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【静岡】アフガン復興、受け継がれる遺志 伊藤さん殺害事件から2年2010年8月27日
平和願う 家族の思いアフガニスタンで農業技術を指導していた非政府組織(NGO)「ペシャワール会」のスタッフ伊藤和也さん=当時(31)=が、武装グループに殺害された事件から26日で2年になった。同会は今も現地で地道な活動を続けている。両親らはアフガン復興のため、少しでも役立てばと基金を設立し、徐々に成果を挙げつつある。 「この2年は実に長かった。5年、6年と年齢を重ねた気持ちです」 伊藤さんが生まれた掛川市で本紙の取材に応じた母順子さん(57)はつぶやいた。目には涙を浮かべ、息子を亡くした心の傷は癒えていない。 事件を境に家族の生活は一変した。自宅に報道陣が押し掛け、取材を受ける度につらい記憶がよみがえる。伊藤さんと戦死した友を重ねる元兵士や宗教関係者が突然「お参りしたい」と訪ねてきて困惑したことも。外出すれば「和也さんのご両親」という目で見られ、居たたまれなくなったこともあった。 父正之さん(62)は「プレッシャーやストレスを感じることもある」。「それでも和也に関心を持ってくれると思うと、(取材や訪問を)断り切れない。事件を風化させたくないから」と、複雑な心境を語る。 両親らは事件後、伊藤さんの遺志を継ぐため「アフガン菜の花基金」を設立。寄付金などを元にアフガンに建設している、孤児らの寄宿舎は10月にも完成する。正之さんは「運営は現地の人に任せる新しい形の支援だ。平和な国を築くには教育が基本であり、一人でも多くの子どもが救われるよう願っている」とアフガンの将来を思う。 全国34カ所を巡回した伊藤さんの写真展には約4万人が訪れた。東京都渋谷区内で昨年末に開かれた写真展は、皇后さまもご覧になった。今も写真展開催の要望があり、順子さんは「和也がアフガンに興味を持つきっかけになった(2001年)米中枢同時テロの現場ニューヨークで、いつか写真展ができれば」と希望する。 ペシャワール会は現地代表の中村哲医師を中心に復興支援を継続。伊藤さんも汗を流し、03年から建設してきた全長約25・5キロの灌漑(かんがい)用水路は今年3月に完成し、約3000ヘクタールの農地が生まれた。試験農場では田植えも始まった。事務局長の福元満治さんは「事業を続けることが彼への弔い」と伊藤さんの志を忘れない。 しかし、現地では最近も民生支援の外国人医師らが殺害されるなど、治安情勢は悪化の一途。22日に掛川市で営まれた三回忌法要に駆けつけた中村医師は「アフガン情勢はさらに悪くなっている。みんな困っており、今こそ援助が必要」と危機感を強める。 アフガン駐留米兵の7月の死者は66人と伝えられ、01年10月の米軍などによるアフガン攻撃以降、月間で過去最悪になった。平和を願った伊藤さんの思いとは裏腹に、アフガン情勢は混迷を深めている。 (外報部・藤川大樹、掛川支局・佐野太郎) PR情報
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