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[3954] 東方よろず屋【第二部】(銀魂×東方シリーズ)
Name: 白々燈◆46292f17 ID:4e6b5716
Date: 2010/08/10 00:21


8月10日。更新、再開しました。









「注意書き」

これは前回の東方よろず屋の続きになります。
ですので、先にそちらをごらんになったほうが、話はわかりやすいと思います。

そのほかの注意事項

・何人かオリキャラが出ます。お気をつけください。
・クロス物です。その手のものが苦手な方はご注意ください。
・ご都合主義的な部分が多々見られるかもしれません。

以上を踏まえ、大丈夫だと思う方は本編をお楽しみください。
それでは、どうぞ。



[3954] 登場キャラクター紹介
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2010/08/24 00:54
 この先、キャラクターの簡単な紹介になります。多少のネタバレを含むところがありますので、お気をつけください。
 なお、紹介文はwikiや原作を参考に作者の主観や二次的な要素が混じっている可能性もありえるので、その辺はご了承ください。
 もう一つ、あんまりにもキャラが多いので一部、wikiなどから引用しているところもあります。ご了承ください。






































 ■銀魂キャラクター紹介■

 【坂田銀時(さかたぎんとき)】
 ・よろず屋を経営する銀髪の男。趣味はジャンプ。好きなものは甘いもの。
 糖尿病一歩手前のまるで駄目なオッサン。略してマダオだが、その昔、天人(あまんと)相手に戦った元攘夷志士で、白夜叉と呼ばれた実力者で、実際かなり人間離れした身体能力をしている。
 洞爺湖と銘の入った木刀片手にあまたの事件を面白おかしく、時にはシリアスに解決する。
 大体金欠。そして万年金欠。めんどくさがりな所はあるが義理は通すし、なんだかんだでいい人である。

 【志村新八(しむらしんぱち)】
 ・よろず屋で働く眼鏡の少年。主にツッコミ担当。ツッコミが絡むと異様に強くなる。
 普段は地味でダメージ担当であることが多い。基本的に無個性。
 性格は真面目だが、アイドルオタクだったりと地味に個性的。しかし、このSSでそれが発揮されることは多分あるまい。……かとおもわれたが、第二部が始まったことによりその事実が描写されることに。
 姉がおり、二人で暮らしている。家が道場なので、剣の心得あり。地味に強い。本当に地味に。

 【神楽(かぐら)】
 ・見た目は人間だが、常に傘を持ち、日光の光が当たらないようにしている。
 これは彼女が日光に弱いためで、肌もかなり白い。
 実は天人(あまんと)で他の星の住人、戦闘民族【夜兎】の一人。
 その強さは本物で、岩を一撃で砕いたり、怪我をしてもほぼ一日で完治したりとおおよそ人間の身体能力を凌駕している。
 性格は結構腹黒く、見た目の可愛さに反して破天荒でかなり辛辣。酢昆布が大好物。

 【定春(さだはる)】
 人を乗せて走れるほどの巨大な犬。万事屋の前に捨てられていたところ神楽に拾われ、万事屋で飼われるようになった。
 その正体は大地の流れ龍脈が噴出する場所「龍穴」を守護する「狛神(いぬがみ)」だが、一緒に暮らしていた双子の巫女姉妹、阿音・百音に経済的な理由により捨てられた。
 彼女らからは「神子(かみこ)」と呼ばれている。
 苺と牛乳を飲ませると巨大化して顔がごつくなって大暴れするため要注意。

 【近藤勲(こんどういさお)】
 真選組の局長。よく作中ではゴリラと呼ばれまくり、時々自分でもゴリラと呼称することがある。
 真性の馬鹿であり、お妙にストーカー行為を働くなど、なんか色々問題あり名ところもあるが、本人はいたってお人よしで、そんな理由からか隊士たちには慕われている模様。
 基本的にダメージ担当なイメージが拭えない悲惨な人。

 【土方十四郎(ひじかたとうしろう)】
 真選組の鬼の副長。重度のマヨラー。
 基本的に無愛想だが喧嘩好きな一面を持っている。基本的にはツッコミだがボケも出来るオールラウンダー。
 銀時とは仲が悪いのか、しょっちゅういがみ合っているが、単なる似た者同士という意見が無いでもない。
 妖刀事件の一件以降、地味にオタクの世界に片足が漬かってしまったある意味悲惨な人。

 【沖田総悟(おきたそうご)】
 若いながらも真選組で一番の剣の腕を持つ実力者。
 虎視眈々と副長の座を狙って(?)いるのか、よく土方を亡き者にしようとする描写が見られる。
 生粋のドS。ドS王子などとも呼ばれること多数。基本的にマイペースな人物で、その扱いには土方も手を焼いている様子。
 姉にはとことん甘えるという意外な一面を持っていたりもする。

 【山崎退(やまざきさがる)】
 真選組の密偵。基本的にツッコミとダメージ担当。バトミントンが趣味なのか、しょっちゅうそう言う描写が見られる。
 色々と不幸を引っかぶることが多く、苦労の多い新八とは気が合う模様。
 全体的に地味な印象があるのも原因かも知れない。

 【桂小太郎(かつら こたろう)】
 天人を追討し、倒幕を目指す攘夷派志士の生き残り。
 銀時の幼なじみであり、攘夷戦争時代の盟友。現在は宇宙海賊春雨や高杉率いる鬼兵隊などを相手に、銀時と共闘する事も多い。
 「狂乱の貴公子」「攘夷志士の暁」「逃げの小太郎」の異名を持つ。
 その姓と長髪から「ヅラ」のあだ名で呼ばれ、その際「ヅラじゃない桂だ」と反射的に返す。
 基本的に弄られ役な役回りが多い。そばが好き。人妻も好き。色々時代遅れな部分が多い人。

 【エリザベス】
 坂本辰馬が桂へ贈った正体不明の宇宙生物。飼い主兼相方の桂にはほぼ忠実。
 文字の読み書きなどを桂に教わっている模様。姿はオバQに酷似しており、最初はペットとして登場していたが、現在では桂の相棒として攘夷志士からも一目置かれている。
 被り物をした見かけによらず、高い戦闘力の持ち主。手にしたプラカードは武器としても使用する。口からキャノン砲を出して攻撃たり、ドリルを出して地中を掘り進むことができる。
 中身はただのオッサン……という説が濃厚。

 【志村妙(しむらたえ)】
 新八の姉。見た目はおしとやかだがかなり凶暴な一面をもっていたりする。
 最近は近藤のストーカー行為に頭を悩ませ、自宅を魔改造したこともある。
 ハーゲンダッツが好物。スナック『スマイル』で従業員兼用心棒としても働いているらしく、その実力は下手すると最強かもしれない。
 料理が苦手なのか、出てくる料理は真っ黒な炭となって『かわいそうな卵』と命名されるほど。

 【お登勢(おとせ)/寺田綾乃 (てらだあやの)】
 万事屋の1階にあるスナックのママで、万事屋の大家。かぶき町四天王の一人で、「かぶき町の女帝」と呼ばれる。「お登勢」は源氏名で、本名は寺田綾乃(てらだ あやの)。
 一見怖そうな外見だが、人情に厚く面倒見の良い性格で、時にはそのせいで騙されてしまうこともあるが、自分の性分として平然と受け入れる懐の広い人物でもある。
 万事屋の家賃滞納にはいつも手を焼いており、家賃を払わない銀時との言い争いの日々が絶えない。

 【キャサリン】
 出稼ぎが目的で地球にやってきた天人。
 かつては「鍵っ娘キャサリン」の異名をもつ、窃盗団「キャッツパンチ」の一員だったようで、その頃の腕は衰えておらず、スナックお登勢の金を強奪した事があるが、銀時達の活躍で御用となる。
 釈放された後は改心し、再びスナックお登勢で働いていて、盗みなどはしなくなったが、基本的には性悪。
 どこの星かは不明だが、故郷に家族がおり、仕送りをしているらしい。

 【たま/零號(ぜろごう)】
 元は病弱で孤独だった娘の芙蓉に向けて林流山が造ったプロトタイプのからくり人形。最初はおもちゃのような風貌だったが、改造を重ね人型となった。
 流山を殺した目黒博士によって殺人犯の濡れ衣を着せられ、首だけにまでなって逃げていたところをゴミ捨て場で神楽が持ち帰ったのが出会いのきっかけで、さまざまな経緯を経て体と記憶を失うものの、中枢電脳幹が納入された頭部がゲーム機についた状態で再生。
 現在はスナックお登勢のスタッフという形で客に知識を与えてもらっており、後に源外によって身体と武器を与えられ、立派な従業員兼銀時達の家賃の取り立て人として暮らしている。

 【猿飛あやめ(さるとびあやめ)】
 元お庭番衆のくノ一で、現在は不正な手段で金を受け取る悪党を裁く始末屋として働いている
 得意技は納豆を使った攻撃。好物も納豆である。
 通称さっちゃん。その由来は、忍者学校に通っていた頃、「猿飛」という苗字であることから男子に「猿」呼ばわりされてしまい、それを見かねた女子に「猿」の「さ」を取り、「さっちゃん」と呼ばれるようになってしまった不憫な過去によるものである。
 が、そのワリにはそのあだ名は嫌いではないようである。
 自他共に認める生粋のドM。銀時一筋。

 【長谷川泰三(はせがわたいぞう)】
 ・かつては幕府の入国管理局局長だったが、警護対象者のハタ皇子を殴るという不祥事を起こしクビにされた上、妻のハツにも逃げられる。
 その後も色々な職を転々とするが、いつもトラブルに巻き込まれて辞める羽目になっている。
 初登場時は銀時といがみ合っていたものの、現在は年の離れた友人でギャンブル仲間といった関係になっている。
 悪い人物というわけではなく、身を削っても芯は通し続ける気のいい人物なのだが、基本的に性根だけでなく運も悪い。
 常にこだわりとしてグラサンを愛用している。
 銀魂の【マダオ】といえば彼が真っ先に思い浮かぶだろう。

 【星海坊主(うみぼうず)】
 戦闘民族の夜兎族の男で、神威と神楽の父親。40代。
 第一級危険生物の駆除をしてまわる宇宙最強の掃除屋(えいりあんばすたー)で、付いたあだ名が「星海坊主」。正確な本名は不明。
 「ハゲ」という単語に極端に敏感な反面、カツラの被り方は極めて下手。
 かつて「親殺し」という廃れた風習に従って彼に襲い掛かった息子・神威の手により片腕を失い、神威を殺しかけた過去を持ち、その事件が原因で家族から距離を置いていたが、現在では万事屋としての生活で変わろうとしている娘・神楽を遠くから見守るような立場となっている。腕は義手。

 【高杉晋助(たかすぎしんすけ)
 過激派の攘夷志士でありかつては銀時、桂、坂本とは同志であった。
 紅桜編をはじめ、様々な話で黒幕として暗躍する姿が度々見られる。
 少年時代の恩師、吉田松陽のことをどこか心酔していたような描写も多々見られる。
 銀魂にてギャグが絡むことの無い数少ない人物。彼が出てくると大抵シリアスなので、銀魂にはかなり貴重な人種かもしれない。

 【鳳仙(ほうせん)】
 吉原桃源郷の利権に古くから関わる、銀河系最大規模を誇る犯罪シンジケート・宇宙海賊『春雨』の元幹部であり、現在は吉原を治める楼主として事実上の隠居生活を送っている。
 吉原(特に日輪)に執着心を抱いてる様子。幼い頃の神威の師匠で、彼が団長を務める第七師団の創設者でもある。
 最強の戦闘部族と謳われた夜兎族の中で一大勢力を築き上げた強者で、夜兎族の王とされる「夜王(やおう)」の異名をもつ。
 銀魂においても最強のうちの一人。

 【松平片栗虎(まつだいらかたくりこ)】
 幕府直轄の警察庁長官で、長谷川泰蔵と同じくサングラスがトレードマーク。
 非常に過激な性格で、仕事の際は艦隊を引き連れて全てを塵と化して帰っていくことから「破壊神」の異名を持つ。
 真選組の上司にあたり、隊士たちからは「(松平の)とっつぁん」と呼ばれ、それなりに慕われている。かつて路頭に迷っていた近藤たちを拾った人物。
 警察庁長官とは到底思えない無茶苦茶な言動をする(「警察なんてマフィアみたいなもんだよ」「グラサンかけてる奴はほとんどが殺し屋だ」「オジさんの80%は正しさで出来ています」など)。
 仕事よりも年頃の娘の栗子やキャバクラの方が大事で、愛娘のことになると見境がつかなくなる(チャラチャラした柄の悪い娘の彼氏(七兵衛)を暗殺しようとしたり、「タバコ臭い」と言われたら江戸の人間全てを巻き込んで禁煙を開始した程)。頻繁にキャバクラ通いし、派手に豪遊するシーンが見られるが、「ハートは三十年前母ちゃんにもう盗まれちゃってるから」と愛妻家らしき一面も見せる。
 将軍(徳川茂茂)の父が亡くなって以来、将軍の父親代わり(近藤曰く「悪友」)になっていたという。

 【徳川茂茂(とくがわしげしげ)】
 建前上この国で最も偉い存在である征夷大将軍。そよ姫の実兄。
 真選組を護衛に就かせるくらいの権力を持つが、実権は天人に握られている形だけの権力家。銀時曰く「アッチのほうは足軽」らしい。
 報陰で天導衆に「傀儡とされている」と言われている。将軍様ゲームの命令が全て自分に回ってくる程、極度の不運の持ち主である。気弱さ故か、とてもお人よし。実はブリーフ派である。町を全裸で走った経験がある。

 【柳生九兵衛(やぎゅうきゅうべえ)】
 先祖代々将軍家に仕えてきた名家・柳生家の次期当主。
 隻眼で小柄な体格だが、「柳生家始まって以来の天才」と呼ばれるほどの実力を持ち、剣の速さは神速と謳われている。
 普段から足腰の鍛錬のために身体に重しをつけている(その為全然身長が伸びなかった)。
 剣豪として正装し、一人称は「僕」であるが、女性(いわゆるボク少女)。お妙とは幼馴染み。母親は九兵衛の出産後に死去。
 現在の柳生家には他に家を継ぐ嫡男がおらず「後添えを迎え、“先妻の娘”として九兵衛が一生居場所なく生きるよりはマシ」として、愛ゆえに父と祖父に嫡男として厳しく育てられた。それ故に、現在でも女性としての生き方に憧れや未練があるようである(自分が女性である自覚があるため、性同一性障害ではない模様)。
 お妙を借金取り(第一訓に登場した金貸しの社長と同一人物)から守るために戦った際に左目を失った。
 信念を貫こうとする堅気な割に、その真面目さ故か人の言動を真に受けるなど、案外天然な性格である。
 男に触れられる事に拒絶反応を起こし、たとえ将軍であろうと自分に触れた男を投げ飛ばす。

 【東城歩(とうじょうあゆむ)】
 四天王一の実力を持つリーダー格。九兵衛の従者的存在。
 細目で温厚そうな風貌をしているが性格は短気。特に生卵の鮮度にうるさい。
 柳生編では近藤と対峙するが一撃で倒される。
 九兵衛の幼少の頃から彼女の護衛と世話係をしている。彼女を守る事に命を懸けているが、当の九兵衛からは鬱陶しがられている上に嫌われている。
 だが剣の腕前は認められている。

 【服部全蔵(はっとりぜんぞう)】
 大晦日に銀時とジャンプ合併号を争奪しあったジャンプマニア(ジャンルはバトル漫画よりラブコメの方が好きらしい)で、痔持ちの忍者だが、皮肉にも尻にばかり災難が降りかかる。
 元お庭番衆筆頭で忍術に長けており、「摩利支天」の異名を持つ。
 入院が必要なほどの痔主である。前髪で目が隠れて見えるのが特徴。
 お庭番衆をリストラされた今はフリーターとして職場を転々としている。
 実家は意外にも裕福。脇薫曰く「ブス専」らしい。

 【河上万斉(かわかみ ばんさい)】
 芸能界でつんぽとしても有名な鬼兵隊の一人。
 いつもヘッドホンをして何かしらの音楽を聴いており、それでもなおその剣の腕は土方を持ってしても猛者と言わしめるほど。
 人の在り方を音楽で例える独特な感性の持ち主。その感性ゆえか、一度、山崎を見逃していたりと独特の価値観を持っている様子。

 【タカティン】
 筋肉ムキムキ外国人。このSSではルリティン。
 公式ファンクラブ決定戦において、銀時がタカチンの替え玉として用意した。
 なぜかフランスパン片手にパンツ一丁にグラサンとバンダナしているファンキーすぎる外見。
 なんかやたら強い。日本語が喋れず片言。
 でもなぜかお通語は普通だった。

 【小銭形平次(こぜにがた へいじ)】
 顔はできる男。でもその実激しくダメ人間。
 ハードボイルドをモットーに生きる同心。
 狐を長年追いかけていたが、いまだに捕まえることができず。
 でもその実、その狐が命の恩人だったりと色々複雑。
 すさまじいほどのへたれ。彼の独特のハードボイルドはあの新八にすら死ねよといわれるほどのウザさを誇る。

 【ハジ】
 小銭形の弟分の少女。作者は最近までずっと男だと思ってました(ぉ
 もとこそ泥。そのせいかすさまじいほどにたくましい。
 ぶっちゃけるとよっぽど小銭形よりは役に立っていた気がするのは気のせいではあるまい。
 それでも小銭形を兄貴と呼び慕う。でもツッコミには容赦なし。

 【結野晴明(けつのせいめい)】
 銀時がファンであるお天気お姉さん結野アナの兄で陰陽師集団「結野衆」の頭目。一族歴代最強を誇る天才陰陽師である。
 結野衆は長きにわたり幕府と江戸を守ってきた一族で、自身は江戸の街に無数の式神を放ち、絶えず監視を行っている。
 かなりの美青年であるが、神楽に「妹萌え」と呼ばれるほど、結野アナことクリステルの事に入れ込んでいるシスコン。
 幼い頃は親友だった道満と仲違いをしてしまった事をずっと悔やんでおり、呪法デスマッチの最中に闇天丸に体を乗っ取られた道満に対し、「たとえ千の法術が使えても 友達一人と仲直りする術すら知らない」と己の胸中を明かした。
 銀時たちの活躍で道満との関係がライトなものに変化したため道満とは事実上和解している。

 【外道丸(げどうまる)】
 護身用として銀時に託された、クリステルの式神。
 平安時代に大江山で暴れまくっていた所を結野衆に調伏され、以降結野衆の式神としてこき使われていた。
 性格はその名の通り外道そのものだが、容姿はショートカットの黒髪の美少女。
 一人称は「あっし」で、語尾に「~ござんす」と付ける。奸知に長けており、戦闘スタイルも外道そのもので、初登場時は母親が亡くなったと偽り、相手を油断させて金棒で撲殺する等、その手口は目を見張るほど鮮やか。
 自分の事を唯一友人として扱ってくれたクリステルの事は大切に思っており、クリステルの幸せ第一で行動している。
 そしてそのクリステルの事を思いやる銀時の心意気を認め、銀時をクリステル以外のもう一人の主として認めている。
 …がしかし、銀時の局部に甚大なダメージを平然と与え続けるなど、当人に悪気は無いがぞんざいな扱いも目立つのはご愛嬌といったところか。



 ■東方キャラクター紹介■


 ◇主人公◇


 【博麗霊夢(はくれいれいむ)】
 ・種族 人間
 ・能力 「空を飛ぶ程度の能力」
 ・東方シリーズの主人公。異変解決の専門家の巫女。非常に陽気で危機感に欠ける。誰にでも同じように接し、優しくも厳しくも無い。そんな性格からか、強い妖怪から好かれやすく、弱い妖怪には恐れられる。平たく言うと誰に対しても容赦しない。
 能力は名前だけ聞くとそうたいしたことのないように聞こえるが、実際は「あらゆる束縛から解放される」というとんでもない能力だったりする。
 ちなみに、彼女は仕事をしないことで有名。

 【霧雨魔理沙(きりさめまりさ)】
 ・種族 人間
 ・能力 「魔法を使う程度の能力」
 ・東方シリーズもう一人の主人公。元幻想郷最速だった人。職業が魔法使い。性格は人を馬鹿にしたような態度をとり、思いやりがあるようには思えないが垢抜けており、一緒に居ると楽しくかんじる。見た目に反して結構な努力家。
 ルパンと次元のような関係な人物はいないがその代わり、ルパンととっつぁんの間柄な人物ならわりと多数。ちなみに「借りていく」の名目でしょっちゅう本を盗む。
 キノコを使った魔法や、他にもミニ八卦炉を使った魔法など、中でも恋符「マスタースパーク」は彼女の代名詞とも呼べるスペルカード。
 ただ、魔力駄々漏れで燃費が悪いらしい。


 ◇紅魔郷◇


 【ルーミア】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「闇を操る程度の能力」
 ・十進法。人肉大好き。そーなのかー。
 暗い所が好きであり、また食糧を調達するために周りを真っ暗にする。
 が、局地的すぎるがため逆にバレバレなのであまり意味は無い。
 しかも暗闇を作った本人でさえも周りが暗くて見えていないらしく、障害物にぶつかるところをよく目撃される。

 【大妖精(だいようせい)】
 ・種族 妖精
 ・能力 -
 ・大抵チルノに振り回されるお人好しキャラとして出てくる。
 小悪魔のような明確なキャラ間関係がないためゲームに登場する個別東方キャラの中ではダントツの影の薄さを誇るが、そこがまたいい、との一部ファンの声。
 が、実際の性格は小悪魔のモノに非常に近いらしく、悪戯好きでもあるという記述が見られる。
 でもやっぱり出てくるときはお人よしさんです。

 【チルノ】
 ・種族 妖精
 ・能力 「冷気を操る程度の能力」
 ・おバカ。強気で不屈。どんな簡単なナゾナゾでも答えられないらしい。
 一人称は「あたい」か「あたし」のようだ。通称⑨。
 妖精の中では群を抜いて強いようだが、所詮妖精なのでぼこぼこにされること多し。
 某所ではFF風東方の主人公として大活躍だったりするが、本編とはまったく持って関係ない。

 【紅美鈴(ほんめいりん)】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「気を操る程度の能力」
 ・紅魔館の門番を務める華人風の妖怪ちなみに何の妖怪なのかは不明。
 チャイナドレスに鍔無しの人民帽と、装いも中国人風であり、紅い髪と帽子についた星に刻まれた「龍」の文字がトレードマーク。
 主に湖からやってくる妖精を迎撃していて、門番以外にも色々と仕事を任されているらしく、紅魔館の庭にある花畑の管理人でもあるという話も。
 妖怪でありながら人を襲わず、逆に人間と親しく話すことから穏和な性格であることがうかがえるが、その一方で侵入者に対しては容赦がない。武術の達人であり、試合を申し込みにくる武道家も多いらしい。
 弱点らしい弱点がなく普通の人間相手には強いが、妖怪としてはそれほど強くない。
 朝は太極拳、昼には昼寝をしている。
 元祖、東方界の名前で呼ばれない人第一号だったが、最近漫画で名前で呼ばれだしたのでそのネタも廃れつつある……のかもしれない。

 【十六夜咲夜(いざよいさくや)】
 ・種族 人間
 ・能力 「時を操る程度の能力」
 ・紅魔館で働くメイドで、レミリアの世話をし、絶対の忠誠を誓っている。紅魔館に訪れる里の人間にも冷たく、常に妖怪の味方。一応、客として幾分には礼儀正しく接してくる。
 彼女の時間を操る能力は人間が持ちえる能力としては最上級。時間を早くしたり遅くしたり、時間を止めたりと出来るが、時間を元に戻すことだけは出来ないらしい。また、この能力は空間をいじることも同様に可能とする。

 【小悪魔(こあくま)】
 ・種族 悪魔
 ・能力 -
 ・紅魔館に住み着く小悪魔。名は無い。ちなみに正式な設定も実はほとんど無く、悪戯好きであるというこは公式設定らしい。
 ただ、大体は礼儀正しく書かれていることが多く、パチュリーの使い魔だったり、図書館の史書のようなしごとをしていたりされていることが多い。
 外見にしても、二通りあり、髪が長くスタイルがいいタイプと、ボブカットで子供に近い体型の二通り。
 ちなみに、公式絵が無いのでどちらが正しいのかも現時点では不明。

 【パチュリー・ノーレッジ】
 ・種族 魔法使い
 ・能力 「魔法(主に属性)を操る程度の能力」
 ・紅魔館に住む魔女。属性魔法を得意とし、さまざまな魔法を組み合わせたりして行使する。
 中でも小さな太陽を作り出して、それを破裂させることで大爆発を起こす日符「ロイヤルフレア」は圧巻の一言に尽きる。
 性格は暗く愛想が悪いが、思考が暗いわけではない。物静かで、めったに外には出ない。100年以上生きているが、ほとんどを本を読むことで生活している。喘息もちで、呪文の詠唱が最後まで出来ないことがしばしば。
 魔理沙とは「ルパンととっつぁんな関係」の人。

 【レミリア・スカーレット】
 ・種族 吸血鬼
 ・能力 「運命を操る程度の能力」
 ・二次はともかく、原作ではルックス、強さ、カリスマを兼ね揃えた希少な人。……だったんだけど、緋想天にてカリスマが大暴落した。「ぎゃおー、食べちゃうぞー」は多分、後にまで伝わる迷言だと思う。
 偉そうで偉い。でも背伸びをした子供のままの子供。かなりのわがまま。
 少食で人から多量の血が吸えず、さらに血液をこぼして服を真っ赤に染めるため「スカーレットデビル(紅い悪魔)」と呼ばれている。
 パチュリーとは長い付き合いの親友で、レミリアはパチュリーのことを「パチェ」、パチュリーはレミリアのことを「レミィ」とあだ名で呼び合っている。ちなみに、原作であだ名で呼び合っているのはこの二人のみ。
 ネーミングセンスに問題があり、そのセンスは不夜城レッドを筆頭に全世界ナイトメアまで生み出すカオスぶり。
 最近は素で妹になめられつつあるうえ、言動も相まってカリスマ急降下中……。でも幻想郷最強クラスの実力を持ったうちの一人。
 れみ☆りあ☆う~。

 【フランドール・スカーレット】
 ・種族 吸血鬼
 ・能力 「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」
 ・東方きってのバランスブレイカーその2。能力、身体能力ともに幻想郷最強クラスの持ち主。レミリアの妹。レミリアのことは好きなのか嫌いなのか多分自分でもよくわかっていない。
 長い間幽閉されていたせいか、少々気が触れているらしく、情緒不安定。そのため外に出してはもらえない。本人も基本的に出ようとは思わない。約495年引きこもり。
 感情をそのまま表に出す子供らしさを持つが、能力はある意味紫クラスのでたらめぶり。
 彼女の能力である『ありとあらゆるものを破壊する能力』とは、打撃による破壊活動ではなく、全ての物には力を加えれば物を破壊できる「目」が存在しており、離れた物の「目」を自身の手の中に移動させることができ、強く握ることで爆発(破壊)させてしまう能力。ぶっちゃけ回避不可のトンデモ能力。
 歯止めが利かないという一点でその破壊力は姉を遥かに上回る。
 普通吸血鬼は人間の血を吸うために殺さない程度に襲うものだが彼女に人間を襲わせたら間違いなく血飛沫すら残さず消滅させてしまうらしい。
 彼女には食料としての人間の血と、その元になる人間が結びつかないらしく、その理由というのも彼女が普段食べている「人間の血」は見た目ケーキだったり紅茶だったりするからだそうだ。


 ◇妖々夢◇


 【橙(ちぇん)】
 ・種族 妖獣(式神)
 ・能力 「妖術を扱う程度の能力」
 ・無邪気な猫又。普段は藍とは別居状態。猫を配下にしているが、全然扱えていない。
 勘違いされやすいが彼女にはまだ苗字がない。八雲一家唯一苗字なし。
 でも藍には愛されている。その影響か紫からも最近は愛されているらしい。
 藍の式神。でも思考能力は人間の子供と大して変わらないらしい。

 【アリス・マーガトロイド】
 ・種族 魔法使い(元人間)
 ・能力 「主に魔法を扱う程度の能力」
 ・沢山の人形を操って暮らす賑やかな独り暮らし。魔理沙とは蒐集仲間でありライバル。
 弾幕はブレイン。弾幕はパワーだと主張する魔理沙とは正反対なタイプ。
 魔理沙とは「ルパンととっつぁんな関係」の人その2。
 なんだかんだで彼女に力を貸すことが多く、でもやっぱり口喧嘩は多い。
 実は旧作にも出演していたりしており、その時はEXボスとしても登場した。

 【ルナサ・プリズムリバー】
 ・種族 騒霊
 ・能力 「鬱の音を演奏する程度の能力」
 ・プリズムリバー三姉妹の長女。
 鬱な演奏をして聴衆も憂鬱にするのが特技。
 手に持っているヴァイオリンはかの有名な名器の幽霊……らしい。
 常に糸目で登場しがちだが、公式での糸目シーンは少ない。
 身長が低めであるのをよく忘れられる。

 【メルラン・プリズムリバー】
 ・種族 騒霊
 ・能力 「躁の音を演奏する程度の能力」
 ・プリズムリバー三姉妹の次女。でしゃばり。
 魔法の力は三人の中で一番強い。ついでに姉妹の中で一番胸がでかい。
 手に持っているトランペットはかの有名な名器の幽霊……らしい。

 【リリカ・プリズムリバー】
 ・種族 騒霊
 ・能力 「幻想の音を演奏する程度の能力」
 ・プリズムリバー三姉妹の三女。悪巧みしか考えてない。よくソロでやりたがる。
 姉妹の演奏のうち、聞き側が正気を保っていられるのは彼女のモノのみ。
 なんだかんだで三姉妹の仲では一番狡猾なようで、最終的に自分が得するように動くことが多い。
 一応、姉妹仲は良好な様子。

 【魂魄妖夢(こんぱくようむ)】
 ・種族 半人半霊
 ・能力 「剣術を扱う程度の能力」
 ・人間と幽霊のハーフの二刀使い。師匠は妖忌。
 くそ真面目。半分幽霊なのにお化けが怖い。鞘には花が咲いている。
 妖怪を斬ったり植木を斬ったり、斬れないものはあんまりないので斬りたがる。
 幽々子のボケに突っ込むのが日課だが自身も割とボケているので逆に突っ込まれたりもする。
 全体的にいじられ役。でもストーリーでは「とりあえず斬る。話はそれからだ」なんて言う辺り根っからの辻斬り体質な危ない人物に見られなくもない。

 【西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)】
 ・種族 亡霊
 ・能力 「死を操る程度の能力」
 ・白玉楼の主。腹黒でボケーっとしてる。
 妖夢をいじめるのと紫にいじめられるのが日課。言動がめちゃくちゃ。
 その一見、呑気な外見とは裏腹に、高難易度かつ華麗な弾幕を所有する。
 生前はある「歌聖」の娘であったという。
 無抵抗に相手を即死させる能力が在るが、滅多に使う事はない。
 はらぺこキャラ。何でも喰う。際限なく喰う。とことん食いまくる暴食ぶり。
 切れ者なのか痴れ者なのか、いまいちつかみどころがない。ちなみに体は冷たくないらしい。
 幽霊と亡霊の違いは、実体の有る無しの他に、体温などいろいろあるが、もっとも大きな違いは亡霊は必ず人間の霊であるということ。
 亡霊は実体があるので、体が物質を透過できない。

 【八雲藍(やくもらん)】
 ・種族 妖獣(式神)
 ・能力 「式神を操る程度の能力」
 ・九尾の狐。乳大きめ。油揚げ好きで性格の方は丸く、穏やか。自分の式である橙を溺愛してる。
 基本的には便利屋さんであるため普段は紫にこき使われている。
 性格以外は大体紫の下位互換。しかし比較元が元な上、媒体としての藍自身が最強の妖獣なのでかなり強い。
 それでも使い走りな苦労人っぽいイメージが拭えない悲惨なキャラ。
 誰か彼女に愛の手を。

 【八雲紫(やくもゆかり)】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「境界を操る程度の能力」
 ・東方一のバランスブレイカー。モノにもよるが、間違っても彼女を戦闘メインの作品にクロスなんてさせてはいけない。例えるならは○めの一歩にDBのブロリーを持っていくようなものである。
 彼女の境界を操る能力は物事の根底を覆す能力で、別の場所と場所を繋いで移動するほか、論理的な創造と破壊を可能にする能力で、阿求の言を借りれば「神様に匹敵する能力」。彼女も最強クラスの実力を持ったうちの一人で、友人関係も伊吹萃香、西行寺幽々子と、最強クラスの力を持ったメンツが多い。能力のほかにも、常識を超えた身体能力と、超人的な頭脳を持つ。
 性格は人情に欠けるとされているが、本人は話し好き。天子を亡き者にしようとした割には、なんだかんだで桃を持ってくれば許すみたいな発言をしているあたり、案外優しいのかもしれない。
 ちなみに、彼女ほど幻想郷を愛しているものはいないといわれるが、皆からは何を考えているかわからないだの、胡散臭いだのいわれて色々犯人扱いされることも多い。


 ◇永夜抄◇


 【リグル・ナイトバグ】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「蟲を操る程度の能力」
 ・ホタルの妖怪。蟲の地位向上に日夜努力中。
 文花帖で妙な商売っ気を出したが、あまりネタにされず。というかあんなサービスは御免こうむる。
 俺魔理沙と違ってあまり槍玉に挙げられないが、ショタ疑惑があったせいか、彼女の一人称は「私」で、「僕」や「ボク」では無い。

 【ミスティア・ローレライ】
 ・種族 妖怪(夜雀)
 ・能力 「歌で人を惑わす程度の能力」
 ・歌はうまいのか下手なのか意見の分かれる。なんでもハードロック調らしい。立ち絵をよく見ると公式ニーソックス。
 何気に爪が凶悪な形。弾幕よりもこれで引っかいたほうが強力そうだ。
 幽々子の食料(非情食、もとい非常食)にされること多数。誰か助けてあげてください。
 鰻屋台ネタはピークを過ぎたのか、最近ではおでん屋台ネタが見受けられる。
 食事的な意味でもっとも人間を襲う「妖怪らしい妖怪」の一人。

 【上白沢慧音(かみしらさわけいね)】
 ・種族 獣人(ワーハクタク)
 ・能力 「歴史を食べる(隠す)程度の能力(人間時)」「歴史を創る程度の能力(ハクタク時)」
 ・知識も豊富でちょっと固いところがあるものの人がよく、人里で寺子屋を開いている。満月のときにハクタクに変身し、体毛が変わり、角が生える。
 能力の歴史を食べるとは、文字通り歴史を隠してしまうことである。また、歴史を作るというのは文字通り、歴史を作り上げるという、能力はかなり強力であると思われる。
 不老不死の藤原妹紅の数少ない理解者でもある。

 【因幡てゐ(いなばてゐ)】
 ・種族 妖獣(妖怪兎)
 ・能力 「人間を幸運にする程度の能力」
 ・健康に気使って長く生きているうちに、妖怪変化の力を身につけた兎。永遠亭に住む大量の兎のリーダーで、その気性の激しい性格は妖怪より妖精に近いらしい。
 一説によるとあの因幡の白兎の馴れの果てとも言われているが定かではない。
 優曇華への呼称は長らく不明だったが、最近の書籍作品により「鈴仙」と呼んでいる事が発覚。更に永琳の事は「お師匠さま」と呼んでいる事も発覚した。
 登場以来、最も出世したであろう中ボス。募金回収活動も活発。嘘と詐欺が大好きな根っからの詐欺師。
 作中でうどんげとは相性がさほど良くないらしく、やり取りが色々と適当な事が多い。

 【鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)】
 ・種族 妖獣(玉兎)
 ・能力 「狂気を操る程度の能力」
 ・永琳と輝夜とてゐのおもちゃ。
 妖夢と双璧を成す弄られキャラ。涙目がよく似合う。生真面目な性格が災いしてか大体はろくな目にあわない悲惨なキャラ。
 正統派美少女っぽい外見のせいもあってか高い人気を得た。
 耳は偽物らしく、根元のボタンが非常に怪しさをかもし出す。
 花でコスチュームチェンジしたにも関わらず、そちらは余り人気がない。
 原作のCGやドット絵から尻尾がないと思われていたが、求聞史紀や緋想天の立ち絵では尻尾ありだったりするので尻尾の有無はどちらでもいいという結論になりつつある。
 能力は狂気を操る程度とされているが実際には電磁波や光なども含むあらゆる波について、その波長・位相などを操ることができる。
 人妖の波長を見ることで性格を見抜いたり、竹林一帯に錯覚を生み出し、迷いの結界を作り出す等、その力は人間や妖精を遥かに上回る。能力だけ見るならわりと強キャラ。

 【八意永琳(やごころえいりん)】
 ・種族 月人
 ・能力 「あらゆる薬を作る程度の能力」「天才」
 ・巨乳。サド。そして永遠亭の影の支配者。うどんげいじめと変な薬をばらまくのが趣味な困ったさん。
 弓が武器のようだが使っている姿を見るのはほとんどない。
 花の兎や人形のエンディングから、人任せにせず何でも自分でやったり出歩いたりしている。
 実は主人の輝夜より強かったりするメタな設定があったりする。
 しばらくは輝夜の側近的な立ち位置と思われていたが、儚月抄により輝夜の家庭教師だったことや、輝夜を呼び捨てにしていることが発覚した。
 最近ではどうも、月の都を作り上げた月夜見より年上かつその相談役らしいことが判明。
 二次創作では奇妙な薬を作るネタが多く、八雲紫同様ただの便利役として使われること多数。
 一体どこまで彼女の地位がインフレするのか、ファンは戦々恐々である。多分主人の輝夜も同じ気持ちに違いない。

 【蓬莱山輝夜(ほうらいさんかぐや)】
 ・種族 月人
 ・能力 「永遠と須臾を操る程度の能力」
 ・地味。ニート。その漢字からてるよ。など呼び名はかなり散々。でも能力はワリと反則。
 正真正銘、竹取物語のかぐや姫だが、倒しに行くと結構はすっぱな庶民口調で迎えてくれる。
 もっこす(妹紅)とはト○とジェ○ーの関係。
 元々彼女は月の民として生まれ姫として何一つ不自由なく育てられたが、それは禁薬である蓬莱の薬を飲んだ時から彼女の生活は一変。
 不老不死となった彼女は罪人として処刑されたが死ぬことができず、やむなく穢れた地上へ転生という形で落とされることになる。
 転生した彼女はある地上の民に発見され、輝夜の名で育てられることになる。
 あとはかぐや姫の通りに生活し、そのうち彼女の罪は贖われ月から迎えの使者が来る。
 しかし地上に残りたいと願う彼女は使者の中にいた旧知の八意永琳と共謀して他の使者を全て殺害し逃亡。
 そんな設定があるからか、シリアスだとものすごく腹黒い性格で書かれることが多い。特に某サイトの輝夜は「様」と敬称を付けたくなるほど理性保ったまま狂ってて腹黒くてカッコいいです。
 でもギャグになると大抵ニートの駄目なお姫様に。この落差はある意味東方一かもしれない。

 【藤原妹紅(ふじわらもこう)】
 ・種族 人間(蓬莱人)
 ・能力 「老いる事も死ぬ事も無い程度の能力」
 ・幻想郷の不死鳥。ぶっきら棒な上に我武者羅。輝夜より年下っぽい。
 けーねとてるよとの三角関係の渦中の人。
 死なないので色んなのに好き勝手嬲られる。
 「蓬莱の玉の枝」を要求された車持皇子(藤原不比等)の娘と思われる。
 暴走ばかりにみえて実はいぶし銀な優しい人。
 文花帖で薄れた殺伐属性は求聞史紀で完全消滅。
 最近では永遠亭に患者を送る際の護衛も引き受けてくれる。根っこのところは本当に優しいらしい。
 ただ輝夜を目の前にすると恐ろしく沸点が低くなるのはご愛嬌。
 【不死「火の鳥-鳳翼天翔-」】などネタ満載。


 ◇萃夢想◇


 【伊吹萃香(いぶきすいか)】
 ・種族 鬼
 ・能力 密度を操る程度の能力
 ・幻想郷に現れた鬼。見た目は少女だが、何百年も生きている。かなりの飲兵衛でいつも酒を呑んでは酔っているが、幻想郷中に広がる薄い霧になって盗み見ていたということもあって時折人の心を読んだかのような発言をする。
 酒に酔っているためか、常に前後にフラフラしている。見かけによらずかなりの怪力。鬼だけに弱点はやはり炒った大豆らしい。
 持ち歩いている瓢箪は「伊吹瓢」と言い、酒が無限に沸いてくるが、転倒防止のためのストッパーが付いており、一度に出る酒の量は瓢箪の大きさ分のみ。紫とは友人。
 鬼は長い間幻想郷から居なくなってしまったとされてきたため鬼を退治するための特別な方法が現在の幻想郷からは失われており、誰にも退治できなくなっている。


 ◇花映塚◇


 【風見幽香(かざみゆうか)】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「花を操る程度の能力」
 ・旧作にも登場。自称、幻想郷最強。ただし、それも自他認めるほどの実力の持ち主で、阿求いわく、人間じゃ到底かなわないとまで言われている。一年中花に囲まれて生活し、邪魔が入れば絶大な力で問答無用で滅ぼしにかかる。他の生き物にまるで容赦しない。
 花を操る能力は実際オマケ程度で、実際は人間をはるかに凌駕した身体能力で戦うほうが得意。
 花を飛ばしたり、傘で攻撃したりする優雅な戦い方をする。特定の力を持った人間か、同じくらい強力な妖怪しか相手にしない。
 人の神経を逆なでるのが大好きな困ったさん。

 【射命丸文(しゃめいまるあや)】
 ・種族 天狗(鴉天狗)
 ・能力 「風を操る程度の能力」
 ・幻想郷最速の鴉天狗。性格は真面目で社会適応性は高いが根は狡猾。強いものには下手に、弱いものには強気で接する。ただし、取材対象には常に礼儀正しい。
 実は一回だけゲームで主人公を務めていたりする。ONとOFFの言葉使いの違いが大きい。地味に最強クラスの実力者。【文々。新聞】という新聞を発行しており、妖怪の山以外の場所の出来事も記事にする。
 妖怪の山の外の人間や妖怪を記事にするのは、天狗の中では彼女だけらしい。

 【小野塚小町(おのづかこまち)】
 ・種族 死神
 ・能力 「距離を操る程度の能力」
 ・サボリ魔。世慣れている。
 得意技はFFシリーズよろしくぜになげ。
 会話好きな性格ではあるが、求聞史紀設定では相手が霊の場合は一方的(死人に口なし)。
 よく仕事をサボるせいかしょっちゅう映姫に怒られる……が、まったく懲りていない人。
 天子とは犬猿の仲。職業柄もあるかもしれないが、彼女にしては珍しく嫌悪感はっきりなご様子。

 【四季映姫・ヤマザナドゥ (しきえいき・やまざなどぅ)】
 ・種族 閻魔
 ・能力 「白黒はっきりつける程度の能力」
 ・名字:四季 名前:映姫 役職:ヤマザナドゥ 。
 ヤマは閻魔、ザナドゥは桃源郷(楽園)、つまりヤマザナドゥとは幻想郷の閻魔の意。
 説教魔。理屈っぽい。生足が人気。公務員っぽい。中間管理職。
 妖夢と同じく生真面目な性格で、そのせいか部下の小町には振り回されることが多い。
 元地蔵の神の眷属。


 ◇風神録◇


 【鍵山雛(かぎやまひな)】
 ・種族 八百万神(厄神)
 ・能力 厄を溜め込む程度の能力
 ・厄を溜め込み、それが人里に行かないように見守っている。厄はある程度溜め込むと神に返還するらしい。
 その性質上、彼女の傍にいると厄が移ってしまうが、彼女本人には回りに浮いているだけなので特に害は無い。
 比較的、人間に友好的な神様。

 【河城にとり(かわしろにとり)】
 ・種族 河童
 ・能力 水を操る程度の能力
 ・人見知りの激しい河童。工学迷彩やらミサイルやらとやたら発明家っぽい。
 まさかの魔理沙のパートナーに選抜されたりと意外と忙しい。
 核の力に興味持ったりと好奇心は人一倍な様子。
 今でも人間と河童は盟友だと思っている。

 【犬走椛(いぬばしりもみじ)】
 ・種族 天狗(白狼天狗)
 ・能力 「千里先まで見通す程度の能力」
 ・発射する「の」の字弾幕が派手ででかいので、姿を確認できるのはほんの一瞬。
 そのうえドット絵のみでは判別が難しいため、犬耳、犬尻尾の有無が日夜論争になる。
 にとりと大将棋をしたりするのが日課。文との関係はイマイチ不明だが、どうも上司と部下な関係でおちついているっぽい。
 とりあえず苦労人なイメージが強い。

 【東風谷早苗(こちやさなえ)】
 ・種族 人間
 ・能力 「奇跡を起こす程度の能力」
 ・守矢の神社の風祝(かぜはふり)で、秘術を操る一族の子孫。
 秘術を使用できる者は現人神として人間からの信仰を得るようになったらしい。
 外の世界で信仰を得られなくなった神奈子の提案により、神社ごと幻想郷に移り住んで博麗神社を脅して幻想郷を思い通りにしようとした。
 まじめな性格で自分の力に自信を持っていたようだが、外の世界の常識は幻想郷ではまったく通用せず、霊夢や魔理沙によって返り討ちにされてしまう。
 根拠のない自信が暴走し空回りする典型的な勘違いキャラ。
 その性格からかなりの苦労人な立場に回ること多数。誰か彼女に救いの手を差し伸べてあげてください。
 霊夢と色違いに近い服装から、ル○ージだのと散々ないわれようだが、プロポーションだけなら霊夢より上。
 最近はフルーツだのと新たなネタが追加された。
 最近はすっかり腹黒いドSキャラに……。妖怪退治って楽しいかも。

 【八坂神奈子(やさかかなこ)】
 ・種族 神霊(実体有)
 ・能力 「乾を創造する程度の能力」
 ・妖怪の山に神社ごと引っ越してきた神様。美鈴、霖之助に続いて名前で呼ばれないヒト三号。
 髪型のせいか某子供向けアニメの主人公の母親にそっくりとかなんとか。
 難易度イージーのはずなのにまったく持ってイージーではない弾幕でプレイヤーを苦しめる。
 ガン○ャノンとかみ○えとかオンバシラーとかネタ満載な風神録ラスボス。

 【洩矢諏訪子(もりやすわこ)】
 ・種族 神霊(実体有)
 ・能力 「坤を創造する程度の能力」
 ・守矢の神社に住む本当の神様。ロリ系祟り神。子持ちの人妻(?)。
 何故か帽子が凄い事になっていて、これ自体が生き物でクリーチャーなネタが出来上がるほど。
 諏訪子は早苗のご先祖様に当たるようで、それはまだ早苗本人には告げられていない様子。
 神奈子に神社を乗っ取られても泣かない、挫けない。
 でも霊夢ルートでの神奈子についてのセリフが結構きっついので根に持っているかもしれない。


 ◇香霖堂◇


 【森近霖之助(もりちかりんのすけ)】
 ・種族 半人半妖
 ・能力 「未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力」
 ・香霖堂を経営している。東方シリーズでは数少ない男性キャラで、
 人間と妖怪とのハーフ。名前で呼ばれない人その2。
 原作の常識人と二次の変態の落差はすさまじいの一言。
 外から来たさまざまな商品を扱うが本人にあまり売る気が無いと言うか、便利と判った物は全て非売品にしてしまう。
 魔理沙が生まれる前に、霧雨店で修行をつんでいた事があるため、魔理沙には昔から遠慮しているらしいが、端からはすでに無遠慮に見える。

 【名無しの本読み妖怪(朱鷺子(ときこ))】
 ・種族 妖怪
 ・能力 記述無し
 ・小説、東方香霖堂の第一話に登場した名無し妖怪。本を読んでいたところを霊夢に強奪され、その際に霊夢の服を少し破く程度だったが一矢報いたこともある辺り、意外と強いのかもしれないが詳細不明。
 ちなみに、朱鷺子とは二次での呼称であって名前ではない。他にも朱鷺娘など呼ばれている。
 霊夢に本を返して貰うために決闘を挑むものの、代理で受けた魔理沙に返り討ちにされるという悲惨なキャラクター。
 銀に藤色のメッシュ髪、藤色の二本の小さな角に、背中のほかに、後頭部の辺りにも小さな赤い翼がある。
 名前の由来となったのは、朱鷺のような鮮やかな紅色の羽から。
 元々小説でしか登場しなかったキャラクターなだけあって知名度はダントツに低い。


 ◇三月精◇


 【ルナチャイルド】
 ・種族 妖精
 ・能力 「音を消す程度の能力」
 ・月の光の妖精。周りの音を消す事が出来る。だが音が鳴っている環境では不自然で反ってばれやすくあまり役に立たない。
 愛称は「ルナ」。三月精の中で最もとばっちりを受ける役回りをすることが多い。
 月の光を浴びる事で怪我を治癒する事が出来る。「文々。新聞」を読んでるシーンが度々登場し、人間の子供と同じ様なものを好む妖精の中では珍しく、蕗の薹やコーヒーなど苦味のあるものを好む。
 月の光の妖精だからか夜に出歩くことが多く、十六夜の日には色々なものを拾ってくるらしい。
 一応3人の中では一番残酷らしく、紫から「(三月精の中で)最も妖怪に近い」と称されていた。
 地味に小説版の主役らしい。

 【サニーミルク】
 ・種族 妖精
 ・能力 「光を屈折する程度の能力」
 ・三妖精のリーダー格。日の光の妖精。
 日の光を屈折させて、虚像を見せて道に迷わせたり、自分達の姿を見えなくしたりする。
 だが雨の日などは不自然でばれやすくあまり役に立たない。愛称は「サニー」。
 3人の中で最も頭は切れ、表情豊かで明るく、元気もある。でも一番失敗が多い。
 日の光を浴びる事で怪我を治癒する事が出来る。
 もっぱら名前の響きがえろいとか散々な言われようだったりするが、そこには目を瞑ろう。

 【スターサファイア】
 ・種族 妖精
 ・能力 「動くものの気配を探る程度の能力」
 ・星の光の妖精。気まぐれな性格で腹黒い。
 能力は三妖精の中でレーダー的な役回りで間接的ながら重要だが、彼女の性格のせいか悪戯が失敗する事が多い。
 三妖精の中では唯一天候に関係なく能力が使える。愛称は「スター」。天候に影響を受けず、常にゆっくり回復する。


 ◇求聞史紀◇


 【稗田阿求(ひえだのあきゅう)】
 ・種族 人間
 ・能力 「一度見た物を忘れない程度の能力」
 ・九代目阿礼乙女で稗田家の現当主。九代目だから名前は「阿求」らしい。
 百数十年に一度の転生を繰り返しながら幻想郷縁起を書いている。
 一代一代は短命で30歳ほどしか生きられないが、総括的に見ればとんでもなく長生きしている。
 主に妖精に対する黒すぎる感情が見え隠れする。なんかいやなことでもあったのか?
 パチュリー、慧音、永琳に並ぶ知識人。


 ◇緋想天◇


 【永江衣玖(ながえいく)】
 ・種族 妖怪(竜宮の使い)
 ・能力 「空気を読む程度の能力」
 ・礼儀正しいのに黒くないという新鮮なキャラ。初の雷属性でもある。龍の世界と人間の世界の間を行き来し、龍の言ったことから重要な情報を抜き取って伝えるのが仕事らしい。
 能力はどう考えても「雷を操る程度の能力」では? と思った人も多分多いはず。
 羽衣は武器でドリルのように回転して相手にぶっさすことができる凶悪兵器。
 技のポーズがサタデーナイトフィーバーに酷似していることから、早速その方面で話題に。
 東方キャラの中で、「お姉さん」という言葉が一番しっくりくるのは彼女だと思われる。

 【比那名居天子(ひななゐてんし)】
 ・種族 天人くずれ
 ・能力 「大地を操る程度の能力」「気象を操る程度の能力(緋想の剣の能力)」
 ・東方緋想天のラスボス。不良天人だの天人くずれだの言われるとおり、性格は天人らしくなく、非常にわがまま。言動はSッポイのにストーリーモードでは全員からワザとボッコボコにされていたことが原因でM疑惑が浮上中。
 暇で退屈だからという理由で幻想郷に異変を起こした前代未聞な人。
 彼女本人のストーリーモードで多くのキャラに連戦して勝利していく様から、多分強キャラではあるだろうが、紫にギッタンギッタンにされたことを考えると最強クラス一歩手前ぐらいの強さと思われる。
 最近はドMに続いてどうも二次辺りでツンデレ属性もついてきた模様。


 ◇地霊殿◇


 【黒谷ヤマメ(くろだにやまめ)】
 ・種族 土蜘蛛
 ・能力 「病気(主に感染症)を操る程度の能力」
 ・能力は恐ろしいが友好的。性格もいい様子。
 もっぱら意図がどこから出るのか議論されていたりするが、詳しいことは不明。
 地下世界のアイドル。でもみんなから避けられる悲惨な人。

 【水橋パルスィ(みずはしぱるすぃ)】
 ・種族 橋姫
 ・能力 「嫉妬心を操る程度の能力」
 ・地上と地下を結ぶ縦穴の番人。とても嫉妬深いペルシャ人。
 どことなく貴公子っぽい格好。服の柄は橋模様。珍しく頭にオプションがないが、その代わり耳が尖っている。
 ヤンデレと思われがちだが、清く正しく真っ直ぐに嫉妬深いだけであるとも言える。
 その外見からアリスもどきとも。

 【星熊勇儀(ほしぐまゆうぎ)】
 ・種族 鬼
 ・能力 「怪力乱神を持つ程度の能力」
 ・伊吹萃香と同じく、鬼族の四天王の一人。
 二つ名は「力の勇儀」。腕っ節至上主義。鬼なのに3面ボスなのは力を試したため。
 なので倒されても余裕が漂う。本来の実力はラスボス級のご様子。
 「怪力乱神(かいりょくらんしん)」とは語ることの出来ない不思議の意。

 【火焔猫燐(かえんびょうりん)】
 ・種族 火車
 ・能力 「死体を持ち去る程度の能力」
 ・さとりのペットその1。あたい3号。怨霊や妖精のゾンビも操ることが出来る。
 努力家で人懐こい。死体や怨霊を操る術や人化能力は努力で身につけたらしい。
 猫の姿の人の姿になるが、人間時はネコミミゴスロリと特徴的。
 種族の火車とは罪人が死ぬと死体を墓場や葬式会場から地獄に持ち去るのが生業。
 なので旧地獄の灼熱地獄を維持する為に、燃料になる死体を猫車で集めるのが日課。
 お空とは友人関係っぽい。

 【霊烏路空(れいうじうつほ)】
 ・種族 地獄鴉 with 八咫烏
 ・能力 「核融合を操る程度の能力」
 ・元はさとりのペットその2の単なる地獄カラス。灼熱地獄跡の温度調節を仕事としている従者なラスボスなのでカリスマ皆無。
 元々は仕事熱心で現状にも満足していたようだが、悪い人達にそそのかされ神(八咫烏=太陽=核爆発)の力を注入されてえらいことに。
 弾幕は驚くほど白い。そのスぺルカード名から「バハムー子」とも。
 しょせん鳥頭。脳みそ小さい。親友のお燐に呆れられている。
 温泉卵を食べてるときに「うにゅ?」という発言を残すことで地味にファンがついているかもしれない。
 つーかそれ共食……。

 【古明地さとり(こめいじさとり)】
 ・種族 さとり
 ・能力 「心を読む程度の能力」
 ・地下深くに存在する地霊殿の主。女性版ムツ○ロウさん
 心を読む程度の能力を持ち、そのせいか如何なる妖怪、怨霊からも恐れられ、いつしか地霊殿に訪れる者は殆ど居なくなっていた。
 その逆に、言葉を持たない動物や怨霊にはなつかれており、そのせいか地霊殿には多くのペットがいる。
 全面的にペットのことは信用しており、お燐、お空も彼女のペットである。

 【古明地こいし(こめいじこいし)】
 ・種族 さとり
 ・能力 「無意識を操る程度の能力」
 ・さとりの妹。本来はさとりと同じく心を読む能力を持つ。
しかし他人から嫌われるのを恐れ、その力を封じてしまった。心を閉ざしているので姉のさとりにも真意が読めない。
 心を読む力は、自らの心の強さでもある。それを嫌われるからと言って閉ざしてしまう事は、ただの逃げでしかなく、結局は自らの心を閉ざしたのと変わらない。他人の心を受け入れないで完全にシャットダウンする事と同義。
 そのせいか、どうにも感情の一部に制限がかかっているようにも感じる。
 無意識を操るため、その存在を確認するのはワリと至難の業らしい。


 ◇儚月抄◇


 【綿月豊姫(わたつきのとよひめ)】
 ・種族 月人
 ・能力 「海と山を繋ぐ程度の能力」
 ・依姫の姉。天性の幸運の持ち主。天然。妹と比べるとタレ目気味。
 永琳の又甥の嫁。ただし「人間風に言うと」という前置きがあるので、実際に既婚者かどうかは不明。元ネタの神話だと正体は鮫(ヤヒロワニ)である。
 窓から飛び降りて玉兎(レイセン)を踏み潰したり、妹がとっておいた桃を勝手に収穫したりと、かなりのお転婆。
 永琳の量子論的講釈を応用し月と地球、表の月と裏の月を繋ぐことができる。
 説明だけ聞くと物質転送かワームホールのようだが彼女の能力は空間上の点と点を直接接続できるようだ。
 裏の月への侵入者の監視および月の使者の先導役を担う。仕事柄平時はかなりヒマ。

 【綿月依姫(わたつきのよりひめ)】
 ・種族 月人
 ・能力 不明(神霊を呼ぶ程度の能力?)
 ・豊姫の妹。永琳の教えを何でも吸収したらしい。姉と比べるとツリ目気味。
永琳の又甥夫婦の息子の嫁。
 ただし「人間風に言うと」という前置きがあるので、実際に既婚者かどうかは不明。
 元ネタの神話だと実家に帰った姉の代わりにその子供を育ててそのまま結婚、神武天皇を産んだ。
 服装は姉妹で殆ど変わらないが、こちらはリボンでポニーテールを結っている。
 わざと怖い事を言って玉兎(レイセン)をビビらせたりと、意外に腹黒。
 月の使者となる玉兎の戦術指南がお仕事。
 本人は割とチートのように強かったりする困ったさん。


 ◇星蓮船◇


 【多々良小傘(たたらこがさ)】
 ・種族 からかさお化け
 ・能力 「人間を驚かす程度の能力」
 ・使われなくなった傘が化けた者。
 彼女は元々は忘れ物の傘だったが、配色が不人気で誰も拾ってくれる事もなく、雨風に飛ばされているうちに妖怪になった。
 カラカサを持っている。オッドアイ。負けても人間を驚かそうと粘る根性の持ち主。でも最後はやけっぱち。今後の目標は原点回帰。
 天子に続くM属性二号……? なんだか巷で素足下駄で人気沸騰中。
 最近の人間は妖怪にちっとも驚かない…と嘆いている。
 どういうわけか涙目がよく似合う。いじられ属性もちなのは確実っぽい。二次だともっぱら早苗の玩具状態。
 二面ボスかと思えばまさかのEX中ボスでも登場。こやつ、できる!!

 【ナズーリン】
 ・種族 妖怪ネズミ
 ・能力 「探し物を探し当てる程度の能力」
 ・1ボスネズミ。長いダウジングロッドを2本持っている。
 ダウジングロッドの右側の先端にW(West)とN(North)、左側の先端にE(East)とS(South)の文字がついている。
 ダウジングが得意な、ネズミ使いの鼠。性格は忠実だが、一方でずる賢く高圧的で逃げ足も早い。
 しゃべり方が小生意気な少年系でしたたか腹黒。
 ご主人は寅丸星。でも本来の上司の毘沙門天から命令されて星を監視している。
 どうも人喰いらしく、しっぽで運んでいる籠の中の子ネズミも人肉大好き食欲旺盛。
 星からは結構信頼されている様子。
 星の頼みごとに、迷惑がりながらなんだかんだいいつつもそれに応えるナズーリン、とかいう関係だったら悶える。主に作者が。

 【聖白蓮(ひじりびゃくれん)】
 ・種族 魔法使い
 ・能力 「魔法を使う程度の能力(身体能力を上げる魔法を得意とする)」
 ・大昔の尼僧。人間をやめた大魔法使い。遠い昔に魔法を使ったために封印された僧侶。
 霊夢すらも一瞬怯ませるほどのカリスマ持ち。流石、修行の成果と年の功。
 人も妖怪も神も仏も全て同じと言う絶対平等主義者。
 命蓮というよく出来た弟がいたが、姉の白蓮より早く死んでしまう。
 その死を嘆き悲しみ、死を極端に恐れるようになった結果法力を超えた妖術魔術の類の、若返りの力を身に付けた。
 最初は自分の魔力維持のために妖怪を助けていたが、妖怪の不憫な立場に同情して次第に妖怪を守らねばと思うようになった。
 人間からの信奉も非常にあったが、妖怪との共存を望み加担していたことがばれると一転、悪魔扱いをされて魔界に封印されてしまった悲劇の人。
 人柄は優しく丁寧。例えるならば菩薩様、もっとわかりやすく言えば隣家の優しいお姉さん。
 大人の女性の包容力、ゴッドマザー的な懐の深さを持ち、その内面を慕う妖怪は多い。
 基本的に天然さんで書かれることの多い人。命蓮寺における中心人物。

 【寅丸星(とらまるしょう)】
 ・種族 妖怪
 ・能力 「財宝が集まる程度の能力」
 ・幻想郷界隈では珍しい金髪黒髪混じりの虎柄ショートカット。敬語使い。
頭に花が咲いているが、毘沙門天の弟子でも代理でもあるので偉いっぽい。縁起の良い妖怪とのこと。
 七福神の一人。白蓮の手引きで毘沙門天に帰依しているため信仰を一身に受けていた。
 山の妖怪の中では一番まともで白蓮の信頼もあったが、毘沙門天は心配しており、こっそり動向をナズーリンに監視させている。
 非常に真面目で優秀だが、大事な宝塔をなくしてしまうなどドジっ子属性も垣間見える。
 おかげで、二次では結構ナズーリンに頭が上がらない描写が多い。
 また、相手を褒め称え癖あり。もちろん毘沙門天らしく正義云々も言う。
 白蓮を失ったことを後悔しているらしく、ムラサ船長たちと協力して聖復活のために尽力する。
 おそらく、命蓮寺では一、二を争う聖っ子。


 ◇ダブルスポイラー◇


 【姫海棠はたて(ひめかいどうはたて)】
 ・種族 鴉天狗
 ・能力 「念写をする程度の能力」
 ・花果子(かかし)念報の記者。
 射命丸文とは、お互い妄想新聞、弱小新聞と言いあっているが、仲が悪いわけではなく、どちらかといえば上を目指して競い合うライバルといったところらしい。
 文が一般的なカメラを使うのに対し、はたてはケータイカメラを使う。
 念写能力で家に居ながら写真の撮影をし、それで新聞を書いている。
 この念写、ケータイにキーワードを入力すると画像が出てくるというものらしい。
 要するに画像検索。その所為か誰かが撮ったことのある景色しか撮れないため、
はたての新聞は情報が古いと言われている。
 ちなみに性格は引き篭もっていたためか、自ら鬼に干渉しようとするなど、世間知らずの怖いもの知らず。
 その根っこは明るく生意気で、口調がコギャル(死語)っぽい。
 思ったことをそのまま口にしたりするため、毒舌だったりすることもあるが、ダブルスポイラーのこいし戦では「楽しい気持ちを読んでもらって、楽しくなってもらおう」などという意味合いの発言もしているので、根っこのほうは悪い奴というわけではなさそうである。
 良くも悪くも正直ということか。


 ◇旧作◇


 【神綺(しんき)】
 ・種族 神
 ・能力 記述なし
 ・旧作の中では最も近代的な作品、東方怪綺談のラスボスにして魔界の創造神。
 その溢れ出るようなカリスマに誰もが圧倒された……などということは決してない。断じてない。
 聳え立つ(たくましい)アホ毛サイドテールが特徴的。
 二次だとよく、アリスとの母娘ネタに借り出される。
 しかし公式ではどういう関係なんだかいまいち不明。
 旧作のキャラの中ではワリと有名なほう。時々神崎と間違われる。
 
 【幻月(げんげつ)】
 ・種族 悪魔
 ・能力 記述なし
 ・純白の翼を持った、パッと見天使に見える少女だけどキッパリ悪魔。
 旧作、東方幻想郷のEXボス。夢月の双子の姉。夢幻世界の主。
 発狂モードになると手がつけられなくなるので、東方最凶と呼ばれている。
 でもEXボスの中ではEXアリスに押されてかEX里香並みに知名度が低い。
 彼女もしっかりマスタースパークに似た技を使う。夢月と二人で一人前。
 二次だと大体、幽香の友人で夢幻館に居候していたりする。

 【夢月(むげつ)】
 ・種族 悪魔
 ・能力 記述なし
 ・旧作、東方幻想郷のEX中ボス。
 幻月の双子の妹で、夢幻世界の主。姉の幻月の趣味でメイドの様な格好をしている。うそっこメイド。
 「むつき」では無い。人間の命など何とも思ってないらしい。
 二次では幽香の友人で、もっぱら夢幻館に居候していてメイドの真似事なんかをやっていたりする。でも大抵敬語は皆無。

 【エリー】
 ・種族 妖怪
 ・能力 記述なし
 ・現実世界と夢幻世界の境にある夢幻館の門番。大鎌を使う。
 元祖大鎌少女。ブランクのせいで主人公一行に敗れる。
 小町に比べて、鎌を弾幕に有効活用しているので、どうやら実用品のよう。
 幽香の従者その1。

 【くるみ】
 ・種族 妖怪(吸血鬼)
 ・能力 記述なし
 ・元祖吸血鬼。しかしその力はスカーレット姉妹に遠く及ばない。
 でもテーマ曲は紅でScarlet。もしかして三姉妹の末娘?
 それはそれでウォールナッツ・スカーレットってこれまた変な名前に。
 吸血鬼なので流水が苦手なはずなのに、湖に配属されているかわいそうな子。
 幽香の従者その2。今日もまた幽香にこき使われる。ご愁傷様。

 【岡崎夢美(おかざきゆめみ)】
 ・種族 人間(平行世界人)
 ・能力 記述なし
 ・旧作、東方夢時空のラスボス。後にも先にも、唯一の人間のラスボス。
 ありとあらゆる可能性の間を航行する、可能性空間移動船を造り幻想郷にやってきた。
 平行世界では比較物理学の教授。でも18歳。
 「全ての力は統一原理に従う」という学説に異を唱え、魔力の存在を学会に提唱した。
 が、無論一笑に付され、学会への復讐と自説の実証のために幻想郷に。
 核ミサイルを持ち込み、霊夢にメイドロボを提供するなど、とんでもない方である。本当に物理学者?
 ちなみに、紅魔館から設定が一新されたため、件のメイドロボがどうなったかはまったく持って不明。
 幻想郷の力を見て素敵素敵と連呼する、ちょっとアレな人。
 旧作ラスボス中最強と言われることもあるくらい、その弾幕と避け能力は恐ろしいものがある。
 イチゴが大好き。

 【北白河ちゆり(きたしらかわちゆり)】
 ・種族 人間(平行世界人)
 ・能力 記述なし
 ・花映塚の前身、東方夢時空のセミファイナルのボス。小町のポジション。
 主人の夢美と共に、可能性空間移動船で幻想郷にやってきた。でも幻想郷にもうひとりのちゆりがいるらしい。
 その口調から「Win版魔理沙の中の人」とよく呼ばれる。
 字が汚い。夢美とはタメ口、独断専行しても拳骨で許されるフランクな関係である。
 15歳でセーラー服。でもこれでも大学院卒。

 【小兎姫(ことひめ)】
 ・種族 人間
 ・能力 記述なし
 ・旧作、東方夢時空に登場した幻想郷の警察官。
 性格が破綻していて、しかも感性が普通とずれている。
 そのせいか真性のマニアであり、人が集めようとも思わないものをコレクションする。
 まさしくアブノーマルな道を切り開く存在である。
 袿袴姿のお姫様のようであるが警察官。捜査を任務としている。
 本人は一般人に変装できていると思っているらしい。どうみても一般人に見えません。




 ■ADVENT CIRNO■
 ※簡単に紹介するとFF風味の東方。東方とFFのMIXというコンセプトの元、『One Night Stand』の牛木義隆さんが同人誌で書かれている作品。
 知っている人にはアドチル、Aチルノなどの愛称で親しまれている作品でもあります。
 FF分は薄く、全キャラが必ずしもFFキャラクターに対応しているわけではありません。
 ストーリーの方も特に壮大と言うわけでもなく、ちょっとした珍事件、怪事件をチルノとその仲間たちが「あたいが何とかするわ、なんてったって最強なんだから!」と華麗(?)に解決する。
 そんなちっちゃくてちょっといい話がメインのお話です。
 そしてアドチルを知らない人のためにも、ここでは、そんなちょっと違うチルノたちの紹介をさせていただきたいと思います。
 メインキャラについては、サイトや同人誌に乗っている紹介をほとんどそのまま抜粋しています。
 それでは、↓にどうぞ。







 【チルノ】
 ・元森羅カンパニーのソルジャー。現在は自称、正義の味方。
 当たり剣を軸とし、スイカソード、チョコエッジ、ウエハースブレイドの計6本の剣からなる巨大剣、バスタードチルノソードを軽々と扱い、今日も颯爽と幻想郷の平和を守る。
 猫舌といわれるとキレる


 【レイセン・ウドンゲイン】
 ・チルノとはルパンに対する次元大輔のような関係。
 森羅カンパニーの科学部門統括者、八意永琳の元助手だったが、研究と称しあんな事やこんな事をされるのが嫌で逃げ出す。
 ウサギ型の拳銃、ピーター・ザ・ラビットを操るガンナー。
 クールそうな見た目とは裏腹に、実は結構ノリがいい。


 【メイリン・ロックハート】
 ・喫茶店「7番街中央通り上海紅茶天国」(略して中国)の女主人。
 周りからは「中国の姐さん」「中国のマスター」「中国さん」と愛称で呼ばれて親しまれているが、内心では本名で呼んで欲しいと思ってる。
 チルノとレイセンのお姉さんのような人物。
 面倒見は良いが、ゲンコツは流さすがに痛い。武術の達人。


 【ミスティア・ローレライ】
 ・上海紅茶天国にいつの間にか住み着いていた歌姫。
 ある日メイリンが買出しから帰ってきたら店の中に居て、「お邪魔してます~」とメロディー付きで言われた。
 特に何かを求めてくるわけでも無く、彼女の歌目当てのお客さんも増えたのでそのまま居てもらうことに。
 朝の5時に来て夕方4時に帰る。私生活は不明。
 彼女が来てから店のメニューから鳥料理が消えた。
 澄んだ声で民謡からメタルまで何でも歌う。


 【上白沢慧音(かみしらさわけいね)】
 ・身寄りの無い子供を引き取り、白沢園という学校を開いて勉強を教えている聡明で優しい女性。
 怒ると角が生える。
 チルノもここの卒業生。他の子を泣かすわ、おやつを独占するわの学校始まって以来の問題児だったそうな。

 【マリサ・キリサメ】
 ・手裏剣八卦炉を片手に、色々な場所で盗みを働いていた少女。本人いわく、借りているだけ。
 その盗みも病気になったアリスを救うために、万物の霊薬(エリクサー)を作るためだった。
 後にチルノと結託してドラゴンを撃破。竜の血を手に入れ、無事にエリクサーを作ることに成功する。






 ■オリジナルキャラクター紹介■


 【店長】
 幻想郷のカフェを営む店長さん。本名不明。
 人間でありながら妖怪に対しても広い理解を示しており、ミスティアとは友人関係にある。
 ごつい体つきと渋い声、かわいらしい雀のプリントがされたエプロンがトレードマークという、ナニカ間違えまくった人。

 髪の毛は黒のオールバック。目の色も黒。
 ・身長224cm・体重120kg



 【アオ】
 青い鳥の妖怪。能力は【自身の幸運を分け与える程度の能力】。そのせいか、ものすごい不幸体質でよく死に掛ける。
 人がよく、明るい社交的な性格で、色々間違った関西弁を喋る。
 麻雀でのみ、ありえない絶対的な幸運(強運、または豪運ともいう)を発揮し、現在無敗とかよくわからない特技をもっていたりする。

 髪の毛は青色のロングヘアー。瞳は琥珀色。
 ・身長160cm・体重48kg・スリーサイズB72W58H77


 【撫子(なでしこ)】
 【存在を偽る程度の能力】をもった人間の少女。その能力の特異さから、里の人々からは迫害を受けている。
 基本的に善人で、自分のことよりも他人のことを優先する。大人しく、おしとやかな性格だが、時には大胆な行動に出ることもある。
 特技は料理と色々家庭的。
 
 髪の毛は薄桃色のロングヘアー。瞳は藤色。
 ・身長153cm・体重41kg・スリーサイズB77W61H80


 【ルリ】
 アルビノとして生まれた悪魔。悪魔でありながら騎士としての心構えを持った変わり者。真贋は不明だが、『ブリューナク』と呼ばれる槍を所持している。
 悪魔としてのスペックは全てにおいて平均以下だが、持ち前の技術と度胸でそれを克服する。
 性格は飄々としており大雑把なところもあるが、姉御肌で面倒見がいい。
 髪は白。瞳は赤。能力は【槍と魔法(主に氷)を扱う程度の能力】。
 わりと戦うことは好きな様子。
 ・身長147cm・体重35kg・スリーサイズB82W55H73



 【ソラ】
 とうとう登場しちゃったアオの姉。でも見た目はレミリア並みのちびっ子。
 青い髪のツインテールに、琥珀色の瞳。能力は【空間を渡る程度の能力】。
 超ドS。妹弄りが趣味。でも妹は大好きと中々難儀な性格。
 【何でもあり】をモットーに動く、ある意味オリキャラ内ではもっともぞんざいな設定の下に動くキャラクター。
 銀魂でいうお妙さん。ハレグゥで言うところのグゥのような存在である。
 過去に人間に恋をした経験があり。ただし、時代が時代だっただけに実らなかった。若かりし頃は幽香並みにやんちゃだったようである。
 ・身長133cm・体重30kg・スリーサイズB68W52H66

 【ラピス・ラズリ】
 ルリのありえたかもしれない一つの可能性。もしもアルビノとして生まれず、悪魔らしい力を持って生きていたらというIFの存在。
 ルリとは違い、細かい技術など持ち合わせていないが強大な魔力と飛びぬけた身体能力で辺りを薙ぎ払う。
 170cmもの黒い刀身をもつ大剣を片手で振り回し、その様はさながら悪鬼の暴剣と呼ぶにふさわしい光景で、軽く自然災害の領域である。
 ただし、やっぱり根元はルリなのか根本的に運がない。可愛いものが好きなのも変わらず。ただ、ルリよりも好戦的で冷酷な性格はしている。
 ・身長147・体重35kg・スリーサイズB82W55H73





[3954] 東方よろず屋【第二部】 プロローグ「マダオと天人と兎と天狗」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/08/26 23:16

 侍の国。この江戸という場所がそう呼ばれていたのは、はるか昔。
 今この土地には天人(あまんと)と呼ばれる者たちが往来し、かつての面影も薄れつつあった。
 江戸の中央にはターミナルが立てられ、天人たちが次々とやってくる。

 そんな江戸のかぶき町と呼ばれる場所。そこは未だにかつての面影を色濃く残しており、その場所に、今回の主人公は居を構えている。
 坂田銀時。よろず屋銀ちゃんなる店を構えるこの話の主人公。銀髪に白い服をだらしなく来たこのマダオ(まるで駄目なオッサン)は、かぶき町の道端をジャンプ片手に歩き―――

 「こぉのマダオがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 「ぐほぁっ!!?」

 後ろからドロップキックで急襲されて吹き飛ばされることとなった。
 黒髪に眼鏡と特に特徴のない地味な少年、志村新八の見事な一撃は露骨な粉砕音を当たりに撒き散らし、遠慮なく銀時を地面に勢いよく転がした。

 「てめぇ!! 何しやがんだ新八!!」
 「こっちの台詞だボケェェェ!! この家計が厳しいって時に何ジャンプなんか買ってきてるんですかアンタ!!」

 しかし銀時もなれたもので、すぐさま飛び起きてしっかりと反論し、これまたしっかりとした新八の正論が帰ってくる。
 場所は既によろず屋の前。スナックお登勢の隣にある階段を登ればすぐさま二階のよろず屋にたどり着く。
 そんな場所で、二人は辺りの目など知ったことかといわんばかりに口論を始めていたりする。

 「馬鹿おめぇ、ジャンプは男の心のガソリンなんだよ。心はジャンプでできてんの銀さんは。それに金だってほら、腎臓って二つもあるの、なんか邪魔じゃない?」
 「何夢語ると同時に恐ろしいこと口走ってんですか!! 絶対売りませんよ!!」
 「うるせぇぇんだよ、テメェ等ぁぁぁ!! 店の前でガタガタ騒ぐんじゃないよボケェェェェェ!!」
 『あ、すんません』

 いい具合にヒートアップしていたところを、店から包丁片手に出てきたお登勢さんの登場でとっさに謝る銀時と新八。
 それも無理らしからぬことだろう。お登勢さん+包丁で簡易鬼婆の誕生である。その怖さ、押して知るべし。
 ピシャァンッと思いっきり引き戸を閉めるお登勢さんの姿を確認して、二人は安心したように息を吐く。

 「はぁ、まったく。銀さんのせいで怒られちゃったじゃないですか。せっかく懐かしい人たちが会いにきてくれたって言うのに」
 「いや、今のはお前のせいだって。明らかに―――って、懐かしい?」

 「そう、【懐かしい】よ。一ヶ月ぶりかしらね」

 声は、頭上からした。

 声のしたほうに視線を向ければ、その先にいたのは鮮やかな青い髪に、桃のアクセサリーがついた黒色の帽子を被り、にこやかな笑みを浮かべてそこに彼女はいた。
 逆光でよく見えないが、下界を見下ろすように、まるでそれが当然のように見下ろすその態度が、その少女らしくて実に似合っている。

 「こんにちわ、そしてお久しぶりね、銀さん。お邪魔してるわよ」

 彼女の名は比那名居天子。
 少女は銀時たちが行方不明になっていた時期に迷い込んだ異世界【幻想郷】の住人であり、その世界で営んでいたよろず屋のメンバーのうちの一人。

 「おう、なんにもねぇが、ゆっくりしていけや」

 その姿を認めて、銀時も苦笑しながらそんな言葉を投げかける。
 再開というにはあまりにもあっさりとして、あまりにも淡白な会話。だが、彼らにはそれだけで十分だ。



 暦は七月の終わりごろ。一ヶ月の時間を経て、彼女は銀時たちの世界に足を踏み入れた。






 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■プロローグ「マダオと天人と兎と天狗」■










 「そんなわけで、お邪魔してますね。銀さん♡」
 「♡じゃねぇよ!! なんでブンブンまでいんのこれ!? つーか、そこの兎妖怪……たしか、うどんげっつったっけ? なんで簀巻きにされてそこに放置されてんの!!?」

 入った瞬間、そこには天子のみならず、鴉天狗の射命丸文と、何ゆえか簀巻きにされて床に転がされている月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバの姿までもがあった。
 明らかに犯罪のにおいがぷんぷんとするその光景に、たまらず銀さん大絶叫。
 そのやかましさにもかかわらず、よろず屋の従業員の一人、夜兎族の神楽は何事もなかったかのように酢昆布にかじりついている。

 「なんでって、たまたま見かけたんでそのまま拉致してきたんですけど?」
 「犯罪だったぁぁぁぁぁ!!? 返して来い!! 輝夜んとこに返して来いコラァァァァ!!」

 再び銀時大絶叫。その瞬間、外の階段を猛烈な勢いで駆け上がってくる足音。その数秒後には勢いよく戸が開く。

 「うるせぇぇぇんだよこのタコォォォォォ!!!」
 『あ、すみません(スンマセン)』

 包丁持った鬼婆、再臨。
 その迫力と殺気に反射的に謝る銀時と文。これまた勢いよく戸を閉めると、お登勢さんはつばを吐き捨てながら帰っていった。
 幸いにして場所がよかったらしく、簀巻きにされた鈴仙は見つからなかった。
 仮にこんな場面が見つかったら、間違いなく警察に通報である。そんなの冗談ではない。ワリと警察にお世話になることが多かったりするが、それは置いておこう。

 「……つーか、いい加減開放してやれよ。大体どういうことなんだ、こいつぁ」
 「うーん、まぁ説明すると長いんだけどねぇ」

 銀時の疑問に、言葉を返したのは彼の傍にいた天子だった。
 うーんっと難しい顔で唸っていた彼女だったが、やがてぽつぽつと昨日の出来事を語り始めた。







 その日、比那名居天子はようやく八雲紫に弾幕勝負で勝利した。
 約一ヶ月の時間を費やし、ようやく勝ち取ったその勝利。それがこんなにも嬉しいものだとは思わず、ついついはしゃいでしまったことは今でも覚えていた。

 そしてその日は、まったく別の場所で二つの事件が同時に起こっていたのである。

 まず一つ、射命丸文が起こした事件である。
 博麗神社に持っていったお酒の山。その日の大宴会に持っていったその極上のお酒。それが事件を引き起こし、同時に文にとっての災難の始まりだった。
 実はこれ、天狗たちを束ねる立場にある「天魔」と呼ばれる天狗の好物の酒であり、文が無断で持ち出してしまったのだ。
 この宴会に必ずといっていいほど参加する「小鬼」がいるのに、その酒が残るなんてことあるはずもなく。

 結果、彼女は大いに怒った上司から「一年間妖怪の山に立ち入るべからず」などという罰を受けてしまったのである。
 しかし、文はこの処分については特に異論を唱えなかった。自分に非があることは確かだし、一年程度ならすぐに終わるだろう。
 長い時間を生きた彼女にとって、一年などそれこそたいした時間などではない。人間とは違う時間の捉え方だからこそ……とも、言えるかもしれない。
 まぁ、問題は。追い出されている間、どこに寝泊りしようかという問題はあったのだが。何しろ、彼女の家は妖怪の山の中だし。

 そして二つ目は、鈴仙・優曇華院・イナバの身に降り注いだ事件である。
 まぁ、事件といってもいつものことだ。彼女の上司が無茶を言ったり、弄んだりで散々な目にあうなんていう、永遠亭ではワリと日常と化しつつあるその光景。
 ただ違うことといえば、そのまま耐え切れずに家出をしてしまったことだろうか。
 あてのない彼女は結局辺りをふらふらとさまようことになったのだが、その時に丁度、山を追い出された射命丸文と遭遇。
 瞬間、捕縛された。主に非常食料的(半分冗談)な意味合いで。
 そんな二人に……というよりも、銀時たちと面識の会った文に、八雲紫からことの通達があったのだ。

 明日、銀時たちのいる世界に道を作る、と。














 「そこでピンっときたんですよ。よろず屋でしばらく寝泊りさせていただこうと思いまして」
 「文さぁぁぁぁぁん!!? 鈴仙ちゃん完全にとばっちりじゃないですかぁぁぁぁ!!!」

 いつの間にか語り手が文に変わっていたことには突っ込まず、聞き捨てならない話のないように思わず新八がツッコミを入れていた。
 鈴仙は既に開放され、ソファーに温かいコーヒー片手に涙を流していたりする。
 実に哀愁を誘う。そしてその姿こそが彼女らしいとか、よっぽど不幸に見舞われる体質なのかもしれない。あれ、なんかデジャヴ。

 「あの、しばらく私もここに寝泊りさせてもらってもイイですか? 今師匠のところに帰ると何されるかわからないので」
 「……ねぇ、食料扱いされたことには何か思うところないの、鈴仙ちゃん?」
 「もうね、……慣れたわ」

