
 ゴッドの手が放つ輝きによって、美鈴達の悲鳴が夜空に響き渡った。

「また綺麗に決まったわね」

「しかも三人とも顔面ヒット」

「輝夜、あなたもやってもらったら?」

「永遠すら砕かれるわよ!」

 にも関わらず彼女らと深く関わりを持つ咲夜、幽々子。そして輝夜に薦めてみる永琳は楽しそうに笑っていた。

「……弾が出る瞬間すらないじゃない」

「あー、あれはいつもいつも」

 いつもどんなんなのよ。
 ツッコミながら霊夢はついそう思ってしまう。
 ツッコミ回りはまだ始まったばかり。
 ここでそんなことを思ったら後は持たないかもしれない。
 頭を抑えつつ、霊夢はガンダムと共に次の集まりへ移った。


「…………」

「あれ、あの娘何してんだろ」

 ふとガンダムの目に止まったのは背中に変わった翼を生やした少女であった。
 とは言っても変わった翼は彼女だけではなかったりするが……今は置いておこう。

「何って……ぬえじゃない。どうしたのかしら」

 霊夢がそう名前を言った少女--封獣ぬえは、盃に両手を添えながらある一点を眺めていた。
 いったい何を見てるのだろう?

 ガンダムと霊夢がぬえの視線の先を見遣る。
 すると、そこには黒く艶がかった翼とボディをもつデスサイズが居た。

 何故、ぬえが彼を見据えているか。

 それは、私と被ってない? という複雑な気持ちであった。

 宴が始まってすぐ、封獣ぬえはガンダムデスサイズヘルカスタムに目を奪われ、そして興味が湧いたのだ。

 遠からず近い……。まるで自分に似せたかのよう、そして自分よりも格好の良い姿を持つことにぬえは羨ましく思えた。

  く、何よカッコイイじゃない……これじゃ私の立つ瀬がないわ。

 どうすれば彼に負けないだろうか。
 ぬえは盃に口をつけず、ただデスサイズを睨み……。
 そしてひとつの考えに行き着く。

 こーなったら、ここは能力を使ってちょっと脅かして格好悪い面を周囲にさらしてあげようじゃない。

 ふと思いついた考えにぬえはニヒヒと怪しい笑みを浮かべ、住人達と話を楽しむデスサイズの背中へ歩み寄った。
 恐らく、振り返った途端に彼が考える正体のわからない者に見えるはず。

 決して音を立てず、あと少し……あと少しといったところ。
 前に伸ばした手がデスサイズの背中に触れる寸前。彼の驚く姿を予想したぬえが思わず表情を緩ませた時。

 サクッ

 デスサイズの頭上という光景が彼女の視界に広がった。

 また、ぬえは身体に妙な浮遊感を覚え、不思議に思う。

 あれ……わたしういてる?

 そう思い、ぬえが視線をずらすと。そこにはデスサイズの無邪気な笑顔と崩れ落ちたように座り込む自分の身体があった。

「よ、オレは死神のガンダムデスサイズヘルカスタム。長いからデスサイズで良いよ~」

 あ、そっかぁ。死神だったんだ。

 そのデスサイズの言葉で、ぬえは全てを理解できた。

「ゴメンナサイ」

 再び身体に戻してもらった時、ぬえは床に手を付いて頭を深く下げた。
 あまのじゃくな性格故、彼女がこんなことをするのはありえない光景である。
 しかし、ぬえだけではなく、一連の光景を眺めていた幻想郷の住人達ですら同じ言葉を心に浮かべた。

 この方に悪戯をしてはいけない。

 遠目で眺めていた霊夢もどこか渇いた笑みを浮かべた。
 な、何あれ。魂ががっつり抜けてたんだけど身体がガクッて崩れ落ちてたんですけど!?

 しかし、そんな彼女の心中を知ってか知らずか。ガンダムは笑顔を浮かべつつ、またしてもぱたぱたと手を動かしてこう言い退けた。

「あははー、気のせい気のせい」

 気のせいで済まないわよいろいろ!

 思わずガンダムにそんなツッコミを霊夢は入れたくなったが、直ぐにそれは引っ込められることになる。
 理由はただひとつ。

 紫を見遣ると、彼女ですら血の気が引いた表情をしているような気がしたからだ……。

「そ、そうよね。気のせいよね」

 霊夢はそんな紫の姿を見なかったことにし、ガンダムとつぎの集まりに移動した。


「おーい、次はあんたが芸してみなよ~」

 そう高らかにあがった声は鬼っ子の伊吹萃香のものであった。
 彼女がそういうのも、ちょうどぬえがデスサイズによって魂を抜きかけられた時に密度を操り、数ミリまでに分裂してみせたからである。
 まさに能力をフル活用してみせた芸にフルカラー組は思わず感動し、拍手を送った。
 思った以上のフルカラー組の反応に照れながら、萃香は今度はフルカラー組に芸を要求したのである。

「よーし、じゃあ02。アトミック・バズーカを使え」

「良いのか?」

 GP01、02の会話。直ぐにガンダムらは顔を引き攣らせるなど反応を示し、また霖之助も言葉の意味を呟きながら反駁した。
 アトミック・バズーカ……バズーカは武器だから解るが。
 アトミック……アトミックは核--。

「止めろ、核は止めろー!」

「そうだよ! お兄ちゃん達ここら吹き飛んじゃうよ!?」

 慌てて霖之助とGP03が注意するものの。
 さらにそこに空も加わってしまう。

「なら私も負けないよ~」

「いや、だから止めろって!」

 ほぼ一同、ましてや萃香でさえ慌てだして核は使われずに済み。
 変わりにあるモビルスーツが名乗りをあげた。

「オレがやろう」

「へ、ウイングが?」

 白く美しい翼を背に生やすウイングゼロカスタムに萃香は気を取り直して期待を寄せた。
 一体何をしてくれるのだろう。

 しかし、そう思った萃香とは違い。フルカラー組は顔を引き攣らせていた。

「ま、まさかウイングあれを!?」

「止めろー!」

 サンドロック、ナタクの制止に萃香も気になり、何かあるのか尋ねた。

「彼は自爆する癖あるんです」

 ちょ、だめじゃん!

 あわてふためき、答えたサンドロックに心から萃香はツッコミを入れた。すると、次々に芸を見せようと自薦する者が多発した。
 例えば--

「じゃあ月光蝶でも--」

「ヤメロオオォ!」や

「うっし、ツインサテライトきゃ--」

「それもダメー!」である。

 ほとんどそうやって止めたのはフルカラー組で、住人達からすれば何故そこまで必死になるのか不思議に思えた。
 だが、何機かモビルスーツが持つ武装や性能を能力によって香霖堂店主・森近霖之助は意味を理解し、血の気が引く思いになった。

 な、なんて代物をほいほい出す気なんだ……。

 名乗り出たターンA、ガンダムDXの台詞にちんぷんかんぷんな表情を浮かべる萃香を含めた周囲の住人達に、霖之助は解りやすく簡潔に説明した。
 すると途端に萃香達は顔を青ざめ、フルカラー組同様二人を止める行動に移った。

 余興で文明を葬られたり、月の光力を使ったビームキャノンなど堪ったものではないからだ。

「だめだめだめ二人とも、幻想郷が無くなっちゃうから!」

「えー」

「ぶーたれてもだめ!」

 萃香や霖之助達のそんな声が響く中、一連の光景を眺めていた霊夢がガンダムにぽつりと呟いた。

「あのさ、ガンダム」

「なに?」

「私、なんだか慣れそうだわ」

「おめでとう」

 ホント、おめでたいわね……。

 ぱちぱちと拍手をしてそう言ってくれるガンダムに霊夢は笑みを零して目の前に広がる騒動を見た。
 今まで宴会するとなったら騒がしくなるのが普通であった。
 だが、新しくやってきたガンダム達が加わり。なんとなくだが霊夢は宴が喧しくも騒がしくなった気がしてしまう。

「ガンダム」

「んー?」

「よろしくね」

「うん、もちろんだよ」


 互いに微笑み、二人は騒ぎの中へツッコミとして向かっていく……。
 結局、この宴会は夜通しで続くこととなり。幻想郷の住人達は絶え間無くフルカラー組に驚かされることになった。


 そんな喧しくも騒がしい歓迎会であった。



[15099] その4
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:50
 妖怪の山に朝日が昇った頃。そこに存在する神社から一体のモビルスーツが境内に降り立ち、伸びをしながら空を眺めた。
 この早い時間帯はまだ肌寒さが残る。しかし、寝ぼけていた頭にはちょうど良い眠気覚ましにもなったりする。
 青々と晴れ渡る空の下、眠気がなくなったモビルスーツは神社の拝殿から出て来た少女に気付き、声をかけた。

「諏訪子、おはよう」

「おっはよーフリーダム」

 ガンタンクの企みによって人間や妖怪、幽霊に妖精。果てには神様までが生きる幻想郷でフリーダムをはじめ、モビルスーツ達が暮らすようになって二日ほど時間が流れていた。
 そして、その中でこのフリーダム同様。幻想郷各地で居を構えることになった組織も多い。
 例を挙げるならば次のとおりである。

※れんぽーことホワイトベースとそれ・びーは博麗神社へ。

ガンダム
「よろしくー」


霊夢
「賽銭(家賃)はちょうだいよー」

ダブルオー
「払うのは……ガンダムだ!」

ガンダム
「ええええ」


※じおんは紅魔館に。

シャア
「まあ、せめて”紅”を”赤”に……」

レミリア
「"せきまかん"なんか絶対嫌よ!」

シャア
「ならばせめてツノを……」

咲夜
「ツノですか……良いですよ」

レミリア
「いらないわよ!」


※えぅーごは魔法の森に

魔理沙
「おーい、なんか貸してくれ」

ゼータ
「ドライアイスなら」

アリス
「何でドライアイス?」

ゼータ
「頭を開けて入れるんだ、パカッと」

魔理沙
「開けれるか!」


※GP三兄弟は地霊殿に。

さとり
「随分、02さんにひどいことをするのですね……まさかステイメンくんにも?」

01
「失敬な、そんなかわいそうなことしないよ!」

02
(ピキ……)

さとり
「うわぁ」


※ウイングチームは彼岸へ。

映姫
「自爆癖なんてやめなさい。いいですか? 命というものはガミガミ」

ウイング
「…………」

小町
「なんだかウイング、凄い透明になってないかい?」

デスサイズ
「ああ……今日はテンションがた落ちだから説教は聞いてないな」


※マスター師弟は白玉楼。

妖夢
「シャイニングさん、お手合わせを!」

シャイニング
「良い心意気だ、ハイパーモードでシャアアァイニングフィンガアアァソオォド!」

妖夢
「ちょっ!? いきなり金色はダメですってばー!」

マスター
「まさか泣くとはな……」

幽々子
「妖夢ったら、すっかりトラウマになっちゃってるわね(ほろり」


※てぃたーんずは迷いの竹林に。

ジオ
「幻想郷……悪役にはぴったりな場所ですね」

てゐ
「私を呼んだ!?」

ジオ
「呼んでませんから」

てゐ
「そ、即答って……もうちょっとなんかさぁ」

ジオ
「噂から聞いてましてね、胡散臭いヒトはうちお断りなんですよ」

てゐ
「そっかぁって、おまえが言うなー」


※むーんれいすは永遠亭に。

輝夜
「久しぶりねハリー、相変わらずピカピカねぇ」

ハリー
「久しいな輝夜。相変わらず働いてないとは」

永琳
「親衛隊長からも是非言ってちょうだい。ずっとゲーム三昧なんだから」

ハリー
「何? それは行かんな。グラサンぐらいかけろ」

鈴仙
「隊長、そんな問題じゃない気が--」

輝夜
「オッケー(スチャ」

永琳
「これなら大丈夫ね」

鈴仙
「えー」


 とまあ、大概は世話になったり世話をしたりしている。
 ほかの組織もまた、同じように散らばっていたりするがあくしずをはじめ、何機かは人間の里を選んだ。
 そして、共通していることと言えば、ステイメンやV2などの子供達はそこで慧音が先生をしている寺子屋に通っていることだろう。
 また守矢神社で世話になっているざふとも例外ではなかった。


「へっへー、先に寺子屋着いたほうが勝ちー」

「まってよヴェルデー」

「二人とも行ってらっしゃい」

「怪我するなよー」

 神社から飛び出し、早苗と神奈子やそれぞれの兄達に見送られながら威勢よく石段を降りていくヴェルデバスター、ブルデュエル。
 二人もまた慧音に寺子屋の生徒として迎えられており。
 以前いた世界とは違い、モビルスーツでも通えることになってからか。二人は子供らしく元気を絶賛爆発させるようになった。

 そのおかげか。ブルデュエルもバクゥ達を怖がるが、それでも傍にいても泣くようなこともなくなっている。
 ふとフリーダムは思った。

 此処にこれてよかったな。
 そうでなくちゃ、あの子達の笑顔を見れなかったもん。

「はは……」

「元気いっぱいだねー。あの子達」

 額の上で手を水平に寄せながら感想を述べた諏訪子の言葉にフリーダムは「うん」と頷いてから、諏訪子に話した。


「でも、たくさんあって困らないよ。絶対、だって--見てる僕らも笑顔になれるんだし」

「うわぉ、ケロちゃんの好感度アップしちゃったよ~」

 感嘆する思いでそんな反応を見せる諏訪子に、フリーダムは顔を赤らめた。
 まさかそう言われるなんて思ってなかったな……。

「トリィ」

 恥ずかしさから、鼓動が速まった気がする中。風に乗って聞こえてきたペットの鳴き声に、フリーダムと諏訪子は鳴き声が聞こえた方向へ視線を向けた。
 そこにはフリーダムがジャスティスにもらった機械の鳥・トリィが翼を水平に傾け、滑空しながらこちらへ飛んで来ていた。
 最初、あの宴会の席で芸がどうたらで少し騒ぎがあったが。
 フリーダムやジャスティスが出したトリィとハロ達、バクゥといったロボペットで盛り上がったりした。
 その出来映えの良さ、兼ね備えた愛くるしさに幻想郷に住む住人達も度肝を抜かれた程である。

 それは守矢メンバーも同じであり、神社にざふとが居候することが決まるや否や大歓迎だったのだ。

「相変わらずよくできてるね」

「ジャスティス、手先が器用だから……」

「そういえばジャスティスやブリッツは?」

「今日はにとりのところに行ってるんだって」

 フリーダムの答えに何だか解る組み合わせだなぁと、諏訪子は苦笑を漏らしてトリィを眺めた。
 だが……。

 ん? 何だか妙におっきくなって……。

 何かの見間違いではないだろうか。
 目を擦り、慌てて諏訪子はトリィを見直すのだが、やはり近づくにつれトリィが大きくなるようにしか見えなかった。

「あ、おはよー」

 神社から眠気まなこを擦りつつ、あくびをしながら出て来たデスティニー、レジェンド、ルナザク、プロヴィデンスに挨拶するフリーダムは視線を外してた。
 そんな彼に、諏訪子は動揺する心を抑えつつ声をかけると。
 フリーダムはキョトンとして聞き返した。

「どうしたの?」

「あ、あの……トリィって--」

「あれ、トリィでかくない?」

 遮って告げ神奈子の台詞はまさに諏訪子が言いたかった内容であった。

「…………私達幻覚を見てるんでしょうか」

「知らず知らず夢遊病になってたのか」

「じゃあ、そうゆうことで」

 明らかに動揺しながら早苗が尋ねたにも関わらずたいしてレジェンド、ルナザクは動じなかった。

 「それで済ますなあぁ!」とデスティニーのツッコミが入るのだが、もはや遅かった。
 守矢神社を黒い影が包み、辺りに陽がささなくなる。
 いったいなにが起きたのか……。
 それは真上で着陸しようと止まり、羽ばたく巨大なトリィが証明した。

 バッサァ、バッサァ。

 質量とか難しい話云々を考えるならば簡単である。
 諏訪子達、フリーダム達は一斉に神社のあちこちに掴まり、翼から送られる豪風に耐えた。

「あああああ、神奈子助けてー!」

「私に掴まるな、私はプロヴィデンスだから!? 神奈子はアッチ!」

「す、諏訪子ムリよ。ムリムリ! あんなかわいらしいトリィにオンバシラぶつけられないわよおぉあぉああぁ!」

 あれが兄弟機や神様のあるべき正しき姿なのだろうか。
 レジェンドが冷静に思う中、デスティニーは吹き飛ばされそうになった早苗の手を掴み。離さないよう必死に繋ぎ止めていのだが……。

「あ、あはははは。常識ですよね、鳥って育ったらこんなにおっきくなるんですよね凄いですよねあはははは」

「あそこまで大きくならねぇよ!」

 混乱して訳がわからなくなった早苗を、デスティニーはただツッコむしかなかった。

「こ、これ絶対ジャスティスだぞ!?」

「いや多分、にとりの奴も手伝ってるって!」

 デュエル、バスターの言葉にフリーダムは納得するしかなかった。
 以前にも、水を飲ませたら膨張しておっきくなったことがあった為。一概に違うとも言えないのだ。

「ジャスティス何してんのさー!」

 必死に神社にしがみつきながら、フリーダムは吹きすさぶ風の中でそう叫ぶのだった。


※その頃。

 同山の川が流れる麓ではジャスティスとにとり、ブリッツがそこから山を眺めていた。
 特に前者の二人は達成感に満ちた笑顔を浮かべ、ガッシリと固い握手を交わす。

「まさか、今まで与えられたエネルギーの分まで大きくなる素材なんて初めてだよ」

「私もあんな精密な造りは初めてさ、いやぁ、良い盟友が出来たよ……」


 改造、機械いじりが高じて共有した時間を振り返りながら互いに笑みを浮かべ。
 二人はやり遂げた顔で山を、守矢神社がある場所を見遣り。
 同時にぽつりと告げた。

「「喜ぶかなぁ、フリーダム」」


「泣き叫ぶと思うでござる」

 ただ、一機。ブリッツが冷や汗をかきつつツッコミを入れるが、それはものづくりオタクに届くことはなかった。



[15099] その5
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:51
 リッキーの朝は早い。
 顔を洗い、歯を磨いて早朝マラソンを敢行。
 それが終われば朝食を取り、次に掃除をして筋トレ。
 昼食をとり、夕食までひたすら特訓を熟し夕食の後も訓練をして早めに就寝する。
 もとより熱い性格が故か、日々トレーニングをしなければ落ち着かなかった。ぼーっとしていては直ぐに子供達に追い抜かれてしまうことだろう。
 この間なんかはV2ガンダムに雑巾掛けで完敗しているからこそ、尚更気をおけない。
 それは幻想郷に来て、より欠かせない日課となった。
 そして今日も……。

「毎朝毎朝ご苦労だね。君は」

 朝食を終え、リッキーが張り切って廊下に雑巾掛けをしていたところで彼にそう声をかけたのは大きな耳を頭に生やした少女であった。
 首元まで伸びた癖のある髪、ケープを羽織ったワンピースはどれも灰色である。
 違うと言うならば首飾りだけだろう。


「オレは別に気にならないよナズーリン、これも訓練になるから」

「訓練って何のさ?」

 素直に思ったことを聞き返すナズーリンの言葉を受け、リッキーは雑巾の手を止めて考え込んだ。
 そういえば何の訓練になるんだろう。

 肉体? 精神? 掃除?

