そこに男が居た。
遠く地平線に至るまでぐるりと視界を遮る物は無い、気持ちよい風の吹き抜ける草原。
天気は快晴にして気温は最適、実に旅日和といった風情である。
しかしそこに佇む男はきっと旅人ではない。
装いは軽く荷物は肩から掛ける鞄が一つ、どちらもこの辺りでは見たことの無い珍しいものだ、まぁ旅をする者の格好ではない。
男の正体はこの場だけを見ては決して分からない、だが幾分か前から見ていた者は畏れを含み答えを口にするだろう、近くにある草地の抉れたような跡が真実の一端。
「よう兄ちゃん、こんなところで無用心に何してんだ。
そんなに無防備じゃあ、怖ーい賊に襲われても文句は言えねぇぜ、あぁ俺たちみたいななぁっ」
体格の良いがっちりとした男が現れた、チビとデbふくよかな体型の方が後に続く、三者三様だが身に着ける黄色の布が唯一共通点を作っていた。
「な、なんだか変わった格好してるんだな」
「へへっ、小綺麗な格好して、どこぞの貴族か商人の坊っちゃんか。今日はついてやすねアニキ!」
「おうよ。官軍を出し抜いて気分が良かったところだが、こんなところで更に稼ぎが増えるとはな、正についてるぜ」
佇む男を置いて話は進む、急激な展開は男を流れの中に孤立させる、物語(大きな流れ)はその中に男を押し込めようと今まさに口を開け呑み込まんとしていた。
そんな中で、男も口を開くのだ。
「よし、西に向かうか」
「あぁん?」
「何言ってやがんだコイツ!」
「い、いつの間にか、な、何か変なものに乗ってるんだな」
全てを置き去りにして男は疾風のように走り去って行く、いつの間にか車輪が二つ付いた奇妙な乗り物に乗っていたのだ、速さで言えば馬にも負けていなかった。
りんりんと遠くから清涼な響きがこだまする。
「な、何だったんでやすかねぇ?」
「見えなかった、奴がアレを出した瞬間が。
超高速だとか妖術なんてチャチなもんじゃねぇ、もっと恐ろしいモノの片鱗を味わった気分だぜ……なんだな」
「デ、デク?お前一体どうしちまった!」
☆☆☆☆☆☆☆
「止まりなさい」
「……あぁなるほど」
一陣の風と化していた男は走り出した辺りから幾ばくか離れたところで呼び止められた、男の進路を塞ぐように人の壁が出来上がっており、見事な威圧感を放っている。
「あなた……何をぶつぶつ言っているの?
それより早く止まりなさい、このまま進むのなら私達が止めてあげることになるわよ」
「止まれと言われて止まるやつは……、ってこれは追われている者の台詞か」
そう言った男は声を掛けてきた少女とその後ろに控える者達の前でピタリと止まった、その動きはまるで慣性を感じさせない、少女の高圧的な眼差しが若干だが更に強まった。
お互いの顔が見えるほどに近い距離、しかし男が少女に到達するには一足以上が確実に必要な間合いである、弓が構えられれば一方的な結果に終わるだろう。
「よしなさい、私達は話を聞きにきただけよ。
まぁ、その後は彼の話の内容次第でしょうけどね」
背後で動きを見せた者達をたしなめた少女は、しかし嗜虐的な瞳でもって男を見据えた。
「あぁ綺麗な顔して怖い奴……、美人にそんな目で見られると一般人は怯えてしまうだろうな。
見ろ、こんなにも足が震えている」
言われた少女はついと乗り物に跨がる男の足に目を向けるがそこは全く震えてなどいなかった、むしろ軽く弛緩している。
からかわれたのだと悟った少女は男に先程とは比べものにならない威圧を放つ、これこそが全ての上に立つ者の風格、王たる格の現れなのだと誰もが息を飲んでいた。
「あなたねぇ……」
そこで少女の言葉が詰まった、戻した視線が一点で止まる。
男の手にはいつの間にかあるモノが収まっていた、見たことのない材質で出来ているが形状からすると『傘』であろうか。
男が跨がっていた奇妙な乗り物は入れ替わるかのように消えていた、だが今さらそんなことに驚くことは少女には出来ない。
一瞬で事を切り替えるのだ、一瞬でも隙を見せることは出来ない、少女の本能は警告を発していた。
「それは……傘かしら?
