【萬物相】キム・ヨナとオーサー氏の別れ

 「恥ずかしがり屋で、歯は矯正中で、英語は一言も話せない少女だった。手足は長かったがコントロールすることができない状態だった」。これは、ブライアン・オーサー氏が2006年、キム・ヨナに初めて会ったときの印象を語ったものだ。キム・ヨナが振付師のデヴィッド・ウィルソン氏から新プログラムの指導を受けるため、トロントを訪れたときのことだった。そこでキム・ヨナは、1988年カルガリー五輪銀メダリストのオーサー氏から3週間、ジャンプを学んだ。キム・ヨナの母パク・ミヒさんは、二人の息が合っているのを見て、専属コーチになることを依頼した。

 オーサー氏は昨年出版した「1回の飛翔のための千回のジャンプ」で、キム・ヨナの血のにじむような努力を次のように語った。「キム・ヨナの天才性を、天から授かった祝福と思う人は三日間だけ、彼女の練習を見てほしい。わたしの目標は、自分が持っているものすべてを分け与えること」。「歯列矯正器を付けた恥ずかしがり屋の少女」の才能を見出したオーサー氏は苦悩の末に、プロ生活に別れを告げ、コーチに転身した。

 キム・ヨナとオーサー氏は「幻想的なコンビ」だった。06年11月に開催されたエリック・ボンパール杯でのシニア初優勝を皮切りに、グランプリ(GP)ファイナル、世界選手権制覇に続き、2月のバンクーバー冬季五輪では世界の頂点に立った。選手時代に五輪で金メダルを手にすることができなかったオーサー氏も、「金メダリストのコーチ」として名声を得た。そんな二人はCMでも共演した。

 キム・ヨナとオーサー氏の契約解消をめぐり、大きな騒動が巻き起こっている。オーサー氏が「すべての騒動の発端はキム・ヨナの母にある」と主張すると、キム・ヨナは簡易投稿サイト「ツイッター」で、「うそをつかないで」と反論した。するとオーサー氏は昨日のインタビューで、キム・ヨナの新プログラムの曲として「アリラン」が使われることを暴露してしまった。シーズン前にプログラムの内容を公表しないというタブー行為を犯したわけだ。なお一部では、日本の大手企画会社がオーサー氏を浅田真央のコーチに引き抜くために、今回の騒動をけしかけたといううわさもある。

 キム・ヨナとオーサー氏は正式な契約関係を結んでいない。しかしキム・ヨナはオーサー氏について、「わたしが氷上で何を考えているのかを知る、唯一の人物」と話していた。それが今回、決別寸前の気まずい関係となってしまった。バンクーバー冬季五輪の際、米NBCテレビの解説者はキム・ヨナの演技を中継する際、「女王万歳」を連呼した。今回の騒動を機に、キム・ヨナの女王としての威厳が薄れないか懸念される。最終的に決別の道を歩むとしても、もっと互いに気持ちよく別れることができなかったのか、悔やまれるところだ。

趙正薫(チョ・ ジョンフン)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

このページのトップに戻る