<前書き>・笑い飯の伝説の漫才「鳥人」を小説化しました。・この小説は「小説家になろう」でもちょろっと投稿しましたが、アルカディアのほうが鳥好きの子供が多いとの噂を鳥人スレで耳にしたのでやってきました。・一つ一つの話が短いのは許してください。・ストーリーはあんまりないです。 ですから小説としての面白さは微妙な気もします。・鳥人召喚系、はやんないかな。 いつかルイズが間違えて鳥人を召喚することを願っています。・本命は『ドラゴスクエスト』で、こっちは息抜きなので のんびりと更新したいと思います。ドラゴスクエスト↓http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=original&all=21231&n=0&count=1・改行多くして横書きでも読みやすくしたつもりですが、 ああした方がいい、こうした方がいい、というのがありましたら参考にしたいので遠慮なくどうぞ。
第一話「鳥人現る」 僕は夏祭りが好きだ。夜店が並ぶ通りを何を買うでもなく歩く、それだけで楽しいのだ。 毎年僕はお父さんに連れられてやってくる。それは誕生日のように必ず一年に一回ある大切なイベントで、今日がその日だ。もう六年生だし親と歩くのは少し恥ずかしいが、今日だけは特別。 普段はただのひらけた何もない土地なのに、この日だけは屋台がところ狭しと並んでいる。どこの屋台も赤や黄色ばかり使ったお祭り色。近づいてみれば、焼きそばやたこ焼き、フランクフルトなんかの油っぽい匂い、ソースの焦げる匂い、あちこちから聞こえるジュージューと焼ける音、それらが僕を過剰なほどに包んでいった。夏祭りというのは実に隙がない。訪れた人の五感全てで祭りを感じさせ、気分を高揚させる。先ほどまでワクワクとした気分だった僕は、一瞬にしてウキウキとした気分になった。 女の子たちは浴衣を着ていて、すれ違いざまに揺れる袖が僕の腕をそっとなでてゆく。飴を舐める子とすれ違うと、ほのかに甘い匂いがした。 そうだ、まず考えなきゃいけないのはすぐそこの屋台でりんご飴を買うか、それとも向かいであんず飴を買うかだ。その手前のチョコバナナや向こうのわた飴が論外なのは言うまでもない。 やっぱり男はあんず飴だ。根拠はない。そう思うとりんご飴のほうが女の子っぽい気がしてきたし、やっぱりあんず飴だ。 僕はお父さんに渡された小銭入れを握り締め、あんず飴の屋台へ駆け寄った。「一つちょうだい」「はいよ、二百円ね」 高い。高すぎる。デフレ不況を微塵も感じさせない値段だ。でも買っちゃう。祭りのときは仕方ないのだ。売り物は大したことはないが、祭りの売り物には不思議な力がある。きっと祭りの精神が込められているのだ。だから買うほどに気分が高揚してしまう。それならば値段が高いのも納得だ。でもちょっとお父さんに悪い気もする。 僕は飴を舐めながらそんなことを考えて通りを進んだ。このまま何もしなくてもきっと楽しいが、僕は次の目的地を探した。お腹が空いていたので大体気になるのは食べ物屋だったが、「ひよこ」の文字が目に入ると迷わずそちらへ向かった。 僕は動物が好きだった。僕の家は一軒家なのにお父さんはペットを飼うことを許してくれず、そのせいでより一層動物に憧れていた。 ひよこは黄色くてふわふわしていて、とても可愛かった。「うちじゃ飼えないぞ」「わかってるよ。見てるだけ」「じゃあちょっとお父さんトイレ行ってくるから、ここで待ってなさい」 お父さんはそう言って人ごみの中に消えていった。 欲しい。飼いたい。でもどうやって育てるんだろ。わかんないや。それにお父さん絶対に許してくれないだろうな。だけど可愛いなあ。今のうちに買っちゃおうかな。でもさすがにそれは怒られちゃうよなあ。 