学園都市麻帆良、世界でも有数の学園都市である。その敷地内には、島一つが丸ごと図書館である『図書館島』、遙か遠くからでも見ることの出来る『世界樹』などがあるが、不思議なことにそれを目当ての観光客などは殆ど見ることが出来ない。
そんな麻帆良のはずれにある森の中に、一軒のログハウスが建っている。
「ナァ御主人」
「どうしたのだチャチャゼロ?」
そして、その中では一体の人形が少女に話しかけ、人形に話しかけられた少女はそれが何事でもないかのように、返事を返している。
「アイツ、…、ムカエニイッテヤリテーナ」
「…そうだな。だが、今の私にはかなわんことだ。最後の調整の時地下で眠りについたからな、それがせめてもの救いだ」
「ソウダナ…、俺ト御主人ガイネートスグ泣クカラナ」
「「…」」
一人と一体はそこまで話してから、同じように大きな溜息を吐いた。思い出されるのは、数百年の昔のこと。少女と人形ともう一人で、世界中を旅していた頃の思い出。
とある理由から、二十年ほど前にある場所で眠りについたので今この場には居ないが、少女と人形はもう一人の事を忘れたことは一日たりとてなかった。
「マスター少しお話があるのですが」
「どうした茶々丸」
少しだけ思い空気になった部屋の中に、茶々丸と呼ばれる女性が入ってきた。
「これを御覧下さい」
そういって茶々丸と呼ばれた少女はテレビを付け、少女が何事かと思いながらもテレビに視線を向けると、そこには外国人のリポーターが映り何やら真面目そうな顔で喋っており、その後ろには自信で倒壊したのだろうか、原形を留めていない建物が映っていた。
「? このニュースがどうしたというのだ?」
「マスターの隠れ家がこの近くにあったと私の記録の中にあるのですが…」
茶々丸がそこまで言ったとき、少女は持っていた裁縫道具を落とし、ある理由か動くことの出来ないはずの人形でさえ、置かれている台の上から落ちてしまうのだが…。
「「ああー!?」」
それでも、何かを思い出したかのように大声を上げるのであった。
『人形より愛を込めて』(ネギま こわい人形 読み切り)
少女達が日本からその映像を見ているとき、現地では懸命の救出作業が進められていた。だが、そんな作業の中森の中から地震で崩れた一軒の古い建物が発見された。
しかし、それが問題になったのだ。その森の中に、建物があるというのを地元の人間は誰も知らないばかりか、村の長であろう人物達は、何かを知っているのだろうが頑なにその建物については話すのを拒んだのだ。
そう言うこともあり、持主不明の建物は人が住んではいないものとされ、瓦礫の撤去作業は後回しにされた。しかしその夜、瓦礫の一部が崩れ、中から何かが飛び出してきた。
「? ママー? おねーちゃん?」
瓦礫の中から飛び出してきたのは、身長七十センチくらいの小さな男の子だった。男の子は、誰かを捜すように『ママ、おねえちゃん』と繰り返し呼びながら当たりを探し回っている。
どれだけ探し回っただろうか、結局男の子の探し人は見つからず男の子はその場に座り込んでしまい、小さく嗚咽を上げ始めてしまった。
「マッ、…おね、ちゃん、…」
「誰か居るのか?」
そんな男の子の声が聞えたのか、明かりをもった一人の男性が瓦礫となった屋敷にやってきた。だが、男の子はその声には応えず泣き続けていた。
「坊主、こんなところ、で…」
子供が泣いているのに気がついた男性は、明かりを男の子に向けながら声をかけたのだが、懐中電灯の明かりが男の子照らし出し、その姿を見た瞬間に言葉をなくしてしまった。
「いないの…、ママもおねえちゃんも…、誰もいないの…。ねぇ、おじさん…、どこに行ったのか知らないかなぁ? 僕に教えてよ」
「ひっ!? に、人形が、人形が動いてる!? 誰かっ!? 誰か来てくれっ!」
暗闇の中、光を当てられ瓦礫の中に浮かび上がった姿は、小さな少年の物で間違いなかったのだが、近くに寄ってみるとその体には人間にあるはずのない継ぎ目がしっかりと確認することが出来た。
「いっちゃった…。ママ…、おねえちゃん…、どこにいるの…」
