◇民主代表選 激しさ増す多数派工作
民主党内最大勢力の小沢グループ(約150人)を率いる小沢一郎前幹事長の動きは早かった。鳩山由紀夫前首相の支持を取りつけたうえで3グループの有力者を訪ね「挙党態勢」を重視する姿勢をアピール。菅直人首相の陣営は後手に回る形になった。
412人の国会議員票を巡り大きなカギを握るのが鳩山グループ(約50人)の動向だ。鳩山氏は26日、小沢氏支持を表明したが、小沢氏には「グループ全員が一丸となっては支持できないかもしれない」と伝えた。
鳩山氏が菅首相と小沢氏の仲介に動いたのは「党分裂回避のため」だった。「脱小沢」を掲げた菅首相が再選された場合は「党を割る」と公言する小沢氏側近もおり、鳩山氏は「首相が挙党態勢を受け入れて脱小沢路線を修正し、小沢氏が出馬を回避する」とのシナリオを描いていた。これを首相が拒んだからには、「挙党」を掲げる小沢氏を支持することが分裂回避につながるというのが鳩山氏の論理だ。
鳩山氏は26日の小沢氏との会談後、グループ幹部の大畠章宏衆院国家基本政策委員長と中山義活前首相補佐官に電話で「(29日の)帰国までにグループをまとめておいてほしい」と言い残し、ロシアへ飛び立った。鳩山氏のシナリオに沿って小沢氏出馬への慎重論が大勢を占めていたグループ内には動揺が走り、26日午後の会合では大畠氏が「正面衝突は避けるべきだ」と鳩山氏に仲介努力の継続を求めたことを説明した。しかし意見は集約できず、中山氏は記者団に「鳩山さんの言う通りにこれからやっていきたいと思うが、態勢を整えるのにちょっと時間がかかる」と語った。
鳩山-小沢連携を加速させた24日夜の会談を仲介したのは鳩山氏の側近、平野博文前官房長官。激突回避派のメンバーには平野氏への不満もくすぶる中、平野氏は26日夜、鳩山グループの新人議員十数人を東京都内の日本料理店に集め、小沢氏支持を働きかけた。グループ内の別の小沢氏支持派は「7、8割はまとまれる」との見通しを示した。
「最悪の事態になった」
旧民社党系グループ(約30人)の幹部は苦しい表情を浮かべた。同グループは独自候補擁立の構えもみせつつ、小沢氏不出馬-菅首相続投を前提に存在感を示す戦術だった。元民社党書記長の中野寛成元衆院副議長は24日に鳩山氏を訪ね激突回避を働きかけてもいたが、小沢氏の出馬表明で二者択一を迫られた。
小沢氏は出馬表明後、同グループの田中慶秋衆院議員に「挙党態勢が受け入れられない状態だったので決断した」と説明。同グループは鳩山グループと掛け持ちしているメンバーが多く、「挙党態勢」を前面に押し出し支持を働きかけた。
旧社会党系グループ(約30人)も複雑だ。「親小沢」の赤松広隆前農相と、菅首相支持の鉢呂吉雄衆院厚生労働委員長の対立が表面化し、「何で菅首相は(鳩山氏の仲介を)けったんだ」との恨み節も聞かれた。小沢氏は赤松氏に支持を要請。25日夜の会合では菅首相支持が大勢だったが、赤松氏が巻き返しに動く構え。
羽田孜元首相は小沢氏の支持要請に応じ、羽田グループ(約15人)の意思統一を図る意向を伝えた。【坂口裕彦、影山哲也】
「あの人たちは地元の意見が聞こえないのか。盆踊りを回ればすぐ分かる」。菅グループ(約40人)の若手は「政治とカネ」問題を抱える小沢氏への厳しい世論を背景に、小沢氏支持に傾く議員も「小沢首相」の誕生はためらうと期待する。
「菅首相再選なら分裂」と脅しをかけて「挙党態勢をつくれるのは小沢氏」と訴える小沢氏側の手法への反発も強い。小沢、鳩山両グループから仙谷由人官房長官と枝野幸男幹事長の交代を求める声があがったのに対し、両氏が所属する前原誠司国土交通相のグループ(約40人)は「首相が2人を代えれば(首相支持から)手を引く」と首相側に徹底抗戦を迫る。26日夜には前原氏ら主要メンバーが都内で集まり「小沢さんが出てすっきりして良かった」と主戦論で盛り上がった。
首相も「完全に戦闘モードに入った」(側近)。26日夜、記者団に「経済対策の基本方針を作り上げたうえで正式な出馬会見を開きたい」と政策論争をしかける考えを強調。その後、都内のすし店で阿久津幸彦、寺田学両首相補佐官に「国民が菅直人を選ぶのか、小沢一郎を選ぶのかだ」と決意を語り、両補佐官も「民主党が小沢的剛腕に頼るか頼らないかの選挙だ」と「脱小沢」のボルテージを上げた。
菅陣営は野田佳彦財務相のグループ(約30人)も参加した合同の選挙対策本部を週明けに設置し、31日に首相が政権構想を発表する日程を描く。ただ、菅グループ内では前原、野田グループの主戦論に同調する若手に対し、ベテランを中心に「とにかく党が割れないようにすべきだ」(小川敏夫参院議員)と分裂を懸念する声もある。幹部の一人は「小沢さんに親しい議員から『小沢さんを追い詰めようとした仙谷(官房長官)が悪い』と言われた」と不満を漏らした。