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きょうの社説 2010年8月28日
◎北陸にも行方不明者 共通番号制度の導入を急げ
戸籍上は生きているのに、所在が分らない高齢者が石川県や富山県にも多数いた。親族
からの届け出がないために戸籍が残ったのだろうが、いかなる理由があったにせよ、親族や地域のきずなが深いとされる能登などに、少なからぬ数の「所在不明高齢者」がいた事実は重い。自殺者が毎年3万人を超え、10万人近くが行方不明となる現代社会で、親族などから の届け出に依存した現行のシステムは問題が多く、さまざまなひずみが出てきている。北陸の自治体を悩ませている子ども手当の未申請世帯の多さも、申請主義の限界を示しているといえるだろう。 政府の「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」(会長・菅直人首相)は先ご ろ、社会保障と税制に共通して使える共通番号制度の素案をまとめた。個人の年金や健康保険、納税状況などを一元管理できれば、行方不明者の把握は格段に楽になる。行政の効率化を進めるためにも「性善説」の上に成り立つ制度を見直し、共通番号制度の導入を急ぎたい。 基本台帳は総務省、戸籍は法務省の所管であり、100歳以上の高齢者数の把握は厚生 労働省が担当している。バラバラの縦割り行政を一つにまとめ、個人の納税、年金、医療といったものを一括して管理する仕組みが必要だ。 高齢者であれば、健康保険や介護保険の利用が年に1回もないのは不自然だろう。年金 の支給状況などと照らし合わせて定期的にチェックすれば、確認が必要な人がすぐに特定できるはずだ。また、所得や資産を正確に把握できれば、公正な徴税が期待でき、公的年金の一元化や所得に応じた「給付付き税額控除」など、新たな社会保障制度の導入も可能になる。 共通番号制度の導入には「国による監視強化につながる」などと反対する声もある。だ が、所在不明者を出さず、支援が必要な人をきちんと把握し、なおかつ不正受給を防ぐには、番号による管理が最も便利で実用的である。既に共通番号制度を導入している国を参考にして個人情報保護の仕組みをきちんと整えさえすれば、それほど心配する必要はないだろう。
◎刑場の公開 死刑論議深める出発点に
死刑執行の現場が初めて報道機関に公開されたことは、立ち入り場所が一部制限された
とはいえ、死刑制度の情報開示という点では大きな前進である。法務省はこれまで刑場について秘密主義を貫いてきたが、裁判員制度が始まり、一般市民もいや応なく死刑と向き合わざるを得ないことを考えれば、積極的な情報提供で幅広く理解を促す必要がある。今年2月に発表された内閣府の世論調査では、死刑を容認する人の割合は85.6%と 過去最高に上った。犯罪抑止効果や遺族感情など、さまざまな思いがあるだろう。制度の実態が徐々に明らかになれば、この数字も変わってくるかもしれない。だが、執行の重みをより多くの人が知れば、世論調査の重みも一層増すことになる。 世界的には欧州を中心に、死刑を廃止、停止している国が多い。そうした潮流から死刑 少数派である日本への批判も根強い。だが、司法制度は国が主体的に決めるものであり、国民の意識も極めて重要である。刑場公開も、国民的な議論を深める出発点にしてこそ大きな意味をもつ。 刑場の公開は、千葉景子法相が民主党政権として初めて2人の死刑を執行した7月28 日に指示し、東京拘置所で実現した。執行後の身体を収容する部屋は許可されなかったが、宗教者の話を聞く「教戒室」、執行を告知する「前室」「執行室」などが公開された。そうした写真や映像はたとえ限定された情報であっても、想像力を働かせるきっかけになる。 死刑囚の最期の場である刑場が公開されても、それは制度のごく一部である。死刑制度 に関しては、執行基準や処遇の実態など不透明な部分がまだまだ多い。情報提供の在り方も考え、さらに公開の流れを広げる必要がある。 千葉法相は省内に死刑存廃を含めて議論する勉強会も設置した。かつて死刑廃止推進議 連に参加し、死刑執行後も持論は変わらないことを強調した人である。参院選で落選し、次の内閣改造で退任の見通しだが、次期法相には情報公開とともに、客観的な立場で議論の場を整えることを求めたい。
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