坂本のバットから生まれた快音に、東京ドームが大歓声に包まれた。
17日から中日、阪神、中日と続き、4勝4敗で迎えた“真夏の上位対決9番勝負”の最終戦。一回、吉見が投じた初球の直球にバットを振り抜いた。「行け!!」。G党の願いを乗せた打球は左翼席最前列で弾む。今季5本目の先頭打者弾だ。
「トップバッターなので、なんとかチームに勢いをつけたかった。(一回の)初球は初めてですよ。うれしいですし、気持ちがいいですね」
坂本の号砲をきっかけに、一回から最強打線が爆発。ラミレスのメモリアルアーチに、長野の18号ソロも飛び出した。一回の3本塁打は2008年8月28日の横浜戦(東京ドーム)で小笠原、ラミレス、谷が放って以来、2年ぶり。原監督は「先頭の勇人がああいう形で、呼び水としていいものを出してくれた」と絶賛。1週間前に零封負けの屈辱を味わった吉見から5点を奪った。
これだけじゃ終わらない。二回には、再び坂本が左翼席上方へプロ4年目で初の2打席連続アーチとなる26号ソロ。この日のG打線は、今季2番目に多い1試合6本塁打(最多は6月26日、広島戦の8本)などで10得点。8月最後の本拠地での試合とあって、坂本は「子どもたちがたくさん来ていたので、なんとかしたかった。打ててよかった」とほおを緩めた。
日本赤十字社を通じての社会貢献活動が評価され、試合前に厚生労働省から感謝状を贈られた。昨年作成したチャリティーTシャツの収益(187万5800円)で、今季は『坂本勇人赤十字シート』を設置。首都圏で闘病生活を送ったり、養護施設で過ごす子どもたちを毎試合4人ずつ招待し「これからも社会に貢献できればと思う。貢献できるように野球で頑張りたい」という。子どもたちの笑顔が原動力だ。
毎日のように順位が入れかわる大混戦にも「ピリピリした中で試合ができるのは幸せなこと。一球一球、集中してやっていく」と気負いはない。17−19日と24−26日に着用した1950年の復刻ユニホームは、この日が見納め。巨人を川上哲治元監督ら大先輩に恥じない完勝に導いたのは、21歳の若きリードオフマンだった。(峯岸弘行)