「えーと、肉体掃除の精神の訓練」

「……何でだろう、ソレ私の頭の中じゃグロい映像しか浮かばないよ」


   ◇   ◆   


 人間の里。その名前の通り、ここは人間達が住む場所である。
 しかし、居るのは人間だけでなく。妖怪や妖獣などが買い物に訪れることもしばしば見受けられる。
 最近は新たに招かれたモビルスーツ達もここに住むなどしている為、賑やかになった。

 そして、この里に存在する命蓮寺にもMSが一機居候していたりする。
 それがEz8こと、リッキーである。

「あの……リッキーさん何をしてるんですか?」

「ん」

 雑巾掛けを熟し、寺の廊下をひたすら拭き続けたところでリッキーは自分を呼び止める声を、声を発した相手に振り向く。
 そこにはこの命蓮寺の僧侶である聖白蓮が驚いた表情でリッキーを見ていた。

 いったい何を驚いているのだろう。
 不思議そうにリッキーは聞き返した。

「何って、雑巾掛けっスけど……」

「違います、私が言いたいのは何で一言おっしゃってくれないのかということです」

「あ……」

 そこで少し淋しそうな顔をする白蓮にリッキーは彼女が何を言いたいのか理解した。
 優しい性格をした彼女である。勝手にしていたら、申し訳なく思うのも無理はないだろう。

 そっか、ちょっと心くばりが足らなかったなー。

「すいません、でもせっかくお世話に「私だってお掃除好きなんですよ?」あっれ、そっちスか!?」

 せっかくお世話になっているから出来るだけお手伝いはしよう。
 そう言いたかったのだが、自分が思いと白蓮の考えがまるっきり違っていたことにリッキーは張り上げるような声でツッコミを入れた。
 まさかそう来るとは考えてはいなかったなー。
 まだまだ修行不足っス。

「待っていて下さい、私も今から雑巾を持ってきますから」

 にこっと見る者に柔らかな印象を抱かせる微笑みを残し、自分から離れていった白蓮の姿をリッキーは見送った。
 手伝わせたら余計に悪い気がするなぁ。
 白蓮を呼び止めれば良かったと罪悪感を覚えるのだが、止めたら止めたでテンション下がるかもしれず。リッキーはただ、彼女が戻ってくるまで現状待機していた。
 すると白蓮と入れ代わるように水兵の格好をした少女が姿を見せ、同時に彼女もリッキーを確認し声をかけた。

「リッキー」

「どうしたのムラサ?」

「今、聖が嬉しそうに台所行ったけど何かあったの?」

「ああ、オレが掃除をしてたら。私もやりますって言って雑巾を取りに行ったんだ」

「ふーん、じゃあ私も掃除しようかな」
 皆にも声をかけとくね。リッキーにそう告げ、ムラサはその場を離れた。
 聖がするなら。という安易なきっかけだが、掃除をすることは嫌いではない。
 むしろ、皆の居場所を皆で綺麗にするのだからこれに参加しない話はない。
 一輪と星を見つけ、ムラサは弾むような気持ちを抱く。
 きっとこの二人なら喜んで手伝うだろうな。と期待を抱きながら彼女らに尋ねた。
「ねえ、掃除しない?」

 返ってきたのは喜ばしい承諾の返事であった。


   ◇   ◆   


 寺子屋。人間の里にある唯一の学び屋である。
 教師は--。

「噛みシラタキけいね?」

「違うぞダブルオー、上白沢だ! 私は上白沢慧音だから!」

 上白沢慧音である。

 幻想郷唯一の学び屋でもあるため、ここには多くの子供達が勉強をしにやってくるのだ。
 現在は人間、妖精等様々な種が横並びに並べられた長机を前に座して教授される。
 そして最近に至ってはフルカラー組からもこども達が生徒として参加していた。


 みねば、ステイメン、V2、ブルデュエル、ヴェルデバスター。
 スローネ三兄妹、ダブルオーといった面々である。

「さて、午後の授業だが良い天気ということもある。今から課外授業として庭でドッチボールをしよう」

 教卓を前に立つ慧音からそう告げられるや否、教室内は割れんばかり喜びの叫びに包まれた。

「やったー!」

「ドッチボールだー!」

 前回にもやったことがある為、こども達の喜びもひとしおである。
 初めてドッチボールが授業に取り入れられた時、それがどんなものか知る者はおらず。だからか大半は乗り気になることもなかった。
 しかし、ドッチボールをよく知るモビルスーツ達が弾幕ごっこにも似た熱戦を繰り広げた途端、その楽しそうな姿に観戦していた他の生徒も引き込まれ。
 今やこのように熱を入れるようになったのだ。


「す、凄いですね」

 久しぶりに寺子屋の様子を見にきた阿求すらも気圧されてしまう程である。
 幻想郷縁起にモビルスーツという存在を記す為、あらゆる場所を訪れてみたがこのように活気に満ちたところは他に無かったのだ。
 ふと、そこで子供達の元気の源であるモビルスーツ達へ振り向く。
 こちらもまた、楽しそうにしていた。

 だが--。

「?」

 視界の中、阿求は一体のモビルスーツに違和感を覚え。彼に目を止めた。
 どうしたんだろう。

 騒ぐこともなく固まったまま、障子の開け放たれた部屋から庭を眺めている姿に阿求は歩み寄り、その背に声をかけた。

「あの、ダブルオーさん、どうかされたんですか?」

 聞こえるぐらいの声量だったと自分でも分かる。しかし、ダブルオーからの反応はなく。阿求は失礼と思いながらも彼の顔を覗き込み--。
 ようやく理解した。

(ダブルオーはワクワクしていた)←有給休暇の為、紛争根絶は無し。

 ああ、楽しみなんですね。

 普段は無表情と知り合いから聞き及んでいたのだが、意外に表情に出やすいことを知り。阿求かはわいらしいと思いながら苦笑した。

「やれやれ、今日も騒がしくなりそうだ」

 早く準備しようと玄関の下駄箱へ移動し始める生徒に慧音も思わず苦笑いを浮かべて眺めていた。
 およそ数日前だというのに、もうモビルスーツ達が子供達と打ち解け、楽しそうに話をしている。
 教鞭を取る立場としても、幻想郷に生きる者としても。それは喜ばしいことである。
 うんうん。良いことだ。
 人知れず、頷いていると一人のモビルスーツが慧音に声をかけた。

「慧音せんせー」

「ん、どうしたんだV2?」

「光の翼使っていい?」

 ……いったい何を言うかと思えば。

 純粋な眼差しで見上げ、そう尋ねたV2に慧音はニコリと優しく微笑んで彼に答えた。

「止めてくれると嬉しいな。ふふ、ふ、ぐすっ……先生泣いちゃうから」

 前回、ドッチボールで起きた乱入でどれほど号泣したか。
 またあんな有様になったら今度、自分は”泣く”じゃすまないのではないか。
 慧音の心はまるでウエハースのように脆くなっていた。

※ちなみに、あんな有様とは……。

ケースその一。

「ガハハハハハ、ドッチボールは楽しいの~みねば!」
 (ドッチボールに乱入し、大型メガ粒子砲を乱射するビグザム)


ケースその2

「さあ来い! 子供は風の子だぞ!」
 (ドッチボールに乱入し、ドラゴンハングでボールを投げたり弾いたりするナタク)




「あれ、おかしいな。思い出したら先生、目頭が熱くなってきた」

「ご、ごめん先生。使わないから泣かないで」

 理由はわからない。しかし、なんでか先生の頬に熱い雫がこぼれていたんだ……。
 V2は後、ガンダムにそう語り。そして、彼からこう言われた。

「そういう時はそっとしてあげよう」と--。



[15099] その6
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:53
 最強の妖怪。

 幻想郷にはそう呼ばれ、恐れられる者がいた。
 緑のくせがある髪は肩まであり、白いブラウスの上にチェックのベストを着て。チェックの長いスカートを優雅に履きこなす。
 そして常に持っている日傘が一番の特徴と言えた。
 名前は風見幽香、花の妖怪である。

 花を操る程度。それが彼女の能力であり、一聞すれば「それのどこが最強なのか?」とその由縁を疑うだろう。
 だが、風見幽香の強い理由はそこではない。

 妖力と彼女の身体能力が極めて高いのだ。
 そして花を操り、華麗に戦うというのが風見幽香という妖怪の本質である。
 相手が強者であればルールを決めて戦うのだが。
 それは人間であろうが、同じ妖怪であろうが容赦なく叩き潰す。故に弱い者達は彼女が現れる太陽の畑へ行くことを極力避けている。

 しかし、そんな恐れられる妖怪は--。
 あるモビルスーツに、吹き飛ばされていた。

「つまんない」

[キャノン発射→幽香ドカーン]

「うぎゃああああ!」

 爆風を背に一人の女性は青空を眺めて呟く。
 手を伸ばしても普通なら届かないはずだが、今ならこのまま何故か吸い込まれてしまいそうなほど。幽香は澄みきった空で舞っていた。

 今自分の心に浮かんだ言葉もまたこの空へと消えていくだろう。
 そして、幽香は噛み締めた。

  モビルスーツ……強い奴居すぎでしょ。と。


 何故彼女がそう思うか。それは数時間前からに起因していた。


   ◇   ◆   


 幽香が自宅を置くのは目が眩むほど大量の向日葵で覆いつくされた草原、太陽の畑である。
 幽香の日課は散歩で、朝昼夕の食事以外はひがな花を眺めたり暇を潰すことだ。
 美しい四季折々の花を眺め、話し掛けることは彼女にとって生き甲斐に等しく。また楽しいのだ。
 そして、この日もまた心を癒す為に幽香は向日葵を眺めていたのだが。
 そこに彼女の心を昴ぶらせる存在が現れた。

 黒いボディ、背中に赤い飾りを付けたモビルスーツ。
 幽香は口の端を吊り上げ、歩み寄って彼に声をかけた。

「ごきげんよう、マスター」

 風の便りに幽香は、今幻想郷に新たな種族が住んでいることを知っていた。
 モビルスーツ、モビルアーマーといった。ある反則に強い種が居ると……。
 そして、その中でも最強と言われる存在達がいる話を聞き幽香は思った。

 それは是非、遊んでみたいわね。と--。
 幽香は心を躍らせ、いつか彼らと出会える日を待ち焦がれた。

 自分の力は妖怪でも最強クラスであることは自覚している。
 最強。そう言われて悪い気はしないが、同時に怖がられ過ぎて傷つく日々を過ごさなければならない。
 つまらない……。
 満足にやり合える相手は限られているだけに幽香は最強という二文字が退屈な称号に思えた。

 そんな時、話に聞いていたモビルスーツの最強クラス。そのうちの一機が向こうからやってきてくれたことに幽香は喜び、思った。

 精一杯、おもてなししてあげないとね。

 そして、幽香はひとことふたことマスターガンダムと言葉を交わして場所を畑の外へ移していく。
 幽香はつい、顔が緩んでしまうのを止めることが出来ずにいた。
 「あなたと勝負してみたかったの」とそう尋ねてみれば、マスターガンダムは快く承けてくれたのだ。
 これが嬉しくない訳がない。
 ふふ……はたして、あなたは何分の間立っていてくれるのかしら。

 挑発するような笑みを浮かべ、幽香は日傘を閉じると同時にマスターガンダムに勝負を挑んだ。
 のだが--。


[風見幽香、マスターガンダムへ先制攻撃。しかし返り討ち]

「う、嘘でしょ……私が!? ありえないわよあんな速さ……」

[風見幽香、マスターガンダムに反撃強襲→しかし回避され撃破]

「@¥☆Å∞〇℃!? た、た、タンマ--」

「タンマと言われて止まる敵はおらぬわアァ!」

「ぎゃああぁぁぁ!」

[マスターガンダム、風見幽香をアッパーして撃破]

マスターガンダム○

 VS

風見幽香×

 幽香はマスターガンダムに負けた。

「うむ、なかなか骨があったわ。
 気に入ったぞ風見幽香、また勝負を挑みに来るとよい。
 喜んで相手をしよう」

 ズタボロ……久々に、いや初めて完敗を味わった幽香は去り際に上機嫌のマスターからそう言われ。
 「そ、そうね……」と相俟に返事を返したのだが。
 内心では、しばらくは止めておきたいわと願いつつ。
 幽香は草原から立ち去るマスターガンダムの背中を見送った。


   ◇   ◆   


 妖怪の力とは人間など比べるべくもなく凄まじいものがある。
 それは治癒力もまたしかりである。
 マスターガンダムと別れた後、幽香の体力は直ぐに回復出来た。

 相手が気功をつかさどる技を使った、というのもあるからだろうか。
 戦う前よりも身体が軽くなったような気分を味わいながら、幽香は草原の中でふとモビルスーツについて考えてみた。

 マスターガンダム。

 自分を負かした彼は強かった。
 こちらが繰り出す腕や脚の動き、心の移りようを精確に読んで必要最小限の動きで回避し。
 畳み掛けるように反撃をする。

 これは自分自身の戦い方でもあったのだが、今回はマスターガンダムにしてやられてしまった。

 アレみたいなのがゴロゴロ居るの……よね。

 まだ見えぬ強敵達のシルエットを心に浮かばせ、冷たいものがこめかみから流れる感覚を幽香は味わう。
 って何? 私、怖がってる……?

 そ、そそんなわけないわ! 私のキャラはもっとこう--。

「ふ、面白いじゃない……」

 何時もの不敵な笑顔を浮かべ、内心で幽香はホッと一息入れた。

 そうよコレコレ。

 何を怖がっているのだろうか、私は風見幽香なのに。
 幻想郷で多くの者達から畏怖される自分がまさか新参者に気圧されるなんて--。

「ああ……そうか」

 幽香はそこでようやく気付いた。

「私も……」

 自分より弱い者が自分を恐れる理由は何となく理解していた。そして、幽香がこれまで「怖い」と思ったことも無かった。
 もしかしたら自分は他とは掛け離れた存在だからと幽香は思っていた。
 だが、こうして何かに「怖い」と感じたということはつまり。

「私もみんなと変わらないのね」

 種という隔たりがあるだけだ。
 普通なら怖いと思ったら嫌がるものだが、幽香にはそれが何とも新鮮な気持ちに思えた。

「ふふ」

 自嘲するように幽香は笑みを零して空を眺め、心の中で呟く。
 世界は広いわね……。

「ゆーかはっけん」

 天空を仰ぎ見ていた幽香にある声が掛かり、幽香は声のしたほうへ振り向き、微笑んだ。

 そこに居たのは旧くから幽香と繋がりのある友人であった--。

「あらガンタンク、久しぶりね」

「ひさしぶり~」

 親しげに挨拶を交わした二人の目には再会の喜び現れていた。
 何故知り合いか……それは[友達]だからである。

「今日も向日葵を見に来たのかしら?」

 日傘を開き、その日よけの中にガンタンクを入れて幽香が尋ねると。
 ガンタンクは大きく頷いた。
 そんな彼が愛らしく思え、幽香は目を細めて微笑む。

 ふふ、相変わらずね。

 純粋だからこそ花の良さが分かるのだろう。それに初見からガンタンクは幽香を恐れない。
 寧ろ自分の力で花を咲かせてみれば全身全霊で驚き、そして綺麗だと喜ぶ。
 まさにガンタンクは幽香の心を許せる友に相応しい。
 こういう子ならば、ぜひ仲良くありたい。嬉しさからか幽香はあらためてそんな感想を抱いた。


「あら?」

「?」

 ふと上空から何かが高速で通り過ぎていく光景を幽香は目の端で捉え、青空を見上げた。
 しかし、もうそこにはひこうき雲ならぬジェット雲しか残っておらず。何が通ったのか確認は出来ない。

 何だったのかしらあの轟音……。

 一度気になったら解明してみないと気が晴れないタイプがいる。
 幽香もそんな一人であった。
 もやもやした気持ちで腕を組み、幽香は考え込んだが、その彼女の傍にいたガンタンクが説明した。
[トールギス、ぷりぺんたー所属のモビルスーツ]
 そう、かい摘まんだ説明に幽香もようやく気持ちを落ち着かせることができた。

 トールギスかぁ、結構速かったわね。

 自分の目でも追えないとなると余程の機動性を有していることは間違いないだろう。
 弾幕ごっことかじゃ、相性は悪いかもしれないわね。
 そう考え、幽香はそこである言葉を思い付く。

 トールギスは私の頭上を駆け抜けていったのよね……。
 じゃあ、つまり--。

「トールギス、私達の頭上をとーりすぎる……ぷっ」

 ということよね。
 あら、私すっごい面白いこと言っちゃったわ。
 思わず述べてみた洒落の出来栄えに幽香は堪えきれず、つい自分で笑ってしまうが--。

「つまんない」

[[ドガアァァン!]]

 笑えなかったガンタンクに、幽香は意識も身体も吹き飛ばされてしまうのだった。



[15099] その7 1/3
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:53
 是非曲直庁。

 そこは閻魔様と死神が勤務するところであり、幻想郷と繋がりを持つ場所でもある。
 閻魔様の名前は四季映姫・ヤマザナドゥ。
 死神の名前は小野塚小町といい。

 映姫の性格は生真面目、傍にいる者が間違ったことをしたならば即座に説教をしてくれるという程。
 しかし、逆に小町の性格は基本ぐーたらである。
 魂を舟に乗せ、三途の川を昇って映姫の元へ渡すという大事な仕事を小町は任されているのだが……。
 その仕事を彼女がサボっていることが多々あった。

 例えば、本来船頭として小町が舟を漕いでいるはずが何故か魂が代わりに櫂を持って三途の川を渡り、その船底で小町は横になって鼻ちょうちんを吹かせていたり。
 仕事をほったらかしてどこぞの原っぱで昼寝をしていたり、誰かと弾幕ごっこをしていたなどという始末である。


 しかし、それを見逃すような彼女の上司・映姫ではない。
 サボっていたという事実は何かしらの経緯で必ず映姫に齎され、いかにも一仕事を終えた感バリバリの笑顔で帰った小町はきつくお灸を据えられるのだ。
 が、小町が懲りることはない。サボる際はバレないようどのようにサボれるか日々探求する有様であり、映姫は日々頭を悩ませているのだ。

 そんな、騒がしくも賑やかな二人が居る是非曲直庁。そこに新たなメンバーが加わっていた。
 それは幻想郷に最近住み着くようになったモビルスーツという。


   ◇   ◆   


「ふうっ、後はこの文書を纏めるだけですね……」

 小町が連れてきた魂達、彼らの裁定が終わった後。映姫は自分の部屋で黒い革張りの椅子に腰掛けて机に向かい、机上では今日裁きをした魂の数を書に記録する作業を行っていた。
 裁定が終われば一日ごとに記録し、それを纏めて保管しておかなければならない。まさに閻魔ならではの仕事だろう。

 今日はざっと数えて三十人、何時もよりは少ない為に映姫も気楽さがあった。
 とはいえ仕事は仕事。今はしっかり纏め終わるまでは気を抜くことは出来ない。
 さて、頑張りましょうか。
 そう映姫は奮起して筆を取り、空白の本文で走らせた。


「映姫さーん、今大丈夫ですか?」

 締め切った扉越しに聞き慣れた声が部屋に届き、映姫が入室の許可を出すと。
 ゆっくりと扉が部屋の内側に開いていく。
 そこには紫のガンダムが白玉のような手にお茶を乗せたお盆を持っていた。


「失礼します、お茶を持ってきました」

 あどけなさが残るような、それでいて少年の優しさをガンダムに感じ映姫は微笑み。歩み寄ってきた彼のお盆から湯呑みを受け取る。

「ありがとうございますサンドロック」

 [ガンダムサンドロックカスタム]通称サンドロックと呼ばれるモビルスーツに映姫は礼を述べてから湯呑みへ口をつけて傾けた。
 口内に広がるあたたかな香りと熱い茶葉の味に映姫は心から落ち着いていった。

「仕事の合間に頂くサンドロックのお茶は格別ですね~」

 そう述べる映姫の目はまるで糸のように細まっていた。
 それほどまでにサンドロックが淹れたこのお茶を映姫は気に入っていたのだ。

 まだ終わってもいないというのにこの美味しさは何でしょう。
 小町のようにサボってしまいたくなりますね。


『へっぷし!』

『うわっ、汚いなぁ……連レてッチゃウよ小町?』

『ちょぉぉっ、先輩勘弁してぇ!?』

『あはは、ジョーダンなんだから。そこまで怖がるなって♪』

『いや、先輩のはジョーダンならないから……』


 しかし、デスサイズが居る間は当分サボったりはしな--出来ないだろう。
 お茶を飲みながら映姫は何となくそう思えた。


「そういえば他の皆さんはどこにいるのですか?」

 湯呑みを手元に起き、映姫はサンドロック尋ねた。
 ここでいう[皆さん]とはつまり--。
 ヘビーアームズ、ナタク、ウイングのことである。

「ヘビーアームズは子供達に手品を見せるらしくて人里に。
 ナタクは幽々子さんのところへ行きました」

「白玉楼……へですか?」

 ヘビーアームズに関しては「彼らしい」とほほえましく感じたのだが、ナタクの行き先に映姫は首を傾げた。

「白玉楼にはゴッドが居ますから、多分修業が目的だと思います」

 微笑みながら疑問を解消してくれたことに映姫はようやく納得出来た。
 若干、あのバトルマニア達が何か問題を起こしそうで心配ではあるが……。

「ま、マスターも居ますから多分、大丈夫ですよね?」

「大丈夫ですよ」

 その質問に関して、何故かサンドロックは確信めいたものがあった。
 根拠は何だと言われれば答えるべき答えはただひとつ--。

[マスターガンダムも白玉楼に居るから]である。

 サンドロックの答えにとりあえず不安要素を除くことが出来、映姫は最後に残ったモビルスーツについて尋ねた。

「ウイングは今どうしているのですか?」

「実は今日まだ見てないんですよ、一応部屋には居るみたいですけ--」


 [ドオォーン!]

