ハルヒ×LASクロス短編 あたしは「変」がお気に入り
※この小説は新世紀エヴァンゲリオンと涼宮ハルヒの憂鬱とのクロスオーバー作品です。
「シンジが学校で暴力を振るっただと!?」
「ええ、担任の先生の話だとシンジの方から殴ったようですよ。理由を聞いても黙ったままだとか」
「何だと……」
ゲンドウは困ったように頭を抱え込んだ。
ユイも悲しそうに首を振って下を向いて深々とため息をついた。
「それで、シンジはどうしている?」
「ずっと自分の部屋に閉じこもったままで、夕食の時間になっても出て来ないの」
「一言も話そうとしないのか」
「ごめんなさいって泣くだけで、理由を聞こうとすると顔を背けて口をつぐんでしまって……」
「困ったものだ」
ゲンドウとユイの二人はしばらく考え込んだ後、ゲンドウの方からユイに話しかけた。
「シンジの友達に学校で何があったか聞くことはできないのか?」
「そうね、惣流さんの家のアスカちゃんなら……」
ユイはそう言って携帯電話を手にとって、惣流キョウコの番号を呼び出した。
「あ、キョウコ? ……うん、シンジの事なんだけど……」
電話をしながら表情を変えるユイをゲンドウも不安そうな顔で見つめていた。
「わかったのか?」
そう尋ねるゲンドウに、ユイは気まずそうな顔で黙り込んだ。
「……どうした?」
「今、アスカちゃんが家に来てくれるそうですから、その時シンジと一緒に……」
「わかった」
数分経たないうちにアスカがシンジの家を訪ねて来た。
「おじ様、おば様、こんばんわ……シンジは部屋ですか?」
「そうなのよ」
ユイがあごに手を当てて困った顔になると、アスカは「おじゃまします」と告げてシンジの部屋へと向かった。
アスカが部屋に入ると、背中を丸めて座り込んでいるシンジの姿を見つけた。
「シンジ、おじ様とおば様にまだ話して居ないの?」
「言いたくない」
「黙っていたって、おじ様とおば様を不安にさせるだけじゃない!」
「でも……話したら父さんが悲しい思いをするから」
「それは、そうかもしれないけど……」
シンジはアスカに手を引かれて部屋から出てきて、アスカと一緒にユイとゲンドウの前に正座した。
「えっと……」
「シンジ、言いにくいならアタシから話そうか?」
「うん……」
ゲンドウとユイが見つめる中でアスカがゆっくりと話し始めた。
「実は……クラスでおじ様の風貌を馬鹿にする人が出てきて……」
ゲンドウはサングラスを押し上げてアスカの話を聞いていた。
「最初は数人が『変なおじさん』だって騒ぐぐらいだったから、シンジも無視していたんですけど、そのうちエスカレートして行っちゃって……」
「そのうち父さんの事を悪い事をしてそうな顔だとか、言いだして……」
「それで、シンジが我慢しきれなくて殴りかかって、先生がやって来て……」
アスカとシンジが辛そうに話す様子を、ゲンドウは静かに聞いていた。
「そうか。こんなサングラスなどをかけている私が悪いのだから仕方の無い事だ」
「でも、なんで先生はその事を話してくださらなかったのかしら?」
ユイがそう言うと、アスカは怯えたような様子になった。
シンジが絞り出すように声を出す。
「先生は見ているだけで、何もしてくれなかったんだ」
シンジの発言にゲンドウとユイは目をむくほど驚いた。
「何だと、今の教師も情けなくなったものだ」
「最近、生徒に怒れない先生が増えてきているって言うけど……」
「僕は父さんが傷つくのが嫌だったから……だから僕が言わないでおけば……」
「シンジ、やっぱりあなたは優しすぎるほど、優しい子ね」
ユイは目に涙を浮かべてシンジを抱きしめた。
ゲンドウもシンジの言葉に感心しているようだった。
「私は『変なおじさん』でシンジに迷惑をかけているのか……」
「父さんが悪いわけじゃないよ」
「そうよ、おじ様」
辛そうにそうつぶやくゲンドウをシンジとアスカが慰めたがあまり効果が無かった様子で、碇家のリビングには重たい空気が流れていた。