男が叫びながら去っていった後、その場に残された人形は自分の探し人の事を思い出し、小さく泣きながら闇の中に消えていくのだった。
麻帆良のはずれにある家の中で少女と人形が、テレビを見ながら叫んだ日から数週間が過ぎた。
「マスター、やはり情報に間違いはないようです」
「そうか…、計画が上手く行けば麻帆良から出て行くことが出来るわけだな…」
その麻帆良の中にある学校の、とある教室の中で茶々丸とそのマスターである少女、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは怪しげな密談をしていた。
そんな二人の前には一台のパソコンが起動しており、その画面に映し出されているのは一人の少年の写真とプロフィールだった。
「茶々丸、超からの情報に間違いはなさそうか?」
「はい。超さんからいただいた情報に間違いはなさそうです。マスターの登校地獄とは別に、魔力を抑えている結界があります。その結界は学園に供給されている電力を使い維持されていますので、予備電力だけでは維持できません。ですので、大停電の日に一時的にマスターの力も戻るものと思われます」
茶々丸の話を聞きエヴァンジェリンは鷹揚に頷いてみせながらも、心の中ではかなり気が急いていた。万が一あの地震で自分の隠れ家が壊れているとしたら、ある事情からあの館で眠っている『あの子』が起きてしまうかも知れないのだから。
「茶々丸、引き続き情報を集めろ。細かなことでもいい、動きがあればすぐに知らせろ」
「わかりました」
それからさらに日は流れ、エヴァンジェリンの計画の要となる『ネギ・スプリングフィールド』が麻帆良にやってきた。その少年が日々騒ぎを起こすのを見ながら、エヴァンジェリンは着々と計画の準備を進めていた。
そして、計画実行日…。
「ふふ、いよいよだ。いよいよ、この時が来たのだ。茶々丸、準備にぬかりはないか?」
「問題ありません。マスターの呪いが解けた後、この地を離れる準備も出来ています」
「そうか…、ではいくぞ」
エヴァンジェリンの宣言に合わせるかのように、麻帆良全域を一瞬闇が包んだかと思うと、エヴァンジェリンの体から、圧倒的な魔力が沸き上がってきた。
エヴァンジェリンはその姿を少女から妖艶な大人のそれに変え、漆黒のマントを翻しながら闇夜へと踊り出していく。
エヴァンジェリンが一時的に嘗ての力を取り戻した一方で、麻帆良のあちこちでは魔法関係者と呼ばれる人達が走り回っていた。麻帆良を覆っていた結界が解けたことにより、外部からの侵入者が都市内に一斉に入り込み、その対応に忙殺されていた。
その侵入者への対応に、魔法関係の警備員である二人の少女も駆り出されていた。一人は桜咲刹那、身の丈はあろうかという野太刀を振るう、神鳴流という流派の使い手である。
もう一人の少女の名は龍宮真名、その筋では有名なスナイパーである。この二人は、その戦い方の相性から二人一組で組むことが今までも何度か会った。
この日も、事前に指示されていた自分たちの警備区域に侵入した者達を問題なく撃退していた。
その時までは…。
「これであらかた片付いたな」
「ああ、周囲に侵入者は見受けられないね。それにしても…、事前に知らされていたよりも数がかなり多いじゃないか。これは、学園長に追加料金を請求しなければ割に合わないね」
そう呟く龍宮を見て、桜咲は心の中で魔法関係の責任者であり、麻帆良学園の学園長でもある人物に手を合わせるのであった。
「こんばんは、おねえちゃんたち」
「「!?」」
唐突に声をかけられた二人は、驚きながらも自分たちの得物に手をかけすぐに動けるように体勢を整える。侵入者を撃退した直後で少しだけ気が緩んでいたとはいえ、すぐそばから声をかけられる程気を緩めていた覚えは二人ともなかった。
「ねぇおねえちゃんたち。ママとおねえちゃんがどこにいるか知らない? おねえちゃんたちからママの臭いがするんだ」
「人、形?」
「気をつけろ刹那、あれは普通じゃないよ」
声をかけてきたのが、身長七十センチ程しかない人形だったことに、刹那は一瞬気を緩めそうになるが、龍宮は頬に一筋の汗を流しながら注意するように刹那に声をかける。
