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「町工場」への無知と偏見

2010年8月27日0時2分

 世の中には驚くべき暴論がある。8月21日付の本紙が、公務員給与の引き下げをめぐる民主党内の議論を伝えている。その中で「国家公務員の賃金水準を町工場並みにして、優秀な人材が集まるのか」という稲見哲男衆院議員の意見が紹介されている。(こんな発言を本当にしたのだろうか、と疑いたいのだが)

 「町工場」に対するこれほどの無知(無恥)と偏見を知らない。「国家公務員の方が町工場の人間より優秀である」。「町工場は賃金が低いから優秀な人間は集まらない」とする、この国会議員の社会認識と思考回路はどうなっているのだろう。

 ものづくりの現場で働く人材の素晴らしさに関する議論はここではしない。また、学歴、性別、年齢、勤続年数、業種といった属性をそろえた上での賃金比較をすると、大企業に比べ「町工場」の賃金はさほど低くないという事実もあるのだが、要するに議論を組み立てる発想の仕方がお粗末なのである。

 「賃金は下方硬直性をもつ」と言われてきたが、民間企業などのボーナスの大幅削減や残業の削減などの現象をみると、明らかに賃金は「弾力性」を増しつつある。それは一方で、「生活を切り詰める」という、暮らしの「弾力化」をもたらす。それがまた新たにデフレに寄与する。

 そろそろ賃金の切り下げ競争に歯止めが必要だとは思う。民間企業も利益を確保するために、ボーナスの大幅削減を含めた賃下げ効果に頼ることは慎んだ方がよい。人はともすれば「引きずり下ろして一緒になる」という発想をとりがちだが、大事なことは生産性の向上にある。デフレを克服するための議論こそ積極的にはじめるべきだ。(遠雷)

    ◇

 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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