2010年8月27日
「MANHWA(マンファ)」と呼ばれる韓国のマンガ。新聞の「挿画」がルーツで、既に百年の歴史がある。最近ではパリで開かれる日本のマンガやアニメの祭典「ジャパン・エクスポ」にもブース出展するなど、政府も出版業界も海外進出に積極的だ。ソウルで韓国マンガの現状を取材した。
■欧米日に著作権輸出
現代韓国に王室が存続していて、普通の女子高生が同じ高校に通う皇太子と政略結婚させられたら――。そんな設定の学園ラブコメとして韓国国内で絶大な人気を誇るベストセラーが朴素熙(パク・ソヒ)の『宮(クン)』だ。
朴さんが『宮』を雑誌「wink」に連載し始めたのは2002年。奇抜な設定が「政治問題になるかも」と心配していたが、「逆に女の子の想像力やロマンをかき立てた結果、ヒットにつながった」と自己分析する。
8年もの連載は韓国では異例。作品は世界11カ国で翻訳出版もされた。日本でも『らぶきょん〜LOVE in 景福宮』(新書館)のタイトルで22巻、累計100万部売れた。『宮』を出版するソウル文化社の柳在玉(ユ・ジェオク)ライツ事業局長は「著作権ビジネスとして、韓国で初めて大成功を収めた作品です」と語る。
同社は鶴山文化社、大元CIと並ぶ三大マンガ出版社だが、最近はマンガの著作権輸出に力を入れる。「韓国は市場が小さく輸出なしで食べられない」(柳局長)からだ。
著作権売り上げの35%が欧州、29%が米国。日本は22%で市場としては3番目だという。「韓国マンガを下に見る傾向がある日本は壁が厚い。逆に欧米は面白ければ受け入れてくれる」。メーンターゲットの欧米では、順調に売り上げが伸びているという。
■日本が作家引き抜き
他方、国内のマンガ誌市場は冷え込んでいる。
「wink」は1993年創刊で韓国を代表する少女誌だが、「全盛期に隔週で20万部あった部数が現在は1万5千部」(呉京垠(オ・キョンウン)編集長)という。同社の少年誌「IQジャンプ」も88年の創刊以来、隔週20万〜30万部を維持してきたが、現在は7千部。郭鉉昌(クァク・ヒョンチャン)編集長によると、97年のアジア通貨危機以降の景気悪化で読者が貸本に走り、雑誌を買わなくなったことなどが原因だ。
「でも、さらに深刻なのは日本のマンガ誌による作家の一本釣りと、インターネットマンガの普及なんです」と郭編集長は語った。育ててきたマンガ家に日本の出版社やエージェントが声をかけ、引き抜くケースが増えているという。「ウチの連載を打ち切って日本で連載を始めたという悪質な例もあります」
もう一方の「ウェブトゥーン」と呼ばれるインターネットマンガには有料と無料の2種類があるが、いずれも出版社や編集者を通さず作品を発表できる。「おかげで新人賞への応募が激減しました」(郭編集長)
有料の場合でも1冊あたり日本円で30円程度と安く、2000年以降急速に普及した。呉編集長も「何らかの対処法を見つけないと、という恐怖心がある」と語る。
■ウェブ上でヒット作
ウェブトゥーンで最も人気のある作家の一人が、沈承ヒョン(シム・スンヒョン(ヒョンは火へんに玄))さん。02年にネット上の“カフェ”で作品を発表し始めた。「読者からすぐ反応が返ってきた」と振り返る。
パペとポポという男女の愛情物語を叙情的に描く。作品をまとめた『パペポポ・メモリーズ』はベストセラーになり、『パペポポ・トゥゲザー』など、その後もシリーズ3冊を出版。累計220万部売れ、「2009大韓民国コンテンツアワード」で大統領賞も受賞した。
「発表直後は、反感を持ったマンガ家から『単なる流行。すぐに消える』と批判された」という。しかし、ネットの力が環境を大きく変え、今ではネットデビューが当たり前になった。
「チャールズ・シュルツのように、好きな作品を死ぬまで描き続けたい」と沈さん。ウェブトゥーンならそれが可能だと考えている。(竹端直樹)