 そう言い留めたかったサンドロックだったが。それは突如爆発音が轟いたことで声は掻き消されてしまう。
 パラパラと天井から塵が落ち、余震で揺れる映姫の部屋で映姫とサンドロックはとりあえず机の中に避難した。

 地震!? 震源はどこだ!?

「ジジジ地震台風雷家事親父さんでしょうか!?」

「映姫、最後のなんか今流行りの[主夫]みたいになってますよ!?」

 混乱すると映姫でもボケるんだ。
 サンドロックはツッコミを入れつつそう思った。


「止み……ましたね」

 揺れが無くなり、サンドロックはまるで通り雨が過ぎ去ったように言いながら机から這い出た。
 地震……とも言えない、衝撃の質が違う。

「あっ!?」

 何だったんでしょう? と言いそうになった時、サンドロックは信じたくない事実に気付く。
 そして、それは隣にいた閻魔様から尋ねられることとなった。

「あの……サンドロック?」

「な、何でしょうか?」

「フツー、地震って[ドオォーン!]って鳴り響きませんよね[ドオォーン!]って鳴り響きませんよね[ドオォーン!]って鳴り響きませんよね!?」

「同じこと三回言ってますから落ち着いてください!」

「そ、そうですね」

「深呼吸しましょう、吐いてー」

「はー」

「吸ってー」

「すー」

「吐いてー」

「はー」

「大丈夫ですか?」

 サンドロックの言う通りに深呼吸をして映姫はどうにか混乱していた思考を冷静に戻すことが出来た。
 サンドロックの尋ねに映姫は胸に手を宛がいながら答える。

「はい、ありがとうございます」

「よかった」

「ところでさっきの爆発音なんですけど」

 映姫がそう切り返すとサンドロックは途端に表情を曇らせ、汗を垂らしながら映姫に自分が思うところを述べる。
 あの何十回、いや何百回と聞いたことがある爆発音は[彼]の--。

「多分、ウイングが自爆したんだと思います」

「な゙っ!?」

 自爆。それはウイング達が是非曲直庁に住むようになって初日にもウイングは起こしていたコマンド? である。
 もちろん、そんなことを面と向かってされ映姫がほっておくはずもなく、映姫はこんこんとウイングにお説教した。
 そんな簡単に命を何とかかんとか……と。
 何やら身体が透けていたがそれほど反省したのだろう。
 映姫はそう納得し、お説教からウイングを解放したのだが。

「反省したのではなかったんですか!?」

「多分……難しいと思います」

「な、何でですか」

 サンドロックの言い分はまるで「映姫では彼を更正させるのは無理」そう言っているように思え、映姫はムッとした表情で聞き返すが。

「習性みたいなものですから」

「あ~」

 苦笑いを漏らしながら答えるサンドロックに映姫はただ納得するだけであった。

 なら治りませんね。

 そして--。

「おーい、映姫--ってサンドロックも居たのか。ちょうど良いや」

「わ、デスサイズどうしたの!?」

 ボロボロの身体で部屋を開けたデスサイズにサンドロックは目を見開いて聞き返す。

「実はさっきウイングがウイングゼロになっててさー」

「……」

 [ウイングゼロ]その名を聞いた途端、サンドロックは言葉をなくしてしまう。
 一番キレやすく暴走しやすい状態のウイングと言っても過言ではないからだ。
 それがどれだけ危険か……。

「やばいって思って小町と抑えたんだけどさ、自爆しちまってそのまま逃げられちゃったんだよ」

 デスサイズの話によれば、先程起きた音はウイングによる自爆の音で間違いなかった。
 音が響いた時、ちょうど談笑していたデスサイズと小町は直ぐに爆発の元を辿っていく。
 すると崩壊した部屋からウイングが飛び出してきたのだ。
 止めなければちょっと大変なことになる。そう判断し、デスサイズは小町に話を通してウイングを取り押さえようとしたのだが……。
 白目で睨み返してきたウイングはアレのスイッチを二人に突き付け、残酷にもポチりと親指で押したのである。
 気付いた時には既に遅く、ウイングの姿は何処にも居なかった。
 あるのは崩壊した是非曲直庁の一部。
 このまま奴を放置してはおけない。
 デスサイズはこうして映姫の元に来たのだ。

「あ、頭が痛い……」

 小町よりもやっかいな癖を持った居候に映姫は手で頭を抑え、深くため息をついた。

「それで……小町はどうしたんですか?」

「ああ、ウイングを追跡してる」


 流石にこうゆう時は対応が早くて助かる。
 伊達に死神はやってませんね……。
 デスサイズから姿が見えない理由を聞き、映姫はあらためて納得し。ウイングへの対策を打ち出した。

「サンドロック、デスサイズ……」

 決意の現れた眼光を放ち、そう呼び掛けた映姫に。
 流石閻魔様だな、そんな思いを胸に二人は頷き。彼女の答えを待った。


「ウイングはお説教です!」

「「了解!」」


 こうして。是非曲直庁においてウイングゼロ暴走対策チームが結成されたのであった。





[15099] その7 2/3
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:53
 是非曲直庁においてウイングゼロの暴走を阻止するべく対策チームが結成された頃。

 魔法の森では一体のモビルスーツと少女達が熱いスピード勝負を繰り広げていた。

「ふははははは、この私に追い付くことが出来るかな!?」

「はっ、土星エンジンだか知らないが良い気になっていられるのも今のうちだぜ!」

「そうです、舐めてもらっちゃ困ります!」

 モビルスーツ、名をヅダといい。はまるで旧ザクじいさんを彷彿させるような顔立ちをしているがボディやカラーリングは全く異なっていた。
 背面に装着されたエンジンによる加速度は比べものにならない。
 後を追い続けるように箒に跨がって飛んでいる魔法使い、霧雨魔理沙と烏天狗、射命丸文は苦虫を潰したような気分を味わっていた。

 この幻想郷にモビルスーツ達が住み出してから彼らの高い能力に驚くことが多々あった。
 前回、宴の席においてV2のかけっこが得意という発言に魔理沙と射命丸文は速さを誇る者として勝負を約束した。
 とはいうがV2も子供、そんなたいしたことはないだろう--。

 当初二人はそう高をくくり宴の余興にと、軽く準備運動を兼ねてV2と勝負してみたのだが。
 夜空を舞台に催されたレース、その結果は桃色の光翼を持つ者によってぶっちぎりで終わり……少女達は完敗した。

 う、うそーん。

 二人がそう呟いたのは言うまでもない。

 有り得ない有り得ない!
 何、何だあの速さ。というか姿さえ見えなかったんですけど!?

 反則的な機動性を目の当たりにした二人は直ぐさまモビルスーツに対する印象を改めた。
 子供だからと油断してはいけない。

 そう考え、魔理沙と文はV2にリベンジするべく高機動を誇るモビルスーツと練習することにし。
 今、博麗神社をスタートにヅダと幻想郷全土をコースに見立てて飛んでいた。
 妖怪の山を折り返し地点に、ゴールは再び博麗神社。先に境内で待つ霊夢とガンダムから水分補給を兼ねたお茶を受け取れば良い。

「くっ、V2よりは姿が見えるんだけどな……」

「それでも突き放されているのは事実ですね」


 魔理沙の漏らした言葉に文はそう答え、前方で高らかに笑い声をあげているヅダを見た。
 時折、指二本を立てた手でこちらにポーズを決めつつ。森の木に当たらないよう配慮してくれているのが何ともまあ紳士的であるが小憎らしい。

 自分達のスピードならばあとちょっとで折り返し地点に辿り着くだろう。しかし、ヅダが先に辿り着いた場合はまたあの加速度でエンジンとやらから火を吹かす。
 それはまずい。最速の文々。新聞の記者として負けるわけにはいかない。


「魔理沙さん」

「なんだブン屋?」

「あそこに霖之助さんが!」

「な、何!?」

 ズビシっと擬音が聞こえてきそうな速度で文が指したのは香霖堂であり、魔理沙もつい文の示す方向に振り向く。
 集中しているところで気が逸れれば、今の行動も止まってしまうもの。

 魔理沙は止まって香霖堂を見遣るのだが……。

「って、いないぜ!」

 気付いた時既に文は遥か先にまで進み、魔理沙には豆粒ほどにしか映らなかった。

「ち、一人勝ちってわけか……負けないぜ!」

 歯ぎしりする時間すら惜しい、魔理沙は直ぐに文の後を追い掛けていく。モビルスーツ達を抜けばまだ二人の速さは近いものがあった。
 だからか、いくら突き放されても魔理沙にとっても文にしても直ぐ持ち直すことが出来る。
 少し、あと少しと射命丸文に近づき。同時にその姿が大きくなっていく。
 黒翼の羽ばたきがよく栄えるほど……。


「よくも騙し--」

 てくれたなブン屋!

 追い付いたところで魔理沙はそう言ってやるつもりだった。
 だが、その刹那の瞬間。


[ドカァアアン!]

「っ!?」

 目の前で起きた空中爆発に魔理沙は言葉を詰まらせ、目を見開く。
 何が一体起きたんだ!?

 誰かに聞きたいが生憎、今この場にいるのは自分のみ。魔理沙はただ、爆発によって出来た大きな煙を呆然と眺めることしか出来なかった。
 だが、その時。
「って、あれは……?」

 煙の中から一つの塔が現れ、そしてその先端からモビルスーツが飛び出してきた。
 トリコロールカラーにイエローが加わり、何時もの姿よりもより機械的な翼を持つガンダム。その名は……。


「う、ウイングか?」


 こちらが見ていることなどに気付かず、ウイングは空の遥か彼方へと消え去っていく。
 そこで魔理沙はようやくあの爆発の正体を理解した。

「おいおい、自爆かよ」

 以前宴の席でウイングが自爆しようとして、まさか本気ではないだろと考えていたが。
 マジでするつもりだったのか……。

 呆れつつ、魔理沙がそう思っているとちょうど煙の中から文が落ちていく姿を魔理沙は確認し、近づいていく。

 翼が動いていることから気は確かなようだ。

「とりあえずウイングにはグッジョブだな。おーいブン屋ー無事か?」

「ま、魔理沙さん……う」

「う?」

「うわーん、ウイングさんの自爆やばいです! 死ぬかと思いました! チョー怖かったです!」

「ああ……ありゃ怖いぜ」

 もし、自分が文の立場ならば漏れちゃうだろう。
 何が? とは聞かないでほしい、私も乙女だからな。
 魔理沙はもしもの恐怖に冷や汗を顔に浮かべながら泣き付く文を慰める。

「そういや、ヅダはどこまで行ったんだ?」

「ぐす、私の前を飛んでましたから。とっくに折り返し地点に着いてるかもしれませねブッ!?」

 突然、文の視界は激痛と共に暗黒に包まれた。
 まさか魔理沙がさっきの仕返しをしたのか!?
 ついそう思ったが、自分の顔に激突した何かを取り払った文は意外なものを見てしまう。

「…………」

 何やら青ざめた表情で自分のある一点を見つめる魔理沙に文はキョトンとしてしまう。
 どうしたのかしら?

 そんな顔をしているということは彼女が何かしたわけではないらしい。

「魔理沙さん、どうしたんですか?」

「ぶ、ぶぶぶブン屋。それ……」

 震えながらゆっくりと指された場所。それは自分の手元に--いや、手の中にあるものに対してであった。

 何だろう。魔理沙の態度に気圧されつつ、視線を自分の手に向けた瞬間。
 文は思考が停止した。

[ヅダの手]

「…………」

 サァーっと血の気が引いていく音が聞こえた。

「ど、何処からこれが--っ!?」

「あ、あれ!?」

 見慣れたモビルスーツの手、それが飛んできた方向を見遣った時。
 二人の少女は猟奇的な光景に遭遇した……。

[バラバラぁと降り注ぐ細切れになったヅダ(ウイングは関係無し)]

「「ギィャアアアァァァ!?」」





[15099] その7 3/3
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:54
 魔法の森、その上空で魔理沙と文の悲鳴が響いた頃。
 ウイングは森の中へ降り立ち、木々を避けながら歩いていた。
 途中、彼を止めようと死神が目の前に立ちはだかってきたが暴走状態の彼には敵ではなかったく--。

『待ちな、アンタぶひゃはらばっ!?』

 再びウイングの自爆に巻き込まれてしまったのだ。
 それからウイングはずっと幻想郷の空を飛んでいた。さっきも悪意を感じたので自爆したが。

「フフ、クフフ……」

 でこぼこ道を歩きながらボロボロの姿でウイングは笑い声を漏らす。
 その表情は白目でニヤついているという有様である。

 何故、ウイングがこれほど壊れているか。
 それはこの地、居候先である是非曲直庁に住んでからだった。
 自爆すればこっぴどく映姫にお説教される。ウイングにとっては少しやりにくい場所であったのだ。
 それに日課? のようなものをやって逐一文句を言われたくはないが一応は彼女が家主であることは理解していた。
 逆らっても仕方ない。
 自分でそう納得し、ウイングは迷惑をかけまいとここ何日か自爆癖を抑ていた。
 のだが……それがよくなかった。

 一日三食ならぬ一日三自爆。
 彼から自爆を無くしては個性が消え、陰が薄くなるのだ。
 ただでさえ幻想郷のキャラは濃いというのに……。

「映姫には悪いが……まだ自爆したりないな」

 鬱憤が少しづつ晴れていったことで冷静になりつつあったが、それでもウイングにはまだ物足りなさがあった。

「ごはん発見」

「…………」

「あなたは食べて良いのかー?」

「……ダメだ」

「そーなのかー、でもいただきます」

 突然、会った少女にそう言われ。彼女に噛み付かれそうになるが、ウイングは冷静に対処した。

[カチッ]

[[ドカァアアン!]]

 とりあえずは悪意を察知して景気良く自爆するか。
 そう考え、迷いの竹林にまで吹き飛び、地面に俯せでたたき付けられた時--。


「見つけましたよウイング!」

「っ!?」

 痛みから直ぐに身体を動かせられない状態で背後から声が届き、ウイングはビクリと身体を強張らせ、顔だけ振り向いた。
 そこには居候先の家主、映姫が両手を腰に宛がいながらこちらを見下ろしている姿があり。
 その傍にはデスサイズとサンドロック、先程自爆に巻き込んだ小町も居た。
 まずい! 今捕まったらまたお説教だ!

 映姫達が自分を捕まえに来たことを察し、ウイングは早く逃げだそうと暴れる。
 逃げなければ終わりが見えない迷路に強制突入するからだ。
 ウイングは身体を動かそうとするものの、度重なる自爆に身体はついてこれなくなっていた。
 起き上がるにも痛みで困難に等しい。

 どうすれば良い? どうすれば逃げれる?
 ……っそうか!

 咄嗟の閃きでウイングは直ぐに身体からアレを取り出そうとする。
 しかし--。

「小町、ウイングを擽って下さい」

「りょーかい」

「サンドロック、デスサイズ。ウイングから自爆スイッチを!」

「了解です」

「な、何をやひゃひゃひゃひゃ!」

 映姫に指示され、自分の背に跨がり。先程の礼と言わんばかりに身体のあちこちを擽る小町にウイングは耐え切れず笑い声をあげる。

「や、めふひひひろっはっはっはっ!」

 笑いによる身体の微弱な振動が自爆ダメージに深く響き、もはやウイングは抗うことさえ出来ず。
 デスサイズが自身から自爆スイッチを取り上げ、せっせとサンドロックの持つ二リットルのゴミ袋へ詰め込んでいく光景をただ見送るしか出来ない。


「映姫、これで全部みたいです」

「ありがとうございます、小町も。もう良いです」

「はい」

 映姫の声で、すっきりした表情で小町がウイングから離れ。デスサイズとサンドロックも彼女の傍に寄り添う。
 後に残ったのは笑い過ぎで灰になったウイングゼロだけであった。

 流石の小町も、やり過ぎた感が否めないがそれでも仕返しは仕返しだ。
 映姫の取るであろう行動を小町は期待を込めて待つ。

「三人はそのまま、是非曲直庁に戻って下さい」

「え、映姫様ここでお説教するんですか?」

 是非曲直庁ですれば良いのに。小町はそう思いながら疑問を口にしたが、映姫はゆっくり頷くだけ……。
 それ以上食い下がるわけにもいかず、仕方なく小町は映姫の言うとおりにデスサイズ、サンドロックの二人と是非曲直庁まで先に戻ることにした。


 竹林の中、二人だけになったところで映姫は柔らかな草が生い茂る地で正座し、膝の上でウイングを仰向けに寝かせた。
 [がんだにうむ]という凄く丈夫な身体だと聞くが、ウイングの身体は意外に軽く、しかも傷だらけ。
 気を失っている彼の顔を撫でながら、映姫は呆れ混じりに呟く。

「まったく、本当に厄介な性格ですね。あなたは……」

 こう思うのは何回目か数え切れない。たった数日前から居る居候だというのに。
 彼が起きたらうんとお説教しなければ。
 映姫は小さくそう決心する。

「うう……っ……」

 目を覚まし、まどろんでいた表情は映姫を視界に入れたことで驚きの色に変わる。
 この状況に対して、何が何だかわからない……といったことをウイングは考えているのだろう。
 しかし、とりあえず。とりあえず今彼に言わなければならないことが映姫にはあった。
 それは--。

「こんなにボロボロになって。
 いくらあなた達が丈夫に出来ていても限度があるでしょう?」


 怒っているような、哀しみが伴った複雑な表情を浮かべ、じわりとその目に涙を滲ませながらそう尋ねてくる映姫にウイングはいつもの冷静とは違い。
 気落ちして答えた。

「すまん」

「ええ、反省してください。(ボソッ 心配するじゃないですか……バカ」

「? 何か言ったか?」

「な、なな何も言ってませんよ!?」

 頬を赤く染め、あわてて答える映姫にウイングは不思議そうに見上げた。
 何で顔が赤い?