次の日の朝、シンジ達のクラスは浮ついた雰囲気に包まれていた。
「あそこに置かれた新しい机は、このクラスに来る転校生のためのものらしいぜ」
「しかも、その転校生は凄い美人だって話だ」
「それは楽しみだ」
うわさ話に夢中になっているクラスの生徒達は、シンジとアスカが教室に入ってもチラリと視線を向けただけで、また話に戻って行った。
シンジとアスカはホッとした様子で席についた。
「アタシ、今日は学校に来るのが嫌で仕方無かったけど、しばらくは転校生の話題で持ち切りね」
「そうだね、僕が殴っちゃった相手もそっちが気になるみたいだ」
「アタシは何もしてくれなかった担任の先生の顔を見るだけで腹が立つけどね」
「それは我慢するしかないよ」
ホームルームが始まり、転校生が入ってくるとクラスの中はどよめいた。
「ウワサ通りの美人だ!」
「ああ、惣流に負けていない」
「スタイルいいわねー」
「本当にうらやましい」
男女問わず、クラスの生徒達は感心した様子で転校生に視線を送った。
転校生は教壇に立つと、担任の教師の言葉を待たずに自己紹介を始める。
「東中から来た、涼宮ハルヒ。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者が居たらあたしのところに来なさい!」
ハルヒの言葉に教室中が静まり返った。
その気まずい静寂に耐えきれなくなったのか、担任の教師がハルヒに着席するように促す。
ホームルームが終わると、クラスの生徒達はハルヒの側に群がった。
しかし、ハルヒが周りの生徒に話を合わせる事の無い性格だと言う事を知ると、興味本位で話しかける生徒達の数は減って行った。
それでも一部の男子生徒はこりずに昼休みもハルヒに話しかけていた。
「そうだ涼宮さん、あそこに居る碇とは仲良くしない方が良いですよ」
「あいつの親、変なおじさんだから」
「どんなおじさんなの?」
ハルヒが質問すると、男子生徒は笑いをこらえながら答える。
「サングラスをかけた髭がもじゃもじゃの2mの大男」
「授業参観に来た時の他の父兄たちに比べたら違和感が半端じゃない」
シンジを指差して笑う男子生徒を見て、お弁当を食べていたシンジとアスカは顔を曇らせた。
「まったくあいつら、気分が悪いったらありゃしない。シンジ、今度は安っぽい挑発に乗って手を出したらダメだからね」
「うん……」
しかしハルヒは何を思ったのか、自分の弁当箱を持ってシンジとアスカの席に近づいて来る。
シンジとアスカはただ驚いて空いた隣の席に座ったハルヒを見つめている。
「ねえ、あんたの親父さん、変で最高じゃない!」
無邪気な笑顔でシンジに話しかけて来たハルヒに、アスカとシンジだけでなく、クラスの生徒達も困惑した。
「あ、アンタ何言ってるのよ!? シンジを馬鹿にしてからかっているの?」
「馬鹿になんかしていないわよ。普通より変の方が面白いし、楽しいじゃない!」
「あの……涼宮さん、父さんの顔の特徴を聞いて怖いとか、嫌だとかは思わないの?」
「あたしにとって変って言うのは誉め言葉だわ、普通よりずっといい事じゃない」
シンジとアスカは元気に話すハルヒのテンションに少し戸惑いながらも、ハルヒと三人で楽しく話しながら昼休みを過ごした。
「ちぇっ、碇のやつめ、惣流だけでなく涼宮とも仲良くなりやがって……」
その姿を眺めていた男子生徒は思いっきり面白くなさそうにシンジの顔をにらんでいた。
放課後、ハルヒはゲンドウに会いたいと言う事でにシンジとアスカと一緒にシンジの家まで下校する事になった。
「父さんは電気工事士の仕事をしているから、家にいつ帰ってくるか分からないんだよ」
「あたしは少しの間でも会ってみたいのよ」
「アンタも物好きね、自分からシンジのパパに会いたいなんて、そんなの初めてよ」
「そういえば、なんで碇君の親父さんはサングラスをかけているの?」
「仕事で火花が散って、目の辺りにやけどをしたから、それを隠すためらしいんだけど」