僕は駄目なものは駄目とちゃんとわかっていた。しかし諦めきれなかった。 すると後ろから声がした。「君は本当に鳥が好きなんだね」「はい、動物が大好きなんです」 振り向くとそこには英国紳士風の、鳥がいた。首から下はタキシードを着た上品な男だが、頭はまさしく鳥で、たぶん白いニワトリだ。白目の見えない切れ長の目が不気味だった。「やあ、私は鳥人《とりじん》だよ。人間の体に鳥の頭、鳥人さ」 要は化け物だ。「お父さん! お父さあああん!」「呼んだって来やしないよ」 僕は戦慄した。この化け物はお父さんに何をしたのだろうか。「お父さんは来ない……大便中だからね! さっきトイレで会ったんだ」「ああ……なんだ」 案外普通の理由だった。 僕は恐る恐る聞いてみた。「……あんた何者だ」「だから私は鳥人さ。鳥好きの子供にしか見えない、鳥人さ」「とりじん? ちょうじんじゃないの?」「ふむ、初心者にはよくある間違いだね。鳥人《とりじん》と鳥人《ちょうじん》は全然違うんだ。君は空を飛びたいかい?」「え? そりゃあ、まあ」「それならば!」 そう言って鳥人は僕の体を持ち上げ、思い切り踏ん張って跳んだ。が、すぐに着地した。「ほら飛べないだろう! 鳥人《ちょうじん》なら飛べるけどね。鳥人《とりじん》は首から上しか鳥じゃないからね、はは!」 鳥人は甲高い声で笑った。訳のわからない状況だが危険ではなさそうだと思った。「じゃあ鳥人は何が出来るの?」「このくちばしを見たまえ。ほら、焼き鳥を真ん中からでも食えるのさ!」 鳥人はねぎまをどこからか取り出し、串の真ん中にある肉を素早く食べた。あまりのくだらなさに僕は苛立ち始めた。「鳥肉おいしいな」 彼はねぎまの鳥肉だけを全て食べた。「共食いじゃんか!」「確かにそうかもしれない。しかし、考えてみたまえ。他人から金を奪い合う、この資本主義こそが真の共食いでないかね」「いらないよそんな社会風刺!」「じゃあ君にはこの残ったねぎをあげよう」「いらないって! 自分で食べなよ!」「ねぎは嫌いなのさ」「じゃあ何でねぎま買ったの!」「君のためだよ」「なら普通の焼き鳥くれよ!」「いや、私とて鳥の端くれだ。そんなことは出来ない」「さっき鳥肉食ってたろ!」「気のせいだね、それは」「気のせいって……」 僕はもうすっかり呆れてしまった。鳥人はというと蝶ネクタイを緩め始めていた。「まぁまぁ、そんなことよりも鳥の頭と人の体の境目の部分でも見て落ち着きたまえ」「気持ち悪いよ! そんなんで落ち着くか!」「おやおや境目だよ? お待ちかねの」「待ってない!」「そうか、喜んでもらえると思ったんだが……お、そうだ忘れていた。私はこういう者なんだ」 鳥人は胸の内ポケットから名刺を取り出した。そこには「鳥光」と書かれていた。「とりみつさん?」「いや、『とり ひかる』だ」 名前なんかより正体を知りたくて肩書きのほうを見てみたが、ひどく汚れていて読めなかった。顔を近づけてよく見ようとしたら焼き鳥のたれの匂いがした。わかったのは結局、さっきのねぎまも内ポケットから取り出したということだけだった。「あんず飴おいしいな」「いつの間に!」 僕が持っていたはずのあんず飴を鳥人は細長い舌で舐めていた。「なるほど、君の事は大体わかったよ」「え、なんで?」「飴に付着した唾液から君のDNAを解析したのさ」「怖いって! でもDNAなんか知っても意味ないでしょ」「それはどうかな」「え?」 鳥人は十分に間を置いてから言った。「君は自分がお父さんの本当の子供だなんて思っているのかい?」「それってまさか……」「DNAを比較すればわかってしまうんだ。君のお父さんと君の血が繋がっているかどうか」 僕は何も言えなかった。「まぁ……お父さんのDNAは知らないけどね」「やっぱ意味ないじゃん!」 