「ねぇ、意地悪しないで教えてよ」
「生憎と私達は君のママとやらは知らないからね、教えようがないよ」
「うそだ。ママの臭いがするもん! どうして意地悪するのさ!? そんなに意地悪するんだったら…」
龍宮の返答に、人形は癇癪をこしたかのように声を荒げ、どこから出したのか両手にナイフを持ち…。
「壊しちゃってもいいよね?」
「「!?」」
壊れた笑みを浮かべた人形を見たとき、刹那と龍宮は背筋に寒いものを感じ、その場から大きく飛び退ると、それまで二人がいた場所のアスファルトが細切れに切り裂かれていた。
「あれ? はずしちゃった」
「龍宮! 援護を!」
刹那は短く龍宮に援護を頼み、自分の有利な距離で戦闘をするために、一瞬で人形との距離を詰め野太刀で切り結びはじめた。
「ふふっ、おねえちゃん強いんだ」
「ふっ!」
人形は刹那の技量を褒めているが、刹那の方はそれどころではなかった。
「くっ!?」
自分よりも圧倒的に短いナイフという得物であるにもかかわらず、刹那の攻撃は悉くいなされ有効打を放つことが出来ずにいた。それどころから、攻撃の手を緩めれば先程のアスファルト同様切り刻まれるだろう。
「でも、まだまだだね」
人形は楽しそうにそう言ったかと思うと、刹那の振るっていた野太刀は大きく後ろに吹き飛ばされていた。
「なっ!?」
余りにも一瞬の出来事に刹那は動きを止めてしまい、その眼前には鈍い光を放つナイフが迫っていた。
「おっと、あぶないなぁ」
だが、ナイフが刹那の体に吸い込まれる寸前、周囲に甲高い音が響き渡り、刹那の体に刺さっているはずのナイフは横にズレ、服一枚を切るだけとなり、人形は軽口を叩きながら刹那から距離を取るのだが、それを追うように龍宮が追撃をかける。
「呆けるな刹那!」
「っ!」
龍宮の声にすぐに我を取り戻した刹那は、弾かれた野太刀をすぐに拾いもう一度人形と相対する。
「ふふっ、二人ともきりきざみがいがあるなぁ。そうだ! 昔おねえちゃんが『さっくりが駄目ならざっくり殺ればいいじゃない』っていってた!」
何を思いだしたのか、人形は楽しそうにそう言うと、持っていたナイフをしまい…。
「アデアット!」
新たな得物をその手に呼び寄せた。人形の手には刃渡り一メートル、幅五十センチの無骨な剣が握られておりその側面には『極楽浄土』と日本語が彫られていた。
「極楽浄土?」
その文字を見たとき、龍宮は何かを思い出しそうだったが、その思考は目の前にゆっくりと近づいてくる人形から感じる、先程まで以上の怖気によって遮られた。
「綺麗にざっくり出来たら、おねえちゃん褒めてくれるかな? ママは喜んでくれるかな? 楽しみだなぁ」
人形は楽しそうにそう呟きながら二人に近づいていく。
「動いたら駄目だよ? おねえちゃんたち」
そう言った次の瞬間には、人形が二人の目の前に現れ大きく振りかぶった剣を振り下ろしていた。その攻撃を何とか刹那が受け止め、零距離から銃を発砲する。
「だめだよ動いたら。綺麗に手足を切り落とせないじゃない。余り僕を困らせないでよ」
人形は零距離からの攻撃でさえ難なくかわし、二人に切りつけていく。近距離から大きな剣で切りつけられているのも関わらず、龍宮と刹那には何故か、剣を知覚する事が難しかった。
アーティファクトの中にはそのようなものがあるとは聞いたことがあったが、敵の力量も合わさり実際に相手にするにはかなり厄介なことこの上ない。
「今度こそ動いたら駄目だよ。そしたら…、極楽浄土に連れて行ってあげるか」
「君は少し喋りすぎだよ」
楽しそうに話す人形の言葉が終らぬうちに、その頭部を龍宮が銃で撃ち抜き、その直後刹那が人形の体に切りつけ、人形の体に野太刀が吸い込まれる。
そう思った瞬間、野太刀が切り裂いた人形は空気に解けるように消えてしまった。
「なっ!? 分身の術だと!」
「「「「「「そうだよ。良くできてるでしょ?」」」」」」
驚愕の表情を浮かべる刹那に対し、いつの間にそこに移動していたのか、少し離れた所にいる人形が刹那に話しかけた。六体に分かれて…。
「バカな…、人形が分身の術を使うだと?」