 ものすごく遠い目で、ものすごい返答が返ってきた。「むしろ食料扱いなんてまだマシよ。薬の実験台とかもう……」なんて呟きが聞こえてきたりしたが、その辺はスルー。
 誰しも、聞かないほうが幸せだっていうことは一杯あるのである。
 その辺を心得ている辺り、新八は一歩大人の階段を登ったに違いない。ろくな階段じゃないだろうけど。

 「まぁ、そいつはかまわねぇがよ。オメェら一体どこからこっちに来たんだ?」
 「どこって、あそこ」

 銀時の言葉に、天子が平然と指し示したのは、何ゆえかよろず屋内の箪笥である。
 嫌な予感がする。何が嫌って、あるひとつの結果に行き着いたもんだから冷や汗が止まらない。
 恐る恐る近づき、箪笥の一番下を引っ張ってみる。





 そこは、真っ黒な空間と化して異界が広がっていたりするのであった。




 「ちょっとぉぉぉぉぉ!!? ウチの箪笥がどこ○もドアにぃぃぃぃぃ!!!」
 「なんでも、人里のよろず屋のクローゼットとつながってるらしいアル」

 銀時の叫びに、平然と答える神楽。それを肯定するように定春が「ワン」と鳴いた。
 ちなみに、これは新八と神楽が確認済みで、二人はしっかり幻想郷のよろず屋に住んでいるアオと再会を果たしていたりする。

 「そうそう、幽香は太陽の畑で向日葵の面倒見てるから、夏の間は来れそうにないんだって」
 「そうなんですか?」
 「らしいわよ。あそこの向日葵は一斉に咲いて綺麗だしね。彼女なりに苦心してるんじゃない?」

 天子の発言に新八が問いかけ、彼女はその問いを氷解させてやるように、そんな言葉を口にする。
 実際、銀時たちも太陽の畑には行ったことはあったのだが、その時はまだ向日葵は咲いていなかった。
 しかし、あれだけの量の向日葵は目にしているし、それがいっせいに咲き乱れたのなら、それはさぞ絶景だろう。

 「そうだ。天子ちゃんはどうするの? よろず屋に泊まるの?」
 「さすがに私は帰るわよ。ていうか、この家じゃ私までは泊まれないでしょ」

 天子は苦笑しながらそんなことをつむぎ、「確かに」と、新八はそれに同意した。
 確かに、このよろず屋はそこまで広くない。ただでさえ神楽は押入れの中で眠っているというのに、そんなスペースがあるはずもない。
 文と鈴仙も、この分だとソファーがベッド代わりになりそうである。

 「ま、うちに泊まるのはかまわねぇけどよ。その代わりちゃんと働いてもらうかんな」
 「その心配は要りませんよ、銀さん。さすがにただで泊めてもらおうなんて虫のいいことはいいません」
 「私も、別にかまわないけど」

 銀時のその発言にも、特に顔色を変えることもせずににこやかに言う文と、多少戸惑いがちながらもしっかりと言葉をつむぐ鈴仙。

 「なら、俺としちゃ何も言うことはねぇよ」

 そう言って、銀時は愛用の椅子に腰掛けた。
 だらしなく背中を預け、ぼんやりと天井に視線を向ける。

 どうやら、今日からまた騒がしくなりそうだとそんなことを思いながら、銀時はジャンプに視線を落としたのであった。










 「ところで文さん。その手帳とカメラ」
 「あぁ、これですか? 私、新聞は止める気無いですよ? これがあるのは当たり前じゃないですか」

 よろず屋の騒動が、漏れなく幻想郷に流布されるフラグが立ってたりするが、それは銀時のあずかり知らぬところである。


 ■あとがき■
 というわけで、第二部が始まりました。プロローグということでかなり短いですが、いかがでしょう?
 一応、本編の流れには乗らない形になると思います。
 舞台が銀魂世界だったり幻想郷だったりになるんじゃないかなとは思います。
 第二部がいつまで続くかわかりませんが、皆さん、またよろしくお願いします。
 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第一話「爆発は芸術だって誰かがいってた気がする」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/08/26 23:15








 「うーん、いい天気ねぇ」

 グーッと背筋を伸ばし、こちらの世界での初めての朝を迎えた鴉天狗、射命丸文は窓の外を眺めてそんな言葉を紡ぎだしていた。
 先ほどまでぐっすりと眠っていたせいもあってか、彼女は若干着崩れした寝巻き姿で、ところどころ健康的な肌が外気に晒されている。
 銀時は……多分まだ眠っているのだろう。この分だと神楽も眠っているらしかった。
 彼女と同じように、反対側のソファーで眠っていた兎妖怪はなにやらうなされていたが、そこはあえてスルーする。
 窓から下を覗けば、既に起きだして仕事をしているらしい人間達と、従来を闊歩する傍目からは妖怪にしか見えない者達、【天人(あまんと)】の姿がちらほらと見える。

 「まったく、どこの世界でも勤勉な者と怠慢な者とで分かれるのね」

 そんな言葉を零し、苦笑しながらちらりと隣の部屋に視線を向ける。意味ありげに向けられた視線の先に、未だに眠っているだろうよろず屋の主の姿を幻視する。
 彼と彼女。どちらが勤勉で、どちらが怠慢か、もはや語るまでもあるまい。
 いつもの丁寧口調はすっかりと引っ込み、代わりに彼女本来の喋りと表情が浮かんでいる。

 新聞記者として、周りとも当たり障りなく、常に丁寧で笑顔でいる彼女。
 そして天狗として、挑発的な言葉と、挑戦的な笑みを浮かべる彼女。
 そのどちらもが、彼女―――射命丸文の切って捨てられない顔でもある。

 くぁーっとあくびをする定春の姿を見つけ、彼女はクスクスと苦笑を零しながら喉元をごろごろと撫でてやる。
 それが気持ちよかったのか、定春は開けていた瞳を再び眠たそうに閉じて、小さな寝息を立て始めてしまう。
 まったく、こうしていればかわいいのに。などと他愛もないことを思いながら、文は机においてあった自分の普段着に着替え始めた。
 寝巻きを脱ぎ捨て、半袖のワイシャツに袖を通し、裾にフリルのついた黒のミニスカート。あとはベルトをしてしまえばいつもどおりの彼女の姿。

 「うぅぅ……、気持ち悪ぃ」
 「あやや、銀さんおはようございます。今日は珍しく早いですねぇ」

 彼女の着替えが終わるのを見計らっていたかのように、顔色の悪い銀時が呻きながら現れる。そのことに多少驚きながらも、敬語を使いながら言葉を投げかける。
 そんな文の姿を見つけ、銀時は死んだような目をこちらに向けて、小さくため息を零したのだった。

 「ブンブンよぉ、ここに居候することになったんだから、その敬語は止めろっつったろーが」
 「いや、そうは言いますけど。今まで銀さん達とは【こっち】で接してきたわけですし……、その」

 銀時のその指摘に、文はらしくもなく口ごもり、困ったような表情を浮かべている。
 文の言うとおり、彼女は銀時たちとは【新聞記者としての射命丸文】として接していたことが多かった。
 無論、プライベートでは素の口調になるため、酒盛りなどをするときは敬語でなかったこともあるにはある。
 が、結局それは銀時たちが幻想郷にいる間の三ヶ月間に数回あるか無いかだ。
 だからこそ、彼女は自分の素を彼らに晒すことを戸惑っている。

 「知るかよ、んなこと。大体、一時的にとはいえここはオメェの家なんだぜ? 家ってのは、自分が自分らしくあるための場所だろーが」

 だから、押さえつけなくていい。とっととさらけ出しちまえ。と、銀時は言いたいことを一方的に言い放ってからのっそりと洗面所に足を向けた。
 その言葉が、文にとってはどんな言葉だったのか。驚きの表情を晒したまま、彼女はついつい銀時を視線で追ってしまう。
 彼女の性格、【新聞記者】としての彼女はともかく、【天狗】としての彼女は、本質である真面目で礼儀正しい部分は変わらないものの、時々高圧的な態度と口調になってしまうのが玉に瑕だった。
 高圧的な態度と口調。こればっかりは、正真正銘【天狗】としての性格の特色なので、どうしようもないことといえばそうなのかもしれない。
 銀時は、そんな彼女を知っている。知っていてもなお、それを抑える必要なんかないと、そう言っている。

 「それにな、ギャップルールって知ってるか?」
 「は? ギャップルールですか?」

 唐突にいわれた言葉に、文は思わず鸚鵡返しのように聞き返してしまう。

 「普段、悪ぶってる奴がたまーにいいことをすると、すんごくいい奴に映る。逆に普段礼儀正しくておとなしい奴がたまーに悪いことをすると、物凄い悪人に映る。これがギャップルールだ」
 「むむ、なるほど。その論法でいけば私は―――」

 言いかけて、何かおかしいことに感づいてピタリと硬直する鴉天狗。
 そしてそんな彼女の脇を素通りして、「あー、気持ち悪ぃ」などと零して洗面所に向かう坂田銀時。
 たっぷり沈黙。そして普段、自分が銀時たちにどのように接しているかを思い出して―――


 「って、その論法だったら私は駄目じゃない!!」
 「あだっ!!?」


 彼女の愛用の手帳が洗面所に入る直前だった銀時のこめかみに、いい具合にジャストミートしたのであった。
 先の言葉で、今までのいい話が全て台無しだ!! と思いもしたが、いつの間にか素の自分が出ていることに彼女が気がついたのは、もう少しあとのことである。













 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第一話「爆発は芸術だって誰かがいってた気がする」■















 「じゃあ結局は敬語のままでいることにしたんですか、文さん」
 「えぇ。もうこうなったら皆さんの前では意地でも敬語で話します。えぇ、話しますとも」

 冷や汗を流しながら、いつものようによろず屋で雑用をこなしている新八の言葉に、文は青筋をしっかりと浮かべながらそんな言葉を返していた。
 天狗とは独自の社会を築いた種族であり、その社会の中で生きてきた文は上下関係というものをはっきりと重んじる傾向がある。
 だからこそ、居候の身である彼女は彼らに対して敬語を使おうとしていたわけなのだが、そのトップから直々に敬語は止めてほしいなどといってきた。
 
 だがしかし、結局は銀時のたとえ話があんまりだったために、このような結果になってしまったわけである。

 「まぁ、私は敬語使ってる文に慣れてるから、別に文句はないアル。信用なくて素を出してもらえなくてもキニシナイアル」
 「神楽ちゃん。片言になってる。変なトコが片言になってるから。というか、どっちの文さんも文さんであることには変わりないでしょうに」
 「あや……、二人にそういわれるとちょっと心苦しいわ」

 神楽と新八の言葉に、申し訳なさそうに文が言う。
 無意識だろうか、素の言葉使いになっていることに気がついて、苦笑をもらす幻想郷組の兎と天人からの視線に耐え切れず、文はついーっと視線を逸らした。


 そんなときに、ピンポーンとチャイムの音がする。
 雑用係の魂か、新八は誰に言われるでもなく玄関に向かっていく。しばらくして戻ってきた新八の手には、小さな箱が抱えられていた。

 「銀さーん、届け物ですって」
 「届け物だぁ? 坂本の奴か? それともヅラか? ヅラならその辺の石ころつけて送り返しとけ」
 「なんですかその陰湿な嫌がらせ。それはともかく、差出人が書いてないんですよ」

 銀時の友人に対しての辛辣な物言いに冷や汗を流しながら、新八はそれを机の上においた。
 荷物を委託して届ける。などという商売は幻想郷には存在しないため、送り届けられた荷物を見て興味深そうにそれを見る幻想郷三人娘。
 特に興味を示しているのは、記事になりそうなことだと考えが表情に出ている文だった。故に。

 「銀さん、私があけてもいいですか?」
 「はいはい。好きに開けろよ」

 届け物の中身に興味がないのか、銀時はいつもの気だるそうな返事をするだけだった。
 それを不快に思うわけでもなく、文は楽しそうに、それでいて丁寧に外装をはずし、箱のふたをはずして中のものを取り出して―――

 「……なに、これ?」

 出てきた奇妙な物体に思わず眉を寄せた。

 「こけし?」

 疑問符つけて言葉にしたのは、鈴仙だったが、どこか自信がなさそうではあった。というのも―――

 「こけしっていうより、子供が作ったガラクタって感じよね」

 天子の言うとおり、それはどう見てもこけしというよりは、小学生が夏休みの宿題の工作で作った「こけし似の何か」としか言いようのないものだったのである。
 が、しかし。それを見て顔色が明らかに変わったものが一人。ガタッと慌てた様子で立ち上がり、その銀時の奇妙な行動に、一同の視線が彼に集まる。

 「ブンブン!! 早く投げ捨てて!! それ爆弾だからっ!!?」
 「はい?」

 突拍子もない発言に、文は間の抜けた声を上げてしまったが、それがいけなかったのだろう。

 彼女の中で、そのこけしもどきが膨張し、まばゆい光を漏らして今にも破裂しようとしていた。
 普通ならば手遅れ。ものの刹那にも満たぬ時間でこの室内は大爆発に見舞われるだろう。
 だが、そのこけしもどきを握っていた人物が、彼女であったことが幸いした。
 幻想郷最速を欲しい侭にする鴉天狗、射命丸文。何も彼女が最速たる所以はその飛行スピードだけではない。

 脳漿から命令が下って、神経を通り命令を流し込んでいく。それはまさしく刹那のときを持って完了し、彼女はすぐさま行動に移した。
 その刹那よりも更に早く、文は手の中で膨張し、膨れ上がるソレを思いっきり振りかぶる。
 そのまま窓の外に全力で投球し、音速をはるかに超えたスピードで、大気の壁を突き破りながらこけしもどきはジャイロ回転しながら飛び出した。
 そのまま勢いあまってお隣さんらしき大木をモチーフにした家に突き刺さり―――




 そして、人の目にすらも映ることを許さぬスピードで行われたその行為の後に、改めてこけしもどきは大爆発を起こしたのだった。

 「ぎゃぁぁぁぁ!! ジャスタウェイがヘドロの森にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 「屁怒絽さぁぁぁぁぁん!!? 大丈夫ですかぁぁぁぁ!!?」
 「うぉぉぉぉい、屁怒絽ぉ、生きてるアルかぁぁぁぁぁぁ!!?」

 よろず屋メンバーはみんなして大絶叫。慌てて窓の外を覗き込んでいる三人を見て、一体何事なのかと自体がイマイチつかめていない幻想郷メンバー三人。

 『何? ジャスタウェイって?』

 とりあえず疑問に思ったことがぴったりだった三人は、まったく同じ言葉を零していた。
 ……まぁ、ワリと至極当然の疑問かもしれないが。もはやそれが何を名称にしているのかもちょっと危うい。
 それはともかく、お隣さんには申し訳ないが、全速力で投げ捨てて正解だった。と、文は思う。
 何しろ、あれほどの大爆発だ。このよろず屋なんて吹き飛ぶだろうし、さすがに直に持っていた自分も危なかっただろう。いくら妖怪でもだ。

 「やれやれ、少々遅かったようだな。無事か、銀時?」
 「か、桂さん!!? エリザベスさんも」

 屁怒絽の無事を確認した三人に投げかけられた、聞きなれた声。そちらに視線を向ければ、顔見知りの姿がそこにあった。
 桂小太郎。天人を追討し、倒幕を目指す攘夷派志士の生き残り。
 銀時の幼なじみであり、攘夷戦争時代の盟友でもある彼の傍には、やっぱり謎生物であるパッと見オ○Qなエリザベスの姿もあった。

 「おーい、ヅラ。何で人の家に勝手に入ってんだオメェは」
 「ヅラじゃない、桂だ。勝手も何もあのような大爆発の音を聞けば普通人の無事を確認するために飛び込むだろうが」

 至極まっとうな意見を返しながら、桂は小さくため息をつき、そして見慣れない顔を目にしてふと考え込む。

 「銀時、ところで彼女達は何者だ? 見たところ二人は天人(あまんと)のようだが……」

 桂の視線の先には、鈴仙と文の姿があり、彼がそう思うのも無理もないことだろう。
 何しろ、鈴仙には兎の耳があるし、文には立派な黒い翼がある。
 様々な天人(あまんと)が従来する今の江戸において、少々人と離れた姿をしていても天人(あまんと)と思われるのも仕方がない。

 「ヅラ、そいつ等は天人(あまんと)なんかじゃねぇよ。妖怪だ妖怪」
 「……は?」
 [何言ってんの?]

 何気なしにつむがれた言葉。だがしかし、それは桂を呆けさせるには十分だったらしい。
 それはエリザベスも同じだったのか、プラカード掲げて自己主張をしていたりする。
 まぁ、こっちの世界では大半の妖怪だと思われていたものが、実は天人(あまんと)だったという話も多いため、桂の反応も無理ないことではあったが。

 桂は小さくため息をついたあと、銀時の肩にポンッと手を置き。

 「よし、銀時。さっきの爆発でどこか頭でも打ったんだな。妖怪などいるわけないだろう。病院にいくぞ」


 そんな言葉をつむいだ瞬間、頭の病気扱いされた銀時と、自分の存在全否定された文と、二人の見事なツープラトンのとび蹴りが桂に炸裂。
 結果、彼は二階の窓から地上にまっさかさまに落下する羽目になったのであった。



















 「マムシの蛮蔵?」
 「あぁ、お前も知っていよう。何しろお前は一度奴の企みを潰しているらしいからな」

 血まみれの桂にそういわれて思い返してみると、どうやら自分が記憶喪失になったときのことらしい。
 マムシの蛮蔵とは、あの時、銀時が働いていた工場の工場長だった男のはずである。
 あの時は成り行きで、結果的にあれの計画を潰すことになっただけなのだが、それを桂が知るよしもない。

 「その時の恨みらしい。脱獄した奴は、お前に恨みを持ってこうしてあの爆弾を仕込んだというわけだ」
 「あややー、はた迷惑な話ですねぇ、それは。というか、桂さん。自分で蹴っておいて何なんですが、大丈夫なんですか?」

 さすがに血を諾々と流しながら延々と話を続ける桂に危ないものを感じたのか、文はそんな言葉を投げかけていたりする。
 しかし、彼は特に気にしたふうもなく。

 「心配いらん。この程度のことならば慣れている」
 「碌な人生送ってませんね」

 今度は鈴仙からの言葉である。その姿にデジャヴでも覚えたのか、ちょっと哀れみの視線を桂に向けていたりするが、桂は特に気にした風もない。
 さっきから会話に参加していない天子はというと、謎生物エリザベスをじっと珍しいものを見るかのように凝視している。
 時折、「なんか加齢臭がするような……」などという呟きが聞こえた気がするが、その場にいた全員は速やかにスルーする。飼い主の桂以外は。

 「ばか者!! エリザベスから加齢臭などするものか!! ほら、あれだ。エリザベスの匂いはこんがり香ばしい感じのいい匂いのはずだ!!」
 「それ加齢臭じゃない!! ばっちり加齢臭じゃない!!? そしてアンタ鼻をやられてるわ!! 嗅覚を加齢臭にやられちゃってるわよ!!?」

 思わず全力でツッコミを入れる天子。ツッコミを入れると同時に全力でエリザベスから退避する彼女は、慌てた様子で銀時の後ろに回りこんだ。

 [酷い]
 「貴様ぁぁぁぁ!! エリザベスに謝れぇぇぇぇ!!」
 「っだぁぁぁぁ、うるせぇぇぇんだよ!! 話しさっきからちっとも進んでねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」

 激怒する桂に、今度は新八の怒声が盛大に響く。
 それで話が大幅にずれていたことに気がついたのか、彼はまだ何か言いたそうだったが、小さく咳払いして話を続けた。

 「話を続けるぞ、銀時。奴はこの江戸にとっては危険因子だ。何もかもを破壊しようとする奴のあの思想は人々を傷つける恐れがある。それゆえに、奴は野放しには出来ぬ。
 先日こちらで襲撃を加えた際、逃亡中に奴は新撰組の連中に捕まった。おそらくは、もう襲撃の恐れはあるまい。
 ただ、奴はかつて、攘夷派志士に武器を横流ししていたらしくてな。今回も似たような方法で生計を立てるつもりだったらしい。
 調べてわかったのだが、奴は脱獄してからある人物と接触している。貴様に爆弾が送られたのを知ったのも、この調べごとの最中だが、それは一旦置いておくぞ」

 問題はこの相手だ。と、桂は小さくため息をつく。
 それで、銀時はなんとなくではあったが、その相手が誰であったのかを悟る。それと同時に、その面倒さもだ。
 なんだかんだということが多い銀時だが、結局桂は彼にとっての旧友には違いないのだ。否が応でもわかってしまう。

 「高杉か」
 「あぁ、その通りだ。銀時」

 その言葉に、新八と神楽が身を一瞬だけ硬くした。その様子を不思議に思ったが、文も鈴仙も、そして天子も、今はその時ではないと押し黙る。

 「奴が動くとなれば、江戸全土が巻き込まれよう。奴には注意しろ。今日はそれを伝えにきた」

 ゆっくりと、桂は立ち上がる。それにつられてエリザベスも席を立ち、彼らはまっすぐに玄関に向かっていく。
 その後姿を眺めながら、銀時は後頭部をガシガシと掻きながら、盛大なため息を一つついたのだった。

















 「おーい、ブンブン。なんでわざわざ自分家の屋根で酒盛り? 普通に家の中でよくない?」
 「今日はそういう気分なのよ、銀さん。それとも、私の酌は受け取れない?」

 すっかりと夜になり、新八も天子も自分の家にかえって行き、神楽が寝静まったあと、三人はこうして屋上で酒盛りをしていた。
 銀時が文に言葉を投げかけるが、それをからかうように、挑発的な視線を送ってくすくす笑う文。アルコールが入ったおかげか、頬がうっすらと朱色に染まった文はどこか色っぽかった。
 それで疲れたようにため息をつき、彼は黙って文から酌を受ける。

 「つーかよ、いつの間にか素になってんぞ。敬語でいくんじゃなかったのかよ」
 「いーのよ、酒盛りのときだけは」
 「そうかい」

 軽い会話を2、3かわし、クスクスと文は笑う。純粋にこの酒盛りが楽しいのだろう。飲兵衛だけあって、彼女は楽しそうに酒を煽る。

 「なんだか、いきなり爆弾騒ぎとか、災難だなぁ。いや、姫の料理が爆発するとことを考えれば、あるいは」
 「おーい、うどんげ。戻ってこーい。そんな納得の仕方イヤなんですけど!? というかあのお姫様料理で爆発起こっちゃうの!? 嫁の貰い手ないじゃん!!?」

 今日のあのことを思い出したのか、げんなりした様子で呟いた鈴仙だったが、彼女は別のことを思い出したか「それとおんなじことだよね」などと危なげに呟いていたりする。
 幻想郷の面々が銀時のツッコミを聞けば「まぁ輝夜だし」なんて返答が帰ってくること請け合いである。
 そんなツッコミを入れていた銀時の様子がおかしかったのか、文はくすくすと笑って、幻想郷から見る夜空とは違う、この世界の空を見上げた。

 「銀さん、高杉って、誰?」

 それは、ただ純粋な疑問だったのだろう。その言葉は、文の口から驚くほどすんなりと流れてくれた。
 昼間、桂という男性から飛び出た名前。その名前を聞いた途端、銀時の表情に変化があったのを、文は見逃さなかった。
 新聞記者ゆえの、好奇心。それに、自分自身、友人と思っている人物が見せた、一種の陰り。
 それが気になったからこそ、文はストレートにその疑問を彼にぶつけた。
 少しだけ、彼の気を悪くしただろうかと心配したが、そんな彼女の心配など知らず、銀時は酒を少し煽って言葉を返す。

 「なんてこたぁねぇ。かつてのダチだよ」

 あっさりとした様子で、言葉は返ってくる。
 その言葉の真意がわからないほど、文も、そして鈴仙も、鈍いわけではない。
 かつての……と、彼は表現した。昼間の会話も交えて考えれば、そう表現した理由にはすぐにでも行き着いた。

 「そう、世知辛いわね」
 「まぁ、な」

 わずかな沈黙。やはり聞くべきではなかったかと、文はそう思ったが、それも今更かと思い直す。

 「銀さん、お酒ついで」
 「あ、私もお願いします」
 「へいへい、わーったよ」

 その沈黙を振り払うように文が言うと、それに便乗するように鈴仙も言葉にする。
 それに仕方がないといった感じで、銀時は焼酎を彼女達の杯についでいった。
 せっかく、こっちの世界に来たのだ。なら、どうせなら面白おかしく過ごすほうがイイに決まっている。
 文は思う。ひとまずやるべきことはといえば、やっぱり、こうやって彼らとお酒を飲むことなのである。
 彼の事情は知らない。これから知ることになるかもしれないが、まぁいいかと、そう思う。
 いつか、自分達に話してくれるようになるまで、それまではこうやって月夜のお酒としゃれ込むことにしよう。


 まぁなんにせよ、結局のところ、射命丸文という少女は厄介ごとが好きなのだろう。新聞記者の性として。
 これから起こるかもしれない厄介ごとを想像して、クスクスと笑う少女の姿がそこにあった。















 「ところで、オメェ。明日お隣に謝って来いよ」
 「あっ、忘れてた!?」

 うっかりとなりの家を爆破していたことをすっかりと忘れていた文であった。


 ■あとがき■
 いきなり大惨事な感じですが、第一話修了です。桂、エリザベス登場いたしました。
 ちょっとシリアスな感じですが、どうだったでしょう? とりあえず高杉登場フラグは立てておかないと。
 エリザベス難しいよ。なんかもう色々と難しいですよ。どうなんだこれ? うまく表現できてるだろうか?

 そんなわけで、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第二話「人は見かけによらないとはよく言うけど第一印象って結構大事」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/09/01 19:58






 とある神社の一室にたたずむ一人の女性と小さな少女。

 赤い衣服にセミロングの癖のついた青い髪をした女性、八坂神奈子。
 大きな帽子をかぶった肩口で乱雑に切りそろえた金髪の少女、洩矢諏訪子。

 見た目こそ人間とあまり変わらないが、その力は想像を絶するほどの力を秘めた二人。
 人間でもなく、妖怪でもなく、ましてや天人などでもない。

 彼女達二人は、正真正銘、間違うことなき【神様】なのだ。
 そんな彼女達も、東風谷早苗の親代わりを努めはしているものの、いざ力を振るえばその敵はほとんどいない。

 人々からも、そして妖怪からも信仰を得ている神様。そんな神様二人はゆっくりとそろって壁に手をつき……。



 『私の出番は……まだか』



 ワリと切実にそんな言葉を同時に呟いたのだった。

 (八坂様、諏訪子様、ごめんなさい)

 そんな彼女達の切ない後姿を偶然目撃してしまった早苗はというと、第一部のプロローグでちょっとだけとはいえ登場した負い目からか、心の中でそう謝ったりするのであった。










 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第二話「人は見かけによらないとはよく言うけど第一印象って結構大事」■











 「で、なんで私まで付き合わなきゃいけないの?」

 空はこれでもかというほどに晴れ渡り、かぶき町の町並みを照らし続けている。
 そんな快晴の下、【ヘドロの森】なんていう看板が立てかけられている大木に侵食された家の前で、彼女はそんなことを呟いていた。

 薄桃色の日傘を片手に、赤色チェック柄はいつものこと。ワイシャツが半袖になったこと意外は以前と変わりない、深緑の緩いセミロングの髪をした少女。
 第一部でご存知、風見幽香は小さくため息をこぼして隣にたたずむ彼女に視線を向けた。

 「だって、風の噂じゃお隣さんって怖いらしいじゃないですか。銀さん達は仕事でいないし、丁度いいところに幽香さんが来ましたからねぇ」

 いやー、助かりました。なんてのほほんと言ってのける鴉天狗の射命丸文。
 そんな彼女を視界に納めて、やってくるタイミングを間違えたわねと、幽香は一人憂鬱になっていた。

 彼女がこっちに来たのはちょっとした思い付きが原因だった。
 その思い付きというのも、彼女がいつもいる太陽の畑の向日葵たちが綺麗に咲き乱れているので、銀時たちを呼んで宴会でもしようと思ってのことだった。
 当然、幻想郷のメンバーにも声は掛けたし、騒がしいことが大好きな連中だ。大人数が集まるのは想像するに難くない。
 んで、問題は幻想郷のよろず屋で繋がった道を通ってこっちの世界に来た途端、なにやら思い悩んでいた射命丸文に引っ張られて今現在に至る、という事実だ。

 正直に言おう。ぶっちゃけ会いたくない。何にって? それはもちろんお隣さんに。
 彼女にとっては、勘違いとはいえ恐面のお隣さんに間違えられたことは少なからずショックなものだったのである。

 「気乗りしないんだけど?」
 「まぁまぁ、あとで500円あげますから」
 「霊夢じゃあるまいし、つられるわけないでしょ」

 一言でばっさりと斬って捨てる。さりげなくどこぞの巫女さんに対する暴言が含まれていたりするが、その辺に気を使うほど立派な良心は二人とも持ち合わせていない。
 片方は超ド級の生粋のSだし。

 「すみません、もしかしてウチに何か御用でしょうか?」

 野太い声が背後から聞こえ、幽香は自分が珍しく冷や汗を流していることを自覚する。
 あー、ヤバイ。逃亡に失敗したか、などと心の中で悔やんでいる彼女を尻目に、文は遠慮なくフレンドリィな笑みを浮かべて振り返る。

 「あ、初めまして! 実はぶふぅっ!!!?」

 言葉の途中で、何ゆえか噴出す音が聞こえて幽香は小さくため息をこぼしてから、諦め半分で振り返り―――。

 「ぶっ!!?」

 文と同じく思わず噴出してしまったのであった。
 ごつごつしい顔。顔には傷があり、体は緑色。角が生え、獅子の鬣のような黒い髪。鋭い牙に、目の白い部分は漆黒に塗りつぶされ、瞳は禍々しく赤い。
 こう、明らかに「私、地球征服しに来ました」的なそいつの顔は、以前似顔絵で見たその顔よりもよっぽど強いインパクトで幽香の目に飛び込んできた。
 内心、知っていたくせに無様な反応をしてしまった自分自身を叱咤したくなる。
 件の人物の顔を知っていた幽香でさえこうなのだ。初対面の文が思わず噴出してしまうのも無理らしからぬことだった。

 「……えぇっと、ヘドロさん?」
 「えぇ、そうですよ。もしかして、お客さんですか?」

 買い物袋を両手に提げたヘドロが、丁寧な言葉使いで返答する。
 似顔絵で見たときよりもよっぽどインパクトというか、恐怖をあおる顔つきのそいつを視界に納め、幽香は半ば呆然と思考に埋没していた。

 (……あれ? 何? 私、マジでこれと勘違いされてたの?)

 徐々にその事実が認識されだすと、幽香に表情が消え、無表情のままカツカツとどこかに歩き始めた。
 それに気がついた文が、慌てた様子で腰にしがみつき、必死に止めようとするものの、そんなものには目もくれず、引きずりながら歩いていくトレイン状態。

 「ちょっ、どこに行くんですか!! 私を一人にしないでくださいよ!!」
 「コロス、アイツマジブチコロス」
 「キャラ変わってる!!? いや、あれ? 変わった? いやともかくおちついてぇぇぇぇ!!!?」

 ずるずる引きずられながら、文は半泣き状態で必死に引きとめようとしているさまが実に哀愁を誘う。
 そんな光景を、未だによく飲み込めないで眺めているヘドロの姿があったのだが、二人はそのことに気付く様子はなかった。

















 「銀さん、よかったんですか? ヘドロさんのところ、文さんに任せて」

 仕事帰りの道端で、新八はそんなことを銀時に向かって紡ぎだしていた。
 気だるげにスクーターを運転していた銀時は、スクーターの後ろに乗っている新八に言葉を返す。

 「イイも何も、ヘドロの家爆破したのはブンブンだろーが。あいつに行かせるってぇもんがスジだろ」
 「そりゃそうですけど、そのヘドロって人の身が危なくないですか?」

 銀時の言葉に答えたのは、新八ではなく定春の背中に乗った天子だった。定春の背中には天子のほかに、神楽と鈴仙も乗っている。
 その鈴仙が、天子の言葉に付け足すように言葉をつむぎだす。

 「文も幻想郷では最強クラスの妖怪だからね。危ないと思うんだけど……」

 本気でそのヘドロという人物を心配しているのだろう。鈴仙は複雑な表情で思案にふけっている。
 腐っても医者の卵ということか。いや、そういった意味であの天才薬師に弟子入りしているのかどうかは知らないが。

 「どっちが危ないのかねぇ」

 ため息混じりに、銀時はそんな呟きをもらす。
 ヘドロとの始めてあったの日、あのときの出来事が、走馬灯のように甦ってくる。
 顔面凶器。食物の危機。投擲漬物石。鉈投擲。生け贄の祭壇。螺旋階段鬼ごっこ。

 (あ、やべ。なんか寒気が)

 ぞくッと襲ってきた寒気に身を震わせ、さっさと帰ろうとスクーターのスピードを上げた瞬間、

 ズドンッ!!
 『たらばっ!!?』

 横手から突っ込んできた車に思いっきり撥ね飛ばされたのであった。新八ごと。

 『あ』

 その光景の一部始終を見ていた三人はというと、そんな間の抜けた言葉を漏らして一瞬呆然としてしまうのであった。
 ちなみに、銀時が寒気を感じたのと同時刻、幽香が銀時に恐ろしいほどの殺意を覚えた瞬間だったりするのだが、そのことを彼女達が知るよしもないのである。

 放たれる怨念の力って偉大ですね、先生。

















 「いやぁ、すみませんねぇ。昨日のことでわざわざ謝りに来てくれたなんて」

 シャーコ、シャーコ、なんて刃物を研ぐ不吉な音が聞こえるさなか、文はその言葉も右から左へ流れていってしまうほど困惑していた。
 相手の顔が恐ろしいほど怖いというのもあるし、幻想郷にそんな怖い顔したものがいなかったのも原因だろう。
 あぁ、情けないとは思いもするのだが、残念ながら目の前の存在は顔が既に殺人級のモンスターだったのである。

 彼の名はヘドロ。正確には屁怒絽。このかぶき町で花屋を開いている心優しき顔面凶悪モンスター。

 事情を聞いて彼女達を中に招き入れたヘドロは、丁寧に丁寧に包丁……というよりも鉈を研いでいる。
 ぶっちゃけ怖い。長い時間を生きた鴉天狗すら怖がらせるほどに。ちょっとしたスプラッター映画の一シーンのような光景がまた更に拍車をかける。

 「昨日は、そのスミマセンでした。あの時は、あんまり余裕がなかったものですから……」
 「いいえ、気にしなくていいんですよ文さん。そのような事情があったのなら致し方ないですし、皆さんに怪我がなくて何よりですよ。
 ちょっと待っててください。今、軽く摘めるものを用意しますから」

 ぎょろりと、黒い深淵の中に灯る赤い瞳が、文に向けられる。怖いなんてもんじゃない。何しろ片手には鉈である。怖さ倍増だ。

 (つ、摘まれる!? このままだと私、摘まれちゃう!!?)

 そんな想像をしてしまい、思わずがたがたと震えそうになる体をしっかりと押さえつける。
 心を落ち着かせようと何度も深呼吸し、ようやく平静を取り戻した瞬間―――。

 「あれ、鶏肉がきれてるなぁ」

 ヘドロ自身まったく意図していないことであったのだが、その言葉は文の落ち着いた平常心を乱すには十分なものだった。
 だって鴉天狗だし。彼女達鴉天狗は、鳥に対する仲間意識が非常に強い。結果、

 (た、食べられるっ!!?)

 などと、内心動揺してしまったのも無理のないことであろう。

 「ヘドロ、鶏肉になら私の隣に丁度いいのがいるけれど?」
 「止めてよ!! 洒落になってないんだけど!!?」

 そんな動揺を見透かしたように、幽香が文を見ながらそんな言葉をヘドロに投げかけ、余裕がないのか素の言葉使いで幽香に怒鳴る文。
 そんな二人を見て、表情こそ変わらないが心配したような声色でヘドロが二人に言葉を投げかける。

 「喧嘩はいけませんよ、二人とも。それにしても、爆弾騒ぎと聞いたときから思っていたのですが、気をつけてくださいね。何か良からぬことが起こらねばいいのですが……」

 ヘドロのその言葉は、嘘偽りのない本心だ。彼は本当に彼女達、そして銀時たちを心配しており、彼らのこの後の安全について不安に思っていた。
 思っていたんだけれど、残念ながら第一印象が最悪だった文には別の意味に捉えられたらしい。
 見る見るうちに文の顔が青くなっていくのを眺めながら、幽香は小さくため息をつく。

 (それにしても、よく手入れされてるわね)

 言葉にはしないまま、幽香は部屋の中にある植木に視線を移し、そこで立派に咲いている花々に感嘆する。
 生き生きと咲いている花。そのどれもが良く手入れされ、満足そうにその花弁を開いて自己主張する。
 おそらく、自分が丹念に育てた花と同じぐらいに。
 こう聞けばただの傲慢と人は言うかもしれないが、彼女は幻想郷にその名を轟かせる花を操る大妖怪。
 戦闘だけでなく、花の世話や飼育など、彼女にしてみればそれこそ朝飯前。
 その彼女すらも感嘆させるヘドロの技量が、それほど高いという事実を証明する。
 店先に並べられていた植木の花もそうだ。そのどれもが満足そうに、自由に咲いて誇らしげにしていたのを思い出す。

 だからか、自分がコレと勘違いされていたことに対する怒りは、ある程度なりを潜めていた。
 要するに、ある程度ではあるが、幽香はこのヘドロという強面の天人(あまんと)を受け入れ始めていた。
 最初に覚えていた恐怖心も今はすっかりなくなり、未だに内心恐怖を覚えているらしい鴉天狗をからかう余裕まである。
 花を操る妖怪で、花の言葉を聞けるが故に、ヘドロという人物の人となりを知ることが出来たからこそだろう。
 顔の怖ささえなんとかなれば、ヘドロという人物はこれ以上にないくらい好感の持てる人物だった。

 「あなたは、花が好きみたいね。よく手入れされてるもの」
 「はは、ありがとうございます。でも、似合わないでしょう? こんな見てくれじゃねぇ」
 「あら、花が好きなことに見てくれも何も関係ないわ。そうでしょう?」

 その言葉に驚いたのか、ヘドロの顔に一瞬だけ驚愕の色が浮かんで、それからすぐに物悲しげな表情が一瞬浮かぶ。
 それに気を使ったわけではないが、幽香は自分の本心だけを淡々と語り、クスっと笑みを浮かべてそう問いかける。

 「……内面も関係ないってことですかねぇ、それって」

 隣から聞こえた意味ありげな視線を向ける鴉天狗からの言葉はとりあえず無視の方向で、幽香は彼の言葉を待つ。

 「そういわれたのは初めてですよ、幽香さんは優しいですね」
 「あら、私が優しいのならこの世全ての生命体が【優しい人】になってしまうわ」
 「ご冗談を、あなたは優しい方だ」

 幽香の言葉を冗談だと本気で思ったらしい。怖い顔なりに笑顔を浮かべたヘドロは、本心からそんな言葉を返していた。
 まぁ、知らないから無理もないことなのだが、幻想郷では風見幽香の名は悪い意味で有名だ。
 歩いて通れば人も妖怪も避けて、彼女の姿を見よう物ならば逃げ出すものまでいる始末。
 なにより、彼女は生粋のいじめっ子である。他人を弄り倒すのが誰よりも大好きなのだ。

 知らないってことは幸せだ。事実、幽香が優しい人発言に、文は驚きのあまり目をぱちくりさせているのだし。

 「以前、坂田さん達にも話しましたがね、僕は花になりたいんですよ」

 そうして、彼の独白は始まった。ぽつぽつと、ただいまこのときを確かめるかのように。
 その言葉に込められた感情に気がついたのか、文も真剣な表情で彼の言葉に耳を傾けている。

 「昔からこんな外見で人から怖がられてましてね、せめて心だけでも花のように綺麗になりたいと、そう思ったんです。花屋をやっているのは、その気持ちからなんですよ」

 自嘲のこもった言葉。それが、文の心に沈殿していた恐怖をゆっくりと溶かしていく。
 長い間、新聞記者として生きていた彼女だからこそ、その言葉に込められた気持ちというのがよくわかった。
 気がつけば、当初の恐怖はなりを潜めて、いつもどおりに振舞えるほどに落ち着きが文に戻ってきた。

 (参ったなぁ、これじゃあ新聞記者として失格ね)

 内心で自分自身を叱咤して、文は彼に視線を向ける。
 恐怖は、もう彼女の中には残っていない。

 「なら、あなたの心はとても綺麗です。誇ってください」

 自然と、そんな言葉がついて出た。言ってから恥ずかしいと文は思ったが、まぁいいかといい加減に納得する。

 「ありがとう、文さん」
 「いえいえ、どういたしまして」

 いつもどおりの受け答え、いつもどおりの返答。それが出来ている自分に安堵してから、今までの自分の態度を改めて反省する。
 そんな彼女を視界に納めて、幽香は苦笑してからあらためてヘドロに視線を向ける。

 「そうだ、ヘドロ。明日、みんなで宴会するつもりなの。あなたもどうかしら?」
 「いいんですか? 僕が行っても、皆さんを怖がらせるだけかもしれません」
 「いいのよ、あなたが気にする必要ないの」

 むしろ、みんなを怖がらせるのが半分の目的なのだし。とは、言葉に出さずに心のうちにしまいこむ。
 ま、どうせあのメンツのことだ。最初は怖がるだろうけど、話していけばそのうちに彼の人格を知ってなれるだろう。
 良くも悪くも、幻想郷の面々は総じて図太い性格してるし。

 幽香は満面の笑みを浮かべる。そのまま実に楽しそうに、外見相応の童女のように、言葉をつむぎだす。


 「見せてあげる。私の自慢の、太陽の畑の向日葵たちを」




 ■あとがき■
 ヘドロ本格的に初登場。いろいろおかしいところはあるかもしれませんが今回はこの辺で。
 幽香とヘドロはもしかしたら相性イイかもしれませんね。花関係で。
 方や真性の超ドS。方や真性の超善人ですけど。
 さて、次回の話は太陽の畑で行われる大宴会。いったいどうなることやら……。
 もしかしたら、昔別の名前で書いてた東方槍迷譚のオリキャラをそのうちちょろっと出すかもしれません。
 それでは、ちょっと短いですけど今回はこの辺で。

 P.S.緋想天の追加パッチで幽香使えるようにならないかなァとか最近思いますけど、そんなうまい話ないですよね。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第三話「騒ぎ騒いで羽目をはずし過ぎないように気をつけろ」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/09/04 23:39







 「おい、山崎。本当にここに桂が入っていったんだな?」
 「ええ。間違いないですよ。確かに桂はここに」

 とある家の一室、そんなやり取りを交わしながら、同じ制服を着た二人の男がたたずんでいた。
 真撰組副長、土方十四郎。そして真撰組の密偵を勤める山崎退である。
 間違いないと断言する山崎の言葉に、しかし、土方は深いため息をついて、彼を睨み付け。

 「居ねぇじゃねぇか!! つーか、ここあのヤロウすらいねぇじゃねぇか!!?」
 「うるさいですぜ土方さん。調べてたらあのチャイナ娘のもんとは思えねぇ女物の下着がわんさか出てきてまさぁ。別件で逮捕できるかも知れませんぜ?」
 「総悟、オメェは黙ってろ」

 声を大にして怒鳴り散らすが、帰ってきたのは頭が痛くなるような弟分兼部下の沖田総悟の犯罪スレスレの発言。
 そのことに実際頭痛を覚えながら、そんな言葉をつむぎだして頭を抱えた。

 ここは銀時が経営するよろず屋の事務所兼坂田家。そこに彼らが入り込んでいるのにはわけがあった。
 先日、桂がここに入っていくところを見たという情報を聞き、念のため密偵の山崎に張らせていたところ、今日、その桂がよろず屋に訪れたのを見たという報告があったのだ。
 彼らもよろず屋のメンバーの実力は知ってるし、なにより真撰組のメンバーを総動員させるわけにも行かず。
 結果、近藤勲、土方十四郎、沖田総悟、そして張っていた山崎退で乗り込むことにしたのである。

 ところが、結局中には誰も居らず、話は冒頭に戻る。というわけなのだ。

 「肝心の桂がいねぇんじゃ意味ねぇだろーが。あのヤロウ逮捕したって何の得にもなりゃしねぇよ」
 「まったくだ。おい、総悟、その辺にしておけ。これじゃ本当に空き巣泥棒だぞ」
 「……近藤さん。そーいうことはポケットからはみ出てる下着を出してから言ってくんねぇか? アンタは今片足がどっぷり泥につかってるぞ」

 ヤバイ、本格的に頭痛くなってきたと呟いて、彼は今の現状に眩暈を覚えていた。
 何しろ、ワリと正論言っている上司は、ポケットからこそ泥の証拠がはみ出してるし、注意したって肝心の沖田は止める気配なし。
 もし、こんな状況を他人に見られたらどうなるだろうか?
 考えるまでもない。間違いなく最悪の状況しか待っていないことは容易に想像がつく。

 「……トシ」
 「あん? どうした、近藤さん」

 頭を抱えていたところを横手から言葉を投げかけられ、頭痛の種を一旦隅に置いてとりあえず振り向いてみると、三人が箪笥の一番下の段を引っ張ったまま硬直していた。
 はたから見れば、それはもう奇怪な光景に映ったことだろう。何しろ、三人ともその箪笥の中を見て冷や汗流しながら硬直している。
 こう、なんというか幽霊見たかのように。

 (ばかばかしい)

 自分の考えに憂鬱になりながら、土方は三人に足を向けた。実は彼、幽霊とかお化けといった類が苦手だったりする。
 それはともかく、土方が気だるげな足取りで近藤たちの近くにまで歩み寄る。

 「どうした、オメェら。そんな箪笥の中見て硬直しやがって。なんかヤクでも入って―――」

 最後まで言葉にすることもなく、箪笥の中を目撃して、土方も同じように沈黙した。

 端的に言おう。箪笥の中には【何も】なかった。何も、である。それこそ箪笥の引き出しにあるべき底すらも。
 引き出しの中には何もなかった。真っ黒な空間が広がり、その置くにはこちらを見てあざ笑っているかのような口や、ぎょろりと蠢く眼。
 それらだけが縦横無尽に存在し、歪な異空間が広がっていた。
 ある意味、彼らが硬直したのも無理もないことだ。何しろ、目の前の現象はこう、明らかにお化けとか幽霊とかそういった類の光景に違いないのだから。
 ぶっちゃけホラーとかそんな類。

 そんなありえない光景に、半ば近藤が気絶しかかった瞬間。

 トンッと、四人そろって誰かに背中を押された。

 『うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?』

 異空間に落ちていき、悲鳴を上げる四人。その大絶叫が見る見るうちに遠くなり、やがて何も聞こえなくなった。
 混乱する暇もなく、思考は犯人がいったい誰だったのかという考えに及びもしたが、残念ながらこの先、生き残れるのかという疑問のほうが重要だった。
 何しろ、保証もないし、どこにつながっているのかもわからない。

 そんな光景を視界に納めて、突き落とした犯人、金髪の見た目麗しきスキマ妖怪は、上半身だけスキマからのぞかせてクスクスと心底楽しそうに笑みを零したのだった。







 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第三話「騒ぎ騒いで羽目をはずし過ぎないように気をつけろ」■











 太陽の畑。そこは幻想郷の中でも五指に入るほどの絶景を拝める、絶好の場所である。
 夏季限定ではあるものの、その咲き乱れる一面の人の背丈を越える大量の向日葵は、見るものの心を魅了してやまない。
 その光景に魅了され、ほうっと彼らはため息を漏らしていた。
 みな総じて片手には酒が注がれた器を持ち、辺りに視線を向けてその光景を見入っていた。

 「すげぇな、こいつぁ」
 「まったくだ。たまにはこうして、ゆっくり息抜きをするのも悪くない」

 銀時が漏らした言葉に答えるように、なかば押しかけるように現れ、そのまま幻想郷に来ることになった桂が言葉をつむぎだす。
 その言葉が面白くなかったのだろう。途端に表情をゆがめ、銀時はうっとうしそうな視線を桂に向ける。

 「つーか、なんでお前までついてくんの。鬱陶しいから帰れ。そして国のためにがんばって来いや」
 「いつまでも気を張り詰めすぎるのも良くないのだ。それに、人が尋ねたら箪笥の中に足を突っ込んでいたからな、気が違ったかと思ったぞ」
 「だーかーらっ! なんで勝手に人の家ん中に入って来るんだよオメェは!!」

 ほっとくと口喧嘩を始めそうな二人に、小さなため息をついて天子が酒を片手に二人の間に割ってはいる。
 有無言わせるまもなく、天子はまず銀時の器にお酒を注ぎ、それから桂の器に酒を注いで、その隣にいたエリザベスにも一応酌をする。

 「ほら、せっかくの酒の席なんだから、喧嘩しないの。ていうか、銀さんもあんまり無茶すると傷口がバックリ開くわよ?」

 まったく、気を使う人のみにもなれというんだと、そんな風なニュアンスをこめながら、彼女は言う。
 自分の器にコポコポとお酒を注ぐ彼女の視線が、自分の傷口に向けられているのだとわかると、銀時は気まずげに視線を逸らして酒を煽った。
 内心、たいした怪我じゃないのに大げさな連中だとは思いはしたものの、彼は小さくため息を漏らしただけでその気持ちを紛らわす。
 視線の先に、彼の傷の治療をした鈴仙が、師匠である八意永琳に説教されている姿を見つけるが、それをただぼんやりと見つめる。
 傷……といっても、幸いたいした傷ではなかったが、鈴仙の診断は実に適切だった。
 骨折していないかどうかの確認や、傷口の消毒など、それこそ医者も顔負けなほど手際が良いのだ。

 「それにしても、あそこだけなんかメンツが凄いわねぇ」
 「んぁ?」

 どこかあらぬ方向に視線を向けていた天子の視線の先を見ると、そこには実に奇妙な四人組がいた。

 一人はこの向日葵畑に居座っている妖怪、風見幽香。
 二人目は鴉天狗にして新聞記者の射命丸文。
 三人目は強面ながらも根っこのほうは心優しいヘドロ。
 四人目は紅魔館で門番を勤める紅美鈴である。

 当初、予想を裏切らずにほぼ全員から怖がられたヘドロであったが、話せば悪い奴ではないとわかったらしく、今はみな普通に彼と会話する。
 この順応能力の高さ。ある意味で図太い神経の連中の集まりだという認識が強まる光景だが、中でも美鈴はヘドロと気が合うらしい。
 というのも、彼女は紅魔館の中庭の花壇などの世話もしているので、そういったことで話が合うらしかった。
 さっきからあそこの四人で会話が弾んでおり、はたから見れば正しく奇怪である。主にヘドロが。間違いなく浮きまくっている。

 「馴染んでますね、ヘドロさん」
 「見た目は浮きまくってるネ。ある意味美女と野獣とかそんな感じアル」

 そんな光景を傍目から眺めていた新八と神楽が言葉にして、咲夜が用意したつまみを口に含む。
 まぁ、確かにね。と、彼らのすぐ傍から霊夢の呟きが聞こえてきて、当の彼女はやはり、宴会用に用意された咲夜の料理を口に運んでいる。

 「誰がどう馴染もうと知らないけど、あの外見で人里に入るのは勘弁してほしいわ。間違いなく騒ぎになるし」
 「それは無理というものだ、博麗殿。何しろ、この世界の入り口は人里のクローゼットの中だ。というかむしろ手遅れ……あ、リーダー、そこの沢庵を頼む」
 「ん? 何がアルか?」
 「ってオィィィィ!!? 頼んでる傍から沢庵食い尽くしてんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 もぐもぐとリスのように頬を膨らませながら、大量の沢庵を頼まれた矢先に食い尽くした神楽に対して新八が大声でツッコミをいれる。
 あー、こいつら相変わらずなんだなーとかぼんやりと脳裏を通り過ぎ、霊夢は隣にいた魔理沙からお酒を注いでもらい、ジーっと新八の行動を注視していたりする。

 「アンタも人の事いえないわよ。せっかくの宴会の席で料理をタッパーに詰めてんじゃない」
 「タッパーにつめてテイクアウトなんて邪道だぜ。その場で食べるから料理はおいしいんじゃないか」

 ため息交じりの霊夢の言葉に、魔理沙はからからと笑みを浮かべながらそんなことを言う。
 彼らの言葉の通りに、新八は先ほどから持参したタッパーに料理を詰め込んで、それから自分の食べる料理を皿に取り分けている。
 実に所帯じみた行動。ある意味、それはよろず屋の懐事情を考えれば仕方のないことなのだが、やはり褒められた行為ではないのかもしれない。

 「ごめん、ウチの懐事情がやばくて……」
 「私だってやばいわよ」

 にべもない。あっさりとそんな言葉を返して、霊夢は手ごろな料理を口に運ぶ。
 事実、彼女も財政は芳しくない。だが、だからといって新八のように、そこまでする気にはどうしてもなれなかった。
 ところが、その言葉に何ゆえか銀時が反応し、びっと指差して霊夢に視線を向ける。

 「ウチの財政のやばさ加減を舐めるなよ? 何しろウチにはもう小銭と酢昆布しかねぇからな」
 「何故酢昆布!?」

 ヤバイどころではない。というか本当にこれから先の生活大丈夫なのかこいつ等? そして何ゆえ酢昆布!?
 そんな止めどない疑問の嵐が脳裏をよぎる中、一番疑問だったらしい箇所を疑問系でツッコミを入れる黒白の魔法使い、霧雨魔理沙。
 ちなみにその答えは神楽の給料兼基本食だったりするのだが、この際それは関係ないのでおいておくとして、対する霊夢も何ゆえかフンッと偉そうに腕を組む。

 「甘いわね。私なんて戸棚に残った湿気た煎餅一枚しかないわよ」
 「張り合うなァァァ!! 虚しいんですけどその争いィィィ!!? ていうか霊夢ちゃんそれで生きていけるの!!?」 

 このままだと悲しい戦いが続きそうなので新八のツッコミがそれをさえぎる。どっちもどっちという話がないわけでもないが、その内容は悲惨極まりない。
 主に湿気たという言葉辺りが一番哀愁を誘うが、本人はそう思ってはいないらしい。

 「あら、随分楽しそうじゃない? 妬ましいわねぇ」
 「いや、楽しそうとはちょっと違うと思うぜ?」

 と、その輪に加わるようにして一人の少女が姿を現す。
 癖のない金紗のようなセミロング、それ自体が淡い光を放ってるかのような印象を見せるグリーンの瞳。何よりも特徴的な尖った耳。
 水橋パルスィ、地上と地下を繋ぐ橋を見守る橋姫の少女は、くすくすと笑いながら魔理沙の隣に腰掛けた。

 「うるさいわね! そっちは小銭があるだけマシでしょ!!その眼鏡剥ぎ取って無個性にするわよジミー!!」
 「んだとォォォォォォォこらァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 そしてそんな彼女には気付かずに喧嘩に直行する霊夢と新八。
 ギャーギャーと盛大に殴り合い……というより、一方的に新八が霊夢にぼこぼこにされていき、そんなさまを眺めて冷や汗流す魔理沙と、実に楽しそうに笑っているパルスィ。
 訂正しよう。喧嘩というよりは一方的な処刑である。

 「……楽しそうか?」
 「とっても♪」

 ものすごくいい笑顔でのたまうパルスィ。そして血祭りにされていく新八。
 そして誰も助けに行かない辺り、みんな誰もがその光景を見て楽しんでいるのかもしれない。神楽に至っては「そこで右ヨ、右!!」などと叫んでいる始末。
 どうでもいいが、そろそろ誰か助けてあげないと本気で新八が命の危機に晒されるかもしれない。
 一応怪我人だし。もともと銀時と同じくたいした怪我ではなかったが、今現在リアルタイムで殴り倒されている。

 「それにしても、あなたも随分順応しているわねぇ、ここに。というより、貴方たちの世界の住人ってみんな順応能力が高すぎる気がするわ」
 「いや、驚こうにもこう女性ばかりではな。見た目が人間と変わらぬし、どうにもイマイチ実感が湧かんだけさ」
 「そんなものかしらねぇ」

 桂の言葉にもイマイチ納得しかねるのか、天子はため息をつきながらもう一人の異世界の客人に視線を向ける。
 人だかりが出来てはいたが、その隙間から件の人物の姿は見て取れた。
 その件の人物であるヘドロは、金髪ロングヘアの額に真っ赤な角を持った鬼の少女、星熊勇儀と相対して、ガッチリと腕を組んで睨み合っていた。
 傍目からは腕相撲をしているように見えるが……、いや、事実腕相撲なのだろう。両者睨み合ったまま動かない。

 「……え?」

 動かない? いやいや、それはおかしいだろう。仮にもあの鬼の星熊勇儀が、腕相撲で腕を動かせないとかどういうことなのか?
 何しろ、力の勇儀なんて呼ばれるような少女だ。その力の強さは押して知るべしと言うやつだろう。
 だというのに、あの二人は力が拮抗しているということなのか? その事実に思わず戦慄する。
 まぁ、ヘドロもヘドロで、重い漬物石を片手で空の彼方にまで投げ飛ばせるほどの怪力の持ち主だし、ある意味ではこの拮抗は必然なのかもしれない。

 「いや、まさか私と力でタメ張れるとはねぇ。驚いたよまったく」
 「あなたもその細腕でこれほどの力をお持ちだなんて。異世界というのを実感してきましたよ」

 なんか知らないがお互いをライバルと認めたっぽい二人が、ギリギリと台座に悲鳴を上げさせながら全力をとしている。
 あの様子だとしばらく決着もつきそうにないので、そこから先は興味をなくしたらしい天子はゆっくりと目の前の撲殺現場に視線を向ける。

 うん、いい具合に新八が天に昇りそうである。

 「それにしても、アオの奴遅いわねぇ」

 だがしかし、とりあえず霊夢に殴り倒されている新八をあえて助けることはせず、遅れている知り合いに思考を向ける。
 青い鳥の妖怪、不幸という星の下に生まれた少女、アオ。
 この世界でよろず屋を営んでいた銀時たちが残したよろず屋の後をついで住んでいる妖怪の少女。ちなみに、この幻想郷と銀時の世界に通じる道も、この幻想郷のよろず屋に存在する。
 それはともかく、仕事の関係で遅れるといった少女の姿が未だにない。午前中に終わるという話であったから、もうそろそろ来てもおかしくはない。
 そのはずなのだが、一向に来る気配がないアオのことを、少し心配する。
 何しろ、根っからの不幸体質だ。下手するとこの道中に何かへんなことに巻き込まれてる可能性だってある。

 [心配?]
 「ん? まぁね……」

 プラカード掲げて聞いてくるエリザベスに、少し照れくさそうに視線を背けて、言葉を曖昧に濁す天子。
 色々と彼女には思うところがあるのだが、それでもやっぱり心配なものは心配だ。
 短い間だったとはいえ、一緒に仕事をした仲間でもあるのだし。

 「お~、まだやっとる~。みんな~、今来たでぇ~」
 「おっそい!! 今何時だと……って、誰そいつ等?」

 聞き馴染んだ間延びした声。その独特な言葉遣いに行き当たった天子は、そちらのほうに視線を向けると期待通りの人物、アオがいてほっとする。
 ……同時に、彼女のそばにいるまったく見知らぬ四人組に、疑問を覚えることにもなったわけだけれども。

 その疑問が解けるまもなく、瞳孔が開きっぱなしッぽい男がいきなり刀を抜いたのが見えて、たまらずぎょっとする。
 まぁ天子のその反応は正常なものだろう。普通、見ず知らずの男がいきなり刀抜いたら驚くのが普通だ。
 しかも、こっちに向かって走ってくるし。

 (早いっ!?)

 おまけに、その身体能力ときたら明らかに高い。そりゃもちろん、妖怪なんかと比べるべくもないのだけど、それでも十分に人間離れした速度だった。
 とっさに緋想の剣を抜いて身構えた瞬間―――

 「か~~~つらァァァァァァ!!!」

 刀抜いた男がその言葉をつむいだ瞬間、緋想の剣を直して皿に料理を取り始めた。

 「えぇぇぇぇぇぇぇ!!? ちょっと比那名居殿ぉ!!? そこで武器しまう!? そのタイミングで武器をしまう!!?」
 「いやだって、あなたを守ってあげる義理はないし」
 「何!? そのすんごい薄情な理由!!?」

 あんまりにも薄情な行動にたまらず桂がツッコミを入れてしまうが、結局帰ってきたのは天子の冷たい反応だけだった。
 まぁ、確かに彼女のいう通りでもあるので、それだけツッコミを入れてから桂も迎撃のために刀を手にかける。
 今まさに二人が交差しようとした瞬間―――

 ズドンッ!!
 『たらばっ!!?』

 二人の頭部をゴツイ腕が掴んで地面に叩きつけた。
 とんでもない轟音だったためか、ここに集まっていた全員が視線をそちらに向ける。
 そこには、二人の蛮行を止めた顔面凶器のヘドロが悠然とたたずんでいる。どうやら腕相撲の途中で気付いて駆けつけてきたらしい。

 「まったくいけませんよ二人とも。宴会の席だからってそんなにはしゃいだら。ほら、危うくてんとう虫を踏み潰すところでした。殺生はいけない」

 地面を這っていたてんとう虫を指先にのせ、顔面を地面に埋もれさせた二人にぎょろりと赤い瞳を向けるヘドロ。ぶっちゃけ怖すぎる。
 そんな地面に顔面を埋もれさせた仲間に歩み寄る、四人組のうちの一人の少年。風船ガムをくちゃくちゃとかみながら、本人の前まで来るとぷーッとガムを膨らませる。

 「大丈夫ですかぃ、土方さん?」
 「……これが大丈夫に見えるんだったら眼科に行ったほうがいいぞ、総悟」

 明らかにどうでもよさ気につむがれた言葉に、青筋浮かべながらゆっくりと起き上がる土方。
 内心、相当怒っているに違いない。主に、その怒りの対象は敵である桂よりも身内である沖田にであるだろうが。
 そんな光景をいぶかしげに眺めていた霊夢が、ポツリと言葉を漏らす。

 「誰? あいつ等」
 「あだだだだだだ!!! 折れる!! 折れるって!! 答えるからとりあえず技といてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 見事に決まったキャメルクラッチの餌食になっている新八のむなしく響き、その言葉でようやく新八は霊夢の制裁から開放された。
 開放された新八はというと、内心どう説明したものかと悩みながらも、彼女達への説明を開始したのであった。



 ちなみに、ヘドロの行動に虫の妖怪、リグル・ナイトバグが「いい人だ!! あの人顔は怖いけどいい人だ!!」とか感動を覚えていたらしいが、それはこの際余談である。



 ■あとがき■
 ども、白々燈です。最近困ったことが一つ。
 ウチのPCは地霊殿が動かないということが判明しました。オウシット。
 おかげで未だに地霊殿メンバーの性格をイマイチ掴みかねてます。おかしかったら遠慮なくいってください。
 かなりご都合主義ですが真撰組登場。
 まさかの太陽の畑の宴会は前後編になってしまいました。もう少し、この宴会の話にお付き合いください。
 しかし、カオスだなぁこの宴会。

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第四話「酒と料理と花さえあれば人はみな友達さっ!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/09/11 23:12





 見たものを魅了するだろう、大量の向日葵が咲き乱れた太陽の畑。彼らは今現在その場所にたたずんでいた。色々な妖怪に混じって。

 「近藤さん、大丈夫ですかィ? 顔が真っ青でナスみたいになってますぜ」
 「ば、ばばばばば馬鹿言っちゃいかんぞ総悟。お、俺のどこが真っ青だって?」

 ばっちりうろたえまくっている近藤の視線の先に、白髪おかっぱの少女が困ったようにため息をついている姿がある。
 近藤が顔を青くしているのは、半分は彼女が理由であり、もう半分は彼女の主人が原因だったりする。
 何しろ、彼女達の周りには目に見える人魂がふよふよと浮いているのだ。何も事情を知らない人間が見れば、それを幽霊だと思うのも仕方がないことだろう。
 というかむしろ、疑いようもなくそれは幽霊の一種なのだが。

 まぁ、少女……魂魄妖夢に至っては、その人魂は自分の半身なのである。
 半人半霊の彼女は、人間の体と幽霊の体を同時に持っている。彼女の周りをふわふわと動いている人魂は、幽霊としての彼女の体なのだ。

 それを見て、近藤は顔を青くする。主に恐怖とかで。おまけに、彼女の主である西行寺幽々子は彼女自身が亡霊だし、幽々子の周りには小さな人魂が複数、せわしなく動き回っていた。
 幽霊が駄目な人間だったなら、この光景は実に耐え難いものだろう。事実、近藤や土方はその類の人間である。銀時もだけど。
 ところが、沖田はある程度は慣れたらしい。平然とそこに居座り、彼は近藤に視線を向ける。

 「そういやぁ、近藤さんは幽霊で気絶したことがありやしたね。それじゃあ仕方ねぇ」
 「ち、違うぞ総悟! 幽霊で気絶したとか恥ずかしいことするわけないだろう!! アレはマヨネーズにやられたっ!!!」
 「なおのこと恥ずかしいわっ!! 何!? アンタの羞恥の基準どーなってんの!!!?」

 沖田の言葉を否定しようと近藤が否定するものの、そのあんまりにもアレな内容に思わず土方が盛大にツッコミを入れた。
 まぁ、確かに。マヨネーズに近藤がやられたのは事実だが、だからといってそこでその発言はどうかともう。幽霊にやられたほうがよっぽどマシだ。

 「ったく、ただでさえ信じらんねー状況が続いてるってーのに」

 小さく呟き、土方はため息をついて現在の状況を確認する。
 内心、面倒ごとを全てほッぽり出したい気分に駆られたが、今の現状を考えてもそうはいかないだろう。

 この幻想郷という異世界、目の前に存在する幽霊や妖怪、吸血鬼といった幻想、妄想の産物と信じられてきた存在たち。
 そんな者達の中に混じって、いつの間にか宴会に参加する形になってしまっている。視界の先には、あの桂がいるというのに。それをなんとも出来ないもどかしさ。
 第一、ここにいるほぼ全員が女性で、小さな女の子もいる。というか、圧倒的に多い。
 そんな楽しく宴会しているメンバーを無視して、桂を捕まえる気にはどうにもならなかった。生憎、土方はそこまで空気の読めない人間ではない。

 「……て、何してんだ総悟」
 「何いってんですかィ土方さん。目の前に桂がいるんだから、このまま仕留めちまいましょうや」
 「ちったぁ空気を読めオメェは!! 頼むからそのバズーカおろせ!! んなもんぶっ放したら周りの連中も吹っ飛ぶわっ!!」

 今にも肩に担いだバズーカを発射しようとする沖田に、土方が全力でツッコミを入れて、近藤が彼からバズーカを取り上げる。
 冗談だと思うやつもいるかもしれないが、残念ながら生粋のドSである沖田はやるといったら本当にやる。撃つといったら本当に撃つ。遠慮なんてコレッぽっちもしない。
 ひとまず沖田からバズーカを取り上げると一安心して、ふぅっと小さく息を吐く。一体どこからあんなものを取り出したのか気になるが、とりあえず今は置いておく。

 それよりも、今の問題はというとだ―――。


 「第一回!! 桂組対真撰組によるミニゲーム大会を開催いたしまーっす!!!」
 『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 どっと沸きあがる周囲の歓声。鴉天狗の少女がかけた号令に、辺りが一気に沸きだってテンションを無駄に高くしていった。
 気がつけば近藤、土方、沖田、山崎の四人の向かいには、少しスペースをとって個性的なメンバーが座っていたりするのである。

 一人は言わずもがな、真撰組の敵である桂小太郎。
 二人目はわれらが主人公、銀髪天然パーマの坂田銀時。
 三人目は金髪サイドポニーの赤い瞳をした少女。吸血鬼のため日光を防ぐために現在日傘を持っているフランドール。
 四人目は青い髪の不幸体質、青い鳥の妖怪のアオ。

 ここに、くじ引きで決まった即興メンバーの桂組VS真撰組のミニゲーム大戦が開かれようとしていた。
 良くも悪くも、幻想郷のメンバーはそろいもそろってお祭り好きな集まりだということなのだろう。








 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第四話「酒と料理と花さえあれば人はみな友達さっ!」■













 「さぁ、始まりました今大会の司会を勤めさせていただきますのは、私、射命丸文です!!
 解説は地下世界のアイドル、黒谷ヤマメさんと、ツッコミには地味眼鏡こと志村新八さんを向かえてお送りいたします!!」
 「ども~、みんなよろしくー!!」
 「……いやいやいや、司会、解説と来てツッコミはないから。ていうか誰が地味眼鏡ですか」

 やたらと高いテンションのままテレビの司会のような進行を進めていく文。以前テレビで見ていて感心していたので、その物真似だろう。
 そんな彼女の紹介にたまらず冷や汗流しながら新八がツッコミを入れてみるものの、文はそんなことに気にもかけずに観客……、つまりは幻想郷のメンバーを煽っている。

 「……無視かよ」
 「まぁまぁ。とにもかくにもお互いによろしくね、新一君」
 「……いや、新八なんですけど」

 フォローに回ったらしい悪意のないヤマメの言葉に余計に傷つくこととなった新八だが、その原因に行き当たっていないらしいヤマメがはてっと首を傾げる。
 まぁ、暗に自分が影が薄いという事実を突きつけられたようなものなのだから、そのことを気にしている彼にとってはその悪意のなさが余計に傷つくのだろう。
 別にヤマメは悪くない。あえて言うなら新八のいる環境が悪いのだ。

 が、そんな二人のやり取りをまったく無視してテンション張り上げる鴉天狗はスビッと指を天にさす。

 「さぁさぁさぁ!! この大会の審査員を紹介いたしましょう!! こちらの方々です!!」

 「そーなのかー」
 「アタイってば最強ね!!」
 「厄いわ。厄を感じる」
 「楽しそうねぇ。あぁ、妬ましい。妬ましいッたら」
 『お酒持ってこーいっ!!』
 「おーい、パシリー。酢昆布買ってこいヨ」

 「見ての通り、碌な方がいません!!」

 ルーミア、チルノ、鍵山雛、水橋パルスィ、伊吹萃香、星熊勇儀、そして神楽の言動が近場にあるマイクから流れてきて、文が見もふたもなく言い切った。
 いや、こう改めて審判席を眺めてみると、本当に碌なやつがいなかった。文がそんなことをいうのも無理もないことだろう。
 いや、まぁそもそもの話、この幻想郷にまっとうな人物なんて数えるぐらいしかいないのだが……。
 その碌でもない奴の筆頭ともいえる八雲紫はというと、今現在、友人である西行寺幽々子と一緒に酒を飲み交わしている。

 「それはともかく、ルールの説明をいたしましょう! 対戦方法と対戦者はこの箱の中からランダムに選ばれます。ただし、一度選ばれた方はその後の種目には出場できません。
 ですので、最低でも全4回戦行われる形になります。種目によってはそれより短くなることでしょう」

 そういって説明が終わると、白い髪をして天狗特有の衣装に身を包んだ少女、犬走椛が三つの箱を文とヤマメ、新八、の前に置いていった。
 文は【種目】、ヤマメは【真撰組】、新八が【桂組】の担当で、中にはメンバーの名前と、種目の中にはここに集まった面子が考えた勝負方法が詰まっている。

 「おい、ヅラぁ。桂組なんて気持ち悪くて冗談じゃねぇからジャンプ組に改名しようぜ」
 「ヅラじゃない、桂だ。ていうか、誰が気持ち悪いだ馬鹿者。というか貴様、いい年こいてまだジャンプなどという軟弱なものを呼んでいるのか」
 「テメェ!! ジャンプを馬鹿にすんなっ!! ジャンプにはなぁ、男の夢とロマンが詰まってんだよ!! 燃えと萌えが混同だぞコノヤロー!!」
 「違うよ! ジャンプには燃えと殺戮と爆発が詰まってるの!! ジャンプは危険と隣りあわせなのよ!!」
 「ちゃうでフランちゃん!! それはちゃうねん!! ジャンプには不幸と絶望がつまっとるんよ!!」
 「オイィィィィ!! いきなり喧嘩してんじゃねぇぇぇよあんた等!! ツーか後半ろくでもねぇし!!? そんなジャンプいるかァァァァァ!!!」

 チーム名巡って喧嘩をおっぱじめる銀時たちに新八がツッコミを入れる。半分ほどジャンプ談義だったような気もするが、フランとアオが言ったものは断じてジャンプなどではない。
 思わず新八がツッコミを入れたのも無理もないことだろう。何しろ、彼女達の発言は本当にろくでもなかったのだし。

 「おい、メス豚。とっとと酒注いでくんなせぇ。そうじゃねぇと口汚く罵るぜぃ?」
 「はっ! 誰がメス豚よ。私にお酒を注いでほしかったらもっと罵るのね。むしろ罵ってくださいお願いします」
 「天子ちゃぁぁぁぁん!!? お願いだから沖田さんの前でMッ気出すの止めてぇ!! 眼鏡のお願い!!」

 真撰組のほうは沖田が言葉に衣を着せぬ物言いで彼らの器に酒を注いでいた天子を罵り、むしろそれが天子に火をつけるものだから収拾がつかなくなりそうなところを新八がツッコミを入れる。
 それでも止まりそうになかったものだから、永江衣玖が羽衣で天子を釣り上げて強制的に退場させる。
 釣り上げた瞬間「ゲット」なんて聞こえたような気もするが、それは幻聴だったということでここは一つ手を打っていただきたい。
 羽衣でぐるぐるに巻かれてずるずると引きずられていく天子は実にシュールなものだったが、羽衣の隙間からわずかに覗く表情には、恍惚が浮かんでいたことはここに追記しておこうと思う。

 「さぁ、双方のテンションが鰻上りになったところで始めましょう!! 何が出るかな何が出るかな~」
 「……文さん、ノリノリですね」

 箱の中に手を突っ込み、鼻歌を歌っている自分の上司に、思わず椛がポツリと呟く。はたから見ても、今の文は実に楽しそうである。実際楽しいのだろう。
 ヤマメも似たようなテンションで箱の中に手を突っ込み、新八はため息をついてからボックスの中に手を入れた。
 しばらく漁ってから、いっせいに箱から手を引き抜く。三人の手には、その勝負を決定付ける紙が握られている。

 「さぁ、勝負方法は【叩いてかぶってじゃんけんポン!!】、真撰組からは【近藤勲】、桂組からは【フランドール・スカーレット】……って」

 用紙を集め、勝負方法を浪々と宣言し、対戦者の名前を読み上げたところで文が思わず硬直する。
 当の名前を呼ばれた近藤とフランはというと、すでに前に歩き出して互いに対峙していた。

 その光景を見て一旦ため息をついた文だったが、仕方なく勝負方法を説明していく。なかなか不安な組み合わせだが、決まったものは仕方がない。
 勝負方法の説明をしているさなか、必要な道具を八雲紫がスキマから取り出して着々と準備していく。ピコピコハンマーと、工事用ヘルメット、そして台座が用意されて準備が整う。
 二人が台座の前に向き直って座ると、ふと、近藤が手を上げて言葉をつむぎだし始めた。

 「あの、すみません。なんか周りからお経とか聞こえるんですけど?」
 「気のせいですよ。さぁがんばってくださいねゴリラさん、骨は拾ってあげますから」
 「何、その発言!!? 不安になるんだけど!!? ていうかここでも俺はゴリラ扱いなのか!!?」

 不安そうな近藤の言葉を罵倒付で返し、何かと物騒な言葉も残した文の発言。
 まぁ、近藤の言うとおり、周りの連中はお経となえてたり、仲には十字を切って祈りを捧げてるやつだっていた。
 そのことに不安を覚えはしたが、目の前の年端の行かないあどけない少女を目の当たりにして「考えすぎか……」と納得させて、その不安を押し殺す。
 実際、その不安は実に的確なものだったりするのだが、このときの近藤が知るはずも無い。

 「いいから早くやろう。えーっと、近……ゴリラ」
 「なんで!? 何で言い直したの今!? そのまま言えばよかったじゃん!!」

 目の前の金髪少女からすらもそんなことを言われ、精神に多大なダメージを負うゴリラこと近藤勲。
 フランはフランで狙ってやった発言だったりするので、内心してやったりなことを思っていたりする。いい感じに巫女やら白黒の魔法使いの影響が垣間見える一コマである。

 「まぁ、いい。やるぞ、フランドールちゃん」

 その言葉に、フランはうなずくとじゃんけんの体勢に入る。それを見届けた近藤も、じゃんけんの体制に入って初手をどうするか決めてから再び言葉をつむぎだす。 

 「叩いて!!」
 「被って!!」
 『じゃんけんポンッ!!』

 出された手は二人とも違う形だった。
 フランはグー。近藤がチョキ。それを視認した近藤は、すぐさまヘルメットを被って衝撃に備える。
 衝撃といっても、相手は子供だ。まさかいつぞやのお妙さんのときのような衝撃は来ないだろうと高を括っていると―――

 ズドンッ!!!
 「ぶらばっ!?」

 脳天からトラックが突っ込んできたかのような衝撃が近藤を襲い、彼はたまらず地面に倒れ付した。
 フランの握るピコピコハンマーは根元からへし折れて宙を舞い、台座は近藤が倒れ付した直撃で粉々に砕け散り、大地にはその衝撃の威力を物語る半径5mほどのクレーターが出来上がっていた。
 これほどの威力を脳天に直撃したのだ。当然、近藤は倒れ付したまま気絶してピクリとも動かなくなった。

 「近藤さぁぁぁぁぁん!!?」
 「局長ぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 慌てて駆け寄る土方と山崎。クレーターのど真ん中で気絶している近藤を引っ張って自分達の座っていた場所にまで引っ張っていく。
 周りは「あーやっぱりなぁ」なんて表情でその光景を眺めているが、当の土方たちは近藤に何度も言葉を投げかける。
 その甲斐があったのだろう、今度は意外なほど早く目を覚ましたのだ。
 覚ましたのだけれど……。

 「君達は、誰だ?」

 近藤の記憶がすっ飛んでいった。目がかわいくクリッとした感じになってパッチリと見開いている。
 先ほどの衝撃で記憶というものがごっそりと転げ落ちたらしい。

 「局長ぉぉぉぉ!! アンタ馬鹿の癖になんでまた記憶喪失なんてややこしい症状に見舞われてんですかぁぁぁ!!」

 たまらず山崎が大絶叫。まぁ、以前記憶喪失の彼に散々振り回された山崎にしてみれば当然の叫びだったのかもしれない。
 今頃、その時の記憶が脳内を駆け巡っていることだろう。
 そんな彼の心境を知って知らずか、近藤は上半身だけを起き上がらせて、ポケットから布を取り出して頭に当てる。

 「なんだか頭が痛いな。僕の身に何が……」
 「……あの、スミマセン。その頭に当ててるの、私の下着じゃないんですか?」

 何事か呟いていた近藤の言葉を遮り、鈴仙が彼の手に持っている布に指をさしてそんな言葉をつむいでいた。
 何のことかわからず、今度はその布を頭からはずして視界に映るように移動させる。

 それは、鈴仙のいうとおり、彼女が向こうの世界で着替えとして買った下着だったのである。

 途端、ガシッと両サイドから肩を掴まれる。そちらのほうに視線を向ければ、いい具合に黒いオーラを噴出している八意永琳と蓬莱山輝夜の二名。

 「ちょっとツラ貸しなさい、ゴリラ」
 「そうね、悪いようにはしませんよ。これでも医者ですので、記憶喪失ぐらい治して見せますわ。物理的に」
 「あの、スミマセン。コレ僕には身に覚えが……」
 「いやねぇ。それを今から思い出させてあげようって言うんじゃない。物理的に。ね、永琳?」

 ぐわしッと肩を砕きそうなほどに強く握り締めて離さない二人は、そのままずるずると近藤を引きずってどこかへと去っていく。
 危険を感じて近藤が何事かわめいていたが、その言葉が二人に届くことは無く、やがて視界に映らないほどまで遠い場所にまで引きずられていく。
 途端、近藤の悲鳴となんか打撲音が聞こえたが、土方たちは助けに行こうにもいけなかった。だって、前面的に近藤の自業自得だし。

 「すまねぇ、近藤さん。フォローできねぇ」

 申し訳なさそうに謝りながら、土方は目の前に視線を向ける。
 どうやらもうとっくに二戦目が始まっているらしく、桂と山崎がバトミントンで闘っていた。
 中央にはいつの間にかしっかりとネットが張られ、お互い一歩も引かずに闘っている。

 勝負内容は【バトミントン一本勝負!】。先に点を入れたほうが勝ちというシンプルにしてすぐに決着のつく勝負。
 桂組からは桂が、真撰組からは山崎が選出されたらしい。
 今はやや山崎が押しており、この分だと山崎が勝つのは目に見えている。
 伊達に暇があればミントンをやっていただけはある。その度に土方にぼこぼこにされているけど。

 勝負はそのあとすぐについた。結局山崎が勢いのまま押し切り、今度は真撰組の勝利となったようだった。
 一対一の引き分け。これで勝負はわからなくなったといったところだろう。

 「まさか、山崎のやつが勝つとはな。世の中何が起こるかわかんねぇもんだ」
 「何言ってんですかぃ、土方さん。次は俺か土方さんのどちらかですぜィ」
 「わーってるよ。次に俺だったとしても、後ろから撃つようなまねするんじゃねぇぞ」
 「えっ!?」
 「何驚いてんだオメェは!! むしろこっちのほうがビックリだわっ!!」

 念のためにしといた忠告でいきなり驚きの声を上げられ、マジでやる気だったのかと内心冷や冷やしながら土方が大声でツッコミをいれる。
 でもまぁ、あれだ。沖田が土方をちょくちょく狙うのはいつものことなんで、今更といえばそうなのかもしれないが。
 どっちみち、土方にとっては堪ったものじゃないだろうが。

 そんな真撰組のやり取りをよそに、次の対戦を決めようと文が箱の中に手を突っ込んでいた。
 箱の中から手を出すと、握られていた紙には【四人麻雀】と書かれており、結果的に、残りのメンバー全員で参加する形となったのである。

 桂組は銀時とアオの二人。真撰組からは土方と沖田の組み合わせだった。

 「あー、だめだこりゃ。負けたよオメェ、これは負けたって、うん」
 「あかんよ、銀ちゃん。諦めたらそこで試合は終了や」
 「オメーが言うなぁぁぁぁ!! 安西先生の名言をお前が言うなぁぁぁ!! 不幸体質のお前がいる時点で麻雀で勝てるわけねーだろーが!!」

 もう早速諦めムードの銀時にアオが言葉を投げかけるが、彼はそんな言葉をつむぎだして頭を抱えた。

 麻雀とは、運に強く左右されるゲームである。
 無論、相手の牌を読む技量や、場の空気からどう切るべきかなど、実力も必要なゲームではあるが、何よりも幸運が無ければ話にならないのだ。
 自分の手元に、自分の望んだ牌を手繰り寄せる強運。何よりもそれがこのゲームには求められる。

 さて、その点で考えて、アオがこの勝負にむくだろうか?
 断言しよう。ドキッパリと無理である。彼女の不幸体質は伊達じゃない。
 だがしかし、その自信はいったいどこから来るのか、アオは不敵にふふんっと笑って見せるのだ。

 「心配あらへんよ。うち、麻雀でだけはお姉ちゃんにも負けたことあらへんねんから」

 自信満々にそう言って、彼女は紫が用意した麻雀台に歩いていく。その後姿を眺めながら、銀時は盛大にため息をつく。
 何しろ、彼女の不幸体質はよく知っている。一人で買い物に行かせただけでどこかに傷を負ってくるぐらいだ。その不幸度合いは並大抵ではない。

 「よーするに、それってオメェのねーちゃんがテーブルゲーム系が駄目ってだけなんじゃあ……」

 ポツリと呟いて、彼は仕方ないといった風に紫が用意した麻雀台に座った。
 正直、今でも勝てる気はまったくしないのだが、先に席に座ったアオはというと上機嫌に今にも鼻歌を口ずさみそうな状態だった。
 まぁ、今まで相手がよかっただけなんだとこの対戦で思い知るだろうなんて思いつつ、銀時は対戦相手を睨みつける。
 銀時の真正面には土方。アオの真正面には沖田が座る形になる。

 「テメェにだけは絶対に負けねぇ」
 「そりゃこっちの台詞だコノヤロー。帰ってマヨネーズでも啜るこったな」
 「上等だテメェ」

 お互いに言い合いながら、額に青筋を浮かべて睨み合う。その怒りに染まった視線といい、二人の仲の悪さを如実に表している。
 事実、二人とも似たもの同士なだけあってか非常に仲が悪い。

 「お手柔らかに頼みますぜ、旦那。出来るだけひきつけといてくだせぇ、俺が後ろから仕留めるんで」
 「オィィィィ!! オメェはどっちの味方だァァァァァ!!?」

 早くも裏切り発言をかましてる沖田にたまらず土方がツッコミを入れる。
 その光景を見るだけで、彼が普段どのくらい苦労しているのかがよくわかるというものだろう。
 何しろ、その光景を見てアオが既に土方に対して哀れみのまなざしを向けていたりするぐらいだし。
 不幸の塊である少女にそんな視線を向けられる辺りどうなんだろうとか思わなくも無いが、生憎と試合は待ってくれない。
 ころころと台座にサイコロを転がして、親を決める。

 「お、ウチが親やなぁ」

 どこと無く上機嫌なアオの言葉も、もはや銀時と土方の耳には届いていない。
 二人にとって、目の前の相手こそが倒すべき敵であるのだ。周りのことなどこの際二の次である。
 牌を並べて、自分の手を確認する銀時と土方。そんな中、二人が既に読み合いをはじめているなど知るよしも無く、アオは親であるが故に一番最初にツモを切って―――

 「あ、ツモや」
 『何ィィィィィィィィィィ!!!?』

 そんな二人の意気込みを台無しにするように、自分の手前にある牌を倒したのだ。

 天和―――、と呼ばれる役がある。自分が親であるときに、どんなに安い役でもいいのでとにかく初手で上がる。それが天和と呼ばれる役である。
 当然、初手であがるなどよほどの幸運を持ってしても早々できることではない。運を頼りにした役の究極系。ラッキーマンもびっくりなラッキー役満なのだ。

 そんな役をだ、よりにもよって幸運という文字から一番縁遠い人物が成しえたのである。彼女を知ってるメンバーはそれこそ呆けた表情を浮かべてボケッとしてる。
 それも仕方があるまい。ある意味、宝くじで一億円を当てる確率よりもなお低いと思われるような確率だとみな思っていただろうから。
 何がって? とりあえず彼女が普通に上がることが。



 なおその後、彼女は変わらずありえない幸運振りを発揮し、初手で上がらずとも一手目にリーチにしてダブルリーチになり、最悪でも5順目には上がってしまうのだ。
 結局、彼女の親が動くことなく勝負は決してしまい、お互いに決着をつけることが出来なかった銀時と土方はというとどこか寂しそうに周りに酌をしてもらったとか何とか。

 「……なんで、普段にあの爆運が発動しないのかしら?」

 後にポツリともっともな疑問を霊夢が言葉にしたが、それにこたえられる人物が当然いるはずも無く、真実は闇の中に消えていくのであった。
















 「あら、それではあなた達の仕事は江戸の治安を守ることなのね」
 「えぇ、そんなところです。男ばかりでむさッ苦しい部隊ですがね、俺にとっちゃ宝みたいなもんですよ」

 顔をぼこぼこに腫らした近藤は誇らしそうに、目の前の女性、西行寺幽々子にそう言葉をつむぐ。
 目の前には薄桃色の髪をした女性が扇子を片手に優雅に緑茶を嗜んでおり、彼の話を実に興味深そうに聞いていた。
 その隣には妖夢もいたが、彼女達がこちらをどうこうするつもりが無いのだとわかると、近藤も普通に彼女達と接することが出来るようになっていった。
 まぁ、記憶が戻る代償に、顔はこれでも勝かってぐらいに腫れ上がった近藤の顔は、下手な幽霊よりよっぽど怖い顔になっていたりするが。
 彼の話を聞き終え、幽々子は少し思案すると、くすくすと笑って彼に言葉を投げかける。
 その顔は、悪戯を思いついたような童女のような表情で、それが彼女らしいと、傍にいた紫は苦笑する。
 反対に、その表情が出るときは大抵碌な目にあわない妖夢は逆に顔を青くさせていたが。
 そして、その飛び出した言葉はというと……。

 「ゴリラさん。ウチの妖夢をそちらで働かせてあげてくれないかしら?」
 「……は?」

 そんな、身もふたも無いとんでもない話だった。
 その言葉に驚いたのは近藤だけではない。傍にいた妖夢はもちろん、紫まで驚いた表情をのぞかせている。

 「ゆ、幽々子様!!? ど、どうしてですか!!?」
 「あら、社会勉強にちょうどいいかと思って。あなたも、異世界には興味あるでしょう?」
 「そ、それはそうですが……。しかし、幽々子様の身が……」

 妖夢にとって、幽々子は主君であり守り抜くべきもの。
 その守るべき、いや、守りたい存在から離れるなど、妖夢にとっては納得できないに決まっている。
 しかし、幽々子のいうとおり、彼女自身、近藤たちや銀時たちがいる世界に興味があるのもまた事実なのだ。
 その狭間で揺れ動いている妖夢に、幽々子は諭すような声色で言葉を投げかける。

 「永遠亭のところの兎、社会勉強に銀時のところに居候させるそうよ。それなら、私はこちらの方々にあなたを任せようと思う。きっと、あなたにとっても得られるものが有るはずよ」
 「……」
 「心配しなくても大丈夫よ。朝と夜にはちゃんといてもらうし、いざというときは紫がいるもの」

 ね? と、彼女は紫に言葉を投げかける。
 その言葉に一瞬ぽかんとした表情を浮かべたものの、彼女の真意を理解したのかクスクスと紫は笑って「しょうがないわねぇ」なんて言葉をつむぎだす。
 それで、妖夢は一応の納得はしたのか、悪いとは思ったがやや憮然としながらも言葉をつむぎだす。

 「……わかりました」
 「そう、いい子ね。それでゴリラさん、お返事は? 心配しなくても、妖夢は強いわ。未熟ではあるけれど、あなたが心配するようなことではありませんわ」

 そう問われて、今度は近藤が思い悩む番となった。彼の立場上、そういったことは容易に決定できることではない。
 何しろ、彼らの仕事は文字通り命がけであることも多々あるのだ。強いとは言うが、見た目は神楽と同じぐらいの少女だ。すぐに頷けるものではなかった。
 しかし、対して妖夢の表情は決意に満ちている。決まった以上、最後までやり通すと言う意志の強さを感じる瞳だった。
 それが決め手になったのかはどうは知らない。だが、近藤は表情を緩め、どこか諦めたように言葉をつむぎ始めた。

 「わかりました。彼女には手伝ってもらうことになりますが、いざと言う時は俺が命をかけて守って見せます」
 「あらら、たのもしいわねぇ」

 彼の言葉を茶化すように紡がれた言葉だったが、その言葉には不思議と温かみのある言葉だった。
 そんな言葉に激昂することも無く、近藤は落ち着いた様子で苦笑するだけにとどめた。
 これから忙しくなりそうだと、そんな予感はしたが、同時に退屈しなくて済みそうだと、そんな予感も同時に感じ取っていた。

 程なくして、宴会は終わりを告げ、みな思い思いの場所に帰っていく。
 あるものはいつもどおりの日常に、またあるものはまた違う世界に足を踏み入れる日常に、そしてあるものは、自分の従者が成長することを願いながら。






















 「あれ? みんなどこ? 私このまま放置!? 放置プレイ!? 望むところよ!!!」

 約一名、不良の天人さんがみんな帰って行った後もぐるぐる巻きのまま放置されていたりするが、そのことに犯人である竜宮の使いが気がついたのが夜中の二時だったという。






 ■あとがき■
 ども、皆さんこんばんわ。これにて、太陽の畑の宴会は終わりになります。
 妖夢には真撰組にいってもらうことになりました。まぁ、色々と問題あるような気もしますが、とりあえずこうなりました。
 麻雀の話はもうちょっと書き込む予定だったんですが、尺の都合でものすごく短くなりました。
 もう色々詰め込みすぎて、書いてる本人が何がなにやらといった感じですが……いかがだったでしょうか?