僕は祭りに来たばかりだというのに、無害だが気に障るこの化け物と喋っていて非常に疲れてしまった。やたらと絡んでくる鳥人をどうにかして振り切ろうと考えていたところ、遠くにお父さんらしき人影が見えた。こちらへ向かっているようだった。「君のお父さんが来たようだね」 鳥人に気づかれてしまった。「だからもう鳥光《とりみつ》さんは帰ってよ」「『とり ひかる』だ」「どっちでもいいよ」「いやいや名前は重要だよ。鳥人界隈では特にね。そもそも鳥人の社会というのは……」「興味ないよそんな話! もう他の子供のところへ行ってよ」「そういう訳にはいかないね」「お父さんも来たし追い払ってもらうから」「君はあれがお父さんだという確信はあるのかね?」「DNAの話はもういいって!」「そうじゃないさ。あのお父さんは本当に人間だろうか?」「まさか……」 こんな化け物だ、お父さんに何かしたのかもしれない。僕は急に血の気が引いていくように感じた。「父親という人間の皮を被っているが……結局は企業の働き蟻さ」「また社会風刺かよ!」 そうだった、鳥人の言葉を真に受けた僕が馬鹿だった。何なんだろう、このくだらない化け物。 僕はようやくやって来たお父さんに助けを求めた。「お父さん! 変な鳥が話しかけてくるよ!」「馬鹿! 失礼なことを言うんじゃない! あれはお父さんの会社の同僚、鳥さんだ」「えぇ!」 この鳥人が会社員だって!? にわかには信じ難い話だ。「あれ? 鳥好きの子供にしか見えないんじゃなかったっけ?」「ふむ。人間の本質というのは結局のところ、鳥好きの子供なのさ」「うん、よくわかんないけど嘘なんだね」「おいおい鳥さんになんて言い方をするんだ。これから一緒に暮らすんだから失礼のないようにしなさい」「ん?」 何かとんでもないことを言われた気がする。「あれ、鳥さんまだ言ってなかったんですか?」「いや悪い悪い、そういえば言い忘れていたよ」「そうですか。鳥さんはなあ、訳あって今日からうちでしばらく暮らすことになったんだ」「なんだって!?」「お前の隣の部屋空いてるだろ? そこを鳥さんの部屋にしようと思ってる」 えええええ!?「という訳で、よろしく」 ああなんということだろう。僕は今日からこの不可思議で不愉快な化け物と暮らす羽目になってしまったのだ。祭りはその後、僕とお父さんに鳥人が加わって回り、しかも鳥人が一番はしゃぎ、僕はちっとも面白くなかった。当然帰り道にも鳥人は付いてきて、うちにやって来た。 ああなんだこれは。僕の夏祭りの美しい記憶は鳥人によって強引に上書きされ、消え去った。もはや夏祭りと言えば悪夢の始まり、それ以外に言葉が見つからない。 そう、これは始まりなのだ。このときの僕は平凡だが幸せな日々が、この日を境に異常な日々へと変貌するとは思ってもみなかった……いや、大体予想してたな。だって鳥人との共同生活だもの。まともな日々になる訳がない。そもそも鳥人って何だよ、鳥人って。
第二話「鳥人の秘密」 ああ、眠れない。 もう夜中だというのに、僕は眠れずにいた。そりゃそうだ、鳥人とかいう化け物が現れたんだもの。しかも、今も隣の部屋にいる。 これが夢だったらどんなにいいか。そう思ってもまだ眠れもしないんだから、これ、現実っぽい。 明日は日曜だから早起きしなくていいのが幸いだ。 僕はそうして鳥人に悩まされながらも、深夜五時ごろになってようやくまどろみ始めた。 その時だった。「……コッ……コッ……コッ……コケコッコォォォォォォォォォォ!」「うるさっ!」 僕は思わず布団を跳ね上げ、起き上がってしまった。「何なんだよ一体!」 とはいえ、目が覚めて冷静になってみると全ては明らかだった。そう、鳥人だ。こんなことをするのは絶対に鳥人だ。 僕は二階にある自分の部屋を出て、一階のリビングに降りていった。 