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投稿TS小説 光でも闇でも
作 宵闇の影
イメージキャラ作成 八城惺架
1
「安曇、僕らまた会えるよね?」
小学校の卒業式の日、筒石翼は東京へ引っ越してしまう親友に問いかけた。
親友こと、山本安曇は不安そうな翼を励ますように明るく笑って答える。
「当り前だろ。おまえだって高校は上京するんだろ」
「うん」
「ならすぐ会えるだろ。3年、いや受験の準備とかで来るなら2年半くらいか」
「全然すぐじゃないと思うけど」
「うじうじすんな!いいか、いじめられたりしたらすぐ電話しろよ。飛んでいくから」
「大丈夫だよ」
「本当か?」
「うん」
翼がうなずくと安曇を呼ぶ声が聞こえてきた。
振り返ると安曇の両親の姿が見える。どうやら迎えが来たようだ。
「それじゃ、またな」
「うん、さようなら」
背を向けるとすぐに走り出した安曇の後を翼は追えなかった。
ぼやける視界の中、安曇が二言三言両親と言葉を交わし車に乗り込んでいった。
それが筒石翼の経験した初めての親友との別れだった。
「………………………夢か」
寝起きの寝ぼけ眼で周囲を確認して翼は呟いた。
そこは桜の花がちらほらと見え始めた校庭ではなく、必要最低限の荷物だけが置かれたワンルームのマンションだった。
翼はあの日安曇と約束した通り東京の高校へと進学することができた。
そしてこの部屋で一人暮らしを始めるのだ。
その安曇とはあれ以来全く連絡が取れていない……うっかり電話番号も住所も聞き忘れてしまったから。
しかし、これからは同じ町で暮らすのだからいつかきっと会える日が来るだろう。
このとき、翼はまだ東京の広さと人の多さを理解していなかったのだった………。
「さてと。まだ眠たいけど入学式に遅刻しちゃまずいよな」
暖かい布団から気合を入れて抜け出すと翼は身支度を始めた。
一日の活力の源、朝食を作り始めようとしたときなぜか来客を知らせるインターフォンの音が部屋に響いた。
「なんだ?こんな朝早くから新聞の勧誘とか?」
この部屋を訪ねてくる相手に全く心当たりのない翼は訝しみながらドアを開ける。
「おはようございます」
バタン。
そして、一秒と待たずに翼はドアを閉めた。
ピンポーン、ピンポンピンポーン。ガタガタガタガタ。
「開けてくださーい!私はあやしいものではありません!」
「……………………」
インターフォンを連打し借金取りの如くドアをノックし続ける女性のどこがあやしくないのかと思いながら翼はドアを開けた。もちろんチェーンはつけておく。
「おはようございます!」
「………おはようございます」
チェーンで限られたドアの隙間から見えたお姉さんはついさっき見た姿と変わりなく、ドレスのようなひらひらとした服に大きな白い翼を背負っていた。
蜂蜜色の綺麗な長い髪と夕焼け空のような紅の瞳、顔立ちは整っていてまるで人形のような人の手が加えられたとしか思えない美しさがあった。服装さえ違っていたら翼の対応もまた違ったものになっていただろう。
翼はまるで不審者を見るような態度で問いかけた。
「何のご用でしょうか」
「世界の危機にあなたの力が必要なんです。力を貸してください」
「…………………………………………………………………」
「ああ、閉じないで!」
アキバ系と宗教のハイブリットだったらしい不審者が閉まりかけるドアの間に手をはさみこむ。かなり痛そうな光景だったが翼は迷わず力任せにドアを閉じた。
「痛いです…」
「うわあ!?」
鍵をかけてこれで一安心だと思った矢先に背後から恨めしげに声をかけられ翼が跳ね上がりながら振り向くとそこには先に不審者が涙目で立っていた。
驚き慄く翼を気遣うように不審者は説明する。
「ごめんなさい。正攻法で入れてもらえなさそうだったから転移しちゃいました」
「てんい?」
「はい。それで、さっきのお話の続きなんですけど……」
「ちょ、ちょっと待って!君は一体何なの!?」
「あ、自己紹介がまだでしたね」
そう言って不審者は一歩下がるとスカートの裾をつかんでふわりとお辞儀した。
「私はアリシア。主神に仕える女神の一人です」
「……………」
なんじゃそりゃ、という言葉を翼は何とか飲み込んだ。
アリシアと名乗った女性をたんに不審者と切り捨てることはできない。
ただの不審者だとするとさっきの瞬間移動(本人いわく転移)の説明がつかない。
かといって女神なんて話とても信じられないのだけど。
とりあえず情報が足りない。今はとにかく話を聞くしかない。
「えと、俺は筒石翼。私立聖アストレア学院の一年生です」
「存じています」