 感想に銀魂のアニメは見ているのかとか、東方はどのくらいやっているのかという質問があったので、この場に書こうかと思います。

 ■銀魂
 アニメ△(見れるときは見るけれど飛び飛び。でも見てることは見てる)
 原作 △(現在単行本が11巻まで手元に。現在買い揃え中)

 ■東方
 旧作シリーズ×
 紅魔郷 △(体験版のみ)
 妖々夢 △(体験版のみ)
 永夜抄 ○(妹紅倒せないけど)
 萃夢想 ○
 花映塚 ○
 風神録 ○(EXいけてないけど)
 緋想天 ○
 地霊殿 ×(自分のPCで起動できない)

 と、こんな感じでしょうか? よく今まで書いてこれたなと思うほど悲惨な状態ですね^^;
 東方よろず屋を描き始めた当初とか単行本持って無かったですし…。
 この程度でこんなもん書いてんじゃねぇ!! などと後ろから刺されそうですな。特に銀魂のほうは^^;

 ではでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第五話「半霊と風祝が感じた異世界の生活」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/09/14 18:44


 真選組の屯所。そこは武装警察真選組の拠点であり、多くの隊士が寝泊りしている場所でもある。
 そんな場所の一室、隊士全員が出席した朝の会議にて、新しく真選組として働くこととなった彼女は、彼らの前で深々と礼をする。

 「今日から一緒に働くことになった魂魄妖夢です。皆さん、よろしくお願いします」

 誰もが、彼女のその行動にぽかんとしたことだろう。何しろ、外見は年端もいかぬ少女なのだ。無理も無い。
 だがしかし、彼女の腰には大小二本の刀。その服も、間違うことなき真選組の正装だ。多少大きかったのか裾を曲げて丈を合わせてはいるけど。
 普通なら、冗談だと思うところだが、残念ながら彼女の両側には局長である近藤勲と、副長である土方十四郎の姿もある。
 局長はともかく、あの鬼の副長がこんな冗談をかますとは到底思えなかった。

 まぁ、ある意味一番硬直の原因になったものといえば、妖夢の傍でふよふよと浮遊している半身の人魂だったりするのだが。
 
 (あの、すみません。なんか皆さんさっきから黙ったままなんですけど、もしかして幽霊とか駄目なんですか?)
 (……いつぞやの幽霊騒ぎで大半がダウンしたな)
 (駄目じゃないですか!! うわ、どうしよう……)

 小声で話してみれば土方のあっさりとした返答に、さすがに慌てる妖夢。
 平たく言えば、自分の半身も一緒にこの場に現れたこと自体が既に失敗みたいなものだ。あらかじめ聞いておけばよかったと後悔するが、もう後の祭りだ。

 「彼女は半人半霊という極めて珍しい生い立ちでな、ここに浮いている人魂は彼女の半身だ。怖がる必要は無いぞ」
 「近藤さん、それは微妙にフォローになってねぇ気がする」

 近藤がフォローのつもりで言葉を発するものの、土方の言うとおりあんまりフォローになっていない。
 だってこの発言、完璧にふわふわ浮いているものが幽霊の一種であると公認しちゃったようなものなのだから。
 案の定、恐る恐るといった感じで隊員の一人が控えめに挙手をする。

 「局長、彼女が真選組に入隊するのは間違いないんですか?」
 「おう、そうだぞ」

 そして特に何も考えずにあっさりとそれを認めてしまう近藤勲。やっぱり彼はもうちょっと頭のほうを武装したほうがいいのかもしれない。色々と。
 この後の状態を想像して、妖夢と土方が同時にため息をついて、憂鬱な気分を隠しもしないで頭を押さえた。ここまでの動作が見事にぴったりなあたり、この二人は気が合うのかもしれない。
 そして、案の定、隊員たちが騒ぎ立て始めたのだ。

 「マジでか!!」
 「ついに真選組にも女の子が!!」
 「いや、でも幼すぎねぇ?」
 「ばっか、あんだけかわいけりゃ問題無しだって!!」
 「そうそう、ムサッ苦しいだけよりよっぽどいいぜ!!」

 『は?』

 そう、騒ぎ立て始めた。土方と妖夢が予想していた騒ぎとは斜め四十五度ぐらい違う騒ぎだが。
 さすがにその反応は予想外だったのか、思わず目を点にしてその大騒ぎを見つめる二人。
 何しろ、二人とも全員が怖がって大騒ぎするんじゃないかと思っていたのだ。まさか大喜びするとは夢想だにしていなかったのである。
 近藤は満足そうに頷いていたりするが、やっぱりこの人はなにも考えていなかっただけなんだろうことは容易に想像がつく。結果オーライではあったが。
 が、いい加減聞くに堪えない単語も飛び出してきたし、そろそろやかましくなってきたところで……。

 「うるせぇぇぇぇぇぇぇぁぁ!!!」

 土方がぶち切れた。それも盛大に近くにいた隊士を思いっきり周りに投げつけるという恐ろしく乱暴な方法で。
 盛大に上がる悲鳴。それにともなって上がる壮大な人が倒れていく音。その騒音を作った張本人はというと、もう早速刀を抜いて睨みをきかせていたりするのである。

 「会議中に私語をしたやつぁ切腹だって前にも言っただろーが。俺が介錯してやるから全員前に出ろやコルァ」

 怖い。とことん怖い。そりゃもうヤクザだって素足で逃げ出すんじゃないかっていう迫力と怖さがにじみ出ている。
 そんな光景を、冷や汗流しながらぽつーんと眺めているのは妖夢で、その隣にはしっかりと近藤の姿もある。

 「あの、ここっていつもこんな感じなんですか?」
 「まぁ、いつもこんなもんだと思うぞ?」

 マジですか? などと妖夢は思いもしたが、思ったところでこの現状がどうにかなるわけでもないので、とりあえずため息を一つついておく。
 それと同時に、これから先一緒に働くことになるであろう隊員が一人も減らないようにと適当に祈りながら、彼女は今頃二度寝でもしていそうな主人に想いを馳せる。

 (幽々子様、私の仕事初日は、なんかいきなり前途多難です)

 想いを馳せるという言葉とは裏腹に、その想いは想像されるような悲哀なんぞには満ちていなかったけれど。















 
 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第五話「半霊と風祝が感じた異世界の生活」■













 さて、ところ変わりここは幻想郷の妖怪の山の頂上に位置する守矢神社。
 そこで風祝としての(といっても巫女とあまり変わらないが)仕事を終えた東風谷早苗が、ふぅっとため息を一つついて机に突っ伏した。
 その光景はさすがに予想外だったのだろう。すぐ傍にいた八坂神奈子と守矢諏訪子がぎょっとした表情を浮かべ、恐る恐る早苗に声をかける。

 「ど、どうしたのさ、早苗?」
 「そ、そうよ。何かあったの?」

 多少どもってはいたが、その声には心配という気持ちが宿っていることは聞けばわかる。
 何しろ、彼女達にとっては早苗は自分の娘みたいなものなのだ。諏訪子に至っては早苗のご先祖様だ。早苗はそのことを知らないが。
 その早苗が途端にこんな行動をとれば、さすがに心配もするし、驚きもする。
 そんな神様二人に対して、早苗は顔を上げることも無く、机に突っ伏したままもう一度ため息をつく。
 生真面目な彼女にしては随分と珍しい反応である。

 「大したことじゃないんですけど、昨日銀さんたちが来たときに銀さんと神楽ちゃんが向こうのドラマの話をしていたから……。つい、むこうのことを思い出しちゃって」
 「むこうって、外の世界?」
 「はい、諏訪子様。いつも見てたドラマ、どんな終わり方したんだろうとか思っちゃうと、気になってしまって」
 「あー……」

 あいも変わらず、机に突っ伏した状態のままの言葉に、神奈子が困ったような表情であさってのほうを向く。
 もともと、東風谷早苗は幻想郷の外の世界の住人だ。つまり、テレビやら携帯電話の恩恵を受けたバリバリの現代っ子なのである。しかも、もともと彼女は学生だ。
 そんな彼女が、自分の意思で神奈子たちと一緒に幻想郷に移り住み、風祝として彼女達と共に生きていくことを選んだのだ。その辺りには、常人には理解しがたい葛藤もあっただろう。
 その辺りに、神奈子たちにとっては彼女に対する負い目を感じることもある。が、それはこの際置いておこう。

 生まれたときからあったテレビの存在。彼女だって女の子だし、何より人間だ。見たい番組もあったし、楽しみにしていたドラマもあった。
 現代人にとって最大の娯楽とは何か? 誰もがまず「テレビ」と答えるだろう。彼女もそんな一人だったに違いない。

 「あぁ、こういうこと思っちゃいけないのはわかってるんですけど、テレビが恋しいです」
 「テレビかぁ。今思うと銀時の世界って江戸時代ぐらいなのに技術発達しすぎだよね」
 「そういえば、銀時たちの世界にはしっかりテレビも車もバイクもあるらしいからねぇ」

 そこまで呟いて、何事か思いついたのかピタッと硬直する三人。
 妙案でも思いついたのか、おもむろに早苗が顔を上げて手のひらをポンッと叩く。こう、頭の上に電球がぴかーんっとついたかのような感じである。



 『その手があった!!』



 ものの見事に三人同時に言葉が唱和する。
 一体何を思いついたのか、何を考え付いたのか、聡明な皆さんならお分かりいただけることだろう。
 考えが至れば善は急げだ。彼女等三人はすぐさま八雲紫を探すためにばらばらに家を飛び出した。

 どうしてって? 平たく言えば守矢神社から直通で銀時の世界のよろず屋に繋いで道を作ってもらうためである。
 ちなみに、この後。奇跡的にもすぐさま八雲紫は見つかって弾幕勝負の末、意外にも早く道が作られることになったのだが、それはこの際余談である。

 後に生真面目な性分の東風谷早苗さんはこう語る。



 神様二人掛かりは大人気ないと思うんです。




















 「え? じゃあなんですか。テレビ見たさにこっち来たんですかあんた等」
 「……まぁ、お恥ずかしながら」

 お茶菓子を用意しながら呆れたように言った新八の言葉に、少々顔を赤くしながら早苗が言葉を紡いでうつむいた。
 ここはよろず屋。今現在ここの主はジャンプを買うために出払っているため不在。神楽も定春をつれて居ないし、鴉天狗の射命丸文もネタ集めの為にどこかに飛び去ってしまった。
 つまり、ここに残っていたのは新八と鈴仙、そして天子だけだった。

 そこに現れた風祝と神様二人とスキマ妖怪。何ゆえか所々ぼろぼろだったスキマ妖怪だが、その理由を新八は知らない。
 鈴仙と天子はうすうす感づいているようだったが、何も言わない辺り、それを言うつもりはないのかもしれない。

 「あんたにしては、こっぴどくやられたわねぇ」

 新八たちには聞こえないように、小声で紫に話しかける天子。その声色には、純粋に意外だという気持ちが込められており、紫はそれに「そうね」と短く答えるだけにとどめておいた。

 「まったく、いきなり現れて弾幕勝負吹っかけて、二人掛かりだなんて、酷いですわ」
 「いいじゃん。あんたには式がいたでしょうに」
 「あなたたちを相手にするには藍ではねぇ。せめて幽々子だったらもう少し違ったのでしょうけど」

 諏訪子の返事に少々ため息を交えながらも、なんだかんだで楽しそうにテレビに夢中なスキマ妖怪。
 神様二人にスキマ妖怪、そして天人がテレビに釘つけになっているさまは、なかなかお目に見れるものじゃないだろう。
 ちなみに、四人が見ていたのはビデオで録画されていた『渡る世間は鬼しかいねェチクショー』とかいうドラマである。
 自分の居た世界と微妙にニアミスする題名やら内容やら登場人物やらに、早苗が微妙な顔をしていると箪笥の一番下の段があいてひょこっと青い鳥の妖怪、アオが顔を出した。

 「銀ちゃ~ん……って、あれ? 風祝のねーちゃんや」
 「あなたは、確かアオさんでしたっけ?」

 それほど接点があったわけではない二人ではあったが、性分ゆえか早苗は彼女の名前をしっかりと覚えていた。
 そのことに満足しながら、アオは頷いて「そうやでー」と肯定する。
 どこか緩いほわっとした表情を浮かべるアオに、早苗がひとまず挨拶をしていると、ころあいを見計らって新八が言葉を投げかける。

 「どうしたの、アオちゃん。今日はいきなり」
 「んー? 知り合いの白狼天狗様がウチとよろず屋のみんな宛の手紙持ってきてくれはったんよ。せやから、どうせなら一緒に見ようと思うてんけど……銀ちゃんはおらへんのやね」

 辺りをきょろきょろと見回しながら、少々残念に思って言葉の後半が小さくなっていく。
 随分表情豊かな人だなァと思いながら彼女を眺める。なんというか、その表情の豊かさはちょっとした小動物のようにころころとよく変わる。
 まぁ、喋ってる姿を見ると頭はだいぶ緩そうな感じではあるが。

 「誰から?」
 「ウチのねーちゃん」

 ニコニコ笑顔で天子の疑問に即答するアオ。
 新八も天子も彼女の姉のことは知らないが、それゆえに興味も湧くというものだ。以前から、アオの口の端々から姉の存在は感じ取れたが、どうやら随分と破天荒な妖怪らしい。
 神様二人とスキマがテレビドラマのピン子の活躍に熱中している中、新八と天子の興味はどうやらその手紙に興味が移ったようだった。

 「お姉さん、ですか?」
 「うん、ちょっと厳しいお姉ちゃんやけどね」
 『ちょっと?』

 早苗の言葉になんでもないことのように答えたアオの言葉、幻想郷にいた頃はちょくちょく彼女の口からポロッと零れる姉の行動は、ちょっと厳しいどころの話ではない。
 故に、新八、天子、そして鈴仙の言葉が見事に疑問系でハモる。
 普通一般的に、空を飛べない妹を滝壺に重石付でノーロープバンジーさせたり、弾幕勝負の巻き添えを食らわせたり、プロレス技の練習台にするような人を『ちょっと』とは表現しない。
 むしろ、人間はそれを『外道』という。

 「しゃーないなぁ。今みんなで見てしまおうか。どーせ、銀ちゃんのことやからどこかで賭博のひとつでもしとるんとちゃうか?」
 「あー、ありえる。あの人ならありえる。今頃、どこかのパチンコにでも行ってるんじゃないかな」
 「……パチンコまであるんですね、この世界って」

 冷や汗流しながら、早苗はポツリと呟いて、もし、この世界が自分が住んでいた年号にまで時代が進んだら技術はどうなるのだろうとか、そんなとりとめもないことを考える。
 まぁ、凄いことになるのは目に見えてるけど。何しろ、技術だけならここは早苗がいた幻想郷の外の世界よりも上である。
 だって、こっちには宇宙船だって存在してるのだし。ビーム兵器だって余裕である。そのうち巨大ロボットでも作ってそうな勢いだ。
 ……まぁ、下の階のお登勢さんが経営するスナックにはアンドロイドがいたりするけど。

 「ほい、これみんな宛のやつ」
 「うん、ありがとう」

 ひとまず箪笥から出てきて手紙を新八に渡し、アオも壁に寄りかかって自分の分を楽しそうに開け始めた。
 新八が手紙を開け始めると、天子と鈴仙も気になるのか彼の後ろに集まる。それに混じって、気になったのか早苗も後ろに回りこむ。
 いけないとは思っていたが、どうしても好奇心のほうが勝ってしまったらしい。少々の罪悪感を覚えながら、文体を目で追っていく。





 『よろず屋の皆様へ』

 【初めまして。私はアオの姉のソラと申します。風の噂で、あなた方がアオの身を引き取って、面倒を見ているとお聞きしました。

 不出来な妹ではありますが、私にとってはかわいい妹です。あなた方には感謝しても仕切れません。

 心を鬼にして、妹にはこの幻想郷を見て回ってほしいと追い出しはしましたが、人里で元気にしていると聞いて安堵しています。

 まことに身勝手な願いではありますが、これからも妹のことをよろしくお願いいたします。

 機会があれば、皆さんともお酒を飲み交わしたいものですね。その時はまた、改めてお礼をさせていただきたいと思います。

 それでは、またいつの日か会える機会があれば。

                                            ―――ソラ】








 「……あれ? なんかイメージが随分と違うような」
 「確かに。ものすごく礼儀正しいじゃない」
 「本当だね。妹思いのいい人だ」

 鈴仙、天子、新八の順に言葉が紡がれ、なんと無しに三人で苦笑する。
 確かに、手紙の内容を見れば丁寧な言葉使いで、ところどころ妹を心配しているのが見て取れる。
 アオの方を見れば、真剣に手紙のほうを凝視したまま動かない。久しぶりの姉の言葉(手紙だけど)に、姉との思い出でも思い出しているのか……。
 想像してみても、その胸のうちは彼女だけにしかわかるまい。

 (立派な人ですね。それに、すごく優しい)

 それが、手紙を見た早苗のソラという人物の総評だった。
 それを表に出すことは無かったが、早苗はそんな姉を持ったアオという少女を少しうらやましく思う。
 一体、彼女はどんな気持ちで、自らの姉が送ってくれた手紙を読んでいるのだろう。どんな気持ちで、その手紙を読んでいるのだろう?
 気になってしまえば、ソラという人物が自分の妹に宛てた手紙というのが気になって仕方がない。
 早苗はそろそろとアオの隣に移動する。ゆっくりと、手紙に熱中している彼女に気付かれないように、ゆっくりと手紙を覗き込んで―――



 【死ネッ】



 A4サイズの紙にデカデカとはみ出す勢いで書かれた達筆なその文字を見て、見なきゃよかったと心底後悔することになったのであった。
 一瞬の硬直のあと、早苗は何も言わないまま数歩下がって先ほどの光景をスルーする。
 何も見ていない。見ていないったら見ていない。見ていないってことにしておいてくださいお願いします。

 「一度でいいから会ってみたいね、ソラさんに。アオちゃんもそう思うでしょ?」
 「うん! そうやねぇ!! その時がごっっっっっつぅ楽しみやわぁっ!!!!!!!!」

 新八の純粋に会ってみたいという思いの乗った言葉に、アオは額に青筋浮かべながら満面の笑顔でグシャッと手紙を握りつぶしながら声を大にして答える。
 その光景を見ても、早苗は何も答えない。というか何もいえない。乾いた笑みを浮かべたままその光景を眺めていることしか出来ないでいた。
 感動を覚えていた心が徐々に冷めていくのを感じながら、引きつった笑みを浮かべたまま早苗は思う。
 とりあえず、アオのお姉さんにはさっきの感動を返せ!! と全力で抗議したい気分だったが、残念ながら件の人物は妖怪の山のどこに棲んでいるのかもわからないのだから始末に終えない。

 ちなみに、このあと帰ってきた銀時は見事にパチンコで金を使い果たし、新八と鈴仙からダブルパンチを貰っていたりするが、それはこの際余談ということにしておこう。
















 「あのすみません。おごってくれるのは嬉しいんですが、このマヨネーズの固まりなんなんですか? 土方さん」
 「土方スペシャルだ。遠慮すんな、妖夢。とっとと食っとけ」
 「いりません断固拒否します。すみませーん!! 掛けそばおねがいしまーす!!!」

 そのころのとある定職屋での土方と妖夢、こっちはこっちで色々大変そうな一コマだった。




 ■あとがき■
 最近、早苗さんの株が急上昇中。ども、白々燈です。
 今回はいろいろご都合主義な場面が多かったですが、いかがだったでしょうか?
 なんか、今回は色々と賛否両論で分かれそうな感じですね^^;

 さて、感想のほうで好きなキャラは誰ですか? という質問をいただきましたので、この場を借りてお答えしたいと思います。

 東方側はいろいろいるんですけど、特に天子や幽香、文とか好きですね。最近は早苗や鈴仙も。あとルナチャイルドとか。
 銀魂側はやっぱり銀さんと土方ですかねぇ。女性キャラだとわりと陸奥さんが好きだったりします。

 それぞれやっぱり性格に惹かれた部分が多いですね。特に銀魂側のほうはその辺強く出てるかと。

 それでは、今回は少々短いですけど、この辺で。

 ※あんまりにも誤字が多かったので修正しました。
 誤字のご報告、ありがとうございます。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第六話「子供だからこそわかることもあるよーな無いよーななんかそんな感じ」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/09/24 00:04
 ※少しだけ地霊殿のネタバレがあるのでご注意ください。






 日の光がまだ高く、さんさんと輝く太陽は容赦なく照りつける。
 時期的に言えばまさしく夏真っ盛り。それはここ、幻想郷も変わらない。

 平たく言えば、暑い。見もふたもなく表現すればむしろ熱い。でも厚くは無い。

 そんな体感温度をほこる外の灼熱地獄の中、いい感じに頭がショートしかかっている妖精の少女、ルナチャイルドはボーっとした表情のままふらふらと浮遊していた。
 彼女は月の光の妖精。そもそもの話、太陽の光はむしろ苦手な部類に入る。
 こんなとき、彼女の友人であるサニーミルクは暑い暑い言いながらも元気にはしゃぎ回るのだろうが、生憎と彼女はそうも行かない。

 「おかしい」

 ポツリと呟くが、彼女の呟きを聴いているものはいない。いつも三人組で行動することの多い彼女達だったが、今は彼女一人だけだ。
 ちょっと些細なことで彼女達と喧嘩してしまい、結果あても無くふらふらしていたルナであったが、もはやそんなことなど頭に残っていない。

 「おかしい」

 また呟く。しかしながら、やはり彼女の言葉に答えてくれる人物はいないわけで、この狭くも広い幻想郷をふらふらと彷徨っている。
 憂鬱な気持ちを吐き出すように、はぁっとルナはため息を零す。サニーやスターのことはもはや心配にも値しない。
 なんだかんだで彼女達との付き合いは長いのだ。時間をおきさえすれば、またいつもの様な関係に戻れることはわかっているのだし。
 第一、サニーもスターも、そしてルナ自身も、そういつまでも引きずるような性格などしてはいない。

 では? 彼女を憂鬱にしている原因はなんなのか? それは実に単純明快で、誰もが抱えるものが原因だった。

 「なんで、今年はこんなに暑いのよ」

 そう、彼女の言葉の通りに、彼女を悩ませているのはこの灼熱とも表現するべき異常な暑さだった。
 昨今、外の世界で話題になっている地球温暖化現象。エルニーニョだかミョルニールだかゴルディオンなんたらだか知らないが、この異常な暑さは勘弁願いたい。
 話に聞けば、人里では何人か熱中症で倒れたらしいし、油断していると妖精でもぶっ倒れそうな勢いだった。

 とりあえず、どっかで涼みたい。もう本当に。いっそのことアオが経営しているよろず屋にでも足を運ぼうか?

 そこまで考えて、ふとある言葉を思い出す。
 それはまだ銀時たちが幻想郷にいた頃、ツッコミ担当の新八から聞いた扇風機という涼むための道具。

 「そういえば、向こうのよろず屋とつながってるのよね、アオの家って」

 汗だくになりながらも、ニヤリと自分の考えに口元がつりあがる。
 避暑地としてはこの上ない場所だろう。涼むための道具はあるし、少なくとも今この場よりは涼しいに違いない。
 そうと決まれば話は早い。ルナはすぐに方向転換をして人里に向かって飛行する。

 まぁ、問題といえば、あの場所が今どんなカオスな空間になっているかわからないということだったが、それは大丈夫だろうと思考する。
 何しろ、幻想郷にいた頃のカオスピーク時を目の当たりにしている。ちょっとやそっとじゃ動じない自信があった。
 だから戸惑いは無い。視界の先には、徐々に徐々に人里の全景が近づいていた。










 
 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第六話「子供だからこそわかることもあるよーな無いよーななんかそんな感じ」■













 ……そう、思ってた。つい数分前までは。
 彼女は箪笥の中からヒョコッと顔を出し、その光景を目の当たりにして愕然とした。

 彼女の視線の先にあったものは……。



 「鈴仙さん。この記事こうしたいんですけどどう思います?」
 「うーん、悪くは無いけどもうちょっと捻ったものがほしいかも」

 新聞の記事のことで相談しあう鴉天狗と月のウサギ。



 「……」

 頭からまるごと定春に噛み付かれ、何ゆえか死体のようにぐったりとしたまま動かない天人。



 『カトケンサッンッバァァァァァァァァ!!!!』

 ノリノリでテレビに釘つけになったまま、机を踏み台にして大声でハモる神様二人と吸血鬼姉妹と夜兎族。その衝撃で机が大破。



 「それで、ここの調理はこう手を加えるのがこつなの」
 「なるほど、勉強になりますよ咲夜さん」
 「あ、新八さん。ここをこう工夫すると味がしみておいしいんですよ」

 家事のことで見事に意気投合している瀟洒なメイドと駄目眼鏡と風祝。



 ズドォォォォォォォォン!!!
 「銀時様、今日こそ家賃を払っていただきます」
 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ玄関がァァァァ!!? たまァァァァァァ、テメェ玄関吹っ飛ばして家賃徴収しに来るんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」

 無残にも粉々になる玄関。そして進行してくるターミネーターに大絶叫を上げる天然パーマ。



 そんな光景を一部始終視界に納め、ルナは自分の考えがいかに甘いかを知った。
 数分前までの自分を是非とも金属バットで頭をカチ割りたい気分に駆られて現実逃避に走った彼女を、誰が責められようか?

 そこは想像も及ばないカオスだった。混沌だった。ある意味ゲテモノが入った闇なべのほうがまだ上品な感じだ。

 早速後悔した。この場に来たことを心底後悔した。目的の扇風機はすぐそこにあるというのに、あろうことか先ほどのターミネーターの強襲でスクラップと化しているのが視界に映りこむ。
 不意に、目に熱い何かが込み上げてきて、勢いよくブンッと天井に視線を向けた。是非ともこの涙を蒸発させてほしい。今はこの暑さを生み出す太陽がどうしても恋しかった。
 なんというか、今の彼女は精神的に一杯一杯だった。か細い意識を細い細い糸で繋ぎとめ、その上を歩いているかのようなそんな錯覚さえしてくる。

 「うにゅ? さっきの轟音何?」


 そして台所から現れたトドメはこれ以上に無くパンチが効いていた。少なくとも、綱渡りをしていたルナの意識を叩き落すぐらいには。


 プッツンと意識の途切れたルナは前のめりにぶっ倒れ、丁度箪笥の引き出しに引っかかるように気絶することとなる。

 そんな彼女にトドメをさした張本人はというと、ゆで卵を片手に、目の前の惨状をイマイチ理解できていないのかこてんっと首を傾げるだけにとどめる。
 核融合を操る程度の能力を持った霊烏路空は、まぁいいやと適当に納得してから用意してもらったゆで卵をぱくつくのであった。

















 さて、そんな微笑ましくも恐ろしいことがあってからというもの、彼女等は重大な任務を受けて、この暑っ苦しい中、幻想郷の魔法の森へと続く道を歩いていた。

 「……ねぇ、これってあのたまとかいう奴がやるべきことなんじゃないの?」

 不満たらたらなルナの言葉に、付き添っていた早苗と新八は思わず苦笑する。
 結局あのあと、たまは銀時から家賃を徴収するとあっという間にお登勢さんのところに帰っていった。
 あとに残ったのは粉々になった玄関と扇風機。そんな状態でも我かんせずを貫いたテレビ組は凄いと思う。メンツがメンツだけど。
 そんなわけで、彼女達が請け負った重大な任務というのがすなわち、扇風機の購入である。

 残念ながら銀時たちの世界ではクーラーが主流のため、電気店を回っても望み薄だという話が上がった。
 そこで早苗が提案したのは、それなら幻想郷に確実においてある場所に行ってみてはどうか? という提案だった。

 そう、外の世界の道具がおいてある場所。すなわち香霖堂である。

 その場所の事を聞いて、銀時は不思議と納得した。何しろ、銀時は幻想郷にいたときはそこでジャンプを買っていたのだし。
 そして香霖堂に赴くメンバーはじゃんけんで決定され、今現在に至るというわけだ。

 「まぁまぁ。ほら、言ってる間に見えてきたんじゃない?」
 「えぇ。あそこですね」

 新八のいうとおりにそちらに視線を向けてみれば、魔法の森の入り口付近にぽつんと建っている香霖堂が見えて、早苗が同意する。
 二人の言葉につられて、ルナはその場所にうっとうしそうな視線を上げて、再び深いため息をついてのろのろと歩き始めた。
 いい加減この暑さにはうんざりだ。その扇風機とやらの恩恵を早く受けたい。
 そんな思いを燃料にして、ルナは重い足を引きずるように歩いて目的の場所にまで一直線だ。

 というよりむしろ、先ほどのあの光景を忘れたい。あのカリスマのかけらもねぇ神様と吸血鬼の奇行が今も脳裏に焼きついて離れない。軽くトラウマにすらなりつつある。
 つーか誰だ、カトケンって。

 憂鬱な気分のまま、香霖堂の入り口のドアを押し込む。カランカランという独特な音がなり、薄暗い室内が視界に飛び込んでくる。
 よくわからないものが乱雑した店内。そのカウンターの向こう側に、彼、白髪に眼鏡をかけた男性、森近霖之助の姿があった。

 「おや、君は守矢神社の。そちらは新八君と、妖精か。随分と珍しい組み合わせだね」
 「あはは、お久しぶりです、霖之助さん」

 新聞に目を通していた霖之助がこちらに視線を向け、新八は苦笑しながらそんな言葉を返していた。
 幻想郷にいた頃は、銀時につれられてよくジャンプを買いにいくのに手伝わされたものだ。
 最近は元の世界に戻り、それ以来あっていないので久しぶりといっても過言ではないだろう。

 「それで、今日は何をお求めかな?」
 「えぇ。実は扇風機が壊れてしまって。今日はそれを買い求めに来ました」

 新聞を折りたたんで直しながら紡がれた言葉に答えたのは、傍にいた早苗だった。
 すると霖之助はしばらく考え込んで指を指すと、そこにはいくつかの扇風機が並べられていた。
 軽く会釈をしてそちらのほうに歩いていく早苗と新八をよそに、ルナはというと室内にいるおかげで少し気分が回復してきたらしい。
 その分、彼女は店内のガラクタのような場所をじっと眺めていた。いや、正確に言えば小さな道具の集まりというところか。使い方がわからなければガラクタとかわらないだろうけど。

 そんなガラクタの山の中で、ひとつ、ひときわ眼を引くものがあったのでそれを手に取った。

 それは、犬の顔の形をした薄っぺらい何かであった。中央には液晶画面があり、デザインそのものは非常にかわいらしい。

 「気に入ったのかい?」
 「え? あ、うん」

 唐突に声を掛けられ、ルナは少々言葉に詰まりながらも何とか返答する。
 そんな様子に苦笑しながら、霖之助はさらに言葉を続けた。

 「それはあげるよ。初回限定でのサービスだ。どうせお金は持っていないんだろう?」
 「いいの?」
 「あぁ、かまわないよ。その代わり、次からは客引きをするなりお金を持ってこの店を訪れるようにして欲しいとは思うけどね」

 何を考えているのかは知らないが、それだけを呟いて、霖之助は今度は早苗たちに言葉を投げかけ始める。
 まじまじとその光景を見詰め、そのあとに自分の手にあるその道具に視線を向ける。
 ご丁寧に、裏ッかわには使用方法もちゃんと書いてあった。そして同時に、それがどういう道具なのかを知ることにもなったのだけれど。

 彼女が手にした道具。それは、動物が何を言っているのかわかるという道具であったのだった。

 (あ、なんか面白そうかも、コレ)

 動物が何を言っているのかわかる。それはすなわち、あのよろず屋の巨大な犬の言葉がわかるというものだ。
 あのつぶらな瞳のかわいい犬が、一体何を考えているのか、それはほかのメンバーも知りたいところだろう。
 特に、しょっちゅうあの犬にもふもふしている吸血鬼姉妹は。
 言葉に甘えるように、ルナはその道具をポケットにしまう。後に、その道具がどんな惨状を生み出すのかも知らずに。























 「と、そういうわけで。この道具を使えば定春が何を言っているかわかる優れものなのよ!!」

 一体どこからそんな自信がわいてくるというのか、どこか偉そうにそんなことを言う妖精。
 しかし、その事に気分を悪くするわけでもなく、その道具の効果についてあるものは納得し、あるものは感心し、あるものは興味津々に、そしてあるものは顔を青くさせたような気がする。
 まぁ、その顔を青くさせた人物はというと、その道具にいい思い出がないよろず屋メンバーであったが。

 「止めといたほうがいいと思うけどな、僕は」
 「新八ー。そんなことはイイから、こっち直すの早く手伝え」
 「ほら、とっとと手を動かすアル眼鏡。そんなんだから眼鏡って言われるネ眼鏡」
 「オィィィィィィ!! 眼鏡眼鏡連呼すんじゃねぇよチクショォォォォォ!! 手を動かせばいいんだろコノヤロー!!!! 粉々になるまで動かしてやんよォォォォ!!!」

 やけっぱちに叫びながら、ギーコギーコと木材をのこぎりで削り始める新八。彼らは現在、テレビに熱中しすぎた約五名に破壊された机を直す真っ最中である。
 新しい机を購入する余裕は、残念ながら今のよろず屋には存在しない。おととい、どこかの誰かさんがパチンコでお金を全額摩ったために。
 まぁ、彼らもただ単に、あの犬が何を言うかわからないというか予想がつきすぎて困るので、早い段階で現実逃避しているだけの話なのだが。

 「定春ー、何か喋ってよ」

 一番手は天子らしい。定春に話しかけて見るが、何もしゃべらない。そんな中、ほかのメンツはじゃんけんをしているあたり、この順番はじゃんけんで決めようとしているらしい。
 何も知らないって怖いよね。みんな楽しげにじゃんけんしているのだから。

 そして当の定春は何も喋らない。もともとマイペースな定春だ。彼女達の都合で喋るべくも無い。
 んでもってだ。超の付く我侭な性格をしている天子が、この自分の都合で喋ってくれない定春に多少の怒りを覚えるのはある意味必然だったわけで。

 「ほら、喋ってってば」

 ちょっと語尾を強め、軽く鼻先をはたいて見せるが、正直コレがまずかった。というかむしろ力加減を間違えた天子が悪いのかもしれないが。

 「わぎゃぁっ!!」

 とうとう定春が彼女の要望どおりに吠えた。同時にボディブローのおまけもついてきたが。
 ヅドムッ!! というワリとしゃれにならない轟音が部屋中に響き、直撃を受けた天子の手から翻訳機が零れ落ち、ズシャリと仰向けに倒れこむ。
 ビクンッビクンッと痙攣する彼女の表情にヤバ目な恍惚の笑みが浮かんでいたが、みんなしてそれをスルーする。
 よろず屋にいたってはいつか見たようなその光景を見なかったことにして日曜大工に熱を入れる。完全な現実逃避だ。

 そして、零れ落ちた翻訳機をレミリアが拾い、その翻訳機に表示された文字に視線を向ける。

 [いてぇなゆとり教育が!! あんま調子に乗ってるとミンチにした後で動物愛護団体に訴えるぞコノアマッ!!]

 「……あってるっていえば、あってますわね」
 「えらく黒い発言してるのは気のせいかしら?」

 後ろから覗き込んで呟いた咲夜の言葉に、レミリアが冷や汗流しながら定春に視線を向ける。
 あのつぶらな瞳のどこにそんな暴言を吐き出すような思考が存在するのか。世の中って末恐ろしい。

 「お姉さま。今度は私よ」
 「あ、ちょっとフラン!!?」

 レミリアの静止の声も聞かず、フランは彼女の手から翻訳機を剥ぎ取って定春の前に立つ。
 未知の体験に期待を膨らませ、彼女はつぶらな瞳の定春に言葉を投げかけた。

 「定春は、私のことどう思ってる?」
 「わんっ!」

 今度は素直に鳴き声を上げた。先ほどの天子とは雲泥の差である。
 ピピッと電子音が鳴り響き、フランはそちらのほうに視線を向けると、そこには先ほどと同じように文字が浮かび上がる。

 [友達]

 その表示が出た瞬間、ぱぁっと太陽のような満面の笑みを浮かべて、フランは定春の首元に抱きついた。
 その拍子に翻訳機が零れ落ちたが、そのことを気にかけることも無く、フランは上機嫌に定春に頬刷りをする。
 そんなほほえましい光景をぼんやりと眺めながら、日曜大工をしていた銀時がポツリと言葉を漏らす。

 「新八くーん、どうして俺たちとフランとで対応が違うのかなー、定春は」
 「銀さん、それは多分純真な心であるか否かですよ。少なくとも僕等は汚れに汚れてしまったっていうことでしょう」
 「馬鹿いっちゃいかんよ新八君。銀さんの心は純真ですよ~、コレ。パチンコの台座の前で純真な気持ちで大当たりを願ってたんだぞー、俺」
 「どの辺りが純真!!? パチンコ台の前って時点で薄汚ぇ欲望が丸出しじゃねぇかァァァァァァ!!」

 銀時の言葉に納得できないものがあったのか、新八は大声でツッコミを入れる。まぁ、家計を預かる彼のみとしては聞き捨てなら無い言葉ではあっただろうけど。

 そんな彼らの恒例ミニコントはさておき、今度は諏訪子が翻訳機を手にして言葉を投げかける。

 「それじゃ、定春は私のことはどう思ってるのかな?」
 「ワン!」

 ぴろぴろーっと奇妙な電子音。さっきと音が違うことに微妙に首をかしげながら、まぁいいかと諏訪子は翻訳機の液晶モニターに視線を落とす。

 [お前、第五回人気投票で16位だったな]

 「ちょっとぉ!! 何でそんなこと知ってるのさ!!」
 「お、落ち着いてください諏訪子様!!」

 グーで殴りかかろうとした諏訪子を必死に止める早苗。そんな様子を見て大爆笑する神奈子だったが、再び定春がワンッと鳴いて、翻訳機の文字を見て愕然とする。

 [み○え似のオンバシラー。お前は第五回人気投票32位だったよな。大笑いしてっけどお前のほうが笑えねぇよ]

 「やかましいわ!! ていうか、だからなんでアンタがそのこと知ってるんだ!!!」
 「神奈子様!!落ち着いてくださいってば!! 諏訪子様も笑ってないで手伝ってください!!」

 すっかり立場が逆転である。殴りかかろうとする神奈子を、早苗が腰にしがみついて必死に止めようとがんばるものの、その光景を見て大爆笑する諏訪子。
 そんな光景を持て、恨みがましそうにルナがポツリと一言。

 「イイじゃない。私なんて47位よ?」
 『スミマセンでした』

 その悲惨すぎる数字に思わず神様二人が謝った。ついでに風祝も謝った。そこには哀愁と悲哀が見え隠れする辺り微妙な空気をかもし出している。
 ちなみに、TOP10入りを果たしているスカーレット姉妹とその従者、更に鴉天狗はというと、微妙な面持ちで視線をあさっての方向に逸らしていたりするが、それはこの際置いておく。

 「神楽ちゃん。僕等はまだ恵まれていたほうだったね」
 「そうあるな新八。さすがに47位には勝てないアル」

 その悲惨な数値を耳にして、過去の自分を悔い改めたい気持ちで一杯になる二名の若い命。
 出来うることなら土下座しよう。そしてその土下座で是非とも釘を打とうではないか。7位、8位でギャーギャーいっていた自分達がむなしくて仕方がない。
 ……本心では絶対に土下座する気は無いけど。

 「銀さん、こっちは玄関の修理終わりましたよーって、なんですかこの光景」

 鈴仙が空と共に今に戻ってくると、そこに広がっていたのは奇妙な空気をかもし出している空間だった。
 事情を知らない二人はとにかく首を傾げることしか出来ず、わからないものは仕方がないと早急に結論づけて、銀時たちのテーブルの修復作業に参加する。

 まぁその後、何とか復帰した面々は再び翻訳機で遊ぶこととなり、その定春の毒舌ッぷりから阿鼻叫喚の地獄絵図になったことはいうまでも無い。





















 そうして夕方。守矢一家と比那名居天子は帰宅し、霊烏路空も自分の主の元に帰っていき、ルナもそろそろ気持ちの整理がついたの幻想郷に戻っていった。

 「んで? なんでオメェはまだ残ってんの」
 「イイじゃないの、銀時。私はあなたに用があって、ここまで残ったわけなのだし」

 クスクスと、レミリアはそんな言葉を返しながら、ちらりと自分の妹の姿を見る。昼寝している定春の腹の上で、神楽と共に眠りこけているフランの姿。
 まったく、普段の情緒不安定振りが嘘のようだとそんなことを思考しながら、彼女は本題を銀時に投げかける。

 「永遠亭はそこの兎をここに、白玉楼は半霊を真選組に送り込んで、社会勉強させてるでしょう? それなら、それに便乗してウチからもと思ってね」
 「……それ、もしかしてその社会勉強させる対象ってそこで眠ってるフランちゃんのことですか?」

 その言葉を聞いた新八が、視線を眠っているフランに視線を向けると、レミリアは肯定の意を示すように頷いてみせる。
 その反応を見て、銀時は小さくため息をついてからガシガシと後頭部を掻いて、ゆっくりと口を開く。

 「あのなぁ、ウチは託児所じゃねーっつうに。つーか、ウチで預かれるかよそんな核弾頭娘……」

 グシャっと、何かいい具合につぶれる音がしてレミリアの拳が銀時の顔面にぶち込まれる。

 「なんか言ったか天然パーマ? 終いには殴るわよ?」
 「いや、前々から言ってるけどさ、殴る前に聞かない? そういうの」

 鼻血をだくだくと流し、それを手で押さえながら何とか言葉にするが、レミリアはそれを聞かなかったことにして改めて席に着く。
 それを理不尽だと内心思いはしたが、そんな銀時を放っておいてレミリアは次の言葉を紡ぎだしていた。

 「あの子はね、昔から力の制御が下手でずっと地下に幽閉されていたわ。495年間もの間、ずっとね」

 そんな語りだしから始まった言葉は、銀時と新八の反論を潰すには十分だった。
 驚いた表情を見せる新八と、いつもの変わらない表情を見せる銀時に、レミリアはかまわず話を続けた。

 「ある事件を境に幽閉は解いたんだけどね、霊夢と魔理沙が来てからは、引きこもりがちだったあの子も部屋を出るようになって、自分の意思で屋敷の中を歩き回るようになったわ。
 その辺は、霊夢や魔理沙に感謝しないといけないわね」

 少し癪な気もするけど、と呟いて、レミリアは苦笑する。
 レミリアは霊夢に依存し、フランドールは魔理沙に依存している。
 レミリアは報復の機会を窺いながらも、なんだかんだで博麗霊夢のことは気に入っているし。
 フランドールも魔理沙のことを気に入っている。

 「でも、あの子は外の世界を知らなさ過ぎる。だから、少しでも多くのことを知って欲しいのよ。いろんな体験をして、いろんな経験をして、ね。
 それに、あなたたちは信用も出来るし、信頼も出来る。幸い、定春がいるとある程度は精神が安定するみたいだしね。それに、異世界なんてめったに体験できないしね。だから、お願いに来たのよ」

 そういいつつ、彼女は咲夜が用意した紅茶に口をつける。
 内心は、手元に自身の妹を置いておきたいし、不安ももちろん感じている。
 だが、言葉の通りに、妹にいろんな体験をして欲しいと、そう思っているのも事実で。
 それに何より、目の前のやる気ゼロの人間は、いい加減ではあるが不思議と信用も出来るし信頼もできるという奇妙な人間だった。

 「はぁ……。わーったよ、そんなこと言われちゃあ、引き受けねぇわけにもいくめぇよ。ただし、こっちで血液なんて用意できねーから、そこだけはそっちで頼むわ」
 「あら? 銀時が提供すればいいじゃない。あなたの血って甘そうだし」
 「駄目だよレミリアちゃん。銀さんの血なんて飲んでたら、あっという間に糖尿病になっちゃうよ」
 「ってオィィィィィ!! 誰の血が糖尿病だコラァァァ!! つーか俺の血なんて飲ませるかァァァァ!!」

 軽口の応酬に、銀時が聞き捨てならない単語を吐く二人にたまらず大声を上げて、その様子がおかしくてレミリアはくすくすと笑う。
 ……にしても、吸血鬼って糖尿病になるもんなんだろーか? いや、永遠亭の薬師辺りに聞けばわかるのだろうけど。

 「それじゃ、フランのこと、お願いね」
 「あぁ、わーったよ」

 ゆっくりと立ち上がりながら言葉を投げかけ、銀時はけだるそうに言葉を返す。
 その反応はどうよ? と思わなくも無いのだが、それが彼らしい反応なので特に何も言わずに咲夜を従えて、箪笥の引き戸を開ける。
 幻想郷に帰る前に、一度だけ視線を眠っているフランに向けて、うっすらと微笑を浮かべて、彼女は幻想郷に帰っていく。

 「よかったんですか?」

 後ろから声が聞こえて、そちらに視線を向ければ文が複雑そうな表情で視線を向けている。
 頭をカリカリと掻きながら、銀時はけだるそうに立ち上がってジャンプのある自分の机に移動する。

 「あぁ。頼まれちまったからな。なんとかなんだろ」
 「うわぁ、凄い不安になる返答なんですけど」

 あんまりにもあんまりな返答に、冷や汗流しながら文は言う。
 視線を定春のほうに移すと、そこにはいい具合に眠りこけてる幻想郷でもトップクラスに危険な吸血鬼。


 コレはまた面倒なことになりましたねぇ。などと思う文ではあったが、そんな思いとは裏腹に彼女の表情には、うっすらと喜悦に満ちた笑みが浮かんでいた。






 ■あとがき■
 どうも、白々燈です。今回の話はいかがだったでしょうか?
 さて、冥界組、永遠亭と異世界に社会勉強させているのだから、だったら紅魔館側からも出さなきゃというノリで今回執筆しました。
 で、人選がフランになってますが、これは消去法でこうなりました。……どんな消去法だよ、自分?
 未だに書いててフランの性格に自信がないのですが、おかしくないでしょうか^^;

 さて、いよいよえらいことになってきたよろず屋。一体この先どうなるのか……。
 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第七話「撫子の花言葉」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/10/05 11:51










 フランを預かったその翌日。よろず屋は意外にも平和に日常を謳歌していた。
 ……残念ながら依頼人は今日も来ていないが。
 そんな状況に辟易してか、ウサギ耳に藤色長髪の少女は深い深いため息をつく。

 「あのさ、よくこんな状態で毎日過ごせてるよね、貴方たちって」
 「うどんげー、そんなあきれた表情こっちに向けんじゃねぇ。なんだか俺ら駄目人間みたいじゃん」
 「正しく駄目人間だと思うけど」

 ウドンゲの冷ややかな視線と共に投げられた言葉に、銀時が相変わらず覇気の無い声で言葉を返したものの、冷ややかな視線が更に冷たくなっただけに終わってしまう。
 そんな彼女の言がよほど面白かったのか、クスクスと天子が苦笑して彼女に言葉を紡ぎ始める。

 「何を今更。依頼人が来ないなんていつものことだし、銀さんが駄目人間なのもいつものことよ。ほら、あなたのところのお姫様も似たようなものだと思うけど?」
 「なっ! 違うわよ!! 姫様はねぇ……アレ? 否定できない」

 彼女の言葉に抗議の声を上げようとするものの、普段のお姫様の行動を思い出し、だんだんと否定できなくなってそう呟く。
 何しろ普段から引きこもり。最近はまぁ多少出歩くこともあるものの、それでも人里までは出て行かないし、もっぱら部屋で一日を過ごし、何でもかんでも部下任せ。
 姫なのだから仕方ないといえばそうなのだが、傍から改めてみてみると正しく駄目人間のような気がしてくる。というか、そういえば姫って周りからニートとか呼ばれてなかったっけ?
 その事実に思い至って、がっくりと肩を落としてしまう。心情はかなり情けなく思っていることだろう。

 「それにしても、神楽ちゃんとフランちゃんに散歩任せて大丈夫だったんですか? 銀さん」
 「別に大丈夫だろ。散歩くらい。オメェは過保護過ぎんだよ新八。何のためにブンブンまでつけたと思ってんだ」
 「余計問題が起こりそうだと思うのは私だけかしら?」

 彼らの能天気な会話に、気を取り直しながら頭を小さく振るった鈴仙は、これまた小さくため息をつき「まぁいいか」と呟いて手元の恋愛小説に視線を移した。
 自分に災難さえ降りかからなければ正直どうにでもするといい。というのが彼女の本音だ。第一、他人と係わり合いになるのは、正直、あまり好ましく思えない。
 彼らとは随分なれて今はそんなことは無いが、根本的に、彼女は人前に姿を見せることを嫌う傾向があった。
 それはこちらに来ても変わらない。そんな彼女が恋愛小説を読むなど違和感がありそうな気もするが、根元のほうでは何か出会いでも求めているのかもしれない。
 間違っても目の前のマダオと眼鏡は御免蒙るだろうが。

 それはさておき、神楽とフランは定春を連れて意気揚々と散歩に出かけていった。
 その付き添いとして文が同行していったのだが、いわく「外をぶらぶらとで歩いてみればいいネタが転がってるかもしれませんので」とどこか上機嫌にしていたのを思い出す。
 それも当たり前だと、鈴仙は思った。神楽とフランの時点でどう考えたって騒ぎが起こることは目に見えているのだし。

 そして案の定、彼女の予想を裏切ることなく突如として爆発音が鳴り響いたのである。
 爆発の音は遠くから聞こえたが、窓の外から黙々と煙が昇っているのが目に見える。そして銀時たちがその光景に視線を向けたとき、再び爆発は起こった。

 「いやいやいや、これは無い。無いってこれは」
 「そうそう。違いますって。あの三人なわけないですって」

 冷や汗だらだら流しながら、必死にその事実を否定しようとするマダオと眼鏡。その言葉を言い終えた瞬間、ごうごうと天にまで昇りそうな勢いで竜巻が発生するのが視界に映る。
 もはや確定だろう。どう考えたってフランの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』別名『きゅっとしてドカーン』(レミリア命名)と文の『風を操る程度の能力』で巻き起こされた竜巻で間違いない。
 そんな二人の現実逃避にあきれたのか、天子は小さくため息をついてから二人に言葉を投げかける。

 「ねぇ、いい加減現実を見なさいって。どう考えたって吸血鬼と鴉天狗だって。アレ」
 「いやいやいやいやいやいやいや!! 無いから!! そんなこときっと無いからてんてんこ!!」
 「てんてんこ!!? どんなあだ名な訳!? 嫌よそんなちゃんちゃんこのようなニックネーム!!」

 よっぽどテンパッているらしい銀時の言葉に、思わず声を大にしてツッコミを入れてしまう。
 そッからギャーギャーと喧嘩に突入する二人と、それを止めようと奮闘する新八。その間にまたとおくから爆発音が聞こえてきたが、やっぱり鈴仙は小説に目を落としたままだ。
 どうやらこのまま我かんせずを貫くつもりらしい。

 そんな中、がたんと勢いよく箪笥の引き出しが開き、中からアオが慌てた様子で顔を出したのだ。

 「銀ちゃん、鈴仙ちゃん居る!? ちょっと重病の急患―――って、あれぇぇぇぇ!!? 銀ちゃんは重症ぉ!!?」

 大仰に驚く声が聞こえ、思わずそちらに視線を向けてみる。
 するとだ。そこには顔面に要石ドリルの直撃を受け、血を諾々と流しながらぶっ倒れている銀時の姿があった。
 なんて扱いのぞんざいな主人公。かつてここまで酷い扱いの主役がいただろうか?

 ちなみに、散歩に出かけた三人と一匹は何をしているのかというと、どこぞの身軽なじーさんとカン蹴りをしていたのだが、当然ながらそんなことを思う面子がこの場にいるわけも無かった。










 
 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第七話「撫子の花言葉」■















 ここは幻想郷、人里の中の外れのほうに位置するぽつんと立った一軒家。それほど大きくもない、一見すれば小屋とも見れなくもない小さな家。
 そこに、彼らはいた。鈴仙の付き添いで手伝えることがあればと思って一緒に来ては見たが、どうやら件の患者は素人が手伝うとかそういった次元のレベルではなかったらしい。
 結局、天子が永琳を呼びに行ったぐらいしか協力できず、銀時、新八、天子、そしてアオは時間を持て余すように家の外で待機する羽目になった。

 「あの、これ……。どうぞ」
 「お、気が利くねぇ。ありがたく頂くとするかね」

 この家に棲む女性の娘である少女が、銀時によく冷えた飲み水を渡してくる。

 薄桃色のロングヘアー、藤色の透き通るような瞳に、病弱そうな印象を受ける色白の肌。背は150cm程度の、どこか大人しそうな少女で、名は撫子というらしい。

 彼女は銀時に飲み水を渡した後、同じように新八、天子、そしてアオに飲み水を渡していく。
 日は高く上り、さんさんと容赦なく日の光線とも言うべき熱を放射し続けている。当然、水分を補給しないといつ倒れてもおかしくないような炎天下。
 そんな中ずっと立ち続けているのだ。純粋に、この差し入れは嬉しいものがあった。

 「終わったわ」
 「お疲れ様です。……あの、お母さんは?」

 何時間もの間診療と治療に取り掛かっていた永琳と鈴仙が出てきて、少女―――撫子は不安そうな顔で彼女達に問いかける。
 その問いに、二人が見せたのは、なんともいえない複雑な表情だった。

 「手は尽くしたわ。出来うる限りのこともした。でも、……残念だけど、もう手遅れね。もって、今日一日よ」
 「そんな……」

 永琳から紡がれた言葉は、あまりにも残酷な宣告に他ならなかった。
 事実、彼女はこの幻想郷においては右に並ぶもののない薬師であり、同時に医者でもある。
 天才と呼んでも差し支えないほどの頭脳と実力を備えてはいるが、いかんせん病気の進行は手遅れなところにまで来ていたのだ。

 今にも泣き出してしまいそうな表情。永琳とて医者だ。そのような顔を、今までに見る機会はいくらでもあったが、平静を装ってはいるもののやはり慣れるものではない。
 そこは鈴仙も同じ気持ちか、永琳とは違い、彼女はその思いが表情に表れており、どこか辛そうだ。

 「会ってあげなさい。今は意識もハッキリしてるから」
 「……いえ、私は」

 だからこそ、その言葉は少女のために投げかけられた。永琳なりの、医者としての気遣い。
 なのに、少女はそれにはっきりと答えないまま、思い悩んだように口ごもる。

 その表情に浮かぶのは、怯え。
 何かに怯えているというのに、だけど、今すぐにでも母のもとに駆け寄りたいと願う、そんな複雑な表情。
 そんな表情のまま、少女は恐る恐る、自分の家へと入っていく。

 しばらくの無音、後に聞こえてきたのは、ヒステリックな金切り声。それは撫子という少女のものではなく、彼女の母親のものだった。
 ガシャンっと、何かが割れる音が響き、さすがに何か以上があったのかと銀時たちが動こうとした刹那―――


 ―――出て行け、化け物っ!!―――


 ―――そんな、憎悪さえこもった声が彼らの耳に飛び込んできた。

 その直後、家から撫子が飛び出してきた。
 目に一杯に涙をためて、何かから逃げるように走り去っていく。その姿を、ただ銀時たちは見ていることしか出来ずに居た。

 「……銀時、あの子のことをお願い」
 「わーったよ、俺もこのまま帰るって言うのも寝覚めがワリィからな」
 「あ、銀さん、僕も行きます!!」
 「ウチも!!」

 永琳の言葉に答え、銀時はあの少女の後を追いかけるように歩いていき、それに慌てて新八とアオがついていく。そんな姿を見て、やれやれといった表情を浮かべながら天子も続いた。
 それを見送り、小さくため息をついたのは永琳だった。後ろの家に視線を向け、苦々しくその表情をゆがめる。その姿を、鈴仙が心配そうに見つめていた。

 「私のミスね。まさか、こんなことになるなんて」
 「そんな、師匠は何も悪くないですよ」
 「いいえ、ウドンゲ。彼女達のことをよく知りもしないであんなことを言った私にも非があるわ」

 自嘲するように呟いて、永琳は鈴仙の言葉を否定する。
 人の気持ちは複雑だ。そこに一貫性なんて存在しないし、人によってその気持ちの向き方は変わってくる。そこを察することなんて、それこそ心を読むことでも出来ない限りは不可能だ。
 だから、永琳に落ち度はない。だが、―――彼女自身はそう思わない。
 さて、……と呟いて、永琳は気持ちを切り替えるように鈴仙に視線を向けた。

 「さて、ウドンゲ。患者のメンタル面でのケアも大事なことだし、もうひとがんばりしましょうか」
 「カウンセリングってやつですね」
 「今日はカウンセラーね。私達も、そして銀時も」

 いつもの言葉遊びを交えながら、苦笑しながら会話する。そのことに安堵したのか、鈴仙はほっと一つ息を零す。永琳も、うまく弟子に心配をかけずにすんだことを内心で安堵した。
 あとは、こっちの仕事だ。向こうは向こうで、きっと彼らに任せていれば大丈夫だろうと、不思議とそんなことを思っていた。





















 人里の通り。そこは色々な店が立ち並び、それほど大きくない人里の中でも多くの人々が行きかう場所だった。
 その通りで、彼女は当てもなく、とぼとぼと歩みを進めていた。
 そんな彼女の周りには、奇妙にもぽっかりと誰も居ない空間が出来上がっていた。
 遠巻きに、何か異物を見るような人々の表情。随分と慣れたその視線にも、撫子は気付かないまま歩き続けていた。

 心が乾いていた。渇望した感情が心を蝕み、からからに干からびさせていくかのような錯覚。
 母親から受けた、はっきりとした拒絶は、どうしようもないほどに撫子の心を抉った。
 額を手で押さえてみれば、ぬるりとした感触が伝わってきて、血が流れているのだということを認識させる。
 母親が投げた湯飲みでついた傷による、ずきずきと鈍い痛み。それすらも、今の彼女にとってはどうでもよく感じた。

 そんな彼女に、ぽんっと手をかける誰かが居た。
 同時に、額に布のようなものを押し付けられ、血止めをされているのだとようやく思い至った。
 不思議に思って、俯いて下を向いていた視界を上へ戻すと、そこに、今日はじめてあったばかりの銀髪の男……坂田銀時が居た。

 「あなたは……」
 「よう。ちょいとつきあわねぇか? 俺の奢りだ」

 クイっと親指で一軒の店を指され、そちらに視線を向ければそこはカフェになっており、店の中で見覚えのある人物達がこちらに視線を向けて手を振っていた。
 その光景に、ボケッとしていた撫子だったが、銀時に手を引かれて意識が戻ってくる。

 「へ? あ、あの……」
 「おっと、気にすんなよ。俺が好きでおごるだけだからな。妙なナンパに捕まったと思って諦めてくれや」

 そんなことを紡がれ、気恥ずかしくなって顔を真っ赤にして俯いてしまう撫子を、銀時は遠慮なくずるずると引きずりこんだ。
 店に入ると、カランカランと音がなって客の来店を知らせる。それにかまうこともなく、銀時は撫子の手を引いたまま新八たちが居る席に向かっていった。

 「銀さん、撫子。こっちよ」
 「わーってるよ。大声出すんじゃねぇよ、天子」

 ため息つきながら天子の言葉を軽く受け流し、銀時は撫子を座らせると彼女の隣に腰掛けた。
 銀時が、「それで傷口を押さえてな」とハンカチを撫子に手渡す。
 それを受け取って、まじまじと銀時とハンカチを交互に見ていた撫子だったが、「ありがとうございます」と頭を下げてからハンカチを額に当てた。
 それとほぼ同時に、この店の店員がテーブルに近づいてきて、その人影が、ものすごく見覚えのある人物で撫子以外の一同思わず硬直する。

 「……何やってんだ、ヅラぁ?」
 「ヅラじゃない、桂だ」

 にべもなく、お決まりのやり取りとなりつつある会話を繰り広げる二人。
 よくよく見れば、店の置くにはメニューの看板を持って置物のように微動だにしない不思議生物、エリザベスの姿もあった。
 読者の皆様はお分かりだと思うが、桂とエリザベスはそもそも幻想郷の住人ではない。銀時と同じ世界の人間だ。
 幻想郷に来る手段は限られているし、銀時たちが疑問に思ったのも無理らしからぬことだろう。

 「最近、真選組の追跡が厳しくなってきていてな、ここの店長殿のご好意でしばらく厄介になることにしたのだ」
 「おーい、店長!! なんでこんな奴ここに置いちゃったの!!?」

 桂の言葉を聴いた瞬間、たまにこの店に厄介になっている銀時はというと不満ありありの様子で知人関係にあるこの店の店長に言葉を投げかける。
 すると、店長はキッチンから顔だけを出すと、上機嫌に軽快に笑って見せながら言葉をつむぐ。

 「はっはっは!! 照れるなよ銀さんよぉ。話に聞けば、昔ッからの友人らしいじゃねぇの、オメェさんたち」
 「まったくだ、銀時。ところでお勧めはぼそぼそしたチャーハンとぼそぼそしたチャーハンとぼそぼそしたチャーハンとなっておりますがいかがなさいましょう?」
 「オィィィィ!! ぼそぼそしたチャーハンだけしかねーじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!? ぼそぼそしたチャーハン一択じゃん!!? なんなの、そのチャーハンに対する飽くなき執念!!?」
 「店長ォォォォォ!! 本当になんでこんな奴雇っちゃったの!!? つーかぼそぼそしたチャーハンなんか誰がいるかァァァァァ!!!」

 新八と銀時のツッコミが上がるものの、桂も店長も特に気にした風もなく平然としており、店長は店長でさっさとキッチンに戻っていく。
 一方、桂はというと―――

 「店長ー、ぼそぼそしたチャーハン五つ入りまーす」
 「なんでだァァァァァァァ!!! そんなチャーハンいらねぇッつってんだろーがっ!!」
 「あ、あの落ち着いてください。私は食べますから……」

 むちゃくちゃなオーダーをとって、また銀時に怒鳴られていた。
 それをなだめようと、撫子がそんな言葉をつむいでいたが、その言葉もなんか違うというか、どこかずれたものだったが。
 桂が立ち去っていくと、ようやく落ち着いたのか銀時は小さくため息を零す。
 そんな様子を見て、天子がクスクスと可笑しそうに笑うのが見えて、銀時は彼女をジト目で睨みつける。

 「なんだよ」
 「いえ、店長の言う通りね。なんだかんだで、仲がいいじゃない、銀さんと桂って」
 「だからあんなの友達でも何でもねーっつうに。まぁ、それよりも―――」

 そこで一旦言葉を区切り、銀時は傍らに座る少女に視線を向ける。ハンカチを放して額の傷の様子を確かめているが、どうやら血の方は止まったらしかった。

 「撫子、悩みがあるんなら遠慮なく言ってくれや」
 「え、でも……」
 「確かに、俺たちは今日あったばかりだ。オメェさんの悩みを聞く義理はねぇし、逆に言やァ、オメェにも俺たちに話す義理はねぇ。
 けどよ、誰かに話しちまったほうが、時にはすっきりするもんさ。俺たちでよけりゃ、愚痴でも何でも聞いてやるよ」

 静かに、何かを言いかけた撫子の言葉を遮って銀時は言う。
 撫子が周りに視線を向けてみると、新八も、天子も、そしてアオも。同じような表情で、ただ彼女の言葉を待っていた。

 本当は、彼女自身、話していいものかどうか迷っていた。これは自分自身の問題だし、何よりも相手に話しても迷惑なものにしかならないと思っていたから。
 だが、彼女の心は今、酷く不安定だ。母親から拒絶され続け、それでも慕い続けていた母は今日にも亡くなってしまうかも知れない。
 どうしたらいいのか、何をすればいいのか、考えがごちゃごちゃでよくわからない。まるで迷子になってしまったような、不安と孤独感。

 そんな彼女の背中を、少しだけ、銀時の言葉が後押しした。

 「……私は、生まれてこなかったほうがよかったのかもしれません」

 ポツリとつむがれた言葉は、そんな悲痛な感情のこもった言葉だった。
 小さく、小さく、それでも不思議と耳に残るような少女の言葉。彼女の想いが、少しずつ、彼女の口から銀時たちに語られていった。



 まだ彼女が小さな頃、母親との関係は今のように悪いものではなかった。
 生まれたときから父親は亡くなっており、生活も苦しいものだったが、それでも彼女は幸せだった。
 母との二人での生活は満ち足りていて、楽しかった思い出が今でも心の中に残っている。

 それが、ある日を境にガラガラと崩れ落ちていった。

 いつの頃だったかは正確には覚えていないが、寺小屋に通う以前だから幼い年齢だったことは覚えている。
 木の枝を蝶に変えたり、小さな虫を普通の石ころに変えたり、そんな不思議な能力を、いつからか使えるようになっていた。
 いつか出会った日傘を持った金髪の女性は、その能力のことを【存在を偽る程度の能力】だと教えてくれた。
 時間さえたてば元に戻ってしまうが、情報を偽り、姿かたち、匂いや触感において全てを別の存在へと偽る。
 それが面白くて、楽しくて、幼い自分はその力を持つことの意味も知らずに、自分の母に、知り合いの子供に、その能力を見せたのだ。

 その日から、周りの目が変わって言ったことに、幼い自分自身は気がつかなかった。

 気がついたときにはもう手遅れだった。皆、腫れ物を扱うように遠巻きに自分を眺め、母親ですらろくに口も利いてくれなくなった。
 遊んでいた友達は彼女の元からはなれ、大人たちも彼女にかかわろうとはしなかった。

 そして、今日この日。最愛の母親から、決定的な拒絶の言葉を突きつけられた。



 「難しい問題だな」
 「桂さん」

 話が終わった頃を見計らってか、オーダーされた料理を運んできた桂がそんな言葉をつむぎだす。
 どこから聞いてたんだよ? と思わなくもない物言いだったが、それでも今は誰もその言葉に触れないでじっと桂の言葉に耳を傾けていた。

 「人は自分にはないものを、自分には理解できないものを恐れる傾向にある。古来より、人が妖怪や幽霊を恐れるのはそれが理解できない存在であったが故だ。
 それは、おそらく俺たち攘夷志士にも同じことが言えるのだろうな。少なくとも、かつて攘夷戦争を戦ったものの中の大半は、天人に対する恐れからのものだろう」

 静かに、桂はそう言葉を零しながら、一品ずつ料理を並べていく。
 撫子のことを揶揄するわけでもなく、むしろその言葉は、自分を戒めているかのような、そんな風にすら感じる言葉だった。

 「君の場合は、その能力とやらが原因か。同じ人間だからこそ余計にその恐れは近著になる。言葉は悪いが、君から遠のいていった者達にすれば、君は妖怪と同じように見られているのやも知れぬな」
 「そう……ですね。きっと、そうなんだと思います」

 桂の言葉に、撫子は静かにうなずいた。彼のいうとおり、きっとそうなんだろうという思いは、どこかにあったのだ。
 自覚はあった。見て見ぬ振りをしていただけで、どこかそうなんじないかと思っている自分が居たのも確かなのだ。
 でも、それがわかったからといって、どうしようもないのが現実だった。どうにかしようにも、彼女にとってはもう何もかもが手遅れだったのだ。

 幸せでありたいのなら―――、その能力を隠したまま彼女は生きるべきだったのだ。

 「でも、もう手遅れですから。私はもう、後戻りの出来ないことをしてしまいました」

 困ったような、どこか風が吹けば折れてしまいそうな、そんな儚くて寂しい笑顔。
 そんな物悲しい笑顔のまま、撫子はそう言葉をつむぎだす。
 後戻りなんて出来ない。それが出来たら、どれだけいいだろうと思ったこともある。
 でも、結局それは無いものねだりだ。過去に行くことなんて、そんな事出来はしないのだから。

 「手遅れ……なんてことは無いと思うぜ、俺ぁ」

 だというのに、銀時から零れた言葉は意外なものだった。
 驚いた表情を浮かべて、撫子は銀時に視線を向ける。そこには、やる気の無い気だるげな締りの無い男の顔。

 「オメェは母親のこと、好きか?」

 突然問われてきょとんとしたものの、撫子はすぐに即答した。「大好きです」と。

 今まで、母親に何をされても彼女は恨んだことは無かった。自分が悪いのだとずっと思っていたから、母親を恨むのは筋違いだと思い続けてきた。
 だから、彼女は母親が好きだった。ずっとずっと、幸せだったあのときからこの気持ちは変わらない。

 強いて言えば、ただわがままを言えば、自分のことを一度でいいから、もう一度、愛してほしかった。

 「俺は、家族ってもんがどういうもんかはわからねぇ。だから、あんまり調子のいいことを言えた義理じゃねぇかも知れねぇ。けどよ、オメェさんの母親はまだ生きてる。
 まだ思いを伝える機会はある。だからよ、手遅れなんてことはねぇはずだぜ」

 その時間は、思いを伝える時間は、もうそんなに残されていない。
 拒絶されるかもしれない。また大声で怒鳴り散らされて、深い傷を負うかもしれない。それでも―――このまま、何もしないままなんていいはずが無い。

 少女の願いはなんてことは無い。子供の頃、誰もが持つ子供らしい感情だ。
 親に愛されたい。ただ、それだけなのだ。

 それぐらい、そのちっぽけな願いを、銀時はかなえてやりたかった。
 家族というものを持ったことが無かった故に、自分が持つことが無かったその感情が、ただ銀時にはまぶしく思えたのか、それは彼自身にもよくわからない。

 「心配すんなよ。俺もついていってやるさ」

 不器用に、少女の頭を撫でる。少しでも、少女の背中を押してあげるように。

 「仕事があるから俺はここから動けんが、応援はさせてもらおう」
 「ウチはついて行く! 一人になんてさせへんよ!!」
 「僕も行きますよ。心配ですしね」
 「ま、私も暇だしね」

 桂が、アオが、新八が、そして天子が言葉をつむいで、なんと無しに苦笑する。
 その光景が、ただ眩しかった。久しくみなかった、自分に向けられる優しい笑み。
 それが、こんなにも……どうして嬉しく感じてしまうのだろうか。

 「それに、あなたの親のつけた思いの通りに育ってるんだから自信を持ちなさい」

 天子から言葉が紡がれる。その言葉が意外だったのか、撫子の視線が天子に向けられる。
 それを確認した彼女は、クスっと笑みを零し、静かに言葉を紡ぎだした。



 「知らないの? 撫子の花言葉は【大胆】【勇敢】、そして【純愛】。ほら、そこまで母を思う貴女には、その純愛という言葉はピッタリじゃない」

























 夕焼けが窓から顔を覗かせる。空は茜色に染まり、ゆっくりと日が沈もうとしている。
 そんな光景を、女性はただ眺めるだけだった。
 布団から這い出すほどの体力も無く、余命いくばくも無い自分自身。
 そんな女性の傍らには、少し古くなっている日記帳が置いてあった。

 (これ、貴女の娘さんの日記です。本当はこういうのいけないと思ったけれど、一度でいいですから、目を通してあげてください)

 妖怪ウサギの少女が言っていた言葉が、脳裏をよぎる。
 最初は、読む気なんて無かった。そもそも、こんなものを読んだところで何も変わらない。アレが何をどう思っていようが知ったことではない。
 だが、自分が余命いくばくも無いことはわかっていたし、どうせ最後になるのならと、気まぐれでその日記に目を通した。


 その日記に綴られた内容を見て、自分自身、衝撃を受けたことを隠さずに入られなかった。


 日記とは、自身の本心を書きとめる行為だ。そこに嘘はないし、紛れもない本心が語られる。
 だからこそ、女性にはその内容は信じられないものだった。

 かつて、自分の娘が嬉しそうにその力を見せに来たことを思い出す。
 無邪気で、明るい表情のまま、何の変哲も無い折れた木の枝を、生きた蝶へと変えたその瞬間。
 女性には、その瞬間から、自分の娘が得体の知れないナニカにしか見えなくなっていった。
 薄気味悪いと、心の底からそう思い、自分の娘に辛く当たり、遠ざけた。

 なのに。それなのに、日記には母親に対する恨み言は一つも書かれていなかったのだ。
 それどころか、病状がどんどん悪化する自分に対する心配と不安が綴られている。
 その思いはどこまでも優しくて、その現実を改めて思い知った。

 変わったのは娘だと思っていた。だけどそうじゃない、娘は、あの日から何も変わっていなかった。
 変わったのは、紛れもない、自分自身なのだと。

 気がついたときにはもう遅かった。憑き物が落ちたように思考をめぐらせれば、自分の行った非道に涙が流れそうになる。
 実の娘に、化け物と、そう罵ってしまった。
 もう、あの子といえども帰っては来ないだろう。そう漠然と思った。

 出来ることなら、もう一度あって謝りたい。だけど、自分にはもう残された時間も、体力も無かった。

 だから、今残っているのは後悔ばかり。もっとしっかり、娘のことを見てやれなかった自分自身が、ただ憎い。
 そんな時に、誰かが足を踏み入れる音がした。
 そちらに、かろうじて首だけを回してみれば……そこに、自身の娘がいた。

 「ぁ……」

 呆然と、かすれた声が零れ落ちる。
 どうして? という思いが、脳内でぐちゃぐちゃになってかき回される。
 彼女の表情には、はっきりとした怯えの表情が見て取れた。もう一度、拒絶されてしまうのではないかという不安と、怯え。
 壊れてしまいそうな、そんな表情を見て、彼女は「あぁ……」と、小さく息を吐く。

 もう、今この瞬間しか、自分には時間が無いのだと、そう直感した。

 「撫子」

 かすれた声。それでも、長らく呼ばなかった自分の娘の名前が出たことに少し安堵する。
 その言葉の意味が理解できたのか、撫子はゆっくりと自分の母親に歩み寄って、傍らにゆっくりと正座する。
 今にして思えば、今更どう母親面すればいいのかわからない。だけど、今しか、時間が無いのだ。
 あらためてみれば、自分の娘はあの日以来随分と成長していた。それに気付かないほど、自分は彼女を遠ざけていたのだと、今更のように理解する。
 ようやく、時間は動き出した。だけど、そのことに気がついたときはもう、遅すぎて。

 「お母さん」
 「……なぁに?」

 言葉をかけられ、なるべく優しい声色で問い返す。
 その言葉で少し、不安が薄れたのか、撫子はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

 「私は、お母さんのことが好きです。どんなに嫌われても、お母さんのことがいつも好きでした。こんなことを言う資格は、私には無いのかもしれない。でも……」

 小さく息を吸い、そして決意を固めたように、その思いを吐露するように言葉にする。

 「私に、お母さんを愛させてください。罵られても、嫌われても、ただせめて―――貴女のことを、いつまでも愛させてください」

 今にも泣き出してしまいそうな表情。その表情をさせているのは自分なのだと、床に伏せる女性は理解する。
 本当に、娘は変わらない。そこで、「私を愛してください」と、そのぐらいの我侭ぐらいは言えばいいのに、結局出てきた言葉はそんなもの。
 誰よりも愛されたいくせに、その思いを押しとどめて妥協する。

 すっと、自分の娘に腕を伸ばす。頬に手を添えて、彼女の温かさを感じるように。

 「ねぇ、撫子。私、貴女に謝らなくちゃいけない。今更、こんなことを言うのも、母親としてどうかと思うのだけれど……」

 一旦、そこで言葉をとぎる。本当に、今更こんなことを言う資格は無いのかもしれない。
 今まで娘にしてきた仕打ちを考えれば、なんて都合のいい言葉だろう。それでも……その言葉だけは、伝えないといけないと思うのだ。

 「今まで、母親らしいことして上げられなくてごめんなさい。……愛してるわ、撫子」

 自惚れ出なければ、きっと彼女は自分に愛されたいと思っているはずだから。だから、最後にそれだけは伝えてあげたかった。
 最後に、本当に母親らしい優しい笑みを浮かべた女性の手は、……ずるりと、力なく撫子の頬からずり落ちていった。

 「……お、母さん?」

 ポツリと、少女の言葉が室内に零れる。けれど、女性は身じろぎもせず、息すらも途絶えさせていた。
 ポツポツと、物言わなくなった女性の頬に、撫子の瞳から溢れた涙が零れ落ちていく。

 「ねぇ、もう一度だけ……言ってよ。私のこと、愛してるって……っ」

 語りかける。もうしゃべることが出来ないと、どこかで理解しているのに、語りかけることを止められなかった。

 「私、お母さんのこと大好きだよ? お母さんも、私のこと、愛してくれてるんだよね? なのに……なんで」

 ぼろぼろと零れ落ちてくる涙。何もかもが遅すぎて、気がついたときにはどうしようもなくて。
 心が壊れそうな苦しみが、溢れ出す涙を後押ししているかのように。ただ少女の中をぐるぐると循環する。

 「なんで、もう―――お別れなの?」

 ようやく、止まっていた親子の時間が動き始めたというのに、それはあっという間に止まってしまった。
 ぐちゃぐちゃに顔を歪めて、涙が頬を伝って、その不条理と、どうしようもない現実が心に重く圧し掛かる。

 本当は、ただ愛されたかった。ほかの誰からも嫌われてもいい。ただ、母にだけは……愛されていたかった。
 その想いが、今ようやく実ったのに。その想いが、ようやく届いたのに。その時間は、もう帰って来ない。

 「嫌だよ……。こんなの嫌だよ! お願い、だよ、お母さん。もう一度、愛してるって……。もっと、一緒に……っ!」

 物言わぬ母に泣き付く様に、彼女はただ泣き続けた。
 嗚咽が、ただただ彼女の思いを語るように、室内に零れ落ちていく。
 冷たくなっていく母の体温が、その現実を如実に伝えてくる。だから、これは紛れもない現実で、どうしようもない真実。

 今はただ、少女は泣き続ける。
 ようやく届いた思いはその手から零れ落ちていって、だけど、その思いを絶対に忘れないように。


























 「あややー、このお弁当はおいしいですねぇ。どうしたんですか、これ?」

 パクパクとその弁当を箸でつつきながら、鴉天狗こと射命丸文はそんな言葉を紡ぎだした。
 人数分の弁当がテーブルに並び、その美味しさときたら思わず声が出てしまうほどだ。
 完全で瀟洒な従者の作るものよりは幾分か劣るものの、その料理は十分以上に美味といえた。
 実際、フランも神楽もその食事に夢中になっているし、実際この会話もほとんど聞いちゃいないだろう。

 「うん、診療のお礼……かな? 今、この弁当を作ってくれた子―――撫子って言うんだけどね、今はアオと一緒に住んでるから、この間のお礼だって」
 「あー、一昨日のアレですか」

 鈴仙の言葉にどこか納得したように、文はその料理を口にする。
 話の顛末は散歩から帰ってきたときに銀時から聞いているので、それ以上は詳しく聞かなかった。
 存在を偽る程度の能力、というのに多少興味が無いでもないが、今取材に行くのも無粋というものだろう。

 「おーい、とっとと食っちまえ、オメェら。早くしねぇと、昼からの仕事にまにあわねぇぞ」
 「それもそうね。珍しく仕事が入ったんだから、張り切らないと」
 「張り切りついでに物壊しまくるなよ、天子。金貰うどころか払う羽目になったら目も当てられねぇ」
 「気が向いたら気をつけるわ」
 「常に気をつけてくれるぅ!!? なんかいきなり不安なんですけどもぉ!? その発言!!?」

 ギャーギャーといつものように騒がしくなるよろず屋。それがいつもどおりで、鈴仙はなんと無しに苦笑する。
 彼女はぽけっとに手を入れて、その紙がまだあることを確認すると、それで満足したかのようにお礼の証である弁当に手を伸ばした。
 ポケットの中に入っている、撫子のからの手紙。
 そこに書かれてあった言葉は、シンプルながら、色々な思いの乗ったたった一言。

 ありがとう。

 ただそれだけの一文だったが、それがどうしてかこんなにも嬉しく感じる。
 時間はかかるかもしれない。でも、アオもいるからきっと大丈夫なのだと、不思議とそう思える。

 さて、今日も張り切って一日を過ごすことにしよう。
 今この瞬間を、後悔しないようにと、そんな思いを胸に。







 ■あとがき■
 みなさん、色々面倒なことしてすみません、白々燈です。
 新しい七話、ここに投下させていただきます。皆さんの期待に沿えるかどうかわかりませんが、いかがでしょうか?