「ところで、気は晴れましたか?」

 紛らわせるように映姫はオホンっと咳込むが顔は赤いまま。
 ウイングは突っ込むべきか悩んだが突っ込んだら笏で叩かれそうな予感がしてしまい。ウイングは突っ込まず、映姫の質問に頷いた。

「まだあと六十二回ほど自爆したりなかった」

「なかった……ではもう良いのですか?」

「ああ、お前の涙を見たらやる気は失せた。
 お前が哀しむならオレはもう少し我慢する」

「っ!? な、ななな何を言っているんですか、当たり前です……あうぅ」

 咄嗟に出たウイングの言葉に映姫は耳まで顔を赤く染め、俯いてしまい。
 その様子をウイングは首を傾げながら見守った。そんな、大説教会への強制突入が少し遅れることとなったウイングと映姫のひと時であった。




   ◇おまけ◆   


魔理沙
「おい、シャズゴ!?」

 ムサイのブリッジで優雅にティータイムを過ごしていたシャア、ガルマ、レミリアの元に魔理沙と文が泣きながら駆け込んできた。

シャア(ズゴック)
「略すな! なんだいきなり」

レミリア
「あら、珍しい組み合わせね」

ガルマ(ドップ)
「どうしたんだ?」


「ヅダさんを助けて下さい!」


 そう言い、文が見せたのはバラバラになったヅダの残骸であり。首だけになってもモノアイを動かしているヅダにレミリアも少し驚いてしまう。


ヅダ
「やぁ、シャアにガルマ。レミリア嬢もご機嫌うるわっしゅ!」

レミリア
「きゃあ!? ば、化け物!」

シ&魔
「お前が言うな」

レミリア
「う、うるさいわね!? ちょっとびっくりしただけじゃない! ////」カァァ



「どうにかならないですか?」

 そこで文は今まで起きた出来事をシャア達に話した。
 突然通り掛かったウイングの自爆に巻き込まれたこと、直後ヅダがバラバラになって降り注いだこと。
 ウイングがヅダを狙ったのでは……と。
 そのウイングが自爆した云々につい傍にいたレミリアは呆れるのだが、シャアやガルマは動じることはなかった。

魔理沙
「おいおい、仲間がこんななのにそんな反応かよ?」

シャア
「いや、多分ウイングとは関係してないだろう」

ガルマ
「また空中分解した可能性が高い、なら修理すれば問題ないさ」


魔&文
「はっ?」

レミリア
「どうゆうこと?」

シャア
「そいつはウチのモビルスーツの中なら最高の加速度を持っている。だがあまり飛びすぎるとバラバラになるんだ」

ガルマ
「まあ、身体についた癖みたいなものだ」

レミリア
「く、癖なの?」

魔&文
「なんだそっかぁ」

レミリア
「え、納得出来たの!?」

ヅダ
「分解じゃない自己流整体術だ!」

レミリア
「バラバラになる整体なんて聞いたことないわよ!」



[15099] その8
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:54
 地霊殿。

 幻想郷の地底に広がる世界、そこにある館をそう呼ぶ。
 館主の名は、古明地さとり。
 見た目は物静かな少女だが、左胸の上にある[第三の目]で他者の心を読むという稀な妖怪であり……。
 相対する者には厄介極まりない能力とも言えたが、それが通用しない存在達がこの地霊殿で居候していた。

 それが[GP三兄弟]と呼ばれるフルカラー組でも癖の強い兄弟達である。


「そういえば、さとりに聞きたかったことがあるんだよ」

 昼下がり、さとりの部屋でさとりとテーブルを挟み。椅子に座るゼフィランサスがお茶を片手に口を開いた。
 聞きたかった……?。

 心を読もうと思えば読めるのだが、彼は何故か第三の目から眺める世界は真っ黒にしか映らない。
 だからさとりは直接ゼフィランサスに聞き返した。

「何でしょう?」

「さとりの能力って心を読むんだったよな……」

「えぇ、それが何か?」

「ある意味のぞき見? うっわ、ヘンタイさん!」

「すっげぇイヤですその捉えかた!」

 悪気無し? の笑顔でそう尋ねられ、珍しくさとりは動揺しながらゼフィランサスに突っ込みを入れた。


   ◇   ◆   


 ゼフィランサス達と知遇を得た時、さとりは不思議な気分になった。
 心を読む程度の能力、それは身も心も……すべてを丸裸にされる能力だ。

 故に人間、さらには同じ妖怪からもさとりは忌み嫌われてきた。
 だが、当たり前だ--と。
 同時に永き時の間を。ほの暗い地の底で生きてきたさとりはそれが常識と考えていた。

 なのに。
 ゼフィランサス、サイサリス、ステイメン。

 兄弟三人共、誰ひとりとしてさとりの能力に嫌悪感を抱かないのだ。
 それどころか凄いと言い、彼女を褒めることさえある。

「分からない……」

 心を読むことが出来るのに、彼らのことがさとりには分からなかった。
 無邪気な笑顔を見せ、無愛想でも気遣いをしてくれ、自分達と積極的に接してくれる。
 だからかもしれない。
 地霊殿に住む皆は彼ら三兄弟をはじめとした幻想郷に住みだしたモビルスーツ達と何時しか仲良くなっていた。

 何故だろう。

 それでも彼らを読み量ることが出来ずにいたさとりは宴の席でゼフィランサスとサイサリスに思い切って尋ねてみた。

※回想※

「何故、あなたたちは嫌がらないのですか?」

「嫌……って?」

「私に心を読まれても、あなたたちは私を恐れないし嫌がらない……それが私には分からない」

 神社の中。辺りがそれぞれ幻想郷の住人とフルカラー組で輪を作り、ドンチャン騒ぎをしている。
 そんな時、さとりは溜め込んでいた疑問を吐き出すように言った。
 その表情はいたって真剣であったが、ゼフィランサスはニコリと笑みを見せて答えた。

「あぁ、そんなことか」

「そんなことって……。まるでたいしたことがないような口ぶりですね?」

 思わずさとりはムッとしてゼフィランサスを見遣る。
 だが、それでもゼフィランサスは笑顔を崩さずサイサリスと顔を見合わせてさとりに答える。

「まるでも何も、オレ達兄弟--いや他のモビルスーツ(連中)もたいしたことないって思ってるよ。
 心を読まれるからどうしたの? だから何? って感じかなぁ」

「フン、まあこっちは下手したらガンタンクに撃たれるわ、死神に狩られるわ戦闘狂に殺られるとかだからな」

 ゼフィランサスから取り次ぐ形で腕を組みながら述べたサイサリスにさとりは漸く納得出来た。

 確かに彼は自分よりも反則かもしれない。
 だが、それ以前に彼らは穏やかなのだ。
 何があっても、何をしてものんびりと自分達の空間を共有し付き合っている。
 そう、それこそ幻想郷に通じる生き方だろう。
 当たり前のことにさとりはゼフィランサス達を前にして自嘲した。

 私としたことが……ダメね。


「じゃあ、早速さとりちゃんはガンタンクさんに撃たれてこよう」

「え゙っ!?」

 自分の肩に手を乗せ、顎でとある場所を示すゼフィランサスにさとりは驚く。
 示された先には博麗神社の境内で幻想郷の住人達を絶賛吹き飛ばしていたガンタンクが居る。
 砲撃によって夜空を待っている中には泣き叫ぶ鬼達や紅白の巫女すら見受けられる。
 おかしい、まったくおかしい。

「待って、何でそんな展開になるの!?」

「だってそれがオレらを知る一番の方法だし」

「えっ? えっ?」

 このままでは本当に連れていかれる。今だ微笑みを浮かべているゼフィランサスに悪魔の姿を彷彿し、さとりは顔を青ざめさせる。

「ちょっ、お前何言ってんだ!?」

 そんな彼女を助けるべくサイサリスは止めに入るが……。

「サっちゃんも邪魔しちゃったら、ガンタンクさんとこ連れてくゾ」

「サっちゃん言うな! まぁ、それならしかたないな」

「@∞Å☆℃√!?」

 語尾に[はあと]がありそうなゼフィランサスの言葉にサイサリスが同意してしまい、さとりは言葉にならない声をあげる。
 ちょ、ちょっと待って最後の良心!?
 と突っ込みたかったが、もはや絶望的状況は覆ることはない。
 どうやってもガンタンクによる吹き飛ばされルートにしか突入しない。
 さあさあと、ゼフィランサスに手を引かれ。ガンタンクとの距離が縮まるにつれ、さとりの顔に無数の玉汗が浮かんでいく。


 な、何とかしないと!?

「あ、お空! お燐! 助け--って何聞こえないフリしてるの!?」

 ふと、バクゥ達と戯れていた二人が目に留まり。声をかけたがペット達はそっぽを向き、耳を塞ぐ始末。
 さらに妹に助けてもらうべく妹の姿を探したが……。

「あ、こいしちゃんババ引いちゃったー」

「こいし弱ーい」

「弱くないもーん。ほら、もう一回!」


 ステイメンやV2達とトランプ遊びを通じて楽しんでいるこいしを発見し、さとりはもはや柔らかな笑みを浮かべるしかなかった。

 もう、ダメね……。

 全てを諦め、さとりは大人しくガンタンクの砲撃祭に参加する。
 そんな、ゼフィランサスの心くばりでさとりはまさに痛いほどフルカラー組という存在を理解した。

※回想終了※

 本当に--。

「怖かった……っ、ヒイィ!?」

 遠くでガンタンクの爆撃音が鳴ったような音を聞き、さとりは午後のティータイムを中断してテーブルの下へと潜り込んでしまう。
 あの砲撃以来、幻想郷でたまに地底にまで響く爆発音を聞くと、さとりは過敏に反応するようになっていた。

 今、ドカーンって聞こえた!?

 肩を震わせ、耳を手で塞ぐ彼女の姿にティータイムをご相伴していたゼフィランサスは椅子に腰掛けながらうんうんと頷き、述べた。
 もうばっちりオレ達を分かってくれてるなっ。

「ほほえましいなぁ」

「トラウマになってんじゃねぇか! いや、オレも責任あるが……」

 本当はコイツを吹き飛ばすべきなのではないのか?
 地霊殿の一室、同じようにお茶を飲んでいたサイサリスはゼフィランサスという名の腹黒悪魔に突っ込みを入れつつそう思うのであった。


   ◇   ◆   


 さとり達がそんな賑やかにティータイムを過ごしていた頃。
 こいしは空と燐を連れて人里に来ていた。
 理由はもうすぐ寺子屋が終わり、そこから帰ってくるステイメンを迎えに行く為である。
 あのまま、地霊殿で姉達と話していても退屈はしないがこいしにはやはりステイメン達と遊ぶほうが楽しく。
 いてもたってもいられず、こうして地上に出てきたのだ。

「あ~今頃、何してるのかなぁ」

 天空から注ぐ太陽を受け、背伸びをしながら言うこいしに燐は目を細めて笑った。

「多分、どっちぼうるをやってると思いますよ」

「ああ~どっちぼうるかぁ」

「え、何ソレ?」

 燐の発言に空は納得するが、二人の一歩前で歩いていたこいしは目を見開いて食いついた。
 そして、燐からドッチボールの詳細を説明され、途端にこいしは足早に歩き始めた。

「あ、こいし様ちょっと速いですよ!」

「何言ってるの? 私もどっちぼうるしたいんだから」

 空の言葉にアッサリと答え、こいしは速度を緩めることはせずスタスタと歩いていく。
 そんな妹様の行動を察する。
 多分、そんな聞いたこともない遊びを自分が居ないところでしているの!? と拗ねているのだな。
 そう思い、燐と空は互いを見合わせ苦笑して。
 こいしの後を少し早めに歩いた。



[15099] その9
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:55
 迷いの竹林。

 ここはその名の通り、迷ってしまう竹林である。
 補整された道など無くどう進もうとも……生い茂る竹に囲まれ、方向感覚さえも奪われてしまうのだ。
 故にここに入った人間はなかなか出ることが出来ない状況になる。そうなれば妖怪、妖獣などとっては絶好の狩り場だ。
 彼らに見つかった場合、もはや竹林を生きて抜け出すことはない。
 人間に火の粉を振り払う力があれば別の話だが……。


 現在、そんな竹林では[てぃたーんず]が本拠とし、リーダー・ジオは戦艦ドゴス・ギアにおいて日々幻想郷の征服プロジェクトを練っていた。


「ふふ、よく来られましたね」

 ブリッジ、その中でソファーに腰掛けながらジオは自分と同じように寛ぐ二体のモビルスーツへモノアイを向けた。
 目の前のテーブルに出されたコーヒーが入ったコップ。それを口元で傾けモビルスーツ達はコーヒーを楽しみ、言葉を話す。

「認められる為には一番の方法だろう」

「僕たちが求める世界の為に……」


「あなた達が求める世界? はて、なんでしょう?」

 二体の意味深な発言にジオは顎に手を沿えながら尋ねる。
 見た目はガンダム系だが、彼らが放つ雰囲気は明らかに自分達側……。
 いったいどんな悪巧みを考えているのでしょうかね。

 同じ? 悪役としてワクワクしながらジオは答えを待った。

「行くよ兄さん?」

「もちろんだアシュタロン」

 すると、モビルスーツ達はそれぞれ自分達に秘められた姿をジオに見せる。

 兄さん、そう呼ばれたガンダムは両手を伸ばして上半身の装甲を開き、三基の砲口をあらわにする。
 そしてもう一体のガンダムは甲殻類を思わせるような巨大なハサミを持ったモビルアーマーへと姿を変えるが。
 それはガンダム系モビルスーツというにはあまりに--。

「妖怪ガンダム」

 だった。

「「妖怪言うな!」」

 ガンダムとは言い難い姿、それを見たジオの直感的な言葉に二体のガンダムは泣きながら反論をユニゾンさせた。
 人里へ出向いてみれば自分達の姿を見た者達のほとんどがジオと同じ感想を述べていた。
 それだけならばまだ我慢出来たのだが、しまいに森とかへ入れば自分達と遭遇した人間は必ずといっていいほど血相を変えて逃げ出すのである。

 モビルスーツだー!
 と訂正しようとしてももはや聞いてくれさえしない。
 そんな扱いに二体はとうとうブチ切れ、自分達が妖怪でないことを示そうと思い。こうしてドゴス・ギアに訪れたのである。

「--つまりは、自分達が妖怪ではなくガンダムであることを知らしめたいということですか」

 かい摘まんで言ってみたジオにガンダム達はああと頷く。


「つまりはそうだ、申し遅れたが私の名前はガンダムヴァサーゴチェストブレイク。
 こちらは私の弟--」

「ガンダムアシュタロンハーミットクラブだ」

「うーん、どっちも名前が長いですねぇ……。面倒なんでスーパーモンスターブラザーズ、略してスモブってよ--」

「そっちのが長いわ!」

「ただ単に呼び方変えただけだろ!」

 呼びましょう。そう告げようとしたジオを兄弟は許さず、それぞれ装備されたビーム砲を直撃させた。


   ◇   ◆   


 妖怪ブラザーズがドゴス・ギア内でビームを放った頃、同じ竹林、別の場所では二人の少女によって熱いバトルが繰り広げられていた。


「妹紅死ねよやー!!」

「輝夜ブッ殺されなさい!!」


 方や焔を全身から滾らせ、方や[蓬莱の玉の枝]を手にして飛び交う……。
 闘い方はどちらも違うが、共通していることが有る。
 それは弾幕を通して互いに相手を殺したい願望を二人は抱き、さらに死ねない身体を持つ。
 ひょんなことから得た老いることも、死ぬこともない……いわゆる[不老不死]だ。

不死「火の鳥-鳳翼天翔-」

難題「蓬莱の玉の枝-虹色の弾幕-」

 炎の弾幕の中、妹紅から火の鳥が飛び出して輝夜を襲い。輝夜が出した七色の弾幕が妹紅を襲う。
 当たれば一発で相手を亡き者に出来る両者の弾幕だが二人は被弾してもものともしない。
 たとえ死に繋がる大怪我を負ってしまおうと二人には関係ない。不死なのだから……。

 だからこそ互いに心置きなく喧嘩が出来るのである。


「わぁー凄いですね」

「無理しなければ良いがな……」
 まるで逆戻りしているかのように傷が再生し、尚も飛び交う輝夜と妹紅。
 そんな光景を妹紅の保護者? として観戦しているターンA、慧音。

「やはり、月に居た頃よりも闘い方の磨きが増しているな」

「ここに来てから、ゲームよりもこれが楽しみらしいわ」

 輝夜の保護者として見据えるハリースモーと永琳がそれぞれ感想を述べる。

「でも、いろいろ言ってますけど--」

「何だか楽しそうだな」

 ターンA、ハリーの言葉に慧音と永琳は苦笑しながらそれもそうだろう、と頷く。
 暇があれば、妹紅を探し。彼女にあらゆる手段で罠を仕掛け怒らせる輝夜。
 罠に掛かっては炎と怒りを滾らせて飛び掛かる妹紅。
 互いに死ねと叫んでいても二人は身内に、聞いてよあいつったらね。と生き生きとした表情で言いだすのだから。

「今、それ・びーが有給休暇らしいから!」

「そうよ……だから!」

「「存分にあんたを殺るなら今しかないわ!」」

 脅威の無い時を楽しむべく妹紅と輝夜はスペカを掲げた。
 これで今日は片が付くな。今までずっと二人を見てきた保護者達はそう思った……のだが。

「っ!? し、師匠!」

「あれ見てアレ!」

 鈴仙とてゐの声が響き渡り。
「どうしたの二人とも?」

 張り詰めた空気をぶち壊した弟子達に永琳は呆れ、ため息をついて二人を見た。
 くだらない理由ならば後でお仕置きしなければならないが……。
 目を見開き青ざめた鈴仙達が空を指差しており、二人の見ている空を見上げ。


「っ!?」

 永琳は固まった。

 そこには普段見えることがないツインアイを輝かせ、背中から虹色に煌めく羽を広げているモビルスーツが……。
 こちらを嬉々として見下ろしていたのだ。
 虹色の羽、それは永琳の傍らで同じように空を見ているターンAも持つ[月光蝶]であった。

 旧知であり、そして月の都市で最強を誇る戦将。ターンAの叔父であり幻想郷においても生粋の戦闘マニア族に分類されるモビルスーツ、ターンXが……居た。

「輝夜逃げなさい!」

「あん? 何よ邪魔しないでよババァ!」

「ちょっ、輝夜!?」

 ナンテコトヲ! 永琳を除くその場にいた全員、相手をしていた妹紅でさえがそう思った時。辺りにはピキっ、と何かが切れた音が響いた。

「お、おい!」

 説得しなければならない。慧音がそう思い、永琳の顔を見たものの……。
 慧音は声を出すことが出来なかった。
 そこには見る者の神経を凍り付かせるような薬師の微笑む姿があったからだ。
 また、それをよく知る兎二人は恐ろしさから思わず大量の冷や汗を流して息を飲む。


「ターンX~」

「おう永琳! こいつらは小生の獲物なのかぁ? 楽しんで良いのかぁ?」

 嬉しそうに右手をワキワキさせながら聞き返すターンXに永琳は笑顔のままコクリと頷く。
 それは、殺れ。と言っているようであった。とその場に居た一同が後に語る。

「って、ターンXぅっ!?」

「な、なんで居るのよ!?」

「フハハハハハ! 退屈だったから遊覧飛行していたからな、盛大に接待してもらうぞおぉぉ!」

 永琳の言葉でようやくターンXが居ることに気付いた二人だが。
 彼女らの視界に映った時。すでにターンXは月光蝶をはためかせ、シャイニングフィンガーで襲い掛かる瞬間だった。

「絶好調である!」

「「ギャー!!」」





[15099] その10
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:55
 白玉楼。
 それは死者が暮らす冥界にあり、広大な敷地の上に建つ屋敷である。
 ぶっちゃけストライクノワールや怖がりなものからすれば行きにくい場所と言えるだろう。
 しかし、その屋敷ではマスターガンダムと風雲再起、ゴッドガンダムが同居していた。
 武闘家として、フルカラー組としても最強のマスター。
 そのマスターの愛馬である風雲再起。
 マスターの弟子であるゴッド。こんな猛者達と望めば修練できるのだ。
 白玉楼で庭師として務めに勤しむ妖夢にとっては最高の居候だろう。
 仕事が休みなら是非、足を運びたいです。と紅魔館の門番は熱く語っている。


 そんな環境で、妖夢は何時しかマスターに挑むという目標を掲げて今日も。日課であるゴッドとの手合わせに精を入れていた……。

「行くぞ妖夢!」

「お願いしますゴッドさん!」

 白玉楼の掃除を終えた昼下がり、その二人は桜の花びらが舞う中庭で相対していた。
 かたや拳、かたや刀だが幻想郷でそんなのは関係ない。
 そしてゴッドは天高らかに始まりの合図を言い放つ。

「ガンダムファイト、レディ……ゴー!」

「いや、私ガンダムじゃないですよ!?」

 突っ込みキャラとしてそこは言わなければならない。
 妖夢は刀を清眼に構えながら突っ込み、跳んだ。

「ゴオォッドフィンガー!! ヒイィット、エェンド!」

「グギャァアアァ!」

 始まったこの日の勝負、結果はゴッドフィンガーが妖夢の顔に入り、ゴッドのほうへ軍配が上がることとなった。

「うぅ」

「三分も保つようになって、すごいじゃない妖夢」

 勝負を終え、廊下にて様子を見ていた幽々子は関心し。とぼとぼ歩いてきた妖夢に告げた。
 あのゴッドから妖夢は二分以上も攻撃を回避し続けることが出来ていたのだ。
 幽々子の傍で見ていたマスターも自慢ではないが妖夢の成長を心地良く感じたが、そう答える妖夢はがっくりと肩を落としていた。

「避けることだけしか専念できませんでした。おかげで余り攻勢に出れず……」

 目標であるマスターに不様な姿を見せてしまった。と--。
 妖夢の心は穏やかではなかったものの。当のマスターはそんなことを気にしてはいない。寧ろ優しく思える。
 少しづつだが、妖夢は確実に進歩出来ているのだ。

「気落ちするでない、専念が出来、それを実行に移すことが出来るのであればやがて身体に馴染む。
 避ける眼があるならば次は攻めることが出来る。妖夢よ、貴様が全てを糧として実を付けた時、ワシは貴様の挑戦を喜んで受けよう。
 精進せよ」

「マスターさん……」

 腕を組みながら言ったマスターの言葉は妖夢の心を一気にほぐしていく。
 まるで、かつて自身に庭師の任を託し、今は見ぬようになった祖父がそこにいるような気持ちに妖夢はさせられた。
 師匠みたい……。
 と、眼前にいるモビルスーツに師の姿を重ね合わせ、妖夢は懐かしさと嬉しさからやわらかい笑みを浮かべて、はいと気持ちの良い返事をするのだが--。

「うむ、では妖夢よ。次はハイパー化したヤツから三分逃げ切ってみよ!」

「は?」

 マスターが告げた課題に妖夢は一瞬、彼が何を言ったのか理解出来なかった。
 はいぱー。はいぱーハイパー……。
 マスターの言葉の中に有った、恐ろしい用語に妖夢は考えを巡らせて考察する。
 そして。

 ハイパー化!?

