「議会は議論もなく執行部の原案通り可決するだけで、機能していない」-。2005年12月、鹿児島県阿久根市議選で初当選したとき、現在の市長の竹原信一氏が展開した議会批判である。
攻守所を変えて市政のトップに立つと、今度は議会招集拒否や専決処分の連発で自らの意思を強引に押し通す。「議会の議論がない」と憤ったはずが、議論さえ封殺しているのが現市政の実態だ。
この事態を打開しようと、市民グループが竹原市長のリコール(解職請求)に向けた署名活動を9月17日まで行っている。「市長独走」の是非は住民の審判に委ねられることになったが、一連の騒動は地方自治の問題点も浮き彫りにした。
市長と議会との対立の発端は、市長の市議時代にさかのぼる。常任委員会の北海道調査を「単なる旅行」として参加しなかった竹原氏に対し、議会は「職責に背く身勝手な行為」と問責決議案を可決した。一方、領収書偽造などで政務調査費をだまし取り、詐欺容疑で書類送検された市議に対し、竹原氏が提出した辞職勧告決議案はあっさり否決された。
市長就任後も、議員定数を16から10減らす条例改正案や市長給与半減案などを提出したが次々に否決された。こうした議会への根深い不信感が、破天荒な市政運営の背景にあるのは間違いなかろう。
市長不信任案可決-市長失職-出直し市長選を経て昨年5月に再選されると、その行動は先鋭化した。
庁内に張った職員の人件費を示す紙をはがした職員を懲戒免職にし、「嫌いなマスコミが議場にいる」と議会への出席を拒否。さらに「議会は反対しかしない」として定例議会さえ招集しなくなり、職員給与や議員報酬を大幅に減らす条例改正や、警察の裏金問題を告発した元愛媛県警の仙波敏郎氏を副市長にする人事などを次々と専決処分で決めていった。
とはいえ、独善的とも思える市長の言動に理解を示す市民がいるのも事実だ。市内の建設業の男性は「同業者ではボーナス自体ほとんど出ない。市職員の給与公開は、これまで誰も手を付けてこなかった」と市長を擁護する。
リコール署名の動きに呼応する形で、懲戒免職にした職員を職場復帰させ、25日から2日間の臨時議会を招集するなど軟化の兆しもある。しかし、知事の2度にわたる是正勧告に対する具体的な説明もなく、先行きは不透明といえる。
竹原市長の市政運営が他自治体に及ぼす影響も懸念される。議会招集や専決処分には法制上の規定はあっても、違反した場合の罰則規定はないからだ。こうした事態に総務省も首長と議会のあり方について法改正も含めて検討するという。
ともあれ、異なる意見にも耳を傾けて合意形成を図るという、民主主義の原点を忘れてはなるまい。今回のリコール騒動は、住民にとっても、首長と議会のあり方や地方自治のあるべき姿とは何かを問い直す契機になるだろう。
=2010/08/23付 西日本新聞朝刊=