 急いで書き上げたこともあり、いろいろ省いてどこかおかしいところとかあるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

 最初のところに簡単なオリキャラの紹介を追加しています。必要だったかどうかはちょっとわからないですけど。

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第八話「猫が烏に追いすがるってことは多分あんまり無い」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/10/10 22:17







 「どない? 結構自信作なんやけど」
 「むむむ、確かに以前より美味しくなってますね。この味の秘密はお隣の撫子にあると見ました!」
 「正解や!!」

 文の指摘に、ズビシッといい笑顔でサムズアップするアオ。その隣で、撫子は苦笑を零していた。
 ここはかぶき町のよろず屋。アオが撫子から教わりながら作った弁当の差し入れを食している文、フラン、鈴仙、天子の幻想郷組。
 彼女達の表情には皆満足そうな笑みが浮かんでおり、その差し入れの弁当の美味しさを物語る。

 「お空とお燐も、いる? お空のにはちゃんとゆで卵入っとるよ」
 「ん、食べる」
 「じゃあ、あたいも」

 ほいっと弁当を差し出すアオ。その弁当を、霊烏路空、通称「お空」と、火焔猫燐、通称「お燐」はお腹がすいていたこともあって素直に受け取った。
 時刻は正午。ここにいるべきよろず屋の主はというと暇をもてあましてパチンコに、駄目眼鏡はというとアイドルのライブに突貫、チャイナと定春は近所の子供達と遊びに興じていた。
 そんなわけで、今ここには幻想郷出身のメンバーで会話に花を咲かせていたりするのである。

 そんな中、よろず屋の玄関が開き、誰かが入ってくる。
 誰か帰ってきたのかと思ってそちらに視線をやれば、黒髪を結い上げた女性の姿があった。

 「あ、お妙さんや。こんちわー」
 「あら、アオちゃんこんにちわ。銀さんは?」
 「銀さんならパチンコに行ったわよ。あなたの弟の新八はライブに行ったし、神楽はそこら辺で遊んでるんじゃない?」

 元気よく挨拶したアオに挨拶を返し、辺りをきょろきょろと見回すお妙と呼ばれた女性。
 お妙の言葉に答えた天子の言葉どおり、彼女は志村新八の姉である。
 見た目こそおしとやかそうな美人だが、騙されてはいけない。根っこのほうは恐ろしく凶暴な人だったりする。

 「そっちの子達は、今日が初めてよね?」
 「そうだね。アタイは火焔猫燐、お燐って呼んでよ、お姉さん」
 「私は撫子です。初めまして」

 お妙がお燐と撫子を交互に見てそう言葉をこぼし、それを肯定するように二人とも簡単な自己紹介をする。
 それに満足そうにうなずいて「えぇ、初めまして」と返すと、お妙は彼女達が持っている弁当に視線を移した。

 「あら、お弁当中だったのね。丁度よかったわ。実はね、みんなに差し入れ―――」


 お妙が言葉を最後まで言い切るまもなく、途端、空気が爆ぜた。
 【差し入れ】という単語を聞いた途端、その差し入れの中身を知っているメンバー全員が玄関を目指した。

 射命丸文がその俊足を生かして真っ先に先陣を切り、開けるのも面倒だと言わんばかりに体当たりで玄関を吹き飛ばして突破口を作り。

 そのあとを天子が全速力で駆け抜けていき、更にフランまでもが飛行能力を生かしながら玄関の日傘をあっという間に取り出して太陽の下へと躍り出る。

 事情を知らないお燐をお空が抱えて玄関めがけて飛び、同じく事情を知らない撫子をアオが抱えて玄関めがけて疾走し、その少し先を文字通り脱兎のごとく鈴仙が駆け抜けていた。

 そう、今ここに来て、彼女達は一致団結していたのだ。あの悲劇を繰り返さないためにも、今はただその【差し入れ】から逃げなくてはいけない。
 もうこれ以上、悲しい犠牲は要らないのだと皆思っていた。願っていたのだ。

 だが、その思いを打ち砕くように、白く細いながらも、信じられない力を発揮するお妙の腕がアオの肩を捕まえた。

 「アオ!! 撫子!!!」

 ここに来て、彼女が捕まったことに気がついた鈴仙が悲痛な声を上げる。
 そう、アオが捕まったということは、必然的に彼女が抱えていた撫子も同時に捕まったということ。

 だが、ここに来てアオは、撫子を力いっぱい鈴仙に向かって投げつける。
 撫子は当然ながら、突然の事態でさっぱり事情が飲み込めていなかったが、鈴仙は違った。
 彼女を抱きとめ、切羽詰った表情でアオに視線を向ける。しかし―――

 「行くんや、鈴仙ちゃん!!」

 彼女に何も言わせるまでもなく、アオは公然と言い放った。不退転の決意をその表情に表し、早く行けと、その目が物語っていた。
 それ以上、言葉は要らなかった。彼女は決意したのだ。自分を身代わりにしても、皆は助けると。

 その思いを、その決意を、どうして―――無駄に出来ようか?

 「行って!! 早く!!!」

 迷いを断ち切るように、その言葉に背を向けて、撫子を抱えたまま鈴仙は走り出した。
 長い廊下を抜け、玄関を飛び出し、階段を下りるのも面倒だと二階から飛び降りる。
 綺麗に着地し、彼女は後ろを振り返らずにまっすぐに走りぬける。姿の見えない他のみんなは、おそらくばらばらに逃げたのだろう。

 「うきゃぁぁぁぁぁぁ!!!?? きゅぅ……」

 そして、遠くからアオの悲鳴が耳のいい鈴仙の耳に聞こえ、それもやがて聞こえなくなった。
 足を止めぬまま、自分達の身代わりになった彼女に黙祷する。

 自分達の代わりに、【かわいそうな卵】の犠牲になったアオを、私たちは忘れない!!









 死んでないけど。











 
 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第八話「猫が鴉に追いすがるってことは多分あんまり無い」■















 「……ふーん、だから逃げ出したんだ」
 「うん。アレはちょっと……ねぇ」

 お空から事のあらましを一から十まで教えられ、お燐は納得半分、呆れ半分の表情で言葉を紡ぎ、お空は当時のことを思い出したのかはぁーっとため息をつく。
 現在、彼女達二人は逃げ出したついでに江戸の町を観光気分でぶらついていた。
 多くの人々が行き交い、さまざまな道具が店先に並ぶ。鋼鉄の乗り物、車やバイクが道路を走り、空には宇宙船が飛んでいる。
 幻想郷では見られない光景だけに、中々に興味も湧くというものだ。少なくとも、お燐は既にそちらのほうに興味が移りかけているし。

 「でも、よく鳥頭のおくうが覚えてたよね。そんなに嫌だったの? そのかわいそうなたま―――ごっ!?」

 そう紡ぎながら店先の道具からお空に視線を戻した瞬間、お燐は彼女の姿に愕然とした。

 目はうつろで光を宿しておらず、冷や汗はだらだらと流れ出し、がたがたと小刻みに震えだしている。見ようによっては痙攣とも取れなくない。
 こう、なんというか某暴走自動車に乗って恐怖体験をした直後の、飛び級のちびっ子高校生の如き有様である。

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい卵にごめんなさいそんな黒くてかわいそうな卵は駄目なんですありえないんですお願いしますタスケテ助けてタスケテ助けてって」
 「おくうぅぅぅ!!? ごめんアタイが悪かったよ!! 悪かったから戻ってきて!! 現実に戻ってきてよ!! リターンしてよ!! お願いだからっ!!! カムバァァァァァァァック!!!」

 あんまりにもやばい状態で何事か口走り始めたお空に、お燐が必死こいて現実に戻ってこさせようとガックンガックンと肩を揺さぶる。
 そんなわけで、彼女達は非常に目立った。もともと美少女といった相貌の彼女達は否が応でも目立つ。
 何より、片やマントに黒い翼と胸元に赤い目をあしらった奇抜な服。片やゴスロリファッションにネコミミと尻尾とものすごく目立つ格好なのである。
 そんな彼女達に集まる視線にも気付かず、お燐が必死に救助活動をしていると、ようやく巧をなしたのかお空の意識が現実に引き戻され始めた。

 「はっ!!? 私は今、何を?」

 そんな言葉を紡ぎだしたお空を視界にいれ、お燐はというと心底疲れたようにため息をついた。
 もう、彼女の前ではあの差し入れの話はやめようと、心に深く刻み込む。それと同時に、アレの差し入れも絶対に食べないとキッパリと心に誓う。
 どんなトラウマを抱え込むかわかったもんじゃない。この目の前の鳥頭みたいに。そんなのはキッパリ御免こうむる。

 「あーあ、せっかくお弁当にありつけたのにさ。お腹空いたなァ」

 そんな言葉を紡ぎ、お燐はお腹をさすりながら、小さくため息をつく。
 あの時のごたごたで絶品だった弁当は置いて来てしまったし、半端に物を胃に納めたせいか、その空腹感もなお大きく感じる。
 まぁ、下手なトラウマ作るよりはよかったのかもしれないが、それとこれとは話は別なのである。

 「じゃあさ、あっちの方に行ってみよう。なんか良い匂いがするのよ」
 「どんな匂い?」
 「卵の匂い!!」

 自信満々にそう言うお空だったが、生憎とこの無意味な自信はいつものこと。付き合いの長いお燐はというと、その自信に疑惑の視線を向けていたりする。
 その視線に気がついているのか、それとも気がついていないのか、ひょいひょいと軽い足取りで先に進んで行く。
 そんな彼女の後姿を見つめながら、小さくため息をつく。
 大体、アンタは鴉なんだから卵食べたら共食いじゃない。などと思うのだが、それも今更なので何も言わない。鴉ってそもそも雑食だし。

 人ごみを掻き分け、まっすぐに匂いのする方向に向かって突貫するお空と、彼女とはぐれまいとその後を付いて行くお燐。
 しばらくするとやたらと高い建物が見えてきて、お空は迷わずその中に入っていく。仕方無しにそのあとを追うお燐だったが、ここで奇妙なことに気がついた。

 「ねぇ、おくう。さっきから人が建物の中から悲鳴上げて逃げてる気がするんだけど?」
 「卵、たまご、ゆでたまご~♪」
 「おくうのお馬鹿、ちょっと聞いてる?」

 お燐の言うとおり、周りは騒然としており、皆出口を目指して悲鳴を上げながら逃げ出していた。
 そのことに気がついていないのか、お空は上機嫌に歌いながらズンズンと先に進んで行く。
 やがてあたりは人の気配が微弱になり、外からはサイレンに似た音も聞こえ始めた。
 あー、なんかやな予感がするなァと思った瞬間、彼女達は後ろから誰かに抱きかかえられ、首元に刀を押し付けられる。

 「こっちに近づくんじゃねぇぞ真選組!! こっちにゃ人質がいるんだっ!!」

 後ろの誰かが窓から身を乗り出し、結果的に彼女達も外の光景を見ることになった。
 たくさんの人だかりが出来、なんか以前の太陽の畑で見覚えのある人物数人と、彼らと同じ服を着た人物達がわらワラと集まっていた。
 オマケに、なんだか物々しい雰囲気まで伝わってくるのだから、ただ事じゃないってことはよくわかったらしい。

 「……えーっと、ねぇお燐。どういうことこれ?」
 「あたいに聞かないでよ、お馬鹿」

 状況をうっすらと理解して、お燐はイマイチ緊張感のない言葉を紡ぎだすお空に眩暈を覚えていた。
 よりにもよってだ。彼女達の主人であるさとりに、「外の世界では暴れないこと」と釘打たれているというのに、どうしたものだろうかこの状況。
 結局、お空に怒りをぶつけることもしないまま、とりあえずこの状況をどうしようかと真剣に頭を悩ませるお燐だった。



























 「土方さん。四番隊と六番隊、皆さん配置につきました」
 「おう、ご苦労さん。ったく、なんだってこんなデパートなんかで騒ぎなんざ起こしやがったんだ、あのヤローは」

 妖夢の言葉を聞いてタバコに火をつけて、忌々しげに人質をとった男に視線を向けている。
 多くの人々が野次馬として集まり、それを遠ざけようと他の隊士たちが奮闘する。
 まったく、面倒ごとや騒動は他人にとってはこの上ない見世物なんだなと改めて理解することになった妖夢は、気難しげに人質になっている二人の少女に視線を向けた。
 霊烏路空と、火焔猫燐。一体何ゆえにこんな場所にいるのかと疑問ではあったが、人質であることには間違いない。
 というか、あの二人ならあっさりとその程度の犯人なんてぶちのめそうだとは思うのだが、そうなると色々と困る事態になりかねないので今はありがたい。

 ―――1×××年、江戸は核の炎に包まれた。

 なんてテロップから始まる世紀末で救世主が闊歩しそうな銀魂なんて御免こうむる。
 なまじお空の能力がそれを実現することが出来る能力なだけに始末に終えない。連射できるし。

 「なんでも、犯人はあのデパートの元持ち主らしいですぜ。先月、借金のかたに騙し取られてその腹いせだそうでさぁ」
 「……えらく詳しいじゃねぇか総悟」
 「さっき山崎の奴から聞いたんでぇ。ま、だからといって現状じゃあどうにも出来やしねぇんですがね」

 やたらと詳しい総悟に思わず疑問をぶつけるが、もっともらしい理由をつけられたうえに、現状の不満を漏らすかのように紡がれる沖田の言葉に、土方も「あぁ」と同意する。

 実際、人質がいるうえに犯人は爆弾を体中にまきつけていた。これでは流石に手が出しづらい。
 まぁ、犯人は絶対に気がついてはいないだろうが、その手に抱えている人質の片割れは文字通り核弾頭みたいなもんである。
 うかつにを出せば、それこそうっかり世紀末な世界のご誕生である。それだけはなんとしても避けなくてはならない。いろんな意味で。

 「ちょっと、どうしたの? こんな大勢で面倒なことになってるみたいだけど」
 「あれ? 天人様。何でこんなところに?」
 「比那名居よ。比那名居天子。なんなの、この騒ぎ?」
 「おいおい、どッからやってきてんだオメェは」

 空からふわりと降下してくる、蒼い髪に桃のアクセサリーがついた黒い帽子がトレードマークの少女、比那名居天子を視界に納め、妖夢と土方がそれぞれそんな反応を返していた。
 いくら真選組が野次馬を寄せ付けないために奮闘しているとはいえ、いくらなんでも空の上までは不可能だ。部外者の彼女がここに降りてきても、隊士になんら責任はない。
 もっとも、天子も天子でなにやら騒がしいことになっていることに気がついて、逃亡中だったにもかかわらずこの場に現れたわけなのだけど。

 「なんでぇ、ドM王女じゃねぇか。何しに来たんでィ? とっとと帰らねぇと罵り倒しちまうぜィ」
 「ただの野次馬ですよドS王子。むしろもっと罵りなさいよ、望むところだわ」

 カモーン、と言わんばかりにクイクイッと両手で手招きする不良な天人様。
 そんな沖田と天子の会話を聞いていた土方と妖夢はというと……。

 『何この会話。すんごい気持ち悪いんだけど』

 ものの見事にシンクロして言葉を紡ぎだしていた。確かに、この二人の会話は、はたから聞いてるといろんな意味で危ない気がする。
 何しろドMとドSで見事に色々と合致してしまうわけで。

 そんなわけで、沖田が口汚く罵り始め、そんでもって罵られるたびになんかいい笑顔で身を捩じらせる天子という、健全な人たちには非常に目によろしくない空間が出来上がる。
 その光景を見ないように、土方と妖夢はデパートの五階付近に陣取った犯人に視線を向けた。

 ……現実逃避とも言うけれど。

 「犯人に告ぐ!! お前は完全に包囲された!! 大人しく―――ってオィィィィィ!! 何ビデオまわしてんだオメェェェェェェェ!!!?」

 降伏を勧めようとスピーカーで呼びかけたのだが、その途中で犯人が器用にも沖田と天子のやり取りをビデオにとっているのに気がついて思わず声を張り上げる土方。
 そして傍にいた妖夢はというと、人質になっているお空とお燐がなにやら言ってることに気がついて、じっくりと双眼鏡で唇の動きを見る。

 「土方さん、二人が何か言ってます」
 「……あぁ? なんて言ってんだあいつ等?」
 「『後ろでハァハァ息荒くして臭くて気持ち悪い』って言ってます」
 「どうでもいいんですけどぉ!!? イラネーよそんな情報っ!! つーか知りたくも無かったわっ!!」

 真顔でそんな言葉を伝えてきた妖夢に思わずツッコミを入れる土方。もう本当にグダグダである。
 本格的に頭が痛くなってきた土方だったが、ここで仕事を投げるわけにもいかない。普段はいい加減だが、仕事に関してはいたってマジメな男だ。
 ここにきて、その辺りが微妙にマイナスになってる気もするけど。

 「どうすんの? あの様子じゃ色々面倒な状況みたいだけど。……あっ、もっと上。そこもっと蹴って!!」
 「オメェこそどうすんだドM女!! 総悟もいい加減止めねぇかっ!!」
 『えぇ~』
 「なんでそこで見事にハモってんのお前等ぁぁぁぁ!!? 何!? 俺何か間違ったこと言った!!?」

 ドSとドMが合わさると手に負えないとはこのことか。土方の制止の声にモロに不満たらたらな声を上げるSMコンビに、土方の魂の絶叫(ツッコミ)が響き渡る。
 下手すると現在の事件の状況より後ろの嫌な空間のほうが面倒な状況になりつつあるのを肌で感じて、妖夢ははぁっと小さくため息をつく。
 再び犯人のほうを見上げると、そこには未だに眼下のドS(総悟)ドM(天子)プレイをビデオに納めている犯人という名の変態の姿があった。

 「……って、アレ? 人質の二人は?」
 「呼んだ?」

 ふと、二人がいないことに気がついて思わず呟くと、隣から声が聞こえてそちらに振り向く。
 そこには、何ゆえか先ほどまで人質だったはずのお空とお燐がぴんぴんと元気な姿でたっていた。

 「何で?」
 「いやさ、拘束緩んでビデオとるのに夢中になってたから、今のうちに逃げ出してきたの」

 妖夢の疑問の声に、お空がサラッとそんな返答をしてくる。お燐はというと、妖夢の後ろで繰り広げられている色々と問題ありそうな空間に視線を向けていたりするが、当の妖夢はそんなことに思考が回らない。

 あれ? っつーことは、今あのデパートには犯人しかいないというわけで……。

 「確保ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 その事実に行き着いた瞬間、妖夢がそんな指示を隊士たちに飛ばし、その言葉に答えてデパート内と外で待機していた隊士たちが一斉になだれ込んだ。
 しばらくして無線から「犯人、起爆装置、共に確保」の報告が届き、妖夢はふぅっと小さく息を吐き出した。

 なんて間の抜けた事件の終幕だろうか。あんまりにもあんまりな結果に思わず眩暈と頭痛がセットで襲い掛かってくる。
 馬鹿だ。明らかに馬鹿だよこの犯人。おそらく、この場にいた多くの野次馬の方々がそう思ったに違いない。

 ドSとドMが世界を救う。

 そんな嫌過ぎるフレーズを振り払うように土方に報告しようと彼らのほうに視線を向けると……。

 「ちょっと! もっとキツク縛りなさいよ!! それでもドSなのアンタ!!?」
 「ほーれ、もっときつく縛って欲しいか? だったらもっといい声で鳴きなメス豚」
 「だから止めろッつってんだろうがオメェ等ァァァァァァァァ!!!!」

 ものすごく関わりたくない空間が出来上がっていた。もはや近づくことすらもしたくない。あの空間にいて全力でツッコミを入れている土方はある意味勇者だと思う。
 もう本当に尊敬します土方さん。などと心の中で思いつつ、その光景を全面的に見なかったことにしてお空たちに視線を向けると……。
 彼女達の肩を、ガシッと力強く掴む知り合いの女性の姿があった。

 「あれ? お妙さん」
 「あら、お疲れ様。妖夢ちゃん。それと、ようやく見つけたわ、お空ちゃんとお燐ちゃん。それから天子ちゃんも」
 『ひっ!!?』

 ギギギッとさびたブリキ人形のごとく、三人が首を軋ませながらそちらに視線を向けると。
 そこにはなんということでしょう。あのかわいそうな卵を作り出しちゃうおッそろしい新八の姉の姿があーるじゃありませんかっ!!

 「お、お姉さん。な……なんで、ここに?」
 「何でも何も、あなた達がばっちりテレビに映ってたもの」

 にこやかにさも当然と、そういわんばかりに笑顔でのたまうお妙さん。だけど、その気配というかオーラというか、そういったもので彼女の感じている怒りは容易にわかってしまうのである。
 ヤバイ。これはヤバイ。と、本能の辺りがガンガンサイレンつきで警告を鳴らしている。
 にっこりとした笑顔のまま、右の手でお空とお燐の襟首をまとめて引っつかみ、縛られて動けない天子は左手でロープを引っつかみ、そのままずるずると引きずっていく。
 その光景を、ぽかーんと呆然と見送ることしか出来ない真選組一同。

 「さぁ、せっかくだからお裾分けを食べて頂戴ね。今日は奮発して玉子焼きと、目玉焼きと、だしまき卵と、スクランブルエッグを作ってみたの」
 『なんでこれ見よがしに全部卵なの!!?』

 あんまりといえばあんまりな内容に、思わず三人の言葉がシンクロして吐き出された。どう考えても全部黒炭状態になっていることは想像するだに難くない。
 だが悲しきかな。現実は無情であり、人間のはずなのにありえない怪力を発揮するお妙の腕からは逃げられないでいた。
 天子にいたっては縛られた状態ではもはやどうすることも出来ないし。







 「卵料理が一番得意なの。さ、早く帰りましょう」
 『ぃやあーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』








 三人の悲鳴がものの見事にハモり、その日、結局全員見つかって捕まった彼女達は文字通り地獄を味わったという。




 ■あとがき■
 ども、作者の白々燈です。なるべく早く書いてみましたが、今回の話はいかがだったでしょうか?
 幾分軽いノリなのと、お妙さんを初登場させようということで書いてみましたがいかがでしょう?
 天子と沖田がそろうと話が描きやすくて助かります。もうなんか色々と。

 展開とオチが弱いかなっと思わなくも無いですが、今回はこの辺で。

 ※キャラクター紹介の専用ページを作りました。よくわからなくなったらそちらをお読みください。
 新しいキャラクターが出たら、随時更新していきます。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第九話「―――『   カ   タ   ナ   シ   』―――」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/10/17 00:54







 はるか遠くの山の中。その山中奥深くにぽつんと立った山小屋の中に、彼らはいた。

 甘党銀髪天然パーマ、坂田銀時。
 真撰組副長で重度のマヨラー、土方十四郎。
 そして、鴉天狗の新聞記者、射命丸文。

 山小屋の外はすっかりと夜の帳が落ち、オマケに台風が直撃しているのか激しい雨と風が延々と吹き荒れている。
 小屋の隅からギシギシと軋む音が鳴り、今にも倒壊しそうで少し心もとない。

 「ったくよー、オメェが張り合うからこうなっちまったんだろーが。おかげでびしょびしょだぜ」
 「うるせーよ。何で俺がテメェの言うことなんて聞いてやらなきゃいけねぇんだ。テメェが張り合ってきたんだろーが」
 「いーやお前が張り合ってきたね、アレは。俺は止めようと思ったよ? でもオメェが必死になるからついつい付き合っちまったんだろーが」
 「テメェのほうが必死だったね。俺はいつでも止めてよかったんだぜ? それをテメェは―――」
 「はいはい、二人とも落ち着きなさい。まったく、今がどういう状況なのかわかってる?」

 言い争いをする二人に、文が服が吸い取った水分を搾り出しながら、ジト目で彼らに言葉を投げかける。
 その言葉使いにいつもの丁寧語が含まれていない辺り、よっぽど腹に据えかねているのか、その辺りを察した二人はむっとした表情のまま、お互いに顔を背けあった。

 こうなった原因は、おおよそこの二人のせいだといえなくも無い。というか、10割がたこの二人のせいだろう。
 さて、こうなった原因を説明するには、まず彼らが依頼を受けたところ辺りまで話はさかのぼる。

 銀時たちに依頼が来たのは今日の昼ごろ。依頼人は若い女性だった。
 特に目立つというわけでもなく、だからといって決して地味ではない。そんな女性だ。

 いわく、「婚約者が登山に行ったきり帰ってこないので、探して欲しい」というものだった。

 なんとも面倒な依頼ではあったが、そこはそこ、報酬がそれなりであったこともあるし、何よりそろそろ生活圏がイエロー通り越してレッドゾーンに達しそうだったが為に受けるしかなかったこともある。
 手がかりは写真と婚約指輪。それだけを頼りに山探しをするなど大変だとは思ったが、それも仕方がない。
 で、問題の山についた途端、真選組に遭遇。いわく、「この山で行方不明者が続出している」というのだ。
 目的が微妙にかぶっていることもあり、もともと仲の悪く、あまつさえ負けず嫌いなこの二人が、周りのことなど放っておいてずんずんと先に進んでいってしまい―――

 結果、探しに来た文が二人を見つけた途端に天気が急変。暴風暴雨に晒され、近くにあった小屋で一旦休むことになったのだ。

 

 パチパチと、囲炉裏にくべられた木屑が爆ぜる音が、静かになった室内に響く。



 肌に張り付く水分を含み、うっすらと肌がすける服に辟易しながら、文は小さくため息をついた。
 気分は陰鬱だ。銀時も土方も、それを語りはしないが、濡れ鼠な彼らも同じ気分だろう。

 外はいまだに、ビュービュー、ザーザー、気味の悪いとさえ思えるほどの雨風の音を運んでくる。

 外の風や雨が弱まれば、二人を抱えて文が麓まで降りればいいのだが、ここまで酷いと流石に危ない。
 彼女一人ならさほど問題ではないが、人を二人も抱えているとなると話はまた違ってくる。

 現在の状況は、どう控えめに見ても遭難だろう。どう考えても。
 まぁ、雨と風さえやめばどうとでもなってしまう状況を、遭難といっていいのかはちょっと微妙だが。

 ふと、何かいいことを思いついたのか、文が途端に面白そうに笑顔を浮かべる。

 「どうした、ブンブン。アレか? 思い出し笑いか? それは止めといたほうがいいぞ、ブンブン。傍から見るとイタイ人だから」
 「違うわよ。それよりも、どうせこの嵐が止むまでは外に出られないんだし、丁度いい話があるんだけど」

 くすくすと笑いながら、文は二人に視線を向ける。
 詳しいことが語られたわけでもないので、一体どういう話なのか検討もつかないというのが現状だが、このまま黙っていてもいずれ口げんかに発展してしまいかねない。
 そのことを自覚してるのか、銀時も土方も何も言わずに黙って頷いて了承の意を見せる。
 それに満足そうに顔をゆがめ、彼女はポツポツと、静かに言葉を紡ぎだした。






 「それではそれでは、よく聞いてくださいね、二人とも。これから語る物語は、『カタナシ』と呼ばれるものです」





 彼女が饒舌に、いつもの新聞記者としての口調で語り始めた途端、パチッと、一際大きく木屑が爆ぜた。







 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第九話「―――『   カ   タ   ナ   シ   』―――」■















 【ソレ】が生まれたのは、私たち妖怪たちの中でも知る者はいません。
 名も無く、正確な姿もワカラナイ。不便ですので、私たちの間では【ソレ】は【カタナシ】と呼ばれていました。
 ……え? どうして【カタナシ】なのか? ……ですって?

 クスクスクス……。あぁ、いえ失礼。なんだかいきなり怯えだしたものですからつい面白くて。
 今更、聞かない。なんてことは言いませんよね? まさか、怖いわけでもあるまいし。
 クスクス、えぇそうでしょう。お二方ならそう言ってもらえると思っていました。

 それではお話いたしましょう。【ソレ】が【カタナシ】と呼ばれる由縁。それは、『【ソレ】が決まった形を持たない』からなんです。
 ある時は空気に、またある時は動物に、そして―――ある時は【人間】に。
 故に【カタナシ】。形を持たず、自由に姿を変えて趣向を凝らして得物を捕食する。

 ん? 【カタナシ】が何を捕食するのか……ですか?
 クスクス、それを今言ってしまっては面白くありません。聞き手は座して、語り手に耳を傾けていてくださいな。

 まず、この【カタナシ】という存在。最初は空気に溶けてから行動します。
 いつか、後ろに、または物の隙間から、誰かに見られていると思ったら……そうですね、もしかしたらその【カタナシ】かもしれませんよ?
 何しろ、【カタナシ】はじっくり、じっくりと、それはもう粘着質とさえ思えるような視線で、何日も何日もかけて観察するんです。
 その挙動一つ一つを、その仕草の細やかさまで、さらにはその言動を。
 何日も何日も、それこそ【カタナシ】が納得するまでずっと、ずっと。

 クスクスクス、どうしましたお二方? お話はまだ続きますから、ゆるりと聞いてください。

 さてさて、一通り観察が終わると、いよいよ行動に移します。
 ですが、何もすぐに……という訳ではございません。【カタナシ】は自分に都合のいいタイミングを見極めるのです。
 出来るだけ、―――そう、襲い掛かるのに最も適した状態を見極める。

 あぁ、そうそう。襲い掛かる……というより、捕食する。といったほうが適切かもしれませんね。
 何を……ですか? クスクスクス、ここまでくれば、お二人も予想がついているとお思いですが……、今はまだ内緒です。

 もちろん、【カタナシ】もただ待つばかりではありません。そう言う状況を作り出すことにも奴等は長けています。

 例えば、目標以外の者をおびき出して、独りになったところを襲うとか。
 例えば、あらぬ噂を立て、誰も近寄らなくなってしまったところを襲うとか。

 あるいは―――、そう。得物の身内の姿になって自分のテリトリーに案内し、閉じ込めてしまう……とか。

 えぇ、もうお分かりでしょう。あるいは、最初からわかっていたんじゃありませんか?
 そうです。【カタナシ】は必ず【ニンゲン】を捕食するんですよ。

 クスクス、二人とも顔が真っ青ですよ。そんなことではこれから先の話が思いやられてしまいますね。
 え? まだ続くのか……ですか? そりゃそうですよ。これからが本番なんですから。じっくりと聞いていてくださいね。



 これは、とある夏の日。ある男性の身に起こったお話です。
















 とある町に住んでいた男性は、非常に悩んでおりました。
 最近、彼は婚約も決まり、仕事も大きなものを任され成功し、おまけに近々祝言も挙げる予定だったのです。
 もはや文句なし。勝ち組街道まっしぐら。ちょっとした登山が趣味であったそんな男性が、最近になって悩みを抱えていたのです。
 いわく、男性は婚約者の女性にこう話していました。


 ―――誰かが、ずっと僕を見ているような気がするんだ。


 男性も、最初は気のせいと思うようにしました。女性も、その時は男性の思い違いだと思っていたのです。
 ですが、どこにいても、その見えない視線はついて来るのです。

 仕事中、入浴中、食事中、そして無論、就寝のときでさえも。

 やがて、男性の中で気のせいであるという認識は、徐々に確信へと近づいていきました。
 鏡を見ていても、後ろには誰もいない。だけど確かに、視線は自分に向けられている。
 確証も無い、そんな無根拠な認識。ですが、どこかでありえないと、そう思っているのも確かでした。
 いるはずが無い。見られているはずが無い。でもやはり、視線は常に感じたまま。
 そして、その視線を感じ始めてからしばらくのことでした。その異常が起きたのは。

 それまで聞こえなかったはずの、ヒタッ……、ヒタッ……、という水で濡れた素足で歩いたかのような足音が、男性の後ろをついて来るのです。

 スタ、スタ、スタ。
 ヒタッ……、ヒタッ……、ヒタッ……。

 三歩歩けば、その謎の足音もまた三歩。五歩歩けば、その足音もまた五歩。
 ゆっくりと、重々しい足音だというのに、それはどういうわけか常に一定の距離から聞こえてくるのです。
 気味悪く思い、全力で走ってみても、その足音は【同じ歩調】で、【一定の距離】から聞こえてきました。
 恐ろしくなった男性は、一目散に自宅へと逃げ込みました。
 ダダダダダダっと、無遠慮な足音を立てて慌てて駆け込み、部屋のカギをかけ、そのままドアにもたれかかるようにずるずると力なく座り込んでしまいました。

 するとどうでしょう。あの気味の悪い足音は―――


 ヒタッ……、ヒタッ……、ヒタッ……。


 先ほどとまったく変わらぬ距離から、その音は再び聞こえてきたのです。
 ゾワゾワッと、鳥肌が立つのを自覚します。背筋に冷たいものを流し込まれたかのように、嫌な悪寒が体中を通り抜けていくような錯覚。
 悪夢なら、覚めて欲しい。そう願う男性の思いをあざ笑うように、その足音は足を止めている今もヒタッと、鳴り止むことはありませんでした。

 当然、といえばそうだったのでしょう。その重い足音は常に一定の間隔でしか聞こえませんでした。
 早足に、あるいは走りでもすれば、その余剰分が余計に聞こえてくるのは当然の帰結です。
 さて、三歩歩けば、また三歩、足音がなった。では―――今この状況で、その足音はいつ鳴り止んでくれるのか?

 男性は恐ろしくなりました。今までの不安が、気のせいかもしれないというその思いが、今この瞬間、紛れもなく【恐怖】に取って代わったのです。
 痛んでギシギシと軋む廊下を通り抜け、着替えることもしないまま、男性は青い顔で布団の中にもぐりこみました。
 頭までをすっぽりと布団で覆い隠し、ガチガチと噛み合わない歯を鳴らし、ただ恐怖でこの足音が止まってくれることを祈るばかりでした。
 ですが、そのヒタッ、という足音は収まるどころか、むしろ―――

 ギシッ……、ギシッ……、ギシッ……。

 あの、痛んで不出来な音が鳴る廊下から、徐々に徐々に、ですが確実に近づいてくるのです。
 いよいよ、男性の心から余裕がなくなっていきました。今まで一定の距離を保っていた足音は、なぜかこの期に及んで距離を縮めてきたのです。
 得体の知れないなにかがやってくる。これほど、恐ろしいものもないでしょう。

 ガチガチガチガチガチガチ。

 やけにうるさいと思えば、それは自分の歯が鳴らす音。それがわからないほどに、男性の心理状態はよくない状態でした。
 その、ガチガチ、という歯を鳴らす音を目印にしてか、ギシッ、ギシッというナニカの足音は近づいてきます。



 ギシ、ギシッ、ギィ……―――。



 そして、その足音は、ようやく止まってくれました。男性の頭の、すぐ傍で。
 それで、男性は直感しました。この得体の知れないナニカは、自分を見下ろしているのだと。
 今まで以上に感じる、頭上からのナニカの視線。その嘗め回すような視線を、見えもしないのに自分に向けられていると直感したのです。

 ガチガチガチ、ガチガチガチガチ。

 生唾を飲み込む音さえ、うるさいと思ってしまう。そのガチガチという音が耳障りだ。頼むから止めてくれ。でないと【コレ】に気付かれてしまう。

 その心を見透かされたのかもしれません。あるいは、その姿があまりにも惨めだったのか。


 ―――クスクス、クスクスクスクス……。


 その嘲笑は、男性の【すぐ耳元】から聞こえてきたのです。
















 それからというもの、男性は目に見えてやつれていきました。
 頬はコケ、目元には隈が出来、顔色も真っ青で誰が見ても正常な状態とは思えませんでした。
 だからでしょう。婚約者の女性がこういったのです。「山に行きましょう」と。

 もともと、男性は登山が趣味ということもありました。女性もついてくるということもあって、彼は二つ返事でOKを出したのです。

 そして当日。あの男性を悩ませていた足音が、今日はどういうわけかパッタリと途絶えたままだったのです。
 それが純粋に嬉しかったのでしょう。男性はいつもの調子を取り戻し、女性はそんな男性の様子を見て、クスクスと笑って見せました。
 久々に、本当に数日振りに何の不安も気兼ねもなく、男性は日常を謳歌していました。

 ですが、それも長続きはしません。天気予報では晴れだったくせに、どういうわけか大雨が降ってきたではありませんか。
 オマケに、台風のような暴風までも共に吹きつけ……、いえ、それは正しく台風だったのでしょう。
 二人は偶然にも近くで見つけた山小屋で雨宿りをすることになりましたが、一向にそれはおさまる気配はありませんでした。


 クスクスクス、ほら、似ていませんか? 今の私たちの状況に。


 失礼、それでは話を続けましょう。


 その夜、二人はその小屋で夜を明かすことにしました。外は未だに轟々と大風が吹きつけ、ザーザーと、大粒の雨が木材を打ちつける音が響き渡る。
 そんな小屋で、トコについていた男性は、ふと……その奇妙な音で目を覚ますのです。


 ヒタッ……、ヒタッ……。


 飛び上がりそうになった悲鳴は、しかし、ついぞ男性の口から出てくることはありませんでした。
 腕も、脚も、声を上げるどころか瞼を上げることさえままなりません。俗に言う、金縛りという霊障の一種。
 徐々に徐々に、その脅えを楽しむように、足音はゆっくりと近づいてきました。
 その足音だけでも堪らないというのに、今回は足音だけにはとどまりませんでした。

 ひやりとした手のひらに、腕をつかまれる。体温のない死人のような手につかまれた感触が、男性の恐怖心を余計に煽ったのです。

 決死の思いで、男性は瞼を開けました。腕を振り払おうと全身に入れた力はしかし、かろうじて男性の瞼を上げるだけにとどまったのです。
 その視線の先にいたのは―――

 ―――男性の指を、今まさに咥えようとする、婚約者の女性の姿だったのです。

 え? という思いが、男性の脳裏に浮上します。現状がまったく理解できず、放心したように彼女に視線を向けることしか出来ませんでした。
 そんな男性の視線に気がついたのか、女性はクスクスクスと、嘲笑うように笑みを零しました。

 そこで、男性を違和感が支配します。
 自分の愛した女性は、こんな笑い方をするヒトだっただろうか? こんなにも、妖艶な笑い方をする女性だっただろうか?



 それに何より、この忍び笑いは―――あの時、すぐ耳元で聞こえてきた嘲笑と【まったく同じ】ではなかったか?



 クスクスクス、目の前の女性の姿をしたナニカが笑う。それと同時に、歯を立てて徐々に力を加えられていく指から、ミチミチと嫌な音が静かな小屋の中に響き渡ります。

 ミチミチミチ、ミチミチミチミチ。

 指先から伝わってくる鈍い痛み。悲鳴を上げようにも、声なんて掠れるほどにも出て来てはくれなかったのです。
 やがて、ブチンッっと、歪な音と共に鈍い痛みは激痛へと変わりました。

 クスクスクス、クスクスクスクス……。

 動けない男性を視界に納め、ニタリと、女性の姿をした【ナニカ】は三日月のように口を歪めました。
 助けてくれ、と、目で懇願する男性を見下ろし、ナニカはクスクスと嘲笑い。

















 ―――イタダキマァス……。

















 「それ以来、男性の姿を見たものはいませんでした。表向きの真実は闇の中。婚約者の女性は今も男性の行方を捜している……。
 と、ご静聴ありがとうございました。以上が、私、射命丸文の語る【カタナシの【怪談】】でした」

 ぺカーッと擬音が聞こえてきそうなほど満面の笑みを浮かべ、文は物語をそう締めくくった。
 対して、銀時と土方はというと、冷や汗だらだら流して真っ青な顔を晒しながら微動だにしない。
 何を隠そう、この二人。得体の知れない幽霊とか怪談とかが大の苦手である。

 「どうかしたの? まさか、本当に怖いの?」

 クスクスと嘲笑うような笑みを浮かべ、文は二人に視線を投げかける。
 今この状況を狙って、似たような状況の怪談を聞かせている辺り確信犯な気もするが、それももはや今更である。
 確かに、銀時も土方もこういった話は大の苦手である。だがしかし、それ以上にこの二人は大の負けず嫌いでもあったりするのである。

 「ば、馬鹿言っちゃいけねぇよブンブン。ちっとも怖くなかったもんねー、銀さんは。コイツは明らかに怖がってたけどよ」
 「ば、馬鹿言うんじゃねぇよテメェ。テメェのほうが明らかに怖がってた。そ、それにオメェ、声震えてんぞ?」
 「オメェこそ声震えてんだろーが!! つーかオメェ、タバコ持ってる手とか老人みてーになってんぞ、コノヤロー!!」
 「オメェこそブルブル震えてんだろーが!! どこのご老人だテメェは!! それになァ、コレは怖くて震えてんじゃねぇ!! 武者震いだ武者震い!!」
 「あー、はいはい。喧嘩もそこまでにしなさい。もう遅いし、今日は寝ましょう」

 パンパンと手を鳴らしながらそう宣言し、喧嘩を止めると彼女はすっと立ち上がる。
 未だに乾かぬ服に辟易しながら、文は近くにあった大きめな布を壁に固定し、また反対側の壁にまでもって行き、手短な道具で固定する。
 すると、簡易的な布の仕切りが完成し、文はにっこりと満面の笑顔で銀時たちに振り返る。

 「寝てるときにこっちに来ないでくださいね?」

 ゴキゴキッと指を鳴らしながら、そんな言葉というよりは脅しを投げかける。
 その笑顔でその行動と言動はどうなのよ? と思った二人だったが、何か言うと弾幕を食らいそうなんで何も言わずに頷く。
 それに満足すると、文は布で作られた仕切りの向こうに消えて行き、やがてシュル……、シュル……、という布の擦れる音が向こう側から聞こえてくる。
 服が雨で濡れて気持ち悪かったというのもあるだろう。しかしそれ以上に、この場に男がいるという状況を忘れているとしか思えないその行動にうろたえる男二人組み。

 (オイオイオイ!! 何考えてんだアイツ!!?)
 (知るかァァァァ!! とにかく寝るぞ!! 下手なことして怒らせたらえらい事になるからっ!!)

 いきなりの行動にうろたえる土方に、銀時はそんな言葉を返していた。まぁ、文の実力って言うもんを知っていればそう言う反応するのかもしれないが。
 一応、文はそれなりに力の強い妖怪、鴉天狗なのだし。下手に怒らせて空の旅にご招待なんて御免こうむる。
 そんなわけで、銀時は半ば強引にお眠りにつこうと床に転がる。服が雨に濡れたままで気持ち悪いのが難だが、火は向こう側なのでどうしようもない。
 そんな銀時の行動に釈然としないものがあったが、土方も仕方ないといった具合に、銀時から背を向けて寝転がる。

 思えば、やはり疲れていたのだろう。服のじっとりとした気持ち悪さも忘れ、彼らはあっさりと眠りに落ちていった。




 ザーザーッと、今もまだ、雨風は降り止む気配を見せてはいなかった。



















 ふと、奇妙な気配を感じて銀時は目を覚ました。
 体に何かが圧し掛かるような重み。しかしそれはどこか少女のように軽く、その意味に気がつく前に彼は瞼を開けた。

 「あら、目が覚めた?」

 クスクスと、少女―――射命丸文は哂う。
 恥ずかしげもなく銀時に馬乗りになって、ニヤリと彼女は口元を歪めた。
 銀時の腕を持ち上げ、チロッと味見をするように舌を這わせる。その瞳の奥底に宿っているのは、ようやく食事にありつけるという―――本能。

 「銀さんって、本当に【美味しそう】なんだもの。お腹も空いたし、今食べちゃってもいいわよね?」

 クスクスと、彼女は笑う。妖艶に、それでいて歪な笑みを浮かべて、クスクスと可笑しそうに、ただ哂う。
 体を動かそうとしても、ピクリとも動かない。その事実に気がついたのに、逃げることすらも叶わない。

 この射命丸文は、紛れもない【偽者】だと。

 「オメェ、誰だ?」
 「あら、気がついたの? 声も出せるなんて、なんて頑丈なのかしら。
 ……まぁいいわ。どうせ私のお腹の中に入ることに違いはないんだし。それに、寝る前に話したじゃない。【私の事】を」

 クスクスと、さも可笑しそうに文の姿をした、【カタナシ】は哂う。
 その言葉に、銀時は「マジかよ」と思わず言葉を漏らし、必死に体を動かそうとするがうまくいかない。
 カタナシは残念そうな顔を作り、ゆっくりと銀時の耳元に囁きかける。

 「本当は、射命丸文だと思わせたまま食べようと思ったのだけど、こうも簡単に見抜かれるなんて。前はうまくいったのになァ」
 「オメェにアイツの真似は荷が重過ぎらァ。どーにも、どこかオカシイとは思っちゃいたんだ」

 せめてもの抵抗にと、目の前のカタナシを睨みつけながら言葉にする。
 確かに、二人を追いかけてきた文はどこかが変だった。無論、どこが? と聞かれれば首をかしげることしか出来ないのだが、それでも違和感が常に付きまとった。

 特別長い付き合いではない。だが、それでも共に酒を飲み交わし、愉快に語り合った仲でもある。
 彼女とて、妖怪の一人だ。鴉天狗という妖怪の中の一人なのだ。無論、人を食らったこともあるのだろう。

 だとしても、そうだとしても少なくとも、あの少女がこんな騙まし討ちのような形で、人を食らうようには思えなかったのだ。
 彼女なら、こんな形ではなく、もっと手っ取り早く襲ってくるだろう。少なくとも、こんな金縛りのような小細工なんていらない。銀時や土方が音速すらも超えて飛行できる彼女から逃げられるはずがないのだから。
 それに、文が酒の席に一度だけ語ったあの言葉が本当なら、きっと彼女はこんなことしない。

 だから、彼は行き着いた。この目の前の彼女は偽者だと。

 「クスクスクス、じゃあ次までの課題ね。もっとちゃんと真似ないと」

 見下すように哂う、カタナシという何か。そんな彼女の能天気な言葉に、銀時は言葉を返そうとして……。







 「えぇ、安心なさい。貴女に【次】なんてないわ」







 その言葉と共に訪れた突風に、それを邪魔された。

 吹きすさぶ豪風。それが通り過ぎたあと、圧し掛かっていた重みがなくなって、途端に轟音が響き渡る。
 同時に、体を拘束していた金縛りが解けて自由を取り戻し、鈍い体に鞭打って立ち上がる。

 「おーいマヨラー、生きてっかー?」
 「うるせー、なんともねぇよ。ったく、テメェに心配されるなんて俺もヤキが回ったか?」

 銀時が言葉を投げかければ、そんな言葉と共に土方も立ち上がる。彼と同じように金縛りにあっていたのか、どこか気だるそうだ。
 カランと、気味のいい音がして、彼らはそちらに視線をむける。
 そこにあったのは、大穴の開いた小屋の壁とその更に向こう。外はいつの間にか晴れていたのか、夜闇の空に月がぽっかりと顔を覗かせていた。

 その月明かりの下に、彼女はいた。
 艶のある黒髪のセミロングを風に靡かせ、いつもとは違う印象を受ける、鋭い目つきをした赤い瞳。白い半袖のワイシャツに、黒色のミニスカート。
 そして、天狗特有の小さな赤い帽子と、下駄のような突起のついた赤い靴に、八手を模した団扇に背中の立派な黒い翼。

 「まったく、探しましたよ。銀さん」

 苦笑を零しながら、彼女は大穴の開いた小屋に入ってくる。カラン、カランと小気味のいい音を立て、彼女は銀時と土方を守るように、彼らの傍にまで歩み寄る。

 「ブンブン……か?」
 「だぁから、そのブンブンっていうの止めてくださいってば」
 「……かわいそうな卵」
 「うんゴメン、無理ですスミマセン」

 その単語を聞いた途端、目を虚ろにしながら即答なされたわれらが鴉天狗。
 どうも例の一件以来、しっかりとトラウマになっているっぽい。そのこぼれ出る言葉が恐ろしいほどに哀愁を誘う。

 「うん、間違いなく本物のブンブンだ。いやー、助かったぜブンブン」
 「……スミマセン、どんな本物の見分け方? いや、だからブンブンって言うなと何度―――」
 「ワリィなブンブン。迷惑かけた」
 「ちょっと!? 土方さんまで!!? なんですか!? 私のあだ名はブンブンで固定ですか!!?」

 何ゆえか双方から弄られ、冗談じゃねぇ!! といわんばかりにツッコミを返す射命丸。
 この反応、この返答、間違いなく本物である。嫌な本物の判別の仕方だったが。

 気を取り直し、コホンと咳払いしてから先ほど自信が巻き起こした風で吹き飛ばした相手に視線を向ける。
 そこに、もはや先ほどまでちょっぴり情けない顔をしていた少女はおらず、【鴉天狗】としての彼女が佇んでいる。

 「なん……で?」

 呆然とした言葉が、カタナシの口からこぼれる。よほど先ほどのダメージが大きかったのか、体のいたるところがドロドロと崩れかかっていた。
 そんなカタナシを、つまらないものを見るかのように一瞥して、文は言葉を紡ぎだした。

 「何故? それは一体何に対して? 私が彼らを助けたことが信じられないとでも?」

 クスクスと、文は笑う。カタナシとは違って、どこか彼女らしさの残るその笑い方。

 「どう勘違いしているのかは知らないけど、鴉天狗は独自の社会を築いて生活している者達だもの。あなたが思っているより、仲間意識って強いのよ?」

 ウインクしながらそう言って、文はカランッと音を鳴らして歩みを進める。
 彼女のその言葉は、暗に銀時が【仲間】であると認めているということに他ならない。
 最初は、もちろんおもしろ半分で近づいた。
 酒を飲み交わしたり、会話を重ねるうちに、彼女にとって坂田銀時は取材対象ではなく、博麗霊夢と同じように【友人】という位置に取って代わったのは、一体いつからか?
 まぁ、霊夢はどう思ってるか知らないけど。と、内心思いながら苦笑して、また一歩歩みを進める。
 そのたびに、カタナシは目の前の存在に恐怖を覚えた。明らかな殺意を向けられ、がたがたとみっともなく崩れかかっている体を恐怖に震わせた。
 自分とは格が違う。彼女の本気を目の当たりにして、ようやくその事実に思い至った自分自身がひどく間抜けに思えた。
 そんなカタナシの様子に満足してか、文は笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 「貴女の間違いはいくつもある。一つ、私の姿を騙った。一つ、私の友人に手を出した。でもね、結局それって、元を正せば大きな理由を細かくしたに過ぎないわ。
 ……そうね、もっと簡単に言いましょう。あなたの間違いは極端に言えばたった一つ。たった一つのいたってシンプルな答えよ」

 あぁ、コレ一度で良いから言ってみたかったのよね。と、そんな呟きを零してニッと満面の笑みを浮かべ。



 「単純な答えよ。【お前は私を怒らせた】」



 その言葉と共に振り下ろした団扇。その団扇から巻き起こった真空の刃の嵐は、容赦なくカタナシを飲み込んでいった。

























 「どうも、ありがとうございました」

 力なく頭をたれて、依頼人の女性はよろず屋を去っていった。
 あの後、文がカタナシを遠慮なくトドメをさした後に見つかった、床下の大量の骨だけの死体。
 そのうちの一体に、手掛かりの指輪をした遺体を見つけ、今回の依頼は終了と相成った。
 事後調査は真選組が行っているが、事が事だ。おそらく真犯人は捕まらないだろう。
 ……いや、あの文の一撃を受けて、件のアレが生きているかどうかは不明だが。

 「なんだか、やるせないですね。今回の依頼」
 「しゃーねぇさ。俺たちにはもうどうしようもなかったんだからよ」

 沈痛な面持ちの新八の言葉に、銀時は事務所に戻っていつもの席についてジャンプを手に取った。
 そんな銀時に向かって、神楽が思い出したように彼に言葉を投げつける。

 「そういえば銀ちゃん。文の偽者にひょいひょい騙されてついていったらしいアルな。流石銀ちゃんね。このマダオが」
 「オィィィィィィ!!? いきなりそんな言葉はないんじゃない!? 銀さん危うく食されるところだったんですけどもぉ!!?」

 朝のうちに銀時と文がメンバーに事情を説明し、神楽はというと今更のように、そんな言葉を吐き出していた。
 あんまりといえばあんまりな神楽の発言に、銀時がついいつもの調子でツッコミを入れる。
 そんな様子が可笑しくて、文がクスクスと苦笑する。まったく、あんなことが会った後でもいつものように振舞える辺り、随分と図太い神経しているものだとある意味関心すら覚える。

 そんなことを思っていると、ふと、銀時がこちらに視線を向けたのに気がついて、文ははて? と首を傾げる。

 「昨日はサンキューな。おかげで命拾いしたぜ」

 そんな言葉を投げかけられて、文は一瞬何のことかわからずに思案していたが、そういえば、まだ御礼を聞いていなかったなと思い出した。
 まったく、律儀なものだと思いながら、いつものように文は笑みを浮かべた。

 「いえいえ、友人を助けるのは当然でしょう」

 満面の笑み。嘘偽りのない本心の言葉。それが、坂田銀時が彼女を信じる要因になった、いつかの宴会で聞いた言葉。

 「うわー、あんたが言うとなんか嘘臭いわね」
 「ほっといてください、不良天人」

 横手から上がった野次に、文は余裕のある笑みを浮かべたままそんな返答をする。
 それからはまたいつもの通り。騒がしくも面白おかしいいつものよろず屋の完成だ。

 なんてことはない。射命丸文にとって新聞が生きがいであるのとはまた別に。
 このよろず屋も、今の彼女には楽しくて仕方のないかけがえのない場所になっているだけのこと。
 そのことを、文が自覚しているかどうかは、この際別の問題なのかもしれないけれど。

























 多くの人が行き交う大通り。その人ごみの中に、ぽつんと佇む指輪を握り締めた女性。
 あぁ、と、熱のこもった息を吐き出すように、そして小さく小さく―――



 「食べ損ねちゃったなぁ」



 ポツリとそんな言葉を呟いて、女性が空気に溶けるように消えていった。
 誰もそのことに気がつかず、持ち手を失った指輪がカツンッと、アスファルトの地面に落ちて音を立てた。








 ■あとがき■
 どうも、白々燈です。今回の話はいかがだったでしょう?
 このSSの時期はまだ夏なのでテーマは【怪談】でした。しかし、オリジナルの怪談を書くのは予想以上に難しくて難航しましたけど、いかがでしょうか?
 なんというか、急ぎ足で描いてしまったので色々と説明が足りない気もしますけど……。(;・ω・)

 そういえば、体験版が起動しなかったので地霊殿は諦めていたのですが、試しに買ってみたら起動しました。やった!! これでお空にあえるぜ!! とかなんとか浮かれております。

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十話「私の○○に火がついた! っつーか○○て何だよ!!?」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/11/01 22:13







 「うーん、最近いいネタがないですねぇ」

 よろず屋のリビング兼事務所の机に手帳と紙を広げ、彼女、射命丸文はそんなことを呟いて首を捻っていた。
 そんな彼女の呟きを聞き、坂田銀時、志村新八、神楽、比那名居天子、鈴仙・優曇華院・イナバ、フランドール・スカーレットは揃って彼女に視線を向けることとなる。

 「この前の事書いとけばいいんじゃない? ほら、銀時と土方があなたの偽者に騙されて危なかったこととか」
 「いえいえ、新聞はあくまで客観の位置と立場でなければいけませんし、アレはモロに私自身が介入しましたからね。そんなわけで、アレは没なのです」

 フランの提案にも丁寧に理由まで沿えて、文はやんわりとそう断りを入れる。
 まぁ実際、あの時に文が介入しなければ、前回の事件で銀時は高確率で亡き者になっていたことだろうし、介入せざるおえないということもある。
 これが見ず知らずの誰かであったなら放っておくということでもよかったのだが、生憎、放っておくには銀時とは仲がよくなりすぎた。
 それはさておき、あの偽者のことを記事にする、という手もあったのだが、肝心のあの偽者のことがまったく未知な上に、裏づけも難しいこともあって結局は没となったのだ。

 「じゃあ、この間のデパート占領事件でも記事にすればいいだろーが」
 「うーん、それも考えたんですけどねぇ。私はその場にいませんでしたし、あの二人の証言とは別に犯人のコメントも欲しいところですね。記事にするには少し弱いんです」

 気だるげな銀時の声にも、文はそう言って再び気難しそうな顔をして考え込んでしまう。
 デパート占領事件、というのも以前、お空とお燐が人質になってしまっていたあの事件である。
 その時は諸事情もあり、あの場には駆けつけられず、そのため写真も用意できなかったし、事の次第を知ったのはとっくに犯人が逮捕された後だったのだ。
 と、いうより、あの時は正直事件がどうとか気にしている余裕がなかったといってしまえばそれまでだったりするが。

 「じゃあさ、アレでも記事にすればいいじゃない。かわいそうなたま……、……うんゴメン。やっぱなんでもない」

 途中まで言いかけて、天子は意気消沈した様子で言葉を紡ぐのをやめた。
 みんな、『何を?』とは聞かなかった。というより、聞けなかった。だって仲間だから、皆まで言わなくともわかってしまったのだ。
 そう、仲間なのだ。彼ら彼女らは、あの【かわいそうなたまご】の被害者なのだから。

 特に、あの不幸体質の青い鳥とか核融合万歳の地獄鴉とかは一時的な記憶喪失になるほどの被害を受けているのだし。
 ちなみに、撫子はというとあの一件以来、未だに高熱にうなされているとか何とか。

 まぁ、そんなことがあって以来、特に幻想郷の面々には絶賛トラウマとしてしっかりと根を張りつつある……つーより、むしろもげるものかと言わんばかりの勢いで根を張っているお妙の料理。
 特に、物理的にも精神的にも大ダメージ請け合いなシロモノなので人妖問わず大打撃である。

 ちなみに、どのくらい大打撃かって言うと、あの八雲紫ですら床を転げまわって悶絶したほどである。
 みんな恐れる【ダークマタ】。そんなものを記事にするほど文とて図太い神経していない。被害者じゃなかったら記事にしてたかもしれないが、それはさておき。

 「どうしますかねぇ」

 くるくると指先でペンをくるくると弄びながら、文はぼんやりと呟き、小さくため息をつく。
 記事にする内容が微妙にいい加減な(ように見える)のはともかく、書くとしたらしっかりと裏づけを取り、妥協しないのが彼女の新聞だ。そこら辺は、彼女の真面目な性格の表れだろう。
 もっとも、その真面目さゆえにこうやって新聞の内容に四苦八苦することも少なくないのだが。

 そんな風に悩んでいると、箪笥の一番下の段がひとりでに開く。と、言うことは幻想郷からの来客だろう。
 そして案の定、幻想郷とつながっている箪笥から出てきたのは、見覚えのある三人組だった。

 一人目は核融合地獄鴉、黒い髪に白と緑の服を着た少女、霊烏路空。
 二人目は死体を運ぶ火車、赤髪おさげのゴスロリファッションの火焔猫燐。
 そして三人目、心を読む妖怪、藤色くせっ毛の少女、古明地さとりの姿があった。

 「あれ? さとりさん。こんにちわ」
 「えぇ新八、こんにちわ。『どうしてこんなところに?』ですか? それは今から話しましょう」
 「うわぁ、相変わらずね。貴女って」
 「『いちいち心を読んで返答しなくてもいいのに』と、思われてもねぇ。こっちの方が手っ取り早いもの」

 にべもなく、相手の心を読んで会話を進めるさとりに、辟易した様子で鈴仙が言葉にするものの、わざわざ心を読んで返答する辺り、いつもの通りといえばそうなのかもしれない。
 そんなわけでお茶を用意しようとした新八を『心を読んで』あらかじめ断りをいれ、さとりはゆっくりと文の隣……、つまりはソファーに座った。

 「んで? わざわざオメェさんがこっちに来た理由は?」
 「真選組の屯所の場所は知ってる? 知っていたら案内して欲しいのだけど」

 さとりから出た言葉は、少なくともこの場にいたメンバーには予想外のものだったのだろう。
 少なくとも、さとりが真選組の面々と顔をあわせたのはいつかの宴会の一度だけである。
 そんな思いが顔に出ていたのか、それとも心を読んだのか、さとりは皆の疑問を晴らすように言葉を続けた。

 「以前、おくうとお燐がお世話になったみたいだから、そのお礼ですよ。それに、……お燐もあの土方という方に興味があるようなので」
 『え?』

 お世話になった、というのは以前のデパート事件のことだろう。しかし、その後の一言が、彼らの視線をお燐に集めるのには十分だった。
 当のお燐はというと、恥ずかしそうに顔を赤く染め、珍しく大人しくしていた。
 こんな反応をすれば、お燐が土方をどう思っているのかなんて一目瞭然というか、想像するのは容易だろう。無論、彼女もその例外ではなかった。

 (こ、これはもしやスクープの予感ですよ! 地獄の火車の恋の相手は人間!! 次の記事はこれで決まりですね!! 私の記者魂に火がつきましたよ!!)

 さっきの憂鬱な気分はどこへやら、スクープの予感に一気にハイテンションになる射命丸文。
 よっぽどネタに困っていただけに、ここでネタになりそうな話題が転がり込んできたのだから当然だろう。
 それに何より、人の色恋沙汰ほど面白いものもないとはよく言うし。と、内心でクスクスと笑ってみたり。

 ―――そんなんだから、恋人も出来ない耳年増なんて皆から言われるんですよ。(by椛)

 (うるさいほっときなさい椛)

 心の中で上司と部下な関係の白狼天狗にツッコミなどを入れつつ、彼女はその案内を買って出た。

 そう、全ては彼女の愛する新聞の為に。
 平たく言うと、これから起こるであろう有象無象の奇々怪々な珍事に期待を膨らませているだけだったりするが、それはこの際余談ということにしていただきたい。













 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十話「私の○○に火がついた! っつーか○○って何だよ!!?」■















 さて、そんなことがあったのが昼の一時ごろ。
 古明地さとり、霊烏路空、火焔猫燐の三人(?)は、射命丸文の案内で真選組の屯所に訪れていた。
 幸いにも休憩時間だったことが幸いしてか、土方十四郎、沖田総悟、そして最近では土方の副官のような立ち位置にいる魂魄妖夢も屯所に戻ってきているらしかった。
 そんなわけで、事情を話してから奥の客間まで案内してもらって今にいたるわけだが、ようやく彼らが現れたらしい。
 彼らが入ってくる様子を眺め、カメラを構えて部屋の隅で待機しているのはご存知、清く正しい射命丸文である。

 「雁首揃えて一体何の用だ? オメェ等がわざわざこっちに来るなんて珍しいじゃねぇか」
 「以前、うちの子たちがお世話になったようだから、そのお礼よ。危ないところを救っていただいたみたいで、心から感謝しますわ」

 座りながら流れた土方の疑問の声に、事情を説明してから礼を述べて、ゆっくりと頭をたれるさとり。
 そんな主の様子を見てか、お空とお燐も慌てた様子で彼女に習うように頭を下げる。
 それをどう思っているのか、顔には出さずにタバコに火をつける土方。彼が何をどう思っているのか、それはおそらく、心を読むことのできるさとりにしかわかるまい。

 「わざわざご苦労なこった。俺たちは仕事をこなしただけだ。礼を言われるようなことじゃねぇよ」
 「だとしても、二人を助けていただいたことは事実です。それに、お燐もあなたにお話があるようなので」
 「はぁ?」

 心外だとでも言わんばかりに、さとりの言葉に思わず素っ頓狂な言葉がこぼれ出る。
 そんな土方にはかまわず、さとりはお燐に席を譲り、それを悟ったお燐はというと緊張した面持ちで土方の前に座った。

 「お燐、がんばって」

 小声で、背中から親友のお空からの言葉が届く。
 それで少しは緊張が和らげばいいのだが、生憎そういうわけにもいかないらしい。

 「んで? 話ってなんだ」

 小さくため息をつき、しょうがないと語っているかのような表情で、お燐に話を促す。
 カチッこちに硬直し、顔を真っ赤にしながらなんと言っていいのか迷っている。そんなお燐の様子に、図らずも妖夢も沖田もよろず屋のメンバーと同じ事を想像したらしい。
 つまり―――

 (さぁ、いよいよ告白なんですね!! ファイトですよ!!)

 ―――部屋の隅のほうでいい加減な応援を送りつつ、シャッターチャンスを待っている鴉天狗と同じことをだ。
 そりゃまぁ、こんな反応をしている女の子を見れば大体の方が同じ事を想像するだろう。
 そして、いよいよ覚悟が決まったのか。「え、あれ? もしかして、あれ?」などとちょっぴり困惑し始めている土方に、お燐が言葉を紡ぎだし―――

 「あの、お兄さんの死体をあたいの猫車で運ばせてくれない!?」
 『そんな物騒な告白あるかァァァァァァァァ!!!』

 そして全てが台無しになった。そりゃもう、土方、妖夢、文に同時にツッコミを入れられたのがいい証拠である。
 というか、その発言だとどう考えても遠まわしに「死んでください」と言ってるようなもんだし。

 「引き締まった肉体に健康そうな体つき、タバコはまぁ減点対象だけども、お兄さんをはじめて見たときからずっと思ってたのさ。この人の死体をあたいの猫車で運びたいって。
 そして同時に思ったのさ。アタイの恋心に火がついた!!」
 「それは恋心って言うんですかお燐さん!!?」
 「そいつァいけねぇ、是非とも協力させてくんなせぇ!!」
 「オィィィィィィィ!! こっちのドSにも火がついてんぞぉぉぉぉぉ!!?」

 文がお燐に、土方が沖田にツッコミをいれ、完璧に先ほどの空気はすっ飛んでしまった。
 一方、我かんせずを貫いているのは、さとりとお空の二人。まぁ、お空のほうは我かんせずと言うよりよくわかっていないだけのような気もするが。

 「何を言ってんのさ鴉天狗! この胸に湧く使命感とドキドキワクワクする、なんというかこうやらないと落ち着かないコレッて恋心さね!!」
 「ソレはどう考えても職業病です!」

 ズバッとツッコミを入れて頭を抱え、心底疲れたようにため息をつく文。そんな彼女を視界に納め、自分の言い分が間違っていうるのかとちょっと悩み始めるお燐。
 いきなりネタがパーになったこともあって文の落胆振りもかなりのものであったが、そんな彼女の心内を知ってか知らずか、「まぁいいや」なんてのんきに口にして再び土方に向き直る。

 「それで、お兄さん。返答は?」
 「良いわけねぇだろうがっ!! 馬鹿かオメェ馬ッ鹿じゃねぇの!!? もしくは阿呆か!!?」
 「……まぁ、普通そう言う反応ですよねぇ」

 土方の反応を見てそう呟いたのは他ならぬ、現在は彼の副官を勤めている魂魄妖夢である。
 彼女も小さくため息をついて頭を抱え、「どうしてこう問題ばっかり起こるかなァ」と哀愁漂う言葉を漏らしていたりする。
 真選組といえども、色々と面倒なことは多い。そういったことに首を突っ込むことになることが大多数な彼女としては、ある意味当然の反応なのかもしれない。

 「じゃあさ、生きたままでイイからアタイの猫車に乗ってくれない? 地獄まで直行だから」
 「どっちにしろ良いことあるかァァァァ!!! つーか誰が乗るかっ!!」

 一応妥協したのだろう。妥協したのだろうが聞こえが悪いこともあってあえなく却下される。
 土方はしゅんと項垂れてしまったお燐を視界に納め、小さくため息をついて一息入れようとした瞬間―――

 ビュッ!! ズパァァァァァァン!!!
 「って、うぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!?」

 後ろから不意打ちで振りぬかれた一撃を、紙一重の差で転がり込むように回避した。
 不意打ちを仕掛けたのは無論、沖田総悟。彼の手に握られている刀は、今まで土方がいた場所を見事に通過し、刀身は床の畳を貫通してバックリと刀傷を作り出していた。
 避けてなければ、もれなく縦からバッサリ真っ二つになっていたこと請け合いな一撃に、土方がその下手人を睨みつける。

 「……チッ」
 「『チッ』!? 今『チッ』っつったかコラァァァ!! つーか、何しやがんだ総悟ぉ!!?」
 「嫌だなァ土方さん。俺はただそいつの願いをかなえてやりてぇだけでさぁ。それに土方さん。俺が土方さんを亡き者にしようとすんのは一種の職業病みたいなもんですぜ?」
 「そんな物騒な職業病があってたまるかァァァァ!!」

 たちまち言い争いに発展する土方と沖田。というより、一方的に怒鳴り散らしているのは土方で、沖田は涼しげに受け流していると取れなくもない。
 こちらに来てそれなりになる妖夢はというと、もうこの二人の言い争いにもいい加減慣れてきたのか、小さなため息をついて二人を無視してお燐に向き直る。

 「お燐、こっちの世界では基本的に人殺しは禁止されています。ですから、あなたのソレにはちょっと応えられないんですよ」
 「えぇ~、本当に?」
 「本当と書いてマジですね」

 呆れ顔で言ってのける妖夢に、もはや無理なのかと悟ったらしいお燐は、がっくりとうなだれて「それは残念」と小さく呟く。

 (あとでちゃんとそちらの方でもよく言っておいてくださいね)

 さとりの方を向きながら、妖夢は心の中でそう語りかける。
 普通なら、こんなことでは伝わるはずもないのだが、そこは心を読む程度の能力を持つ妖怪、古明地さとり。
 彼女の意図を理解したのか、淑やかな様子で首を縦に振った。
 とりあえず、これで一応は安心だろう。問題はこっちの土方VS沖田に発展しそうな争いをどうにかするぐらいだが、最悪は弾幕で黙らせることに決めて先ほどからがっくりと項垂れている文に視線を向けた。

 「面白いネタに出会えると思ったんですけどねぇ……」
 「それはまぁ、同情しますけど。大体、いつもいつも宴会に集まってるメンバーにそんな話が寄り付くと思てます?」
 「……いや、それは……まぁ、そうなんですけど」

 頬をぽりぽりと気まずげに掻きながら、そういえばそうよねぇなどと思い直す。
 妖夢の言うとおり、そう言うことに目ざとかったり興味があるような面々ならとっくにそう言う話の一つや二つは聞いてるだろう。
 強いて言えば、黒白の魔法使い霧雨魔理沙と、香霖堂の主人森近霖之助の話が多少話題に上がったぐらいだが、アレは結局兄妹のような感覚なのだろう。
 実際、霖之助は昔、魔理沙の実家で修行していたらしいので、その時の縁でしかないのだ。

 ……いや、まぁ今回のがそれに当てはまるかといえば違うと思うけど。

 「それでは、この間の事件のことを詳しく聞きたいんですけど!!」
 「……転んでもタダではおきませんよね、あなたって」
 「新聞記者はこの程度のことで嘆いていては務まりません!!」
 「まぁ、機密に関わらない程度なら……」

 後ろの騒音から逃れるように鴉天狗の話に乗る辺り、自分も大概アレだなァとは思いつつも、妖夢はひとまず鴉天狗の質問に答えることにした。
 後ろから聞こえてくる剣戟の音と、「おぉ~」だの「すごーい」だの火車と地獄鴉の声が聞こえたような気もするが、彼女はとりあえず知らん振り。

 後に、この争いは休憩のために帰ってきた近藤の手によって無事に止められるのだが、それはこの際余談である。

























 真選組の屯所からの帰り道、文はご満悦な表情で上機嫌に歩道を歩いていた。
 あれから妖夢や土方、沖田、近藤にそれぞれ色々な事件のことを聞き、ようやく面白いネタが集まったこともあって彼女はご機嫌だった。
 さとり達は途中で帰ってしまったが、まぁ大丈夫だろう。帰り道ぐらいはわかるはずだ。

 「いやぁ、まずはどれを記事にしましょうかねぇ。『将軍の大事なカブト虫、努力の甲斐むなしく踏み潰される!!』、それとも『親馬鹿ココに極まる! 彼氏とのデートを邪魔しようとした父親の一部始終!!』。
 うーん、どれも捨てがたいですねぇ」

 まさに選り取り見取り。今朝とは違う種類の悩みを抱えながらも、やはり上機嫌なのは相変わらず。

 「あやや?」

 彼女がそれに気がついたのはまったくの偶然だった。
 100mほどの先の道路に、急ブレーキをかけながら横転するトラックが目に映ったのだ。
 轟音を立ててまるでボールのように跳ねる巨大な鉄の塊。パニックに陥りながらも逃げ惑う人々。
 一際大きく跳ね上がったそのトラックの次の落下地点、その場所には―――


 くどい様だが、今の彼女は上機嫌だったのだ。それこそ、いつもならやらないような事もついついやってしまうくらいには。


 それを視界に納めた瞬間、彼女は人の流れを逆流した。
 そうなれば一瞬だった。人ごみをあっさりと掻き分けた彼女は、1秒とかけずにその現場に颯爽と駆けつける。

 その姿を見たものが一人でもいれば、「まるで風のようだった」と比喩するだろう。
 それほどまでに、彼女のその行動は風そのものであったのだ。

 頭上には今にも落下しようとするトラック。それには目もくれず、彼女は死の恐怖で縮こまっているソレを抱きかかえた。
 後はただ走るだけ。彼女は再び疾走し、風のように立ち去っていく。
 ある程度現場から離れたところで、彼女は急ブレーキをかけるように一本歯の靴を地面に擦らせる。
 爆発的な速度から急停止による衝撃の後、トラックが大地に打ちつけられた音が遠くから聞こえてきた。


 距離にして、現場から200mほど離れた地点で、ようやく彼女は静止した。
 ふぅっと小さく息を吐き、文は両手に抱きかかえた【少年】をゆっくりと下ろすことにする。

 「さてさて、お怪我はないでしょうか?」
 「え? う、うん」

 にこやかに語りかける文に、まだ状況が掴めていないのか戸惑ったように口にする。
 それをさほど気にしていないのか、そもそもこの少年に興味がないのか。文は「それは何よりです」と事務的に言葉にしてから少年のすぐ傍を通り抜ける。

 もともと、少年を助けたのは機嫌がよかったついでの気まぐれのようなものだ。だから、そのあとでこの少年がどうなろうと知ったことではない。
 だから、会話としてはそれだけで十分だ。気まぐれには気まぐれらしく、会話も適当にあっさりと引き上げたほうがいいだろうと、そう思ったのだ。

 「それでは、今度はお気をつけくださいね」

 にっこりと笑みを作って、最後にそう言葉を投げかける。
 あとはそのままつかつかと歩き出し、一旦しまった手帳に目を通し、思案にふけ始めたところを、「あの!!」と、少年のほうから言葉を投げかけられて、不思議に思いながら文は振り返る。

 「助けてくれて、ありがとう!!」

 一瞬、何を言われたのかよくわからなかった文だが、その言葉の意味が浸透すると、今度はにっこりと、作り物ではない彼女本来の笑顔を浮かべた。
 それは、本当に綺麗で、外見相応の少女らしい笑顔。

 「いえいえ、どういたしまして」

 だから、そんな言葉を返して、今度こそ少年とは別れて歩き出す。
 どこかこそばゆい感情を覚えながら、文は先ほどまでとは違った笑みを浮かべて、クスクスと苦笑する。
 なんだかもどかしくて、くすぐったいけれど、お礼を言われるのも悪くないと、そう思える、そんな温かい気持ち。
 先日、銀時にお礼を言われたときも、こんな感じだったなァと思い出して、文はどこか満足そうに目を瞑る。

 「たまには、こういう人助けっというのも悪くないものね」

 呟いて、彼女は上機嫌に歩みを進める。
 空は晴れ渡り、雲ひとつない快晴。
 これは、今日当たりに銀さんを誘って屋根の上で酒盛りでもしようかな? なんて思いながら、彼女は今日もかぶき町の街中を歩いていく。





 そして、この事が後に色々めんどくさい事態を引き起こすことになろうとは。
 このときの彼女は夢想だにしていなかった。





 ■あとがき■
 どうも皆さん、白々燈です。今回の話はいかがだったでしょうか?
 最近、中々忙しくなってまいりました。まぁ、そうはいいつつも地霊殿やってるんですけど。

 やった感想としては、以下に。

 【霊夢】
 使いやすいのは紫かな。あのショットが広範囲をカバーできて霊撃も文句無しで、特殊能力も緊急回避に使えますし。
 逆に、使いにくいけど使ってて楽しいのは文ですね。ショットがちょっと難しいですけど、いろんな角度から打てて霊撃も強力ですからね。

 自分は霊夢使うときは大体パートナーが文になってます。とりあえず文でノーマルはクリアしました。

 【魔理沙】
 使いやすいのはオーソドックスなにとり。霊撃も使いやすくて中々いいと思います。
 逆に使いにくいけど使ってて楽しいのはパチュリー。ショットの切り替えが楽しくて魔理沙使うときはもっぱら彼女がパートナーになってます。

 とりあえず、今のところイージーは霊夢、魔理沙共に全パートナーでクリアしてます。
 ノーマルは今のところ文のみ。

 EXは……、早苗さんはなんとか突破できるけどこいしが無理(;・ω・)
 最初のスペルカードでアウトでした。強いってばこいし。流石東方のEXボス。


 話は変わり、最近になってアドベントチルノネタが思いついたけど……、よくよく考えるとアレをネタにすると三次創作になってしまうので没に。
 見てみたい、という方がいるなら考えますけど……。そもそも、こういうのってやっぱりいけない気もするし。

 海のネタもそろそろイメージ固まってきたので、近いうちにでるかも。

 それでは、ちょっと短いですけど今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十一話「驚き楽しめ! 朱鷺色の読書革命!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/11/01 22:35








 クローゼットから繋がる別世界にて、どこぞの鴉天狗がネタを求めて地霊殿ファミリーを真選組屯所の案内に出かけたその頃、幻想郷のもとよろず屋では今日も今日とて珍客が訪れていたりするのである。

 「アオー、この間頼んでおいた本取りに来たんだけどー?」

 ノックもせずに無造作に開け放たれる引き戸の玄関。礼儀も何もあったもんじゃねぇご登場を披露して下さったのは、人間でも妖精でもなく、妖怪の少女である。
 両サイドと真ん中に藤色のメッシュが入った銀髪の少し短めなセミロング、淡紅色の翼に、頭部には後方に向かって翼とも鶏冠とも取れる赤い色のモノが特徴的な少女だった。
 藍色の着物を軽くはたきながら、返事も待たずにズカズカと中に入ってくるが、この家の現・主人はというと咎める事もせずに軽く手を挙げて答えを返していた。

 「おー、こにゃにゃちわー。朱鷺子ちゃん、お茶でもどない?」
 「なにそれ? こんにちわーでいいじゃん。それにしても、相変わらず人里に住んでるなんてさー、変わってるわよねぇ、アンタって。それから本」
 「鳥妖怪やのに本が好きな朱鷺子ちゃんには言われとぅなかったなぁ。それでお茶」
 「アンタだって鳥じゃない。私も鳥で鳥頭だけど、鳥の癖に無駄に物覚えのいいあんたに言われたくないわ。だから本」

 あっはっはーっと、さりげなくお互いの要求を押し通そうとする二人。
 もっとも、方や冷や汗、方や青筋を浮かべて、という微妙に感情の行き先の違う笑みを浮かべてはいたが。
 ちなみに、前者はアオ、後者は朱鷺子である。