「そうなんだ、てっきりあたしはちょい悪系ファッションなのかと思ったわ」
そうこう話している間に、三人はシンジの家に到着した。
「ただいまー」
「おかえりなさい。アスカちゃんも一緒なの……」
玄関に姿を現したユイはシンジとアスカの二人と一緒に居るハルヒの姿を見て言葉を止めた。
「初めまして、碇君のお袋さん! 変なおじさんに会いに来ましたー!」
「あ、あの……シンジ、この子は?」
シンジはため息をついてユイに事のいきさつを説明した。
ユイは信じられないと言った顔でシンジの話を聞いていたが、ハルヒのニコニコした笑顔を見て、悪意は無いと納得したようだ。
「仕方ないわね。……シンジ、悪いけどアスカちゃんと涼宮さんと一緒に家でお留守番をお願いね」
「どこかに出かけるの?」
「お夕飯の材料を追加で買いに行く事になったから」
ユイがそう言うと、アスカが慌てて話しかける。
「あの、おば様、アタシ達が急に押しかけてご迷惑をおかけして……」
「別にいいのよ、シンジに新しいお友達が出来たお祝いだと思えば」
そう言ってユイは楽しそうに家を出て行った。
買い物から戻って来たユイが作った夕食は、言葉通りお祝い事のある日のように豪華だった。
「ちょっと張り切りすぎたかしら」
「ユイさんの料理美味しい!」
たくさん作りすぎてしまったかと思ったユイだったが、ハルヒの食欲もかなりのものだった。
「アンタ、よく食べるわね」
「はは……涼宮さんなら何人前も食べそうだね」
賑やかな夕食をとっていると、仕事を終えたゲンドウが家に帰って来た。
女の子の靴が2組あるのを見て、ゲンドウはアスカとヒカリが来ているのかと思ったようだった。
「惣流さんのところのアスカ君と洞木さんの所の子が遊びに来ているのか?」
「初めまして、碇君の親父さん!」
玄関からリビングに入ったゲンドウは、突然ハルヒに元気いっぱいにあいさつをされて驚いて固まってしまった。
「君は?」
「碇君のクラスに転校してきた涼宮ハルヒです、本当に変なおじさんですね!」
ハルヒにそう言われたゲンドウは少し表情を固くした。
ユイやシンジやアスカはハラハラしながらその様子を見守った。
「こうしてお会いできて嬉しいです!」
「会えて嬉しい? 私と?」
「はいっ!」
笑顔でそう断言したハルヒにゲンドウは戸惑った。
「だって、普通だったらつまらないじゃないですか!」
「どうやら、涼宮さんにとっては変と言うのは褒め言葉らしいのよ」
ユイにそう言われてゲンドウは少し照れくさそうな表情になった。
その後の夕食の席でも、ハルヒはゲンドウの事を褒めていた。
ハルヒが帰った後、ゲンドウが上機嫌になったのを見て、ユイとシンジとアスカは安心した。
「私がこんなに顔の事を褒められたのは初めてだ、明るくていい子だな」
「本当によかったですね」
ゲンドウとユイが喜ぶ様子を見て、アスカは安心する半面、ゲンドウとユイに気に入られてしまったハルヒがシンジとの恋のライバルになってしまうのかもしれないと焦っていた。
「せっかく1組の綾波さんにシンジの事を諦めるように成功させたのに……」
しかし、そのアスカの心配は無駄に終わった。
ハルヒは何回かゲンドウに会うと興味を無くしてしまったようだった。
ゲンドウはその事にちょっと寂しさを感じているようだ。
「涼宮君は最近、私に会いに家に来てくれないな」
「だって、あなたが変なのは外見だけ何ですもの、中身は普通なんですから」
「やっぱり性格も変じゃないといけないのか」
「やめてください、あなた」
その後ハルヒは数ヵ月後に学校に転校してきた”キョン”と言う変なあだ名の少年に興味を持って友達になり、結構ウマが合っているようだ。
アスカはゲンドウの問題もシンジとの恋の問題も解決して、本当にホッとしているようだった。
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