「ムリムリムリ! 無理です死にますよ!?」
 妖夢が言葉の意味を理解した時、妖夢の行動は手合わせの時よりも機敏さがあった。
 顔の前でシュババッと手を横に振るリアクション。
 それはまさに懸命な命乞いであったが……。

「うおおぉぉ!」

「っ!?」

 雄叫びが轟き、視界の端で輝きが発し。まるで油を注していない機械が動くように、妖夢はギギギと輝きの源へ振り向く。
 そこには黄金に光り輝くゴッドが闘志を滾らせて立つ姿があった。
 今まで一度として永く保ったことのない相手の本気。それを眼の前にした時、妖夢はもう無理と言わず。
 楼観剣を下段に構えた。

 なるならなれ!

 今の自分がどれほどやれるのか良い機会じゃないか!

 恐怖を、苦手意識を振り払い。花あられの中で妖夢はゴッドを改めて見据えた。
 今度は、四……いや、三十分闘い抜いてみせる!

「行くぞ妖夢! ガンダムファイト、レディ……ゴー!」

「だから、私はガンダムじゃないです!」


 ゴッドの合図に律儀に突っ込み入れ、目標を掲げて再びゴッドへ跳ぶ妖夢の姿を幽々子とマスター、そして風雲再起はあたたかな眼で見守った。
 いかに達人とはいえ、急に凄き者にはならない。
 ゆっくりでいい、この桜が蕾をつけ、花開くように……。

「妖夢は強くなるわね、きっと」

「うむ、若人なのだから楽しんでこれからを歩めばいい。
 妖夢にはそれが出来るであろう」

「その妖夢さん、石破天驚拳喰らってますけど……」


 その日、妖夢は今までになくゴッドの技によって天高くまで吹き飛ばされていた。と救助にいった風雲再起は語る。


   ◇   ◆   


 白玉楼の空に温泉が沸き上がったような気の塊が昇った頃。
 天界では一機のモビルスーツが居候先において、家主の娘から毎日のように聞かされるわがままにじっと我慢していた。
 例えば……。

「髪を乾かすのに電気が欲しいわ、アンタ名前にサンダーって入ってるんだからドライヤー動かしなさい」や。

「あっついから扇風機動かしなさいよ。あっ、そっかアンタって電気出せないのよねサンダーって名前なのに」である。

 ひと昔前の自分であれば即座にブチ切れ、相手に装備されたキャタピラ足でドロップキックしてやるところだが。
 いくら天界に住む天人であっても相手は少女。逐一怒ったところでしかたないことである。
 サンダーガンダムは毎日、来る日も来る日も我慢し続けた。
 しかし、そんな今日。ついにサンダーガンダムは我慢--。

「じゃあ暇だからさ。アンタ、幻想郷にカミナリ落としなさいよ」


 出来なかった。

「いい加減にしろやバカ天人があああぁ!」
 今までは良い。電気はサンダーとは言わないのだから。
 しかし、今少女が口にしたのは間違いなくカミナリ=サンダーである。

 勘忍袋の緒が切れたサンダーガンダムは持ち替え用に貰ったジャイアントバズと自身が装備するガトリングガンをそれぞれ天子に放った。

「空気呼んで駆け付けてみました。どうしたんですかサンダーガンダム!? と衣玖は最近はまっている小説に出てくる某御坂妹風に慌てて話してみます」

 屋敷で響いた轟音を聞き付け、半壊した天子の部屋にやってきた衣玖は尋ねたのだが……。
 サンダーガンダムは血走った眼でこちらを睨み、ジャイアントバズとガトリングガンを構えて突っ込みを入れた。


「某の使い道違うだろおぉぉが!」

「ギャー!」

 ジャイアントバズの高い威力による爆発、ガトリングガンによる高速連射に衣玖は泣きながら逃げ回った。
 完全なる巻き添えなのに! と叫んだものの、我慢というタガが外れたサンダーガンダムには届かず。
 衣玖に出来るのは彼を止める為に電撃を使うことであった。

「仕方ないだっちゃ。と衣玖は某ラムちゃんみたいな語尾を使用しつつ、ため息まじりにスペカを構えてみます」

雷魚「雷雲魚遊泳弾」

 羽衣をまるでドリルを放つように巻き、そこから泳ぐ魚のようなカミナリの弾幕を衣玖はサンダーガンダムに放った。

「ぐああ!」

 衣玖のカミナリを受け、バリバリと身体中を伝う痺れにたとえ暴走状態といえど立ってはいられなかった。

「大丈夫ですか?」

 疼くまるサンダーガンダムへ歩み寄り、衣玖が心配して普通に声をかけるとサンダーガンダムはああと答えた。

「……手間かけさせた」

「いえ……」

 すまなそうに告げるサンダーガンダムに衣玖は顔を横に振る。
 居候してきたばかりで、これまでよくぞ総領娘様のわがままに耐えれたものだ。
 半壊した部屋は、まあ何とか出来るでしょう。
 そう言うように衣玖は苦笑いを浮かべ、その総領娘様が見当たらないことに気付く。

「そういえば総領娘様は……?」

 サンダーガンダムによって悲惨な状態になった天子の部屋、そこは瓦礫やらなんやらで簡単には部屋の主を見つけることは出来ない。
 もしかしたら蜂の巣になったところをあのバズーカで吹き飛ばされたかもしれない。
 そんな発想からグロい光景が頭に浮かび、衣玖の顔はやがて青ざめていった。

「そ、総領娘様ー!?」

「もー、チョー気持ち良い!」

「「は?」」

 眼の前の瓦礫から突然飛び出して嬉しそうに叫んだ天子に衣玖とサンダーガンダムは思わず聞き返した。

「ねぇ、サンダーガンダム……」

 そして、手を後ろ手に組んで俯き。うわ目使いでモビルスーツの名前を熱っぽく呼ぶ天子の表情から衣玖は察した。
 スイッチ入っちゃったー!

「な、何だ天子?」

「ダメですサンダーガンダム、逃げ--」

「もっと撃って! 私を楽しませて!」

 頬を紅潮させ、輝く瞳で自分を捉えてそうほざいた天子を受け。
 ゾクリとバックパックに流れた冷たいなにかを感じたサンダーガンダムは衣玖の言葉を理解して直ぐさま逃げた。

「総領娘様、サンダーガンダムは渡しません!」

「ちょっ、邪魔しないでよ衣玖! あ、待ってサンダーガンダムってば! 私を撃って罵って踏み付けて感じさせてよ!」

 なに、このキモい娘。

 珍しく恐怖を抱いたサンダーガンダムはただそう思って屋敷から飛び出していった。
 その日を境に、屋敷に戻ったサンダーガンダムはそれから毎日いたぶってとおねだりしてくる天子から必死に逃げ回らなければならない生活になってしまったそうな。



[15099] その11 1/2
Name: タクラマカン◆f9bd959d ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:56
 幻想郷に妖怪の賢者ありけり……。それはこの郷に古くから関わり、管理してきた妖怪のことを示す。

 妖怪の名は八雲紫。

 ありとあらゆる境界を自在に操る能力を持ち、全ての世界から幻想郷を隔離し、今日までの在り方を成した。
 そして現在、さらなる種であるモビルスーツ達を招いた一人でもある。
 どうして彼らを招いたか……。それは友人であるガンタンク、そして彼の友人達に愛するこの地を見てもらいたかったから。というのが第一の理由だった。
 何人かは自分よりも強く、自分よりも頭の回転が速い者がいるが、彼らなら大丈夫だろうし、彼らには気に入ってもらいたい。
 そんな紫の願いは、二人のモビルスーツが自分の元で居候するようになって叶うこととなる。
 そのモビルスーツ達は、かつてれんぽーのホワイトベースで住んでいたストライクノワールとスターゲイザーであった。


「藍さまのバカっ!」

 けたたましい音と共に式神が一人、屋敷から飛び出していく。
 燈! 驚いた狐がそう叫んだ時には猫の姿はもう豆粒ほどであった。
 どうすれば良いのだろう。今からでも追い掛けたかったが、燈の放った食器や家財道具をまともに直撃した狐には直ぐに行動する力はなく。
 あっという間に道具に埋もれ、そこから狐は苦しげに燈の名を呼ぶが……もはや狐に意識を保つことは出来なかった。

 そして。

「おい! どう--」

 ちょうど廊下で騒ぎを聞き付け、ノワールが慌てて音のした部屋に足を踏み入れ瞬間。
 道具の山から飛び出た力無い八雲藍の腕という不気味なオブジェを目撃し--。

 う~う、きっと来る。きっと来る~♪

「キャアアァァ!」

 あまりの恐怖映像に思わず某ホラー映画の主題歌が脳内で再生し、ノワールは少女のような悲鳴をあげてしまい。
 そこに寝ぼけ眼の


   ◇   ◆   


 八雲邸で意外に甲高い悲鳴があがった頃、スターゲイザーはとある森にいた。
 そこは魔法の森ではないものの、妖怪や妖獣といった類が暮らしているからか人気は少ない場所である。
 しかし、人気がなくてもスターゲイザーには関係の無い話となる。その理由はもちろん、彼がモビルスーツだからだろう。
 並大抵のもののけならばスターゲイザーでも逃げることはたやすい。
 スターゲイザーはそんな森の中、一本の木の根本に腰掛け、手元で開いている本を黙々と読んでいた。
 何もわざわざ此処で、と言ってくれる者も居たのだが、スターゲイザーは本を読むのにあまり場所はこだわらない。
 強イテ言ウナラ静カナ場所デアレバ良シ。といったところであろうか。
 それが当て嵌まるのなら、居候先の八雲邸でも野外でも構わない。

 これはスターゲイザーと同じ本好き仲間であるゼータ、霖之助やパチュリーも考えていることだったりする。
 そして今スターゲイザーが読んでいる本は友人の一人である霖之助から借りたものだ。

 沙悟浄ガ、三蔵一行ニ加入シタ……。

 西遊記、別名「おサルとおハゲとおカッパとおブタがカレー王国を目指して織り成す珍道中」と呼ばれる? 名作の表紙という入口を開き、読み出した途端にスターゲイザーは心を奪われた。
 子供の胸躍らせる冒険、スペクタクル、そしておサルとおカッパとおブタによる火曜サスペンス劇場。まさに名作として殿堂入りしていることに間違いはない。
 コレガワクワクサンドキドキトイウモノナノデショウカ。物語の序盤を読んで読む手を止め、スターゲイザーはふと胸に手を当てて思った。
 胸部、ソノ奥底ニアルノハタダノ機密回路……。


 Pii!

「?」

 突然頭部に鳴り響く音でスターゲイザーは考える動作を中断した。センサーが自分の周辺に誰かが現れたと捉えたようだ。
 しかもこの信号は……。本を閉じ、バックパックに収納してからスターゲイザーは立ち上がる。
 頭に流れ込む信号は”丸に橙の印”即座に知り合いだと確信し、スターゲイザーは辺りを哨戒し始める。
 信号の位置から徐々に距離を縮め、そしてスターゲイザーはひとつの大木を前に足を止め、声をかけた。

「橙サン--何故泣イテイルノデスカ?」

 コンニチワ。本来、こう言うのが行動として当たり前である。
 だが、そこで脚を抱えてしゃがみ込み、涙を流している知り合いを見てはこちらの発言が正しいのだろう。よくわからないが、スターゲイザーはどうしてか間違っていないと確信を持てた。


「あ、スターゲイザー……」

 にゃあ。

 泣き腫らした顔と、赤い服を纏った衿元から鳴き声をあげて見上げる子ネコの姿を捉えた瞬間。スターゲイザーは理解した。
 橙は化けネコ、その化けネコから子ネコが出てきた。つまり--。


「あ、あのねこの子は--」

「橙サンガ、オ腹ヲ痛メテ産ンダオ子サンデスネ。ワタシ興味アリマス」

 という公式がなりたつのだが、スターゲイザーの発言に橙はまず意味を理解できなかった。
 やがて、頭の中で言葉の意味を咀嚼し、吟味した途端に橙はぼんっと顔を赤く染める。
 お腹を痛めたって……もしかして妊娠したって勘違いしてる!?
 し、ししししかも私に興味があるって!?

「ち、違うよ!?」

「ソウナノデスカ、スイマセン? デハ、ドウ違ウノカゴ説明クダサイ」

「え、えっと、そそそそれは……この子は私の子供じゃないの」

「ナラ誘拐デスカ?」

「ちがうちがう!」

 おそらくはスターゲイザーの知的欲求による純粋な反応なのだろうが。
 橙にはその純度の高い目で見られながら、というのがちょっとした拷問のように思えてならなかった。
 吃りつつ、橙は先程八雲邸でおきたことを包み隠すことなくスターゲイザーに話した。
 それは橙が毎日の日課にである散歩をした時、道端で橙は「拾って下さい」と書かれた紙が貼り付けられた厚紙の箱を発見した。
 何だろうと思いその中を覗くと、白い手ぬぐいが敷き詰められた底でにゃあと鳴くこの子が居たのだ。
 同じネコとしてほっとくわけにもいかず、子ネコを拾い。
 そのまま帰ってすぐに藍に飼えないか相談したのだが、藍は首を縦に振ることなく、ダメだの一点張り。
 橙としては子ネコを見捨てておくことはできない。
 藍としては、まだまだ子供に変わりない橙には命を育てることの大変さを分かっていないだろう。
 互いに考えを譲らず、話が延長戦に持ち込まれた時。橙は我慢の限界を越え、怒鳴るとともに飛び出してしまったのであった。
 藍様があんなに分からず屋だなんておもわなかったとか、藍様の薄情者だとか、色んな悪口を此処に来る間も考えた。
 それは、これまでの八雲藍と橙の仲睦まじい姿を見てきた者からすれば、想像がつかないだろう。

「藍さまがあんなかただったなんておもわなかった……」

 経緯を語り、再び憤りを感じた橙は子ネコの頭を撫でる。しかし、スターゲイザーにはそう呟く橙の表情が哀しんでいるようにも見えた。
 自分にできることはないだろうか? 何をしてあげれるだろうか?
 スターゲイザーは瞬間的に考察し、口を開いた。

「橙サン、今アナタガ言ッタコトデスガ。ヒトツ気ニナルコトガアリマシタ、質問シテモイイデショウカ?」

「え……あ、うん」

 何だろう。一瞬考えてみたが、橙にはスターゲイザーが何に疑問を抱いたか分からない。とりあえず橙はスターゲイザーに発言の許可を出した。

「藍サンハ捨テテキナサイ、モシクハ戻シテキナサイト言イマシタカ?」

「……え」

 スターゲイザーの言葉に橙は反応が遅れた。
 今まで自分の意見ばかりを主張していたからか、そんなことを言われるなど考えもしなかったのである。
 それによくよく思い返してみればスターゲイザーの指摘したことは間違えていなかった。

「そういえば藍さま……全然そんなこと言ってない」

「コレハワタシノ推測デスガ、オソラク藍サンハ命ヲ飼ウトイウコトノ大変サ、ソレヲ橙サンガ本当ニ理解シテイルカ確認シタカッタノデハナイデショウカ?」

「あ……」

 スターゲイザーの尋ねた言葉、それを聞き、橙はようやく藍が自分に何を伝えたかったか分かったような気がした。
 式神としても、妖怪としてもまだまだ幼い。だから、なおさら藍は自分とこの子ネコを心配していたのだろう。
 心構えを教えたくて、だから藍は小言のように厳しく自分に接していたのだ。
 にもかかわらず頑なに拒み、話を最後まで聞かないで自分は……。と橙は自責から身体を震わせ、ぱちりと開いた目から徐々に涙を滲ませた。

「私、わたし……藍さまにひどいことしちゃった、謝らなきゃ」

 ボロボロと泣く橙の姿に子ネコも心配そうに橙を見上げた。
 いったい何が起きたのだろう。怒ったり泣いたりする拾い主に気が気でいられないのである。
 そしてスターゲイザーは顔を伏せて泣き声をあげる橙を呼び、反応した橙の、涙で濡らした顔をハンカチで優しく拭う。
 生まれたばかりのまだまだ世間知らずの心だからこうゆう時、どう対処すれば良いかどうかのマニュアルなどない。
 それなのに、何故かスターゲイザーには橙をそっとしておくことは出来なかった。気がついたら自分はこうして彼女の涙を拭いているのである。

「ずだあ゙げい゙ざぁ~わたしぃ、わたしらんしゃまにぃ」

「橙サン、藍サンニ謝ッテモウ一度ヨク藍サント話シ合ウベキデス。
 ソウヤッテアナタガ泣イテハソノ子モ心配シマス」

「すんっ、そ、そうだよね……」

「ソレニ」

「?」

「ワタシ、橙サンニハ笑顔ガ一番似合ッテイテ可愛イト思イマス」

「ふえ…………ふにゃあっ!?」

 にゃあ。

 純度百パーセントの目でこちらを見つめながら言ったスターゲイザーの発言に一瞬理解できなかったが、橙はすぐに言葉の意味を認識し顔を赤く染める。
 つられる形で子ネコも鳴いている。
 恥ずかしい……。しかし橙はまさかスターゲイザーにそんなこと言われるなど考えもしなかった。
 どう答えてあげたら良いのだろう。嬉しさが最優先され、橙は返事を選ぶのに四苦八苦した。

「す、スターゲイザーその……あの私」

「橙サン」

「は、はい!」

「行キマショウ、ソノ子ノ為ニ」

 差し延べられたスターゲイザーの手を橙は頷き赤い顔のまま握り立ち上がる。
 まるで何時か読んだ本に出てくる王子様みたい。そんなイメージが頭に浮かび、橙はつい吹き出してしまう。
 そうだ、スターゲイザーが言うように今私がしなきゃいけないことは藍様ともう一度話し合うことだ。

「帰ろ、スターゲイザー」

「ハイ」

 意を決した橙はスターゲイザーと手を握ったまま子ネコを抱え、急いで森を抜けていった。
 今一度、大事な主と腹を割って話をする為に……。



[15099] その11 2/2
Name: タクラマカン◆f9bd959d ID:ee60a56e
Date: 2010/04/02 23:57
 スターゲイザーと橙が子ネコを連れて森を抜けている頃。
 マヨイガにある八雲邸では、橙が飛び出してからすっかり意気消沈した藍と、それを慰めるノワール、紫の姿があった。


「ああーどうしよどうしよ橙が出ていってもう戻らなかったら私はどうすれば良いんだ」

「藍、落ち着け」

「ノワールの言う通りよ、少しは冷静になりなさい」

「はっ! は、はい」

 橙の攻撃? で不気味なオブジェと化していた藍を二人が助け出し、めちゃめちゃになっていた部屋を片付けて事のいきさつを説明してからというものの。
 藍が落ち着くことはなく。
 顎に手を沿えて、ぶつぶつ呟きながら部屋中を歩き回り、それをノワールと紫に宥められて座る。
 そしてまた良からぬ想像をしては立ち上がっては宥められて……と繰り返していた。

「また、何か考えているな(ボソ」

「まあ、橙のことが大事だからね。仕方ないわ(ボソ」

 怖がりで本来ならば泣きながら逃げ回るノワールであったのだが、マヨイガで厄介になり。幻想郷で暮らすようになってからはすっかり慣れていた。
 むしろ、こんな有様を見ては妖怪への恐怖心が薄れてしまうのも無理はないかもしれない。
 こうやってノワールが紫と小声で話しをするのもよくある光景であった。

「ところで今日、あなたはトリコロールカラーなのね」

「エールストライカー付けてるからな、どうだ?」

「ふふ、そうね明るい色のアナタも悪くないわ。フルカラーなだけに」

 扇子で口を隠しながら微笑む紫に、ノワールは思わず見取れてしまいそうになる。
 こいつ、水木先生が描いたらどんな姿になるんだろう。
 先ずは顔は老婆に描かれ--。

「誰がしわくちゃで歯が何本も抜けててしかも「美味そうな子供じゃ」って言いながら包丁振りかざす老婆よ!?」

「そこまで言ってない!」

 鋭い視線でこちらを睨む紫にノワールはひとの心を読めるのか疑いたくなる。
 --が長く生きているらしいから心理戦? も出来るのだろう。
 心労する藍を余所に、ノワールはスキマから放たれる列車から逃げ回った。
 ソードストライカーや、何時もの装備なら簡単に斬ることが出来るのだが、いくらモビルスーツとはいえ轢かれたら洒落にならない。


「まったく、怖がらなくなったは良いものの。アナタ、失礼なこと考えるのね」

「いや、どのみちおまえ達みんな水木先生が描いたらろくな姿にはならないぞ」

「そんなことっ…………」

 ノワールにそう言われ、紫もなんとなく水木先生が描いた自分や魔理沙とかパチュリーなどを想像してみるものの。

「くっ、あるわね」

 ノワールの意見には同意せざるを得なかった。
 何よあの、薄気味悪い老婆集団は……。

「だろ?」

「その勝ち誇った顔腹立つから止めなさい、じゃあアナタ達を大河原先生やカトキ先生が描いたらで対抗して差し上げる!」

「わっ、バカ止めろ!」

 紫は想像した。大河原先生やカトキ先生が描いたリアル等身のガンダム達を--。

「…………ごめんなさい」
 何よこの差!?
 頭に浮かんだ、カッコイイだけでは説明のつかない姿をしたガンダム達に完全なる惨敗をきっし、紫は崩れ落ちる。
 そんな紫を前に、ノワールは考えた。
 こうゆう時、どう声をかけてやれば良いか……。
 泣き崩れる紫の肩にノワールは何となく手を置いて述べた。