 この朱鷺子という少女。ミスティアやお空のような鳥の妖怪の例に漏れず物覚えが悪い。
 だというのに、彼女は読書が好きだという珍しい趣味の持ち主で、読書に命を捧げる覚悟があるといっても過言ではあるまい。
 何しろこの少女、本を取り返すためにあの霊夢に喧嘩を売ったという、ある意味『輝かしくも間抜け』な経歴を持っていたりするのだ。
 そもそも、この朱鷺子という名前自体、もともと名などなかった彼女に、「名前がないと不便だから」という理由で呼ばれだしたあだ名のようなものだが、それはさておき。
 そんな彼女とアオが出会ったのはミスティアの屋台である。
 それから意気投合しては友人関係になり、今では朱鷺子が好みそうな本をアオが適当に見繕って、それを彼女に渡す。なんてサイクルが続くこともしばしばだ。

 さてさて、今回の朱鷺子が頼んだ本、というのも実は外の世界の書物らしく、人里でオークションにかけられていた品だった。
 残念ながらお金もなく、丁度事情もあったので、代わりにということで人里に住んでいるアオに頼んでおいた品だったのだが……。

 「ゴメン、アカンかった」
 「えー!!? そんなぁ……」

 力なくがっくりとうなだれたアオの口からこぼれた言葉に、朱鷺子もつられたようにうなだれることとなった。
 オークションという事は、人が集まればそれに比例して値段が跳ね上がっていくものだ。
 アオもそれなりに持ち合わせを持って向かったのだが、残念ながら彼女の手を出せる金額を軽々と超えて行ってしまい、どうしようも出来ない状態に陥ってしまったのだ。
 出せるものが出せなければ、当然ながら買うこともままならない。こればかりは文句をいっても変わらない。

 「ホンマごめんな? お詫びといっちゃなんやけど、ウチが取って置きの場所に連れて行って上げるから」
 「とっておき? どこよ」

 理不尽ではあるが、やはりどこか怒りが収まらないのか。そんな思いが表に表れているむくれた顔で、朱鷺子はアオの言葉に噛み付いてくる。
 正直、アレのせいで現在寝込んでいる同居人のことが気になりはするのだが、このままこの少女のことを放置するのはよろしくあるまい。
 自分に非があるならばなおのことだと思いなおし、そうして言葉にする。



 「ウチの友達のところ。きっと、朱鷺子ちゃんも満足するとおもうで?」











 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十一話「驚き楽しめ! 朱鷺色の読書革命!!」■















 「本だぁ?」
 「そうなんよー。銀ちゃん確か一杯もっとったやろ? ジャンプとか」

 まだまだ昼飯時といえる時間帯。そんな時間帯によろず屋に現れたアオの開口一番がそれだった。
 彼女にしては珍しいその物言いに、銀時は多少面食らったものの、彼女の後ろにいる見知らぬ少女の趣味か何かだろうと勝手に推測する。

 「確かに持ってるけどよ、別に俺じゃなくてもヅラの奴に言えばいいだろーが。アイツまだそっちにいるんだろ?」
 「そっちにはもう行ってきたんよ。そんで、何冊か薄いの貰ってはるんやけど、それじゃちょっと少ないからこっちに」

 そうアオが言うと、後ろにいた朱鷺子が本の入った真っ白な袋を銀時に見せる。
 確かに何冊かは入っているようではあったが、残念ながらどれもこれも薄い本ばかりなのか随分と軽いように見える。
 見ただけでわかるその薄さに、銀時はため息をつきながら少女……朱鷺子に視線を向けた。

 「中は見たのかよ? 一応、いいもんが入ってるかも知れねぇんだから、ちゃんと見てみろよ。気に入らないんだったら、古いジャンプならくれてやるから」
 「まだだけど……、ちょっと待って」

 銀時の物言いに朱鷺子は何か言い返そうとしたものの、一理あることも確かなのでしぶしぶといった感じに袋の封を切って、中身を取り出し―――

 ―――人妻マニアックス。
 ―――人妻萌えMIX。
 ―――人妻ギャラクティカファントムレヴォリューション。

 「人妻ァァァァァァァァァァァァァ!!!!?」

 スパァァァァン!! と、勢いよく本(有害図書)を床に叩きつけたのだった。

 「何考えてんのあのロン毛!! ふざけてんのあのロン毛!!? 何で全部人妻!!? 略奪婚でも狙ってんのぉぉぉ!!?」
 「と、朱鷺子ちゃん落ち着いて! つかツッコミ入れる場所色々まちがッとるよ!!?」
 「ていうかギャラクティカファントムレヴォリューションって何!!? 意味わからないし!!」
 「そこもちゃうよ!!? いや、確かに意味わからへんけど!!」
 「それ以前に女の私にエロ本渡すって何考えてんのよぉぉぉぉぉぉ!!!」
 「ってオィィィィィ!!! 今更そこにツッコミ入れるんかいぃぃぃぃぃ!!?」

 朱鷺子の絶叫にアオがなだめようと言葉をかけ、最後の絶叫に新八がツッコミを入ると、叫び疲れたのか、それとも羞恥ゆえにか。
 とにもかくにも、朱鷺子は顔を真っ赤にしてぜーはーと大きく息を繰り返す羽目になる。

 「まぁ、ヅラだしな」
 「そうヨ、所詮ヅラでしかないアル」
 「まぁ、ヅラだしねぇ」
 「どうせ素で入れた本間違えたとかそんな感じなんじゃないんですか、あの人のことだから」
 「あー、ありえるわね。ヅラってわりと天然入ってるし」

 そして彼とそれなりに面識がある彼彼女達はというと、まぁそういう事もあるわなァ的な空気で言葉を紡ぎだしていたりする。
 ちなみに、言葉にしたのは銀時、神楽、フラン、鈴仙、天子の順番だ。
 どれだけ彼がド天然に見られているのかといういい証拠のような気もするが、それはまぁさておいて。

 「アオー、今度あいつに会ったら一発ぶん殴っとけ。銀さんが許すから」
 「大丈夫や銀ちゃん。今度会ったら全力でリバーブロー叩き込んどくから」
 「いや、どうせならウ○ニング・ザ・レ○ンボー辺りをぶちかましとけ」
 「リングにかけるんやね? わかります」

 銀時にKO宣言を許され、気合の入るアオ。彼女、意外なことだが身体能力は決して悪くはない。
 いや、妖怪なんだから当たり前と言えばそうなのだが、身体能力が低そうに見えるのはその不幸体質ゆえか。
 事実、ジャブの練習をし始めたアオの腕はというと、常人には陰も見えないほど早いジャブが繰り出されている。当たったら一発で意識を刈り取れそうな勢いだ。
 そして心底どうでもいいことだが、ウ○ニング・ザ・レ○ンボーはアッパータイプである。決してジャブ系なんかではない。

 そんな中、天井からかちゃんと何かが降ってくる。丁度、朱鷺子の足元辺りに。
 怪訝に思いながら、朱鷺子はそれを拾うと、赤い縁にガラスがはめ込まれた道具だと認識できた。
 そして、その形状の道具を、彼女がよく行く香霖堂の主人が掛けていたものと同じだと思い至った。

 「眼鏡?」

 なんで室内の上から眼鏡なんて落ちてくるのかと、不思議に思いながら視線を上に向けると、なにやら変な人が視界に映った。
 藤色のロングヘアーに、白い着物にマフラー、ぱっと見は美人な女性だったが、片手に持った袋と天井に張り付いている姿がものすごく間抜けだった。少なくとも朱鷺子にはそう映った。

 「あれ? さっちゃんさん」

 その人物を知っているのか、新八が彼女の名前らしきものを言うと、その女性が身軽な身のこなしでスタッと着地する。
 その瞬間、銀時が思いっきり嫌そうな顔をしていたりするが、その事に気がついた奴はいなかった。

 「どうしたんですか、今日はいきなり?」
 「愚問ね。なんとなく銀さんに呼ばれたような気がしたからココに来たのよ。それにしてもどういう事なの銀さん!! こんなに女の子を一杯たらし込んで!!
 私との関係は遊びだったのね!!? 何よ、燃えるじゃない!! むしろ萌えるわ!! そうやって私の愛を試しているんでしょ!? そうなのよね銀さん!!」
 「……あのさー、ガックンガックンさっきから揺らしてるんだけどー、それ私なんだよねー。銀時とかいう人間はあっちなんだけどさー。おーい、聞いてる馬鹿女ー?」

 なにやら勝手なことを口走り始めたさっちゃんこと猿飛あやめ。
 彼女は元お庭番衆のくノ一で、現在は不正な手段で金を受け取る悪党を裁く始末屋として働いている……のだが、そんな彼女が現在ガックンガックンと脳みそシェイクしている人物は銀時ではなく朱鷺子である。
 彼女、残念なことに眼鏡がないとまったく人が判別できないらしい。オマケに耳まで遠くなるという悪循環つきである。
 そんな彼女を見かねて、新八が拾ってきた眼鏡を彼女に渡し、それを受け取ったあやめは改めて自分が引っつかんでいる少女を見る羽目になった。

 「……あなた誰? それにその格好、コスプレ?」
 「ムカァァァァァ!!! 何なのよコイツ!!?」

 侮蔑の視線交じりに冷静にそんなことを告げられて、たまらず叫ぶ朱鷺子だったが、アオが何とかなだめて殴りかかろうとしたところを何とかこらえさせる。
 そんなやり取りを傍から見ていたフランが「また濃い人が来たわねー」などと呟いていたりするが、皆には聞こえなかったのか誰も答えない。

 「それで、銀さん。どういうことなの?」
 「どういう事も何もただの居候だ馬鹿ヤロー。知り合いからしばらく預かってくれって頼まれてんだよこっちは!!」

 妙な疑いかけられて半ギレな銀時。それに納得したのかどうかは知らないが、あやめは辺りを見渡してよくよくここにいるメンバーを眺め見る。
 んでもって、ポツリと一言。

 「銀さん、まさかロリコンだったなんて。オマケにあんなマニアックなコスプレまで。何なの、あの木の枝みたいな羽?」
 「帰れぇぇぇぇぇ!! 今すぐ帰れぇぇぇぇぇ!!!」

 フランに目が留まった瞬間にそんなことをほざき始めた辺り、やっぱり理解しちゃいなかったんだろう。
 当然のごとくぶち切れた銀時だったものの、そんなことを言ったってこのあやめ、生粋のドMである。喜ばせるだけで実はまったく解決にならなかったりする。

 流石に事態が収集しそうになかったのか、新八が事情を説明し始める。
 それでどうにか事情を理解したのか、……まぁまだ怪しいところはあるが、それでもどうにか落ち着いたようだった。
 とにもかくにも、このドM忍者、銀時が絡むとてんで駄目になるのであった。
 ……ワリと普段でも駄目人間だけど。

 「ふーん、つまり、あなた本が欲しいのね」
 「……そーよ」

 事情を聞いたあやめの言葉に、むすっとむくれた様子で答える朱鷺子。まぁ、彼女にしてみれば初対面からして印象が最悪だっただろう。
 こんなに無愛想な反応なのも仕方がないのかもしれない。そんな彼女を抑える役目に徹しているアオも、それなりに苦労しているだろう。

 「それなら、このあと捨てるつもりだった本ならココにあるけれど、それでいいなら上げるわ」
 「ホント!!?」

 その言葉を聞いて、途端にパァッと顔を輝かせる朱鷺子。
 本がもらえるかもしれないというだけでこの反応だ。根っから本が好きなのがこの反応だけでうかがえるというものだ。
 今まで持っていた袋を彼女に手渡し、それを半ば引っつかむ形で受け取ると、中身を引っ張り出す。

 ―――開運、Mッ娘クラブ。

 「エムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 スパァァァァァンっと、本日二度目の有害図書叩きつけをご披露なされる朱鷺子さん。
 まぁ、あんまりといえばあんまりな展開だが、彼女のことを知っている方々は「あー、やっぱりか」とか妙な納得をしておいでだった。

 「ねぇ、銀時の知り合いって変な人ばっかりね。類は友を呼ぶっていうけど、お姉さまが興味を持つわけだわ」
 「なんですかその変な納得!!? スッゲェ嫌な納得のされ方なんですけど!!? つーかオメェは自分の姉ちゃんどういう目で見てんの!!?」

 フランからのものすごく嫌な納得にたまらず声を上げる我等が銀さん。
 というか、さりげなく自分の姉に対するどく発言が混ざっている辺り、微妙に神楽の影響を受けているいい証拠なのかもしれない。
 というかそれよりもだ、いい加減朱鷺子がかわいそうになってきた。そろいもそろって出されたのは有害図書だし。
 銀時は「しょうがねぇ」と小さく呟いて、重い腰を上げて自分の部屋に足を向ける。その最中、

 「何よあなた。頭を犬に噛み付かれて喜んでるなんて、ドMの地位は私のものなのよ!」
 「馬鹿いわないでよ、私だってドM属性なのよ! それにあなたと一緒にしないで頂戴よ、一応S属性だって持ってるんだからね、このメス豚眼鏡!!」
 「何よ!! ありえないわ!!? SとMだなんて、そんなハイブリットな完全無欠超人なんて!!? 自給自足できちゃうじゃない!!」

 そんなかぶき町のドMと幻想郷のドMの醜いどころか係わり合いになりたくない争いはスルーして、目的のものを見つけるとそそくさと戻ってくる。
 その彼の手には、少年の夢と希望とその他色々なものが詰まった書物、ジャンプの束があった。

 「ほれ、朱鷺子。これ」
 「……ジャンプ? なによこれ」

 ギャーギャーと罵りあいをBGMにして、ジャンプに手を伸ばして一冊だけ読んでみる。

 その瞬間、彼女の目は驚きに見開かれ、やがて食い入るように読み始めたのだ。

 元々、彼女のような妖怪は書物と言えば、物々交換だとか、あるいは廃屋の中に残されているものを拝借するなどでしか入手するほかがない。
 だからか、自然と読む本は文字の多く、絵があったとしてもおまけ程度の本しか読んだことがなかった。
 ところがだ、彼女の読むジャンプは絵がメインであり、それも物語が話として綴られている。人を魅せるその絵と文字の描き方は、彼女にとっては初めてのものだったのだ。
 幻想郷には、生憎漫画の類はない。あったとしても、紅魔館の地下の図書館に数冊紛れ込んでいるか、あるいは香霖堂にぐらいにしかないだろう。

 物覚えの悪い鳥妖怪の彼女にですら、鮮明で覚えやすく、オマケに楽しいときた。
 もっとも、朱鷺子の場合、本の内容を覚えることより【本を読む】という行為自体を楽しんでいたところがあるので、ある意味ではこういった漫画はうってつけだったのかもしれない。

 そんなに熱心に読んでいたのがよほど可笑しかったのか、銀時は苦笑して彼女に言葉を投げかける。

 「読みたくなったんなら、何時でも来な。そんなんでよけりゃ、何時でも読ませてやるよ」
 「ホントに?」
 「あぁ、遠慮すんな」

 実質、ジャンプを読む仲間が増えて嬉しいという感情も少なからずあっただろう。
 だが、それを差し引いても彼女の熱心に本を読む様子は微笑ましいところがあったし、銀時にも彼女を拒む理由は無い。
 その申し出を受けるか少し悩んだあと、朱鷺子は満面の笑顔を浮かべて、そして言葉にする。

 「ありがとう」

 どこか照れくさそうに、頬を赤く染めた彼女だったが、その様子がまたみんなの苦笑を誘って、マタ照れくさそうにする悪循環。
 でも、そんな悪循環も、どこか悪くないなァと、そんなことを思うのも事実だ。

 不思議だ。自分は妖怪で、コイツは人間で、でも不思議と嫌な感じはしないのだ。
 もちろん、最初は嫌な事があったが、これはこれできっとコイツらしいのだろうと、そう思う。

 それが、朱鷺子の思ったこと。彼女自身、らしくないことだとは思いながら、今はただ照れ隠しにジャンプに視線を移すことでやり過ごすことにした。
 これを読ませてもらってるお礼に、たまに手伝ってやってもいいかな、と、そんなことを思っていたりもするが、それを何時いうか悩みどころだ。完全にタイミングを逃してしまったし。
 まぁ、いいかと深く考えずに、また本を読むことに没頭する。時間はたっぷりあるし、帰り際にでも言えばいいやと納得して、本を読みふける。
















 「何よ!! あなたに私の何がわかるっていうのよ!!? いいわ、もっと罵りなさい!!?」
 「何度でもいってやるわメス豚眼鏡!! 貴女にはMとしての気品も自覚も愛情も足りないのよ!!」

 まぁ、モノのついでにあの醜い争いから耳を背けたかったと言うのも理由としてはあったが、それは内緒である。







 ■あとがき■
 どうも、遅くなりましたが第11話を投稿させていただきました。
 今回の初登場は
 東方香霖堂より、名無しの本読み妖怪こと朱鷺子。
 銀魂よりドM忍者の猿飛あやめ。
 の両名に登場していただきました。朱鷺子さんは知ってる人少ないんじゃなかろうか?
 実は東方香霖堂は読んだことないので、性格に関しては完全に二次たよりになってしまいましたが、いかがでしょうか?

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十二話「恋って甘くて酸っぱい味がする!?」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/11/06 19:49







 「ただいまー」

 玄関の戸を開け、よれよれなウサギ耳をした少女が長い髪をなびかせてよろず屋に入ってくる。
 その少女、鈴仙・優曇華院・イナバに気がついた眼鏡をかけた少年、志村新八が彼女に視線を向ける。
 彼女、暇さえあればご近所の病人やけが人などに薬を売ったりして生計の手助けをしていた。
 彼女の師匠、八意永琳の作った薬だし、当然効き目もよく、なおかつ安価ということでそれなりに評判にはなっていた。
 そんな仕事帰りの彼女をねぎらうように、新八が彼女に言葉を掛ける。

 「おかえり、鈴仙ちゃん。どうだった?」
 「軽い風邪ね。薬も一週間分渡してきたから大丈夫……と、客さん?」

 いつものメンバーが寛ぐリビング兼応接間にたどり着いたところで、一人の少年が座っているのを見つけ、小声で彼に問いかける。
 新八は声に出さず頷くことで肯定してみせると、お茶を用意するために台所の奥に引っ込んで行く。
 その後姿を見つめ、見えなくなったところで件の人物に視線を移してみる。

 (ふーん、随分裕福そうだけど……)

 一人言葉に出さず、そう思いながら少しばかり観察してみる。
 年のころなら12~14歳ぐらい。明るい茶髪のショートカットに黒色の瞳。
 着物が上質なものであるのが素人目に見てもわかる辺り、それなりに裕福な家の出であることは想像するのには難くない。

 「人探し?」
 「はい。黒髪のセミロングで、真っ赤な瞳が印象的な人だったんですけど……。なんか、こう物語の天狗みたいな帽子と靴も特徴的でした」

 それほど鮮明に思い出せるのか、少年はどこか事細かにその人物の特徴を挙げていった。
 挙げていったんだけど……、その特徴を聞いてどんどんやな予感が膨らんで行くよろず屋メンバー。

 視線をフランと神楽に視線を移す鈴仙。すると、彼女たちも計ったように鈴仙に視線を向け合っていた。

 (ちょっと、まさか……。この子が探してる人って)
 (間違いないアル。文に決まってるヨ)
 (特徴が合致しすぎだものね。まず間違いないわ)

 鈴仙、神楽、フランの三人がものの見事にアイコンタクトを成立させる。
 あの破天荒で自由気ままな彼女のことだ。何かえらいことをやらかしちゃってるのかもしれない。
 そんな三人のやり取りをよそに、銀時は浮かない顔をしたまま小さくため息をつく。彼も、この少年の探している人物に心当たりがあるだけに、一体どうしたものかと思案しているところに―――

 「銀さーん、清く正しい射命丸が只今帰りましたー!」

 件の人物が帰ってきた。しかも、いつものように窓から、である。
 すさまじくタイミングの悪い帰還に、全員が内心頭を抱えていると、少年が「あーっ!!」と大声を上げた。
 その一言に、今度は内心でなく実際に頭を抱えるメンバーと、今まで台所に引っ込んでいたが為に、その大声の理由に気がつかない首を傾げる新八、そして指を指されながら少年の視線を受けている文はというと、事情がわからずキョトンと首を傾げる羽目になった。

 「あややや? どこかでお会いしましたっけ?」
 「一昨日のこと覚えてらっしゃいますか? その時にあなたに助けてもらった……」

 そこまで言葉にされて、「あぁ」と納得したように文が言葉を漏らす。
 そういえばそんなこともあったわねぇ、などと思考しながら、目の前の少年を視界に入れると、その時の記憶が徐々に甦ってくる。
 なにせ、正直気まぐれの産物のようなものだったし、それ以上に新聞を書き上げるほうが彼女には重要だったこともあり、すっかり忘れていただけのこと。
 まさか、こんなところで会うことになるとは思わなかったけれど……と、内心で思いながら埋没していた思考を現実に引っ張りあげる。

 「それで、一体どんな御用でしょう?」
 「はい。改めて御礼を言いたくて……、本当に、ありがとうございました。それと」

 そこで一旦言葉を区切り、少年は深く息を吸って深呼吸する。
 急に顔を赤くして、なにやら口の出そうとするが、中々うまくいかないようでもう一度深呼吸する。
 突然挙動不審になった少年を、一体どうしたのかと思い始めた瞬間。



 「ぼ、ぼぼぼぼぼ僕と付き合ってください!! お願いします!!!」



 そんな、トンデモネェ爆弾発言を投下してくださったのでした、マル。







 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十ニ話「恋って甘くて酸っぱい味がする!?」■















 「ねぇ、銀さん。これってさ、出歯亀って言うんじゃ……」
 「しーっ!! 声が大きいっつーのウドンゲ!!」
 「銀時も五月蝿いってば!! 静かにしなさいよ!!」
 「オメェも五月蝿いネ!! そして私も五月蝿いアル!!」

 鈴仙の声を聞き、それ以上の音量で銀時が声を出し、それに続いてまたそれを上回る音量でフランがツッコミを入れ、またもやそれ以上の音量で神楽が他のメンバーと自分自身にツッコミを入れる。
 そんな変な流れ作業を終えてその事実に気がついたのか、揃って口に手を添える三人。
 その光景を視界に納め、鈴仙と新八が同時にため息をついて目の前の光景に視線を移した。

 視線の先、そこにはカフェで楽しげに談笑する少年と、射命丸文の姿がある。

 「……なんでこんなことになってるんだっけ? ていうかこのサングラス怪しいだけだから意味無いって」
 「馬鹿いうんじゃないアル、うさ公。こういう事やるときはサングラスするもんだと相場が決まってるアル。世界の摂理ヨ」
 「どんな世界の摂理!? そんな偏った摂理があるわけないじゃん!!!」
 「新八、五月蝿いってば」
 「あ……、ゴメン」

 恐ろしい偏見を言葉にされ、思わず現状を忘れて新八がツッコミを入れるが、フランにジト目で言葉にされて反射的に謝る。
 そんな光景を視界に入れて、鈴仙は小さくため息をつく。これだけ騒いでいて目立たないわけがなく、通行人が何事かとこっちにちらほらと視線を投げかけてくるのだ。
 ぶっちゃけると恥ずかしい。オマケに、フランにいたっては日傘まで差しているのだ。
 目立つ上に怪しいことこの上ない。それなりに離れた位置にいるとはいえ、少なくとも文のほうは気付いているだろう事は想像するに難くないし。

 今朝の少年の爆弾発言。大本をたどればそれなのだが、今この状況にはいささか訳があった。

 「即答で『お断りします』だもんなぁ」
 「立ち直れませんよね、普通」

 ポツリと呟いた銀時の言葉に、その言葉の意味を察した新八が冷や汗流しながら眼前の光景に視線を向ける。
 銀時の言葉の通り、少年の告白をあっさりと断った文だったのだが、当のふられた少年は意外にもすばやく立ち直り「じゃあ、今日一日だけデートしてください!!」とかのたまったのである。
 これには文も少しだけ考え込み、しばらくしてから「今日だけという約束ですよ」と、念押ししてからOKを出して出て行ったのが三十分ほど前。
 その後、全員が出歯亀根性丸出しにして後ろをついてきて今現在にいたるというわけである。

 「即答で断ったワリには楽しそうアル」
 「あの鴉天狗のことだし、内心どう思ってるかわかんないと思うけど」
 「笑顔の仮面って奴ね」
 「笑顔の覆面でもいいわ」

 神楽がポツリと漏らした言葉に、鈴仙がため息交じりに答え、その言葉に便乗するようにフランが言い、鈴仙もまた言葉を返す。
 そんな幻想郷のメンバーならではの言葉のキャッチボールを交わしつつ、一日限定デートを楽しんでいるらしい二人を遠巻きに眺め続ける一同。
 最近、依頼もなく鬱憤も溜まっていたというのもあったのだろう。皆等しくして、こんなことをやっている辺り大層暇であったのである。
 年がら年中暇だという話もないわけではないけど。

 (はぁ……、なんでこんなことしなくちゃいけないのかなァ。恥ずかしいし、みんなこっち見て―――)
 「ぶっ!!?」

 いい加減恥ずかしくなってきたのか、鈴仙が少し顔を赤くしながら辺りを見回し、人垣の中から歩いてくる存在を視界に納め、たまらず噴出してしまう。
 いきなりのことで何事かと鈴仙に視線が集まるものの、残念ながら今の彼女にはその事に気付けるほどの余裕はなかったりする。

 「如何したアルか? お前の裸の写真でも路上に落ちててびっくりしたアルか?」
 「どんな可能性提示してるの!? 常識的に考えてありえないし!!? そーじゃなくて、あそこ!!」

 もはや大声になっていることにすら気がつかない鈴仙がビシッと指をさした一角。
 怪訝に思いながらもみんながそっちのほうに視線を移し、目を凝らしてみると―――

 最凶、もといアルティメットサディスティッククリーチャーこと、四季のフラワーマスター風見幽香の姿がそこにあったのである。
 しかもだ。ばっちりこっちに視線を合わせ、にっこりと微笑みながらつかつかとこっちに歩み寄ってくるではないですか。おう、ガッデム。
 すた、すた、すた、ピタリっとグラサン掛けた怪しい一団、つまり銀時たちの前で立ち止まる。

 「な、なにしてるの?」
 「それはむしろこっちの台詞なんだけど?」

 ハイまったく持ってその通りですね。と、おもわず心の中で全力肯定。
 知り合いに見つかったことへの気恥ずかしさから、俯いて手で顔を覆っている鈴仙を尻目に、神楽が「姉御、アレを見るアル」とか指差して彼女の視線を文と少年に向けさせる。
 それで大体の事情はわかったのか、「なるほどねぇ」などと納得して銀時たちに向き直る。兎はまだ俯いたままだけど。

 「幽香さんはどうしてこっちに?」
 「そうねぇ、桜の木の下に埋まっているものを確かめに来たとでも言っておきましょうか」

 クスクスと冗談交じりにはぐらかすようにそんなことをいい、愛用の日傘をくるくると回す。
 まぁ、簡潔に言えば暇つぶしであるという事なんだが、それをこういう風に回りくどく言うのも彼女らしい一面だろう。
 それに、こういう言い回しも暇つぶしの一つなのだ。ちょっとした言葉遊びである。

 「なんだオメェ、桜の木の下には死体が埋まってるとか信じてんの?」
 「いいえ、そんなことあるはずないじゃない。それに、以前試してみたこともあるけれど、死体なんて埋まっていませんでしたわ」

 クスクスと苦笑を零しながら、銀時の言葉に答える幽香。
 それから満面の笑みを浮かべ、日傘の影響で目元辺りまですっぽりと影が覆う。

 「ちゃんと生きてたもの」
 『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 いきなり飛び出したドスの利いたホラーな一言に銀時と新八大絶叫。もはやこいつ等、デートのあとを付けていることを完全に忘れ去っている反応である。
 ……まぁ、確かに。桜の木の下に死体じゃなくて生きてる人間が埋まっていたらそれはそれで怖いものがあるけど。
 ついでに傍にいた鈴仙がその絶叫のおかげで耳を押さえる羽目になったがそれはさておき。

 「ねぇ、神楽。天狗と人間、どこか行っちゃったよ?」
 「マジでカ!?」
 「まさか、ばれちまったか!!?」
 「アレだけ騒いでばれなかったほうがむしろ不思議ですけど」

 鈴仙のツッコミもごもっともである。まぁ、それはともかく、フランの一言がきっかけで文と少年がカフェから姿を消したのを知り、慌てて辺りを見回すが見つからない。

 「定春!!」
 「ワンッ!!」

 神楽の声に答え、傍の芝生に(体だけ)隠れていた巨大な白い犬、定春が元気よく飛び出してくる。
 言わずもがな、定春の存在も彼らが注目を一身に集めていた要因の一つだったりする。だって定春もグラサンしてるし。
 あらためて見るとものすごく目立つ集団である。

 「定春、匂いで文を追うアル!! 見つけ出したらイチゴ牛乳飲ませてあげるヨ!!」
 『それは駄目ッ!!!!!!!!!』

 神楽の定春に対するその報酬に、前回の嫌な記憶が甦った銀時と新八が声を張り上げる。
 もう二度と、前回のような騒動はゴメンな二人なのであった。






















 「まったく、銀さん達は何をやってるんだか……」

 頭痛をこらえるように頭を抑え、銀時たちを撒いた文はそんな風に言葉にしてため息をつく。
 まさか、全員で追跡してくるとは思いもよらなかった。どんだけ暇なんですかあなた達、と思わずツッコミを入れたい気分にかられてしまった。
 実に不覚である。なんかもう色々と。

 「面白い人たちですね」
 「まぁ、面白い人たちといえばそうですけど」

 むしろアレではただの間抜けではなかろうか? とも思わなくもない。
 少年の言葉にそんなことを思いつつ、文は今の状況をそれなりに楽しんでもいた。
 デートというのも初めてのことではあったし、こうやって気兼ねなく体験してみるのも悪くはない。
 少年の話もつまらない、という事もないし、興味深いことも聞けたとあって、それなりに有意義なものだとは思えた。
 さて、次はどこに連れて行ってもらえるのかと思考して不意に、少年が文に問いかける。

 「お姉さんは、天人(あまんと)なんですよね?」

 その言葉に、一瞬あっけに取られる。
 そういえば、自分達はこっちではそういうことになっていましたね、などと今更のように思い出す。
 背中の翼があっても、こっちではどこかの天人(あまんと)としてしか認識されないし、困ることもないのでそれで通しているものだからすっかり抜け落ちていたのだ。

 「まぁ、そうですね」

 当たり障りのないように言葉を返し、文はなんと無しに少年に視線を送る。

 「僕、お姉さんに助けてもらうまで、天人(あまんと)って嫌いだったんです」

 ポツリと呟いて、少年は苦笑する。
 それに文は、まぁそう言うこともあるでしょうねぇと思いながら、文は少年の言葉に耳を傾けた。
 もはやすっぽりと自分が天人(あまんと)という扱いになっているという事を忘れている反応だが、まぁそれを気にしていないといえばそれも文らしいように思う。

 「天人(あまんと)って、僕のお父さんを、お爺ちゃんを殺した人たちだったから、凄く、凄く嫌いだったんです」
 「むむ、という事はあなたのお父さんと、お爺さんは」
 「侍、でした」

 いささか、声のトーンが落ちたような気がしたが、きっとそれは気のせいではなかったのだろう。
 侍の国。この国がそう呼ばれていたのは、はるか昔。
 それは、かつて銀時から聞いた言葉。その時戦争が起きて、多くの侍達が死んでいったという事も、聞いた覚えがある。
 一体、どれだけの侍達が亡くなったのか、本来この世界の住人ではない文には、ただ想像することしか出来ない。無論、少年の心内も、彼本人にしかわかるまい。

 「天人(あまんと)はみんな嫌いで、ずっとずっと毛嫌いしてました。でも、お姉さんに助けられて、思ったんです。天人(あまんと)も、みんながみんな、悪い人ばかりじゃないんだって。
 今日、お姉さんとずっと一緒に居て、話をして、そう思えたんです」

 少年の続ける言葉。その言葉を聞くたびに、少し、ほんの少し、文の良心が呵責に悲鳴を上げる。
 自分は天人(あまんと)ではなく、妖怪。彼を騙していることに他ならない今の自分。
 だから、少し、申し訳なく思う。だけど、今それを言うことは戸惑われた。

 「今日は、本当にありがとうございました」

 すっと、早歩きで少年は文の前に躍り出て、そんな言葉を紡ぎだす。

 「もう、いいんですか?」
 「はい。今日は、僕のわがままで時間をとらせて、申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げて、文の言葉に少年が答える。
 自分は、なんと言葉を掛けるべきなのか、どんな言葉を言えばいいのか、長く生きてきたくせに、ちっとも思い浮かばない。

 「お姉さんは、僕の命の恩人で、初恋の人でした。でも、―――お姉さんは、僕の隣で笑っているより、あの場所で笑っていたときのほうが、ずっと楽しそうだったから」

 少年のその言葉が、文にはどのように届いたことか。
 彼女にとって見れば、彼に見せた笑顔も、よろず屋にいるときの笑顔も、同じものだと思っていた。思っていたけれども、少年は、よろず屋にいるときのほうが楽しそうだと、そんなことを言う。
 それが少なくとも、文には衝撃的な一言だった。

 「そうですかね?」
 「そうですよ」

 まるで当然と、そういわんばかりに少年は言う。
 それが可笑しかったのか、お互い苦笑してしまい、文は少年に言葉を投げかける。

 「困ったときは、何時でも相談してください。よろず屋銀ちゃんをご贔屓に」
 「はい。さようなら、お姉さん」

 人通りもまばらな道で、二人は別れる。手をふって、少年の姿が見えなくなるまで、その後姿を眺め続けた。
 






 やがて、その姿が見えなくなると、文はふと、後ろから迫ってくる気配に気がついて振り返る。
 あらためて見ると、全員がサングラスをしているという状況に、思わず笑いがこみ上げてくる。
 あぁ、確かにあの子のいうとおりだ。自分は今、ああやって誰かと二人っきりでいることよりも、この騒がしい輪の中にいることの方が楽しく思えているのだから。

 「何やってるんですか、皆さん」

 苦笑を零しながら、文は彼らに歩み寄る。
 みんな口々に何か言っていたが、それが間の抜けているような、それでいて暇人丸出しの台詞もあって、それに新八がツッコミを入れたりして。

 彼らとのやり取りが、こんなにも楽しく思い始めたのは何時の頃からか。それはもう思い出せないけど。
 やっぱり、自分はこの場所がすきなのだと、あらためて文は認識することになったのだった。








 ■あとがき■
 最近、色々とスランプに陥ってたりします、白々燈です。
 まいった。参りましたよ。書きたいことの5割も書けなかった。大問題ですチクショウ。

 まぁ、それはさておきまして、今回の話はいかがだったでしょうか?
 本当はこの話、壊れギャグになるはずだったんですけどねぇ。真選組とかも登場する予定でした。
 ふたを開けてみればまったく違う話になってしまったという罠が待っていましたが。


 それでは、今回はこの辺で。次回は多分、うどんげメインの話かも。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十三話「幻視の夜はまるでダメなオッサン。略してマダオと共に」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/11/10 21:15








 ぎらぎらと輝く真夏の太陽。
 そんな太陽にも負けずに、元気にはしゃぎまわる子供達の声が耳に届く。
 それが元気の活力剤―――に、なるはずも無く、鈴仙・優曇華院・イナバは力なく公園のベンチに腰掛けていた。

 「こんな暑いのに、子供がはしゃぐのはどこの世界でも同じなのね」

 一人呟いてみても、この夏特有の暑さは誤魔化せず、うっすらと滲んだ汗が気持ち悪くて辟易する。
 汗で半袖のカッターシャツが張り付き、それを少しでも誤魔化そうと手のひらでパタパタと扇いでみるものの効果は無し。
 そんな彼女の隣に、がっくりと項垂れた男性が少し距離を開けて同じベンチに座った。
 サングラスの奥の瞳はまったく持って見えないが、その様子からしてあまりいい目はしていないだろう。

 「どうでした、就職活動?」
 「……あぁ、今日も全滅さ」

 あぁ、やっぱりか。とは口にせず、「そうですか」とだけ返して鈴仙は明後日の方の空に視線を移してパタパタと手を動かして自身に風を送っている。
 長谷川泰三、それが坂田銀時の友人でもある彼の名であった。
 彼はかつては幕府の入国管理局局長だったが、とある不祥事を起こしクビにされ、現在はあらゆるバイトを転々としながら生活を送っている。
 ちなみに、この不祥事に当の銀時が深く関わっていたりするのだが、それはこの際余談である。

 「もうさー、何かやんなるよなー。俺いまスッゲー空を飛びたい気分だ。さよなら大地、さよなら白い雲、サラバ酸素」
 「いやいやいや、酸素は待ちましょうよ」

 中々にメタな発言をし始める長谷川にツッコミを入れる。
 末恐ろしいことだ。今年の真夏の暑さは人の意識を大気圏突破させるには十分らしい。
 自分も気をつけなければと心に刻みつけながら、彼女は憂鬱を隠そうともせずに、掌で目元に影を作りながら空で燦々と輝く太陽を睨みつける。

 「大体さぁ、なんで俺だけこんな役回りなの? 俺と声がそっくりな他の奴等と差が凄くない? 俺だって他の奴等に負けねぇっていうのにさぁ。是非とも勝負したいよ」
 「そうですか。じゃあザラキ(更木)さん呼んできますね」
 「やめてぇぇぇぇぇ!! そんなの呼ばれたら間違いなく死亡フラグじゃん!! 剣八君は無理だってば!! 何、そのピンポイントで恐ろしいチョイス!!? せめて碇さんにしよう!!?」

 そんな間抜けなやり取りも暑さを紛らわすために、ついでといっては何だが憂鬱な気分を誤魔化すのにも悪くは無い。
 自動販売機で買った缶ジュースをグビッと喉に流し込みながら、ぼんやりと長谷川に視線を向けると、彼は彼で相変わらず求人情報誌を片手に項垂れたままだった。

 「私も、人付き合いとかうまくいかなくて……。慣れないんですよねぇ」
 「そっか、ウドンちゃんも大変だなぁ」
 「ウドンちゃんって言うな」

 ジト目で睨みつけながら、小さくため息。いったい何時から自分は師匠以外の奴等にウドンゲとか呼ばれるようになったのか。間違いなく銀髪糖尿病寸前が原因のような気もするけど。

 鈴仙の悩み。最近は一人で他人と相対することが増えたためか、なかなか対人関係がうまくいかない。
 慣れた相手ならそうでもないのだが、こと見知らぬ誰かとなるとどうにもうまくいかない。この辺りは、彼女の臆病な性格の表れだろうが、こればっかりは早々にどうにかなるものでもない。
 思えば、こういうことは師匠にまかせっきりだったもんなぁと思いながら、鈴仙はまた小さくため息をついた。

 なんだかんだでこの二人、お互いが苦労人な共通点があるためか、たまにこうやって愚痴を言い合ってストレス解消をやっていたりする。

 「今夜あたり、銀さんも誘ってどっか行きませんか?」
 「そうだなぁ、なんか気晴らしになればいいけどなぁ」

 なんと無しに鈴仙が提案して、特に異論も無かったのか長谷川もあっさりと同意。
 奇しくも、今夜は気晴らしにどこかへ出かける、なんていう計画が地道に進みつつあるのであった。









 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十三話「幻視の夜はまるでダメなオッサン。略してマダオと共に」■















 「いや、確かに言いましたよ。気晴らしにどこか行きませんかって。だからって―――」

 夜の帳が落ち、頭痛でも覚えたのか頭を押さえながら鈴仙が呟く。
 そんな彼女に視線を向けたのは、銀時、長谷川、さらには一緒についてくることになったアオと撫子の四人。
 そんな彼らの視線を気にすることも無く、鈴仙は大きく息を吸い。

 「なんで賭場ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 盛大に上げた大声も、だがしかし、辺りからやかましくなっている音楽とガシャガシャという機械音でほとんどかき消されてしまう。
 確かに、鈴仙の言うとおり、ここは賭場、要するにカジノといっても過言ではないだろう。
 丁半やトランプ、ルーレットやスロット、さらには麻雀台まで完備しており、そこに大勢の人物がひしめき合っていた。

 「バカヤロー、うどんげ。賭場はな、男の夢溢れる場所なんだよ。楽してお金稼げる理想郷なんだって」
 「そんなに楽してお金稼げるなら私達は苦労してないです!!」

 銀時の屁理屈にごもっともな意見をぶつける鈴仙。確かに、こんな場所でお金が楽に稼げるなら世の中ホームレスなんて存在しやしねぇのである。
 そんな鈴仙の意見に同意なのか、撫子が「そうですよ」と真顔で銀時に語りかける。

 「私達にはそういう大きな運を掴みとる力が無いんです。小心者だから大勝ちしても不安になっちゃうだけですよ。後で大きなしっぺ返しが来るに決まってるんですから」
 「……オメェ、若いのにそこまで自分悟っちまったのか?」

 思わず涙が出そうな物言いである。彼女の物言いに思わずほろりときてしまう銀時だったが、それは何とか押しとどめる。
 いくらなんでも、まだ年端も行かぬ少女が語るには達観しきった物言いだ。世の中の理不尽に泣きたくもなるというもの。

 「まぁまぁ、今日は気晴らしなんやろ? ならみんなで楽しもう。ウチ、こんな楽しそうなところ初めてなんよ」

 周りの空気に当てられてか、妙に楽しそうに辺りを見回すアオ。
 一体ココがどういう場所なのか理解しているのかよくわからない反応だが、まぁ彼女のことだからろくに考えてはいなさそうである。
 そんな彼女を視界に納めながら、鈴仙は小さくため息をつく。

 「どうせなら二組に分かれましょうか。アオが心配ですし、私はアオと撫子と一緒に回ります」
 「なら、俺は長谷川さんと回るかね」

 とりあえず、今後の方針を決めて集合時間も話し合い、思い思いの場所に散ることにする。



 そんなわけで、銀時たちは長谷川と一緒に奥にあるルーレットに、鈴仙たちはそれなりに近い場所にあったスロットに足を運んだ。
 100台は超えるんじゃなかろうかと思うほどに並んだスロットを見回りながら、不意にアオが言葉を紡ぐ。

 「一言にスロットとか言うても、いろいろあるんやなぁ」
 「そうね、やっぱり細かいところが違うのかしら?」

 鈴仙も同じ気持ちだったらしく、同意するように返事をする。
 ガチャガチャと喧しくも小気味のいい音を響かせるスロット台の大群を前にしながら、不意に、鈴仙は一台のスロット台の前でピタリと止まった。
 一体何事かと思ったアオだったが、鈴仙はしばらく悩むとその一台に座ると、コインを一枚投入する。

 「大丈夫なん?」
 「任せてよ、アオ。この台からはボーナスの波長を感じるわ」

 鈴仙を覗き込みながら聞いたアオに、彼女はニッと笑みを浮かべながら自信満々に言葉にする。
 レバーを引き、中央の図柄がくるくると回りだす。そして彼女はタイミングよく、三箇所のボタンを押していくと、中央の画面に並んだ図柄はスリーセブン。
 途端、軽快な音楽が鳴り響き、ジャラジャラとコインが大量に放出されていく。

 「すごい、こんな特技があったんですね」
 「ありがとう。でもね、撫子。この程度の波長、合わせることなんて造作も無いことよ」

 得意げに言葉にしながら、またレバーを引いてタイミングよく図柄をあわせる。
 意外な特技に目を丸くするアオと撫子だったが、これは彼女の能力をフル活用した結果なのである。
 【狂気を操る程度の能力】、それが鈴仙の持つ能力だが、実際は電磁波や光なども含むあらゆる波について、その波長・位相などを操るものだ。
 人妖の波長を見ることで性格を見抜いたり、竹林一帯に錯覚を生み出し、迷いの結界を作り出す等、その用途は幅広い。
 この大当たりもその能力をフルに活用した結果なのである。少々ズルイ気もするけど。

 「あれ? 貴女は永遠亭の……」
 「へ?」

 いつの間にか二人の後ろから聞こえてきた声に振り向いてみると、そこには顔馴染みの少女の姿がそこにあった。
 おかっぱの白髪に、今日はいつもの様に緑を基調とした服を着て腰には二本の刀が下がっている。
 白玉楼の庭師にして、最近は真選組副長補佐も勤めている魂魄妖夢の姿がそこにある。

 「妖夢じゃない。どうしたの? あなたがこんなところにいるなんて珍しいわ」
 「それはこっちの台詞。私はちょっと仕事よ」
 「こんな時間なのに?」
 「こんな時間だからこそ、ね」

 小さくため息をつき、妖夢はそんなことを言う。その顔にはなにやら疲れたような表情が浮かんでいたが、ややあってその表情を引っ込める。
 そこで撫子に気がついたのだろう。初めて見る少女の姿に、妖夢は「彼女は?」と鈴仙に問いかける。

 「彼女は撫子。前に色々あってね、今はアオのところで一緒に生活してる子なの」
 「ふーん、じゃあ人里に?」
 「はい。初めまして。えっと……」
 「魂魄妖夢。妖夢でいいよ、撫子」

 なんと呼んでいいのか悩んでいる撫子に、一応自己紹介をしてそう言葉を掛ける。
 それから、自分の仕事を思い出したのか、それともまた別の理由か、妖夢は辺りを見回しながら彼女達に改めて言葉を投げかけた。

 「まぁ、とにかく。今日はココから帰ったほうがいい。遊ぶにしても、ここ以外のほうが断然に安全だから」
 「どういう意味?」

 彼女の言い方に含むものを感じたのか、鈴仙が訝しげに問いかける。
 すると、しばらく悩んではいたようだったが「仕方ないか」と小さく呟いて、妖夢は鈴仙に耳打ちするように近づくと、この騒がしい店内の中でかろうじて聞き取れる声で話し始めた。

 「実はここ、不法な方法で荒稼ぎしているって噂があるみたいなの。それで、私と近藤さん、土方さんとで内密で潜入捜査を」
 「不法?」
 「麻薬、八百長、賭場内部でもイカサマ何でもあり。あんまり派手に目立ってると、目をつけられるわ」

 うわぁ、と露骨に嫌悪感丸出しにしながら、鈴仙は彼女の会話を聞き終える。
 予想以上に厄介な場所らしく、思わず頭痛を覚えて頭を押さえる。まったく、気晴らしにここに来たはずなのに、そんな話を聞くことになるなんていい迷惑だ。
 実に勘弁して欲しい。こんなところに長居は無用。そうと決まればとっととあのマダオコンビを見つけて出て行くに限る。

 「わかった、教えてくれてありがとう。撫子、アオ、そう言うわけだから―――って、あれ? ねぇ、二人とも……アオは?」
 「え、いたの? 私が話しかけたときにはもういなかったけど?」
 「あの……、アオちゃんなら、鈴仙さんが大当たり出したときにどこかに行ってましたけど」

 ガッデム!!

 「もう、どこをふらふらと歩いてるのよ、こんな肝心なときに!!」
 「早く探しましょう! タダでさえアオちゃんは運が無いんですから、時間がたてばたつほど間違いなく厄介ごとに巻き込まれてしまいますよ!!?」
 「はぁ……。しょうがない、ココであったのも何かの縁ね。私も手伝うわ」

 一体どこの子供だ!! といささか憤慨しかけながら、鈴仙は台から離れて辺りを見回しながら撫子、妖夢と一緒に店内を探し回る羽目になる。

 ぐるりと大回りしながら店内を見回し、スロットからルーレット、そこで奥のほうにあったバーにまで足を運ぶ。
 そこで、目的の姿を探そうと目を凝らしていると―――。

 「おう遅ぇぞ、うどんげ。さっさと皿を洗って借金返すぞ」
 「銀さんが早いよ!! 何でもう敗者の最終形態に入っちゃってるの!!?」
 「よぉ、妖夢。ワリィがちょっと手伝ってくれ」
 「何してるんですか土方さんも!! ていうか、何で皆さん下着一枚なんですか!!?」

 マダオ×4人がトランクス一枚の姿で皿洗いさせられていました。マル。
 あんまりといえばあんまりな姿に女子一同は一様に顔を赤くしてツッコミ、何も言わなかった撫子は撫子で恥ずかしそうに俯いてしまう。
 もうなんか色々嫌になりそうな光景である。何が、とは言わない。あまりにも多すぎるから。

 「いや、スマン妖夢ちゃん。さっきそこでこいつ等と会ってな、ちょっと口論の果てに賭場で勝負することになって……」
 「……近藤さん。仮にも真選組のトップなんですからもうちょっと後先考えてくださいよ。土方さんも」

 近藤の言葉を聞きながら、それで一応現状は理解出来たのか、深いため息をついて近藤に言葉を返す。
 もっとも、だからといって理解するのと納得するのとではまったく別の問題だったりするのだが、もう起きてしまったことをどうこう言っても始まらない。
 今の問題は、どうやって彼らが作った借金をチャラにしてみんなを解放するかという事なのだが……。

 「苦労してるわね」
 「うん、そっちもね」

 鈴仙の言葉に、どこか虚ろな笑みを浮かべて答える妖夢。それだけで、お互いが常日頃どんな生活をしているのかが伺える瞬間であった。
 結論から言うと、お互い上司に恵まれていねぇのである。
 そんなわけで、二人は彼らを解放する方法を一緒になって考え始めるのだが、この四人が作った膨大な借金を返す方法などそう浮かぶはずも無く―――

 そんな時、店内に一際大きなどよめきが沸き起こったのである。

 「おいおい、麻雀台の嬢ちゃんスゲェぞ!! アレだけ連戦して負け無しだぜ!!」
 「一体どんな運してやがるんだ!? イカサマじゃねぇのか!?」
 「いや、あたりにギャラリーがいるんだ。イカサマなんかできやしねぇよ!!」
 「あの青い翼があるってことは天人(あまんと)だろ!!? 一体どこの星の生まれなんだ!!?」

 口々に紡がれる言葉の数々。その中で、その人物の特徴が断片的にだが集まってくる。
 いわく、外見はまだ年端も行かぬ少女であるという事。いわく、背中には青色の翼があり、長い髪は同じ鮮やかな青色をしている。いわく、その言葉使いはエセくさい関西弁。

 そこまで情報が集まってくればもはや確認する必要もあるまい。そんな人物は考えうる限り一人だけだ。

 「……鈴仙さん、妖夢さん、これってもしかして」
 「もしかしなくてもアオよね」

 撫子の冷や汗交じりの言葉に答えたのは、頭痛を押しとどめるように額に手を当てた鈴仙だった。
 そういえば、この4人の再登場のインパクトですっかりと抜け落ちていてしまったが、そもそもの話、どこかに行ってしまった彼女を探し出して早くココから出ることが最初の目的だったはずなのだ。
 ココまで大騒ぎになっているのだ。どう考えても派手に目立ちすぎである。
 内心、遅かったか。と、頭を抱えていると、事情を知らない銀時と長谷川が不思議そうな顔をしているのが見えて、「仕方ないか」と小さく呟いて妖夢に言葉を投げかける。

 「ゴメン、妖夢。銀さんたちにも事情を説明して。私はアオを連れ戻してくる」
 「わかった。気をつけてね」
 「私も行きます!」

 妖夢が答え、撫子もアオのことが心配なのか鈴仙の後を付いてくる。
 遠目で妖夢が銀時たちに事情を話し始めるのが見えて、それで安心してか、鈴仙は賭場の端のほうにある麻雀台が並んでいる場所に足を運ぶ。
 多くのギャラリーがつめかけ、この先に彼女がいるのだろう。よく耳を澄ませば、彼女の独特な関西弁がわずかに耳に届いてきた。
 この先に行かなければ行けないのだと理解はしたが、これじゃまるで人垣だ。うっかりしていると撫子とはぐれてしまうかもしれない。
 少し迷い、それから意を決して、すぐ後ろにまでついてきていた撫子の手を握る。

 「ふぇ!?」
 「放しちゃダメよ。しっかりついてきて!」

 いきなり手を握られて驚いたらしい撫子が変な声を零すが、それは幸いにして周りの完成にかき消されたようだった。
 鈴仙の言葉が聞こえてきて、その意味を理解したのか、彼女は一度だけ頷くと意志の強そうな表情を見せる。
 それで、ある程度の覚悟は固まったのか、鈴仙は彼女の手をギュッと強く握ってギャラリーの隙間をかき分けていく。
 圧迫感と、タバコや酒の匂いに苛みながらもなんとか一番前にまで躍り出ると、そこに―――

 「ツモ! 天和、四暗刻単騎、字一色、大四喜!! こいつでトドメ、全員トビや!!」

 なんか色々とありえねぇ役を叩き出している不幸体質がそこにいた。……アレ?

 さて、とにもかくにも探していた人物は見つかった。予想の斜め上をぶッちぎった形でそこに座ってはいたが。
 彼女の周りには勝ち取ったらしい大金が山積みにされ、対する三人の相手は身包みも剥がされて銀時たちと同じくトランクス一枚というトンデモネェ姿になっていた。
 目立ちすぎである。これでもかというほどに悪い目立ち方をしている青い鳥の妖怪に思わずぐらりと眩暈を覚える。
 ここで気絶してしまえたらどれだけ楽だろうか?
 でもそれは出来ない。それだけは出来ない。だって今ココで気絶したら、眼が覚めたときに碌な展開が待っていないだろう事は容易に想像がつく。
 数秒ほど思考に埋没していた意識を引っ張り挙げると、丁度、アオが勝った分の大金を袋に詰めてもらっているところだった。
 だからどうして、そのありえねぇ強運が普段から発揮しないのか常々不思議である。
 そんな思考を振り払い、鈴仙はアオのすぐ傍まで歩み寄ると、遠慮なくその襟首を掴んでずるずると引きずるように退散を開始する。
 アオの持っているお金の入った袋がやけに重たいが、それはそれで仕方がない。

 「およよ、鈴仙ちゃんどないしたん?」
 「どうしたもこうしたもないわよ! いいから早くココから退散するよ!!」

 イマイチ緊迫感のない声に、思わず鈴仙が叫ぶが、事情を知らないのだから仕方がない。
 撫子がちゃんと後を付いてくるのを確認しながら、鈴仙は頭痛がひどくなるのを感じながら、銀時たちがいるであろうバーに戻るために足を速めるのであった。




















 さてさて、とにもかくにも銀時たちは無事に賭場から出ることが出来た。
 もっとも、その際にアオが稼いだお金はというと全て四人の借金に使われて消えていったが。
 一体どれだけ負け続けたんだお前等。などと妖夢と一緒にツッコミを入れつつ、鈴仙は土方たちに後のことは任せると早々に退場したのであった。

 そして現在、このまま帰るのもアレだったので最後に屋台によって帰ろうという話になったのである。
 町並みを通り過ぎながら、空を見上げればこれでもかといわんばかりに満月が輝いている。
 辺りに銀時たち以外の姿はなく、裏道特有の静けさが暑い夏の夜を少しだけ涼しくしてくれた。
 このまま何事もなく屋台に行き、なんとなく馬鹿騒ぎをして岐路につく。それがこの後の理想の展開だ。

 「いやー、助かったぜお嬢ちゃん。俺もう今度ばかりはダメかと思ったし」
 「長谷川さーん、ウチはもうお金ださへんから、そのつもりで」

 後ろから聞こえてくる、長谷川の本当に助かったといわんばかりの声と、せっかく稼いだお金が露に消えたからか、少し拗ねた様子のアオの声。
 そんな二人のやり取りを眺めてか、「アハハ」と苦笑いを浮かべる撫子の声と、どこか気だるそうな銀時の声も聞こえてくる。

 「ワリィな。せっかく大勝ちしてたってぇのによ」
 「……いや、別にもうええんやけどな。銀ちゃん達を助けるために使えることが出来たんなら、それはそれで本望やし。でも、もうちょっと反省してぇな。二人とも」
 『肝に銘じます』

 背後から聞こえるやり取り。それだけだと一体どちらが年上なのかわからなくなりそうな光景だろうけど、よくよく考えればアオはそもそもの話妖怪なのだ。
 もしかしたら、銀時や長谷川より長い時間を生きている年上さんなのかもしれない。実に想像しにくいけど。

 そんな音に紛れて、ジャリ、と小さな足音がなったのを、鈴仙の耳は聞き逃さなかった。

 あぁ、やっぱり来たか。などと思考をめぐらせながら、理想の展開なんて所詮理想でしかないのだと思い知る。
 こんなことならしっかりと大通りのほうを歩いてくるべきだったと心底思いながら、眼前にちらほらと現れ始めた人影に視線を向けた。

 「誰だ、あんた等?」
 「お前さんのツレに恥を掻かされた者でねぇ、今はその報復よ。そこの青い髪の嬢ちゃんをこっちに渡してもらおうか」

 その人影に気がついたらしい銀時が、目の前の連中に言葉を投げかけると、人影のうちの一人からそんな言葉が帰ってくる。
 それで他のみんなも眼前の通路に誰かがいるのと、今の現状を理解したらしい。そして、はるか背後のほうからもちらほらと人影が出現し始めている。
 一方通行のこの道で、左右には建物、前後には見知らぬ誰か。その手には刀やら銃やらが握られており、殺意すらも感じ取れる。

 「おいおい、囲まれてるぞコレ!? 何、どうなってんの!!?」

 んなもん見ればわかるわよ。という長谷川への罵倒は寸でのところで飲み込み、今日って何しに来たんだっけ? と改めて現実逃避をしたくなってくる。
 コレじゃ気晴らしも何もあったもんじゃない。この連中、どう考えても先ほどの賭場でアオにひん剥かれた連中だろう。何人か顔に見覚えがあるし。

 あぁ、もう本当に。今日はイライラしてばっかりだ。

 「みんな、目を瞑ってて。まとめて片付けるから」

 それは、不思議な声だった。鈴仙とは少し距離があるというのに、まるで耳元で呟かれたかのようなその声。これも、彼女の持つ能力の応用だ。
 鈴仙は振り返らず、ただ眼前を睨みつけている。それで、彼女の真意を悟ったのか、銀時たちは目を瞑る。
 それを確認した鈴仙は、ぐるりと辺りの人影たちを【見回した】。
 それだけで、ぐらりと、人影の襲撃者達は違和感を覚えていた。

 鈴仙が取り出したのは一枚のスぺルカード。とっくに下準備は終えている。少しぐらい、派手にうさ晴らししたって罰は当たるまい。

 「散符」

 小さく紡がれた鈴仙の言葉。果たして、それは彼らにどう聞こえたことだろう。
 とにもかくにも、【彼女と目が合った】時点で、既に彼らは彼女の術中にあるのだから。
 第一、この狂気の瞳で相手を直接狂わせるのには慣れているのだ。失敗なんてするはずもない。

 カードが燃えて消失する。きっとこの光景さえ、彼らにはグニャリと歪んで見えたことだろう。
 自分の右手でグーを握った状態から人差し指と親指だけをまっすぐ伸ばす。子供がよくやる拳銃の真似事と似たような形を作り、彼女は空に浮かぶ月に向ける。
 それから寸分違わず、空に打ち出される一発の弾丸。弾幕用の弾を一発だけ月に向かって撃ち、その光景を見た男達はそろって空を見上げることになる。

 そうして、報復に訪れた彼らは仰ぎ見ることになる。
 月の輪郭から放たれたと錯覚するほどの、【無数】の弾丸を。






 「『真実の月(インビジブルフルムーン)』」






 満月から、無数の弾丸の雨が降り注ぐその夜、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。

























 ぎらぎらと輝く真夏の太陽。
 そんな太陽にも負けずに、元気にはしゃぎまわる子供達の声が今日も耳に届く。
 それが元気の活力剤―――に、当然なるはずも無く、鈴仙・優曇華院・イナバは今日も力なく公園のベンチに腰掛けていた。

 「飽きないわねぇ、子供って。家で涼めばいいのに」

 一人呟いてみても、この夏の暑さは誤魔化せず、うっすらと滲んだ汗が気持ち悪い。
 汗で半袖のカッターシャツが張り付き、それを少しでも誤魔化そうと手のひらでパタパタと扇いでみるものの効果は無し。
 そんな彼女の隣に、がっくりと項垂れた長谷川が今日も少し距離を開けて同じベンチに座った。
 サングラスの奥の瞳はまったく持って見えないが、その様子からしてあまりいい目はしていないだろう。

 「どうでした、今日は?」
 「……あぁ、今日も全滅さ」

 あぁ、またか。とは口にせず、「そうですか」とだけ返して鈴仙は明後日の方の空に視線を移してパタパタと手を動かして自身に風を送っている。
 暑い暑い。もう溶けてしまいそうだ。今日はもうかえって扇風機にあたろう。文明の利器って偉大です。

 「もうさー、何かやんなるよなー毎回毎回さぁ。俺いまスッゲー空を飛びたい気分だ。さよなら大地、さよなら白い雲、サラバ銀河系」
 「いやいやいや、銀河系は待ちましょうよ。宇宙戦艦にでも乗るつもりですか」

 中々にメタな発言をし始める長谷川にツッコミを入れる。
 末恐ろしいことだ。今年の真夏の暑さは人の意識を大気圏突破どころか銀河の果てまですっ飛ばすには十分らしい。
 自分も気をつけなければと心に再び刻みつけながら、彼女は憂鬱を隠そうともせずに、掌で目元に影を作りながら空で燦々と輝く太陽を睨みつける。

 「そういやぁ、昨日のことで聞きたいことがあったんだ」
 「なんですか?」

 長谷川の言葉に、もううんざりといった具合の鈴仙の声が返ってくる。
 それを意に介す風でもなく、彼は淡々と言葉を紡ぎだす。

 「昨日さ、あの連中急に苦しみだしたけど、一体なんだったんだ?」

 「あぁ、そのことね」と、不思議な納得をしてから、鈴仙はどう答えたものかなぁと思考して、缶ジュースを口に運ぶ。
 それで少し、考えを纏めてから、鈴仙はやがてポツポツと騙り始めた。

 「アレはですね、私の力をフルに使った結果ですよ。彼らは幻覚を見て悲鳴を上げて倒れたというわけです」
 「幻覚?」

 胡散臭げに言葉を返す長谷川に、ニッと笑みを浮かべて彼女は「えぇ」と一言肯定してみせた。

 あの夜、目を瞑れといわれて彼女の言うとおりに目を瞑ってみれば、聞こえてきたのは断末魔のような絶叫だった。
 それで思わず目を開けた彼らが見たものは、ただそこに佇んでいるだけの鈴仙と、傷もないのに狂ったように悲鳴をあげ、【何か見えないもの】に襲われているのではないかと思わせるほど錯乱した連中だった。
 結局、警察に連絡して身柄を引き取ってもらったものの、彼らが何に怯えていたのかは結局わからずじまいだった。

 「私の目を見れば、例外なく強力に狂気に陥れることが出来るわ。あの時の彼らが見たものは、雨あられのように降り注ぐ弾丸に、自分達が生きながらに貫かれていく幻覚よ」
 「うわぁ、えげつねぇなぁ」

 そのさまを想像したのか、青い顔をしてブルブルと体を振るわせる。
 いや、まぁ確かに今思うとやりすぎたかなぁと思わなくもない鈴仙だったが、いい加減ストレスがたまりまくっていたのでその弾みでついやり過ぎてしまったのである。
 気分を紛らわせるように新聞を開いてみれば、そこには昨日の賭場のことが新聞に載っており、真選組の手柄という事になっていた。
 麻薬の売買などをしていたようで、余罪もいろいろあるらしいが、まぁいいかと適当に納得して空を見上げた。

 「なぁウドンちゃん。今日の夜気晴らしに―――」
 「絶対に行きません」

 とりあえず、しばらくは夜遊びは控えようと心に決めた鈴仙であった。






 ■あとがき■
 さてさて、13話が完成しました。皆さん、いかがだったでしょうか?
 今回で長谷川さん初登場になります。あと、鈴仙のスペルカード初お目見え。
 なんか色々と急ぎ足な感じになってしまいましたが、どうでしょうか^^;
 アオがうっかり出しちゃったあの役のことは、まぁキニシナイでください。

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十四話「夜雀の屋台の珍客達」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/11/20 14:19


 ※今回は二次設定が強い話になっています。ご注意ください。







 さぁ飲めや歌えや月の夜♪ 暗くて見えなくても無問題♪

 杯を片手に語り合えば♪ 陰鬱な気分も弾け飛ぶ♪

 私の歌に誘われておいでよ夜の屋台♪ 鳥目にゃなるけど気にするな♪

 ほら、もう歌しか聞こえないー♪





 幻想郷にも夜が来る。そんな夜の訪れを、私、ミスティア・ローレライはいつものようにのんきに歌いながら屋台の準備をしながら待っていた。
 もう少しすれば妖怪の時間。昼が人間達の時間だというのなら、やっぱり夜は私達妖怪の時間。
 まぁ、私はいつものように、この場所で屋台を開くわけで。

 屋台を固定し、折りたたみ式の椅子を並べ、人数が増えたときの為に机も固定の場所に設置。
 ちょっとした森の広間がほら、少し工夫すれば露天の飲食店に早変わり。
 うむ、後は歌いながら待つだけなわけで。上機嫌に歌いながら、ごそごそと材料の八目鰻と、おでん用の大根とかこんにゃくなんかを準備する。
 ちなみに、私の屋台では鳥関係の食材は取り扱っていないのであしからず。大体この店、焼き鳥撲滅のための運動の一環なわけだし。

 「あら、楽しそうな歌に誘われてみれば、こんなところにお店があったのね」

 と、準備している私の頭上からかかる声は、妙に穏やかというかおっとりというか、とにもかくにもそんな感じの声だった。
 うん、まったく今日は幸先がいい。開店直前にお客さんが来るとは、私の歌もそろそろメジャーデビューかね?

 「そうよー、もう準備できるから、少し座って待っててねー♪」

 そんなことをいいながら、なんと無しにお客さんの顔を覗いてみる。

 真紅の衣服に身を包んだ目立つ格好、だというのにその表情はどこか柔らかそうな童顔の美人。綺麗、という印象よりも、かわいらしい、という表現のほうが真っ先に来そうな女性。
 しっかし、この女性。服に隠れてわかりにくいけど、童顔のくせにものすごくスタイルがいい。うらやましいぞ、その胸。いや、それはともかく彼女のこの独特な髪型。
 銀髪ロングで、頭の左脇の髪の一房をつかってサイドポニーを作ってるんだけど、重力の法則にコレでもかというほどに逆らって歪曲してしなっているのである。
 うん、これはなんというかー……。

 「たくましい」
 「え?」
 「あ、いやいやいや!! 何でもないよー♪」

 うっかり口をついて出た言葉を何とかごまかしたところで、丁度屋台の準備が完了し、私は火を熾して材料を鍋の中へ。
 しばらく食べ物のほうは我慢してもらうしかないけれど、生憎、ココにはちゃんとお酒だってあるのだ。

 「さぁさぁお客さん。一杯やらないかね?」
 「そうねー、……うん。それじゃ、しばらく厄介になろうかしら」

 杯を渡してその中へ焼酎をとくとくと。お客だと確定したからには、精一杯楽しんでもらわねばなるまいよ。
 どこの誰だか知らない、見たこともない顔だけど、ココにいるのならお客さんには変わりない。楽しまなきゃ損損、歌って笑って楽しむに限るさね。

 「さぁさぁ、皆さんよってらっしゃい見てらっしゃい~♪ 楽しい楽しいミスティアの屋台が開店さ~♪」



 そう、例えそれが、私のような妖怪でさえ肌で感じるような、強大な力を持った誰かだったとしても、だ。






 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十四話「夜雀の屋台の珍客達」■















 さてさて、随分と夜も深くなり、他に客も中々来ないこともあってかその女性と話をする機会が多くなった。
 名前は神綺というらしく、何でも止めるのも聞かずに一人立ちしていった娘を一目見ようとこっちに来たはいいが、いざ会うとなると色々悩んで会うに会えなくなってしまったとか。
 そんなときに私の歌に誘われて、今現在にいたる……っと。
 にしても、アンタ子持ちですか。若いって、若すぎるよ。
 ……いや、そもそもこの人が人間なのか妖怪なのかイマイチハッキリしないんだけどね。

 「まぁ、子供といっても、世間一般で言われる子供とはちょっと違うと思うけどね」
 「ふーん。あ、八目鰻、焼きあがったよ」
 「あら、ありがとう」

 そんな他愛もない話をしていると、強大な力を感じるワリには彼女本人はいたって能天気な印象を受ける。ともすれば、その力を感じるのが気のせいじゃないのだろうか、とも思ってしまうほどにだ。
 だから、私はいたっていつもどおりに会話できた。力は強大なものをなんとなく感じるんだけど、不思議と怖い感じは受けないのだ。
 そこら辺は、きっとこの人が持ってる独特の空気のせいなんだと思う。きっとこの辺も彼女の魅力のうちの一つなんだろうと、なんとなく思った。

 そんな中、こちらの方に近づいてくる複数の足音。その独特な歩き方でそのうちの一人が特定で着てしまうあたり、私達の関係も随分長いもんだとちょっと思う。

 「おぅ、ミスチー。今日も飲みにきたぜぇ」
 「あいあいよー、店長もいらっしゃいな。お、今日はヅラも一緒だねぇ」
 「ヅラじゃない、桂だ」

 ほらやっぱり、店長とそのご一行様だ。といっても、たった二人と一匹(?)だけなんだけどねぇ。
 そのヅラはというと、今日も今日とてそんな返答をムスッとした様子で返してくる。君、ヅラって言われるの嫌いなのかい?
 よしわかった。これからずっとヅラと呼び続けよう。そうするのがコイツに対する礼儀だって前の宴会のときに銀時が言ってた。

 と、それはともかく。
 ロン毛の彼はヅラこと桂小太郎。何でも銀さんの知り合いらしくて、今は店長のところでバイトみたいなことをしているんだとか。
 んで、このみょうちきりんなアヒルのお化けみたいなのがエリザベス。言葉は喋れないのか、いつもプラカードで会話する変な生き物。ちなみに、食べると妙に油っぽくて酸っぱかったとはルーミアの弁だ。
 そして最後、かれこれ30年以上の付き合いになるのが彼、人里でカフェを営む店長。
 最初の出会いはまぁ省くけど、なんだかんだで続いている腐れ縁。

 「はいはい、今日のご注文はー?」
 「蕎麦を頼む」
 「ねぇよ」

 神綺の隣に座ったヅラの一言に即答し、私はひとまず彼を放っておいてペットと店長のほうに視線を向ける。
 するとエリザベスは[大根と焼酎]、店長は「八目鰻の蒲焼と焼酎」と、まともな注文をしてきたので八目鰻を捌いて、手際よく焼いていく。
 それからおでんの大根のほうに手を出そうとしたときに、彼らの会話が耳に届いてくる。

 「ほう、では娘さんの様子を見にこちらに来たというわけですな」
 「えぇ。あの子はちゃんと一人でやれてるんだろうかと心配で」

 ほぅっとため息を零す神綺。一体何時の間にそんな話に発展していたのやら、神綺の悩みをヅラの奴が聞いている形になっている。
 あれ? 気のせいかな。今なんか、娘さんがいると聞いたときのヅラの目が嫌に輝いていたというか光っていたというか、……まぁ気のせいってことで。
 それはともかく、自嘲めいた笑みを浮かべる神綺の手を、ヅラの奴が両手で握ると、彼女の目をまっすぐに見つめ始めやがったのです。
 おい、人の店の前で何やってんのアンタ?

 「いいや、奥さん。もっとあなたは自分に自信を持つべきだ。さぁ、俺でよければ力に―――」
 『瞬殺のぉぉぉぉぉぉぉぉ』

 何か決め台詞ッぽいものを言おうとしたヅラの言葉をさえぎり、これまた聞き馴染んだ二つの声がハーモニー奏でて段々近づいてきて。

 『ファイナルブリットォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
 ズドンッ!!
 「おぶぁっ!!?」

 ヅラの頭部と腹部に見事なとび蹴りをぶちかましていたのだった。
 直撃を受けたヅラはというと、そのあまりの威力に吹き飛び、錐揉み回転しながら盛大に大木にぶち当たって停止する。
 んで、それだけじゃ飽き足らないのか、ヅラに襲撃を掛けた二人の鳥妖怪、朱鷺子とアオが鬼のようなオーラを噴出しながら倒れたヅラに近づいていく。
 ちなみに、下手するとヅラが吹っ飛んだ際に巻き込まれそうだった神綺はというと、店長とエリザベスがさりげなく身柄を確保して安全を確保していたりする。
 さすが店長、ここぞって時にいい働きをする。
 そしてエリザベス、アンタ意外と男前だったんだね。拗ね毛はみでてんぞ?

 「てんめぇぇぇぇ、ヅラァァァァァァァ。よくもまぁあないなもん渡してくれよったなぁ。アァ?」
 「アンタのおかげで私がどれだけ恥じかいたかわかってんの?」
 「ま、まて! 落ち着くんだ二人とも!! 話せばわかる!!」
 『やかましいわっ!!』

 スパァーンっ!! と見事な音を立てて何冊もの本がヅラの顔面に叩きつけられる。
 その本に書かれた文字は、『激!! 人妻萌えアンリミテッド!!』とかなんとか。って、ちょっと、アレってエロ本じゃない?
 そりゃ、自業自得ってもんだよ、ヅラ。つーか、アンタ神綺のこと確実に狙ってたでしょ? 人妻萌えだったんだね、アンタ。

 「あの、騒がしくしてスミマセン」
 「ん? いいってば。騒がしいほうが場も盛り上がるわ。撫子は、何がいい?」
 「はい、じゃあこんにゃくとしらたきを」

 彼女達と一緒に着たんだろう。申し訳なさそうに謝る人間の少女、撫子の言葉にひらひらと当たり障りない返答をすると、彼女の注文を聞いて用意に取り掛かる。
 ちなみにあの騒ぎの間にエリザベスと店長の分はとっくに用意済みだ。あの程度の騒ぎでいちいち止まってたら商売上がったりだしね。
 撫子との付き合いは最近になってからだ。なんでも諸事情で、今はアオが引き取って一緒に住んでるんだとか。
 相変わらず、無駄に人がいいやつめ。などと思わなくもないけど、まぁ彼女らしいといえばつい頷いてしまうのだから不思議だ。

 「あー、すっきりしたわぁ。みすちー、大根お願いな」
 「私は蒲焼」
 「あいあい、ちょっとお待ちー♪」

 撫子の分の皿を出し、それから二人の注文を受けて手早く準備。
 とりあえず、ふたりにボコボコにされたらしいヅラはひとまず放置の方向で。冷やかしに来るような奴をいちいち介抱するほど、私は優しくはないのである。

 「彼、大丈夫かしら?」
 「大丈夫やて、そのうち勝手に復活しとるから」

 あんまりのボロボロッぷりに神綺が少し心配したような声を零すものの、そんな彼女にあっさりとした様子でアオが返答する。
 ちなみに、その言葉に神綺以外の全員が頷いたことは言うまでもないだろう。私も頷いてるし。

 「あー、何もあそこまでボコボコにする必要もないだろう。あ、蕎麦一つ」
 「だから、ねぇわよ」

 ほら、行ってる傍から復活したよこのヅラ。というか、アンタそれ毎回言ってるよね? いい加減にしないと張り倒すよ?
 それにしても、銀時といいヅラといい、どうしてこう頑丈かねぇ?
 時々、本当に人間なのか疑いたくなるときがあるんだけど。

 「ええなぁ、ヅラは悩みなさそうで」
 「ヅラじゃない、桂だと何度も言っている。それに、俺にだって悩みぐらいあるさ」

 なんとなく呟いたらしいアオの言葉に、むっと反論しながらため息をつくヅラ。
 なんともまぁ、このヅラにも人並みに悩みがあったらしい。いや、そりゃ生きてるんだから、当然といえば当然なのか。

 「最近、エリザベスの加齢臭が凄くてな、八意殿に見てもらったのだが、レントゲンで不吉なおっさんの影が写って……」
 「いや、それ本体やろ」

 妙に神妙そうに語るヅラの言葉に、ズバッとツッコミを入れる不幸体質。
 うん、やっぱエリザベスの中に入ってるのってオッサンだったのか。いや、だって拗ね毛がはみ出てるし。
 つーかしょうもない悩みだねぇ、おい。

 「八意殿のご好意でな、近々オッサンを摘出する手術をすることになった」
 「いや、せやからそれ本体やて! 現実見ようよ!!?」

 摘出するんだ!!? いやいや、何かおかしくない? 摘出するものとして何か間違ってないかな!!?

 「そっか、加齢臭か」

 ポツリと呟いて、あさっての方を向く店長。
 自分も人事ではないとわかっているのか、えらく遠い目をしながら黄昏ている店長の姿は、なんか恐ろしく哀愁が漂っていた。
 あぁ、気にしてるんだね、店長。この間、ルーミアから「酸っぱそう」なんて言われたの。
 でも、ゴメンね、店長。私も実は同意見なんだ。



























 夜もすっかりと深くなり、もうそろそろ閉店の時間になるのだけれど、未だに残っている客が一人だけ。
 店長もヅラもエリザベスも、そしてアオと撫子、そして朱鷺子も帰路についた中で、彼女だけはまだ、ちびちびとお酒を飲んでいた。

 「はいよ、大根追加ー」
 「あれ? 頼んでないわよ?」
 「いいのさ、オマケだよ」

 そんなやり取りをすると、にこっと笑みを浮かべて「ありがとう」と言葉にする神綺。
 それに照れくさくなって、誤魔化すように再び歌いだすと、さほどしないうちに誰かが暖簾をくぐってきた。
 そこには、嫌がおうにも目に付く銀髪天然パーマの姿があった。

 「いらっしゃい、銀時」
 「おう、相変わらずやってるじゃねぇか。焼酎頼むぜ」
 「あいよ」

 元の世界に帰ったときいたわりには、ワリと最近またひょっこりと顔を出すようになったこの男。
 以前ほどの頻度じゃないけれど、それでも最近顔を見る機会は多い。
 そんなわけで、とっくに顔見知りといってもいいその男は、神綺の隣に無遠慮に座り込んだ。

 「あんた、見ねぇ顔だな」
 「んー、そうねぇ。普段はこっちに居ないから。こっちにきたのはちょっと理由があるの。私は神綺。貴方は?」
 「俺は坂田銀時。こんなもんをやってる身でね、そんな湿気たツラしてないで、俺でよかったら相談に乗るぜ?」

 相変わらずの気だるげな声と共に、銀時は名詞を一枚彼女に渡す。
 その名詞に書かれている文面は……たしか。

 「よろず屋銀ちゃん?」
 「おう、大工、探偵、人探し、何でも請け負ってやるぜ。初回サービスだ、まけといてやるよ」
 「よ、男前~♪ はい、焼酎」

 トンッと、コップに注がれた焼酎と共に、ビンのほうも一緒に置く。
 そのコップを手に持って、早速彼は軽く煽って喉に酒を流し込んでいった。
 私はというと、二人の会話に耳を傾けながら、なるべき聞いていない風に装って、神綺の気持ちを配慮する。
 実際、彼のいうとおりだったのだ。ココにいる間、神綺は話しかければ笑って答えるものの、そうでないときは始終悩んでいるような、そんな調子だった。
 まだココにいるのは、その娘さんとやら似合う決心がつかないからだろう。

 やがて、彼女はポツポツと、小さく言葉を紡ぎだし始めた。

 「私、自信がないの。以前、一人立ちした娘のことが心配で、元気でやってるのかどうか、それだけでも確かめたかった。
 でも、いざ会おうと思うと、怖くなってしまって」

 自嘲めいた笑み。それが、自分のふがいなさから来るのか、それ共もっと別の理由からなのか、それは、私にはわからない。
 ただ銀時は、黙って彼女の言葉に耳を傾けていた。いつものような、真剣なんだかいい加減なんだか、よくわからないそんな顔で。

 「あの子が私のことをどう思っているのか、少し、怖いの。もしかしたら嫌われてしまったんじゃないかと、嫌われたから出て行ってしまったんじゃないかと思うと、どうしても、ね。
 あぁ、本当にダメねぇ、私。これじゃ母親失格だわ」

 それだけ言葉にして、神綺はグイッとコップを煽った。中の酒が空になって、コトンと、軽い音を立てて屋台のテーブルに置かれた。
 私には、正直よくわからない。親と子、それがどういったもので、どういった関係で、どうやって接していけばいいのか。少なくとも、私には想像もつかない。
 そんな中で、銀時はクイッとコップを煽った。中にあった酒が空になり、ただじっといつもの表情で黙ったまま。

 それで、どれだけの時間が過ぎただろう。もう閉店も近いって言うのに、また誰かが暖簾をくぐった。

 「開いてる?」
 「あれ、たしか人形遣いの。珍しいねぇ」

 なんとも珍しいことがあるものだ。暖簾をくぐったのは、あろうことかあの魔法の森に住んでいる魔法使い、アリス・マーガトロイドだったのだ。
 彼女がココに来た回数なんて、それこそ数える程度しかないって言うのに。
 コレはまた、珍しい人が来る日にはつられて珍しい人が来るものなのかね?
 そんな私の胸のうちなど当然知るはずもなく、彼女はあたりを一瞥もせずに一番離れた場所に腰掛けた。

 「で、注文は?」
 「お酒お願い」

 簡潔な返答は半ば予想していたので、私はさっさと焼酎を取り出してアリスの前に置く。
 酒をついで、彼女はそれをクイッと煽った瞬間―――。

 「アリスちゃん?」
 「ブフォアッ!!!?」

 神綺が掛けた一言で思いっきり吹きやがったのである。つか汚っ!!? 私にかかるじゃん!!?
 ゲホっガホっゲホっ! と、咳き込みながら、恐る恐るといった様子でアリスが神綺のほうに顔を向ける。
 そして、彼女は信じられないといった表情を浮かべて、顔を真っ赤にしながらうろたえ始めたのだ。
 ……何故?

 「し、ししししししししし神綺様!!?」

 様付け!!? 様付けですか!!?
 一方、様付けされて呼ばれた神綺はというと、実に子供らしい仕草でいじいじしながらぷーっと頬を膨らませていたりする。
 ……あー、この人も酔ってるなァ。結構飲んでたからね、彼女も。
 というか、童顔だけあってこういう子供っぽい仕草が実にさまになるってどうなんだろう?

 「そんな他人行儀な呼び方しないでよぅー。昔みたいに「お母さん」って呼んでー」
 「い、言えるわけないじゃないですか!! この年になって!!」

 ウガーと激昂する人形遣い。それっきりプイッとそっぽを向いて神綺の顔を見ないようにしていたものの、耳まで真っ赤になっているあたり、どう見ても照れ隠しっぽい。
 うん、アンタの心配は無に帰しそうだよ、神綺。ていうか、アリスから様付けって何もんですかね?
 そしてどうやらその事に気がついていないッぽいほろ酔い気味の神綺様。
 仮に様付けされるような立場にあったとしても、その姿はカリスマ分ゼロだね、これ。

 「嫌われちゃったかしら?」
 「いやいや、それはないって」
 「あぁ、ミスチーの言うとおりだよ」

 なんとなくポツリと呟いたような一言に、私と銀時がそんな言葉を投げかける。
 「それに」と、銀時が小さく言葉を紡いで、向こうに居るアリスに聞こえないように声を紡ぎだす。

 「アンタは立派に母親してるじゃねぇか。それだけ子の心配が出来るッてんなら、あんたは間違いなく母親だよ。母親失格、なんてこたぁねえと思うぜ?
 ……それに、俺はアンタみてぇな親が欲しかったよ。不思議と、持ってる奴等より、とっくに無くしちまった奴のほうが、その大事さってやつを知ってるもんだ」

 理不尽だよな、と呟いて、彼はそのまま酒を煽った。
 いくら、私がとり頭で頭が強くないからって、今の言葉の意味がわからないほど馬鹿じゃない。
 もちろん、それは私のただの妄想に過ぎないのかもしれないけど、きっと彼はこういっているんだとおもう。
 今ある時間を、親子としていられる時間を、ただなくなってしまう前に、後悔しないように。
 ただ、その言葉が、凄く……重くて、貫禄があるような、不思議な説得力を持ち合わせていた。

 「ありがとう」

 その言葉を紡ぎだした神綺の心のうちは、一体どうだっただろう。
 少しは、心の重みが晴れただろうか? 妙に強大な力を感じるくせに、変に人懐っこくて能天気な彼女にとって、先ほどの言葉はどう受け止められたのか。
 無論、私にわかるはずもないし、銀時にだってわかりゃしない。
 でも、少しは軽くなっていればと、初対面の相手に不思議とそんな感情を覚えていた。

 「アリスちゃーん」
 「ちょ、ちょっと神綺様!! というか魔界は如何したんですか!!? 魔界神ともあろうお方がこんなところで!!」

 再び酔っ払いの仮面をかぶりなおして、彼女はアリスのほうに寄って行き、後ろから抱き付いてみせる。
 えへへーっと能天気な表情が実に彼女らしい。つーか、今魔界神っていった? 神様っていった!!?
 そっかー神様かァ。そりゃあの妙に強大な力も納得がいく。ていうかさ、魔界の人たちいいのか? こんなのが魔界の神様で。


 オンバシラぁぁぁぁ!!