「そうですか……あの、俺の力が必要って何のことですか?世界の危機って?」
「そうですね。突然お願いしてもわかりませんよね……わかりました。私のわかる範囲でお答えしましょう」
そう前置きして話し始めようとしたとたんにアリシアは表情を険しくした。
「そんな、まさかもう!」
「え、なに?」
「翼さん!」
「はい!」
「もう一刻の猶予もありません。どうか私に力を貸してください!」
「はい!……って、え?」
鬼気迫る様子のアリシアに詰め寄られつい承諾してしまった瞬間、アリシアから発せられるまばゆい光に翼は包まれた。
「これは……!?」
「大丈夫です。気を緩めて、リラックスですよ」
「……………!!」
アリシアの声に導かれるまま体の力を抜いていくとだんだん体が熱を持ってくる。
いったい何が起きているのかさっぱりわからなかったが下手なことをして取り返しのつかない事態になっても困るので翼はなすがままに身を任せるしかなかった。
そして数秒ほどたって光と熱が収まるとアリシアの姿が消えていた。
「………あれ?」
『やった、成功です!』
「………あれ?」
アリシアの声はおかしなところから聞こえてきた。
それはまるで自分の口で喋ったとしか思えない聞こえ方で、ついでに疑問に呟いた声に違和感があった。確かに翼の声のはずなのにその声は不思議と高い。まるで女性の声の様というか、つい最近聞き覚えがあるというか。
翼は視界にちらつく蜂蜜色の髪の毛や体の重心位置の変化などに気付かないようにした。
気づいてはいけない。こんなことを認めてはいけない。
だが、ついふらりと体を預けた壁の反対側には洗面所があって。
そこにあった鏡に翼の姿がばっちり映ってしまった。
「………やっぱり」
そこに翼の姿は映っていなかった。
いや、そこに映っていたのはまぎれもなく翼だ。ただし、その姿はアリシアそっくりに変身していたが。

「うそだろ………」
鏡の中で頼りなくアリシアの姿となった翼が自信を見返す。
その瞳の色だけは翼とおなじ碧色で、それが翼にはひどく印象的だった。
あとがき
書いているうちに書こうと思っていたものと変わってしまい女神さまに翼君がお願いしなくなっちゃいました。ごめんなさい。
イメージキャラ作成 八城惺架
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「安曇、僕らまた会えるよね?」
小学校の卒業式の日、筒石翼は東京へ引っ越してしまう親友に問いかけた。
親友こと、山本安曇は不安そうな翼を励ますように明るく笑って答える。
「当り前だろ。おまえだって高校は上京するんだろ」
「うん」
「ならすぐ会えるだろ。3年、いや受験の準備とかで来るなら2年半くらいか」
「全然すぐじゃないと思うけど」
「うじうじすんな!いいか、いじめられたりしたらすぐ電話しろよ。飛んでいくから」
「大丈夫だよ」
「本当か?」
「うん」
翼がうなずくと安曇を呼ぶ声が聞こえてきた。
振り返ると安曇の両親の姿が見える。どうやら迎えが来たようだ。
「それじゃ、またな」
「うん、さようなら」
背を向けるとすぐに走り出した安曇の後を翼は追えなかった。
ぼやける視界の中、安曇が二言三言両親と言葉を交わし車に乗り込んでいった。
それが筒石翼の経験した初めての親友との別れだった。
「………………………夢か」
寝起きの寝ぼけ眼で周囲を確認して翼は呟いた。
そこは桜の花がちらほらと見え始めた校庭ではなく、必要最低限の荷物だけが置かれたワンルームのマンションだった。
翼はあの日安曇と約束した通り東京の高校へと進学することができた。
そしてこの部屋で一人暮らしを始めるのだ。
その安曇とはあれ以来全く連絡が取れていない……うっかり電話番号も住所も聞き忘れてしまったから。
しかし、これからは同じ町で暮らすのだからいつかきっと会える日が来るだろう。
このとき、翼はまだ東京の広さと人の多さを理解していなかったのだった………。
「さてと。まだ眠たいけど入学式に遅刻しちゃまずいよな」
暖かい布団から気合を入れて抜け出すと翼は身支度を始めた。
一日の活力の源、朝食を作り始めようとしたときなぜか来客を知らせるインターフォンの音が部屋に響いた。
「なんだ?こんな朝早くから新聞の勧誘とか?」
この部屋を訪ねてくる相手に全く心当たりのない翼は訝しみながらドアを開ける。
「おはようございます」
バタン。
そして、一秒と待たずに翼はドアを閉めた。
ピンポーン、ピンポンピンポーン。ガタガタガタガタ。
「開けてくださーい!私はあやしいものではありません!」
「……………………」