そこにはコーヒーを飲むお父さんの姿があった。「おう康介、おはよう。随分と早起きじゃないか」「……ああ、まあ、鳴き声に起こされたからね」「はっはっは、鳥さんがうちに来れば目覚ましはいらないな」「やっぱりあの人の鳴き声だったんだ。で、鳥さんは?」「まだ寝てるよ」「え?」「鳥さんは毎朝五時ごろになると寝言をつぶやくんだ」 最低だ! 人を早朝に起こしておいて自分だけ寝てるなんて! ていうか寝言ってレベルじゃないぞ!「お父さん。あのさ、もう一回寝ていい? 昨日眠れなくてさ」「おう日曜だしゆっくり寝とけ」 僕は部屋へ戻り、そこでようやくの休息を得た。 僕が起きたのは昼になってからだった。起き上がってみると、そこには英国紳士風の、鳥がいた。だから昨日の出来事は夢だったのだろうか、なんていう定番の幻想すら抱くことが出来なかった。「やあ、やっとお目覚めかい? 康一くん」「康介ですけど」「おっと失礼。さっき起きたばかりでまだ寝ボケているようだ」「どうして朝五時に鳴いといて自分は起きないのさ」「私は夜行性なんだ」「ニワトリなのに?」「ああ、毎晩2ちゃんねるの鳥人スレばかり見ていてすっかり昼夜逆転さ」 駄目だこの人。「そうそう、君は起きてからまだ何も食べてないだろうから食べ物を持ってきたんだ。一緒に食べようじゃないか」 なんだ、意外と気遣いが出来るじゃないか、鳥人。「はいこれ」 鳥人は僕に小袋を渡した。感触から何かやわらかいお菓子だと思った。「グミ?」「まぁそんなところかな」 僕は透明なビニールの部分から中をのぞいてみた。「ってこれミミズじゃん!」「お気に召さないのかい?」「当たり前だよ! 僕は鳥じゃないんだし!」「こりゃ残念。君が好きそうな餌を釣具店で買ってきたんだが」「いや餌の時点で間違ってるよ! 餌って何だよ餌って」「さて、おかき食べよっと」「自分はミミズじゃないのかよ!」「そんな気持ち悪いもの食える訳ないだろう」「じゃあなんで食わすんだよ!」「試したのさ、君の可能性ってやつを」「かっこつけて言ってるけど、興味本位のイタズラだよそれ!」 ああ、何だよこのくだらない化け物。「おや、気分を害しているようだね。なんのせいかわからないが」 あんたのせいだ。「私は鳥好きの子供が元気でない姿を見るのが嫌でね。そうだ、君にインコをあげよう」「ほんとに!?」「ああ本当さ」「あっ……でもお父さんが飼っちゃ駄目って言うから無理だよ」「大丈夫、お父さんには見えない特別なインコさ」 確かに鳥人ならそんなインコを用意することも出来そうだと僕は思った。鳥人はタキシードの内ポケット探っていた。「はい、これがそのインコだよ」「鳥さんありがとう」「君にも見えないから気をつけるんだよ」「それじゃほとんど意味ないよ!」「私にはぼんやりと見えるんだよ」「あんたはちゃんと見えとけよ!」「はは、それは流石に冗談さ。私も全然見えないんだ」「じゃあ何の意味もないよそのインコ!」「まぁペットというより概念だね、『インコ』という。『インコ』って知ってるかい?」「どう考えても知ってる流れだったでしょ! ていうか実物をくれるんじゃないの?」「実物? いるじゃないか。君の心の中に」「だから概念じゃなくて……」 無駄だ。鳥人と真面目に話した僕が馬鹿だった。「……はぁ。鳥人って一体何なのさ」「私も昔はこんな醜い姿じゃなかったんだがね……」「えっ、そうなの?」「これは罰なのさ」「罰?」 こんな姿にされたんだから、この人はきっと深刻な過去を抱えているのだろう。聞くべきじゃなかったのかもしれない。僕は軽率だった。「そうだ罰なんだ。でも君にはまだよくわからないだろうね」 なんだろう。大切な人のために神様に背いたとかそういうのかな。「君はまだ知らないだろう。