 あーうー!!

 サボってんじゃないよ、ただの休憩さね。


 ……うん、ゴメン魔界の方々。こっちの神様にも碌なの居なかった。
 まぁそれはともかく、酔った勢いでじゃれ付く神綺の姿は、ある意味微笑ましい限りだ。カリスマは天の果てにリアルタイムで飛んで行ってるけどね。

 「えっとね、有給とった」

 今神様が有給って言った!!? いいのか神様そんなので!!?
 勢いづく酔っ払い。こうなったらもう手がつけられないのは皆共通である。そして神綺はというと―――。

 「それにねぇ、お母さんさっき銀時ちゃんに告白されちゃった♡」
 『ぶぼぉぁっ!!?』

 なにやら変な具合にさっきの銀時の言葉を歪曲させて受け取っていた。って汚いって両サイド!!
 ゆらりと立ち上がる人形遣い。そしてその顔にはご丁寧に怒りが顔に書いていそうな雰囲気だった。
 お願いだから店壊さないでね。いや、本当に。

 「ふふふふ、ちょっと銀髪、今の話は本当? 私のお母さんに何手を出してんのかしら?」
 「ちがぁぁぁぁう!! そんな話一言もしてねーし!! おいコラ神綺ぃ!! オメェ何言ってくれちゃってんの!!? この子やる気満々だよ!!?」

 やる気と書いて殺る気と書くんですね、わかります。って、そんな現実逃避はさておいて。
 ある意味、助けを求めてんのか文句を言っているのかよくわからない銀時の言葉に、神綺はというと。

 「きゃー!! アリスちゃんが「お母さん」って言ってくれたー!!」

 まったくもって聞いちゃ居なかった。むしろアリスのお母さん発言でテンションうなぎのぼりだ。
 さっきの湿っぽい空気はどこにいったんだろう? と思わなくもないけど、そろそろ本気で止めないと屋台が灰になりそうなので止めに入る。

 「はいはい、ココで暴れないで。朝まで私のおごりでいいから、アリスも落ち着いて。ていうか、アレ間違いなく冗談の類だから」
 「う、……わかったわよ」

 しぶしぶといった様子で引き下がったアリスを見て、ほっと一息。どうやら屋台の消し炭フラグは何とか回避したようだ。
 いや、危なかった。にしても似てないよこの二人。外見、性格共にさ。

 「ほらほら、銀時ちゃんもコップ持って」
 「……」
 「あのー、その銀時ちゃんって止めてくれない? お宅の娘さんから凄い視線感じるんですけどもー」
 「まぁまぁ、いいじゃん。そういうわけで、今日は朝までこのメンバーで騒ぐことにして」

 全員が酒を注がれたコップを握る。なんだかんだといいながらみんなコップを取り、そして、四人で互いのコップとコップを打ち合わせた。



 『乾杯!』



 いろいろ会って、珍客ばかりが訪れた一日ではあったけれど、たまにはこういう日も悪くない。
 馬鹿みたいに騒いで、楽しくあったことには変わりないんだから。
 こんなことがあるから、屋台っていうのは止められない。










 ■あとがき■
 友人「おめぇ、旧作キャラせめて神綺か魅魔ぐらいだそうぜ?」
 作者「え? マジッすか!?」

 と、そんな会話から出来上がった今回の話、いかがだったでしょうか?
 最初、旧作のキャラは自分がろくに知らないこともあってあんまり出す予定がなかったのですが、上のやり取りを経て色々調べることに。
 そしたらまぁ、神綺に大ハマリしてしまいまして(ぉ

 アリスが神綺の娘だとか色々、今回は二次要素が強い話になってしまって申し訳なく思ってます。
 神綺のキャラについても、喋り方とか色々、初めてかいたキャラだけに自信がないのですが、いかがだったでしょうか^^;

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十五話「主人と従者は夢と現と幻と」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/11/20 14:12

 ※今回も二次設定が強い話になっています。尚、一部かなり暴力的な表現が含まれるかもしれませんのでご注意ください。










 「見つからないわねぇ……」

 日中の炎天下、気だるげに声を上げたのは鮮やかな青い髪に、桃のアクセサリーのついた特徴的な帽子の少女。
 不満なのを隠しもしないまま、彼女、比那名居天子は銀髪天然パーマの坂田銀時の隣で、あちこちせわしなく視線を動かしていた。
 その一方の銀時はというと、これまた人々の行き交う街道の中、一枚の写真を片手にいつもの魚の死んだような濁った目をあちこちに動かしている。

 「ねぇ銀さん、やっぱり無理があるわよ。こんな広い街の中から犬一匹見つけるのなんて」
 「ばっかオメェ、そういう仕事なんだから仕方ねぇだろーが。ったく、そんなんだからオメェは胸が成長しねぇんだよ。牛乳取れ。カルシウム取れ。そんなんじゃ何時までも絶壁―――」

 びゅっ、スパァァァァァァァァァァァン!!

 「って、オイィィィィィィィ!!」

 緋色の閃光と共に空気が裂かれ、悲鳴上げながら飛び退る銀時。それから間髪いれずして、弾けるような音を響かせて大地がぱっくりと斬り裂かれた。
 銀時が今まで居た場所には、緋色の刀身を持った宝剣、緋想の剣がきっちりかっちりと突き立ってバックリと地面に傷を作っていた。
 一歩間違えば問答無用で真っ二つコースな一撃を繰り出した当の下手人、比那名居天子はというと、

 「……チッ!!」

 盛大に舌打ちなされておいでだった。マル。

 「『チッ!!』って言った!? 今『チッ!!』て言った!!? むしろこっちが舌打ちしてぇよ! 舌打ち三昧だよ!! オメェは短気なんだから牛乳取れって言ってんだろーが!!」
 「五月蝿いのよイチゴ牛乳しか飲めないくせに!! 何偉そうに講釈たれてるのよ!! むしろ恥ずかしいわ!!」
 「んだとぉぉぉぉぉ!? フルーツ牛乳だって飲めるぞコラァ!!」
 「黙れ甘党ッ!!」
 「うるせぇ絶壁!!」
 「絶壁言うなっ!!」

 周りの目など眼中になし、アウトオブがんちゅーな勢いで喧嘩をおっぱじめた二人。

 そも、二人がこうして街中に居るのにはいささか訳がある。彼らの言葉の通り、今回彼らが共に居るのはその仕事の内容が原因とも言えた。
 依頼の内容は迷子の子犬の捜索であり、目印は首輪と首輪につけられた赤いリボンのみ。その犬、なんでもとても珍しい犬種で、数億の値がつくとか。
 そもそもの話、江戸の街はタダでさえただっ広いというのに、そんな中から子犬一匹を見つけ出すなどと無理難題もいいトコだ。

 結果、彼らは四通りに分かれて捜索を始めることになった。
 Aグループには、銀時と天子。
 Bグループには、新八と鈴仙。
 Cグループには、神楽とフラン、定春。
 Dグループは言わずもがな、空を己がフィールドとする文。

 Cグループの選別には何か間違ったものを感じないでもないが、捜索を開始してはや一時間がたとうといったところ。
 いい加減疲れもストレスも溜まりに溜まっていたこともあり、喧嘩はだんだんとエスカレートして行くはずだったのだが……。

 「あら、銀さんじゃない。仕事中かしら?」

 そんな聞きなれた声がかかり、二人はそちらのほうに視線を向ける。
 そこにはやはりというべきかなんというべきか、深緑のセミロングにチェック柄の服を着て日傘を差した少女の姿。
 四季のフラワーマスター、座右の銘は『大量虐殺も遊びの内』、アルティメットサディスティッククリーチャー、風見幽香の姿がそこにあったのである。
 それと同時に、彼女の連れらしい、他の4人の少女の姿も確認が出来たわけなのだが。

 一人は純白のワンピースタイプの衣服に身を包み、背中からは純白の翼が生え、金髪の髪はリボンで止められてポニーテールが作られている。ともすれば天使、なんていう表現が似合いそうな少女。
 二人目は、先ほどの少女と顔立ちは似ているが、やや目つきが鋭く、同じ金髪でこちらはセミロング。そしてその服装は目立つことにメイド服という姿の少女。
 三人目はこの中では一番の長身だろう、金髪の髪は外側にカールするようにはねており、白いハットがよく似合う少女。
 そして四人目、色素の薄い金髪ロングヘアーに白いリボン、背中からは蝙蝠のような巨大な翼が生え、大きな日傘を差した少女の姿。

 そちらの四人が気になりはしたものの、とりあえず知人である幽香に視線を向け、気だるげに後頭部をぽりぽりと掻いて言葉を返すことにした。

 「まぁ、そんなとこだな、ゆうかりん。悪いけど手伝ってくんない?」
 「いきなりねぇ。まぁ、別にかまわないけど」

 あんまりといえばあんまりな発言を早速かました銀時に、幽香はというと特に気にした風もなく、苦笑しながらあっさりと了承する。
 その拍子に重なる『えっ!?』という3つの驚愕の声を黙殺しつつ、幽香は相変わらずその笑顔を崩さない。

 「えっと、幽香様。そちらのそことなーく失礼な男はお知り合いですか?」
 「そうよエリー。彼は坂田銀時、やんごとなき縁があってお知り合いになったの」
 「やんごとなき……ですか」
 「そう、やんごとなきよ」

 白いハットをかぶった少女、エリーの言葉にそちらに視線を移し、やんわりと返答した彼女は、再び銀時に視線を戻して再度言葉を紡ぎだす。

 「紹介するわね、銀さん。彼女達は私の友人と、私の従者。
 そこの天使モドキが私の友人の幻月、メイド服を着たのが彼女の妹の夢月。
 白いハットをかぶってるのが私の従者のエリー、同じく私の従者たる吸血鬼のくるみよ」

 紹介されて、銀時は改めて彼女達に視線を送る。
 なるほど、彼女の友人や従者というだけあって見た目が個性派ぞろいと言えば聞こえは悪いが、みんながみんな美人美少女ぞろい。
 改めて幻想郷の女性に美形が多すぎねぇ? などと思う銀時だったが、もう一つ、今まで知らなかったことに顎に手を当てる仕草をして、感慨深げに一言。

 「そうかそうか、ゆうかりんにもちゃんと友達が居たのか。俺ぁてっきり―――」

 ズドンっ!!

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 本日二度目の銀時襲撃は幽香からの一撃だった。悲鳴を上げながら飛び退ると同時に凄まじい轟音が当たりに響き渡り、幽香の日傘の鋭利な先端がものの見事に電柱を貫通していたのだった。
 オマケに、突き刺さった傘の位置が丁度銀時の顔と同じ高さなのだから、彼が避け損なっていた場合、グロいオブジェがこの街道に出来上がったことは間違いねぇのである。

 「あら、さすが銀さんね。避けると思っていたわ」
 「褒められても嬉しくねぇよ!! 後一歩遅かったら銀さんグロテスクなオブジェになってたよ!! この話ココで終わっちまうとこだったよコノヤロー!!」

 いけしゃあしゃあと言ってのける幽香に、銀時が青筋浮かべながら食って掛かる。
 そんな光景を眺め見て、あぁ、久しぶりに始まったなァとそんなことを思い浮かべながら、怒りが冷めたらしい天子が能力で生み出した小さな要石に腰掛けたのだった。

 空は高く、真夏特有の炎天下。今日も暑くたまらない夏の一日の一コマの始まりである。












 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十五話「主人と従者は夢と現と幻と」■















 さて、そんな一騒動があった後、幽香は幻月という外見は天使のような少女と一緒に目的の犬を探しにいった。
 残りのメンバーが銀時たちと一緒に回ることとなり、中でも特に不満そうだったのが幻月の妹、メイド服を着た夢月だった。

 「いやぁ、ワリィな。あんた等まで巻き添え食らわす羽目になっちまって」
 「いいよ、別に。幽香様がやる気出してるのに、私たちが何もしないっていうのも何か違うし」
 「くるみの言うとおり。私たちはあなた達のためじゃなくて、幽香様のためにやってるんだから」
 「幽香様、ねぇ。アイツ、身だしなみや身のこなしが優雅だったけど、従者まで居るなんて、どこかいいとこでのお嬢様だったのね」

 エリーとくるみは銀時や天子の会話にも積極的に反応し、言葉を返すというのに。
 当の夢月はというと「何で私がこんなめんどくさいこと付き合わなくちゃ行けないのよ」と言う不満がありありと表情に表れている。
 彼女、実際メイド服を着ているが幽香の従者、というわけではない。彼女がこんな服装をしているというのも、そもそもは姉である幻月の趣味なのである。
 自宅……というよりも、元自宅ともいえる夢幻館の中ではそうでもないのだが、いざこの格好で外を出てみれば、まぁ人間達の視線が鬱陶しいこと鬱陶しいこと。

 「えっと、エリリンが妖怪で、くるみんが吸血鬼、と。よし、覚えたぞー、銀さんは」
 「エリリン!? 何か嫌なんだけどその響き! そこはかとなくどこぞのやられ役みたいな響きだし!?」
 「くるみんってもしかして私のこと!? なんだかくるくる回ってそうで嫌なんだけどぉ!!?」

 なにやら飛び出した妙なあだ名に、抗議を上げる門番二人組み。そんな彼女達に向かって、経験者は語るといった感じでビッと親指をサムズアップなされている我等が不良天人様。

 「諦めたほうがいいわよ、貴方たち。何しろコイツ、自分の友人にヅラなんて見も蓋もないあだ名つけてるんだから」
 「いや、ヅラは友人なんかじゃ断じて無いから。そこ間違えんなよてんこ」
 「だからてんこって言うな!!」

 左手に持った要石が銀時のボディに目掛けて打ち込まれる。だがしかし―――

 「遅ぇ!!」

 ガッと両手を使ってそれを銀時が止める。伊達に何度も何度も要石攻撃にやられているわけではない。
 彼とて白夜叉と呼ばれた男。タイミングさえわかっていればこの程度を押さえるのは造作も無いのだ。
 不敵な笑みを浮かべ、ニヤッと笑みを浮かべる銀時が天子に顔を向けようとして―――

 ゴシャっ!!?
 「ブヴァっ!!?」

 上段からから襲来した右手の要石攻撃の直撃を、顔面に見事こうむったのであった。
 ボディに打ち込むと同時に、下に意識が向いた瞬間に本命の第二撃を振り子のように上段から襲来させるその必殺技。

 「ど……ドラゴンフィッシュ、ブロォ」

 どさりと、崩れ落ちながらそのフェニッシュブローの名を銀時が口にする。
 フッと得意げに銀時を見下ろしながら「10年早いわ!!」と言い切る我等が不良天人、比那名居天子。
 伊達に、暇なときは古本屋に足を運んで立ち読みしちゃあいねぇのである。
 「おぉー」と湧き上がるエリーとくるみからの歓声に、これまた調子に乗って気をよくする天子。
 実にやかましい連中である。いや、エリーとくるみに関しては以前からあんな感じだけども。と、そこでまた夢月はため息をついた。
 こんな調子で果たして目的のものが見つかるだろうか? むしろ見つからないような気がする。先のことを考えるなら、実に憂鬱な気分に陥らざる終えない。
 幽香と姉の買い物に付き合うんじゃなかった。と、改めて後悔し、それも既に遅いものだとまたため息をついてしまう。

 「そういやぁ、オメェさんは? やっぱ姉ちゃんと同じで天使とか?」

 と、今さっき崩れ落ちたはずの人間の声が聞こえて思わず振り向いてみれば、やっぱり完全回復には至らなかったのか顔面血だらけの銀時がそこにいた。
 うん、ぶっちゃけるとかなり怖い光景なのだが、生憎、夢月はそんな光景に驚くほど軟な精神はしていない。いや、回復早すぎない? という驚きはあるがそれはさておいて。

 「天使? まさか、私や『あの』姉さんが天使だなんてありえないわ。確かに、姉さんはどこぞのミサにでも降り立てば、熱烈な歓迎を受けそうな姿ではあるけれど」

 まぁ、数分もすれば酸鼻極まる阿鼻叫喚の地獄絵図になることは間違いないわね。という言葉は、飲み込んでしまい込む。

 「私と、それから姉さんもあんな外見だけどね、『悪魔』よ」

 クスっと苦笑を零して、夢月は言葉を紡ぐ。
 今でも、夢月は自身の姉に対して思うことがいくつもある。悪魔といえば、くるみの持っているような、蝙蝠の禍々しい翼が相場だというのに。
 あろうことか彼女の姉である幻月の翼は白鳥を思わせる穢れ無き純白で、衣服も好んで白っぽいものを着るものだから、尚更天使だなんてものと勘違いされる。
 でも、外見はあくまでも外見。中身はどうかといえば、他の悪魔達なんかよりもよっぽど『イカレている』と表現したほうがより適切だろう。
 何しろ、『あの』風見幽香の友人が務まるのだ。「大量虐殺も遊びの内」なんていう物騒な言葉を座右の銘にしているような女の友人なのである、彼女の姉は。
 無論、彼女とて幽香の友人だという自負はあるが、それはそれで別の話だ。人間の命などどうなろうと知ったことではないが、彼女達よりは分別があるほうだと思う。
 幽香も幻月も、内側は相当イカレてるというのに、仕草や表情なんかは理知的に振舞うものだから尚のこと性質が悪い。
 まぁ、最近は幽香も姉さんも少し丸くなったけど……と、そんなことを思いながら夢月は思い出したように思考の中枢から現実に意識を浮上させる。

 「うわぁ、あの外見で悪魔かぁ。詐欺ね」
 「まぁ、そうよねぇ。私でさえ、姉さんは何か運命の悪戯か何かで産み落とされた挙句、悪魔としての常識を腹の中にすっぽり忘れてきたイレギュラーなんじゃないかって思うもの」
 「いやいや、なんか昨今の妹って姉に対して言葉が辛辣じゃなーい? フランといい夢月といい、少しは姉のこと労ってあげねぇとお姉ちゃん達グレちまうぞー」

 ポツリと呟いた天子の言葉に、夢月がわりかし肯定の言葉を紡いで、銀時がさりげなくフォローっぽいものを一つ。ちなみに、夢月の言葉に幻月のことを知るエリーとくるみはウンウンと頷いていたりする。

 「心配ないわよ、銀時っていったっけ? 姉さんは外見からしてとっくに悪魔としてグレてるわ」
 「性格にしても幽香様とどっこいどっこいですからね」
 「もう手遅れだと思うよ」

 夢月の言葉に便乗して、エリーとくるみがさりげなくひでぇ言葉を吐きまくる。
 そりゃ要するに自分の主を人格破綻者と認めたことに他ならないわけで、もし、この言葉を幽香と幻月が聞いていたら彼女達は明日の日の目を拝めなかっただろう。ワリと冗談抜きで。
 その代わりといっては何だが、みしりと二人の頭を鷲掴みにする手が代わりに制裁を加えることとなる。
 加害者は夢月。被害者はエリーとくるみ。
 もっと違う言い方をすれば、執行者が夢月で、罪人がエリーとくるみなのである。

 「いだだだだだだだだ!! 痛い!! 痛いですって夢月さん!!」
 「ミシミシいってますから!! 冗談抜きで割れちゃいますって!! というか夢月さんだって色々といってたじゃない!!」
 「私はいいのよ、友人で妹だから。あなた達は従者でしょ!!」

 中々めちゃめちゃな理論だが、それに逆らえるほど生憎とエリーもくるみも立場は強くない。
 アイアンクロー通り越してデスクローに発展しそうなその凶悪な握力に、妖怪と吸血鬼であるはずの二人の頭部がミシミシとリアルタイムで悲鳴を上げていた。
 実際この時、普通の人間が同じ圧力を掛けられていたらあっさりと粉々になっているだろう握力だったりするのだが、幸か不幸かそれが露見することは無かったのである。

 「なんか、話聞いてるとそれって似たもの同士ってことでしょ?
 同族嫌悪とかで相性悪そうだなァって思うんだけど……、というか、貴方達の話が本当だとしたら、あの二人が出会ったらまず『殺し合い』な気がするわ」

 むーっと難しげに唸った天子の言葉で、幸いにも頭部が限界を超える前に二人は解放された。
 二人は「ありがとう天人さん!!」と心の中で賞賛を送りつつも、頭部のダメージが思ったよりもでかくて未だに呻きながら蹲っていたりする。

 「ご名答、会って10分と経たずに血の雨が降ったわよ。でも、傍目から殺し合いだけど、きっとあの二人にとってはお互いに『じゃれついてた』だけなんでしょうねぇ」

 その時のことを思い出したのか、夢月はため息をつきながら言葉を紡ぐ。
 大分昔の話だが、今でも鮮明に思い出せるのが不思議だ。
 アレをじゃれついていた、と判断していた当時の自分も、大概、姉に影響されていたのね。などと思いながら、あの『じゃれあい』の後始末のことを思い出して辟易としていたりする。

 「へぇ、気になるわ。よければ教えてくださらない?」
 「物好きねぇ」

 天子の申し出にも、夢月はため息つきながら答えてはいたが「まぁいいか」と思って言葉を紡ぎ始める。




 「そうね、あの時はこんな日のように、とても暑い日のことだったわ」






















 「本当にこっちでいいの、幽香?」
 「えぇ、間違いないわ。花達もさっきからせわしなく教えてくれているもの」
 「便利ねぇ、相変わらず」

 人の視線もなんのその、とにもかくにも目に付く二人の少女。
 方や深緑なんていう珍しい髪の色に、日傘。
 方や天使のような羽根を持ち、衣服も純白のワンピース。

 こんな目立つ彼女等だったが、二人ははっきりいって周りの視線など気にしていない。
 元々性質が似通っていることもあってか、そもそもの話、他人の目を気にするような軟な神経は持ち合わせていなかった。
 もっとも、彼女達がいる今の場所は、人の目など皆無といっていい場所ではあったが。
 人の入り込まぬ無人の工場跡地。その場所において、彼女達はこの上なく異質な存在だった。
 寂れた工場の風景に二人が溶け込めるはずもなく、むしろこの廃工場自体が、彼女達を引き立たせるにはいささか役不足というものだろう。
 それでも、裏のほうには海もあり、夏だというには涼しげな風が流れてきてはいた。

 「それにしても、幽香が人間とねぇ」
 「あら、力があるなら興味を持つわよ? 霊夢しかり、銀さんしかり」

 くすくすとお互いに笑いながら、廃工場の奥にひた進む。周囲を見回してみるものの、目的の子犬の姿は見当たらない。
 それで別段不機嫌になるわけでもなく、幻月も幽香も足取りは軽い。

 「私と初めて会ったときも、あなたは興味を持ってくれたかしら?」
 「もちろんよ。判ってて言っているでしょう? 私と貴女はよく似ているもの」
 「違いないわ」

 なんとなしに言って、また苦笑する。本当に、お互い似たもの同士で、でもだからこそ私たちは親友なのだと、幻月は思う。
 コレを言うと、妹の夢月が決まって不機嫌そうな顔をするのだけど、それはまた別の話なんじゃないかって、そう思っている。
 何しろ、幻月にとって、親友と妹とはまったくの別物であって、それと同格であることに変わりはない。

 「今日みたいな日だったっけ?」
 「そうね、今日みたいに絶好の向日葵日和ね」
 「なにそれ」

 そう言って、幻月はケタケタと笑う。それにつられて、幽香も笑みを零して過去を回想する。



 お互い出会ってみれば、ただただ遊びに興じあったものだ。
 後にも先にも、あの狂おしいほどの『戯れ』は一度っきりだったが、それで十分、と幽香は思う。
 幻月もそれで納得していたし、満足もしていた。そして何より、屋敷が壊れたり血で汚れまくったもんだから、後片付けをやっていた夢月が盛大に怒っていたのもいい思い出だ。
 元々放浪癖のあった幽香は屋敷を数日、あるいは数ヶ月空けることもザラに会ったし、その間は幻月や夢月、幽香の従者であるエリーとくるみが留守を預かった。

 そう、あの戯れ、じゃれあいはあの一度っきり。
 お互いの肉を削ぎ落とし、骨を砕き、目を抉ってやれば抉り返され、脳を貫いてやれば図らずも同じように脳を貫いてきた。
 しかもお互い、体なんてあっという間に再生するもんで、加減なんて知らないし、する気もなかったもんだから、結局再生できなくなるほどにまで疲弊して。
 結果、あたりは自分達の肉片やら血液やらで盛大に真っ赤に染まり、お互いに疲れきったように倒れた。
 そんな彼女達に、遠慮なく文句をたれたのもやっぱり夢月。そりゃそうかと、動かない体でそんなことをぼんやりと考えもした。
 夢幻館。その名の通り、そこは元々幻月と夢月の住んでいた館なのだから、どう転んでも元々屋敷の掃除をしていた彼女がこの後始末をするのは火を見るより明らかだろう。
 当時の幽香は、ただ拠点として立派で豪華な屋敷が欲しいから。なんていう理由で襲来した、ある意味では略奪者だったのだし。

 まぁ、結果的にはなんやかんやでお互い親友という形に落ち着き、こうやって互いに会話するだけでも有意義な時間が過ごせるわけなんだけれど。

 「この中に入っていったみたいね」

 一際大きな倉庫。その隅に咲いた小さな花の『言葉』に耳を傾けながら、幽香は言う。
 一体何時ごろ入っていったのか、入り口にはカギがかかっており、どうにもこうにも、中に入ろうとしたら上のほうにある窓から入るしかないだろう。
 幸い、そこの窓は半分開いていたので、空を飛べる幽香と幻月にはさして問題にはならなかった。

 窓を開け、細い体を滑り込ませる。そうしてあっさりと内部に進入してみれば、まぁ居るわ居るわ。
 ぱっと見れば妖怪と勘違いされそうな、大量の天人(あまんと)のヤマ。

 「あら?」

 想像とはちょっと違った光景に、幽香は首を傾げたが、まぁいいか。と適当に納得する。
 何しろ、目の前には丁度、天人(あまんと)の手によってオリに入れられている目的の犬が居たわけなのだし。
 周りには大量の麻薬、『桃源郷』の山。目の前には、オリに入れられた数々の動物。なるほど、コレは中々に面倒な事態になっているらしい。
 突然の来訪者、というよりも侵入者にざわつき始めたところで、幽香は一歩前に躍り出て優雅に会釈した。

 「こんにちわ、天人(あまんと)の皆さん。私は風見幽香、あなた方が今、檻に入れたその犬に用があるの。こちらに譲ってくださらない?」

 今のこの状況で、そんなことを堂々と言い切るこの少女のことを、彼らはどう思ったか。
 数にして、彼らの数は幽香と幻月の十倍以上。明らかに犯罪現場なその場所で堂々とした振る舞いで、なおかつ商品として売りに出そうとしているものを寄越せという。
 少なくとも、宇宙海賊である彼らにしてみても、その発言は生憎と受け入れられない。
 第一、この場所を見られた時点で口封じをすることは確定なのだから。
 殺してもいいし、文句のない美少女なのだから、売れば金にもなるだろう。

 「生憎だがな、お嬢ちゃん。そいつぁ聞けねぇ相談だ」
 「あら、残念ね幻月」
 「本当ね、幽香」

 特に怖がった様子もなく平然とした様子で、それどころか笑み浮かべてさえ隣に居た友人に言葉を投げかける。周りには、彼らの仲間が徐々に包囲を狭めているというのにもかかわらず、だ。
 その友人ですらも、相変わらず無邪気な笑みを浮かべたまま。
 自分の状況を理解していないのか、それとも、何とかなるのだと楽観しているのか。
 そっと、幻月の後ろから近づいてくる鳥の頭をした天人(あまんと)。彼が幻月の捕まえようとした瞬間―――



 「じゃあ、殺して奪い返すに限るわね」



 そんな、なんでもないことのように、朗らかに幻月は宣言して、腕を振りぬいた。
 グシャっという、何かひしゃげたような音。ぐるんぐるんと何かが宙を舞い、赤い飛沫を撒き散らしながら十mほど先の壁に激突して砕け散った。
 勢いよく、ビシャリと赤い液体がぶちまけられ、着弾点付近にあった窓ガラスの一部を真っ赤に染め上げる。

 「あははははははは!! 見てよ幽香、まるでステンドグラスね!!」
 「あら、ステンドグラスにしては些か趣に欠けるわ」

 その光景を一部始終見ていた幻月はというと、喜劇を見た子供のように無邪気に笑って、幽香は少し否定しながらも興味深げに赤色に染まった窓に視線を移している。
 彼女達の背後に立っていた首無しの天人(あまんと)だったものの体がぐらりとよろけ、そして、倒れる。
 とめどなく血を吹き上げながら、やがて赤い水溜りを作り、ビクンビクンと痙攣している様が、恐怖を煽った。

 その光景を、果たしてどれだけの者達が正常に受け止められたことか。
 少女達を捕まえようとした仲間が、突然首をなくして倒れてしまった。あの天使のような翼を持った少女の右腕は真っ赤に染まり、彼女自身の服にも返り血がかかり、赤く染まっていた。

 じゃあ、先ほど飛んでいったナニカは、仲間の首で。
 それをやったのは、目の前の返り血を浴びたまま無邪気に笑っている、あの少女だとでもいうのか?
 にわかに理解しがたい、いや、理解したくない現実が目の前に転がっている。

 くるりと、幽香が視線を移し、そして駆け抜けた。
 幽香に目をつけられた一人は、もはや不運としか言うほかなかっただろう。
 彼女にしてみれば、ただ単に目が留まった。ただそれだけだったのだから。

 あんまりな現実に理解が追いつかなかったのがそもそもの原因か、それも、標的にされた彼が知る機会は永遠に失われることになった。

 ズダンッと、轟音が響いて今度はそちらに視線が向けられる。そちらに視線を向ければ、幽香の傘に顔面を貫かれ、壁に貼り付けにされた天人(あまんと)の姿。
 鋭利な日傘の先は顔面の骨を易々と貫き、その勢いのまま貼り付けにするのにさして労力はかからなかった。
 ビクビクと痙攣し、物言わぬ骸となった二つ体。それが、元々仲間のものであったなどと、どうして信じられるだろう。
 傘から手を離せば、ほら、人間大のピン挿の標本の出来上がりだ。

 「幽香らしくないね、一撃だなんて。でも面白いわ、それ」
 「失敗したのよ。肩を狙えばよかったけれど」

 感でも鈍ったかしら? などと呟きながら、彼女はすぐに次の得物を選別し始めた。
 ココに来て、形振りかまっていられないと理解したのか、恐怖が心を支配したか、怒りが心を支配したか、それはわからない。
 だが、ここにいた天人(あまんと)たちが雄たけびを上げるのを聞いて、幽香も、そして幻月も満足そうに笑みを浮かべた。







 「大量虐殺も遊びのうち」。その言葉の通り、これから起こるであろう大量虐殺も、『彼女達』にとっては遊びに過ぎないのだから。


























 「ほら、この犬でしょ?」
 「おぉ!! 本当ですよ、銀さん。この犬で間違いないです!!」
 「さすが姉御アル!!」

 時刻は夕刻。幽香たちは後始末を終えた後、何食わぬ顔で堂々と銀時たちと合流した。
 パッと差し出した犬を確認し、それが目的の犬であるとわかると大喜びする新八と神楽。
 これで晴れてミッションコンプリート。久方ぶりに少しは豪華なご飯に出来るかもしれないとテンション鰻上りである。

 「ワリィな、ゆうかりん、幻月。何もなかったか?」
 「何も。強いて言えば、ただ遊んでただけよ」

 くすくすと笑いながら、幽香はなんでもないことのように口にする。
 せっかく買った服を、こんなにも早く着ることになったのは予想外だったが、まぁいいかとも思う。
 何しろ、基本的に赤いチェック柄の幽香ならともかく、幻月に至っては純白のワンピースが真っ赤に染まりきっていたのだから、流石にコレじゃ外に出られない。
 幸い、幽香が買い物で買った服を持っていたことが幸いしたが、なかったら如何しようかと途方にくれていたかもしれない。
 まぁ、それはそれでシュールで面白いわね。などと思いながら、幽香は親友たる幻月に視線を向ける。
 久しぶりに大暴れしたからだろう。すっきりとしたさわやかな笑みを浮かべて、上機嫌な様子の彼女がそこにいる。
 まったく、と幽香は苦笑する。
 そんなんだから、貴女は『かわいい悪魔』だなんていわれるのだと、心の中で親友にそう言葉を送った。

 「それじゃ、今日はこのメンバーで宴会と行きましょう!!」
 「あ、いいね!! 文に賛成!!」
 「そうね、フランもああいってることだし、私たちも同伴しましょうか」
 「あ、幽香様に賛成!!」
 「ずるいエリー!! 私も!!」
 「まぁ、私も一緒に騒ごうかしら?」
 「はぁ!? ちょっと姉さん!!」

 文の一言をきっかけに、途端に騒がしくなる一同。
 そんな騒動を耳に聞きながら、幽香は満足げに笑った。隣に居た幻月も、また同じように。






















 ある一室のモニターの前で、少年はニコニコとしながらその光景を眺めていた。
 モニターの奥、そこに映るのはまるで地獄といって相違ない光景だった。
 あるものは引き裂かれ、あるものは串刺しにされ、あるものは潰されて、それでも尚、その殺戮者二人はは無邪気に笑いあって、会話する余裕すら持っていた。
 臓物をぶちまけ、返り血を浴びながらも、狂喜のこもった笑みなのではなく、喜劇を前にした少女のような無邪気な笑顔。
 それが逆に恐ろしく感じるだろうその光景を、だがしかし、少年は興味深げに、実に楽しそうに眺めていた。

 「おもしろいね、彼女達」

 地球に密輸に携わっていた仲間が皆殺しにされた。そんな話を聞き、その資料を見てみれば、その光景は予想以上。
 戦ってみたい。素直にそう思い、戦えるとなるとどれだけ「楽しい」ことか。
 簡潔に言えば、この少年は極めて彼女達に「近い」性質の人物だという事。この光景を楽しそう、などと感じている時点でそれがわかる。




 彼は春雨の雷槍と恐れられる最強部隊第七師団の団長、名は神威という。











 ■あとがき■
 ちょっと急いで仕上げた感がありますが、いかがでしょうか?
 また旧作からのキャラ大勢出演で、オマケに二次の強い話になってしまいました。
 今回は色々と不安な要素も多く、皆さんに満足していただけるかが凄く心配です。
 中でも幻月、夢月姉妹に関してはWikiや独自的な解釈、数少ない彼女達メインの二次を参考にしただけあって、不安一杯ですよ^^;
 実際、幽香と幻月の関係とか完全に二次頼りに成ってしまったのが申し訳ないです。
 それでは、今回はこの辺で。

 ※誤字が多かったので修正しました。教えてくださった皆さん、ありがとうございました。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十六話「黒くて硬くてガリガリしてて焦げてて気が遠くなるような……って、長ぇよ副タイ!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/11/24 16:13








 幻想郷の湖の先に佇む紅魔館。今日も今日とて、かの吸血鬼、レミリア・スカーレットはテラスのパラソルの下で優雅に紅茶を嗜んでいた。
 そんな彼女の元に、優雅な足取りで銀髪でメイド服を着た女性、十六夜咲夜が近づいてきたのを知って、レミリアはそちらに視線を向ける。

 「お嬢様、妹様からお土産が届いてます」
 「フランから?」

 テーブルの上に置かれたそれに視線を向けながら、レミリアは感慨深げに微笑んでいた。
 おそらくは茶菓子か何かだろう。まさか、あのフランからお土産など、少し前までは考えられなかったことだ。
 彼女とて、立場上、それを強く表に出せないものの、姉としてフランのことは大事に思っている。
 この事実が、嬉しくないわけがない。そんな主の様子を見て、咲夜も慈愛に満ちた笑みを浮かべていたが、内心浮かれていたレミリアはというとそれにまだ気付いていない。
 包装を取り、箱の蓋を開けて―――。

 <キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ>バタン。

 すぐ閉じた。
 ……OK、落ち着け私。落ち着くんだマイハーツ。
 そんな自己暗示を繰り返しつつ、覚悟を決め、もう一度蓋に手をかけ、

 <ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ>バタン。

 開けた瞬間に再び蓋を閉じるレミリア嬢。何ゆえか冷や汗を流しつつ、睨みつけるようにソレを見下ろしている。
 おかしい。コレはおかしい。何がおかしいって開けた効果音が悲鳴って言う時点でもはやおかしい。
 というかコレは何? なんですか!? Why!!?

 「お嬢様?」
 「はっ!!」

 あまりにも様子がおかしかったからか、咲夜がレミリアに問いかける。
 ソレでようやくあっちの方に飛びかけていた意識が戻ってきたのか、気難しい顔で咲夜のほうに視線を向ける。

 「……ねぇ、コレ。本当にフランから?」
 「えぇ、妹様直々に持ってこられまして、『これは私からの愛情だから、ちゃんと食べてね。私は神楽と一緒によっちゃんをしばき倒してくるから』と」
 「いちいち声まで真似しなくていいわ」

 咲夜の話を聞きながら、レミリアは頭痛を覚えて頭を押さえながら返答する。
 これで、本物から手渡されたことは間違いないだろう。むしろ、フランからそんなことを言われた以上、本当に食す必要が出てきてしまった。
 チクショウ。わが妹ながらどんどん腹黒くなっていってるぞ。お姉ちゃん悲しい!! などと8割がた妹の成長に悲観しながら、レミリアは咲夜の側からは謎のままだった中身を露にする。

 一言で表すなら、炭だ。というか、それ以上表現しようがない。そんな物体だった。

 「……」
 「……」

 今度ばかりは、咲夜すらも言葉を無くした。そして訪れる重い沈黙の中、その謎の物体Xがジュウジュウと何かが焼け爛れる音を響かせている。
 それも、一つではない。10もの数が陳列し、その様はまさしく、「さァ食ろうてみるがよいわ馬鹿たれが!!」と嘲笑っているかのようでもあった。
 食べたくない。ひじょぉぉぉぉぉぉぉぉぉに食べたくない。だがしかし、彼女は食らわねばならなかったのだ。
 己の、己の中の妹への愛を、確かめるために!!

 「お嬢様!!」

 その蛮勇に気がついた咲夜が止めようとしたが、もう遅い。ソレはレミリアの喉をあっけなく通過し。

 ばったり。

 そしてこれまたあっけなくレミリアを気絶させたのであった。マル。

 「お嬢様!! しっかりなさってください!!」

 ガックガックと肩を揺らし、主の名を呼ぶ咲夜。彼女らしくない、珍しく慌てた様子だったが、それも無理もあるまい。どう考えても危険な倒れかっただったのだし。
 しかし、意外にもレミリアはあっさりと目を覚ました。パチッと目を開き、不思議そうな顔で咲夜を見上げているが、どうにも様子がおかしいことに咲夜は気がついた。

 「お嬢様? あの、どこか具合の悪いところは……」

 恐る恐る問いかける咲夜。そんな彼女の顔を、レミリアはコテンと可愛らしい仕草で首をかしげて、そして一言。

 「うー?」

 その愛らしさにブバッと吹き出る忠誠心(鼻血)、咲夜はあらゆる意識を無限の彼方に飛来させてばったりと気絶した。
 そう、あまりの事態にレミリアの精神は幼児退行を引き起こし、普段のカリスマやら威厳やらがころーんと零れ落ちてしまったのである。




 かの紅い悪魔すらにも異常をきたしたその物体X。
 人はソレを。














 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十六話「黒くて硬くてガリガリしてて焦げてて気が遠くなるような……って、長ぇよ副タイ!!」■















 天井にまで届こうかというほどの本棚の群れが存在する、紅魔館地下の図書館。
 そこの主、七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジは事情を聞き終えても我関せずといった表情のまま本に視線を向けたままだった。
 もっとも、こと彼女に関してはその態度はいつものこと。しっかりと聞いていることは聞いているので、彼女のことを知る人々はその事ぐらいでは目くじらを立てたりしない。
 というより、そのくらいのことで腹を立てているようでは、この魔女との付き合いは到底不可能だろう。

 「それで、レミィが幼児退行引き起こしたのはそのお菓子が原因ってこと?」
 「えぇ、おそらく」

 本から視線も向けられずに紡がれた言葉に、咲夜はほぅっとため息をついて返答する。
 ココで始めて、魔女は本から視線をはずし、己が親友の方に視線を向けた。
 そこに人々に畏怖の対象として恐れられている吸血鬼の姿はなく、むしろ、そこにあったのは椅子に座った小悪魔の膝の上にちょこんと座り、本を読んで聞かせてもらっているレミリアの姿。
 普段なら間違ってもありえない光景だが、それゆえに微笑ましい光景に見えなくもない。

 はぁっと、小さくため息をつくパチュリー。
 強大な力を持った吸血鬼が、どんな理由で幼児退行を引き起こしたかと思えば、よりにもよって食物とは……冗談だとしても笑えない。現実なんで余計に笑えないが。

 「それにしても、本当にこれでお嬢様がこんなになっちゃったんですか? イマイチ信じられないんですけど」

 丁度本が読み終わったのか、レミリアをつれて小悪魔がパチュリーたちの元に戻ってくる。
 小悪魔の服のすそをぎゅっと掴んだまま、レミリアがついてきているのを確認して咲夜は困ったように頷いてみせる。
 ソレで興味がわいたのだろう。「ふーん」と物体Xを手にとって見る。

 「よしなさいよ、小悪魔。レミィですらこうなったんだから、あなたが食したらどうなるかわからないわ」
 「あはは、心配しすぎですよパチュリー様。ほら、こうやって食べてみてもなんとも―――」

 ガリッ!!

 「……」
 「……」
 「……」

 沈黙が重い。小悪魔がソレをかじると言う恐るべき蛮行を行った瞬間から、重い沈黙が沈殿してこの場を支配している。
 一体どれほど時間が経ったのか、ソレすらも曖昧になり始めた頃、ようやく小悪魔がゴフッと血を吐き出したのであった。

 「こ、小悪魔?」
 「ふ、フフ……、まさか道半ばで倒れるか。しかし、忘れないでください。私が倒れようとも、第二、第三の小悪魔が……ガク」

 いきなりの事態に、流石にパチュリーが心配したような声を上げたものの、その直後に意味不明な言葉を吐いてバッターンと直立不動のままぶっ倒れる小悪魔。
 再び訪れる重ッ苦しい沈黙。パチュリーも咲夜も、冷や汗流しながら視線を落として下手人である物体Xを睨みつけている。
 こうなれば信じざる終えまい。というか、目の前で実際にぶっ倒れられては信じざる終えない。
 だがしかし、だがしかし!! あの小悪魔のこと、もしかしたら悪戯の可能性もあるのではなかろうか? そうだったら問答無用でサイレントセレナあたりでツッコミを入れるのに。
 ロイヤルフレアじゃないだけ小悪魔に対する愛を感じる瞬間である。痛いことには変わりないけど。

 と、パチュリーが心配するさなか、小悪魔はパッチリと目を覚ます。
 なんだ、やっぱり悪戯だったか。と、内心安堵した瞬間―――

 「こぁ~?」
 「って、貴女もなの!!?」

 希望は一瞬にして絶望に変わったのであった。むしろ現状は悪化してる。
 そう、小悪魔までもが幼児退行を引き起こしていたのである。なんてこったい!!
 本格的に頭痛を覚え始めたパチュリーだったが、このまま現実逃避をしているわけにもいかない。
 とにもかくにも、この状況の原因はこの物体Xで間違いないのだ。理由がどんなにあほらしかろうが調べてみなければなるまい。非常に不本意だが。


























 さて、その頃。夢幻世界と幻想郷の境にある夢幻館。そこでもちょっとした事件が現在進行形で起こっていた。

 夢幻館の中庭にある花壇。そこには珍しく、この館の主である風見幽香と、その彼女の親友である幻月が楽しそうに花の世話にいそしんでいる。
 その彼女達を、何ゆえか冷や汗流しながら見つめる従者×2と妹の姿。

 「あ、あの……幽香様」
 「あら、どうしたのエリーさん? お昼ならもう少し待ってくださいね。この子達の世話が終わったらすぐにでもご飯用意するから」
 (ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!)

 にっこり眩しいばかりの笑顔で告げられ、エリーは背筋に薄ら寒いものがゾクゾクと駆け巡っていくのを感じながら、上げそうになった悲鳴をかろうじて喉の奥底に飲み干す。
 恐ろしい。何が恐ろしいって、あの極悪非道、暴虐無人、生粋の超ドSのあの風見幽香が、慈愛に満ちた眩しいばかりの輝かしい笑顔を己が従者に向けているのだ。
 コレが普段の彼女なら、笑ってはいてもどこか相手を威圧するような、そんな笑みであるはずなのだ。しかも、物腰柔らかな清楚な言葉使いなんて。
 少なくとも、彼女たちの知る風見幽香はそんな奴ではない。断じてない!!
 思わず土下座して額を地面にこすり付けて許しを請いそうだ。擦り付けすぎて地面が陥没しそうなくらいに。
 恐怖のあまり、そろそろ本格的にエリーが土下座の体勢に入ろうとしたところで、今度は夢月が二人に言葉を投げかける。

 「誰もそんな話してないわよ。そもそもね、ココの家事全般は私の仕事でしょうが。お昼ごはんはとっくに出来てるんだから、さっさと食べなさいって言ってるの」

 主や姉に対しての言葉使いもあったもんじゃない。そんな彼女の言葉にも、幽香はどこか困ったような笑みを浮かべるだけだ。
 夢月の感想はキッパリ「気持ち悪い」の一言に尽きる。
 別に、本当に言葉どおりの意味ではない。あんまりにも風見幽香らしくなくて「気持ち悪い」と感じるだけのこと。
 そんな彼女の心情などお構いもなしに、今度は彼女の姉である幻月が言葉を紡ぐ。

 「ごめんねぇ、夢月ちゃん。もうちょっとしたら終わるから」
 (うわぁ……)

 背筋にゾワゾワと悪寒が走るのを感じながら、夢月は思わず心の中で悲鳴を上げる。
 幽香もおかしいが彼女の姉もおかしい。何がおかしいって全般的に色々とおかしすぎる。
 お前は誰だ? 無邪気でありながら道徳概念とか悪魔の常識とかぽーんっとどこかに追いやった我が愛すべき姉はどこに行ってしまったのか?
 おっとりとして優しげな言葉使いとか、これじゃ本当に天使じゃないか。悪魔なのに。前回初登場したばかりだというのに、あっという間にスペルブレイクならぬキャラブレイクとはいかなことか?
 下手に笑顔のまま脅されるよりよっぽどキツイ。精神的ダメージで胃に穴が開きそうだ。

 「……どう考えても、コレが原因ですよね」

 あんまりにも目の前の光景がアレだったのか、現実逃避するようにくるみが手元に持っていた箱に視線を向ける。
 そこには昨日、よろず屋での宴会の夜、志村新八の姉からお近づきのしるしにと渡された、黒い何かが敷き詰められていたのであった。




























 「はぁ、つまりコレが原因でお嬢様と小悪魔さんが?」
 「えぇ。実に信じがたいことではあるけれど」

 さてさて、場所は戻って紅魔館の門前。
 そこで今日も今日とて門番にいそしんでいる紅美鈴に、咲夜は事情を告げて今日は誰も通さないようにと忠告に来ていた。
 それも無理あるまい。今、この紅魔館の最強戦力二人が不在も同然なのだし。
 レミリアは幼児退行を引き起こし、フランドールは今、よろず屋に居候しているし、彼女の言が本当ならば、今頃「よっちゃん」なる者をしばき倒していることだろう。
 おのれよッちゃん。いっそそのまま妹様に「きゅっとしてドカーン」されてしまうがいい!! などと場違いな怒りを覚えつつ、咲夜は美鈴に改めて視線を向ける。
 美鈴は美鈴で、その物体Xをまじまじと眺めている。「はへー」と声を漏らしながら、指で突っついてみる。
 やたら硬かった。

 「で、これは一体なんなんですか?」
 「卵よ」
 「……は?」
 「卵」

 微妙な沈黙が舞い降りる。
 美鈴は沈黙の中、卵(推定)と咲夜の顔を何度も交互に見比べて、そして、一言。

 「……冗談、ですよね?」
 「私も出来ればそう信じたいわね。でも、パチュリー様が直々に魔法で調べていたから、間違いはないんじゃない?」

 実際、咲夜自身もパチュリーからモノの正体を聞いたときは驚かされたものだ。
 よりにもよって、例のアレがしっかりと食物だったことにも驚きだが、何よりも卵をどう調理したらこうなるのか是非とも問いただしたい。
 料理に対する冒涜以外の何者でもない。コレでは卵がかわいそうではないか。もうかんっぺきに炭だし。
 というか、どこをどうしたら卵が吸血鬼に異常をきたすほどのバイオウェポンになるのかが理解できない。
 どこか遠いところの館では自称最強の妖怪とその親友の悪魔にも盛大に異常が起きていたりするが、ソレを咲夜が知ったのはもうちょっと先の話である。

 「あ、門番。なによー、その手に持ってるの」
 「ちょ、ちょっとチルノちゃん、お話中みたいだし駄目だよ!! えっと、こんにちわ、門番さん、メイドさん」

 上空から声が聞こえてきて、そちらに視線を向けてみればいつかの氷の妖精チルノと、彼女と一緒に居ることの多い名も無い大妖精の姿。
 まったく、今日は千客万来ね、望んでもいないのに。と心の中で愚痴を零しつつ、咲夜は軽く会釈をするだけにとどめた。
 一方、美鈴はというとそれなりに面識もあるのか、彼女達の訪れにも特に表情の変化を出さないまま、やんわりと返答する。

 「いきなりね、チルノ。これはね、卵よ。卵」
 「卵? 食べれるの?」
 「食べれるけど、食べちゃダメ。どう考えても体に悪いわ」
 「あたい妖精だから平気」
 「いや、まぁ」

 そんなやり取りをする美鈴とチルノの二人を、咲夜は一歩距離を置いて眺めていた。
 なんだ。存外に仲が良さそうではないか。まぁ、あの妖精はここら辺に生息しているし、しょっちゅうお目にかかる機会も多いのだろう。
 ふと、視線をチルノの後ろに控えている大妖精に視線を向ければ、おろおろとうろたえている彼女の姿が確認できる。

 「ちょ、チルノ!!」
 「食べちゃダメと言われたら食べたくなるのが生き物の性って奴よね!!」

 何時の間にやらどんな話に発展したのか、チルノは美鈴が持っていた箱から一つの卵(推定)を掴み取ると、美鈴の静止も聞かずに一瞬にして口に頬ばったのである。
 その瞬間、ぴったりとあらゆる行動を停止する氷の妖精、チルノ。微動だにしないまま、直立不動で時間だけがどんどんと過ぎ去っていく。

 「えっと、チルノちゃん?」

 恐る恐る、大妖精が言葉を投げかける。すると、チルノはくるっと彼女のほうを振り向き、にっこりと笑みを浮かべていた。

 「何、だいちゃん?」
 「えっと、大丈夫? なんとも無い? 1+1は?」
 「何を言ってるのよ、そんなの2に決まってるわ」

 馬鹿にされたと思ったのか、チルノは大妖精に対してむっとした表情を見せる。
 その仕草を見て、よかった、いつものチルノちゃんだ。と、安堵の息を零そうとして……。

 あれ? と、妙な違和感に気がついたのだった。

 「……チルノちゃん。2+2は?」
 「4」
 「12+2-7は?」
 「7」
 「20×2は?」
 「40」
 「じゃあ最後、10×20×5×6×0は?」
 「0にいくらかけても0よ。ねぇ、ほんとになんなのよー!!」

 いい加減うんざりしたのか、ウガーッと盛大にお怒りを露にするチルノ。
 しかし、大妖精、それに傍にいてやり取りを聞いていた美鈴と咲夜も、信じられないといった風にチルノに視線を向けるばかりだった。

 先に明言しておこう。妖精って言うもんはあんまり頭がよろしくないが、その中でもチルノはそれが特に近著な方だ。
 何しろ、1+1を「10」と平然とさも当然のように口にするのである。どんな簡単ななぞなぞでさえ一晩明かしてもわからない。
 身も蓋も無く言ってしまえば「お馬鹿さん」なのだが、果たして今のチルノはどうだろうか?

 「チルノちゃん、どうしたの!! 馬鹿じゃないチルノちゃんなんてチルノちゃんじゃないよ!! 自分のアイデンティティ消し飛ばしちゃったらこの世界生きていけないよ!!
 戻ってよチルノちゃん!! 正真正銘のお馬鹿さんだったチルノちゃんに戻ってよぉぉぉぉぉぉ!!!」
 「心配してるのはわかりましたけど言ってることは酷いですわね」

 錯乱しているのか、それとも必死になってしまったがゆえのうっかりか。大妖精が盛大に酷いことを口走りながらチルノの肩を掴んで揺さぶり、その事実を咲夜が冷静にツッコミを入れていた。
 ソレが聞こえているんだかいないんだか、大妖精は「よし、お医者さんに見てもらおう!!」とかさらに酷いことを口走りつつ、脳みそ揺らされてふらふらになっていたチルノをつれてどこかに去っていった。
 十中八九、永遠亭のほうにでも向かったのだろう。医者といえばあそこだし。

 「咲夜さん、これ、捨てたほうがいいんじゃないですか?」
 「あら、食材を粗末にするとよくないわよ? あとで飢えてるだろう巫女にでも持って行ってあげましょう」

 ひでぇ。思わず美鈴は心の中でそう零した。
 巫女といえばおそらく、十中八九博麗の巫女、霊夢のことだろう。というか、飢えているというフレーズではどうしてもそっちのほうが真っ先に浮かぶのはどういう事だろうか?
 明日には幻想郷が終わっているかもしれない。博麗の巫女は幻想郷に欠かせない存在なのだし。

 「咲夜さーん、こにゃにゃちわー」
 「あら、来たわね」

 青空の下、暑い天気だというのにも関わらず元気な声が聞こえてきてそちらに視線を向ければ、人里のよろず屋の跡を継いだ青い鳥の妖怪アオと、その助手のような立場にいる撫子、赤い翼が印象的な朱鷺子の姿が見えた。
 彼女達がココにいるのは、咲夜が彼女達に買い出しついでに依頼を頼みに行ったからである。
 朱鷺子がいるのは予想外ではあったけれど。何しろ、この鳥妖怪で鳥頭な癖して、本を読むのが大好きという変わり者。
 よく香霖堂で見かけることはあったものの……、まさかここでアオたちと一緒に来るとは思いもよらなかった。
 まぁ、手が足りないし、予想外の人員の欠員で人では多いほうがいいのも確かだ。主に、小悪魔の欠員分は何とかしなくてはなるまい。
 彼女達が呼ばれたのは、要するに小悪魔までもが幼児退行を引き起こしたのでその穴埋めのため依頼を持ちかけられたためなのである。

 「お、美鈴さんの持っとるんは一体何なん? ちょっと見せ……、ゲェー!! そ、それはぁぁぁぁ!!!」

 ズザァァァァッと一気にあとずさるアオ。そりゃもう見てて惚れ惚れするようなバックステップだった。

 「貴女、これ何か知ってるの?」
 「え、あ……その」

 咲夜に声を掛けられて、しまったといわんばかりに口篭るアオ。
 知っている。知っているが、是が非でも思い出したくないというのが正直な感想だった。もう手遅れだが。
 いや、知ってはいるが、一体どう説明したらいいのかワカラナイといえばそうだろう。説明を求められても、正直困る。
 正確に言えば、コレがどういった原理でどう調理してどう化学反応起こしたらこうなったのかがイマイチ理解できないのだし。

 「かわいそうな卵」
 「まぁ、かわいそうではあるけど」

 要領を得ない返答に、咲夜はそんな言葉を紡いでからため息をつく。
 この様子からして、おそらく被害者か何かなんだろうが、そう詳しいことまで知っていないようである。
 これでは、何時になったら彼女の主が元に戻るのか、先は憂鬱。不安。やはりため息ばかりが先行する。

 「それ、絶対食べたらアカンよ? 命に関わる」
 「そ、そこまで言う?」

 必死な様子でそんなことを言うアオに、隣にいた朱鷺子が冷や汗流しながら言葉にする。
 卵でそこまで拒否反応が出るのもどうなんだろう? とも思わなくも無いが、朱鷺子はまじまじと美鈴の持っている箱に視線を向ける。
 なるほど、コレは確かに酷い。コレじゃ食物って言うよりは炭だ。

 「でも命に関わるっていうのは言いすぎだと思うけどなぁ」
 「あ、アカンて朱鷺子ちゃん!!」
 「そうですよ朱鷺子さん!! 死にいそいじゃダメです!!」
 「あはは、みんな大げさだって。ほら、食べたってなんとも……」

 パクっ。

 「ごぱぁっ!!」
 「朱鷺子ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」

 二人の制止の声を聞きもせず、遠慮なく卵(推定)を口に運び、あっけなく血を吐いてぶっ倒れる朱鷺子に、慌てて駆け寄るアオ。
 ガクガクと揺さぶってみるものの、一向に目が覚める気配が無い。むしろビクンビクンっと危ない痙攣までしている始末。今までの症状の中で一番極悪だった。
 そんな光景を一瞥し、咲夜は美鈴からその卵(推定)もといかわいそうなたまごの入った箱を奪って、彼女ににっこりと笑いかける。

 「それじゃ、紅白のところにいってくるから、彼女達を図書館のほうに案内してあげてね」
 「本当に持っていくんですか!!?」

 鬼だこの女!!? とか思った瞬間、もうとっくに咲夜の姿は見えなくなっていた。時間を止めて早々に紅白、つまり霊夢のところに向かったのだろう。
 もはや。こうなれば美鈴には祈るしか出来ない。どうか、このまま何事も無く平和が続きますようにと。ワリと切実に。








 ちなみにこの後。

 かわいそうな卵を遠慮なく口に放り込んだ巫女が乱心し、「ソロモンよ、私は帰ってきたぁぁぁぁぁ!!」などと意味不明なことを口走りながら人里の阿求宅を襲撃。
 結果、稗田の家はコレでもかというほどに木っ端微塵に破壊され、阿求をさらっていった巫女こと霊夢はというと、阿求を参謀にして人里で「ジーク博麗」なる国家の独立を恥ずかしげも無く堂々と宣言し、幻想郷中を巻き込む大騒動となったのだが、ワリとどーでもよくあっさりと解決したので内容は省かせてもらう。

 後に、阿求の書いた幻想郷縁起に「哀卵異変」としてうっかり幻想郷の歴史に名を残しちゃったりするのだが、この辺も割りとどうでもいいので省略させていただこうかと思う。

 後日、正気に戻った巫女が恥ずかしさと悔しさと後悔とかその他諸々で自宅の神社の床で転げまわりながら悶絶している姿をよく見かけるようになったとか。
 世界って、理不尽なことばかりだと思うよね。本当に。
















 さて、その異変(?)を巻き起こす原因となったうちの一人、フランドールはというと。

 「いくアル、フラン!!」
 「タイガーショット!!」
 「ぶべらぁっ!!?」

 ズドシャァァァァァン!! という轟音を響かせて、ゴールキーパーのよっちゃんごとボールをゴール内に叩き込んでいた。
 今日も今日とて世界は平和だった。こっちだけ。





 ■あとがき■
 どうも、白々燈です。今回は壊れギャグっぽくでしたがいかがだったでしょうか?
 にしてもかわいそうな卵だけで話一話丸々作っちゃったよ。やばいよかわいそうな卵。ネタ作るのに困らないけどそろそろ自重しなければなるまいかと。
 前回の話ではとりあえず、神威の登場フラグが作りたかったというのが本音だったりします。なので、彼が登場するのはまだまだ先の予定です。
 最近、阿求がかわいくて仕方がないのでどうしたものかと思いつつ。
 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十七話「世界に轟け! お前の想いが天を衝く!!」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/12/03 21:39





 今日も世界は平和。夏真っ盛りの暑い日々も、これまた自然の賜物。
 私、稗田阿求はのんびりと縁側でお茶を頂いていた。
 今日はもう家政婦さんも帰り、家には私一人。この広い稗田の家で、一人でいることは少々物悲しくも感じますが、この夏の日差しは私にその事を忘れさせてくれます。
 外からは人々の喧騒が、小さいながらも聞こえてきて、どこかでは季節遅れのひぐらしが鳴いている。

 「でも、暇なんですよね。なにか面白いことでも起きませんかねぇ」

 そんなことを呟いて、私は苦笑する。まったく、何も起きないっていう事は平和でいいことなのだけど、だからといって暇なのはいただけない。
 不謹慎だけど、何かちょっとした事件でも起きないかな? と思った瞬間。

 「ソロモンよ、私は帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ……はい?




 ピカッ!!





 あ、ありのまま今起こった事を話すわ。
 いきなり世界が白くなったと思ったら、家がなくなっていた。
 何を言っているかわからねーと思うが、私も何が起きたのかわからなかった。
 吸血鬼だとか時間停止だとか巫女だとかそんなちゃちなもんじゃ断じてねぇ。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。

 「って、家ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

 ガバッと瓦礫の中から私復活!! 虚弱っ子は伊達じゃないんですよ!! あれ、なんか違う?
 まぁ、現実逃避はさておきまして、いや、もうね、本当に家が無いんですけど。跡形も無いですよ。
 百坪以上の屋敷とも言えた稗田の家がモノの数秒でクレーターですよ!? ナニコレ、どんな理不尽!!?
 いやね、確かに面白いこと起きないかなァとかいったのは私ですよ!? でもね、こんな理不尽な被害こうむるのならそんなこと言ったりしませんよ!!?
 あ、お隣さん(アオさん宅)も巻き添え食って吹き飛んでますし。くっ……なんか涙が。
 アオさん。懸命に生きてください。今のに巻き添え食ってたら命が危ないと思いますけど。

 「ふふふ、ふはは、ハァーッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 どこぞの某青い炎を操るバンドマンのごとく、空から三段笑いをしながら降臨なさったのは小脇に霊烏路空ことおくうさんを抱えた博麗霊夢さんだった。って巫女だったよ。
 ……何故に!!?
 突然の事態に訳がわからず、ふと、さまよわせていた視線がおくうさんとかち合った。

 ―――マジゴメン。

 目でそんな風に謝られた。
 テメェ、馬鹿ガラス。人の家吹き飛ばしといてゴメンですむと思ってんですか? 後でウルトラアルゼンチンバックブリーカー決めてあげますから覚悟しといてください。

 「喜べ稗田阿求!! あなたはこの博麗霊夢に選ばれたのだ!! 阿求、あなたを我がジーク博麗に参謀として迎え入れよう!! あなたと私、そしておくうとで世界を理想の世界に変えようじゃない!!
 この世界を、この幻想郷を、真の楽園にするために!! 全ての人、妖怪が面白おかしく暮らせる理想の世界へと!! その頭脳、私のために使いなさい!!」
 「……は、はぁ」

 うわぁ、いきなり出てきて何言ってんだろうこの人。何か悪いものでも食べたんですかね?
 霊夢さーん。マジでちょっとどうしたっていうんですか? なんか言ってることが色々イタイですよ? 冷静になってください。恥ずかしくて悶絶もんですよ、その台詞。
 むしろ貴女の頭が面白おかしいことになってますから。
 ていうかなんか野次馬が集まりだしてるし!!? そうですよね、そりゃあんな大爆発が起こったらそりゃ見に来ますよね!!?
 ちょっと、見ないで上げてください皆さん!! 今、巫女の人はなんか色々とテンパッてるんです。リアルタイムで電波受信中で大変なんです。
 だから見ないであげて!! 後生だから!!
 と、人の気遣いも知らず、霊夢さんは不敵な笑みを浮かべて野次馬の前に躍り出た。って、ちょっとぉ!!?

 「諸君、聞いて欲しい! 我々は今こそ始まりを迎える!
 妖怪たちに比べ我が人間達の総勢は30分の1以下である。にも関わらず今日まで生き抜いてこられたのは何故か! 皆、考えて欲しい!!
 一握りの妖怪がこの世界を楽園にしようと考えを労し幾余年、幻想郷に住む我々が自由を謳歌し、生活できているのは図らずもその一部の妖怪のおかげといえよう。
 だがしかし、我等は真に自由だろうか!!? この世界は真に楽園足りえているだろうか!!?
 答えは否!! 断じて否である!!
 妖怪と人間が共存するこの幻想郷においても、未だに人間と妖怪との確執は拭えない。だが、皆も知っている通り、今や妖怪と人間との確執は薄れつつある。
 真に共存の道を選ぶのであれば、何故人里などと区別する!? なぜ妖怪の山と区別する!!?
 諸君等の中には、妖怪に恋焦がれたものもいるだろう。妖怪と友人関係になったものも居るだろう。だが、我等はどうしても今まで一定以上の一線を越えられなかった! 
 君らはどうしようもないのだと見過ごしているのではないのか? しかし、それは重大な過ちである!!
 我等は己が唯一の想いを胸に抱いている。我々はその愚かしさを知りながらも共に歩みたいと思うのだ!
 アオは、諸君らの甘い考えを目覚めさせるために、死んだ! 戦いはこれから始まるのである!!
 我々は人と妖怪の歩み寄りを邪魔するものを断固として否定する!! 我々の幻想郷を真の理想郷とするために!! 私はこの世界に宣戦布告をする!!
 民よ立て! 妄想を燃料に変えて、立てよ民! 我が博麗は諸君等の力を欲しているのだ。ジーク・博麗!!」

 高々と演説を終え、不敵な笑みを浮かべる霊夢さん。ちなみに、頭のほうが追いついていないのかおくうさんはポケーッとしたまま。なんか思考回路がショートしてそうな雰囲気である。
 いや、ソレはともかく……何言ってるんですか霊夢さん。冗談だとしても笑えねぇですよ? そもそもアオさん死んで無いですって。多分。
 そんなもん真に受ける馬鹿はこの人里には―――

 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ジーク・博麗!!』
 「って馬鹿ばっかだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 なんかいきなり賛同し始めた野次馬どもの声に、思わず頭を抱えて蹲る私。いや、ココまでややこしい状況ってのも中々無いと思うんですよ、コレ。
 頼みます!! 頼みますからこれ以上ややこしい事にはならないでくださいよ!!

 「その話、聞かせてもらったわ!!」

 神様。あなたは鬼です。畜生です。おのれ、八坂神奈子。
 突然上がった声に視線を向ければ、まったく見に覚えの無い誰かがみょうちきりんなデカイ船から出てくるところだった。
 ……いやいや、どこから出てきたんですかその馬鹿でかい物体。
 そんな私の気持ちなど知るよしも無く、赤いマントをたなびかせ、赤色の髪のショートカットの少女は、金髪の少女をともなってゆっくりと大地に降り立った。
 その人と目を合わせた霊夢さんは、ニヤリと口元を歪ませました。どう見ても悪党の笑い方です。

 「久しぶりね、岡崎夢美」
 「えぇ、久しぶりだわ。博麗霊夢」

 ガッと握手する二人。そして周りからは歓声がどっと沸き起こる。
 コレが後に、「哀卵異変」と呼ばれる事件の幕開けになろうとは、このときの私は知るよしも無かった。


















 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十七話「世界に轟け! お前の想いが天を衝く!!」■
















 「みんなに集まってもらったのは他でもない。霊夢のことだ」

 紅魔館のとある一室、多くのメンバーが集まったこの一室で、八雲藍は重々しく口を開いた。
 今、この場所に集まっているのは藍のほかに、西行寺幽々子、蓬莱山輝夜、八意永琳、藤原妹紅、風見幽香に古明地さとり、伊吹萃香、星熊勇儀、レミリア・スカーレット、アリス・マーガトロイド、東風谷早苗、十六夜咲夜、霧雨魔理沙が集まっている。
 下手すると本気で世界が取れそうなメンバーが集まっているのも、その理由は霊夢の暴走を止めるためであった。
 そんな肝心なときに、藍の主である紫は何をやっているのかというと、寝ていたりする。

 「彼女が暴走を始めた原因は他でもない、この物体X、もとい『かわいそうな卵』が原因と見られる」

 傍から聞いてみればかなりアレな理由だったが、その事実には誰も異論を挟まない。何故ならば……。

 「うー?」
 「はいはい、お嬢様。もう少しまっててくださいね」
 「もう、かわいいわね、レミリアちゃん。抱きしめたいわ」

 直に被害こうむった方々が、現在リアルタイムでこの会議に参加しているのだし。元に戻らないままで。
 ちなみに、レミリアのかわいい仕草に心を癒され、幽香の普段ならありえねぇ聖母のような眼差しと微笑で、全員の背筋にゾワゾワと液体窒素でも流されたような悪寒が走ったり。
 まぁ、ソレはともかく。

 「ジーク博麗は現在、妖怪の山に進行準備を進める最中。手遅れになる前に私たちで何とか霊夢を止めなくてはいけない。
 一応、山の妖怪たちには事情を説明してはいるけれど、人里のほうにも、あとで説明しなければいけない。したがって、人里で彼女に反対して幽閉されている上白沢慧音の救出も優先しておきたい」

 藍のその言葉に、神妙な面持ちのままギリッと歯を噛み締めたのは妹紅だった。この中で慧音と最も仲がいいのは妹紅だ。心配で仕方がないのだろう。
 そんな彼女を、冷ややかに見つめているのはすぐ隣にいた輝夜だった。もっとも、その視線はすぐにはずされ、彼女は藍に言葉を投げかける。

 「それで、どうするの。急がなくてはいけないのでしょう? 助けるにしても、霊夢を止めるにしても、動くなら早いほうがいいわ」
 「そこは私が説明いたしますわ、姫」

 輝夜の言葉にそう言葉を紡ぎ、一礼したのは永琳。
 彼女は懐から一本の薬を取り出し、みなの前に見せている。ちなみに、色はある意味危なそうな白である。

 「まず、慧音たちを助ける人と、霊夢を止める人を選別します。コレが少々厄介なところでしてね、霊夢は人里からほとんど動こうとしていません。
 ですので、自然と突入する者は人間に限られてしまいます。なので、妖怪の方々は、以前、八雲紫が作った特殊な陰陽玉でサポートする形になります」
 「なるほど、地底に行ったときのやつだな」

 永琳の説明の途中で入ってきた言葉に、しかし、彼女達は不快の色を見せないまま、その中で藍が静かに頷いてみせる。
 間欠泉と一緒に怨霊が噴出したとき、地下にもぐるときに使われた妖怪が人間をサポートするための通信機能付きの陰陽玉。
 コレをサポートとしてつけるという意味、ソレはつまり。

 「戦闘になるかもしれない、そういうこと?」
 「えぇ。十中八九、霊夢はこのワクチンを飲むことを拒否するでしょう。そうなれば力ずくしかありません。それに、うっかり彼女に賛同してしまった力を持った誰かがいるかもしれませんし。
 そうなれば少々厄介です。一応、妖怪たちは人里で人間を襲えないようになっていますし」
 「うっかりね」
 「えぇ、うっかりです」

 アリスの質問にもやんわりと答え、永琳は辺りを見回す。

 「さて、救助のほうだけど……」

 問題は、誰を向かわせるか、という事だ。向かわせるなら少数人数がベスト。多すぎれば幽閉された人を助けるのにも支障が出る可能性がある。出来るだけ隠密に終わるのが望ましいのだ。
 この条件で選定するならば、まず妖怪連中はアウト。
 該当するのは東風谷早苗、十六夜咲夜、霧雨魔理沙。そして、かろうじて大丈夫だろうと思われるのが、八意永琳、蓬莱山輝夜、藤原妹紅の計6名。

 「私が行く!!」

 永琳が悩んでいると、案の定といった感じで妹紅が声を上げる。
 確かに、彼女なら実力もあるし、万が一戦闘になったとしても何とかなるだけの実力は持っている。それは永琳も知るところだ。彼女の主と何度も殺しあっているのを何度も見ているし。
 だが、果たして彼女は人を助ける際に隠密に長けるか……といえば、否、といわざる終えない。
 しかし、ここで意外な人物の声が上がることとなった。

 「アンタがこっそりなんて真似、出来るわけないでしょう? 私が行くわ」
 「な、輝夜!?」
 「姫!?」

 驚きの声は妹紅と永琳から。何しろ、彼女……輝夜は絶対にこういう事をやらないだろうからと思っていたからだ。
 彼女は優雅に立ち上がり、綺麗な黒髪をなびかせて、藍の傍に置いてあった陰陽玉を二つ、手にとって弄ぶ。

 「何よ、その反応。それはともかく、妹紅、貴女が私をサポートしなさい。たまには、こういうのも面白いじゃない」

 クスクスと、不敵な表情で笑ってみせる。
 はっきり言ってしまえば、輝夜と妹紅の仲はあんまりよろしくない。むしろ悪い。
 というのも、妹紅が一方的に輝夜に憎悪を向けている。と、言えなくもない。輝夜は輝夜で、その妹紅の反応を楽しんでいる節があるので、それほど嫌いではないのかもしれない。
 まぁもしそうだったとしても、追っ手を差し向けたり殺し合いをしたり、かなり歪んだ愛情表現な気もするが。どちらにしても、傍から見ている分には仲が悪いようにしか見えないけど。

 「後ろから、撃つかもしれないぜ?」
 「ソレもまた一興よ。それに、信頼してるわよ、私は」
 「ハッ、言うじゃない! いいよ、あんたに任せる。……いい、絶対に助けろよ?」
 「もちろん」

 コッと拳を重ね合わせる輝夜と妹紅。そんな様子を眺めて、ため息をついたのは永琳だった。
 まったく、普段からそのぐらい仲良くしてくれていれば、自分と慧音の負担も軽くなるのに。と思いつつ、まぁ仕方がないわね、と思い直すことにした。
 そうとでも思ってなければやってられない。そうとでも思ってなければ胃に穴が開いてしまうだろう。蓬莱人なのに。

 「それで、霊夢のほうはどうするんだい?」
 「萃香のいうとおりさね。万が一戦闘になった場合、アイツに高確率で勝てるやつなんて早々いないよ」

 萃香の言葉に、勇儀が同意するように頷く。実際、彼女達のいうとおり、博麗霊夢は弾幕勝負では無類の強さを誇る。
 万が一戦闘になった場合、彼女に勝たなければいけないのだ。もっとも高確率なのは、おそらく八雲紫だろうが、彼女は妖怪なので人里内部で戦闘行動が出来ない上に、現在夢の中だ。
 となると、条件は絞られてくる。この中の人間で、霊夢にもっとも高確率で勝てる者と言えば。

 「魔理沙。この役目、あなたに頼むわ」
 「へへ、当然だぜ。引き受けた!!」

 永琳の言葉に、魔理沙は自前の黒いとんがり帽子で目元を隠し、ニヤリと口元を釣り上げる。
 コレにはいくつか理由がある。この中で、霊夢相手にもっとも勝率がいいのは魔理沙だ。それに、彼女は派手に動く傾向があるし、救出側が動きやすくするための陽動にも使える。

 「なら、魔理沙のサポートは私に任せて。この中で、一番付き合いの長いのは私だし」
 「アリス。足手まといになるんじゃないぜ?」
 「大きなお世話。むしろ、貴女こそ足手まといにならないでよね」

 いがみ合いながらも、お互いにコンと拳を軽く重ね合わせる二人。
 言葉だけ聞くと、かなり不安が残りそうな会話ではあるが、実際、彼女達のコンビが一番長いのも事実。
 おそらく、これ以上に勝率の高い組み合わせはないだろう。下手に組み合わせて、お互いの力をそぐ結果になってしまっては意味が無い。

 そんな光景を、十六夜咲夜は困ったように眺めていた。
 いやはや、まさかおもしろ半分で巫女をからかいに言ってみればこんなことになってしまうとは。
 流石にコレばっかりは反省せざる終えない。というか、あの食物一個でどーして異変にまで発展してしまったのだろうか?
 今のところ、図書館にアオと撫子が保護されている。パチュリーと幼児退行した小悪魔も一緒だ。
 妖怪の山には八坂神奈子等神たちが万が一のために残り、永遠亭には因幡てゐが篭城の準備を進めている。
 あとで巫女に謝りに言っておこう。と良心の呵責にちょっぴり苛みながら、しかし、そんな彼女の心情など知ったことではないといわんばかりに、作戦はまさに今始まろうとしていたのだった。

























 紫特性陰陽玉を従えて、輝夜は人里の外れのほうを歩き回っていた。
 作戦は既に決行に移され、今頃、魔理沙は人里で心置きなく霊夢と対峙していることだろう。
 なら、こちらはその間に、できるだけ早く慧音を助けて事情を説明しなければなるまい。
 だからこそ、彼女は急いでいた。一見すれば優雅な足取りで歩いているだけだが、それでも彼女は急いでいた。気持ちだけ。まったくもって無意味である。

 『あー、あー、聞こえるか輝夜』
 「聞こえてるわよ妹紅。ソレよりも、場所はこっちであってるの?」
 『あぁ、偵察に出てた鬼ッ子の話だと、丁度そのあたりだ』

 ふぅーん、と気の無い相槌をうち、輝夜はゆったりと歩みを進める。
 目に付く飛行は出来ないので、自然と歩く羽目になったのだが、行けども行けども木ばかりで憂鬱になりそうだ。
 森の中といっても過言ではないその場所で、ようやく目的の一軒家を発見するに至った。

 「見つけたわ」
 『本当か!! 早く!!』
 「五月蝿いわね、静かにしてないと見つかる……っ!!?」

 ビュンッと、風を切る音が耳を通り過ぎる。辛うじてかわしたものの、どうやら相手に見つかったと見て間違いはなさそうだった。

 『どうした!?』
 「敵ね。まったく、妹紅が五月蝿いからよ」
 『な、なんだとぉ!!?』

 耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐ陰陽玉を無視しつつ、輝夜は目の前に姿を現した人物に視線を向ける。
 赤い髪の少し長めのショートカットに、赤いマントを翻す少女の姿。生憎、今まで幻想郷にいたものの、とんと見ない顔。

 「初めまして、私は岡崎夢美。物理学者をしている者よ。ココに無断で来たってことは、あなたは敵ね?」
 「もちろんよ。私は蓬莱山輝夜。わざわざ、自己紹介してくれて嬉しいわ」

 お互いに対峙し、クスクスと輝夜は笑う。
 なるほどなるほど。こうやって見張りを立てているあたり、しっかりと考えてはいるらしい。
 だがしかし、あの『物体X』を食べて正常に思考が働くとは考えにくいので、おそらく、誰かが参謀にいるのだろう。
 まったく、誰かは知らないが【期待を裏切らない】でくれて本当に助かる。
 一方、輝夜という名を聴いた瞬間、夢美はパァッと表情を明るくして言葉を紡ぎだす。

 「輝夜って、まさか貴女かぐや姫!? さすが幻想郷、かぐや姫なんて、これ以上に無いサンプルだわ!!」
 「あら、私を実験動物にでも使おうって腹かしら?」
 「いやいや、私は『魔力が実在する』ことを論文にまとめて学会に復讐するの! 貴女なら、きっと巫女以上にいいものが取れそうだもの!!」
 「でも断るわ」
 「あら、酷い」

 言葉の遊びを交えながら、彼女達は不敵に笑いあった。
 お互いの言葉に対する不快感など毛ほども表に出さず、クックッと喉の奥で笑い、その瞳には敵意を張り付かせる。

 「妹紅!!」
 『おう!!』

 輝夜の呼びかけに答え、二つの陰陽玉が炎に包まれ、やがてソレは輝夜の背中に張り付いて翼のように燃え広がる。
 いや、実際にソレは炎の翼だった。轟々と燃え上がる焔は大気を焦がし、ちりちりと周囲の温度を上げていく。
 本来なら、白髪の少女がソレを背に携える。だが、今回限り、その少女の力をサポートに、少女の宿敵たる輝夜に炎の翼は従った。
 美しく、だが同時に苛烈。舞い落ちる木の葉が、炎の翼に触れたとたんにあっさりと蒸発する。
 そして、彼女は大空に飛び立つ。炎の翼をブースターのように噴射しながら、彼女は普段では考えられないような速度であっという間に空中に躍り出る。
 その姿を見つめ、夢美もまた楽しそうに、笑って空にと飛翔した。

 悠然と広がる青空の下、輝夜と夢美は改めて対峙する。

 「倒す前に聞いておくけど、どうして霊夢に協力したの?」
 「何、彼女とは面識があってねぇ。協力してくれたら、いくらでもサンプルとらせてくれるって言うから」
 「あら、太っ腹ねぇ」

 呆れたように首をすくめ、輝夜は苦笑を零していた。
 まぁ、一応建前で聞いてみたが、やはり聞いてみても自分にはどうでもいいこと。疑問も解消したし、そろそろコレと遊ぶのも楽しそうだ。
 くすくすと笑う輝夜に、炎の翼を展開し続ける陰陽玉から妹紅の声が届く。

 『輝夜、判ってるとは思うけど、殺すなよ?』

 そんな声を聞き、輝夜は苦笑する。
 まったく、自分には遠慮なく殺しにかかるくせに、それが他の連中になると途端に甘くなる。
 ソレはそれでこの少女の長所だろうが、ソレと同時に短所でもある。自分以外には、この少女は外面には出さないが、とことん甘い。

 「ま、善処はするわ」

 そういいながら、彼女は一枚のスペルカードを取り出した。
 不敵に笑い、輝夜は相手を見据えて挑発的な視線を向けている。
 対する夢美も、余裕たっぷりに笑いながらマントを風にたなびかせている。

 「いくわよ!! 難題『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』 !!」

 スペルカードが宣言され、五色の弾幕が波のように夢美に向かって殺到する。
 同時に、夢美も弾幕を展開し、お互いの弾丸が互いを相殺しあい、するりと抜けてきた玉をお互いに回避する。
 こうして、ここに早くも戦闘が開始された。
 空には色とりどりの弾幕で埋め尽くされ、今まさにお互いの実力を確かめるように、その遊戯に身を投じていった。























 一方、人里のほうを隠れるように進んでいたのは、魔理沙だった。
 傍らに8体の人形を従え、警戒しながらゆっくりと目的の場所に近づいていく。
 場所は元稗田亭。今は妙にデカイ船らしきものが鎮座する場所。そこに霊夢はいるらしい。
 壁からゆっくりと覗いてみれば、以前、どこかで見た覚えのある巨大な物体がそこに鎮座していた。

 「おいおい、ありゃ夢美の船じゃないか。アイツ、なんでこっちに来てんだよ」
 『知り合い?』
 「あぁ、そんなところだ」

 コレは中々にめんどくさいことになった。もしもこっちに夢美がいたら、苦戦は免れないだろうと思う。
 人間のはずなのに、あの女は信じられないほど強い。それは魔理沙も認めるところだ。
 チッと舌打ちしながら、悩んでも仕方がないとゆっくりと目的の場所に歩みを進める。
 そこで、なんとも間の悪いことか。霊烏路空が船の中から姿を見せたのである。
 遮蔽物の無い、見晴らしのいい場所。隠れる場所も無ければ、逃げる場所も無い。
 故に、彼女がお空に見つかるのは自然の流れだった。

 「おっと、見つかっちまったか」
 「あ、魔理沙」

 あっけらかんと言う魔理沙に対して、お空は元気の無い様子で目の前の人物を認識した。
 その様子に疑問を覚えながら、魔理沙は何時でも弾幕を展開できるように、最悪マスタースパークを打つつもりで後ろ手にミニ八卦炉を握った。
 お空の弾幕の力強さには、皆が納得するところ。それに対抗するとしたら、おそらくマスタースパーク以外には無いだろう。
 だが、お空は一向に戦おうという気配は見せないでいた。その代わりに、ポツリと……すがるように、彼女は魔理沙に言葉を紡ぐ。

 「……魔理沙、私、どうしたらいいのかな? 今の霊夢、ずっと様子がおかしいの。変だよ、どうしちゃったのって聞いても、変なことしか言わなくて。
 こんなの、こんなの霊夢じゃないよ。でも、霊夢は友達だから、だから……」

 このまま、彼女の傍にいて支えてやるのが正しいのか、それとも、勇気を振り絞って、ソレは違うんだって言うべきなのか。
 今のお空には判断がつかなかった。違うと思うのに、どうしてもソレを言葉に出来ないでいた。
 出会いこそ、あまりいいものではなかったけれど、今は違う。お燐と一緒に神社に行くし、しょっちゅう遊んだりしている。
 霊夢はどう思っているかはわからないが、少なくとも、お空はそんな誰にでも同じように接する霊夢のことを好いていた。
 でも、今の霊夢は違う。何か、いろいろと、間違っている。でも、ソレを言うと嫌われてしまいそうで、怖いと、そう思うのだ。

 ともすれば泣きそうなお空の頭に、ポンッと魔理沙が帽子をかぶせた。
 なにぶん、お空のほうが背が高いのでちょっと背伸びをして格好はつかなかったかもしれないが、それでも魔理沙は飄々とした雰囲気でお空の傍を通り過ぎる。

 「任せな、おくう。この魔理沙さんが、霊夢を正気に戻してやるぜ」
 「本当?」
 「あぁ、私は嘘を付くが、この言葉は嘘じゃない」

 にっとシニカルに笑ってみせて、魔理沙は言う。
 人形のほうからため息が聞こえてきたが、その事を気にするほど魔理沙は繊細でもない。むしろいつものことだ。
 それで、一杯一杯だったお空の心が、少しだけ、少しだけだが、軽くなったような気がした。
 「ありがとう」と、小さな言葉で紡がれて、魔理沙は照れ隠しかプイッと顔を背ける。その事をアリスに指摘されて口喧嘩に発展していたが、ソレもなんだか眩しく見えた。

 「魔理沙、霊夢をお願い」
 「おう、お願いされた」

 苦笑を零し、魔理沙はズカズカと先に進もうとして―――。


 その気配に気がついて、苦笑を零しながら空に視線を向けた。


 そこに、彼女はいた。
 いつもの巫女服に身を包み、不敵な表情をみせる巫女の姿。
 「ヨッ」といつものように軽い返事をしながら、彼女はお空に目配せをして、箒にまたがって空へと飛翔した。
 風を切り裂くように急上昇し、ピタッと彼女と同じ高度で停止してみせる。
 魔理沙の金紗の髪が、風にはたはたと靡く。

 「来たわね、魔理沙。来るなら貴女だと思ってた」
 「まったく、おいたが過ぎるぜ、霊夢。今日は私が主人公だ」
 「あら、じゃあ私は悪の親玉かしら?」
 「そうだな。どっちかって言うと、気が違って正気を失ってる悪の親玉だ」

 だから、と。魔理沙はニッと口元を釣り上げて、笑う。

 「私が正気に戻してやるぜ、霊夢!!」
 「やってみなさい!! あなたを倒して、私は真の理想郷を作ってみせる!!」

 人形の腕から一斉にレーザーが射出され、魔理沙自身も星型の弾幕を展開した。
 対する霊夢も、お札と陰陽玉を駆使して弾幕を展開する。
 人里の空の上で、友人とも呼べる彼女達の戦いが、始まったのだった!





