「無茶しやがって」

「止めて! その可哀相なひとを見る目は止めて!」

「藍様!」

 突然。玄関から、紫達の居る部屋まで三人にとって聞き覚えのある声が届いた。
 橙? 紫とノワールはこの声の主が誰であるかわかった時、すでに藍は部屋に居なかった。


   ◇   ◆   


 空気が張り詰めていた。
 藍と橙。どちらから話を切り出すか……。
 紫、ノワールとスターゲイザー。そして子ネコはスターゲイザーの腕に抱えられながら、二人の様子をただただ見守るだけだった。
 ドクドクと、鼓動の音が何時にもまして頭に響き。畳の上で正座し、藍も橙も話をしようと口を開くが、互いに顔を見合わせては口を閉じ……俯いてしまうといったことを何度も繰り返していた。
 そして、この緊張した空気の中、口火を切ったのは橙からであった。


「藍様……さっきは藍様の気持ちも考えないで、わたし……私ひどいこと言ってしまいました! ごめんなさい!」

「いや、私も説明不足だった。あれでは私が橙の立場でも同じことをしていたかもしれない、すまない」

 説明不足。それがいったい何を示しているか、橙はスターゲイザーに言われていた為、藍が何を言いたかったか理解していた。
 しかし、藍が伝えたかったことは少し違っていた。

「橙、その子の面倒はちゃんと見るんだぞ?」

「……え!? 良いんですか?」

「その子の為にお前は私に怒りを見せた……あれを見て橙が本気だと分かったんだ。
 私にはもう、反対する余地はないよ」

「藍様……」

「ただしだ、私も世話は手伝うよ」

 ウインクをして優しげな笑みを浮かべてそう告げた藍に橙の表情は晴れ渡り、嬉しさのあまり藍に抱き着く。

「こ、こら橙」

 藍は慌てながらもしっかりと橙を抱き留め、叱っているものの、その表情には笑みが溢れていた。
 そんな、すっかり何時もの仲に戻った八雲家の風景に紫は扇子で口元を隠しながらホッと、安堵の表情を見せ、傍らに居るスターゲイザーに声をかけた。

「橙を説得してくれたこと、心からお礼を言うわ。ありがとう」

「イエ、ワタシハタダ、橙サンニ予想シタコトヲ教エタダケデス」

 謙遜しなくても良いのに。紫とノワールはそう思ったが、口には出さない。
 こう言ったら、スターゲイザーはなかなか聞かないところがあるのだ。
 しかし一方でスターゲイザーは不思議な感覚に包まれていた。
 胸に抱く子ネコと遊んでいるからだろうか。

「何故デショウカ、藍サント橙サンガ仲直リ出来タ姿ヲ見テイタラ、身体ノ奥ガ……ナンダカポカポカシマス」

「ふふ、そう……」

 ノワール達よりも感情が豊かでないからか、スターゲイザーは今の気持ちが何であるか言葉で表すことが出来なかったが彼の言葉には素直さがあった。
 その素直が紫には何とも心地好く思えてしまう。
 やはり、彼らを呼--。

「か、痒い! なんか良い話臭くて痒いぞスターゲ--」

 空気をぶち壊しにするノワールをスキマ送りにして、紫は優しげに微笑んむ。
 やはり、彼らモビルスーツを幻想郷に呼んで間違いはなかった。
 あたたかな心地の中、スターゲイザーに抱かれる子ネコの頭を優しく撫でながら紫は改めてそう思った……。
 そんな、スキマ妖怪のとある一日であった。





[15099] その12
Name: タクラマカン◆f9bd959d ID:ee60a56e
Date: 2010/04/14 00:50
 ムサイ。
 数日前から霧の湖近くに停留している、じおんのそら豆色の戦艦であり。
 また、この地には紅魔館という赤い悪魔の姉妹が住む洋館がムサイに隣接して建っていた。
 はじめ、じおんのメンバーが紅魔館に訪れた際には、いろいろと騒動が起きてしまい。館に住む者や館で雇われている者ともどもがムサイでの暮らすこと余儀なくされてしまった。
 しかし、館が住めなくなった訳ではない。
 ただ、館主の妹フランドール・スカーレットが自分の地下部屋で遊んでいた為に流れ弾ならぬ流れビームが真上に放たれ。おかげで上の階層にあった館主レミリアの部屋、果てには屋根まで……風穴を空けてしまったのである。
 夜はまだしも、吸血鬼であるスカーレット姉妹には太陽が昇っている間は居づらい家と言えた。
 そんなこともあり、シャアから「紅魔館が修復するまでしばらくの間はムサイに住むと良い」という提案を受け、レミリアは妹達とともにムサイへ移り住むことにしたのであった。


      ◇       ◆     


「いろいろとあったわね……」

 とある昼下がり。シャアから与えられた部屋で、レミリアはテーブルを前に椅子に腰掛け。 傍にいた咲夜が、そうですねと苦笑して答えると。

「あなた慣れすぎよ」

 レミリアは拗ねた表情で咲夜を睨み、手にしていたティーカップを傾けて紅茶を飲む。
 咲夜の淹れるお茶の美味しさを認識しつつ、レミリアはまた思い出す。
 このムサイで生活するようになってから遭遇した出来事、その日々を綴って--。


 先ず挙げるのはスローネ三兄妹と、我が親愛なる妹フランが毎日の如くバトルを勃発(や)っていることであろうか。
 フランが禁忌「レーヴァテイン」を発動するならば。
 スローネアインはランチャーをぶっ放し、ツヴァイは[ファング]とかいう赤い光刃を放つ妙なナイフを飛ばし、ドライは赤い光翼で相手の感覚を狂わせる。
 よく、ファングを頭にぶっ刺したままの門番が泣きながら助けを乞いねがってくるがどうでも良いので無視するが。
 ただでさえ住むところが限られるから毎日は勘弁してほしい。
 もっとも、ムサイはそういうバトルに耐えられるよう造られていると聞く。
 何でもギャンが戦艦内部にトランスフェイズやらIフィールドとかいうものを全体的に張り巡らせているらしい。
 胃に穴が空きそうになるから、そういう便利な話は先にしてほしいものだ。
 もちろん、紅魔館にもそういう装備を回してもらうよう要請はした。

 その次、レミリアが思い出したのは[夏]について暑苦しく語ってきたゴッグである。
 水陸両用ということは理解していたが、レミリアもまさか五時間も海がどうだかの話をされるとは考えていなかった。

 通り掛かりに話してたズゴックとアッガイの「そういえば幻想郷って海が無いらしい」の一言でゴッグが放心状態になったから助かったけど。
 屋内に居るというのに灰になるかと思わされたわ……。

 他にも--あら。
 何だったかしら?
 けっこう大事なことなんだけど……まあ良いわ。
 他にもいろいろとあり、思い出してみれば呆れが止まらないが。今ではちょっとだけ慣れたものである。
 もう何が起きようと驚くことはない。
 ララァの存在や、魔理沙とビグザムがマスタースパークと大型メガ粒子砲を撃ち合ったり。
 ギャンの変な技術力とか……まぁ、うん。慣れた。

 どたばたした毎日が不思議と嫌でないことを悟り、苦笑を浮かべたレミリアは空になったティーカップをテーブルの上の受け皿へ置く。

「お嬢様、お茶のおかわりはいかがでしょう?」

「ん……」

「レミリア」

 そうね、もらうわ。親愛なる従者にそう答えようとしたところで、部屋のドアをノックしながらレミリアを呼ぶ声がした。
 声の主、これは自らの友であり紅魔館の頭脳である魔法使いで間違いない。
 じおんからザク達や、雇っている妖精達を従え。その紅魔館の修復を彼女はしているはずである……。
 そう考え、レミリアは用件を聞くより先に彼女に入室の許可を出した。

「休憩中のところ失礼するわ」

「そうね、そんな休憩中のところで私に会いに来たんでしょうから……館の状態はどうなのパチェ?」

 パチュリーにそう尋ねつつ、レミリアは咲夜に目配せでお茶のお代わりを要求する。

「ええ、修復の進み具合を報告に来たわ」

 テーブルの空いていた椅子に手をかけ、レミリアと相対する形でそこに腰を降ろしたパチュリーは目の前にティーカップを置いた咲夜にありがと、と告げた。

「で、昨日見た限りならあと一日といったところかしら?」

 再びティーカップを持ち、補充された紅茶のあたたかさを楽しみつつレミリアがパチュリーにそう聞き返すとパチュリーは顔を横に振った。

「修復は完了したわ」

「あら、早いじゃない」

 早く仕上げなければ、あなた五月蝿いし、とパチュリーは内心でそう思いつつ。
 少し驚いた表情を見せるレミリアにまあねと告げて紅茶に口をつけた。

「ありがとう。よくやったわ、パチェ」

 紅茶を一口飲み、ふぅと一息つく友の姿に。レミリアは頑張って修復作業に取り掛かってくれていたことを察する。
 さすが紅魔館の頭脳。動かない大図書館。本の蟲。幻想郷のブック〇フ。知識バカと言われるわけだ。
 
「何故かしら……急にあなたににんにく投げつけたくなったわ」

「ごめんなさい」

 ま、まあ、間違ってはいないのは確かでしょ。
 ジロリとこちらを見遣るパチュリーにレミリアは引き攣った笑みを浮かべ、わざとらしくさあと答えた。

「なら、これを飲んだら見に行くとしましょうか」
「畏まりましたお嬢様」

「じゃあ、私はギャンに少し用があるから」

「ええ、わかったわ」

 休憩を早々と済ませ、パチュリーと別れたレミリアは咲夜を伴ってムサイを出ることにした。
 るんるん気分で借り家から日傘をさして自分の館を目指す、レミリアは楽しみから鼻歌を鳴らし。さらには両の瞼を閉じていた。
 こうして紅魔館に帰れる日を待ちに待ったのだから、せめて楽しみを倍にして味わうべきだろう。
 赤い悪魔は目を閉じたまま、上機嫌で咲夜に尋ねた。

「さあ、咲夜。直った紅魔館は主である私に相応しい姿になっているかしら?」

 主の尋ねに咲夜はどう答えて良いか分からず、少し間を置いて答える。

「…………そ、そうですね。素晴らしい? 姿にはなってます」

 パチュリーの言った通り、咲夜の見上げる先には確かに完全に復元出来た紅魔館がある。しかし、以前とはちょっと違うのだ。
 もっとも、主がとあるモビルスーツに勝負で負けた際。主がそうなっても良いと決めたからであるが。


「ふふ。さあ、見せてもらうわよ……紅魔館の復活した様式美とやらを」

「お嬢様、何だか赤いあのひとみたいなセリフですが……」

「良いのよ、一度言ってみたかったんだから」

 咲夜の突っ込みに気を良くし、不敵な笑みを浮かべ。そう言ってレミリアはゆっくり目を開ける。
 自分があるべき正しき居場所、紅魔館にただいまと言うべく--。

「そうそう、全体的にたらこ色で屋根にはツノが一本--生えてないわよ!」

 びしりと繰り出されたレミリアの突っ込みの手、その延長線上には。
 とある赤いモビルスーツのような彩色を施され、しかも屋根の上には天高々とツノが立つ紅魔館があった。

「な、なななな何でこんなのになってんのよ!?」

「え?」

 何そのプリンにしょうゆをかけたらウニになるという話を今はじめて知ったようなリアクションは。
 混乱する自分をよそに、かなり意外そうな反応を示す咲夜にレミリアが問いただした時。

「何か知ってるなら教えな--」

「おお、ようやく直ったようだな」

 そこに赤いモビルスーツの声が届き、レミリアは眦をあげてぐりんとそちらへ振り向く。

「あんた!? あんたね!? 良い? 私の紅魔館はおまえ専用じゃないんだから!」

「は?」

「っ~~! ブタバナ顔で、この紅魔館と同じ赤色をして、同じようなツノを頭に生やしたモビルスーツが関係ないなんて言わせないわよシャア!」

 またもや意外そうな反応を受け、レミリアはつい頭がかーっと熱くなって叫ぶが。反対にシャアは冷静な顔をして答えた。

「おととい、おまえは私にチェスで負けただろ?」

「はい?」

 めらめらと燃え上がって日傘の下からびしっとシャアを指していたレミリアであったが。
 あのなと呆れた顔で答えたシャアの言葉によって怒りの炎はふっと鎮火してしまう。

「そうですよ、お嬢様たしか「私が勝ったらシャア、あなたのツノを取って私に付けるわ。でも、もし私が負けたら……紅魔館を赤くするなりツノ付けるなり自由にしなさい」とおっしゃってました」

「え……あ、ああああああ!」

 さらに説明を付け加えた咲夜の声にレミリアはようやく、紅魔館がこうなった原因を思い出した。
 おとといの晩に宴を開き。酒を飲んでいい気分の中でレミリアはシャアにチェスで勝負を挑んだ。
 しかし、勝負するだけでは面白みに欠ける。
 考えた結果、レミリアは咲夜が言った担保を設け、自らのカリスマレベルをアップさせる為にチェス盤に臨んだが……あえなく返り討ちになってしまったのだ。
 それこそ先刻、紅茶を飲んでいた時に思い出そうとして分からなかった”ひっかかる何か”だった。


「す、すっかり忘れてたわ……」

「さ、というわけでレミリア」

 モノアイをニヤつかせ、優しげに入館を促すシャアにレミリアは訝しげに聞き返す。

「な、何よ?」

「シャア専用赤魔館へようこそ」

「っ--」

 嫌よ! とは自分のカリスマにかけて言うわけにはいかず。
 レミリアはどうにかしてもらおうと目で咲夜に助け舟を懇願した。しかし……。

「赤くて通常の三倍の紅魔館……けっこうカッコイイですね」

「HAHAHA、だろう。紅茶セットとかも赤い仕様だぞ?」

「まあ、素敵! 通常の三倍お茶が楽しめますね」

「いろいろとなんでよ!」

 何故か会話が弾んでいる従者とシャアの姿に、突っ込むものの。

「……ふ」

 これからの生活を想像したレミリアはやわらかな笑顔を浮かべた。
 退屈しなくてすみそう……。そう思わずにはいられないからだ。

「フフフフ、何だかんだで新しい紅魔館がまんざらでもないみたいね」

「あら、何妄言を言っちゃってるのかしら奥さん?」

 突然背後から現れて不気味に笑うララァに驚くことなくレミリアは睨みつけるが。
 そんなことは断じて無い--。ともはっきりと言えなかったりする。
 確かにこの新しい紅魔館を見ているとカリスマがアップするような気がしないでもない。
 真っ赤なパーソナルカラーに、ツノだなんてなかなか最高じゃない。

 まあ--。

「シャア」

「何だレミリア?」

「せめてレミリア専用に改名させなさい。まるで私がじおんに仕えてるみたいで嫌だわ」

「負けたのはおまえだろ……」

「う、うるさいわね!」


 しばらくはこんな紅魔館に住むのも悪くないわね。
 あたたかい日和の下、レミリアはシャアと騒がしく口論しながらそう思うのであった。

      ◇       ◆     


 レミリアがシャアにやんやと言っている頃。
 パチュリーはとある理由からムサイにある研究室を訪ねていた。その理由というのが、NEW紅魔館に新しく加えられた新装備についてである。
 元来、幻想郷には血の気が多い猛者(ひとはそれをバトルバカと呼ぶ)がいるのだが。
 新たに住むことになったフルカラーの面々の中には住人達に勝るとも劣らないバトルバカが混ざっている……。

 また幻想郷の住人のように能力とかを使ったものではないが、代わりに彼らは--。
 ビームサーベル、ビームライフル等のビーム兵器。
 ヒートホーク、マシンガン等の実剣実弾兵器。
 ファンネル、ドラグーンといった遠隔操作によるオールレンジ攻撃が可能な兵器。
 アトミックバズーカ、サテライトキャノン等の広域破壊兵器……はあまり使わないが、こういった武装を状況に分けて臨機応変にポンポンと使ってバトルを楽しんでいる。
 そんなバトルをするおかげでコロニーとかの公共施設? に穴を空けたりすることも多々ある為。
 フルカラー組はそれぞれ施設や戦艦をIフィールドといった防御系アビリティで補強していたりするという。
 その話を聞きつけたレミリアは直ぐさまシャアに、パチュリーへ技術提供をするよう要請したのだ。
 ご近所どうしになる以上、フランがじおんのモビルスーツ達と遊ぶであろうし、白黒の魔法使いが本を強奪しにくる(魔理沙いわく”借り”にきている)だろう。
 その際は出来るだけ超絶大損害は被りたくないといった思惑がレミリアにはあった。
 そして、紅魔館にIフィールドとトランスフェイズ装甲が設置された今。パチュリーはじおんの無駄な頭脳であるギャンに、その性能面における説明を聞きにやってきたのである。

「--つまり、トランスフェイズ装甲は間接的な攻撃には有効なのね?」

 永琳の部屋なみに怪しい薬品が置かれた机でパチュリーはギャンに聞き返す。
 話によれば、バトルの余波で物理的にものが吹き飛んだ場合でもこれが部屋に設置されていればダメージは軽減されるという。
 なかなか便利な技術を知り、パチュリーの心は少し昴っていた。


「まあ、ビームとかおまえたちの能力が付加された攻撃には耐えれないがな。
 有効なのは刀の斬撃、ものによる打撃、実弾とかだろ。美鈴、咲夜や妖夢の攻撃も防げるぞ」

 ちょうど思い浮かべた知り合いの名が上がり、へぇと感心の声をパチュリーは漏らした。
 あの娘達が通用しないならばそれなりの効果は期待出来る。

「ならガンタンクとかゴッド、マスターにターンX達にも有効なの?」

 彼らがここで暴動を起こすことはないにしろ、出来うるなら最強クラスの物理的攻撃にも耐えてほしい。パチュリーは淡い希望を抱いてギャンに聞いたのだが。


「無理なものは無理だ」

「あぁ……そうよね」

 ギャンの実にシンプルな返答に、パチュリーはただ納得するしかなかった。


      ◇       ◆     


 新しく生まれ変わった赤い洋館を。鉄製の門の外から見上げる妖怪と青いモビルスーツが居た。
 妖怪、名は紅美鈴といい紅魔館の誇る門番で。その見た目はまるで漢字の国の人みたいだが、別に漢字の国の出身ではない。
 青いモビルスーツ、名はイフリート改という双肩の赤いスパイクアーマーと、エグザムを搭載している珍しいモビルスーツであり。咲夜にその高い戦闘力を買われ、今日は門番の補助を任されていた。

「はぁー、見事な赤ね」

 横手を額に付けて述べた美鈴にイフリート改はそうだなと頷く。
 同じじおんモビルスーツであるものの、別にシャアの派閥ではない。そのため、イフリート改にはこの赤くて三倍速いフレーズがあまり理解出来なかったりする。

「マジ、ダッセぇ」

「え、そう? 私はカッコイイとおもうけど」
「前にシャアケータイも出てたが、ありゃただのネタだろ。
 故障するのが通常の三倍速いとか」


 なかなかに辛辣な感想を述べるイフリート改に、美鈴は本当に同じ所属なのだろうかと思わずにいられず。
 ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

「それより、ボーッとしてる暇があったら仕事しようぜ?」

「え、あー……うん。そうよね」


 何時までも改修された館に目を奪われていたら、あの怖ーい上司からきつーいものがサクサクッとくる。
 恐怖で震える身体を抑え、美鈴はイフリート改が言うとおり門番としての仕事に専念することにした。


「……あれ?」

「どうした?」

 そこで何かを発見したのか、イフリート改は美鈴の視線を追う。
 ただ真っすぐ、美鈴が見ていたのは自分達の立つ場所から少し離れたところ……。
 何やら少女とモビルスーツが話をしながら歩いているのだ。

 少女のほうはナズーリン。
 モビルスーツはブルーデスティニーで間違いはない……。
 そう判断した時、イフリート改は両手でそれぞれヒートソードに熱を入れた。

「あの二人がこの辺りに来るの珍しいわねー。ねぇ--て、アレ?」

「ここで会ったからコロス!」

「っ!? やってみろや返り討ちでコロス!」

 美鈴が振り向いた時、傍に居たはずのイフリート改は既にブルーへ斬りかかり。感知したブルーはすぐさまビームサーベルを抜き払い、灼熱の連撃を受け止めた。
 ブルーの傍にいたナズーリンも、門前で居た美鈴も突然の光景にあっけにとられてしまうが。瞬間的にこの現状を把握し、それぞれイフリート改とブルーを止めようと働きかけた。
 止めさせなければならない。そう思った少女達は彼らに言う。