インターフォンを連打し借金取りの如くドアをノックし続ける女性のどこがあやしくないのかと思いながら翼はドアを開けた。もちろんチェーンはつけておく。
「おはようございます!」
「………おはようございます」
チェーンで限られたドアの隙間から見えたお姉さんはついさっき見た姿と変わりなく、ドレスのようなひらひらとした服に大きな白い翼を背負っていた。
蜂蜜色の綺麗な長い髪と夕焼け空のような紅の瞳、顔立ちは整っていてまるで人形のような人の手が加えられたとしか思えない美しさがあった。服装さえ違っていたら翼の対応もまた違ったものになっていただろう。
翼はまるで不審者を見るような態度で問いかけた。
「何のご用でしょうか」
「世界の危機にあなたの力が必要なんです。力を貸してください」
「…………………………………………………………………」
「ああ、閉じないで!」
アキバ系と宗教のハイブリットだったらしい不審者が閉まりかけるドアの間に手をはさみこむ。かなり痛そうな光景だったが翼は迷わず力任せにドアを閉じた。
「痛いです…」
「うわあ!?」
鍵をかけてこれで一安心だと思った矢先に背後から恨めしげに声をかけられ翼が跳ね上がりながら振り向くとそこには先に不審者が涙目で立っていた。
驚き慄く翼を気遣うように不審者は説明する。
「ごめんなさい。正攻法で入れてもらえなさそうだったから転移しちゃいました」
「てんい?」
「はい。それで、さっきのお話の続きなんですけど……」
「ちょ、ちょっと待って!君は一体何なの!?」
「あ、自己紹介がまだでしたね」
そう言って不審者は一歩下がるとスカートの裾をつかんでふわりとお辞儀した。
「私はアリシア。主神に仕える女神の一人です」
「……………」
なんじゃそりゃ、という言葉を翼は何とか飲み込んだ。
アリシアと名乗った女性をたんに不審者と切り捨てることはできない。
ただの不審者だとするとさっきの瞬間移動(本人いわく転移)の説明がつかない。
かといって女神なんて話とても信じられないのだけど。
とりあえず情報が足りない。今はとにかく話を聞くしかない。
「えと、俺は筒石翼。私立聖アストレア学院の一年生です」
「存じています」
「そうですか……あの、俺の力が必要って何のことですか?世界の危機って?」
「そうですね。突然お願いしてもわかりませんよね……わかりました。私のわかる範囲でお答えしましょう」
そう前置きして話し始めようとしたとたんにアリシアは表情を険しくした。
「そんな、まさかもう!」
「え、なに?」
「翼さん!」
「はい!」
「もう一刻の猶予もありません。どうか私に力を貸してください!」
「はい!……って、え?」
鬼気迫る様子のアリシアに詰め寄られつい承諾してしまった瞬間、アリシアから発せられるまばゆい光に翼は包まれた。
「これは……!?」
「大丈夫です。気を緩めて、リラックスですよ」
「……………!!」
アリシアの声に導かれるまま体の力を抜いていくとだんだん体が熱を持ってくる。
いったい何が起きているのかさっぱりわからなかったが下手なことをして取り返しのつかない事態になっても困るので翼はなすがままに身を任せるしかなかった。
そして数秒ほどたって光と熱が収まるとアリシアの姿が消えていた。
「………あれ?」
『やった、成功です!』
「………あれ?」
アリシアの声はおかしなところから聞こえてきた。
それはまるで自分の口で喋ったとしか思えない聞こえ方で、ついでに疑問に呟いた声に違和感があった。確かに翼の声のはずなのにその声は不思議と高い。まるで女性の声の様というか、つい最近聞き覚えがあるというか。
翼は視界にちらつく蜂蜜色の髪の毛や体の重心位置の変化などに気付かないようにした。
気づいてはいけない。こんなことを認めてはいけない。
だが、ついふらりと体を預けた壁の反対側には洗面所があって。
そこにあった鏡に翼の姿がばっちり映ってしまった。
「………やっぱり」
そこに翼の姿は映っていなかった。
いや、そこに映っていたのはまぎれもなく翼だ。ただし、その姿はアリシアそっくりに変身していたが。
「うそだろ………」
鏡の中で頼りなくアリシアの姿となった翼が自信を見返す。
その瞳の色だけは翼とおなじ碧色で、それが翼にはひどく印象的だった。
あとがき
書いているうちに書こうと思っていたものと変わってしまい女神さまに翼君がお願いしなくなっちゃいました。ごめんなさい。
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投稿ありがとうございます。
女神さまにお願いしない件とかは気にしないで自由にやってくださいませ。
よろしくお願いします。