きょうのコラム「時鐘」 2010年8月28日

 紙の魅力と価値を伝えるきのうの紙面の広告に、野口英世博士の母シカの手紙が掲載された。子を思う心があふれる有名な紙の遺品である

学校でも習った。中身はあらかた忘れたが、冒頭の「おまイのしせにわ。みなたまけました」は、判読できる。お前の出世には皆たまげました、である。誤字、脱字だらけの稚拙な手紙だが、読む人の心を打つ。読み書きに無縁の人が懸命に紡ぎ出す言葉は、重みが違う

手紙に「かねを。もろた」とある。博士の仕送りであろう。そのことは誰にも聞かせません。そんなことをしたら「みなのれて。しまいます」と続く。「のれて」は「飲まれて」か。酒代をせびられる心配を記し、「はやくきてくたされ」と帰郷を促す

いつの世も、カネの苦労や争いは絶えない。政治とカネを巡って、またひといくさである。引いたはずの人が「不肖の身」や「大義」を口にする。対するに、顔をこわばらせて「大変いいことだ」とやり返す

この国の指導者を自認する人たちは、なぜ何の重みもない言葉を使って、恥じないのだろう。いまさらながら、「たまげました」と、ため息が出る。