酒の席での罰ゲームは意外とエグイことになるってことを」「そんなことで鳥人にされたの!?」「ああ。酒の席は恐ろしいのさ」「いやむしろ罰ゲーム程度で鳥さんの姿を変えた人が恐ろしいよ! 何その能力!? っていうかやったの誰!?」「せんとくんだ」「せんとくん!? あのせんとくん?」「そうだ。その日、私は合コンに行ったんだ。男女三人ずつで、女の子は三人ともかわいい子で最高だった。男の方もレベルが高く、私とせんとくん、そして奈良県立歴史民族博物館の機械人形だった」「ひどいメンツ! レベル高すぎるよ!」「結果はというと……惨敗だった」「だろうね! あ、でもその頃の鳥さんは普通だったんでしょ?」「ああ。その頃の私は長身ですらりとした美形の、ニワトリだった」「ええ!? 変えられたの首から下かよ!」「で、合コンの後は男三人でヤケ酒さ。飲みすぎてはっきりとは覚えてないが、たぶんその時の罰ゲームか何かでせんとくんあたりに首から下を人間に変えられてしまったんじゃないかな」「あやふや! 一番大事なとこあやふやだよ!」 何だかくだらないのに壮絶な出来事だ。もう何と言ったらいいのかもわからない。「ま、君もいずれ似たような経験をする年になるから、気をつけるんだよ」 絶対経験しないでしょそんなの。それにどう気をつければいいんだ。「そんな暗い話より、そろそろロボット鳥《ちょう》が来るはずなんだが……」 すると突然、窓ガラスを突き破って何かが部屋に入ってきた。粉々になったガラスが部屋中に飛び散り、僕はとっさに目をつぶった。ガラスの破片は不思議と僕には当たらなかったようだった。 目を開けると、部屋中に散乱しているはずなのガラス片はひとかけらも落ちておらず、窓ガラスも元通りになっていた。「やっと来たかロボット鳥」 鳥人の方を見ると、その肩にはいかにも「ロボット」という感じのオウムが乗っていた。<次回予告>突然現れた「ロボット鳥(ちょう)」とは!?次回「超高性能メカ、ロボット鳥」乞うご期待! ドラゴスクエストが今きりのいいところなので、とりじんの三話を出来れば近日中に書いて投下したいです。しつこいようだけど本命はドラゴスクエスト↓http://mai-net.ath.cx/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=original&all=21231&n=0&count=1せ、宣伝じゃないさ!ただ、210枚も書いたのに空気ぎみなのが悲しくてもう少し人目に触れれば変わるかなぁって……うん、宣伝だね。
第三話「超高性能メカ、ロボット鳥」「な、何が起こったの!?」「はは、驚くのも無理はない。今ロボット鳥がガラスを突き破って中に入り、そして即座に破片を回収して処分し、新しいガラスを張りなおし、その隙に私が君の宿題をやっておいたのだから」「ほんとに!?」 僕は真っ先に宿題を確認するため、机まで駆け寄った。今週の宿題はとても多くて困っていたのだ。 すると鳥人はそれを阻んだ。「いや、すまない、そっちは冗談だ。そこは普通ガラスのほうを先に確認するべきじゃないかね?」 僕は無言で睨んだ。 鳥人は咳払いをした。「まあいい。とにかくロボット鳥は高性能なんだ」 確かにガラスは新品に換わっていた。どうやったかはわからないが、とにかくロボット鳥はものすごく性能が良いようだ。 僕はいかにもロボットらしい外観のオウムであるロボット鳥に話しかけてみた。「君、すごいんだね」「……」「ガラス、どうやって用意したの?」「……」 返事はない。かわりに鳥人が答えた。「話しかけてもロボット鳥はしゃべったりしないよ」「そうなの? 高性能なのに」「いや、高性能が故にだ」 鳥人の言うことはよくわからなかった。外観がオウムなので話しかければそのうちしゃべれるようになる気がした。