分身の術、世間一般的に『気』と呼ばれるものを使い、その使用者と同じ容姿をした物を作り出す技のことだ。それ故に、刹那と龍宮の驚きはかなりの物だ。
本来、生き物ではない人形がそれほどまでに大量の気を持っているはずがないからだ。仮初めの命を与えられ、製作者から魔力などを送られることでしか、動くことの出来ない人形が使えるようなものではないのだ。
「「「「「「たのしく切り刻んであげるよ」」」」」」
六体に分かれた人形は同じように剣を振り上げ、一斉に二人に襲いかかろうとしたが、その直前本体を除く五体を見えない何かが撃ち抜き、その姿を消し去った。
「二人ともだいじょうぶかい?」
そこに現れたのは、スーツに身を包んだ一人の男性であった。その男性はポケットに手を突っ込んだまま、油断なく人形と距離を取る。
「あれはなんだい?」
「解りません。急に現れて『ママとおねえちゃんがどこにいるか知らない? おねえちゃんたちからママの臭いがするんだ』と、いってきたんです」
「ママとおねえちゃん、ね」
「おじちゃんからも、ママとおねえちゃんの臭いがする…。ねぇおじちゃんは知ってるの? ママたちのいるところ?」
おじちゃんと呼ばれ、少しショックを埋めた男性であったが、それを表面には出さず年長者らしく落ち着いた物腰で人形に話しかける。
「生憎と僕に心当たりはないよ。もしよ「なんだ、知らないんだ。だったらおじちゃんに用はないや」! 二人とも下がるんだ!」
先程の話しているときと違い、一気に場の空気が重くなっていく。その中心に居るのは間違いなく一体の人形、その人形からあふれ出す濃密な、それこそ周囲の温度が下がったと思わされるほどに濃い殺気を放つ一体の人形だった。
「これは…」
男性には人形から放たれる殺気に何となく覚えがあった。だが、それがいつ、どこで、誰に、と言う肝心の所が曖昧でハッキリと思い出すことが出来ないでいた。
「二人は応援を呼んで来てくれないか?」
「ですが!?」
男性の言葉に、刹那は反論しようとするが、その首根っこをもって龍宮がこの場を離れていく。
「もういいの?」
「待っててくれたのかい?」
「だって、おねえちゃんたちがいたらおじちゃん本気でやれないでしょ? おねえちゃんたちはあとで切り刻めるけど、本気のおじちゃんはこうやってしか戦えないんだもの。だから…、もういいよね? いくよ!」
「右手に魔力! 左手に気!」
人形が男性に向かって斬りかかってくるよりも早く、男性は自分の中で最高の技を使い迎え撃つ。それは偏に勘によるもの、長い間いろいろな戦場を経験した己の勘を信じ、究極技法とさえ言われる技を迷い無しに使う。
「すごいすごい! おじちゃん凄いよ!」
「全部避けられたら褒められても余り嬉しくないね」
ポケットに手を入れた状態から不可視の攻撃が人形を襲うが、その悉くを人形はかわし、さらには少しずつ男性との距離を詰めている。そのことに男性も気がついているのだろうが、男は気にした風もなく不可視の攻撃を続けていく。
「これで終わり?」
「いや、これが本命だよ」
男性がそう言った次の瞬間、大砲が撃ち出されたような音が響き、人形はその体を中に飛ばし、数十メートル吹き飛ばされていた。
自分の一撃に自信があるのか、男性は吹き飛ばされた人形に対し追撃をかけずゆっくりと警戒しながら近づいていく。
「いたたたたっ、さっきの攻撃すごいね!」
だが、人形はむくりと体を起きあがらせると、何が楽しいのか笑顔を浮かべながらはしゃいでいる。だが、はしゃいでいた人形は自分の体に視線を落とすと、急に笑うのを止めてしまった。男性が、その人形の視線を追うと服の一部が破れていた。
「ママが…、ママが誕生日にくれた服が破けちゃった…。ママが、ママがくれたのに…」
人形は、服が破れたところを撫でながら、何やらぶつぶつ呟いている。そして、次に顔を上げたときには両目の端に大粒の涙を溜めていて、男性を睨み付けながら…。
「ひっく…」
「え?」
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
大泣きを始めてしまった。