「イフリート改何してんのジム相手に!?」

「そうさ、ジム相手にイジメなんて格好悪いしダサいよ!?」

 ブッチィ。

 辺りに何かが断ち切られたような音が響き、互いにヒートソードとビームサーベルで斬り結んでいた二つの青はゆらりと美鈴とナズーリンに振り向き。
 ただならぬ怒気を醸し出すイフリート改とブルーに二人は途端に冷や汗を垂らし、そして赤いツインアイとモノアイを揺らめかせてエグザムを起動させる彼らに恐怖した。

「だあれがジムだゴルァ!!」

「イジメじゃねえよ! アァ、コラ!?」

「「ギャアアアア!」」




 ……紅魔館の門前で二つの悲鳴とピチューン音があがった数分後。

「ちゃんと仕事して--るえぇっ!?」

 門番二人の様子を見にきた咲夜は、ミサイルやらマシンガンで荒れに荒れてしまった辺り一帯を目にして驚いてしまう。
 気絶しているエグザムコンビは見れば身体中にヒビが入ってるし。美鈴達と魔理沙にいたっては、ボロボロの雑巾のような姿で倒れていた……。
 何故、そこに白黒が居るのだろうか。
 いろいろとこの有様に突っ込むところはあったのだが、咲夜は何となしに魔理沙が居る理由を察した。
 リニューアル記念と聞いて→紅魔館に強奪にやってきました→しかし、エグザムっている二人のバトルに巻き込まれてしまいピチューン。
 白黒は投棄するとして、この門番どもはお仕置きね。
 穴ぼことなった地帯周辺を見回してそう考えた、咲夜はため息をつきながらナイフを手にした。



[15099] その13
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/08/26 19:28
 モビルスーツという種が幻想郷に住みだしたことで、郷の風景は少し変わった。
 ぴんは人里から、きりは地霊殿までと幻想郷に連なっている場所には、モビルスーツたちが散らばっている。彼等はそれぞれ思い思いに暮らしていた。
 もちろん博麗神社も例外ではない。神社の傍にはれんぽーの戦艦があった。一見、異様にも思える状態にあるが郷の住人達は快く受け入れ、もはや風景の一部のように考えている。


「霊夢さーん、こんにちはー」

 昼下がり、お天道様がものすごくゆっくり動いている下で。境内の掃除をしていた巫女は、動かしていた箒を止めて声のした方向へ振り返る。
 巫女に声をかけたのはれんぽーのガンダムと、その妹であるアレックスだった。
 今や、ご近所どうし。博麗神社にガンダム兄妹が訪れるのも普通のこと。関係も良好である。

「あら、こんにちは。どうしたのよ?」

「うん、霊夢が掃除してるのブリッジから見えてー」

「差し入れです」

 スッと大きくもなく小さくもない白の紙箱を差し出すアレックスに、霊夢はふぅんと呟きながら箱の蓋を浮かせて中を覗いた。
 そこには手の平におさまるサイズ、ガラス製の器に入った黄色いお菓子が五つ並んでいる。俗に言うデザート版具無し茶わん蒸しだった。

「あら、プリン」

 思いがけず巡ってきた珍しい品を目にした霊夢はまるで花が咲いたように笑顔を見せた。
 何時もおやつには和菓子を食している霊夢だが、別に洋菓子が嫌いなわけではない。
 ただ、郷の環境から食す機会があまり多くないだけなのだ。
 故に、こうして機会が巡ってきた時。霊夢はたまらなく嬉しかったりする。

「じゃあ、お言葉にあまえるわ。
 お茶淹れてくるから二人は先に上がってて」

 霊夢の言葉にそれぞれ頷き、ガンダム達は境内から神社の玄関と進んでいく。
 すると、アレックスがこの神社に着て何時も思っていたことを。はじめて兄へ述べた。

「お兄さん」

「なにアレックス?」

「この神社って”のんびりしててとっても気楽そう”ですねー」

「え……あ、うん」


 暇そうって言ってるふうに聞こえるのオレだけなんだろうか……。
 にっこぉ、と何時もの穏やかな笑顔で博麗神社の感想を述べるアレックスに頷きつつ。
 ガンダムは冷や汗をかきながら、心の中で自分にそう問い掛ける。
 妹はあの01のような腹黒い子ではない。しかし、たまにビームサーベルよりするどいことをさらりと言ったりするから油断が出来ない。
 霊夢の前でポロリと言わせないように注意しとこ。
 神社に上がる中、ガンダムはそう堅く決意するのであった。


      ◇       ◆      


 それすたる・びーいんぐ。略して[それ・びー]という私設武装組織が幻想郷にあった。
 紛争根絶を目的として結成されたものの、あまりにそういったことが起きない為、活動状況は極めて悪かった。
 それは幻想郷が平和過ぎることが要因となっていた。その為、現在ではメンバー全員が長期的な有休をとり、武力介入を中止しているという有様だった。


「ふぁ、にしても暇すぎだろ……なんにも起きねーってのも。
 たまにはドンパチあっても良いのによ」

 戦艦プトレマイオスの中、キュリオスはテーブルでほお杖をつきながら呟く。
 やはり、自分達の任務がやる必要がないとなれば気分は上がらない。勝ち気な性格を持つキュリオスなればこその台詞だった。

「もうっ、良いじゃないか。平和なんだから」

 物騒なことをさらりと願う分身にアリオスは呆れながら諭した。
 その傍でセラフィムをあやしていたセラヴィーも鋭い視線をキュリオスへ送りながら、意見を述べた。

「アリオスの言うとおりだ。大きな争いがないのなら私たちの活動は無意味、有休を使うのにこしたことはない。
 それにこんな穏やかな場所でならなおのことだ」
「だー」

 この土地は弾幕ごっこ(それなりのルール)もあるようだしな。と付け加えたセラヴィーは変形させたセラフィムを背中へ収納する。

「じゃあよ、輝夜と妹紅みたいな喧嘩はどーすんだよ?」

 眉根を寄せて睨む二人に気圧されるわけでもなく、キュリオスは此処に来て一番最初に武力介入した少女たちについて例を挙げた。
 竹林を歩き回っていたら何かが燃える音や爆発音が響いてきた。何だ何だと現場へ急行してみれば、周りの竹やぶは焼け野原だわ、地面はクレーターみたいに穴ぼこだわ……。あっついバトルを繰り広げていた少女たちが居たのだ。
 一応、トランザムを起動してバトルを止めたが。キュリオスからすれば、あれはごっこの範囲に収まる気がしない。
 キュリオスの尋ねに腕を組んで聞いたセラヴィーは、しばらく間を置いて答えた。

「それはあれだろう、”ぬっ殺すまでがごっこ遊びです”的な」

「……ああ」

「ちょっ、なにその”お家に帰るまでが遠足です”みたいな見解は!?」

 あれ、この郷で数少ない良心って思ってたのに……。しかもキュリオス納得すんの!?
 物騒なことを冷静な顔で告げたセラヴィーに驚いて突っ込みを入れながら、アリオスは察した。同僚たちがいよいよもってこの幻想郷(せかい)に染まってきたなと。
 その頃、他のメンバーは−−。

「俺は……ガンダムだ!」
「ダブルオーガンダム……二つ名は[とにかくガンダム]と」
 ダブルオーは学友である阿求の屋敷で、阿求から幻想郷縁起のための取材を受け。


「今度はちょこーっと大気圏超えたところに的があるんだけど……やるか?」

「く……、私の射撃を舐めないで!」

「どうせ届かないって鈴仙−−って聞いてないね。まあ良いや、師匠にチクることは変わりないし」
 ケルディムは八意印の薬を行商してきた鈴仙たちと出くわし、レベルの高い射的勝負をしていた。


      ◇       ◆      


 穏やかな昼下がりに、霊夢たちはのんびりとお茶を味わっていた。
 何時もはこうしているところに誰かがやってきて慌ただしくなる。その為、こうしてゆっくり出来るのがガンダムにとっても、霊夢にとっても唯一の安らぎだった。出来れば、新キャラとかすきま妖怪が来ないでほしい。
 二人は心でそう願った。

「おっ、今日はガンダム達も来てるのか」
 自然と視線は開け放たれた部屋から、声のした庭先へと向けられる。

「魔理沙じゃん」

「こんにちはー」

「おう、こんちはっ」

 ガンダム兄妹と挨拶を交え、白黒の服をきた少女はまるで我が家に帰ってきた。わんぱくな次男坊のように靴を脱いで上がり込む。『あんたねぇ』と霊夢は呟くものの、それ以上は言及しなかった。
 この白黒が我が物顔で神社に上がり込み、なおかつ自分達が囲っているちゃぶ台へ加わるのは何時ものこと。
 いまさらとやかく言っても仕方ないことだと霊夢は諦めていた。
 ともあれ、

「まったく、おかわりしようとした時に来るんだから」

「おっ、プリンじゃないか?」

「あとふたつしかないから、魔理沙も食べる?」

 ちゃぶ台に置かれた箱からひとつを霊夢に、残りのひとつを取り出して尋ねたガンダムから、魔理沙は頂くぜと嬉しそうにプリンとスプーンを一緒に受け取る。
 魔理沙もまた、洋菓子を食べることが少ない。こうしてふと立ち寄った際にありつけるのはまさに棚からぼたもちと言えた。

「そういえば……此処にくる途中、変なモビルスーツが三人魔法の森で歩いていたの見たぜ」


 とんがり帽子をおろし、畳の上に置く魔理沙に霊夢たちは自然な流れで『変なモビルスーツ?』と聞き返した。
 とは言ってもこの幻想郷に元から住んでいた霊夢たちからすれば、そこにいるガンダムとアレックスも変と言えるが。
 こうして付き合いの多い魔理沙がそう言うならばよほど変なのだろう。
 プリンに被せられたラップを取り、スプーンでつつきながら魔理沙は話を続ける。

「なんだろ、ひとりは梅干しみたいな色で、背中にはフランの羽を真っ黒にしたみたいなの生やしてたな。二人目はカニみたいな姿……モビルアーマーって言うのか? あれで。
 三人目はなんか赤くて、背中に顔があった。あ、シャアじゃないみたいだったぜ」

「何よソレ」


 訳が分からないと魔理沙の説明で考えつかなかった霊夢は呆れつつプリンを食すのだが、逆に想像力が豊かなガンダムとアレックスはイメージをハイクオリティーに膨らませた。

 カニのような身体、前にも後ろにも顔がある……。しまいには背中に摩訶不思議な羽が生えていて赤いときた。

「ただのゲテモノですね、お兄さん」

「うん、ゲテモノとしか言えないね」

 きっぱりと自分のイメージに対し感想を述べ、兄妹は頷き合うが。それを聞いた霊夢と魔理沙は若干引いていた。
 さすが兄妹と言うところか……。
 普段、常識人として振る舞う二人だが、たまにこのような身も蓋も無い発言をする為なかなか油断ならない。

 ひでぇ。
 とりあえず霊夢たちは心のなかでそう、突っ込みを入れるのであった。


      ◇       ◆      


 麗らかな日差しの下、三機のモビルスーツが威容な空気を放ちながら森の中で対峙していた。
 うち二人はヴァサーゴ、アシュタロンといった悪そうな見た目を持つガンダムブラザーズである。
 以前は、自分たちをモビルスーツであること認めさせる為にどうすれば良いか[てぃたーんず]のジオに相談したのだが、結果的に言えば不愉快な呼び方をされそうになっただけ……。
 今度こそはと、二人が淡い希望を抱いたのが眼前に居る赤いモビルスーツだった。
 背から両肩にかけて備えられた砲を持ち、ガンキャノンに酷似した姿を持ち。名はリボーンズキャノンといった。

「何か……今ものすっごい腹立つこと言われた気がすんのは何んでなんだろう」

 怒りジワを作り、リボーンズがそう呟くと。ガンダムブラザーズも頷いて賛同を示す。
 とてつもない苛立ちに襲われたのはどうやらリボーンズだけでなく、全員がそうであったらしい。赤いモビルスーツはそれ以上この話題を続ける気はなかった。
 今、しなければならない話はヴァサーゴ、アシュタロンとの同盟締結である。

「まあ、とりあえずは……君達と手を組むよ」

「ほう、それはありがたい」

「理由を聞いて良いかい?」

 そう聞き返す、アシュタロンは訝しげな表情でリボーンズを見ていたが。対照的にリボーンズは鼻で笑って答える。

「ボクら[いのべいたー]としても君達と手を組むのは利害が一致するからね」

 そうヴァサーゴに述べながら、赤いキャノンモードから一点して白いガンダムへと姿を変える。 だが、

「幻想郷の未来をボクらイノベイターが始める為に」

 放たれる怪しい輝きは、ゴーグルからツインアイになっても変わらないままだった。



[15099] 例大祭お疲れ様打ち上げSS
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/03/17 00:39
 例大祭が終了した後、それまで賑わっていた博麗神社の辺りは静まり返っていた。
 しかし、社内の居間では郷の住人やモビルスーツといった者達で溢れ、祭の後だというのに活気づいていた。

 祭で露店をしていた者、祭の雰囲気を味わった者……。どちらが欠けていても祭というのは楽しめない。
 僅かな時間であったがそんな祭に関わったどちらの側も、決して忘れえないひと時を経験したのだ。

 だが……幻想郷の祭は此処からが本番である。


「それじゃ、今日はお疲れ様」

「でも本番はこれからでゃー!」


「「せーの、乾杯!」」

 霊夢、ガンダムが音頭取ると集まった皆は盃を掲げて復唱した。
 もちろんガンダムは盃にオレンジジュースである。

 とりあえずきっかけを作り、始まることが出来た宴を前に音頭係の二人は一息入れた。
 それぞれ立ち回っては話し込む住人達を見るかぎりまだまだヒートアップはしないだろう。いろんな意味で不安は残るが……。


「しかし、例大祭ってすごいねー」

 文通仲間? 同士でピンク色の空間を放つアレックスとザクII改を不安げに見ながらガンダムは今回初参加した祭についてそう感想を述べた。

「まあ、ピンは人間からキリは神様までやってくるから混雑は免れないわね……おさいせ--ゲフンゲフン。マネーも」

「言い直す意味ないじゃん」

「うるさいわね、私はこれが楽しみなんだから……。ほら、ガンダムも手を休めないでね」

 突っ込むべきことを突っ込んだにも関わらず霊夢は酒を煽りながらも今日、祭で入った売り上げ--もとい賽銭から手を放さない。
 そんな、改めて彼女という人となりを理解しつつガンダムは貨幣、紙幣、さらにそこから種類に分けて纏める作業を慎重に手伝った。
 ちょっと違う種類を置いたものならば鼻筋? におろしたわさびを塗られてしまい。激痛に苛まれて室内を転がり回るだろう、トリコロールカラーなだけに……。

「ウッヒッヒッヒ、お酒が進むわね」

 早く終わらせよう。お金を数える度に不気味な笑みを浮かべる巫女を前に、ガンダムはそう決意した。


   ◇   ◆   

「私歌いますわ」

「あ、私も私も!」

 スクっと立ち、互いに微笑みを浮かべるラクスとミーアザクの姿に周りが注目する。
 知人である歌姫二人が歌うとあってか、ラクスの傍にいたフリーダムや散り散りになって飲んでいたざふとの面々は持ち歌を歌うのだろうと期待した面持ちでいたが……。

「あっのころハッ!」

「ふったりとも~」

「なぜかしら、若さなど」

「「むだにしてくらしてた~、恋の体をよせあぁった~!」」
『ちょっ、ゴッドねぇーちゃん!?』

 歌い手以外ぽかーんとした中、フリーダムとジャスティスの突っ込みが同時に炸裂し。

「負けない! なら私はビビデバ--」

「わ、バッ、やめろー!」

 いろいろ危ない歌で対抗しようとした夜雀にはデスティニーのパルマフィオキーナが叩き込まれた。


   ◇   ◆   


「あれー、初めて見る顔だね?」

 とある理由がある為、外の境内でジュースを飲んでいた巨大モビルスーツ達。
 その中から、巨大なガンダムには珍しく[ヘの字]が有るモビルスーツに萃香は声をかけた。

「ええ、はじめまして私はサイコガンダムマークIIIといいます。サンサイコと呼んで下さい」

 ペコリ。頭を下げ、優しげな笑みを見せる姿は身体が大きい為に迫力があるものの、それでも丁寧な挨拶である。
 サイコガンダムマークIII(通称サンサイコ)。
 サイコ姉妹の末にあたる少女で性格はサイコに近く礼儀正しい。
 が……戦闘力は姉妹一高い。

「あ、私伊吹萃香。にしても……強そうだね。
 ねぇ、力比べしようよ」

「ち、力比べなんてそんな! 初対面なのにそんなこと」

 萃香の提案にサンサイコは恥ずかしそうに顔を赤らめ、かわいらしく手をばたばた振るが。
 本来この挙動、普通サイズのモビルスーツがすれば問題はないだろう。
 しかし、サンサイコは身体が大きいため。それは暴風に近かい威力を発してしまう。

「ちょ、あぶ--ナブリュッ!?」

「え、バキィ……って。あら?」

 手に感じた違和感にサンサイコは今、目の前で立っていたはずの萃香が居ないことに気付く。
 何処に? そう考え、ふと見上げた先--妖怪の山まで吹き飛んでいた萃香のシルエットをサンサイコは見つけた。

「あ」

 数分後、サンサイコに謝られ。涙目で震えながら無事? な旨を伝えている萃香の姿が……山からお酒を持ってきた椛とガイヤガンダム(兄)に目撃されたそうな。


   ◇   ◆   


「一発芸やるぜー!」


 魔理沙の一声に参加させられたモビルスーツと郷の住人達。
 彼らにはある共通点があった。

 魔理沙、アリス、フラン、藍、紫、ルナサ、秋姉妹、諏訪子、勇儀、ヤマメ、パルシィ、星。

 シャア(百式)、ハリースモー、アカツキ、ゴッド、アルヴァアロン。

 魔理沙曰く。
「名付けて『金色戦隊ゴールデンウイーク!』だぜ」
 まさに夜なのに眩しい面々と言って差し支えはないだろう。
 中にはノリノリだったり--。


「リーダーは私ね!」
 元気よく率先して名乗りを上げるフラン。

「何を言う! お金持ちである私がリーダーだ。それが世界統一の!」

「妖怪の賢者を差し置いて勝手なこと言わないの! リーダーは私よ!」
 そんなフランに対抗するアルヴァアロンと紫。

「貴様らにリーダーオブリーダーを賭けて勝負を挑む!」
 何故か闘気を燃やし、ハイパー化するゴッド。

「金色の銀杏の為に負けられない!」
 銀杏の葉を守るために闘う稔子。

「よっし、ソレ乗ったよゴッド!」
 ゴッドの提案に楽しそうに乗る勇儀。

「何よキンキラして妬ましい!」
 金色に妬むパルシィ。

「ちょ、発案者を外すなよお前ら!」
 慌てて自分がリーダーに相応しいことをアピールする魔理沙。

「あれ、リーダーになったらハーレムじゃん!?」
 別のことをいうアカツキ。

「テーマソングは譲らない……」
 静かなる闘志を燃やすルナサ。

 しかし、一方でついていけない者もいる。

「もう着替えて良いか?」
 別の衣装にしたいと強く思うシャア。

「良いんじゃない? 私も人形講話まだ途中だし」
 はやくサイコガンダムに人形づくりについて話をしたいアリス。

「頭が痛い……」
 くだらないことにやる気を見せる主にため息をつく藍。

「というかゴールデンウイークなら五人だろ」
 違う論点で突っ込みを入れるハリースモー。

「稔子、勝てっこないから止めなさい!」
 妹の無謀を諌める静葉。

「アカツキもやる気だねー」
 神社によく遊びにくるアカツキを面白そうに見遣る諏訪子。

「勝てないから誰がリーダーでも良いよ」
 面子に勝てないと気付き、最初から白旗をあげるヤマメ。


「お前は助っ人レンジャーだな、色模様的に」

「え、ウソっ!?」
 シャアに指摘され、アーマーを着込んだ特殊要員を思い浮かべる星。
 と、いろいろ居たがもはや誰も突っ込まなかった。
 寧ろリーダー争奪戦を観戦したい思いが強くなっており、たいていの者はそのやり取りを楽しそうに眺めていた。
 誰が勝つであろうか賭けてみたり、乱入したいが金髪でない、もしくは金色がボディにない為やきもきしていた者もいたり。
 やがて白熱したバトルが神社の夜空で展開する。彼らが織り成す色は、祭の花火より華やかかもしれない。