「君、本当にしゃべらないの?」「……」「高性能なのに?」「……」「オウムなのに?」「……貴様とはしゃべらぬと言われただろう! 愚かな人間よ!」「うわぁ、しゃべった!」 しかも口調がやけに威圧的だ。「しゃべらないんじゃないの?」「ロボット鳥がしゃべらないのは性格的な問題だ。今の彼の発言に気分を害したのなら私が謝ろう」 そう言って鳥人は膝をついて謝ろうとしたので慌てて止めた。「いやいいんだよ気にしてないよ」「そうか、ならいいが……ロボット鳥は高性能すぎてプライドが高く、そのせいで君のような低俗な人間とはしゃべる気も起こらないんだ」「あんたの発言が一番ひどいよ」「おっとこれはすまない……なら」 鳥人は膝をついた。……そして靴紐を結びなおした。「謝るんじゃないのかよ!」「え? 何が?」「ていうか人の部屋で土足かよ!」「当然だよ君。鳥人界隈では土足で家に上がる奴も何人かいるんだ」「ほとんどいないじゃん! それより鳥人界隈とか言ってるけど普通の会社員でしょ鳥さんは!」「ああ、君のお父さんと同じトヨペットに勤めてる」 一体この人に社会人が勤まるのだろうか。「どうせ他の社員に迷惑をかけたりしてるんでしょ」「そんなことはないぞ。私は売り上げナンバーワンの社員だ」「鳥さんが!?」「むしろ君のお父さんを含む他の社員が私の足を引っ張っているとも言えるね」 なんだが鳥人が言うと滅茶苦茶腹が立つ。「でもイマイチ信用できないな~」 僕は素直に不審を露わにした。「ふん。ならこう言えばすぐに君は信用するだろう」「何さ」「仕事は全部ロボット鳥に任せているッ! 私は仕事をしていないッ!」「最低だ!」 でも確かにロボット鳥なら何でも出来そうだ。「じゃあ鳥さんは何をしてるの?」「そうだな、それは非常に答えづらい質問だな……」 こんな化け物のことだ、本当はきっと特殊な仕事をしているのだろう。もしかしたらあまり公に出来ない仕事かもしれない。「これといって何をしてるという訳じゃないが、まぁ、だいたい家で2ちゃんとニコ動だな」「最低以下だよ! 何もしないならせめて出社ぐらいしようよ!」「着てく服がない」「ニートの言い訳かよ! それこそロボット鳥に買わせなよ! 売り上げ一番ならお金もあるでしょ?」「服があっても接客なんて無理だね。人に会うの怖いし」「あんたの方が怖いよ!」 こんな駄目人間だというのにロボット鳥に稼がせてお父さんより給料をもらっているとは……。 小学生の僕でも世の中の不平等さを実感せざるを得ない。「しばらくうちで暮らすってことは、明日から僕が学校に行ってるあいだ鳥さんはうちで遊んでるの?」「いや、それはない。ちゃんと外に出るよ」「あてはあるの?」「ああ大丈夫。さっきロボット鳥が手続きを済ませてきた」「手続き? 大学でも行くの?」「ふむ、君は勘がいいな。確かに学校だ」 ……まさか!「明日から君のクラスに転入することになった」「最悪だ!」「安心したまえ。無理言って席は君の隣にしてもらった」「やめてよ! せっかく裕子ちゃんの隣だったのに!」「裕子ちゃん? ほほう、君の好きな子か。どれ、私がとり持ってやろう、鳥だけに。「とり」、持ってや――」「ボケを二回言わなくてもいいし、取り持つ必要もないよ!」「そうか、なら私は自己紹介の練習をしなくては……。『人間の体に鳥の頭、鳥人だよ……』いや、やっぱり『やあ鳥人だよ、』から入ったほうがいいかな?」「どっちでもいいよ!」 ああなんということだ。予想を遥かに上回る非常事態だ。 甘かった。僕が甘かった。この鳥人はとことん僕の日常を破壊していく。 ――はあ、明日学校行きたくない……。次回、「鳥人、転入」!うーん、なんか失速気味だなぁ。地の文書くのも面倒になってきた……とりあえず続きます。