 弾幕と弾幕が相殺しあい、お互いを倒さんと疾駆する。
 空は苛烈な戦場へと取って代わり、炎の翼を展開している輝夜はというと、思った以上に苦戦を強いられていた。

 『おい、輝夜! 何やってんだよ!!』
 「だぁから、うるさいって言ってるでしょ!? まったく、アンタも見えてるなら、アレが強いってことぐらい判るでしょ」
 『ソレはそうだけど……』

 飛来した巨大な十字架を紙一重でかわし、輝夜は怒鳴り散らす妹紅に対して同じように怒鳴り返していた。
 薄紅色に輝く十字架形の弾幕。これが思った以上に避けにくく、そして多くの弾を弾き散らしてしまうのだ。
 強い。素直にそう思う。こちらはスペルカードをほとんど使い切り、それでも尚、あの夢美という少女に対して一撃も当てられないでいた。
 実際、妹紅も夢美の強さに舌を巻いていた。弾幕は強固で大きさも申し分なく、その特異な形状から避けにくい。オマケに、相手の回避能力の高さにも隙が無い。
 何か、意表をつかなければとてもじゃないが当てられない。
 何か無いかと、思考して―――思いついたのは、意外にもあっさりとそしてすぐに思いついた。
 自分にあって、相手に無いもの。これで意表をつくのが一番効果的だ。
 では、あの少女に無くて、自分達にあるものは?
 あるじゃないか、とびっきりに趣向の利いたやつが。

 「妹紅、出力の調整お願いね?」
 『は、はぁ!?』

 返事も待たずに、輝夜は炎の翼を推進力代わりに一気に加速した。
 弾幕がかすり、腹部に、頬に、腕に、浅き、ところによっては深い傷を作り出していく。
 その様子に、流石の夢美も驚愕の表情を隠せないでいた。
 ソレもそうだ。嵐のように無数の弾幕の中を、遠慮も躊躇もなしに突っ込んでくるのだから。それも、尋常ではない加速でだ。

 「な、何考えてるのよ!!?」

 たまらず叫んで、夢美はさらに弾幕を密集させた。コレだけ撃てば、相手も回避して加速を抑えられるだろうという、そういう算段だった。
 だが、彼女の予想は大きく裏切られる。輝夜は、速度を殺さずにその速度のまま密集した弾幕の中に突っ込んだのだ!!

 弾幕勝負は、比較的安全とはいえ当たり所が悪ければ本当に死に至る危険だってある。そのあたりはボクシングなどの格闘技と同じことだ。
 密集した弾幕の中に、自ら速度も殺さずに突っ込むなど、既に正気の沙汰ではない。

 左手がはじけ飛ぶ。腹部が大きく抉られて血と内臓をぶちまける。さらには十字架の弾幕が、加速していたこともあいまって遠慮なく輝夜の頭部を粉砕した。
 夢美は思わず、吐き気を覚えて口元に手を当てた。ソレもそうだろう。視界に納まる範囲でそんな光景が見えれば、誰だって気分が悪くなる。
 弾幕の嵐が通り過ぎる。もはやボロボロになった首無しのソレは―――【勢いが弱まるどころか、むしろ加速】して夢美の顔面を残っていた右手で鷲掴みにした。

 「なっ!!?」

 驚愕の声は夢美のほうから。混乱した思考が正常に戻る前に、さらに加速したソレは勢いもそのまま遠慮無しに地面に向かって急降下した。
 ギュアッと風を切る音と同時に、凄まじい轟音と背中に走る鈍い痛み。あまりの衝撃に口から息がこぼれて、痛みのあまりに目を一瞬だけ瞑ってしまう。
 そして、地面に強かに打ち付けられ、背中の痛みを覚えながら夢美が見た光景は。

 先ほどまで、首無しの筈だった蓬莱山輝夜の顔だった。

 「え?」
 「はぁい、おどろいた?」

 呆けた声を上げる夢美と、その反応が楽しいか、クスクスと哂う輝夜。
 ところどころ服が破け、明らかに弾幕を受けた形跡があるのに、【傷がどこにも】見当たらない。
 理解できない。どうして、先ほど首を粉々に砕かれた彼女が、こうして平然としていられるのか。
 ニィッと、輝夜の口が細い三日月のようにぱっくりと割れる。クスクスと嘲笑いながら、彼女は砕けたはずの左腕で夢美の首を握り締めた。
 徐々に首が絞まっていく。恐怖が徐々に体内に循環して、ゾクリと悪寒を全身に運んで行く。

 「蓬莱」

 一枚のスペルカードを取り出して、クスクスと輝夜は楽しげに哂う。
 炎の翼から『あぁ!!』とかいう怒り交じりの声も聞こえたが、それに気がつくほど夢美に余裕は無い。
 ヴアッと巻き起こる猛々しい焔。ソレは渦を巻くように輝夜と夢美を取り囲み、やがてぐるぐると際限なく勢いを増し、炎は空高く舞い上がる。

 「『凱風快晴」

 ゴウッと、熱風が二人を包み込む。息をすることすらも困難で、うっかり息を吸ってしまえば内部を焼かれてしまいそうな、そんな風。
 炎が風に運ばれ、獲物を求めるように荒れ狂う。
 あ……と、夢美が何かを言う暇もなく。

 「-フジヤマヴォルケイノ-』!!」

 輝夜の言葉と共に、二人は巨大な火柱に包まれたのだ。
 巨大な火柱は空を貫き、轟々と激しく燃え盛りながら空気を、空を、天を焼く。
 焔は渦を巻き、周囲にあるものを巻き込みながら遠慮なく範囲内全てのものを焼き尽くして行く。

 そうして、巨大な火柱と炎の渦が収まった場所に居たのは、周囲のものを丸ごと焼き尽くされた森の一角と、両腕が炭と化した輝夜、そして、ボロボロではあるが、一応無事に気絶している夢美の姿だった。

 「やっぱり、見よう見まねで使うもんじゃないわね」

 先ほどのスペルカードで炭状態になった自分の両腕を見つめながら、輝夜は小さくため息をついて言葉を紡ぐ。
 あれは本来、彼女のスペルカードではない。その陰陽玉の先に居る、藤原妹紅の得意とするスペルカードの一つだった。

 『自業自得だよ、馬鹿』
 「あら、事実だけに耳が痛いわね」

 妹紅の不機嫌そうな罵倒にも、クスクスと苦笑を零しながら輝夜はあっさりと両腕を『治して』立ち上がった。
 彼女も、妹紅も、そして永琳も。蓬莱の薬を飲み、不老不死になった身。オマケに、輝夜や妹紅にいたってはしょっちゅう【殺し合い】をしていたせいもあって、痛みには強いほうだった。
 まぁ、お互い殺すことが出来ない戦いを、殺し合いと表現していいかどうかは微妙だけど、と、輝夜はそこで人の気配に気がつく。
 そちらに視線を向ければ、そこにいたのは金髪の髪をした少女だった。「ゲッ!?」と露骨に逃げ出そうとしたところを、炎の翼を展開して加速。あっさりととっ捕まえる。

 「貴女、アレの仲間?」

 にっこりと笑顔を浮かべていたが、しかし、少なくともこの少女、北白河ちゆりには笑顔なんてものには見えなかったことだろう。

 「きょ、教授は生きてるのか?」
 「生きてるわよ。優しい誰かさんがちゃんと出力調整してくれてたおかげで」

 おかげで彼女自身は思いっきり両手が炭化してしまったが。これも妹紅から輝夜に対しての抗議のつもりだろう。
 まぁ、自業自得だし、コレぐらいは大目に見ましょう。なんて思いながら、輝夜はニッと寒気のするような笑みを浮かべてみせる。

 「じゃ、幽閉されてる人たちのところに案内してくれる? じゃなきゃ、後ろの誰かさんがあなたを丸焼きにしちゃうかも」
 「う、後ろなんて誰も居ないじゃないか!?」
 「居るのよ。この炎の翼だって、元々私じゃないんだし。ほら、耳を澄ませば彼女の怒ってる声が―――」
 「わかった!! 案内するから止めろよ!!」

 半分怯えたような様子で、ちゆりは慌てて待ったをかける。その様子に加虐心が満たされたのか、輝夜は実に満足そうにニッコリと笑顔を浮かべておいでだった。
 炎が消え、元の陰陽玉が姿を現す。その陰陽玉から、これ見よがしに盛大なため息が聞こえてきたが、輝夜はソレに取り合わずに夢美をほったらかしにしてちゆりの後に続いたのだった。

























 人里の上空、そちらのほうでも苛烈な戦いは続いていた。
 お互い人里に被害が出ないように配慮しながら、しかし、烈火の如き勢いで弾幕を展開する。

 「霊夢!! お前は間違ってる!! とっとと正気に戻れ!!」
 「間違ってないわよ!! 私はこの幻想郷をもっとよりよい場所にするために!! この私が!! 博麗が!! 人や妖怪を導こうって言うのよ!!」
 「エゴだぜ!! ソレは!!」

 行く筋ものレーザーが空を焼き、星型の弾幕が彼方此方に散らばり、弾けて更なる弾幕を作り出す。
 お互いに気持ちを吐露しあいながら、容赦なく、相手を殲滅せんとぶつかり合う。

 「このままじゃ、私たちの未来はどうなるの!? 誰かがやらなきゃ、この先、人と妖怪との自由なんて一生無理よ!!」
 「だからって、お前がソレをやるっていうのかよ!! 驕りすぎだぜ霊夢!! 生憎、私はそこまで幻想郷の連中に悲観しちゃいない!!」
 「わからずや!!」
 「お前こそ!!」

 ビュンッと、魔理沙のすぐ傍を針が通り過ぎる。頬に浅い傷が出来たが、魔理沙は臆した風もなく弾幕を展開する。
 怒涛、苛烈、しかし繊細。弾幕はパワーだと公言する魔理沙の力強い弾幕と、弾幕はブレインだと主張するアリスの人形達による複雑かつ繊細な弾幕。
 二人は否定するだろうが、この二人は間違いなくベストパートナーだといえた。
 だというのに、博麗霊夢は一人でその上を行っている。流石はスペルカードルールの創始者。年季も違えば、そのセンスも飛びぬけている。
 何より、彼女は勘が鋭い。裏をかいたと思っても、こともなげにひょいっとかわしてみせるのだ。

 そして、魔理沙のスペルカードの一つ、星符「ポラリスユニーク」が燃え尽きて、襲来してきた札の攻撃を急上昇して回避して見せる。
 決め手がないまま、事態は膠着する。戦場となった空での攻防は、人里の人々にも映り、あまりの苛烈さに誰もがただ見上げるだけだった。
 魔理沙が残りのスペルカードを取り出せば、手持ちに残ったのはたった一枚だけ。
 しかも、そのスペルカードは酷く燃費が悪い。威力は折り紙つきだが、外せば後がない。事実。コレを撃ってしまえば。魔理沙の魔力は底をつく。
 だが、はたしてコレが霊夢に当たるのか? お互い、長くお互いを知っているだけに、ただ撃つだけでは当たらないだろう事は容易に想像がついた。

 「アリス、霊夢の動き、何とか止められないか? 一瞬でいい」
 『ソレを使うの? 外したら後がないわよ』
 「生憎、分の悪いかけは嫌いじゃないんでな」

 にっと笑う魔理沙の言葉に、アリスは呆れたようにため息をつきながら『でしょうね』なんて言葉を紡ぐ。
 もとより言っても聞きはしないだろう。言っても聞かないなら、必要以上に止めても無駄なこと。正真正銘、時間の無駄だ。
 なら、自分がやるべきことは何か? 魔理沙がソレを撃つといい、彼女はアリスに足止めを要求している。
 人形の向こう側で、彼女と腐れ縁とも言うべき魔法使いは、クッと喉の奥で笑ってみせる。

 「何だ? やっぱり無理か?」
 『無理? 誰に物を言っているのよ、魔理沙。私は七色の人形遣い、ドールマスター、アリス・マーガトロイドよ? その程度のこと、私には造作もない!』

 謳うように、高らかにアリスは宣言する。途端、今まで魔理沙に付き従っていた8体の人形達が散開し、弾幕の隙間をかいくぐりながら霊夢を軸に回転するように取り囲んだ。

 『偵符「シーカードールズ」!』

 アリスがスペルカードを宣言する。その途端、人形達から今までよりも出力の高いレーザーが照射され、霊夢の動きを取り囲むように交差する。
 レーザーの檻。傍から見ればそうとも取れる光景は霊夢にこそ当たらなかったがしかし、動きの自由を奪うには十分だった。
 その満足に動けない空間の中で、なおも展開されている弾幕を避ける彼女は、さすが、といえばそうなのだろう。
 だが、ソレこそが魔理沙の待っていた瞬間。その一瞬を逃すまいと、既にチャージを終えていたミニ八卦路を霊夢のほうに突き出す。

 「魔砲」

 その宣言が、霊夢の耳に届く。それだけで、彼女はこれから魔理沙が放とうとしているスペルカードの正体を看過した。
 珍しく焦ったように舌打ちし、針で二対の人形を貫いてわずかなスペースを確保すると、そこから脱出するように後退しながら結界を重ねるように展開する。
 その直後。

 「『ファイナルマスタースパーク』!!」

 魔理沙の放った極大のレーザーが、文字通り霊夢を飲み込んでいった。
 今までのレーザーが子供だましだとでも言うかのように、山すらも丸ごと吹き飛ばしそうなその極大の光の奔流の中で、しかし、霊夢は結界を維持したまま何とか耐え切っていた。
 突き抜けてくる熱の余波が肌を焼き、防御結界がビキビキと嫌な音を立てて徐々にひび割れていく。
 あまりの眩しさに目なんてまともに開けていられず、辛うじて覗く景色は、まさしく、光が流れていくと表現しても相違ない光景。

 ありったけの魔力をこの一撃に詰め込み、魔理沙は朦朧としそうな意識の中、必死に耐え切っていた。
 つらいのは霊夢ばかりではない。今まさに、魔力を根こそぎ持って行かれている魔理沙にも相当な負担がかかっていた。
 眠気を誘う虚脱感。右手に持ったミニ八卦路からの衝撃で、痛みが右腕を苛んだ。
 だが、彼女にはまだやることがあった。だから、ここで倒れるわけに行かない。
 ココで倒れたら、お膳立てをしてくれたあの人形遣いに、どのツラ下げて謝れというのだ。
 それに、ここで霊夢を止めなければ、何か取り返しがつかないことになりそうで。
 だから、必死に歯を食いしばる。意識を現実に繋ぎとめ、次の一手を確実にするために。

 そうして、光が力なく薄れ、やがて大気に溶けていく。
 その中にあっても、霊夢はいまだ健在だった。ところどころボロボロで、意識も朦朧としていたが、だが確かにその場に浮遊している。
 ソレを確認した瞬間、魔理沙は残った力を振り絞って霊夢の元にまで飛来する。
 加減もクソもあったもんじゃない。弾丸の如きスピードで飛来し、魔理沙は懐から永琳謹製のワクチンを取り出した。

 「霊夢ー!!」

 失いそうな意識を、声を張り上げることで繋ぎとめる。
 その声に反応したのか、霊夢がおぼろげな視線を飛来する魔理沙に向けた。
 ぼんやりとして、焦点の定まっていない瞳。ソレを意に介さず、魔理沙は突っ込み―――

 「いい加減、正気に戻れぇぇぇぇ!!」

 遠慮も容赦もなく、彼女の口に無理やりワクチンの入った小瓶を突っ込んだ。
 ムグッと言う呻きと共に、遠慮なく白い液体が霊夢の喉を通過して投与されていく。
 小瓶がはずれ、風に流されてどこかに運ばれていった。一方の魔理沙はというと、そこで意識が途切れたのか霊夢に体当たりする形になり、彼女もろとも地上にまッさかさまに墜落していく。

 そしてあわや地面に激突しようかといった瞬間、気絶したままの二人は横合いから突進してきた誰かに抱え上げられた。

 「うにゅう……、ふ、二人は重いぃ」

 何とか二人を抱えたはいいものの、流石に二人分の重量はきついものがあったのか、彼女達を救った誰かことお空は、ゆっくりと降下して壁に彼女達の背中を預けさせる。
 疲れきったのか、一向に目を覚ます気配のない二人の様子を、お空はただ心配そうに眺めるだけ。

 『あぁ、まったく。まとめて吹き飛ばすなんて何考えてるのかしらあの黒白は!!』

 空から聞こえてきた罵声に、お空がそちらに視線を向ければ、少々すすけた人形がゆっくりと降下してくるところだった。
 他の人形の姿が見えないところを見ると、先ほどのファイナルマスタースパークでもろとも吹き飛んだのだろう。無事だったのがこれ一体だった、という事なのか。
 どちらにしろ、人形に強い思い入れのあったアリスには余り面白い話ではなかっただろう。
 そしてアリスのほうもお空と、眠るように気を失っている二人に気がついたようだった。
 それで、今まで言おうとしていた文句が、替わりにため息となって人形のほうからこぼれてくることになった。

 「終わったのかな」
 『終わるも何も、始まってすらいないわよ。私たちはソレを事前に止めただけ。明日には霊夢も元に戻ってるわ』
 「うん、ありがとう。アリス」
 『礼を言うなら、そこの馬鹿に言ってあげなさい。がんばったのはソイツなんだから』
 「そう、ね。ありがとう、魔理沙」

 日が沈み、赤みを帯びた夕焼け空。
 その人里の一角で、二人の少女が寄り添うように眠りにつき、その少女の片割れに、お空は笑みを浮かべて、感謝の言葉を紡ぎだす。
 聞こえては居ないだろうけれど、でもきっとソレでいいんだろう。魔理沙にかぶせてもらった、彼女のトレードマークの黒色のとんがり帽を深く被るようにして照れ隠しに目元を隠す。
 見えてないんだから、別にいいだろうにと思うアリスだったが、次第に捕らわれていたらしい慧音の声が耳に届いて、アリスもようやく終わりを実感できたのだった。
















 かくして、巫女は正気に戻り、事件は解決と相成った。
 事件の詳細については、人里においてようやく起きた妖怪の賢者八雲紫と、人里の守護者上白沢慧音の二人による説明があった。
 「食べ物であんな風になるわけないだろ!!」ともっともらしい意見が当然のように飛び出したが、問題の食物を里の長である老人が食べると皆納得した。
 幸いにも、長にも霊夢と似たような症状が発祥し、「ジーク・ジジィ!!」とかほざき始めたので早々にワクチンが投入され、みんなが納得せざる終えない状況になってしまったのである。
 結果、何とか人里、および妖怪の各面々にも納得してもらったはいいのだが、肝心の巫女が羞恥心とか後悔とかで神社の床でのた打ち回る姿がよく見られるようになったとか。




 後に、今回一番の被害をこうむり、乱心した巫女に勝手に参謀に仕立て上げられた阿求氏はこう語る。
 「なんなんですかねぇ、この超展開」と。
















 「と、いうことがあったんで、家が直るまでの間、ココに泊めてください」
 「って長ぇぇぇよ前置き!? 『ちょっと諸事情で家が壊れたんで泊めてください』でいいじゃん!! プロローグで済むはずの話が何で丸々一話使った超大作になっちゃってんのぉ!!?
 なんだよワードパットで143kbって!! いつもの二倍じゃん!! 俺達の出番返せェェェェェェ!!!」

 やたらと長い前置きをいい終えた直後、阿求から飛び出したその言葉に銀時が思わず大声を上げた。
 件の事件の夜、家が跡形もなく吹っ飛んだこともあり、仕方なく阿求はココを選んだのだが、親身に丁寧に説明した阿求の話が、どうも銀時は気に食わなかったらしい。
 まぁ、まさか回想で久しぶりの出番を潰されるとは思わなかったのだろう。前回出てないし。

 一方、どうも自分にも非があるらしいと判ったフランが冷や汗流して明後日のほうを向いていたりするが、阿求はソレを不思議そうに首を傾げてみるだけであった。

 「ちぃぃぃぃ!! なんてことですか!! そんな面白おかしく愉快なことになっていたのにまったく気がつかなかったとは!! この射命丸、一生の不覚ッ!!
 絶対面白い記事が書けると思ったのにぃぃぃぃぃぃ!!」
 「ってオィィィィィィ!!! 悔やむトコ其処かァァァァァァァァ!!!?」

 ぬおぉぉぉぉぉ!! と悔しさの余りに銀時の部屋でもある畳張りの床でゴロゴロとのた打ち回る鴉天狗、射命丸文。そんな彼女に向かって、今日も相変わらず新八のツッコミが飛び交っていた。
 そんな声が聞こえているんだかいないんだか、文はシュタッと立ち上がり、にこやかな笑みを浮かべていた。カメラ片手に。

 「じゃ、そんなわけで取材に行ってきますね!!」
 「行くなぁぁぁぁぁ!! そっとして置いてあげようよ!! 今の彼女はガラスの心よりも脆いふやけたパスタの心になってるよ!!? 触れたら千切れちゃうよ!!?」

 それだけで何をしにいくか悟ったらしい新八は、文の肩を引っつかみ慌てて待ったをかけた。
 そんな彼に、文はにっこりと振り返り、そして一言。

 「心配要りませんよ新八君。そのふやけたパスタの心にミドルキックを叩き込んできます!!」
 「心配しか生まねぇんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!? その台詞に安心する要素が一つも見当たらねぇんですけどぉぉぉぉぉぉ!!!? 馬鹿かぁぁぁぁぁ!! お前は馬鹿かぁぁぁぁぁぁ!!?」

 そんなやり取りが繰り広げられている中で、銀時は仕方がないといった風に小さくため息をつく。

 「わーったよ。お前の家が直るまでだからな?」
 「はい。お世話になります」

 深々と阿求がお辞儀をすると、銀時はそんな彼女を眺めてから銀時はまたため息をついた。
 まぁ、事情が事情だから仕方がないとは言え、段々とこの家の女性比率が高くなってる気がするのは一体どういう事か?

 ちなみに、ココで語られていないことだが、当の岡崎夢美と北白河ちゆりの二名は、いたたまれないみたいで例の馬鹿でかい船ごとどこかに去っていったが、それは阿求の知るところではない。

 「さて、今回の異変のこと、幻想郷縁起に追加しないと」
 「……え?」

 何気なしに阿求から紡がれた言葉に、思わず鈴仙がそんな言葉を漏らす。
 ある意味、文がリアルタイムでやろうとしていることよりもよっぽど悪質な気がしないでもないのだが、そのへんどうなんだろう?
 その言葉が聞こえたのは、何も鈴仙だけではなかったらしい。
 フランも気まずげな顔で「霊夢、ゴメン」とか謝ってるし、今さっきまで散々博麗神社に突貫しようとしていた文も「やっぱり、こういうのいけないですよね」と、ものすごく悲哀に満ちた表情を浮かべてすごすごと引き下がっていった。

 皆思うことはただ一つ。ソレは霊夢に対する哀れみの感情なのであった。




















 一方、そのころ博麗神社。
 夜の帳が落ちて神社らしい風格が漂うさなか、その神社の巫女はと言うと死んでいた。
 言葉の通りではなく比喩だったが、もうなんか表情とか空気とかありとあらゆるものが死んでいた。

 「おーい、霊夢。元気出せって」
 「五月蝿い。放っておいて。むしろ殺せ」
 「まぁまぁ、お姉さんも、早いうちに忘れちゃいなよ。ほらお酒」

 魔理沙の言葉にも覇気がない霊夢だったが、そんな彼女の杯に遠慮なくお燐が酒を注いでいく。
 もはやこうなったら自棄酒だ。ぐいっと力強く杯を煽って、早く酔おうと躍起になった。

 「おくう、アンタも飲みなさい!!」
 「うん、付き合うよ、霊夢」

 そういいながら、お空は霊夢の傍により、彼女の杯に並々までお酒が注がれていく。
 霊夢、魔理沙、お燐、そしてお空。
 今この場にはコレだけの人数しか集まっていなかったが、またいつか盛大に集まって宴会でもやることだろう。
 きっと今頃、あの小鬼が画策してるに違いないと思いながら、霊夢を除く三人は酒を飲んだ。
 霊夢は早く忘れたいのだろう。酒を飲むペースがいつもより倍だ。
 そんな彼女を魔理沙がからかい、二人のやり取りを見てお燐とお空が仲良く笑い合った。

 中々に大変な一日ではあったが、結果的に見ればめでたしめでたしとしめくくられるのだろう。
 お空が間の抜けたことを言って、お燐と魔理沙がそれを茶化す。
 そんな光景を見つめて、珍しく落ち込んでいたらしい巫女の表情に、少しだけ、笑顔が浮かんでいたのだから。














 in 夢幻館

 「うあぁぁぁぁぁぁ!! 私は、私はなんてことをぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
 「ゆ、幽香さま!! 落ち着いてください!!」
 「んー、どうしたの幽香は? なんか荒れてるけど?」
 「……姉さん、昼のこと考えて物言おうよ」


 in 紅魔館

 「うぉぉぉぉ!! 私としたことがとんだ醜態をぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 「お嬢様、安心なさってください。しっかり写真に収めてアルバムを作っていますわ」
 「ノォォォォォォォォォォ!!!!?」


 ……めでたし?


 ■あとがき■
 はい、そんなわけで第17話を投稿させていただきます。
 そして、描き終えて最初に思ったことはただ一つ。

 Σ(;・Д・)<あるぅえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?

 だったことをココに明記しておこうかと思います。(ぉ
 いや、だってですね、最初は壊れギャグのつもりだったんですよ。それが描き終えてみればなんかバトルモノっぽくなってるんですよ。
 あれ? いや、本当にあるぇ!!? な感じなわけで。おかしいなァ。おかげでところどころ穴があるように思えて仕方がない。
 色々ツッコミどころが多いかと思いますが、大目に見てください^^;
 輝夜が妹紅のスペカ使ったり、旧作キャラ出てきたり。中でもちゆり、マジゴメン。

 最近、ぬらりひょんの孫という漫画にはまってます。
 ジャンプの漫画ですけど、個人的には大好きです。こういう漫画。
 というか、雪女のつららが可愛すぎて困る件について。他のキャラもいい味出してますけど。

 さて、今回は長くなりましたがいかがだったでしょうか?
 それでは、今回はこの辺で。

 魔理沙の台詞、一部修正してます。不快に思った方々、本当にスミマセンでした。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十八話「嫉妬心、その違いは多々あれど」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/12/01 21:24









 地底も随分にぎやかになったものだと、彼女、水橋パルスィは最近そう思う機会が多くなった。
 地底に住む妖怪は、大体が地上から追われ、忌み嫌われた力を持つものが多い。
 彼女、パルスィもそんな妖怪の一人。「嫉妬心を操る程度の能力」など、妖怪たちの間でさえ忌み嫌われる能力だった。
 地底に住む妖怪は、大体そういった忌むべき力を持つ者ばかりなのだ。彼女のように嫉妬心を操ることが出来たり、黒谷ヤマメのように感染病を操ったり、あるいは地霊殿の主のように心を読むことが出来たり。
 後に、そんな妖怪たちばかりが集まる地底世界において、地上に嫌気が差し、地上を見捨てた鬼達が地底の旧都に住み着くようになり、ついこの前なんかには人間が下りてきた。

 「地底もさァ、最近賑やかになったよねぇ」

 ハムッと持参したらしいサンドイッチを口に放り込み、パルスィの横にいた黒谷ヤマメはそんなことを口にした。
 なるほど。この押し掛けがましい土蜘蛛の友人も、自分と同じことを思っていたらしい。
 そんなことを思いながら、パルスィは「そうねぇ」と気のない返事を返すだけにとどめ、友人の膝の上に乗っていたバスケットからサンドイッチを一つ攫って行く。
 一口食べてみれば、中々に美味しい味が口内に広がり、思わず口元が緩みそうになる。
 地底らしからぬ明るさをともなった旧都に繋がる橋の上で、パルスィは今日もお決まりになりつつある口癖が衝いて出る。

 「妬ましい」
 「お、出た出た。パルスィの十八番」
 「どんな十八番よ」

 ケタケタと小気味よく笑うヤマメに、パルスィはため息を一つついてもう一度、食べかけのサンドイッチを口に運ぶ。
 うん、やっぱり妬ましい。

 「おーい、居たねぇ。アンタ達」
 「おっ、誰かと思えば勇儀の姐さんじゃないか」

 酒を片手に馴れ馴れしい声を上げる鬼の声。そちらのほうも、パルスィにしてみれば随分と聞き馴染んだ声だ。
 星熊勇儀。地上に嫌気が差し、もう随分と昔に地底の旧都に住み着いた鬼達のうちの一人。
 その姉御肌で面倒見のいい性格のせいか、鬼達だけでなく、地上を追われた地底の妖怪たちにも人望の厚い鬼の四天王。

 「よ、パルスィも相変わらずだねぇ」
 「何よ、相変わらずって。それって、嫉妬深くて嫌味たらしい女って意味かしら?」
 「はっはっはっ!! いやいや、本当に相変わらずだねぇ、アンタは。うん、良きかな良きかな」

 相変わらず気安く話しかける勇儀に、パルスィはこれまたいつものように言葉を投げかける。
 もっとも、そんなこともいつものことなもんで、勇儀は大笑いしてうんうんと頷き、ヤマメも笑みを浮かべて本日5枚目のサンドイッチに手を伸ばし、パルスィもそんな彼女達につられて苦笑を零した。
 一体どこがいいんだか、と思わなくもないが、それもそれで悪い気はしないので何も言わずにヤマメのほうに視線を向けてみれば、六枚目、要するに最後のサンドイッチを口に頬張るヤマメの姿があった。

 「貴女もよく食べるわねぇ。そんなんだからおなかに脂肪が行くのよ」
 「ムグッ!! げほっ!! げほっ!! ち、違うよ!! コレはこういう構造のスカートなの!! 私は太ってないやい!!」

 何気に失礼な発言がパルスィから飛び出し、たまらず盛大に咽たヤマメは、顔を真っ赤にしながら必死に弁解する。
 あ、こいつはまた太ったな。などと思わせる反応だったが、とうのヤマメはそこにまで気が回っていないらしい。それ、頬をつついてやれ、な感じでぷにぷにしてみる。
 それが癪に障ったのか、ヤマメはう~っと唸ってからプイッとそっぽを向く。そんな反応が面白くて、たまらずパルスィは勇儀と一緒に苦笑を零した。

 そんな中、地上に続く縦穴のほうから妙な音が聞こえてきた。

 「ありゃ?」
 「何の音、これ?」
 「音っていうより、こりゃ悲鳴だねぇ」

 ヤマメ、パルスィ、勇儀の順に言葉を漏らし、三人そろって縦穴のほうに視線を向ける。
 やがてその音は徐々に大きくなっていき―――

 「―――……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 ぐしゃっ!!

 『あ』

 ものの見事に縦穴から降ってきた何かは地面に激突し、ワリと洒落にならねぇ音を立てて盛大にはねてゴロゴロと橋の付近にまで転がってきた。
 三人の声がシンクロして口からついて出て、思わずその降ってきた何かに視線を向けてみれば、見覚えのある青い翼が視界に映ったのである。









 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十八話「嫉妬心、その違いは多々あれど」■
















 「いや、ホンマにありがとうな。おかげで助かったわ」
 「私としては死ななかったことが不思議でたまらないんだけど?」

 あっけらかんと口にする縦穴から落下してきた少女アオに、パルスィはため息をつきながらそんな言葉を投げかけていた。
 現在、ココは地底……ではなく、地上の人里のカフェである。
 何故、ここにパルスィと、その隣にアイスクリームをぱくついているヤマメがいるのかというと、少し長くなるが説明が必要になると思う。

 あの後、盛大に落下してきたアオはワリとあっさりと復活を果たし、事情を聞いてみるとなんとも間の抜けた答えが返ってきたものだった。
 いわく、こけて盛大に転がっていった挙句に地底に続く縦穴に落っこちたのだとか。一体どこのおにぎりの話だ?
 そんなわけで、アオが飛べないのは彼女を知る人物なら大抵が知っている事実であり、どうやって帰ろうかという話題になったのである。
 結局、ヤマメとパルスィが二人係で抱えて地上まで連れて行ったのだが、話が決まらなければこの鳥妖怪のことだ。ロッククライミングでもして自力で帰るとでもいいはじめたに違いない。鳥なのに。
 そんなわけで、お礼にという理由で人里のカフェに脚を運ぶこととなり、今現在にいたる、というわけなのである。

 「なんでも好きなの頼んでえぇよ? こう見えても結構かせいどるんやから」
 「ふーん。別にそれはいいんだけど……」

 半眼のまま、パルスィは店内を見回した。
 それなりに客の入りもよく、店員のウェイトレスが忙しく動き回っている。
 そんなに多くの客が居る中においても、地底の妖怪がココにいるというのに誰も気にした風もない。
 地底の妖怪が、地上から追われて随分と久しい。今思えば、この結果も当然だったのかもしれない。
 長生きする妖怪はともかく、わずか80年程度しか生きられない人間達が、地底に追いやられた妖怪たちのことを覚えているはずもないのだ。
 それに少し、腹が立った。自分達で私たちを地底に追いやっておきながら、肝心の子孫や末裔達は自分たちのことを伝えもしていない。
 図らずも、地底の妖怪たちは人間達に忘れ去られてしまったのだろう。こうやって、嫉妬心を操る自分と、病気、それも感染病を操るヤマメが居ても、誰も警戒していないのだから。
 そう思えば、地底に追いやられ、人間達に忘れ去られてしまった自分達が段々と惨めに思えてくる。
 悔しい、とも思う。でもそれ以上に、妬ましい。黒々とした感情が、パルスィの心の中でぐるぐると渦を巻く。
 その感情が今にもあふれ出しそうになって―――

 「……ねぇ、アレ、何?」
 「へ? アレって……。あぁ~……」

 なんか奇妙な集団を見つけ、思わずパルスィはアオに問うてしまう。
 アオもアオでパルスィが指差した場所に視線を向けて、なんだか納得したように微妙な声を漏らすのだった。

 パルスィが指をさした先、其処はカフェの隅のほうにある席であり、其処のテーブルに3人の少女達が沈殿して濁りきったオーラを撒き散らしていた。
 一人は、紅白の巫女こと博麗霊夢。
 二人目は紅魔館の吸血鬼、レミリア・スカーレット。
 三人目は、最悪最凶と名高い風見幽香だった。
 三人とも、普段の様子では考えられないほど覇気がない。むしろその空気は淀んでいるというより腐りきっている。
 誰もがその場所だけを見ないように談笑する姿が見て取れる。どう考えても現実逃避だ。

 「……アレ以来さ、ウチのメイドたちが『お嬢様、うー? って、やってください!!』とか言ってくるのよ。脅しかけても『キャー!! カワイイ!!』とか言うだけだしさぁ。私のカリスマどこ? 今の私は、Not KARISUMA」
 「いいじゃない、それぐらい。私なんて人里の連中から結婚してくださいとかほざかれて冗談じゃなかったわ。鬱陶しいし、夢月はアレをどこかに隠し持ってるし。今まで大切にしてきたアウトローな私のイメージ台無しだし……」
 「いいじゃない、あんた達は。私のに比べたら大した事じゃないわ。何よ、ジーク博麗って。何よソロモンって。人里に買い物に来ればなんか生温かい目で見られるし、同情されるし、もうヤダ。ブラックジャック先生、お金は……ないけど、どうか私の記憶を消してください」

 口々にいいながら、しかしその様子は机に突っ伏したまま動かない。なんかもう見ているだけで痛々しかった。
 パルスィはそんな彼女達から視線を戻し、そしてにっこりと慈愛に満ちた表情を浮かべ。

 「店員さーん。注文お願い」

 先ほどまでの光景を綺麗さっぱり記憶から抹消して見なかったことにした。つまり他の人間達と同じように現実逃避に走ったのであった。

 「うわぁ、パルスィがそんな笑顔浮かべてると背筋が寒くなるね。何か良くないものでも見たのかい?」
 「おだまり、ヤマメ。気になるなら後ろをみて御覧なさい」

 ヤマメから飛び出した失礼な物言いに、パルスィは相変わらず笑みを崩さないまま額に青筋だけ浮かべてそんなことを言う。
 彼女のいうとおりに、ヤマメは指についたアイスを舐め取りながら後ろに視線を向け、……完膚なきまでに硬直した。
 そのまま数秒、硬直したままだったがやがて、彼女は聖女のような慈愛に満ちた笑みを浮かべ。

 「店員さーん。注文お願いねー!!」

 同じように現実逃避に走った。其処には三人に対する溢れんばかりの優しさがあったとか何とか。
 それはともかく、二人の声にこたえて黒髪ロングの男性が流れるような足取りでこちらに向かってくる。その顔に見覚えがあったこともあり、パルスィとヤマメは驚いたような表情を浮かべることになった。

 「あれ、ヅラじゃない。元気してた?」
 「ヅラじゃない。桂だ」

 ヤマメが能天気に言葉を紡げば、桂がむっとしたような表情で返答する。
 もはや完璧にいつものやり取りになりつつあるその光景に、桂は小さくため息をつきながら彼女達に視線を向ける。

 「まぁ、それはともかく。ご注文はいかがいたしましょう? 当店の個人的なお勧めはキムチパフェとなっておりますが?」
 「何、そのゲテモノ。というか今、個人的なって言った?」

 そりゃ遠まわしに嫌がらせか!? と思わなくもなかったが、まぁいいかと適当に思考してからパルスィはみたらし団子を、ヤマメはきな粉餅とよもぎ饅頭を注文する。
 こうやって会話するのにもすっかり慣れたのか、桂も特に深くは追求せずに自分の仕事をこなすことに専念していた。

 「店長ー、キムチみたらし団子とキムチきな粉餅とキムチよもぎ饅頭が一つずつ入りまーす!!」
 「何でキムチ!? だから何でキムチ!!? 何で其処までキムチにこだわったの今!!?」

 前言撤回。しっかりと根に持ったまま仕事してやがったのであった。しかも店長まで「おうよ!!!」と気前よく答えたもんだからたちが悪い。
 そんなわけで、パルスィの抗議の声を物の見事にスルーしつつ、そそくさと別の客の方に去っていく桂を恨みがましく睨みながら、思わず立ち上がってしまったらしく、気を取り直して椅子に座った。

 丁度そのタイミングで、カランとカフェの入り口のドアが開く。新しく入ってきた客は、彼女達にも馴染みのある人物だった。
 銀髪天然パーマ、糖尿病一歩手前のまるでダメな男、略してマダオ、坂田銀時の姿。

 「お、銀ちゃーん! こっち席あいとるよ~」
 「あー?」

 元気よく声をあげブンブンと手を振るアオと、それとは対照的に、気だるげな声を上げてゆっくりとした動作でこちらに視線を向ける。
 やがて、辺りを見回して席が空いてないことを悟ったらしい銀時は、仕方なくといった様子でアオの隣まで歩み寄り、遠慮なく腰掛けたのだった。

 「あら、銀髪じゃない。また甘いもの?」
 「まぁ、そんなトコだな。最近、うちで甘いもの食おうとするとやかましいのがいてなァ」

 パルスィからの声に、銀時はというとため息混じりにそんなことを言う。
 そのやかましいやつというのも、大体は新八と鈴仙の二人で、特に鈴仙は元々医薬関係の知識があるだけに、特に口酸っぱく言うのだ。
 そんなわけで、彼女達が出かけたのを見計らってこっちにきたというわけで。

 「ところでアオ。おめぇ今どこに住んでんの? こっち来た瞬間、クローゼットだけ残して焼け野原だったんですけども?」

 というか、どんだけ頑丈なんだ八雲紫謹製クローゼット。とかいうツッコミはさておいて、アオはいつものようにぽわっとしたような笑みを浮かべ。

 「今は紅魔館にお世話になっとるよ。家が直るまでの間、メイドの仕事引き受ける代わりに、客間を借りとるんよ」
 「じゃあ、今は撫子は紅魔館のほうか?」
 「うん。うちは今日非番やから。こうやってココに居るんやけど」

 そんな会話をしながら、アオはオレンジジュースをクピクピと喉に通す。
 それで大体の事情はわかったのか、銀時はメニューに視線を移した。

 そういえば、と、パルスィは思考する。
 霊夢や魔理沙たちもそうなのだが、コイツもコイツで地底の妖怪にも普通に接してくる。
 いや、怨霊あたりはどうもダメみたいで、途端に挙動不審になるのだが、それはさておき。はるかに危険な自分達にはどうかというと、目の前の態度が答えを示している。
 いつも飄々としていて、つかみ所がなくて。なんというかこういう人物を誰か知っているような気がするのだが、誰だったっけ? と頭を悩ませることになる。

 「どーした、パルパル? あんま考え込んでると禿げるぞ」
 「誰がパルパル?」

 銀時の言葉に、にっこりと死なす笑みを浮かべ、懐から大きめの鋏をすらりと引き抜く。
 銀の刃が怪しく輝き、ギラリと獲物を映し出している。誰が獲物って? そりゃもちろん、暴言というか妙なあだ名を勝手に呼び出した銀時に他ならないわけで。
 ちなみにその鋏、どう考えても髪をや紙なんかを切るためのものなんかではなく、間違いなく肉を切るための得物である。

 「そっかぁ、パルパルかぁ。かわいいと思うけどなぁ」
 「……そう、ヤマメ。まずは貴女から舌を切られたいのね? 昔話の雀のように」

 ギロリと、嫉妬を呼び起こす深緑の瞳が、恨みがましそうに隣の友人に向けられる。
 その隣のご友人、黒谷ヤマメさんはというと、慣れた様子で「まぁ落ち着きなよ」と、いつものようにあっけらかんと笑いながらパルスィをなだめる。
 流石に、彼女と付き合いが長いだけあって落ち着いているというかまったく持って動じちゃいねぇのである。友人の鏡だ。
 結局、ヤマメに言いくるめられてしぶしぶながら鋏を懐にしまうパルスィだったのである。

 「それにしても、霊夢や魔理沙のときもそう思ったんだけどねぇ。銀さんもけっこー無遠慮に私たちと接するよね」
 「そうか?」

 ヤマメがなんとなしにいった言葉に、銀時は意外そうに言葉を紡ぐ。
 いや、実際に遠慮なんて欠片もしてねぇだろう。と思わなくもなかったが、パルスィはヤマメの言葉に続くように言葉にした。

 「そうよ。貴女も、私とヤマメの能力は知っているでしょう?」

 ため息混じりに呟いて、パルスィは言う。
 嫉妬心を操る程度の能力と、感染病を操る程度の能力。
 どちらも、ひとたび使えば恐ろしいほどまでの効力を発揮する。

 嫉妬に狂えば更なる嫉妬を生み、その嫉妬はまた別の人間に伝播していく。嫉妬にまみれた人間の、いや、嫉妬にまみれた生き物の末路など、ろくなことになどなりはしない。
 使えば一人にとどまらず、あらゆるものを巻き込んで破滅していく。それが、パルスィの能力の一端だ。

 病気、主に伝染病を操る能力など、もはや語る必要もないだろう。
 止めるなどできはしない。ひとたび能力を行使してしまえば、それは際限なく広がっていく。
 軽い病気ならまだいいだろう。だが、仮に、どうしようもない病気が感染していってしまったら?

 パルスィは自分の能力を使うことに戸惑いはない。そういう妖怪だと理解しているし、必要に迫れば戸惑いもなくその嫉妬心を操る能力を行使するだろう。
 ヤマメは、自分の能力を使うことをよしとしない。好戦的ではあるが、明るく他人の気遣いができる彼女にとって、生まれ持ったその感染病を操る能力にどんな感慨を覚えただろうか?

 少なくとも、長い付き合いになるパルスィでさえも、友人のヤマメが能力を行使したところをほとんどみたことがなかった。
 嫉妬心。感染病。その能力は、妖怪の自分達でさえ陰湿で、底暗いと思うような能力。
 自分が人間だったら、おそらく、まともに係わり合いになんてなろうとも思わないだろう。
 だが、幸か不幸か、お互い妖怪で、似たように地上から地底に追いやられたもの同士。
 オマケにヤマメがやたらと社交的だったこともあって、パルスィとヤマメは紆余屈折あって友人関係となったのである。

 そんな、忌むべき力を持った自分達と、どうしてこう、この男は平然といられるのだろうか?
 彼女の疑問に答えるように、銀時は「まぁな」と口にしてメニューを元の場所に戻す。

 「じゃあ、何故?」
 「何故ってほどのことじゃねぇよ。あんた等のことはそれなりに信用してるしな。それに、……なんつーか似てると思ったんだよ、あんた達と、俺達は」

 珍しく気まずげに、銀時はそんな言葉を紡いでいた。
 似ているというが、何がどう似ているというのか? 少なくとも、パルスィにもヤマメにも、判断がつかないでいた。
 その疑問に答えたのは、銀時でも、アオでもなく、

 「確かに、そうやもしれぬな」

 神妙な面持ちのまま、メニューを運んできた桂だった。
 彼はそんな表情のまま、注文されたメニューを並べて―――

 「って、本当にキムチ乗ってるし!!?」
 「うえぁ、こりゃあ料理に対する冒涜だねぇ」

 訂正、本当にキムチつきで持ってきた桂だった。ウェイターとしては最悪である、この男。
 そのウェイター失格のこの男は、神妙な面持ちのまま銀時に視線を向ける。

 「なんだ、まだいたのか、ヅラァ」
 「だからヅラじゃない。ウェイター桂だ。地底の妖怪のことは、以前から聞いていたときから少々思うところがあってな」

 小さくため息をつき、桂は店内にいたエリザベスに少しの間、自分の代わりを頼む。すると忠犬よろしくエリザベスは[がってん!!]とプラカードを掲げるとなれた足取りでウェイターの仕事を開始する。


 そうして、桂はその話を語り始める。

 攘夷戦争。開国を迫った天人(あまんと)を倒そうと立ち上がった侍達。
 しかし結局、国は侍達が戦う最中、あっさりと降伏してしまう。
 それから始まったのは、反乱因子として狙われる攘夷戦争に参加していた侍達。
 国の為に戦った侍達は、その国に命を狙われる。
 打ち首にあった同胞は数知れず、今も侍、攘夷浪士達は己が身分を隠しながら、その身を隠して暮らす日々。
 中には、銀時のように攘夷浪士であった事を隠して暮らすものもいれば、国を変えようと、隠れながらも抗う桂のような者たちもいる。
 銀時たちの世界において、攘夷浪士であったという事実は、腫れ物として扱われるには十分すぎる理由になっていた。

 国に裏切られ、反乱因子として追い立てられた忌み嫌われた侍、攘夷浪士達。
 忌み嫌われ、人間はおろか同じ妖怪からも追われ、地底に流れていった妖怪たち。

 なるほど、と……パルスィは納得した。
 確かに、言葉にしてみれば、なんとなく、お互いは似ているような気がしたのだ。
 無論、全部が似ているわけではないが、共感できるところも少なからずあった。

 「へぇー、銀さんも苦労してんだねぇ」
 「まぁ、昔の話さ。今は、見ての通りのらりくらりとしている身なもんでな」

 感慨深そうに言葉にしたヤマメの言葉に、銀時はというとあいも変わらず気のない声で言葉を返す。
 その気のない返事を聞いて、あぁ、とパルスィはようやく思い至った。
 誰かに似ていると思えばこの男、この適当さ加減といいう無関心さといい、霊夢に似ているのだ。
 霊夢に言えば絶対に否定するだろうけど。

 「感染病つってもアレだ。風邪なんかも要するに感染病だろーが。気にする必要なんかねぇよ」
 「いや、流石に風邪は違うと思うんだけど。ていうか何、そのものすごくポジティブな意見」

 ブンブンとヤマメと一緒に首を振るパルスィ。いくらなんでも能力の解釈がポジティブすぎる。そんな能力だったら忌み嫌われて地底に追われちゃいないっつーに。
 そんな彼女達の反応にも、銀時は相変わらず気だるげな声で言葉を返す。

 「嫉妬心っていうのも、ほらアレだ。よーするに嫉妬ってのは愛情や憧れの裏返しみたいなもんだろーが」
 「そりゃまた、穿った意見ねぇ。確かに、そりゃそうだけど……」

 思わず、パルスィは頭を押さえる。
 確かに、嫉妬というのは言い換えれば行き過ぎた愛情だとか憧れだろう。
 なるほど、そんな言葉に置き換えれば聞こえはいいが、実際はもっとドロドロとして陰湿なものだ。言い換えたって結局は何も変わらない。
 でも、……自分の能力を、そんな風に行った人間は彼が初めてだったかもしれない。

 「あ、うちもそう思っとったんよ。そりゃ、行き過ぎた嫉妬って言うのはアレやけど、嫉妬もされへんってことは、それは大事に思われてないってことなんやないかなぁ?
 もちろん場合によると思うけど、大抵、嫉妬する対象って大好きな人か憧れの人なんやろうし」
 「そりゃまた初めて聞いた意見だわ。でも詭弁ね」
 「あはは、そういわれるとつらいなぁ」

 苦笑するアオの言い分に、はぁっと、小さくため息を零し、パルスィも小さな苦笑を零した。
 確かに、銀時やアオの言い分は詭弁だ。詭弁だけど、そういった思考に行き着くやつらは本当に稀だ。

 まさか、以前ヤマメに言われたことを、地上の妖怪や異界の人間に言われるとは、なかなか世の中というのは判らない。
 隣を見てみれば、いやらしくニヤニヤと笑っているヤマメの姿が見えて、なんか複雑なものを感じてムッとした顔を作りながら、パルスィは頼んだ料理を口に運び―――

 「ごはっ!! マズッ!!」
 「パルパルちゃん!!?」

 キムチ乗りみたらし団子という劇物が持ってこられていたという事を失念していただけに、シリアスな空気はものの見事にぶち壊れてしまったのであった。
 そして、この瞬間からアオのパルスィの呼び方が「パルパルちゃん」に固定された瞬間でもあったりするが、この際余談である。
 ちなみに、この会話がきっかけで、よろず屋にパルスィとヤマメがちょくちょく顔を出すようになり、またもやよろず屋にカオスフラグが立ったらしいのだが、これも余談という事にしておこう。






 ■あとがき■
 ども、18話はパルスィとヤマメの話。ちょっと筆が載らずにスランプ気味ですがいかがでしょう?
 地底に追われた妖怪と、攘夷浪士ってなんとなく似てない? とか思ったのが今回の話の発端でした。
 あれ、自分の攘夷浪士に対する認識ってもしかして間違ってるかも^^;
 とりあえず地霊殿のメンバーは好きなキャラが多くて困る。
 パルスィとかヤマメとかお燐とかお空とかこいしとかさとりとか。……あれ? 勇儀姐さん!!?
 とまぁ、それはさておき。今月は更新が滞る可能性が大です。仕事がこの時期死ぬほど忙しくなるので、次は何時更新が出来るか……^^;
 暇が出来ればなるべく描きたいと思うので、気長にまっていてください^^;
 それでは、今回はこの辺で。
 ↓は前回の話の没になった台詞集です。気になったなら目を通してみてはいかがでしょう。地の分は全部外してますけど。

 【前回の話の没になった台詞集】

 その1

 魔理沙「この一撃に全てを賭けるぜ!!」
 幽香『あら。それじゃ、私たちも便乗しないとね』
 幻月『あ、幽香だけずるいわ。私もよ便乗しましょうか』
 魔理沙「へっ! お前達の力、この場で借りるぜ!!」
 霊夢「なっ!? まさか!!」
 魔理沙「いくぜ霊夢!! 私たちの魔砲が火を噴くぜ!! 『クワドロプルマスタースパーク!!』」

 ・最初はアリスじゃなくて幽香と幻月が魔理沙のパートナーの予定でした。今思うとどう考えても人里危ないよなぁ、コレ。
 結局、コレを没にしたのは幽香と幻月があの状態だったので。スペカの名前はもはや適当^^;


 その2

 魔理沙「それでも、それでも!! 守りたい世界があるんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ・本当はこの台詞入れたかった。SEEDでは一番好きな台詞でした。なのでこのネタは使いたかった。
 でも残念ながら、霊夢にこの台詞を言わせるための布石になるような台詞がまったく思い浮かばず泣く泣く没に。
 ガ○ダムシリーズは全般大好きです。

 その3

 幽香『まったく、お馬ぁ鹿さん。霊夢のくせに、そんなたいそうなことが出来るわけないじゃない。貴女は誰に対しても平等であってこそ、博麗霊夢なのだから。
 その偽りの思考、私と魔理沙で木っ端微塵にして元に戻してあげるわ!!』

 幽香さんが魔理沙のパートナーだったときの台詞。なんだかんだで。幽香って霊夢と魔理沙とは旧作からの付き合いですからねぇ。そういった意味でこの台詞は言わせてあげたかった。
 でも理由は……察してあげてください^^;

 ……あれ? なして没になった台詞こんな真面目くさいのばかりなんだろう?



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第十九話「河童少女の技術が天を貫く! 一方その頃の厄神様は……」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2008/12/03 21:21










 かぶき町の往来で、一際目を引く三人組と一匹は、周りの視線も気にした風もなく歩みを進めていた。
 一匹は言うまでもなく、白い体毛に覆われた顔だけはキュートだがその図体がそれを許さない定春。
 三人組の一角は、その定春の飼い主でもあるチャイナ服に身を包んでいる少女、神楽。
 更に、日傘を片手に金髪赤眼、さらには枯れ枝にダイヤの装飾がされたような翼の少女、フランドール。
 そして最後、この中では一番(無論、定春は除くが)背が高く、深緑の長髪を前に持ってきて首の辺りで束ねるという奇抜なヘアースタイル。フリルのついたリボンや、同じくフリルが所々にちりばめられたゴスロリファッション。
 文字通り、まるで人形のような格好をした彼女は、鍵山雛という。
 そんな三人と一匹が集まっていれば当然のことながら目立つ。目立つのだが、当の本人達は気にもせずに会話に興じているのである。
 もっとも、楽しそうに話しているのは神楽とフランだけで、雛はというと、どこか戸惑いに似た表情を浮かべているが。

 そもそも、雛は払われた厄を集め監視し、人間に不幸が訪れないようにしている厄神様だ。
 集めた厄は神々に渡しているものの、周囲に厄を溜め込んでいるため、彼女の近くではいかなる人間も妖怪も不幸を避けられない。
 おまけに、大量の厄を溜め込んでいるため、素人目にも彼女の周囲に集まる厄が見えるほどだ。
 現に、今の彼女の周りにも、うっすらと陽炎のように厄が揺らめいている。
 こうした理由があるからか、人間に友好的な方である彼女はあまり他人とは関わらないようにしている。
 今も、彼女達に厄が移らないように細心の注意を払っているのだ。自分に話しかけてくれることには嬉しく思うが、コレは中々に荷が重い。

 (……もう。これも無理やり、にとりがこっちにつれてくるから)

 内心、こっちに無理やり引っ張ってきた友人に恨み言を零しながら、雛は小さくため息をついた。
 きっと今頃、あの機械いじりの大好きな河童の友人は、あの扇風機とやらの修理に熱を入れていることだろう。
 あの無遠慮で能天気な友人といい、外に無理やり連れ出したこの少女達といい。もう少し、自分がどういう存在なのかというものをよく理解して欲しい。

 「楽しくないアルか?」
 「いいえ、楽しいわよ。楽しいけど、私の傍には出来るだけいないほうがいいわ。貴女に厄が移ったりしたら大変だもの。不幸になってしまうわ」
 「ハッ! 馬鹿にするなヨ!! ヤクなんかでこの私が不幸になんかなるはずがないネ!! どうせなら主役を張って大暴れするアル!!」
 「……いや、そういうヤクじゃなくて」

 予想の斜め上を行ったボケに思わず額に手を当てる。それは厄じゃなくて役だ。というかどんな間違い?
 どうにも、この少女を相手にすると調子が狂う。思考が読めないというか、何をするかわからないというか、良くも悪くもこの少女はマイペース過ぎる。
 それは、この少女の美点だとは思うのだけど……と、隠し切れないため息がまたついて出る。

 「神楽、アレ」
 「ん? どうしたネ、フラン」

 フランの声に応え、神楽は不思議そうに彼女が指をさしていたほうを向く。
 そこは大きな広場になっており、多くの少年達が遊びに興じていた。バットとボール、さらにはグローブなんかも用意しているところを見ると、野球でもしていたのだろう。
 その中の一人、少々体格のいい、悪く言えば少々小太りな少年がこちらに向かって声を掛けてきていたのだ。彼はここいらのガキ大将、通称よっちゃんである。

 「おーい、助っ人に入ってくれよー!! またあの大人げのない兄ちゃんが来てんだよぉ!!」
 「何ィ!!?」

 クワッ!! と、先ほどまでやる気のなかった顔が急に敵意どころか殺意駄々漏れの顔になって思わず傍にいた雛が引きつった顔をして半歩身を引く。
 神楽の視線が向かう先、そこには今日は非番だったのか私服姿の沖田がいて、神楽の姿を見つけた瞬間、ニヤッと挑発的な笑みを浮かべて見せたのであった。

 「てんめェェェェサド野郎!! いい度胸じゃねぇかコンチクショォォォォォォ!!!」

 神楽突進。騒然と土煙を巻き上げながら、殴り合いでもせんばかりの気迫で猛ダッシュ!!
 その後姿を呆然と眺めるしか出来なかった雛だったが、ふと、フランが神楽を追うべきか、雛の傍にいるべきか悩んでいるのが見えて、雛はたまらず苦笑してしまう。

 「行ってらっしゃい、吸血鬼さん。私はここにいて、眺めてるから」
 「本当? 案内、終わってないんだから帰ったらダメよ?」
 「わかってるわ。ほら、定春が見張ってるって」

 未だに疑問に思っているフランの言葉に、雛はそう答えて後ろにいた巨大な犬に視線を向ける。
 定春が元気よく「ワンッ!!」と一声なくと、フランも安心したのか神楽の後を追って行った。
 そうして、雛はようやく落ち着けるといわんばかりに、安堵したような吐息を漏らして傍にあったベンチに行儀よく腰掛けた。その雛に付き従うように、定春が雛の傍による。

 「友達思いなのね、貴方は」
 「わんっ!」

 雛の言葉に答えているのか、それとも偶然か。多分、前者なんだろうなと思いながら、雛は苦笑した。
 だって、傍には寄っているが、こちらに気を使ってか一定の距離を開けてくれているのだ。それは素直に、ありがたいと思う。これならこの友達思いの犬に余計な厄が移ることもないだろう。

 ゆるりと、視線を少し先の広場で始まった喧騒に向ける。
 うだるような真夏の日差し。どこかでミンミンと騒がしく合唱する蝉達。どこか遠い、だけど確かにそこにあると思う子供達の喧騒。

 あぁ、と。雛は吐息を漏らす。
 その光景が騒がしくて、大変そうで、でもとても楽しそうで、少しだけ、うらやましいと、そう思う。
 でも、自分はあの輪の中には入れない。あそこに行けば、きっと自分は―――



 あの子達を、不幸にしてしまうから。














 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第十九話「河童少女の技術が天を貫く! 一方その頃の厄神様は……」■



















 「さぁさぁ! 修理終わったよ、盟友!!」

 元気であることはよき事かな。そんな言葉を体言でもするかのように、先ほどまでスクラップだった扇風機を修理した河城にとりはそんな風に銀時に言葉をかけたのだが……。

 「あっぢいぃぃぃぃぃ……」
 「うっわぁ、ダレてるねぇ」

 水を一杯一杯にまでためた桶に両足突っ込み、団扇を力なく扇いでいる坂田銀時に思わずそんな感想がこぼれた。
 よろず屋の事務所には今現在、銀時とにとりしかおらず、他のメンバーは扇風機が壊れたこの部屋で過ごせるか!! という事で現在外出中である。
 何でも、今日は今年一番の暑さだとかで日中は所によっては40度を越える地域もあるとか。
 そんな日に限って、計ったように扇風機が故障。仕方なく、知り合いの河城にとりに声を掛けたのである。
 異界の機械をいじれるとあってやる気満々だった彼女は、いい機会だからという理由で友人らしい鍵山雛をつれて此方に来たのである。
 もっとも、その雛も神楽とフランに連れられて、かぶき町を散歩がてらに案内されているけど。

 「おーい、よろず屋ー。修理終わったよー」
 「あー?」

 返事こそありはするが、汗をだらだらと描きまくり、目も虚ろな銀時は軽く日射病にかかってそうな勢いであった。
 一方、にとりは異界の機械をいじれたとあって目に判るほどご機嫌であり、その声も軽快で元気のいいものだった。
 実に対照的な二人である。

 「いいかい、よろず屋。この扇風機にはね、このにとり特製のギミックが大量に詰められていてねぇ―――」

 腰に手を当て、もう片方の手で人差し指を立てながら、自慢げに自分が修理した扇風機の新機能について語っていたにとりだったが、生憎、銀時の耳には届いちゃいなかった。
 彼はにとりの傍を這うように通り過ぎ、ダレきった様子でしがみつく様に扇風機のボタンを押した。このクソ暑い中、一刻も早く扇風機の風が欲しかった。愛しかったのである。
 が、しかし。彼はミスを犯した。ここはにとりの話にだけでも耳を傾けておけばよかったのである。それだけでこの事態は回避できた。

 ウィーンウィーンガシャコンガシャコン! と、なんか軽快な音を立てて変形して行く扇風機。
 この暑さでまともな思考回路が奪われていた銀時は気付くのが遅れ、一瞬思考が真っ白になる。
 そして変形が終わったらしく、なんか扇風機の首の辺りに奇妙なオプションが出来上がった瞬間―――

 キィィィィィィィィィン!! シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!
 「ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!?」

 そのオプションから火が吹き、バーニアよろしく超加速で銀時がしがみついたまま扇風機は空に飛び出した。
 窓を盛大にぶち破り、あっという間によろず屋が小さくなっていく。雲を突き破り、空高く高くへと上ったかと思えば、今度はデタラメな方向に急降下。
 キィィィィン!! と空気を切り裂きながら暴れるようにデタラメな方向に飛び回る。扇風機が。

 「オィィィィィ!! どうなてんのコレ!! どういう理屈でこうなったァァァァ!!!?」

 銀時の至極まっとうな文句が飛び出す中、あいも変わらず扇風機は音速の壁をぶち破りながら銀時と共に空を飛行する。
 そんな中、チカチカと扇風機に取り付けられた発光機器が点滅し、それと同時に声が聞こえてきた。

 『よろず屋!! 聞こえてるかい!!?』
 「てんめェェェ、クソ河童ぁぁぁぁぁ!! どういうこったコレェェェェ!!?」
 『よしよし、聞こえているな。いいかい、よく聞いて』
 「オメェこそ聞けコラァァァァァァァァ!!!」

 どうやら通信機も搭載だったらしい。ジェットエンジン(?)とかついていたり、通信機がついていたり、以前、源外の爺さんから魔改造されたバイクのことを思い出していたりするが、それで現状がよくなるわけでもない。
 まぁあっちはこっちの声が向こうに届かなかったし、此方のほうがマシなのかもしれないが。
 それはともかく、通信機の向こうから聞こえてきたのは、『いや~』とどこか気まずげな声がまず出てきて。

 『おもしろ半分で色々な機能つけるもんじゃないね』
 「バカッパァァァァァァァァァァ!!!!!?」

 どこか「てへ☆」とか聞こえてきそうな感じでそんなことをのたまったにとりに、銀時がたまらず大絶叫。
 まぁ、こんな理不尽な状況に晒されたらダレだって怒ると思う。仏さんだって一発でレッドカード取り出して大激怒だ。
 リアルタイムで青筋がビキビキと浮き出ている銀時。とにもかくにも稀に見るキレッぷりである。
 そこでいきなり扇風機が雲の上でUターン。そのままぐるぐると回転しながら急上昇。なんか酸っぱいものがこみ上げてきそうな勢いで暴れまわっている。扇風機なのに。

 『よろず屋、いいから聞いておくれよ。今さっき、天狗様に携帯とやらで連絡したから、そっちのほうにすぐ助けが行くはずさね』
 「……は、早くしてくんない? 今にも銀さん胃の中のものリバースしそうなんですけども?」

 さっきまでの威勢はどこへやら、扇風機にしがみついたまま顔を真っ青にしている銀時の姿。扇風機にしがみついている体勢なだけに尚のことシュールな光景である。
 そんな銀時の様子に気付いているのか、それとも気付いていないのか、にとりはあいも変わらず銀時に言葉を投げかける。

 『いっぱいスイッチがあると思うけど、下手に押しちゃ駄目よ、よろず屋。自爆スイッチとかあるから』
 「って、オィィィィィィ!! なんで自爆スイッチがあるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
 『ん? 誤爆スイッチもあるよ?』
 「んなこと聞いてねぇぇぇ!!? つーか、何を誤爆するんだぁぁぁぁぁ!!?」
 『あ、自爆すると花火みたいに爆発するから。結構綺麗だと思うよ?』
 「だからんなこと聞いてねぇって言ってんだろーがぁぁぁぁぁぁぁ!! つーか何で花火!? 何で花火ぃ!!?」

 またもや銀時に宿るツッコミ魂。そして上がった声はツッコミと書いて魂の叫びと読むのである。
 と、そんな叫び声を上げる銀時もろとも、扇風機は戦闘機よろしくロール回転しながら急降下していき、そのまま360度アラウンド・ザ・ワールドな感じで大回転。
 この状況でツッコミを入れることのできる銀時も十分アレだが、こんな状態だと知らずに知りたくもない扇風機の機能をぺらぺら喋っていく河童こと河城にとり。
 そろそろ、いくら顔がかわいいからって許されない状況になりつつある今、『え!? 嘘!!?』とかものすごく不吉な声が通信機の向こうから聞こえてくる。激しく勘弁していただきたい。

 『よろず屋、ゴメン。天狗様がスピード違反で今切符切られてるみたい。免停だって』
 「ブンブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!?」

 涙がちょちょぎれそうになった。それがこの理不尽な状況によるものなのか、それとも天狗様こと文が免停食らったことに対してなのか、もしかしたらもっと別の理由なのか。
 その時、ブスンッと不吉な音が聞こえ、急に大人しくなった扇風機。どうもマシントラブルでも起こったのか、うんともすんとも言わない。
 さて、ココで問題である。高度こそ判らないが、ここは雲の上である。当然、銀時が空を飛べるはずもない。扇風機の暴走でココまで来てしまったのだし。
 じゃあ、その扇風機が突如として動かなくなったら、彼はどうなってしまうのか?

 まぁ、そりゃもちろん―――

 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

 重力に吸い寄せられて落下するわけで。

 なんか色々な法則にしたがって、正しく落下し始めた坂田銀時。雲を突き破り、視界一杯に大地が目に飛び込んできた。
 この分だと地面に墜落すること必死である。というか、この高さから落ちたらほぼ死ぬ。むしろ死ぬ。完膚なきまでに死ぬ。
 甦る走馬灯。辛くも楽しくあった日々が駆け巡っていく。
 パチンコ行って全額すったり。家賃払えと毎日のように追っ手が来たり。賭博行ってお金がなくなったり。
 ん? あれ? なんか碌な走馬灯がなくない!?

 「死ねるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 悔しさからか、その目にはたっぷりの涙を浮かべながら銀時大絶叫。まぁこんな理不尽すぎて血反吐をぶちまけそうな最後なんて激しくゴメンこうむる。
 でも残念ながら、現在の彼にはどうしようもない。だっていつも愛用している木刀はよろず屋の事務所だ。
 いや、それがあったところでこの状況がどうにかなるわけでもないんだけど。


 そんなときに、それはやってきた。その白く、拳大ほどの大きさの丸い物体、野球ボールが、遠慮なく扇風機にガコンッと音を立てて直撃する。
 その直撃した場所には―――

 パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 寸分違わず自爆スイッチがある場所だったのであった。
























 子供達の喧騒がどこか遠い。こんなにも近くにいるというのに、彼らの声はただただはるか彼方から発せられているかのよう。
 元気に声をあげ、喧嘩しながらも、騒がしくも、眩しい場所。
 ゆらゆらと揺らめく陽炎が、今日の夏の暑さを物語る。そんな夏の陽気にも負けないで、「あぁ、元気ねぇ」と、鍵山雛はぼんやりとそんなことを呟いた。
 自分があそこに混ざることは出来ない。きっと、あの先のある子供達を不幸にしてしまうだろうから。それだけ、鍵山雛の集めた厄は溜め込まれている。
 だから、彼女は眺めているだけで十分だった。その光景をうらやましいとは思うけれど、それと同時に、仕方ないと、諦めている自分も居る。
 これでいい。これでいいのだと思いながら、眩暈を覚えて日光をさえぎるように、目の上のほうに腕を当てた。

 「よう」

 後ろから、声がした。
 いつか聞いたことのあるその声に視線を向ければ、私服姿の目つきの鋭い男が雛の後ろに立っていた。
 慌てて、漏れ出て行きそうになる厄を押さえつける。それに気付くこともないまま、男……土方十四郎は同じベンチに、少し距離を置いて腰を下ろした。

 「どうして、此方に?」
 「何。あの馬鹿が面倒ごとを起こしてそうでな。タバコ買いに来たついでに姿が見えたもんで、ちょっと様子を見に来ただけだ」

 なんでもないように応えながら、土方はタバコに火をつけ、眼前の光景に目を向ける。
 そこにはピッチャーの沖田がニヤリと笑みを浮かべ、フランがバットの代わりにレーヴァテインを構えて打席に立っている。神楽がぶっ殺せー!! などと盛大に叫ぶ中、周りはなおも盛り上がりを見せていた。
 沖田が全力投球。フランはフランでレーヴァテインを振るスイング。その余波でキャッチャー吹き飛び、それでもストライクゾーンにボールは吸い込まれていく。スコアボードに刻まれるワンストライク。

 「おめぇは混ざらねぇのか?」
 「えぇ。余り運動は得意じゃないから。それに……、私はあそこには行けないから」
 「……厄をため込む程度の能力、だっけか?」

 記憶を探るように紡いだ土方の言葉に、雛は静かに頷いた。
 厄をため込む程度の能力。彼女自身には何の影響もないが、彼女の周りに寄ってくる人間や妖怪は違う。
 程度の差はあれど、必ず何かよくないことが起こってしまう。
 以前の太陽の畑での宴会でその事を聞いていたからこそ、土方はこうして少し距離を置いて話をしていた。
 彼女自身が、人を不幸にすることを、望んでいないと知っているから。それは、土方なりの気遣いだったのだろう。
 沖田のボールがフランの顔面スレスレを通過する。結果はボール。ワンストライク、ワンボール。

 「俺がどうこう、言えることじゃねぇけどよ」

 ポツリと、土方は言葉にする。それからしばらく、言葉を捜して押し黙っていたが、雛は何も言わずにそれをまった。
 どんな言葉を期待しているのか、それとも、もっと別の何かを期待しているのか。彼女自身、よくはわかっていない。
 でも、その言葉を待つことには、何かしら意味が、価値があると思ったから。
 だから、ただ待っていた。そう見知った顔でもない、男の言葉を。

 「アンタは、厄を集めて誰かを救ってる。そいつぁスゲェって、話に聞いたときはそう思った。けど、今のを見ていてな、そうも思えなくなった」
 「どうして?」

 それはただ静かな問いかけだった。人形のような少女の瞳が、揺ぎ無く土方を視界に納めた。
 言葉に詰まる。こういったことはやはり不慣れなのか、気難しげな顔で頭部を無遠慮にかきむしる。
 ミーンミーンと、蝉の合唱が辺りにこだまする。

 どこかとおくで、ボールがミットに収まる音がする。気がつけばスコアはツーストライク、ワンボール。

 「さっきのアンタは、随分寂しそうだった。憧れを追い続けて、とどかねぇと判った子供みてぇに。アンタは誰かを救っても、自分自身を救えてねぇ」

 蝉の声が、一層強くなった気がした。うだるような暑さが身を焼いて、からからと水分を干上がらせる。
 「そうかしら?」と、雛が答えれば、土方はただ「あぁ」と呟いただけ。
 あぁ、そうなのかもしれないと、どこかで思う自分がいた。自分が厄を集めることで、誰かが救われる。それはとてもすばらしい事だと、そう思う。
 けど、その代わりに自分の体は、近づけば厄を移してしまうようになり、次第に人と関われるような体ではなくなっていく。
 自分はそういうものだと、そう理解しているし、これからも続けていくことだろう。
 じゃあ、誰が自分を救う? この厄にまみれた自分自身の傍に、誰がいてくれるのだろう?
 そう思っていた。『数年前まで』は。

 「大丈夫よ」

 その声は、自然と流れて出てくれた。その表情は、どこか晴れやかで、おかしそうにクスクスと苦笑した。
 あぁ、そうだ。自分はきっと自分を救えない。誰かを救えても、きっと肝心な自分が救えない。
 でもその時はきっと、何を言っても人の気も知らないで無遠慮に笑う、機械いじりの大好きな彼女が、自分の傍にいてくれるから。
 だから、それで十分。

 「そうかい」

 それだけを言って、土方は苦笑しながらベンチを立った。
 「やっぱ、こういうのは柄じゃねぇ」と呟いたのが聞こえて、雛はおかしそうに「そうかもね」と苦笑しながら言葉を返す。
 そのまま、土方は振り返りもせずにすたすたと歩いていき、その背中が見えなくなると、雛は野球をしている子供達に視線を向けた。

 気がつけば、スコアボードにはツーストライク、スリーボールのフルカウント。
 子供達に混じって、だいぶ年上の少年といった風の沖田から、今までで最速のボールが振りぬかれる。空気が渦を巻き、まるで弾丸のようにキャッチャーミット目指して飛来する。
 その一瞬を、フランの真紅の瞳は揺ぎ無く捉え。

 甲高い、音が響き渡った。

 フランのレーヴァテインを振りぬいた渾身の一振りは、野球ボールの真を捉えて空高く、盛大な勢いで突き上っていった。
 文句なしのホームラン。誰の目から見てもそうだろう。清々しいくらいの一発であった。

 「あら?」

 パーン、っとどこか遠くで弾けた様な音が聞こえ、その音をたどって空を見上げれば、ボールが飛んでいった方角に、昼で見えにくいが薄っすらと花火が上がっているのが見えた。
 こんな昼間から珍しいと、そんなことを思っていると、神楽とフランが此方に歩み寄ってくるのが見えた。どうやら、今ので勝負アリだったらしい。

 「待たせたアル。さ、散歩の続きネ、雛、定春」
 「そうね。そろそろ行きましょうか」

 ゆっくりと、ベンチから立ち上がる。先ほど花火が上がっていたところを見てみたが、もう影も形も見当たらない。
 一体どこの誰が、あんな気まぐれを起こしたのだろうと思いもしたが、まぁいいかと納得して、前を歩いて自分を待っている神楽たちのほうに向かって歩を進める。

 ミーンミーンと鳴く蝉の声。きっとこの後も、騒がしくなるんだろうなァと思いはしたが、不思議と嫌な気分はしなかった。
















 ちなみに、雛たちがよろず屋に帰ったときに見た光景といえば、何ゆえかボロボロの銀時を治療している鈴仙の姿と。
 その銀時にひたすら謝っている友人の河童の姿だったとか。



 ■あとがき■
 ども白々燈です。本格的に忙しくなる前に早めに更新しておこうという感じで。
 いつ更新しにくい状態になるかわからないので。
 今回はにとりと雛の話。ちょっと今回二次要素が強く出た気もしますが、雛に関しては初登場時がちょい役な上にあんまりといえばあんまりだったので、自分なりに雛を表現できればいいなと思いつつ。
 にとりの話はどこか暴走バイクの話を髣髴とさせる話になってしまった。……深く反省(;・ω・)

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第二十話「てこを入れる。そんな話」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2009/01/03 23:02






 「あぁ、銀時? アイツなら怪我の療養とかで新八の家にいるよ」
 「はぁ? 怪我って……なんでよ」

 よろず屋一階に存在するスナックお登勢。そこでタバコをふかしながら返答した家主であるお登勢の言葉に、ずけずけと無遠慮に上がりこんだ比那名居天子はそんな疑問を漏らしていた。
 既に時刻は昼を回り、今日もいつものようによろず屋に訪れた天子だったが、生憎と誰一人としていなかったのだ。
 そこで、行き場所を知っていそうなお登勢に銀時たちがどこに言ったのかを聞いてみたのだが、やや予想外の単語が聞こえてきたもんだから思わず間の抜けた声を上げてしまう。

 「そんなこと、あたしの知ったことじゃないよ。とにかく、ココにいられても準備の邪魔なだけだから、行くんだったらさっさと新八の家に行くんだね」
 「お登勢サンの言うとおりデス。こっちだって暇じゃねぇんだから醜いツラ晒してないでトットト出て行けヨクソボケガ!!」
 「アンタに醜いって言われたくないわよ! その不釣合いなネコミミ捥ぎ取った後に鏡の前に貼り付けてあやるわ!!」

 売り言葉に買い言葉とはまさにこのことか。お登勢のなんてことのない一言に、この店の従業員であるキャサリンが火に油を注ぐような一言をぶちまける。
 そんでもって、感情を抑えるっていう事が苦手……というより、抑えるなんてことをろくにしない天子が怒るのも当然の帰結だったわけで、既に彼女の手には緋想の剣が握られていた。
 ちなみにこのキャサリン、天子の言うとおり、お世辞にも顔が整っているとは言いがたい。言葉は悪いが、はっきり言ってしまえばブサイクである。
 そんな彼女に、自分のことを醜いだのなんだのと言われれば、プライドの高い天子が怒るのも当然といえた。だからこそ、天子の傍に控えていた彼女の行動も実に早かった。

 「総領娘様、ここは抑えてください。ココで暴れては、他の方々はおろか銀時さんの家にまで影響がでます」
 「いいもん、他の天人たちに直させるから」
 「そうですか。では、今日のおゆはんは侍従たちに頼んでこのダークマターことかわいそうな卵を―――」
 「やっぱり人の家を壊すかもしれないから止めとくわ! 私の寛大さに感謝するのねネコミミブサイク!!」

 彼女の傍に控えていた女性、永江衣玖の言葉に、最初こそ聞く耳持たなかった天子だったが嫌な単語が聞こえてきて意地を張りながらも前言を撤回する。
 冷や汗をだくだくと大量に流しながら、回れ右をしてダッシュで店から飛び出す天子を目で追いながら、衣玖ははぁっと小さくため息をついた。
 相変わらず、手のかかるお人だと思う反面、そんな彼女の我が侭になんだかんだで付き合う自分がおかしくて、小さな苦笑を零していた。













 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第二十話「てこを入れる。そんな話」■



















 「ふーん、ここが新八の家かぁ。随分広いのね。ぼろっちぃけど」

 真夏特有の暑さと日差しを遮るように、目の上に手を当てながら目の前の剣術道場に視線を向ける。立派な門構えが天子と衣玖、二人の前に悠然とそびえており、以前はそれなりに活気付いていたのだろうという事が予想できる。
 そんな道場も、天子の表現したように今では多少ボロボロで寂れた雰囲気を漂わせており、どこか物悲しささえも感じさせる。

 「まぁ、いいわ。さっさと入りましょう、衣玖」
 「インターホンぐらい鳴らしませんか?」
 「かまわないわよ。知らない顔じゃないんだし」

 ズカズカと扉をくぐる天子の後を、衣玖も小さくため息をついてから後に続いた。
 門をくぐり、中庭に足を踏み入れる。玄関にまで一直線に伸びた道に出て、左右を見回してやれば、やっぱりそれなりの広さがあった。博麗神社と同等か、それより少しばかり広そうではある。
 そんな風に見回す天子の後姿を、衣玖は少しの間だけ眺める。あの我が侭な少女が、この光景にどういった感情を抱いているのか、衣玖には判らない。
 少し、感傷に浸ったような表情をしていたような気がする。本当になんとなく、大きな違いなんてないのに、そう感じてしまう、違和感。

 「こんな広い家に二人っきりか。広いだけの家なんて……」

 小さくこぼれた声は、天子が口を噤んだことで聞こえなくなる。そんな彼女の隣に、衣玖はスッと静かに歩み寄った。
 それでようやく、彼女の存在を思い出したらしい。失礼な話ではあるが、少し恥ずかしそうに頬を染め、むーっと自身を睨みつける天子の姿を見て、まぁいいか。と、衣玖は思ってしまう。

 「……聞いた?」
 「さて、私には何も聞こえませんでしたけど」
 「本当? ……ならいいわ」

 やや疑いを残した視線のままではあったが、とりあえずは納得したようでそれ以上の追求もなく、天子は玄関に向かって歩みを進めていく。
 先ほどの天子の言葉を、衣玖は確かめるように反芻する。

 彼女は元々、自分の意思で天人になったわけではない。元は地上で生まれ、名居守に遣えていた親のついでに天人になっただけの、幼い子供だった。
 だからか、彼女には天人としての自覚もなければ、そうあろうという意思も無い。そんな彼女は天界で孤立していき、ついには周りから不良天人なんて呼ばれる始末。
 もともと、我が侭で自分勝手な性格もあってか、天子は親との折り合いも余りよろしくないらしい。それは、天界でいつも一人でいるところを見ることが多い衣玖も知っている。
 総領主の娘である彼女の家も、当然のように広い。この家の数倍以上はあるだろう。天子には天子なりに、自分の広いだけの家と、この広い家に住む二人に、何か思うところがあったのか。

 無論、それは彼女本人にしかわからないし、衣玖にしても、彼女の胸のうちを知るよしもない。
 考えても仕方がないと気を取り直し、衣玖は天子の後を追おうと歩みを進め―――

 ピピピッ!!

