容赦のない怒号が飛び交った。見せ場も何もない、完封負け。神宮球場の“洗礼”は非情だった。終了と同時に足早に引き揚げていく真弓監督の背中へ、声援をかき消すような激しい罵声が、浴びせられた。
「真弓、辞めろ!」
「こんな試合見せて、優勝する気あるんか!」
「オープン戦みたいな試合すんな!」
広島に痛恨のカード負け越しを喫し、仕切り直した初戦が今季5度目の完封負け。1投手にやられたのは、今月8日の中日・中田賢(ナゴヤD)以来2度目だ。しかも館山には通算4度目で、今度は二塁すら踏めない惨状。つまり得点圏はゼロ。今季最長となった15回連続無得点に、チャンステーマを一度も歌うことすらできず見届けたファンのストレスが爆発したのも、無理はない。
「ちょっと(打線が)元気なかったね」
表情を変えることなく喧噪を抜け、クラブハウスで、真弓監督の声が静かに響いた。投壊が続いていた中で、先発のメッセンジャーが好投すれば、打線が沈黙するというチグハグさ。「何とか1点でも先に取れていたら試合の流れが変わったんだけど。なかなか安打がつながらなかったね」と嘆くしかなかった。
一回一死一塁で一走・平野が飛び出し、盗塁死すると、四回無死一塁でも鳥谷が三振、一走・平野が盗塁死で併殺。機動力を使った作戦が次々と裏目に出たうえ、七回一死一塁で新井のライナーを左翼・飯原が好捕するなど、いい当たりはことごとく正面を突いた。
悪すぎる流れ。どう打破するか。動くか、耐えるか。和田打撃コーチは「今日は昨日(26日)と意味合いが違う」と、広島・スタルツに抑え込まれた前日と違い、打撃自体は悪くないと説明。打線のテコ入れについては「いま打順を変えたり打撃を変えたりすると、いい影響を与えない。辛抱です」と否定した。
つまり『我慢』が、虎の答え。真弓監督も同じだ。打線を心配する声に「ずっと(調子よく)打てていたら(打率が)4割、5割の打者が出てきてしまう」と毒づくと、「とにかく、切り替えてがんばります」と語気を強めた。
ロードの負け越しに続き、今季初の月間負け越し(8月は3試合残し、9勝13敗)も決定。幸いGDも相次いで敗れ、首位・巨人とは1ゲーム差キープも、気づけば4位のヤクルトとは5差だ。V戦線も佳境で陥った、負のスパイラル。あえて動かず待つ虎だが…。早めに抜け出せなければ、致命傷となる。
「頑張れ!」「何とかしてくれ!」−。ファンの悲痛な叫びが、神宮の夜空に響いた。(堀 啓介)