一体そんなもので何をしようと言うの、大人しくこちらの言う質問に答えなさい、……悪いようにはしないわ」
警戒すると同時に少女は興味を覚えていた。
この近辺に潜むという盗賊を捕えるべく行軍していたら現れた男、馬にも乗らずに出せる速さでは無かった、奇妙な出で立ちだがよく見ると仕立ては上等、一連の流れで感じさせた何かの『技』。
先刻、ふと見上げた空に見えた流れ星、その落下場所へ一応の確認として放った偵察からの報告、少女の脳裏で何かが繋がり、それが少女の心を刺激していた。
「単純明解な答えだ、傘の使い道なんて古今東西雨を防ぐに決まってる」
「戯れ言を、こんな雲一つない空からまさに今、雨が降らんというの?」
「その通り。雨は降る、このように」
…………
………
……
…
体を叩く幾つもの感触、ザアザアと降りしきる音を聞き、やっと少女は理解した。
雨が降っている、雲一つなく晴れ渡る空の下に、大量の水の雫が降り注いでいた。
「……貴方、一体何をしたの! これは何の妖術だ!」
「何って、俺は傘を広げただけだろう、怖いお嬢ちゃん」
男の言葉に偽りは無い、正に男が傘を頭上で広げた瞬間、それを合図としたように雨が降り注いだ、起こったことはそれだけだ、だが男の口元にある緩い円弧はその短慮な思考を許さない。
「まさか、天を操ったとでも言うの……?」
降りしきる雨水の中、唯一乾いた衣服を着ている男の姿はどこか浮世離れしていた、広げる傘の下から覗く黒い瞳に少女はつい幻惑されてしまいそうになる。
「天の、御使い様だ」
誰が呟いたものであったろうか、その言葉が集団に浸透するに連れ全体に浮き足立った雰囲気が纏りつく。
心の中で浮かび掛けていた言葉が発され、少女は一度だけ小さくビクリと震えた。
だがそれだけだ、目にするは余りにも理解を越えた存在、しかし、だからこそ無様など晒せない。
少女が目指す覇王も常人の理解を越えるべき存在だからだ。
目の前の男がそこに至っているというなら対等以上であることを心掛けるべきである、自身を卑下にして取り繕うことなど絶対にしない、そう彼女の魂が告げていた。
「落ち着きなさい!
この程度のことで取り乱すようでは我が臣下足り得ない、全軍誇りを示せ!」
異様な雰囲気の中、覇気の篭った少女の声が木霊する。
それは場に燻る雰囲気を一瞬で祓う覇王の号令、平静を崩しかけていた兵達も皆即座に自分を取り戻す、ザと姿勢を正す音が重なり一瞬雨の音を打ち消した。
☆☆☆☆☆☆☆
「……やられたわ」
全員の意識が男から外れた瞬間、当然のように男はその間隙を縫って姿を消していた。
少女の視線を誘導して受ける印象を強化させたことと言い、意識の空白を衝くのが妙に上手い男である。
(でも顔は覚えた、次に会ったときは覚悟なさい。
この曹孟徳を虚仮にするかのような今回の戯、後悔させてあげるわ)
様々な感情で歪みそうになる顔を止めるため、雨の中に浮かぶ太陽を睨み付ける少女は口元のみで不敵に笑う。
眩しさに耐えながら見るそれは幾重もの虹を纏って、悔しいほどに綺麗だった。
★★★★★★★
event_log
00000『恋姫†無双』が開始されました。
00001スタートポイントに到着したため、開始前の選択エフェクト★じてんしゃ★が解放されました。
00002華琳とエンカウントしたため、★かさ★が解放されました。
なお、華琳に対し特定の条件を満たすと恋姫限定エフェクト★たいよう★を取得出来ます。
00003華琳に一杯食わせたため、ボーナスが発生しました。
アルバムに『ポカンとした華琳』が追加されます。
★じてんしゃ★
『外見』自転車に乗った姿
『効果』歩行可能な場所での移動速度が上がる。
『効果』呼び鈴を鳴らす。
★かさ★
『外見』傘を持った姿
『効果』傘を広げると雨が降る。
『効果』傘を回す。
とある男の呟き「無駄に難易度たけぇ……」
_____________
とあるプレイ動画を見てたら思い付いた、反省はしていない。
某ゲームのキャラも世界観も出てこないからクロスって訳でもないんだが、この場合は何て言うんだろうな。
思いつきのネタってことで省エネ設計、男がオリ主か魔改造一刀かすら未決定、居るのなら口を挟むべきキャラも明文化してないけどちゃんと居ました。