「巨大メカは登場するのか!?」

「だ、ダブルオーさん落ち着いて下さいよ」

 例大祭後の打ち上げはまだまだ続くだろう、いろいろな意味で--とダブルオーを諌めながら阿求はそう思うのであった。



※はじめてのあとがき


本編SSにも繋がるかもしれません。
とりあえず「例大祭に行かれた方々お疲れ様でしたー!」な気持ちや、書いてみたい新キャラを兼ねて書きました。
ちなみに自分は行ってませんw

サイコガンダムマークIIIを知ってる方が居るか心配ですがww



[15099] ダブルスポイラー発売記念SS
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:ee60a56e
Date: 2010/05/22 03:32
 新聞。

 それは世界のありとあらゆる動きを世に報道する情報誌である。
 生命は常に情報という知的財産を保しているのだ。
 もちろん、この幻想郷でも新聞は発刊されている。

 射命丸文と姫海棠はたてをはじめとする鴉天狗の二人を中心に情報がそれぞれ集められ、直ぐさまその情報が新聞記事となって郷中に配達される。
 まさに速さを得意とする鴉天狗ならではの仕事と言えるだろう。
 また取材においてカメラで行われる撮影技術は高く。
 例え相手が弾幕ごっこの最中や、速さくらべの真っ只中であっても写真がブレることはまずない。


「じゃあ二人には撮れないものってないの?」

 眼をキラキラと輝かせて見上げるステイメンの質問に、文は鼻高々な気分で胸を張ってステイメンに答えた。

「ふふ、まあそういうことになりますね」

「もちろんよ、私は文じゃ撮れないものを念写出来るんだから」

「ちょ、はたちゅめっ」

 ぐいっと文を押しのけ、はたてがケータイの形したカメラを見せてそう自慢すると。負けじと文も自慢のカメラを掲げてはたてを押し返した。

「ふふふふ、私だってあんたなんかじゃ撮れないもの撮れるんだから」

 とある昼下がり、偶然にも文とはたては同時にGP三兄弟へ突撃取材を敢行していた。
 理由は『友達にしづらい』年間連続第一位に君臨していたあの古明地さとりと同じ場所で。
 何不自由なく、何の不満もなく彼ら三兄弟が地霊殿で暮らしているという噂があった。はたしてそれが本当なのかどうか……。
 幻想郷の異常を伝えなければならない新聞記者としてそんな美味しい話をほっとくわけにもいかず。文とはたてはこうして三兄弟が居る地霊殿を訪ねたのだ。

「では、取材に快く応じてくれたゼフィランサスさんに感謝します」

「まさか、因幡てゐを抜いて『弱味を握られたくない』四週間連続第一位のあんたが簡単に応じるなんて意外だったわ」

「あはは、そう?」

 皮肉を言われたにも関わらず。あまり気にしていないふうに笑ってくれるゼフィランサスに文は内心でホッと一息をついた。
 もしかしたら無理難題言われるんじゃ……と考えてはいたものの、今回はどうやら何も言われないみたい。
 だが、そう思ったのも束の間。

「取材に応じる代わりに条件があるんだ」

「条件……ですか?」

「ああ、二人には撮れないものって本当にないんだよね?」

 にこにこと優しそうに笑顔でそう尋ねたゼフィランサスに、文とはたてはもちろんと頷いて答えた。

「当たり前じゃないですか、私に撮れないものはありません」

「ふふん、このはたて様に念写できないものは無いんだから」

「サイサリスー、はい止めて」

「ああ……」

 突然、意味深な指示を出すゼフィランサスに。彼の弟であるサイサリスは手元で何やらカチリとスイッチを押す。
 いったい何なのか。
 そんなゼフィランサス達の行動から何も察することが出来ず、鴉天狗の二人はただ頭に疑問符を浮かべるだけだった。
 だが、相変わらずにこっと微笑むゼフィランサスがプリントを手渡した事で……。
 文の表情は驚愕に染まる。

「そこに書かれてるお題をクリア出来たら取材したげるっ」


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃お題                ┃
┃                  ┃
┃その1 マスターとターンXのバトルに┃
┃乱入、全ての技を撮影。       ┃
┃その2 風見幽香のパンチ、直撃。  ┃
┃                  ┃
┃その3 ガンタンクさんの砲撃を真正面┃
┃   から撮影。          ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

「出来−−『当たり前じゃないですか、私に撮れないものはありません』」

 出来ませんよこんな無理難題!
 プリントをたたき付けようと手を振り上げ、そう言いかけた瞬間。違う方向から聞き慣れた声を耳にした文はビタリと固まってしまう。
 ダラダラ汗が吹き出てくる中、まるで油の切れたモビルスーツのようにゆっくり顔を動かすと……。
 そこにはサイサリスから録音機らしき道具を受け取り、黒い笑みを浮かべる白い悪魔という。矛盾した姿があった。

「○γΠ∇>$■Ω!?」

「ちょ、ちょっとあんたいきなりどうしたのよ? 顔真っ青じゃない」

「あ、あのね!? あなたは引きこもってるから分かんないのよ!」

 自宅で主に念写を使い、写真を手にしていた為。手渡されたお題を見た文が何故そんなにも混乱しているのかが、はたてには理解出来ない。
 ようは弾幕ごっことか、花妖怪のパンチ、モビルスーツの砲撃する瞬間を撮るといった簡単なものではないか。

「あれー、文っちこれは嘘だったのかな?」

『当たり前じゃないですか、私に撮れないものはありません。当たり前じゃないですか、私に撮れないものはありません。当たり前じゃないですか、私に撮れないものはありません』

 何度も何度も繰り返して再生してくるゼフィランサスに文はジトリと涙目で睨むが全く怖くはない。寧ろゼフィランサスからすれば可愛いくてもっと虐めたくなる表情だった。
 内心に沸き上がる暗闇をさらけ出すようにゼフィランサスは笑みを浮かべ、あらためて文達に声をかけた。

「いってらっしゃい」

「イッテキマス……ぐすっ」

「ほら、愚図ってないで飛びなさいよ」

 結局、取材の為に飛び立った二人を見送った後。
 笑みを崩さない兄の姿に疑問を持ったステイメンは少し怒って彼に注意した。

「お兄ちゃん達、意地悪しちゃダメだよっ」

 飛び立つ時の肩を落としたように元気が無くなっていた文と、張り切っていたはたての落差といったら言いようが無いものがあった。
 そのうえ、最後の良心であるサイサリスでさえも止めに入らないことがステイメンには不思議でしょうがないのだ。


「まあ……自業自得かもな」

「? どう言うこと?」

 ゼフィランサスの黒い一面に呆れながらもそう呟くサイサリスにステイメンは尋ねる。
 いったい文達の何処にそんなところがあっただろうか……。
 一連の掛け合いを思い出してみても、二人に落ち度は無かったはず。

「これだ」

「新聞?」

 サイサリスが取り出した新聞、そこにはこう書かれていた。

 『友達にしづらい』年間連続第一位 古明地さとり。

「え、さとりお姉ちゃんは僕たちの友達だよ!?」
「ああ、だからだ……。この新聞書いた奴らを一度懲らしめたかったんだろ」

 驚くステイメンに、兄がああした理由をサイサリスは説明する。
 もっとも口で言えば済む問題なのだが。腹の黒いゼフィランサスにしてみれば、さとりは大事な友。
 簡単に終わらせず、注意するなら念入りに。そして心に伝わるようにしなければ意味がないと考えているからだ。

「仕方ないよ、あんな良い娘をああゆうふうに書かれたりしたら……。ムカつくじゃない?」

 相変わらずの笑顔でそう告げるゼフィランサスの姿に。
 何時もの兄だとそう思いつつ、弟達は標的となった文とはたてが無事生きて戻ってこれるよう祈った。だが翌日……。
 ゼフィランサスのお題に挑戦した二人が変わり果てた姿で同僚に発見されるのは言うまでもなかった。


「あれ、はたてか!?(アウトフレーム」

「ちょっ、なんだこの危険写真の数々は!?(ザクフリッパー」


      ◇  おまけ  ◆      


 薄暗い闇が広がる館。
 住み慣れたその廊下を歩くさとりは、耳まで顔を赤くしながら胸を手で押さえていた。

 心が、ドキドキしている。

「何故、私は立ち聞きしてしまったのかしら……」

 恥ずかしそうにして、そんなことを言ったのには理由がある。
 先程、彼女は鴉天狗達が三兄弟の元に居ることがどうしても気になってしまい。
 ばれないように部屋の近くで、能力を使って聞いていたのである。
 しかし、それがまずかった。

 どうせ、他の妖怪からさえも厄介にされているような自分の元で彼ら兄弟が何事もなく暮らしていることを聞き。
 それをネタにしようと思って来たのだろう。
 わかりやすい取材理由ね……。

 別に腹が立つわけではないが、確かに考えてみれば不思議に思えてならない。
 いくら心を読む能力が凄いと思うからといって不安がないなんて有り得ないことなのだから。
 以前、お燐から見せられた文々。新聞に書かれていた『友達にしづらい』年間連続第一位に輝いていた自分。あれは間違ってはいない。
 なのに……。
 気になったさとりはそっと聞いていた。

 しかし、沈んだ面持ちで文がはたてと出てきた後。ゼフィランサスの心が聞こえた瞬間、さとりの気持ちはあたたかい何かで染まった。

『仕方ないよ、あんな良い娘をああゆうふうに書かれたりしたら……。ムカつくじゃない?』

 サイサリスやステイメンもそうだが、どうしてあのひとたちはこうも自分を大切に思っていてくれるのだろう。
 そんな考えが頭でグルグルと回り中、深呼吸しながらさとりは部屋に戻るのであった。

「……だめ、顔がにやけちゃう」




◇あとがき◆


 どうもお久しぶりです。
 今回、ダブルスポイラー発売記念ということで番外編ぽく話を考えました。
 もし、フルカラー劇場流でダブルスポイラーというゲームが始まるなら冒頭はこんな感じが良いんじゃないでしょうか?w




4コマ風新キャラ紹介。

◇アウトフレーム◆


アウトフレーム
「おっす、オレ。ガンダムアストレイアウトフレームってんだ」

はたて
「うーん、ちょっと名前長くない?」

アウトフレーム
「そだな、アウトフレームって呼んでくれ」

はたて
「そうさせてもらうわ。まあ、助手になるからにはそれ相応の腕前を見させてもら……う……から」


アウトフレーム
「ガンカメラに。Gフライトにバックホーム。腕前も装備も充実してるぜ?」

はたて
「うわ何あれ欲しい……」

アウトフレーム
「はたて?」

はたて
「はっ!? う、羨ましくなんかないんだから! 後でガンカメラ貸して下さい!」

アウトフレーム
「素直だなオイ」


 ということで作品内でははたてとアウトフレームはパートナーにしてます。レッドフレーム達はまだ出てませんが、彼らもいずれ出て来ますからお楽しみ下さい。

 皆さんもダブルスポイラー買おう。因みに僕はパソコンないから買えません(ォ



[15099] その14
Name: タクラマカン◆3284ba15 ID:13abd958
Date: 2010/08/28 02:07
 幻想郷は雨だった。くる日もくる日も。屋根や窓をけたたましく叩きつける無数の水弾。
 不機嫌そうな薄暗い空は、時たま高い出力の光を地上へ落としていく。

「見つかったかい?」

「いや、私は見ていない」

「僕もだよ」

 思わしくない天気の下、合羽を着た三機のモビルスーツは木がうっそうと生い茂る森の中を歩いていた。というのも、彼らにはある目的があった。
 それは噂に聞く、妖怪らしくない妖怪を捕獲する為である。
 なんでも脅かすことを生き甲斐にしていのるに、まったく人間を驚かすことが出来ないという情けない傘の妖怪だとか何とか……。
 ならば此処は彼女をちゃんと妖怪らしく指導してやれば、自分達が妖怪に間違われることもなくなる。リボーンズキャノンは手始めにそう考えたのだ。

「確か、最近は此処でアリス・マーケティングを脅かそうとして返り討ちにあったらしいけど……」

「ん、友達が居ないから人形遊びに走ったアリス・マーガレットじゃないのか?」

「違うよ兄さん、アリストロ・ボーカロイドだよ」

「まあ、どれでも良いさ。人形しか友達が居ないアリス・ア・ブノーマルさんとは付き合いたくないし」


「そうだな」
「そうだね」

 ガンダムブラザーズから同意を得たところで、リボーンズキャノンは辺りを見回した。
 思えば森に入ってからというものの、彼らは全くと言っていいほど妖怪と遭遇していなかった。……ただの一匹も。
「流石に雨の日は自分の巣にいるのかもしれないね」
 後ろに続く形で足を動かしていたアシュタロンが二人にそう言った。

「これだけ見つからないとなるとそうだろうね……」
 リボーンズは考え込むように腕を組み、少し間を置いてから再び意見を述べた。
「だけど、もう少しで出口だ。それまでは探せるだけ探すとしよう」

「ふむ、そうだな。アシュタロンはどうだ?」
「兄さんがそう言うなら、僕も構わないよ」

 意見が纏まったところで一行は妖怪の捜索を再開した。そして、出口が見えたところで、三機は目的の妖怪と遭遇した。


「う〜ら〜め〜し〜や〜」

 妖怪は向こうから出てきたのである。
 目や口が付いた傘を持った妖怪の少女−−。

「この娘で間違いないね」
「あれ、ムシ!?」

 確信したリボーンズが言うと、ヴァサーゴは少女の眼を見て頷いた。
「だろうな、瞳の色が左右と違う。アシュタロン、確保だ」
「分かったよ兄さん」

「え、あ、アレ」
 突然、身体を担がれたことに少女はきょとんとする。だが、直ぐに自分が置かれている状況に気づいた途端少女は悲鳴まじりに叫んだ。

「いやああぁぁ! 妖怪にさらわれるぅぅ!」
「「「君が言うな」」」

 モビルアーマー形態のアシュタロンの上で、じたばた脚を動かす少女に総ツッコミを入れた後。三機は悠々と幻想郷の空を飛んだ。

「それで、これからどうする?」

 傍らに居るヴァサーゴがそう尋ねると、リボーンズキャノンは妖しく笑い声を漏らす。
 心の奥底が見えない反応に、ヴァサーゴが怪訝な表情を見せる中でリボーンズキャノンは述べた。

「とりあえず、妖怪を全て消すのさ。雨も止みそうだね」

 弱まる雨を手で受けながら、リボーンズキャノンのゴーグルアイは空を眺めていた。


      ◇       ◆      


「あなたは食べていいの?」

 すっかり雨が止み。雲の間から陽が注がれた頃、ある橋の上でルーミアは闇の中から赤いモビルスーツに尋ねた。
 本来、彼女にそう言われた場合、人間なら恐怖におののくだろう。
 しかし−−。
 そのモビルスーツは違った。
「はっはっはっは! 食われる……か。んなこと初めて言われたぜ、お嬢ちゃんよ」
 モビルスーツは笑っていた。それはまるで、飢えた野獣が望んでいた獲物を見つけたかのように笑っていた。
 宵闇の中、アルケーガンダムは四つの紅い眼を光らせてそう言う。

「そーなのかー」

「そーなんだよー。さぁて、クライアントからの依頼だ。お嬢ちゃんを盗みにきた……ファングぅっ!」

「あはは、そーなのかー!」

 幻想郷の住人はいきなりには慣れていた。
 この郷にいれば、例え妖怪であったとしても突然弾幕ごっこになるなど常……。
 襲われることも、また然りである。
 暗闇の中、アルケーガンダムから放たれた三つの何かをルーミアはひらりひらりと交わし−−。前方から迫った何かをしゃがんで送り、後退した。

「まあ、こんくらいできて突然だよな……でもよ」

「え?」

 ルーミアは、そこで力を使うつもりでいた。しかし、アルケーガンダムがそんな言葉を口にした瞬間。ルーミアは背後で何かが待機していることに気付く。
 それは先程避けた、飛来する何かだった−−。

「今度こそいっちまいな、ファングぅっ!」

「イタアツっ!」

 アルケーガンダムの命令のまま、背後に突き刺さる三つの何か。それらはルーミアに激痛と熱を与えた。
 そして……。

「何だ何だ。てんで相手にもならねぇぜ」

 アルケーガンダムは退屈そうにしながら、悶絶するルーミアを縄で縛りあげていく。
 アルケーガンダムは期待していたのだ。あの反応ならもう少し楽しませてくれるのではないかと−−。

「い、痛いからコレ取って取ってー」

 暗闇の中でそう懇願してくるルーミアに仕方ねぇと呟きながら、アルケーガンダムはルーミアの背中からファングを外して回収した。

「うぅ、痛かった……」

「まあ、文句ならクライアントに言ってくれ」

 ルーミアの力が弱まったからか、アルケーを覆っていた闇は霧が晴れるように消えていった。
 同時に、アルケーの足元には縄で身体を拘束されたルーミアが横たわる形で現れる。ルーミアは涙目でこちらを見上げていた。

「さぁて、行くとするか」
「そぉ〜なぁ〜のぉ〜かぁ〜」

 ルーミアの頭を強く撫でた後、アルケーはルーミアを脇に抱えて空へ飛んだ。未だミッション中、油断せず余裕をもって帰還しなければならない。
 その為、飛行速度も自然と上がっていた。

「おい、お嬢ちゃん」

「なーにー?」

「向かい風は強すぎるか?」

 一応の配慮をしてみると、ルーミアはふるふると顔を横に振った。
 どうやらこのままで大丈夫らしい。

「なら良いか」

 そう言うと、アルケーは速度をそのままにした。
 まだミッションは始めたばかりのアルケーにはまだ標的があった。ルーミアを下ろした次は、正体不明で有名なエイリアンを捕獲しなければならないのである。

「まあ、楽しませてもらうとすっか」

 幻想郷の猛者達と楽しく戦りあえるのではないか。笑みを零しながら、アルケーはクライアントの住家を目指して飛びつづけた。


      ◇       ◆      


 サニーミルクは困っていた。というのも、その原因は彼女達の家で居候しているれんごー軍にあった。

「あーだりぃ」

「暇すぎてビーム吐き散らしてぇ」

「だるい……」

 カラミティ、レイダー、フォビ丼。口々に暇だ何なのと文句を言っているのだ。しかし、逐一そんなことを言われては自分の気分も盛り下がってしまう。

「ちょっと、そんなこと言われたら私達も気が滅入るじゃない!」

 サニーミルクがカラミティ達に問い詰めると、スターサファイアもそーだそーだと声を上げて賛同する。
 しかし、カラミティはそんなサニーミルクを眺めてから、レイダーとフォビ丼に尋ねた。
「ああ? えっと誰だったっけコイツ」

「コイツあれじゃね?」

「……ああ」

「「「たいよう牛乳」」」

 三機がシンクロして述べた新しい名前に、サニーミルクは慌ててツッコミを入れた。

「ちょ、違うわよ! なにソノありそうな商品名!?」

「え、たいよう牛乳でしょ」

「え゙っ!?」

 まるで当たり前のことのように言い張るスターサファイアに、サニーミルクは固まった。
 普通、此処は訂正してくれるんじゃないの!? サニーミルクの心中はそんな絶望感で満ちていた。
 すると、そこにサニーミルクの肩を叩く者がいた。

「カオス」

 なんだ味方はいるじゃないの。サニーミルクは安堵−−、
「とゆーわけだ、諦めろ。たいようの恵み」
 出来なかった。

「私はサニーミルクよコンチクショウ」

 涙を流してツッコミをいれるサニーミルクを放置しつつ、カオスは家の中を一瞥してからあることに気付く。

「そういや、ルナチャイルド見ねーな」

 先程、ガイア、アビスがケルベロスの散歩に行ったぐらいだろうか。三月精の一角が居なかった。
 カオスの声が聞こえたのか、スターサファイアが思い出したように言う。
「ルナなら、ケルベロスの散歩に付いてっていったわ」

「へー、お前はたしか……ニート姫だよな?」

「似てるけど! 似てるけどさぁ!」
 そう、カオスにツッコミを入れるが。強く否定できない自分も居るところに、スターサファイアは激しい悔しさを覚えるのだった。
 その頃、カオスとスターサファイアの話題に上がった者達は−−。

「イヤアアアァァァ!?」

「る、ルナちゃん大丈夫ー!?」
「手ぇ、放すなよ〜」

「ムリムリムリ!」

 草原でケルベロスに振り回されていた……、ルナチャイルドが。


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