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2010年8月27日(金)付

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小沢氏出馬へ―あいた口がふさがらない

どうしてここまで民意とかけはなれたことができるのか。多くの国民が、あぜんとしているに違いない。民主党の小沢一郎前幹事長が、党代表選に立候補する意向を表明した。[記事全文]

変われ 高校生―心のスイッチ入れる方法

日本には337万人の高校生がいる。研究機関などの調査によれば、3人に2人が「自分はダメな人間だ」と感じ、10人中7人は「あこがれている人がいない」と答える。そして毎年7万人が中退で去る――。[記事全文]

小沢氏出馬へ―あいた口がふさがらない

 どうしてここまで民意とかけはなれたことができるのか。多くの国民が、あぜんとしているに違いない。

 民主党の小沢一郎前幹事長が、党代表選に立候補する意向を表明した。

 政治とカネの問題で「責任を痛感した」と、幹事長を辞して3カ月もたっていない。この間、小沢氏は問題にけじめをつけたのか。答えは否である。

 いまだ国会で説明もせず、検察審査会で起訴相当の議決を受け、2度目の議決を待つ立場にある。

 鳩山由紀夫前首相にも、あきれる。小沢氏率いる自由党との合併の経緯から、この代表選で小沢氏を支持することが「大義だ」と語った。「互いに責めを果たす」とダブル辞任したことを、もう忘れたのか。

 二人のこのありさまは非常識を通り越して、こっけいですらある。

 民主党代表はすなわち首相である。党内の多数派工作に成功し、「小沢政権」が誕生しても、世論の支持のない政権運営は困難を極めるだろう。

 党内でさえ視線は厳しい。憲法の規定で、国務大臣は在任中、首相が同意しない限り訴追されない。このため「起訴逃れ」を狙った立候補ではないかという批判が出るほどだ。政治とカネの問題をあいまいにしたままでは、国会運営も行き詰まるに違いない。

 より重大な問題も指摘しなければならない。

 自民党は小泉政権後、総選挙を経ずに1年交代で首相を3人も取りかえた。それを厳しく批判して政権交代に結びつけたのは、民主党である。

 今回、もし小沢首相が誕生すれば、わずか約1年で3人目の首相となる。「政権たらい回し」批判はいよいよ民主党に跳ね返ってくるだろう。より悪質なのはどちらか。有権者にどう申し開きをするのか。

 それとも小沢氏は代表選に勝っても負けても、党分裂といった荒業もいとわずに大がかりな政界再編を仕掛けようとしているのだろうか。

 金権腐敗政治と決別し、2大政党による政権交代のある政治、有権者が直接政権を選ぶ政治を実現する――。そんな政治改革の動きの中心に、小沢、鳩山両氏はいた。20年余の歳月を費やし、ようやく目標を達成したと思ったら、同じ二人がそれを台無しにしかねないことをしようとしている。

 ほぼ1年前、新しい政治が始まることを期待して有権者は一票を投じた。その思いを踏みにじるにもほどがあるのではないか。しょせん民主党も同じ穴のむじな、古い政治の体現者だったか――。政党政治自体への冷笑がさらに深まっては取り返しがつかない。

 代表選をそんな場にしてはならない。有権者は政権交代に何を託したのか、根本から論じ直し、古い政治を乗り越える機会にしなければならない。

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変われ 高校生―心のスイッチ入れる方法

 日本には337万人の高校生がいる。研究機関などの調査によれば、3人に2人が「自分はダメな人間だ」と感じ、10人中7人は「あこがれている人がいない」と答える。そして毎年7万人が中退で去る――。

 大人になる手前でこんなにも縮こまっている若者たち。心のスイッチをカチリと押せるのは、誰だろう?

 「オレも、高校ん時は『ダルい』ってのが口癖だった」。体育館の車座のまん中で、22歳の大学院生が話し始めた。「でも、オマエには数学の才能あるって、教師の一言で変わったんだよね」。ズボン腰ばきの制服姿が、次第に聞き耳を立てている。

 千葉県のある県立高校で、NPO法人「カタリバ」の出前授業をのぞいて見た。学生ボランティア数十人が、キャリア教育の時間に出向き、自分たちの高校生活や進路選びの経験を、ひざ詰めで話す。生徒の悩みにも耳を傾ける。そんなプログラムだ。

 カタリバは9年前、大学生が立ち上げた団体だ。代表理事の今村久美さん(30)自身が、かつては何がやりたいのかわからない高校生だった。「○か×(ばつ)かの解き方しか教わらないまま、大学に入り、就活でいきなり、自分は何者かと迫られる。もっと早くから考える機会があれば、と思った」

 若いNPOを学校現場に受け入れてもらうのは、初め大変だった。今では年間100校、2万人の高校生がカタリバの授業を受ける。かかわる学生ボランティアはのべ4千人。

 多様な生徒に教師の目は行き届かない。同世代の狭い世界に閉じこもって生きる高校生。少し年上の先輩と対話をし、「自分にもできるかも」と気づき、一歩外へと踏み出す機会にする。そんな「ナナメの関係」が、窒息しそうな彼らには必要なのだろう。

 カタリバだけではない。高校生を支援する若い社会起業家や学生団体が、次々と生まれている。

 東大生の古田雄一さん(23)が始めた「わかもの科プロジェクト」。大学生が授業を提供し、社会問題に関心を持ってもらおうという活動だ。7月には高校生と一緒にマニフェストを考え、模擬投票を行った。

 「ブラストビート」もできたてのNPO。高校生に会社を作らせ、歌手を呼ぶ有料ライブを企画させる。収益の25%以上は、生徒が探した先に寄付する決まりだ。この夏、都内の通信制高校生による初ライブが開かれた。

 スタッフの一人、武蔵大生の坂口躍(やく)さん(21)は言う。「社会を一度に変えるのは難しいけれど、若者一人一人が変わることはできるはず」

 教育という分野で「新しい公共」を担い始めた新世代。彼らが活動しやすい社会づくりを、そのまた少し先輩の大人として、考えてゆきたい。

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