その余りに声の大きさに、男性は両耳を押さえてその場に蹲ってしまっていのだが、人形は男性の事などお構いなしに盛大に泣き声を上げている。
「どうしたらいいんだろうね」
どうにか耳が回復した男性は、泣きじゃくる人形の扱いに困っていた。本来なら今のうちに戦闘が出来ないように何らかの手段を講じなければいけないのだろうが、本当の子供のように悲しんでいる姿を見ると、どうこうすることは出来なかった。
どうした物かと男性が困っていると、不意に人形は泣くのを止め当たりをきょろきょろと眺め始め、男性はいつでも攻撃が出せるように両手をポケットに入れて様子を見ている。
「ママだ…」
「え?」
「ママの臭いが近づいてきてる! ママー! ママー、僕此処だよー!」
人形はある方向を見ながら、自分が此処にいるのをアピールするかのように両手を振っている。男性もそれにつられるように、人形が見ている方向に視線をやると、そこには自分の受け持っているクラスの生徒が二人、闇夜の中を飛んできていた。
「エヴァに茶々丸くん? エヴァ…、人形…、それにあの動き…、! 君はエヴァの作った人形だったのかい?」
「うん! チャチャゼロおねえちゃんの弟です」
チャチャゼロという名前を聞いて、男性はようやく頭の中に先程出てこなかった答えが出てきた。嘗て自分に戦い方を教えてくれた師匠、チャチャゼロのそれと同じ動きをしていたのだった。
男性がそんなことを考えている間に、茶々丸が自分たちから少し離れた位置に降り立ち、その腕からエヴァが降りると…。
「ママー!」
「ヒロイ!」
一人と一体は互いにそう呼び合うと、一緒に走り出して…。
「ぶげらっ!?」
ヒロイと呼ばれた人形が、全速で走った勢いのままエヴァに飛びかかり、そのまま吹き飛ばしていた。
「ママー! ママー!」
「…」
ヒロイのぶちかましを受け、エヴァはぐったりと項垂れ、そんなことには構わずヒロイは探し求めていた人物に会えたことに喜びながら、その薄い胸に顔を押しつけている。
「…はっ!? ヒロイ! 無事だったのか!?」
「うん! 起きたら誰もいなくて寂しかったんだよ? でも、おねえちゃんやママに会いたかったから頑張って捜したんだ!」
「そうかそうか、ヒロイはえらいな」
エヴァは、ヒロイが泣き虫なのをよく知っている。恐い番組を見た夜などは、いつの間にか自分の布団の中に入り込むぐらい恐がりだし、マリリンに会いたい等を見たときは目を真っ赤にして泣いていたのも知っている。
そんなヒロイが、自分たちを捜して遙か遠くヨーロッパの地から、極東と呼ばれるこの日本までやってきたことに、エヴァはとても感動していた。
「だってぼくお兄ちゃんだもん!」
胸を張ってそう言うヒロイだったが、先程からエヴァの手を握ったまま離しはしなかった。そのことがまたエヴァは嬉しく、つい口元に笑みが浮かんでしまうのだった。
「エヴァ、感動の再会の所すまないが、できれば事情を説明してくれないかな?」
「そうだな。詳しいことはジジィも交えて説明するとして…、この子の名前はヒロイ、チャチャゼロと同じ時期から私を護ってくれている私の家族だ」
「そうだったのか。通りで強いと思ったよ」
「当たり前だ。ヒロイはチャチャゼロとほとんど同じ強さがあるからな」
そんなことを話しながら、大停電の長い夜は明けていくのだった。
その後、エヴァから詳しい説明を受けたこの地の責任者『近衛近衛門』は、ヒロイの秘密を知り頭を抱えることになるのだが、それは少し先の話となる。
「おねえちゃん!」
「オァァァァァァッ!?」
因みに、エヴァとヒロイが再会した後、家でヒロイがチャチャゼロに全力で抱きつき吹き飛ばしたのは、暖かい家族のエピソードの一つである。
おわり。
※後書き
皆様、夏バテなどにはなっておりませんでしょうか? 作者です。
最近まったく話を思いつかず、ただただ思いついた事を書き連ねると言うことをしております。その中で、どうにか話として出来ているような気がしないでもないような作品ができました。読み切りと書いておいて全く読み切れておりませんが…。
読んでいただければ幸いです。
ではまた。