 「へ?」

 ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおん!!

 前を歩いていた天子が突然爆発して思わず足を止めてしまったのであった。
 もくもくと上がる煙は天に昇る。ジーワジーワと鳴く蝉の声もどこか遠い。いきなりの事態に困惑はおろか思考が停止してしまった衣玖。
 そんな彼女のことなどお構い無しに、空にチカッと何か青白い光が一瞬だけ光る。その直後―――

 ビカッ!! と、青白い光が黙々と煙の上がる場所、つまりはいまだ天子がいるであろう場所を貫いたのであった。
 直後に再び響く爆発音。爆炎が吹き上がり、先ほどの光の威力を物語る。その爆風が衣玖の髪を靡かせ、ようやく彼女の思考が再起動したのである。

 「そ、総領娘様!!?」

 いくら天子の体が頑丈だからって、流石に今の光景を見て無事に思うはずも無い。慌てた様子で駆け寄ってみれば、そこにはちょっとしたクレーターの中で倒れ付している天子の姿があった。
 助け起こそうと手を伸ばした瞬間、ズドンッと盛大な音を立てて蹴破られる志村家の玄関。中から出てきた女性、志村妙は片手に薙刀を持って追い討ちをかけんと人間離れしたスピードで天子と衣玖に向かってきた。

 「テメェ、ストーカー野郎ぉぉぉぉぉ!! 性懲りもなくまたきやがったなコラァァァァァァ!!」
 「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

 もう驚きである。びっくりにもほどがある。初対面の相手にいきなりストーカー扱いである。空気が読めてもこんな事態がどうにかなるはずもない。
 今まさに薙刀が振り下ろされようとした瞬間、ピタッと動きを停止させるお妙さん。
 さっきまでの恐ろしい顔はどこへいったのやら、天子と衣玖の姿を視界に納めた彼女はというと、にっこりと人のよさそうな笑みを浮かべたのだった。薙刀片手に。

 「あら、天子ちゃんじゃない。もう、ちゃんとインターホン鳴らしてくれないと、対ストーカー用装備の地雷がOFFにならないじゃない」

 今なんか凄い台詞を聞いた気がする。そんな衣玖の疑問も、天子が地面に突っ伏したまま片手を上げたのを見つけて、とりあえず生きているらしいことは判ったのでほっとする。

 「えーっと、お妙さん。さっきの光は……何?」

 辛うじてでてきた疑問の声。そんな天子の言葉にも、お妙は笑みを絶やさず朗らかに言葉を紡ぎだしていた。

 「衛星兵器、ストーカーお仕置レーザー、略してSOL(ソル)よ」
 「ストーカー殺す気か、アンタはっ!!?」

 ガバッと勢いよく起き上がってツッコミを入れる天子。そんな光景を見て「あぁ、総領娘様、たくましくなられて」と涙をほろりと流す衣玖さん。なんかもう色々グダグダであった。


















 銀時が療養中らしい部屋の一室に連れて行かれると、お妙は一旦準備があるとかでどこかへと歩いていった。その後姿を眺めながら、天子は小さくため息をついて襖を開ける。
 そこにはまぁ、いるわいるわ、幻想郷の指折りの実力者達が勢ぞろいしているのである。
 巫女と黒白の魔法使い、さらには紫とその式であるマヨヒガ組、レミリア率いる紅魔館メンバー、幽々子の冥界組、永琳、輝夜を筆頭とした永遠亭。
 更には映姫と小町の彼岸コンビに、早苗と神奈子と諏訪子、オマケに勇儀を中心にした旧都組や、さとり達地霊殿メンバーまでいる。
 要するに、いつも宴会に集まっているメンバーが所狭しとこの狭い部屋の中に集まっているのだ。

 「おー、天子ちゃんも来ぃはったよ」
 「こんにちわ、天子さん」

 そんなメンバーに混じって、ひょっこりと顔を出したのはアオと撫子、その隣にはミスティアと店長の姿もある。

 「ちょっとちょっと、どういう事なの、これ?」
 「どーもこーもねぇよ。これから大事な話しすんだから、いいから其処に座っとけ」

 布団で包帯ぐるぐる巻きのままの銀時に言葉をかけるものの、帰ってきたのはそんな返答だった。
 釈然としないものはあったが、このままだと話が進みそうにないと判断したのか、天子は仕方なくといった風に新八が先ほど用意した座布団に腰を下ろした。
 それを確認した銀時は辺りを見回し、そして改めて口を開く。

 「それでは第一回、東方よろず屋のてこ入れについて話し合いたいと思う」
 『てこ入れ?』

 イマイチピンとこなかったのか、何人かが疑問の声を上げる。天子の隣にいる衣玖もその一人だ。
 そんな様子を見て、天子は改めて此方の世界に入り浸っている期間が長いのだなと苦笑した。

 「要するに、相場の勢いを人為的に、特に下落を食い止めるために操作すること。あるいは、不振を打開したり弱いところを強化したりするために外部から援助することをいうの。
 こういうのってよくテレビ番組とかでやられてるみたいだけど、私たちもやるの?」
 「天子の言うとーりっ!! 東方よろず屋もとうとう第一部合わせて40話を突破したからな。ここいらでてこの一つでも入れようって寸法よ」
 「なるほど、よりよい方向になるように努力する。あなたにしては珍しく善行ですね」

 天子や銀時の言葉を聞き、ウンウンと頷いていらっしゃる閻魔様こと映姫様。他のみんなも一応は理解したようで、なるほどと頷いている様子であった。

 「で? 具体的にはどうするのよ。要するに何か変化をもたせて読者を楽しませしょうってことなんでしょ?」
 「何だ何だ、霊夢。随分とやる気ないじゃないか」
 「だって、私はいつもほとんど出番ないし」
 「……スマン」

 なんかむなしい一言に思わず魔理沙が目線を逸らした。なにやら微妙な雰囲気になりそうになったところを打破しようと、新八が慌てて具体例を出し始める。

 「まぁ、一般的にはタイトルを変える、とかですよね」
 「もう既に変わってんだろーが。つーかお前、それ前にも言ってたじゃねぇか」

 咄嗟に出た新八の言葉にも、銀時は呆れたような言葉を返すだけだったが、其処で控えめに撫子の手が上がったのを見て、銀時は彼女に視線を向ける。

 「おし、撫子。言ってみろ」
 「は、はい。えっと……こういうのはどうでしょう?」









 「開園、撫子動物園~~~~!!」

 わーっと沸きあがる歓声を浴びて、白いシャツにオーバーオールといった服装の撫子が笑顔のままそんな台詞を言って、舞台の奥から登場する。
 舞台に並べられた椅子には、この番組のレギュラー陣がパチパチと拍手をしながら彼女を迎え入れていた。

 「さぁ、今回も始まりました撫子動物園。私、園長こと撫子です。皆さん、今日もよろしくお願いいたしまーす」
 「ウチは司会のアオや。みんな、知っとる思うけどよろしゅうな~」

 愛想よく笑顔で挨拶する二人。二人は挨拶を終えると笑顔のまま次の言葉を紡ぎだしていく。

 「さぁ、今日の撫子動物園は!! マヨヒガにお住まいの八雲さん家の猫の橙ちゃん。地底深くの地霊殿にお住まいの古明地さん家の猫のお燐ちゃん。○○県にお住まいの田中さん家の猫のももちゃん。××県にお住まいの遠野さん家の猫のレンちゃんで―――」









 「って、オィィィィ!! 猫ばっかじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!?」

 唐突に入る銀時のツッコミ。それは撫子の説明をバッサリ中断させるには十分だったらしい。
 そんな銀時のツッコミにうんうんと頷く一同。その中で、撫子だけがどうしてそんなツッコミを入れられたのか判らないといった表情を浮かべていた。
 ちなみに、八雲さん家の橙さんとか言っていたが、実際には彼女の住処は妖怪の山なので厳密にはちょっと語弊がある。

 「えっと、いけませんか?」
 「いけねぇも何も、それ動物園じゃなくてただの猫ランドじゃねぇーかっ! もしくはニャンニャンランドだよ!! 読者は猫だけじゃ納得しねぇよ!!」
 「えー。だってかわいいじゃないですか、猫って。あぁ、何度あの子猫を抱きしめたいと思ったことか! でもね、ダメなんです。私、猫アレルギーだから」
 「オィィィィ!! 何その複雑な愛憎模様!!? 尚のことそんな意見実行に移せるかぁぁぁぁぁ!!」

 銀時の指摘に大胆カミングアウトなさる撫子に、今度は新八のツッコミが飛来する。一方、撫子は撫子でそんなこたぁ聞いちゃいなかった。
 何しろ今現在、彼女は猫に囲まれているであろう自分を想像してえらくご満悦な表情をしていたのである。

 「……撫子ちゃん。猫フェチやったんやなぁ」
 「橙、彼女に近寄っちゃいけないぞ。いろんな意味で」
 「お燐も判りますね。彼女のためであるのと同時にあなたの為でもあるのですよ」

 撫子の隣にいたアオが遠い眼をしてポツリと呟き、現に猫妖怪の保護者二人が過保護にも厳重注意していたりする。さとりは撫子の心が読める分だけより真面目だった。
 そんな中、フンッと侮蔑のこもった息を零し、立ち上がったのは吸血鬼であるレミリアである。

 「ったく、そんな温い内容じゃ読者は納得しないよ。どうせやるなら、このぐらいはしないとね」









 時は中世イギリス。城のようにそびえる洋館の幼き主。彼女こそが夜の闇に生きる吸血鬼。
 幼き姿ながら畏怖の象徴であった彼女の傍には、常に人間のメイドと、七曜の魔女、そして親愛なる妹がいた。

 「あら、お姉様。今日は一体どんな御用かしら?」

 分厚く、入るものを拒み続けるかのような重厚な扉。そんな扉すらも片手で易々と開けて、主は妹の部屋に入っていく。
 赤い双眸が自らの姉の姿を捉え、妹である少女は優雅な仕草で言葉にする。
 そんな妹の言葉に苦笑しながら、主はコッコッとブーツの音を響かせて彼女に歩み寄った。

 「愛しい貴女の顔を見に来たのよ、フラン」
 「それだけかしら?」

 お互いにクスっと笑い、お互いの表情を瞳に映す。主は愛しげに妹の頬に手を当てて撫でてやる。
 夜は深く、月の光だけが部屋を照らした。
 月明かりに祝福されるように、二つの影はゆっくりと近づいていく。

 「もちろん。もっと楽しいことを、これからするのよ」

 部屋には二人きり。世界は今このときだけは二人のために存在する。
 お互いの唇が、今まさに触れ合おうと―――









 「首位打者剣ッ!!」
 「クワバラッ!!?」

 ゴキャリと、わりと洒落にならねぇ音が話の途中で盛大に響き渡った。
 レミリアの話を中断させたのはフランドール。彼女の手にはレーヴァテイン(Ver.野球バット)が握られており、それでおもいっきりレミリアの腰を強打したのである。
 余りの威力にレミリアは吹き飛び、盛大に襖を突き破った後、中庭にまで吹き飛ばされた彼女は二度、三度と盛大に転がり。

 ピピピッ!!!

 「へっ!?」

 チュドォォォォォォォォン!!

 地雷に当たって盛大に爆発に巻き込まれたのであった。
 もくもくと煙が上がる中、先ほどのことを思い出したのか天子はなにか微妙な顔をして視線を逸らす。
 参加者の反応も皆さまざま。心配するものも要れば、まぁそうなるよなぁと納得するものもいる始末。さて、そんな中で彼女の一番の従者である十六夜咲夜はというと。

 「あら大変。お嬢様がこの暑さでついに爆発してしまいましたわ」
 「ンなわけねぇだろっ!! レミリアちゃぁぁぁぁぁん!!? 生きてるぅぅぅぅ!!?」

 わりかし天然が入ったボケに新八がツッコミを入れつつ、地雷の餌食になったレミリアの心配をする。
 が、そこはさすが吸血鬼というべきか。多少ボロボロになりながらもよろよろな足取りではあったが何とかもとの部屋にまで帰ってきた。

 「ねぇフラン。なんで止めたの、今?」
 「いや、妄想の中で私の初Kissが奪われそうだったから。お姉様が初めての相手とか妄想の中でとはいえ絶対に嫌だし」
 「そこまで嫌!!? そんなに嫌なの!!? ていうかなんでキスの発音英語!!? 何で英語ぉ!!?」

 ガクッと崩れ落ちるレミリア。涙をはらはらと流しているあたり、先ほどのフランの大胆カミングアウトがよっぽど堪えたらしい。
 ちなみに、キスといっても国によってはスキンシップとかにされるようなアレである。レミリアは多少過剰に表現したが。
 そんな彼女を慰めるのは彼女の従者の中でも人のいいほうである小悪魔と美鈴の二人。咲夜はあらあらと困ったように頬に手を当てており、親友のパチュリーはというと我関せずで本を読んでいた。

 「ふふ、お子様にそんな話は百年早い。自分達の特性をちゃんと生かしててこ入れしないと意味がないわ」
 「幽々子様、もしや何か妙案があるのですか?」
 「もちろんよ、ねぇ紫」
 「その通りよ、妖夢」

 妖夢の疑問の言葉にも、幽々子は飄々とした様子で答え、紫もそれに同意するように言葉を零す。
 それで大抵のメンツは悟っただろう。『あぁ、絶対ろくなことじゃねぇな』と。
 何しろ幽々子と紫である。これ以上にないってくらい、ややこしいことを思いつく人(?)ナンバー1とナンバー2が揃い踏みで頷くのである。

 「では、ご披露いたしましょう。私と紫が考えたてこ入れを」









 それは、一種の都市伝説だった。
 それを見たものは一週間後に死ぬ。そんな馬鹿げた噂話。

 物語の主人公は、銀髪が特徴的な一人の男だった。
 彼が、それが原因で起きた事件に関わったときから物語は始まる。
 人は、それをなんと称したか。彼はその謎を突き止めようと奔走し、そしてついにそれに至った。

 「それはね、幽々子の呪いなのよ」

 ある女はそういった。そして、それを見てはいけない、とも忠告した。
 幽々子の呪い。そんなものがあるものかと、彼は忠告に気を傾けてはいたが、結局は好奇心に勝てず、そして見てしまったのだ。

 そう、幽々子が残した―――呪いのビデオを。









 「ハイ却下」

 早かった。銀時の返答はこれでもかというほどに早く、そして簡潔で判りやすいものだった。

 「あら、どうして?」
 「どうしてもクソもねーよ。銀さん死亡フラグ立ちまくってんじゃねぇか! その話の流れからするとどう考えても死亡なんですけどもぉ!?」

 納得いかないといった風の幽々子の言葉に、銀時は多少語気を強めながらそんな返答をする。
 紫もどうやら納得のいかない様子で、片目を瞑りやや不機嫌そうな表情をのぞかせていた。
 そんな主人と主人の友人の様子を見て、はぁっと小さくため息を零したのは妖夢に他ならず、彼女は幽々子と紫に交互に視線を送ってから言葉を紡ぐ。

 「幽々子様も紫様も、その話じゃどう考えても大惨事な流れになるのは目に見えているじゃないですか」
 「もう、妖夢は固いわねぇ。ただの洒落にしかならないでしょう、こんなの。普通に考えて」
 「そうですね。普通に考えればそうですけど、幽々子様と紫様が二人でやると実際に洒落にならないでしょう」

 ぴしゃりと言葉にする妖夢。実際、幽々子の『死を操る程度の能力』と紫の『境界を操る程度の能力』を使えば、本気で某映画よろしく呪いのビデオが出来上がることは目に見えている。
 従者からそこまで返答が来ることは予想外だったのか、幽々子は多少驚いた様子で扇子で口元を隠した。

 「あら、主人に随分な口を利くようになったわねぇ、妖夢も」
 「う!!? そ、それは謝りますけど……、私だって真選組で毎日がんばってるんですから、このくらい口が回るようになります」

 何しろ、ストーカーにマヨラーにドS王子がいますからね。と、なんかアンニュイな表情でそんな言葉を付け足す妖夢。
 実際、真選組もよろず屋に負けず劣らずの個性派揃いなんで妖夢も随分苦労しているらしい。表情から疲れっぽいものがにじみ出ている。

 「ふふん、なら私の意見なんてどうかしら? 題して、銀魂風竹取物―――」
 「ハイ却下」
 「って、ちょっとぉ!! いくらなんでも早すぎない!!? 回想すらないし!!?」

 得意げに意見を出そうとした輝夜だったものの、銀時がいつものようなやる気のない顔で即却下したために彼に食って掛かる。
 が、当の銀時はというと相変わらずのやる気のなさそーな顔をしてがりがりと後頭部を掻いていた。

 「今更昔話ネタとか誰が面白がるんだっつーの。もうちょっと面白くなりそーな話し振ってこいよ」
 「じゃあ、地獄鴉に協力してもらって世紀末救世主伝―――」
 「アウトォォォォォォォ!!! 輝夜さんそれ色々とアウトだから!!」

 銀時の言葉に妥協案っぽいそれを提案する輝夜だったが、皆まで言わせず今度は新八がストップをかける。
 そのままギャーギャーと言い争いに突入する銀時と輝夜。そしてそれに巻き込まれる形となった新八をよそに、鈴仙は呆れたようにその光景を眺めていた妹紅に言葉をかけていた。

 「あなたは何かないんですか?」
 「あぁ、私? そうだなぁ……」

 うーんと悩み、あーでもないこうでもないと頭を悩ませる妹紅。
 もともと、こういったことは得意な方ではないせいか、随分と考え込んでいる様子だった。
 しばらくして「お」と妙案でも思いついたのか、手のひらをポンッと叩く仕草をして、鈴仙のほうに視線を向けた。

 「じゃあ、こういうのなんてどうだ?」









 かつて、彼女は某所でも有名な不良だった。
 彼女の名は上白沢慧音。そして相棒の名は藤原妹紅といった。
 そんな彼女達も時が経つにつれ、すっかりと大人になっていったが、慧音はあいも変わらずかつてのように飄々と生きていた。
 だが、時としてそれは終わりを告げた。そして彼女は、かつての悪友にこう告げたのだ。

 「妹紅。私はな、教師になろうと思うんだ」

 かくして、ここに元不良+暴走族という前代未聞の教師が誕生した。
 笑いあり、涙ありのドタバタコメディ!!

 GTK(グレートティーチャー上白沢)!!
 こうご期待!!









 「誰が元不良か!!」

 と、そんなツッコミと共に飛来したのは慧音さんの得意の頭突きだった。
 それはものの見事に妹紅の後頭部に直撃し、余りの痛さにゴロゴロと転げまわる蓬莱人。
 そんな彼女に目もくれず、明らかに不機嫌な様子で慧音は妹紅から視線を外すのであった。

 「すまん、今のはなしの方向―――」
 「いや、案外いけるんじゃね?」
 「そうですね。特に優等生な慧音さんしか知らない人には大反響が待っていそうです」

 慧音が銀時に視線を向ければ、意外にやる気になっている甘党と鴉天狗の姿がそこにあった。
 グワシッ!! と、このまま採用の方向で話を進めていた二人の頭を鷲掴みにする慧音先生。
 その表情にはこれでもかというほどににこやかな表情が浮かんでいたが、残念ながらこの場面ではその笑顔が余計に怖い。

 「正面と側頭部と後頭部、どれが望みだ?」

 慧音から飛び出したのは事実上の死刑宣告だった。ようやく事態を理解したのか、だらだらと冷や汗をかきはじめる銀時と文の二人。
 リアルタイムでミシミシと握力という暴力に晒されながらも、このままではアイアンクローで死にいたると悟ったのか、二人は見合わせ、そして小さく呟いた。

 『正面でお願いします』

 できるだけダメージの少ないところを。そう思っての言葉だったが、残念ながら慧音の頭突きの威力は皆が認めるところである。
 にっこりと、慧音は聖母のような笑みを浮かべ、対して二人は地獄で鬼か何かを見たかのような表情を浮かべ。

 ゴヅッ!! ミヅッ!!

 やたらと鈍い制裁の音が響いて、二人は大声を上げながら床を転がりまわる羽目となったのである。
 それで多少の気は済んだのか、慧音は小さくため息をついて元の場所に戻っていく。
 二人の様子を心配して新八が駆け寄り、そんな光景を見て神楽がパンパンと手を叩いてみんなの視線を集めた。

 「ハイハーイ、他に何かないアルか~? 無いともれなく今のGTKで決定になるネ」
 「ちょっ、待て!! まだ引っ張るのか!!?」

 顔を真っ赤にした慧音が神楽にツッコミを入れるが、神楽は神楽でそんなツッコミが耳に入っていないのかものの見事にスルーする。
 そんな中、「ハイハーイ!!」と元気よく手を上げたのは、地獄鴉こと霊烏路空であった。慧音は何とか問い詰めたい気分だったものの、彼女が元気よく主張するもんだからすごすごと引き下がっていった。
 根が善人すぎると苦労する。そんな言葉を表現しているかのような光景である。

 「私ね、この間みたテレビみたいなのがやりたい!! 例えばねぇ―――」









 霊烏路空、通称おくう。
 彼女は今でこそ何の変哲もない高校生だったが、ある秘密を抱えていた。

 「おくう、アンタはアタイと一緒に居ないほうがいい。あんたはさ、れっきとした皇女なんだから」

 友人の火焔猫燐は、彼女にそう告げる。お燐の言うとおり、おくうは今は亡き、暗殺された王妃の娘だったのだ。
 愛すべき自分の主人である古明地さとり、古明地こいしの二人。彼女達にも危害が及ぶかもしれないと恐れる日々。
 だが、彼女はある日、契約によって力を手に入れる。絶対的な破壊の力を。

 「この、力。そうよ、この力さえあれば、今の腐ったこの国をぶっ壊せるわ!!」

 こぼれでた声は歓喜。自分を育ててくれた主人たちに危害が及ばないように、より住み良い世界を作り上げるための力。
 力を手にした彼女に訪れる魔女。そして友人とすれ違い、やがて彼女達は友人同士でありながらお互い戦いに身を投じて行く。
 だが、おくうは戦う。手にした力……『核融合』の力を手にして。

 「ソロモンよ!! 私は帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 機動核融合『反逆のおくう』


 coming soon.









 「どう!!?」

 ニコニコ笑顔でのたまうおくう。しかし、誰も反応せず、気まずそうに視線を伏せるのみ。
 あれ? と、現状を理解できずにこてんっと首を傾げるしか出来ないおくうだったが、そんな彼女の肩を友人であるお燐がぽんっと叩いた。

 「あれ? お燐、どうしたのさ?」

 不思議そうな顔で問い返してみるが、友人は残念ながら一言も発しない。
 代わりといっては何だが、彼女は親指でクイッと別の場所を指差した。
 それを不思議に思いながらそっちに視線を向けてみるとそこには―――恥ずかしい過去を思い出して床を転げまわっている巫女、つまり霊夢の姿があったのだった。

 「ぬぉぉぉぉおおおお!! その台詞を言うなぁぁぁぁ!!!」
 「あぁ!! ご、ゴメンよ霊夢!!」

 ゴロゴロと転げ周り、恥ずかしさの余りに悶絶する霊夢。ソロモンよ発言あたりで嫌なことを思い出したらしい。
 その事に思い至ったのか、おくうが彼女に駆け寄って慌てて謝るという、なんとも妙な空間が出来上がったりするのである。
 その胸の内、押して知るべし。というやつだろうか。

 「えーっと、バイオハザード的なゾンビものとかどうかね? 私の能力ならできんこともないよ?」
 「いやいや、それはもうこりごりだから。約一名はゾンビすっ飛ばしていきなりタイラントになっちゃうから」

 ヤマメのそこはかとなく恐ろしい提案も、銀時は意外にも冷静に首を振って見せた。
 以前、ゾンビもどきに襲われた経験があるからか、彼としてはあんなことはもうコリゴリだ。
 確かに、ヤマメの「病気(主に感染病)を操る程度の能力」なら出来んこともないだろうが、生憎と銀時としては勘弁願いたい。
 以前、その映画を見たことのある臆病なところのある鈴仙はというと、ウンウンと首がもげそうな勢いで頭を振っていたりする。
 ちなみに、銀時の言う約一名は皆さんご想像の通りにお妙さんである。

 「うーん、私ならこんな話がいいかなぁ」

 次に声を上げたのはミスティアだった。
 彼女はうーんと少し考え込みながら、ポツポツと自分の考えを話し始める。

 「えーっとね、ヘヴィメタのヴォーカルが私でね。それで本当は普通の歌手を目指したいんだけど中々うまくいかないそんな話。題名はデトロイトメタルチ―――」
 「出来るかぁぁぁぁぁぁ!!」

 あえなく没になった。これが採用された日にゃ、きっとものすごい悪役レスラーのようなメイクをしたミスティアが狂ったように歌を披露するに違いねぇのである。
 ……あれ? 意外に適役じゃね? などと思わなくもないが、とりあえずこれは没の方向で。
 新八にツッコミを入れられたミスティアはというと「ちぇー」と不貞腐れて黙りこくった。そんな彼女をなだめているのがアオと撫子の二人。

 「あの、銀さん。それって、どうしてもしないといけないことですか?」

 そんな彼女達を視界に入れた後、銀時に改めて問うたのは早苗だった。
 その一言に、みんなの視線が彼女に集まり、少し緊張はしたものの、早苗は落ち着いた口調で静かに言葉を紡ぎ始めた。

 「私は、今のままでもいいと思うんです。もちろん、直さなきゃいけないところもあるかもしれないですし、至らないところがあるかもしれません。
 でも、思うんです。私たちは私たちらしく、無理に変えようとしないでありのままでいればいいんじゃないかなって」

 なんて、私が言えることじゃありませんよねと、そんな風に彼女は苦笑した。
 その言葉を聞き、銀時が考え込むような仕草をしていると、襖が開いて奥からお妙が姿を見せる。

 「早苗ちゃんの言うとおりですよ、銀さん」
 「姉上」

 唐突な姉の登場に新八が驚いたような声を上げるが、それを気にした風もなく彼女はにこやかな笑みを浮かべ続けていた。

 「私たちは私たちらしく。無理に自分を変えたって、そんなの面白くないじゃないですか。私たちは今のままで十分。たまにこうやって集まってワイワイしているほうが、きっと性にあっています」
 「……そう、だな。確かに、そりゃそうだ」

 お妙の言葉に、しばらく考え込んでいた銀時だったが、小さくため息を零したあとに苦笑した。
 それで、大体のメンバーは納得したらしい。元々お気楽な面々の集まりだ。何かに理由をつけて、大騒ぎをしたいメンバーがほとんどだろう。
 案の定、「よし!!」と勢いよく立ち上がって、魔理沙が焼酎を取り出してみせた。

 「それじゃ、今日はこのまま宴会だな!」
 「用意がいいねぇ、魔理沙。まぁ、私もワイン持ってきてるんだけどね」

 魔理沙の一言がきっかけに、がやがやとやかましくなる一室。やんややんやと皆酒を取り出し始め、事態はこのまま大宴会に突入しそうである。

 「おーい、一応、こっちじゃ未成年は酒のめねぇからな。魔理沙に霊夢、それから早苗、オメェ等はジュースだ」
 「おいおい、そんなのばれなきゃ大丈夫だろ? というより、もう手遅れだ」

 ほれっと、勝手な理屈をいいながら指を刺す魔理沙。その先には既に自棄酒に走っている霊夢の姿があった。

 「オィィィィィ!! 何もう飲んじゃってんの!? 何もうおっぱじめてんのぉ!!?」
 「五月蝿いわよ銀髪!! ごちゃごちゃ抜かしてると夢想封印で黙らすわよ!!?」

 途端にギャーギャーとやかましくなる一室。そんな光景を楽しそうに眺めるお妙を横目で見ながら、天子は小さくため息をつく。
 これだけの人数が集まれば、この大きいと感じた家も騒がしい活気に包まれる。
 そんな光景を眺めているお妙が、天子にはみょうに嬉しそうに見えたのだ。
 だから、彼女は言葉を飲み込む。きっと、今の彼女に言葉をかけるのは、無粋だとそう感じたから。
 知りたいと思うけど、きっと自分が踏み込んでいい領域じゃないんだろうと、なんとなくそう思ったのも事実。
 だから、何もいわない。きっと今は、この選択こそが正解だと思うから。
 そんな彼女の思考をよそに、お妙はにこやかにみんなに声を掛け始めた。
 あ、なんか嫌な予感がすると天子は思ったが、残念ながらもう遅い。

 「もう、みんながそういうと思って、今日は私がおつまみを用意したから。さ、みんな一杯食べてね」
















 その日、楽しくなるはずだった宴会は、その一言で地獄に変わった。






 ■あとがき■
 皆さん、新年明けましておめでとうございます。そしてお久しぶりでございました。
 ようやくひと段落着いたので改めて、新しい話を投下します。今回は久しぶりにかいたんで、どこかいたらないところがあるかもしれませんが、いかがだったでしょう? とりあえず、リハビリという事で^^;
 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第二十一話「海といえば美女の水着って、お前ソレはオヤジの発想じゃねぇかぁぁぁぁぁ!?」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2009/01/13 19:35





 「海に行きたい」

 思えば、旅行雑誌を見ながら口にした天子のその一言が、今回の大本といえばそうなるのだろう。
 暦は8月真っ盛り。太陽は容赦なく大地を照り付け、その存在を過剰なまでに自己主張する。
 これには流石に、いつもタフなよろず屋のメンバーも辟易していた。妖怪の文や鈴仙、フランもこの暑さには流石に参っているようであった。

 「そうね、それはいいわね」

 そして、そんな面々に漏れず、大妖怪であるはずのスキマ妖怪、八雲紫もこの暑さはきついものがあるのか鬱陶しげに言葉を返していた。
 彼女は基本的に夜型の妖怪であり、朝方から夕方までは寝ているのが常だ。昼間から起きているのは実に稀なことなのである。
 暑くて眠れないという事で暇つぶしがてらに博麗神社に訪れた後、いつものように巫女をからかって此方に赴いたはいいのだが、想像以上の暑さに表情こそいつもの通りだが流れ出る汗は隠しきれない。
 幻想郷の結界のほうは彼女の式である八雲藍が見ているので、おそらく心配はないだろうし、しばらくココで涼もうと思ったのが運のつき。
 残念ながら頼みの綱の扇風機は温風を運ぶだけの物に成り下がってしまっている。

 「うわ……どうりで暑いはずです。今日は40度超えるんじゃないかって言ってますよ、天気予報」

 阿求も暑さに参っているらしく、ふとつけたテレビであっていた天気予報の情報を見て大きくため息をついた。
 具体的な数字を聞けば、感じる熱さもより具体的なものになる。天子は先ほどまで手にしていた旅行雑誌を放り投げ、「あ~、あづいぃぃぃ」とソファーにごろんと横になった。
 ぱさりとテーブルの上に投げだされる旅行雑誌。丁度開いたページには、外国の真っ青な海がでかでかと映し出されている。
 その海の記事を見て、ポツリと、紫が言葉を漏らす。

 「行きましょうか、海」














 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第二十一話「海といえば美女の水着って、お前ソレはオヤジの発想じゃねぇかぁぁぁぁぁ!?」■



















 「うぅみぃじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ガバッと傘を持った腕ごとを挙げ、力強く叫んだのは水着姿の神楽。

 「うーみーじゃー!!」

 そしてソレに続くように叫んだのは、日傘を片手にバッと腕を挙げた水着姿のフラン。

 「うーみぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 そして団子三兄弟よろしくといわんばかりに、両腕を高々と上げて続くように叫んだのは、少し長めの銀髪セミロング、黄色いリボンでアクセントを加えられた黒いハットを被った少女。
 古明地こいし。それが少女の名であり、苗字から想像できるように古明地さとりの妹である。そんな彼女もいつものオレンジを基調とした服ではなく、オレンジ色のセパレートタイプの水着を身に着けていた。
 そして彼女達がそんな風に大きく叫んでいる通り、彼女たちの前には広大な海が広がっており、辺りにはちらほら客の姿も見えている。
 そんな三人を尻目に、せっせとパラソルの設置を砂浜にて行っている男が四人と他一匹。
 坂田銀時、志村新八、桂小太郎、店長、そしてエリザベスである。

 「新八くーん。ちびっ子たちは元気だなぁ、オイ」
 「いいんじゃないんですか? 楽しそうですし」
 「いいわけないでしょう。まったく、フランったら、吸血鬼は流水がダメだって覚えてるのかしら? あ、咲夜、パラソルが出来たら紅茶お願いね」

 気だるそうに準備する銀時の言葉に、苦笑しながら新八が答えると、彼の後ろのほうからレミリアが日傘を片手にため息混じりに言葉にする。
 そんな彼女の後ろにはいつものように咲夜が控えており、その少し向こう、少し離れた砂浜からは続々と幻想郷の面々が水着に着替え終わってこちらに向かってくるところであった。
 本日の午前中の天子のぼやきに紫が同意することとなり、急遽決まった海への旅。
 それはひょっこり現れたアオの知ることとなり、「どうせならみんなで行こう!!」という事で彼女が人数を集めたのである。
 結局のところ、みんなもこの暑さに辟易していたのだろう。初めて海を見るものも多く、中には海を見たさについてきた者達もいる。
 要するに、いつものメンバーが集まり、以前、銀時たちが訪れたえいりあんが棲む海にスキマ経由で訪れることになったのだ。

 「あ、手伝いますよ」
 「いや、君は泳いでくるといい。こういうのは、男の仕事だ」

 撫子が彼らに小走りで近づきながら提案するものの、桂はというとそんなふうに言葉にしてやんわりと遠慮する。
 それでも少し迷っている風ではあったが、店長が頷くのを見て、申し訳なさそうに頭を下げてからアオたちのほうに走り去っていった。

 「ったくよぉ、いいよなぁ。女は早々に海のありがたみを満喫してんだから」
 「はっはっは! そういいなさんな銀さんよぉ。こういうのは、俺達みてぇな大人の男の役目よぉ」
 「その通りだぞ銀時、それにアレだ、夏といえば美女の水着と相場が決まっているではないか。みろ、あそこなどたゆんたゆんだぞ」
 「オィィィィィ!! アンタのその一言で色々台無しじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!」

 相も変わらず気だるげに不満をこぼす銀時に、軽快に応えたのは店長だった。
 その店長の言葉に同意した桂だったが、その言葉は色々と台無しである。現に、新八が彼にツッコミをいれ、傍にいたレミリアがものすごい侮蔑の表情で桂を睨みつけていたりする。
 ちなみに、桂の視線の先には幽香や小町、美鈴、神綺、永琳といった面々が海のほうに歩いていくところだった。
 共通点? 五人とも一部分がメロンであるという事だけ記述しておこうかと思う。

 [よいしょっと]

 そんなやり取りをよそに、浜辺に敷いた大きいシートの傍に、これまた大きなパラソルをエリザベスが突き刺して完成させる。
 片手にプラカード、片手にパラソルと器用な行動だったが、特に問題もなく男達の仕事はひとまず終了したのであった。
 そんなわけで、新八も桂も店長もそれぞれ思い思いの場所に分かれていく。彼らも存分に海で涼みたいのであろうことは容易に想像できる。
 ため息を一つつき、銀時は辺りを見回す。海を見つめるだけのもの、早速海に入っているものと様々だ。
 そんな中、レミリアはというと一応は水着姿ではあったが、元々海に入る気はないらしくそそくさとパラソルの下に入り、傍にいた咲夜に紅茶を注ぐように命令する。
 そもそもの話、流れ水は吸血鬼にとっては弱点である。
 だから彼女にしてみれば水着に着替える必要はコレッぽっちもないのだが、咲夜の「こういうのは形からですわ」などというよくわからない理論で唱えられ、渋々水着を着る羽目になっていた。
 フランも海に行くなどと言い出さなければ、彼女はココには来なかっただろう。
 いつものような気の強さもなく、気だるい様子で浜辺で神楽、こいし等と遊んでいるフランに視線を向ける。
 あっちはあっちで元気にはしゃぎまわっており、そんな光景を見て思わずため息がこぼれてしまう。

 「ねぇ、パチェ。あなたは海に入らないの?」
 「遠慮するわ。本を読んでいるほうが有意義だし、この程度の暑さ、私たちにしてみればたいしたことでもないもの」

 いそいそとパラソルに入ってきた友人に向かって言葉をかけてみるものの、返ってきたのはそんなそっけない言葉だった。
 そんなそっけない言葉もレミリアにしてみれば予測の範疇だったのか、特に何の反論もすることなく、咲夜が差し出した紅茶を受け取って小さなため息を零すだけにとどめた。

 「お前は行かないのか? 銀髪」
 「生憎、俺ぁココにいるので十分だよ。かったるくて泳ぐ気にもならねー」

 「あっそう」と、憂鬱な気分を隠さないまま呟いて、レミリアは紅茶を口に含む。
 そうして計ったように銀時はごろんと横になり、気だるそうに大きなあくびをしてみせる。
 このうだるような暑さの中で寝れるはずもないだろうにと思いながらも、彼の真意に気付いてもいるので、それ以上は何も言わなかった。
 要するに、日の下にも流れ水に入ることも出来ない自分の事を案じて、こうやって適当な理屈をこねてココにいることにしたんだろう。

 (馬鹿な奴)

 それだけ思いながら、レミリアはフッと己が妹の姿に視線を移す。
 そこには、何時の間にあんなに楽しく笑うようになったのやら、神楽、こいし、そしてアオや撫子と一緒にビーチバレーに興じているフランの姿がある。
 果たして、あの子は自分にあの笑顔を向けてくれるだろうか? いや、それ以前に、果たして自分はあの子にあの笑顔を浮かべてやることが果たして出来ただろうか?
 そんならしくない自問を繰り返し、やがて考えてもしょうがないことだと悟るとまたため息がこぼれてしまう。

 「隣、よろしいかしら?」

 ふと、思考に埋没していた意識が浮上する。声の主に視線を向ければ、いつかの間欠泉の怨霊騒ぎ以来、ちょくちょくと宴会に顔を出すようになったものの姿があった。
 古明地さとり。心を読む能力を持ち、忌み嫌われ地底に潜ったさとりの妖怪。

 「『好きにするといい』、ですか。それでは、お言葉に甘えましょう」

 物腰柔らかな態度で、彼女は一礼してからレミリアの隣に腰掛けた。
 相変わらずズバズバと心を呼んでくるやつだな、と思いはしたが、ソレも今更なのでレミリアは何も言わない。
 こういうとき、太陽の光が調子に乗って燦々と輝き、言葉を紡ぐのも気だるく感じる憂鬱な日には、彼女の能力は手間要らずで便利なものだ。
 物は考えようという奴だろう。この程度のことを読まれたからといって気分を悪くするほど、レミリアは狭量ではない。

 「咲夜、彼女の分の紅茶も用意なさい」
 「かしこまりました」

 控えている従者にそう命令を伝え、レミリアはなんと無しにさとりのほうに視線を向ける。
 水着に身を包んだ彼女の肌はとても白く、日の光には余り強くはあるまい。タダでさえ華奢な体つきをしているのだ。今日の日差しは彼女には辛かろう。
 そんな彼女の視線は、彼女の妹のこいしに向けられていた。その姿が、どうしてか……自分の姿とダブって見えて、レミリアはなんとなく、自分達が似たもの同士なのだという事を察した。

 「心配?」
 「もちろん、こいしは私の大事な妹ですから。貴女も、そうなのでしょう?」

 問い返された声には応えず、レミリアは憮然とした表情のまま視線をフランたちに移した。後ろで、自分の従者が微笑ましげに笑っていたことには気付いていたが、あえて気付かない振りをする。
 その問いには、YESと答えるだろう。だがしかし、今まで散々、妹を放っておいてそんなことを言うなんて虫のいい話だと感じて、声にすることはためらわれた。
 だから、返したのは沈黙。もとより、さとりは今のレミリアの思いを知ることはたやすい。だからか、彼女もそれ以上は何も言わず、ただただ己が妹に視線を向ける。

 フランドール・スカーレットと、古明地こいし。この二人は、一体何時のころからか仲のいい友人といった付き合いになっていた。
 どんなきっかけで知り合ったのか、どんな経緯があって壊すことしか知らなかったフランドールがこいしと意気投合しているのか。
 不甲斐ないことだったが、レミリアもさとりもその事を知らない。
 いつも地下にいたフランと、いつもふらふらとどこかへ消えては、いつの間にか帰ってきているこいし。
 違うようで、どこか似ている。そういったのは、奇妙なことにフランドールもこいしもだった。

 495年間。地下で幽閉され続け、最近ではソレも解除されたが、めったなことでは外にでようともしない。
 ありとあらゆるものを破壊する能力を持ち、情緒不安定でふとした癇癪で大事になりかねない悪魔の妹、フランドール。

 心を読む事で嫌われる事を知り、心を読む第三の眼を閉ざして、自らの心さえも閉ざした。
 代わりに無意識で行動する事が出来る様になったものの、誰にも気付かれることが無い。その事を寂しいと思う心をなくしてしまったこいし。

 言葉にすれば違うようで、でもどこか似ていると、不思議とそう感じる矛盾。
 でも、どこが似ているのか、不思議とレミリアもさとりもなんとなくではあるが理解していた。

 二人の似ているもの。それは、病んだ心と、永い永い独りの時間。
 気が触れている。オブラートに包んで言えば、情緒不安定で永い間地下に幽閉され続けてきたフラン。
 心を読む力は、自らの心の強さ。それを嫌われるからと閉ざし、結局は自らの心を閉ざしたこいし。
 そして、この二人はその事をつらいとも寂しいとも感じていないという、歪な共通点。
 地下に幽閉され続けたか。目的もなくふらふらと彷徨うか。行動にこそその違いはあれ、二人の心のうちは極めて近いものだった。

 「どうぞ」

 差し出された紅茶を受け取り、さとりは「ありがとうございます」と丁寧に礼を言うと、なれた仕草で紅茶の淹れられたカップに口をつける。

 「相変わらず、美味しいですね」
 「当然よ。咲夜の淹れたお茶に適うものなんか早々ないわ」
 「恐縮ですわ」

 二人の言葉に、咲夜は優雅な笑みをもって返答する。
 レミリアの言葉は紛れもなく本心からのものであり、その事を悟ったからか、咲夜の笑みはどことなく嬉しそうではあった。
 再び視線を妹に向けてみる。するとそこには、大きく手を振って自分達の名を呼ぶフランとこいしの姿があった。
 その光景に一瞬あっけにとられ、どうしていいか迷っているレミリアとさとりに声を掛けたのは、傍にいた従者でもなく。

 「行ってこいよ。こんな時ぐらい一緒に遊んだって、お天道様も何も言うめぇ」

 傍に寝転がってダレまくっていたどこぞの銀髪の甘党であった。
 そっちに視線を移してみれば、相変わらず気だるげな視線をどこかにと向けたままの銀時の姿がある。
 その視線の先を追ってみれば、なんてことはない。先ほどまで自分達が見ていた光景と同じだったことに行き着いて、少し憮然とした表情を作る。

 「わかってるよ。お前に言われるまでもなくね」

 そういい捨てて、レミリアは日傘を片手にパラソルの下から出てきて、未だに呼んでいる自分の妹のほうに歩み寄っていく。
 ソレにおくれまいと、少し小走りになったさとりが後に続く。
 そんな光景を視界に納めながら、銀時は小さくため息をこぼす。
 相変わらず容赦ない日差しは止むこともなく、じわじわと肌を焼いていく。そんな中で、再びビーチバレーを始めた神楽やフランたちを視界に納め、日傘片手に器用な奴らだなぁと思いながら、銀時は瞼を閉じる。

 「損な役回りね」
 「さぁな、存外そうでもねぇさ」

 あいも変わらず、感情の乏しい魔女の声に、銀時は特に変わった様子もなくそう答えた。

 「そう」

 その声に、わずかばかり満足そうな響きがあった。もっとも、パチュリーはそれ以上はいう事はないのか、持参したらしい本を読む作業に没頭し始める。
 そんな光景に、咲夜が少し微笑ましげな表情を浮かべると、フイッと自分の主人の居るであろう場所に視線を移す。
 妹に手を引かれて、しかし戸惑いながらもどこか楽しそうな主の姿。そんな、姉妹としてはどこにでもありそうな微笑ましい光景。
 見れば、あのさとりの方も、自分の妹に手を引かれ、どこか戸惑いながらもやはり嬉しそうであった。
 その光景を、咲夜はただ満足そうに眺め続ける。ずっと傍にいて、あの姉妹の問題を、色々知っている彼女だからこそ、その光景が本当に価値のあるものだと気付いてしまう。
 フランドールは、徐々にだが変わってきている。今までよろず屋にいて、一度も気が触れたように暴れたという事を聞かないのだから、ソレは間違いない。
 内心、不思議なものだと思うけれど、いいことなのだから深くは考えないようにした。
 そんな光景に見入っていた咲夜だったが、ふと気配を感じてそちらに視線を向ける。そこにいたのは、二人組みの青年だった。

 「よう、姉ちゃん。一人ィ? 俺達と遊ばない?」

 一瞬、その言葉にぽかんとしたものだったが、どうやらソレが自分に向けられているのだと知ると小さくため息を零す。
 彼らの死角になっているパラソルの向こうには、銀時とパチュリーがいるはずだが、おそらく我かんせずを貫くだろう。
 面倒ね。と、そんな気持ちを隠しもしないように鋭い視線を彼らに向ける。

 「生憎、私はあなた方に興味はありません。ですから、早々に立ち去っていただくとありがたいのですが?」
 「おいおい、いいのか。俺達はこの辺でも有名な暴走族、舞流独愚だぜ? そんなこと言ってると、江戸の町を歩けなくなっちゃうよぉ~?」

 いやらしい笑みを浮かべる目の前の男二人に、咲夜はまたため息を零す羽目となる。
 そもそも、咲夜にとっては彼らの言葉にも「だからどうした?」程度の感想しかわかない。これで脅しのつもりなのだとしたら、余りにも馬鹿げている。
 問題は、今手元にナイフがないことだが、だからといって咲夜が彼らに遅れをとることもあるまい。
 銀時もパチュリーも手を出さないで傍観しているのも、そもそも彼女が並みの、それもそこいらのチンピラ程度にどうにかできるはずもないことを知っているからだ。
 実際、幻想郷で彼らと同じ真似をするような命知らずは居るまい。
 さて、本格的にどう始末しようかと思考が傾きかけた頃、見知った面々がぞろぞろとこっちに歩み寄ってくる。
 その中の一人、ミスティアは明らかに迷惑そうな表情を浮かべ、男達に言葉を投げかけていた。

 「ちょっと、あんた達どきなさいよ。メイドだって迷惑してるじゃん。こっちはルーミア休ませなきゃいけないって言うのにさ」

 ミスティアの言うとおり、彼女の後ろには桂がぐったりとしたルーミアを背負って立っていた。
 元々、常闇の妖怪と呼ばれるだけあってルーミアは日の光に弱いのか、桂の背中で気だるそうに唸っていた。
 そんなことなど知ったことかといわんばかりに、男達はケッとつばを吐く。元から人相はよくなかったが、険しい表情を作りいらだたしげに言葉を紡ぎだす。

 「うるせぇんだよチビが! 邪魔だから向こう行ってろ!!」
 「何ですって!! そのゴーグルひん剥いて鳥目にしてやろうか人間っ!!」

 売り言葉に買い言葉とはよく言ったものだ。お互い罵倒を交えて今にも射殺さんばかりににらみ合っている。
 が、ここで彼らは失態を犯していた。いや、咲夜にナンパした時点で失敗以外のなんでもないのだが、ことさらに失敗を積み重ねていたことに彼らは気付かない。
 ポンッと、二人の男の肩に誰かの厳つい手が乗せられる。そして、後ろを振り返った彼らが見たものはというと……。

 「ハロォォォォウエヴリニュアン!」

 2メートルを越そうかという筋肉ムキムキの巨漢、黒髪オールバックの彼はご存知幻想郷でカフェを営んでいる店長だった。
 目にはビカァッと光が飛び出しそうな殺意と怒気が溢れんばかりに輝き、ぎょろりと男達を見下ろした。
 まぁ、要するに。彼らのもう一つの失敗というのは、彼の前でミスティアを罵倒したことだろう。

 「死を、くぅれてやる」

 そしてその報いといわんばかりに、二人の男を掴んだ店長は、静かに親指でビッと自らの喉を横にきった。 ぶっちゃけ死刑宣告である。

 「死ぬかぁっ! 消えるかぁ!! くたばるかぁっ!!? 土下座してでも生き延びるのかぁぁぁ!!」
 「ぎゃあぁぁぁぁ! ぐへぁ!! ぐぼぁ!!」
 「骨まで砕けろぉ!!」
 「ぐぎゃああぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
 「ひぃぃぃぃぃ!! け、携帯で総長を―――」
 「アイテムなんぞ使ってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 もはや阿鼻叫喚の地獄絵図。もともと妖怪も受け入れるカフェを営んでいる店長自身、万が一のことがあったときのために体は鍛えているのである。

 「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 そして気合一閃と言わんばかりに、店長はそのごつい両腕で二人の男を引っつかむと盛大に海に向かって投げ飛ばしたのであった。
 ザブーンと海に水没するチンピラ二人。
 しかも着地地点付近には不幸なことに風見幽香がいて、水没した二人は必死にもがく余り、あろうことかうっかり幽香のたわわなブツを掴んでしまったのである。
 幽香は二人の頭を鷲掴みにして引っつかむと、にっこりと笑みを浮かべたのであった。そりゃもう、見てる人間には寒気を覚えるような笑みを。
 「あぁ、あの人間死んだわね」とは、幽香とその友人の姉の傍にいて一部始終を眺めていた夢月の言葉である。

 遠くからは悲鳴が聞こえてきて、ソレを聞かなかったことにして銀時はレミリアたちに視線を向ける。
 何時の間にやらワラワラと人数が集まり、大人数でのビーチバレーに発展しているらしかった。
 その中に天子や紫、鈴仙の姿も見え、一体どんな勝負になるんだろうとある意味寒気を覚えそうなメンツばかり。その中に一人、ポツーンと新八がいるんだから、彼にとっちゃこれが今生の別れになるかもしれない。

 「平和ね」
 「あぁ、そうだなぁ」
 「……そーなのかぁ」

 ポツリと呟いたパチュリーの言葉に銀時が同意し、今先ほどパラソルの下に寝かされてぐったりとしているルーミアが、弱々しく言葉にする。

 「オメェもいってくりゃいい」
 「……うーん、そうね。……気分がよくなってからそうする」

 相変わらずぐったりとした様子のルーミアの言葉に、銀時は苦笑してもう一度目の前の楽しそうな光景に視線を向けた。
 そこでは器用にも日傘を持ったままのフランのスパイクが新八に直撃し、思いっきり吹っ飛んでいる光景が目に映る。
 皆は大爆笑し、新八は盛大にキレながら大声でツッコミをいれている。
 なんとも平和な光景に苦笑し、銀時はゆっくりと瞼を閉じる。たまには、こういう騒がしい中で横になっているのも悪くない。

 後に、海に住み着いた強面のえいりあんにみんなが遭遇し、また一騒動あったのだが、それはまた別の話である。





 ■あとがき■
 ども、白々燈です。皆さんいかがだったでしょうか?
 今回はまったくといっていいほど筆が進みませんでした……。あーでもないこーでもないと随分時間がかかった話ですね。
 海の話はもうちょっとどたばたした感じにしたかったんですが、書いているうちにあれよあれよと別路線に。
 今回は本当に反省点が多くなってしまいました。
 それでは、今回はこの辺で。

 ※誤字を修正しました。ご指摘、ありがとうございます。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第二十二話「教授のストロベリーな部屋探し」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2009/01/21 22:43






 うだるような猛暑続き。記録的な暑さをココ最近更新し続けているかぶき町のとある河川敷。
 そこに、真紅の髪のショートヘア、赤いマントなんて特長的な姿をした少女と、金髪ツインテールのセーラー服姿の少女がボーっとした様子で川を眺めていた。

 「……どうするんだよ、教授」

 金髪の少女、北白河ちゆりは疲れたように傍にいた少女に問いかける。
 教授と呼ばれた少女、岡崎夢美は困ったように「うーん」と考え込んだような声を漏らし、しばらくしてから小さくため息をついて言葉を紡ぐ。

 「しばらく、こっちで暮らすしかないでしょうね」

 その返答はやっぱり予想できたのか、ちゆりは「うへぇ」と心底嫌そうな表情をして舌を出す。
 そんな彼女の頭に、夢美の拳骨がゴンッと直撃して、その衝撃で舌を噛む羽目になったちゆりはゴロゴロと転げまわった。

 「そんな嫌そうな顔をしない。仕方ないじゃない、船が壊れた上に警察に持っていかれちゃったんだから」

 彼女達が表現する船というのは、無論ながらただの船などではない。それも海上船や宇宙船などでもなく、あらゆる可能性を超えて移動できる並行世界を移動する船だ。
 その船が、この世界に着いた途端、あろうことか故障してしまったのである。しかも、出た場所がまた運悪く、この世界の警察の屯所の前だったためにあえなく危険物として没収されてしまったのである。
 まぁ、壊れ方にも問題があったせいで、どの道廃棄するしかなかっただろうが、丸ごと全部持っていかれたのは実に手痛い。
 使える破片なら数多くあっただろうが、残念ながらそれも没収されたので一から船を造り直さなくてはいけないだろう。
 一体何時までかかることやら。そんな思いがため息になって夢美の口からこぼれ出る。
 船を造る目処もつかず、おまけに懐に入っている金額は雀の涙。どうやら通貨は同じらしいことは幸いだった。

 「……とりあえず、当面の家を探さないと」

 岡崎夢美、18歳。教授という肩書きを持っていても、やっぱり歳相応の少女なのである。何度も何度も野宿するのは勘弁したかった。


















 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第二十二話「教授のストロベリーな部屋探し」■



















 「なぁ、教授。どこに行くんだよ?」

 かぶき町の人通りの多い街中を歩く二人。ちゆりはどこに向かっているのか判らず、半ば不安げな声を上げて夢美に問いかける。
 一方の夢美は視線をちゆりに向けないまま、淡々とした様子で言葉を紡ぎ始めた。

 「昨日、親切な銀髪のお兄さんに教えてもらったんだけどね。このかぶき町には、かぶき町の救世主と呼ばれている人がいるそうよ。
 その人はどんな人にも偏見せずに部屋を貸し与えてくれることで有名で、私たちのような訳ありの人にも快く部屋を貸してくれるって話」
 「教授、なんかもうスゲェ胡散臭いんだけど」

 夢美の説明にも、ちゆりの言葉は実に単純明快かつわかりやすい返答だった。
 というか、夢美の説明では自分達がまるで犯罪者のような物言いなのでちょっぴり傷ついたり。確かに訳ありには違いないが。
 というかそれ以前の話、今の所持金で果たして部屋など借りれるのだろうか?

 「何してるの、ちゆり。早く入るわよ」
 「へーへー、わかりましたよ」

 まぁもっとも、そんなことを言ってこの教授が考えを変えるとは露ほどにも思ってないので、ちゆりは何も言わずに彼女に従い、一件の不動産屋の中に入っていく。
 多少ボロボロな感はあるが、ちゃんと店としては機能しているらしく、客が来たと判ると店の奥座敷から一人の爺さんが姿を現した。

 「いらっしゃい。私、不動三蔵と申します。今日はどういったご用件ですかねぇ?」

 なんかいきなり不安になった。何が不安って、その人として安直過ぎる名前あたりが既に不安である。
 なんだよ、不動産経営してるから不動三蔵とか。親の顔が見てみてぇよ、などと一人心の中でツッコミを入れていたちゆりだったが、一方の夢美はというと早速部屋を探して欲しいと遠慮なく依頼したのである。

 「部屋を探してもらいたいのよ。お金はこれだけなんだけど……できれば広い部屋がいいわ」
 「教授ー、そりゃいくらなんでも虫が良すぎるだろ……」

 ちゆりの言葉もごもっともだ。夢美もそれは判っているのか、「あ、やっぱり?」なんて照れくさそうに苦笑した。
 実際、言ってみたものの夢美もそこまで期待しているわけではない。あればいいなー程度の淡い願望でしかないのだが、やっぱり部屋は広いほうがいい。
 まぁ、だからといって無理強いをするわけにもいかない。無いならないであっさりと諦めるつもりではあったのだ。あったのだけど。

 「あー、ありますよ」
 『うそぉ!!?』

 帰ってきたのは恐ろしくあっさりとした爺さんの言葉だったのであった。
























 不動三蔵に案内され、たどり着いた場所はどう控えめに見ても高級マンションの類であった。
 その豪華さに目を丸くすることしか出来ない夢美とちゆりをよそに、不動産の爺は遠慮無しにそのマンションに入っていったので、二人も慌てて後を追う。

 「いやー、お客さんたちは運がいい。ここはウチでも指折りの物件でしてね、丁度一部屋空きがあるんですよ」
 「いや、それはわかったけど……自分で言い出しといてなんだけど、本当に大丈夫なの?」

 いつも強気で余裕の態度を崩すことが少ない夢美が、えらく下手になって爺に言葉をかける。
 そりゃそうだろう。仮にこんなところに棲むことになったとしても、今の手持ちで果たして家賃だって払えるかどうか……。いや、ドキッパリと無理だろう。
 エレベーターに乗り、そんな夢美たちの不安を察したのか、爺は落ち着かせるように言葉を続けた。

 「確かに、ココは本来値の張る物件ですけどね、以前住んでいた人は逃げ出して、その前に住んでた人は蒸発しちゃってましてねぇ。
 家具も何もかもがそのまんまなんで、それさえ処分していただけるなら月の家賃は5千円で結構です」
 『5千円!!?』

 破格も破格。破格過ぎるそのお値段に夢美は「いやっほい!!」なんて喜びそうな表情を浮かべ、対してちゆりはというと明らかに不安げな表情を浮かべた。
 だって、おかしい。もといた世界でもそうだが、こういった高そうな物件が極端に安かったりすると、そこは大抵が『いわくつき』の物件なのは世の常だ。
 そういったことを考えれば、露骨に怪しすぎる。
 どうしてこの人はこう、露骨に怪しいのに喜べるんだろうとか思ったちゆりだが、よくよく考えればこの夢美という少女、物理学者でありオカルトマニアでもあったりするのだ。
 「あー、そうだった」と実に嫌なことを思い出したというように納得したちゆりは、腹を括ることにした。
 こうなればどんな部屋が来ても我慢するしかない。おそらく、この教授は即決するだろうし。
 やがて、エレベーターは目的の階に着き、二人は不動産の爺の後に続いて歩いていく。
 しばらく歩いていくと、ある部屋の前で爺が止まり、合鍵を取り出してドアを開ける。
 いよいよだ。と、ちゆりははぁーっと深呼吸を一つついて、気持ちを落ち着かせる。これで何があっても大丈夫だ。まさか幻想郷以上に常識ハズレな事態は起こるまい。
 そう覚悟して、その覚悟と同時にドアが開く。


 そして、彼女は知った。覚悟していたって、どうしようもない時はどうしようもないんだなぁっと。


 簡潔に言おう。そこはどう見ても殺害現場跡でした。
 壁も床も窓もどこもかしこも血で汚れていない場所は無く、オマケにカーテン辺りにはどう見たってダイイングメッセージとしか思えない「ノボル」とかいう文字まである始末。
 覚悟はしていた。していたけれども、正直、これは無いわ。

 「どうでしょう? 色々とそちらで負担していただければ、さっきのお値段で結構ですよ」
 「何がだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 スパコォォォン!! と、小気味のいい音が響いてちゆりの持っていたスリッパによる怒りの一閃が爺の顔面に見事クリーンヒットした。

 「テメェ爺、どんなとこ紹介してんだよ!? 負担って何!? 犯罪の片棒の負担んんんんん!!?」
 「おぉ、見事なツッコミです。以前逃げてったお客さんも同じツッコミをなさってましたよ」
 「ふてぶてしいよっ!!? 前もこのままの状態でこの部屋紹介したの!!?」

 頭が痛い、などというレベルではない。よもや殺害現場をそのまま残しているとか誰が想像できるだろう?
 酷い。酷いにもほどがある。パイプ椅子でぶん殴らなかっただけまだ我慢したほうだと思う。
 そんな中、夢美はというと特にその惨状を気にした風も無く部屋の中に入っていく。

 「ふーん、悪くないかなぁ。お爺さん、ここにするわ」
 「教授ぅぅぅぅぅぅ!?」

 四面楚歌とはこのことか。彼女の上司とも言えなくもない夢美は、どうやらココを気に入ったらしく、この部屋に住むことにしたらしかった。
 冗談ではない。こんな明らかに殺害現場でしたみたいな部屋に住めるほど、ちゆりの精神は図太くはないのである。

 「どうしたのよ? いいじゃない、この部屋。広いし、お風呂場もキッチンもあるし。ちょっと汚れてるけど掃除すれば大丈夫よ」
 「教授、現実を見てくれよ! ちょっとどころじゃないよ!? これどう考えても殺害現場じゃないか!?」
 「もう、ちゆりってば怖がりねぇ。これはきっとアレよ、イチゴ大好きな前の前の住人がはっちゃけてストロベリー投げ祭りをしていたのよ」
 「ありえないよ!! 室内でそんな意味のわかんないイベントするわけないし、この赤いの明らかに血の跡だって!!?」
 「まぁまぁ、おちついて。ほら、よく見て御覧なさい。なんかでそうじゃない、ここ。幽霊とか」
 「わかってるじゃんか!? 教授だってもうわかってるじゃん!!? ここが殺害現場跡だってさぁ!!?」

 暖簾に腕押しとはこのことか。ちゆりがいくら言っても聞く耳持たない夢美。
 その目はなんというか夢みる乙女の目のごとく、光り輝いていたような気さえする。
 それで悟った。もう退路は無い。この人がこういう目をしたときは、何を言っても聞かないんだっていう事を経験上よく知っていた。
 そして案の定、夢美は不動産の爺に話をして、彼の取り出した契約書らしき紙にサインしている。
 どこがかぶき町の救世主だよ、と、内心悪態をつきながら、ちゆりはため息をつく。もう決まってしまったことは仕方ないので、もう何も言わないが。
 犬小屋なんかを紹介されるよりはよっぽどマシだろう。何でそう思ってしまったのかはちょっと謎だけど。
 やがて爺が帰っていき、この気味の悪い部屋に夢美とちゆりだけになる。

 「さって、早く綺麗にしましょうか」

 にっこりと笑みを浮かべ、早速雑巾を探し始める夢美。とりあえず、リビングのものは全部捨てなくてはなるまい。その事を考えると憂鬱になりそうだが、目の前の物理学者は実に楽しそうだった。
 それ以前に、こんな部屋で過ごして超常現象なんかに見舞われないだろうかと不安になるのだが、その気持ちを察したのか、夢美はちゆりに振り返って笑みを浮かべる。

 「大丈夫よ、ちゆり。あなたは私が守ってあげるわ」

 やけに自信満々で、その根拠は一体どこから来るんだろうと思わなくも無い。ただ、不思議とその声を聞くと安心するのだ。
 そんな自分を自覚して、ちゆりは「あぁ、現金だなぁ。私って」と小さく呟いて無理やり不敵な笑みを浮かべて見せた。

 「生憎だな教授。私だって、自分の身ぐらい自分で守れるさ」
 「あら、無理しなくていいのよ?」
 「無理なんてしてない」
 「してるわよ」
 「してない」

 ニッとお互いに笑いあいながら、我先にと部屋の片づけを開始する二人。
 これからの生活費やら、仕事やらを探すのは実に大変だが、それも二人で何とかできるだろうと思う。
 いつ帰れるかも未定。そもそも、生きている間に帰れるのかも判らない。
 それでも、二人でなら生きていける。それだけは、お互いなんとなく感じていたのだ。
 教授とその助手なんて上下関係のある二人ではなく、今そこにいるのは、お互いを信頼しあった仲のいい少女二人なのだから。

 そんな空気をぶち壊すかのように、ザザッと、歪なノイズの音が突然室内に鳴り響いた。

 その発信源はラジオからだった。恨みがましく、怨念のこもった声が脳裏にこびりつくようにこだまする。
 たまらず、ちゆりが耳を押さえるものの、その声の音量はかわることは無く、まるで耳元で聞こえているかのような錯覚を覚えた。
 恐怖が体を支配する。まさかこうも早くこんな事態に見舞われるなど、どうして想像が出来よう。
 そんな彼女を支えたのは、他でもない夢美だった。心配そうに何かを叫んでいるものの、不思議なもので、そちらの声がまったく聞こえないのだ。
 殺せ、殺せと、耳元で何かが恨みがましく囁き続ける。その気持ち悪さに酸っぱいものがこみ上げてきそうになって、思わず膝を突いて口を押さえてしまう。
 そんなちゆりの姿を見て、夢美は険しい顔をしたまま発信源を睨みつけ、そちらのほうに歩み寄っていく。

 「教授……っ!?」

 止めようとしても、自分の声がそれ以上出てくれなかった。
 いや果たして自分が止めたぐらいで、彼女は止まってくれただろうか?
 第一、いまのこれは正体がわからない。幻想郷の幽霊たちみたいに見えるわけじゃないのだ。
 だが、彼女は物理学者にしてオカルトマニアな一面も持っている。もしかしたら、除霊ぐらいはできるのかもしれない。
 一体どうするつもりなんだ、教授!? と、言葉にしようとした刹那。

 「せいやっ!!」

 ドガシャーン!! っと、盛大に苺クロスを鈍器に見立てて振り下ろし、ラジオを粉々に粉砕したのであった。
 途端、ピタッとあの声も聞こえなくなり、吐き気もすっかり引いていく。
 今までの体の不調が嘘のように回復していき、立ち上がる分にも支障はなさそうだった。
 しかし、ちゆりは立つことが出来なかった。というより。立つという事を一瞬忘れてしまっていたのだ。
 ちょっとばかしの沈黙の後、夢美が手でVサインを作り、「はい、解決したわ」なんてノリノリで言っておられた。
 1、2、3、と何秒間か経過した後。

 「力技で解決しやがったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 そりゃ幾らなんでもあんまりだ!!? といわんばかりのちゆりの絶叫が、このマンションの中に響き渡ったのであった。




















 その日の夜、あの後オカルトじみたことは一切起こらず、結局はアレでとりあえずは解決したらしい。
 ちゆりは未だに納得がいかないのか、微妙な顔をしたままだったものの、夢美にはその理由にイマイチ心当たりが無かった。
 夢美はというと、その日はアレから始終上機嫌であった。もともと、安い理由がちょっとアレだが、だからといって物理学者やオカルトマニアはこんなことで引く気はない。
 というより、むしろ大歓迎な部屋だったりもするのだが、それを言うとちゆりに睨まれるのであえて言わない。
 部屋の掃除も終わり、今では綺麗な一室に早代わり。それで少しは落ち着けたのか、ちゆりは疲れきった様子で新しく買って来たソファーに横になった。
 そしてその隙を見て、夢美は屋台に足を運んでいた。そこには案の定、今日、あの不動産を紹介してくれた銀髪の男性の姿がある。

 「こんばんわ、銀さん」
 「あぁ、アンタか」

 彼が返事したのを確認して、夢美は彼の隣に座る。それからおでんをいくつか注文すると、改めて頭を下げてお礼を述べた。

 「今日は本当に助かったわ。おかげで、いい部屋に住めた」
 「そうかい。そりゃよかった」
 「えぇ、本当によかったわ。高級マンションが月々の家賃五千円なんて、本当にありがたいもの」

 ピタッと、夢美から飛び出したその単語に銀時が思わず硬直する。
 彼の思考の中によぎっているマンションこそ、今現在、夢美たちが新居として手に入れたマンションに違いないのだ。
 途端、あそこの不動産を紹介した罪悪感に捕らわれるものの、銀時の表情を見て察したらしい夢美が「大丈夫」といったので、とりあえずは気にしないようにした。

 「私ね、物理学者でもあると同時にオカルトマニアでもあるのよ。だから、あそこに棲むことには何の異論も無いの」
 「おーい、いいのかぁ、そんなんで?」
 「いいのよ。それにもう、幽霊のことならとりあえず解決したし」

 まぁ、力技だったけどね。と口にして、夢美は屋台のオヤジが出したおでんを箸でつつく。
 幽霊を力技で撃退とはこれいかに? そんな疑問も浮かんでいた銀時だったが、「まぁいいか」と適当に納得して焼酎を煽る。
 何しろ、最近の彼の住居に居候しているメンバーは、ドイツもコイツも幽霊ぐらいなら物理的に滅ぼせそうなメンツばかりだし。

 「ま、何か困ったことがあったらウチに来な。よろず屋銀ちゃんが、万事解決してやッからよ」
 「あら、頼もしいわね」

 お互いに苦笑して、夢美はおでんを口にし、銀時は焼酎を煽る。
 こうして、新しいつながりが出来るのも悪くないかな? と、そんなことを思いながら、夢美は苦笑して今はいけないであろう、幻想郷に住む巫女のことを思い浮かべた。
















 「うーん、うーん。苺が、苺がおそってくるぅぅぅぅ!!?」

 一歩その頃、部屋で寝ていたちゆりが微妙な悪夢に苛まれていたりするが、それはこの際置いておこう。


 ■あとがき■
 今回は早く書きあがったので早速投稿してみます。
 ちょっと短いですけど、皆さんいかがだったでしょうか?
 今回は夢美&ちゆりの銀魂ワールド移住。その際、不動産の話とくっつけてこんな感じに。
 ちょっとオリジナリティが足りなかったと反省する場面も多いです。うーん、困った。
 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第二十三話「変装は人のセンスによって決まるもんだって本に書いてあった気がする」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2009/01/21 22:38










 「全部で2500円だね」
 「わかった。ちょっと待っててよ」

 かぶき町の一角にある書店にて、一人の少女が本を買うために自分のスカートのポケットをゴソゴソと弄っている。
 真ん中と両サイドに藤色のメッシュが入った銀髪のショートヘアー、黒を基調とした衣類に身を包み、その背には朱色の鮮やかな羽が備わっていた。
 その姿を見れば、このかぶき町に住まう人々は皆、彼女を天人(あまんと)と判断するだろう。
 だがしかし、その認識は大きな間違いである。彼女は正真正銘、人を襲い、攫い、喰らう類の化生、妖怪なのだから。
 まぁ、そんな彼女の趣味は読書であり、本来の住処でもある幻想郷からこうやって此方の世界に来て本を買いあさることもしばしばだ。
 幸い、お金は友人の仕事を手伝うと手に入ることが多いので、そういった意味では昔よりは充実していると思う。
 せっかく見つけた本を、あの博麗の巫女に奪われたのは今でも苦い思い出である。

 「にぃ、しぃ……ご、っと。はい、2500円」
 「はいよ、毎度あり」

 きっちりと代金を払い、名無しの妖怪の少女は機嫌よさ気に紙の袋に詰められた本を抱きかかえる。
 名無しの妖怪、それでは不便なので、彼女と仲のいい友人達は皆、少女のことを朱鷺子と呼んだ。
 朱鷺子は上機嫌な様子で、ご満悦といった表情を浮かべていた。
 今にも歌を口ずさみそうな彼女は、軽快な足取りで本屋を後にするとまっすぐに帰路につく。
 その途中、見知った人物がこっちに歩いてくるのが見えて、彼女は思わず足を止めてしまう。
 見知った顔ではある。見知った顔ではあるが、いつもと格好が違うので朱鷺子は思わず怪訝な表情を浮かべることとなった。
 どこぞのエリートの証のように赤い軍服っぽい服に身を纏い、青い髪は七三分けのような髪型だ。だがしかし、青い髪の所々からは、彼の特徴である黒のロン毛がはみ出している。
 えらくシュールな光景である。というより、むしろ間抜けとしか言い様が無かった。

 「……何してんの、ヅラ?」
 「ヅラじゃない。カツラン・ズラだ」

 朱鷺子の問いに自信満々に答えるカツラン・ズラこと桂小太郎。
 とにもかくにも、某人気キャラに全力で謝れ!! と、朱鷺子の拳が桂の顔面を捉えたのはこの後すぐのことであった。










 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第二十三話「変装は人のセンスによって決まるもんだって本に書いてあった気がする」■










 「大体さー、何であんたこっちに来てんのよ桂」
 「桂じゃない。カツラン・ズラだ」
 「いや、だからそれは絶対に止めたほうがいいと思うんだけど」

 かぶき町の大通りを二人並んで、そんな話をしながら歩いていく。
 桂の顔面には見事な青痣が残っており、それは無論のこと、冒頭の朱鷺子の一撃によるものであることは想像するに難くない。
 そんなやり取りをしながら、朱鷺子ははぁ……と小さくため息を零す。
 なんでも変装のつもりらしいのだが、変装になってない。これじゃむしろ下手なコスプレイヤーである。

 「じゃあさ、カツラン。なんでアンタこっちにいるの?」
 「カツランじゃない、桂だぁぁぁぁ!!」
 「アンタ自分の正体隠す気あんのかぁぁぁぁ!!?」

 と、ここで朱鷺子怒りのアッパーカットが見事に炸裂。桂のあごが跳ね上がり、その衝撃で青い髪のカツラがものの見事にすっ飛んでいく。
 余りの威力に桂の体は浮き上がり、ギュルンギュルンと盛大に回転しながら地面に激しく叩きつけられ、「ぐぼぉ!?」とかなんとか奇妙な悲鳴があがることとなった。
 見た目こそ可愛らしいイメージが先行する朱鷺子だが、曲がりなりにも妖怪であることには変わりない。その力は一般の人間なんかよりもよっぽど強いのである。
 まぁ、そんな彼女の一撃を受けてわりと平然と立ち上がった桂も、そろそろ人間かどうかも疑わしい領域に届きそうな感じではあるが。

 「隠すも何も、俺はやましい事や恥じるような行いをしたことは断じてない」
 「じゃあ何で変装なんてしてるの! 素の格好のまま出歩けばいいじゃない!!」
 「それは、アレだ。俺は此方では指名手配犯でな」
 「やましい事あるじゃないの! 張り倒すよ!!?」

 怒りを隠そうともしないまま朱鷺子が全力でツッコミを入れるものの、桂はそれを特に気にした風も無い。
 そろそろ本気で頭が痛くなってきた朱鷺子だったが、残念ながら行き先が途中まで一緒らしく、この辺の地理を詳しく知るわけでもないので別の道から帰るという手段も使えない。
 疲れたように深いため息を一つつき、彼女は内心で早く別れないかなぁと思っていると、向こうの通りからこれまた奇妙な姿の何かが近づいてきた。
 それはなんというか、白い布のお化けに茶髪のカツラと白い軍服チックな服を着せた、と表現するのが正しいのだろうか? それは遠慮なく桂と朱鷺子に歩み寄ってくる。

 [ただいま]
 「おぉ! 似合っているぞエリザベス……いや、キラ・ザベス―――」
 「アウトォォォォォォォ!!!!」

 もはやある種の冒涜に近い変装に、またもや朱鷺子のツッコミが炸裂する。
 紙袋に包まれた本を大きく振りかぶるオーバーアクション。動作に無駄が多く、隙のでかさはぴか一だが、その分勢いは加算されダメージは大きく跳ね上がるのだ。
 そんな一撃が桂のこめかみに突き刺さる。それも、ご丁寧に本の角というオマケつき。痛いなんてものじゃない、リアルに死ねる一撃が等しくツッコミとして桂を襲う。
 さて、その衝撃音の壮絶さは、はたしてなんと表現すればいいのか。生易しい音ではないそれは、例えるなら岩と岩を同時に叩きつけた時に発生する音によく似ているだろうか。
 これが普通の女の子の一撃だったなら、幾多の戦いを潜り抜けてきた桂なら容易に回避しただろう。
 だがしかし、残念なことに朱鷺子は見た目こそ女の子だが正真正銘の妖怪。
 目に見えて判るようなオーバーアクションであったとしても、振りかぶった後から真横に振りぬくという一連の動作の間隔が恐ろしいほどに短いのである。
 結果、桂はまともに悲鳴を上げることも出来ぬまま盛大に吹っ飛び、ズッタンバッタンと面白いように顔面で地面を跳ねながら、ゴミ置き場に見事にストライクしたのであった。
 周りの通行人がポカンとしたリアクションしか取れない中、桂にツッコミをいれたことで少し落ち着いたのか、朱鷺子はこめかみを指で押さえながら盛大にため息をつく。
 慌てたように桂に走りよるエリザベスを目で追いながら、あらためて桂のほうに視線を向けると、流石に「やりすぎたかな?」と今更のように罪悪感がわいてきてしまう。
 今度からもうちょっと手加減しよう、と心に誓った朱鷺子の肩を、ぽんぽんと誰かが叩いた。

 「ちょいとお嬢ちゃん聞きてぇ事あるんだけど、ここいらで長い髪をしたヤロウを見かけなかったかぃ?」

 振り向いてそちらを見やれば、そこにいたのは同じ服装をした何人かの人間達。その一人、沖田総悟は彼女にそんな質問を投げかける。
 見かけなかったかも何も、今先ほどばっちりそのロン毛野郎をぶん殴ってストライクさせたところなのだが、正直、これ以上面倒なことには関わりたくないので首を横に振ることにした。

 「ふーん、まぁ見てねぇんじゃしょうがねぇ。見かけたら、真選組の屯所にでも連絡してくんなせぇ。ところでその袋の中身何? エロ本?」
 「違うっ!! 仮にもそれが女に言う台詞か!!?」

 果たして、その朱鷺子のツッコミを聞いていたのか聞いていなかったのやら、沖田は後ろにいた部下に指示を飛ばすとさっさと立ち去っていった。
 なんでこう、自分の周りには常識という概念をポロッと置き去りにしてしまったような奴らばかりなんだろうかと本気で頭を抱えたくなる。
 巫女とか、ロン毛とか、M忍者とか、さっきのS王子とか。

 「よもや真選組がこのような場所にいようとはな。手荒ではあったが、これを察しての行動であったか。礼を言うぞ、朱鷺子殿」

 ……OK、落ち着こうか私。その声を聞いたとたん、朱鷺子は自然とそんなことを思った。
 いくらなんでもありえない。どれだけあのロン毛が頑丈だからって、こんなに復活が早いのはおかしすぎる。これじゃ本当に下手な妖怪とタメを張れそうな復活速度ではないか。
 だって、先ほどの一撃はうっかり手加減しそこねた一撃なのだ。下手すりゃ死んでる。
 とりあえず、落ち着こう。冷静になろう。クールになれ、朱鷺子。まさか化けて出たわけでもあるまいに。

 「いや、それは買い被りだって。私はただ関わりたくなか―――っ!?」

 気持ちを落ち着け、桂の言葉に答えながら振り返った朱鷺子が見たものは、なんと言うか奇妙な物体だった。
 人の頭を数倍に膨れさせたようなえらくブサイクな造形に、その表情は人を見下しているようで妙に腹立たしい。
 つまるところ、遊園地なんかでよく見るキャラクターのきぐるみの頭部に似た何かをかぶった桂が腕を組んで、今まさに朱鷺子の眼前に佇んでいた。

 「……ヅラ、なにそれ?」
 「わからん。先ほどゴミ置き場に盛大に飛ばされたときにかぶってしまってな、真選組もいたことだし、しばらくこれをかぶっておこうと……」
 「イヤイヤイヤ、ちょっと待とうよ。いくらなんでもそれは無いって」

 桂の返答にパタパタと首を横に振る。これを変装に使うなんてそれこそ狂気の沙汰だ。
 こんなものをかぶって街中を歩こうものなら問答無用で目立つし、それに何より、どう控えめに見てもただの不審者である。
 というより、そんなものをかぶってる人間となんて一緒に歩きたくないだろう。

 「まぁ、いいではないか朱鷺子殿。ところで、手を引いてはくれぬだろうか。このかぶり物、前が見えんのだ」
 「はずせっ!!」

 にべも無かった。問答無用のツッコミに満足したか、朱鷺子はもう構ってられるかと足早に歩き出した。
 正直、買った本を早く見てみたかったし、桂の相手をするのも疲れる。
 結局、朱鷺子は一度も振り返ることも無いまま歩き去って言った。その後、エリザベスに手を引かれていった桂が何をしていたのかも知らずに。



















 幻想郷の夜、それは妖怪たちの時間であることを意味し、それはさながら多くの妖怪たちが活気付く時間帯。
 その中でも一際深い丑三つ時、彼女―――朱鷺子は上機嫌に、街道にひっそりとやっている屋台の暖簾をくぐった。

 「みすちー、やってるー?」
 「いらっしゃい……っと、朱鷺子じゃん」

 気心の知れた仲、とはよく言ったものだ。同じ鳥妖怪という事もあってか、ミスティアと朱鷺子はそれなりに仲がいい。
 席を見渡せば、他にも何人か先客の姿が見える。
 もっとも、そのうちの一人は、完璧に酔いつぶれて「あ~、うぁ~」とか顔を真っ赤にして唸っているけど。

 「あ、朱鷺子さん。お久しぶりです」
 「ん、久しぶりねー。だいちゃんも、ついでにチルノもさー」

 その酔いつぶれている人物、否、妖精の背を優しく擦っているのは、黄緑のサイドポニーの髪形をした少女だった。
 名無しの大妖精。そのせいか、皆して彼女のことを「大ちゃん」などと呼ぶ。そして、その大妖精に背中を擦られているのは、酔いつぶれたらしいチルノであった。
 そんな微笑ましい姿に苦笑し、朱鷺子はあらためて長椅子に腰掛ける。

 「いつものねー」
 「あいよー、ちょいとお待ちねー♪」

 軽快に歌に乗せながら、ミスティアは注文を受けて調理にかかる。
 もっとも、基本的には八目鰻の蒲焼と焼酎を用意するだけなので、そう時間もかからないだろう。
 コトンッと、焼酎とコップが置かれる。相変わらず仕事が速い。
 朱鷺子は今、それなりに機嫌がよかった。目的の本が手に入ったし、内容にも満足していた。
 元々、読むこと自体が趣味のようなものなので、内容など二の次なのだが、だからといって下手なものを読むより、面白いものを呼んだほうがイイに決まっている。

 「ミスティア殿、まだやっているだろうか?」

 と、ここで昼間の珍事を思い出させるような声が響いたもんだから、途端、朱鷺子の上機嫌な気分がものの見事に霧散した。
 何故って? 彼と関わると大抵、ろくな目にあわないことが多いからである。

 「まだやってますよ、桂さ―――ッ!?」

 人のいい大妖精がその声の主、桂に返答しようとするが、その声が不意に止まった。
 不思議なことに、目の前のミスティアもぽかんとした様子で朱鷺子の隣に視線を向けたまま硬直している。
 もっとも、器用なことに八目鰻を捌く腕だけは忙しく動いたままだったが。
 一体どうしたことか? 流石に二人の反応が変なので、不本意ながらそちらのほうに振り向いてみることにする。
 先に出されていた焼酎を一口にし、憂鬱気にそちらに視線を移してみると―――

 「ブフゥッ!!?」

 不気味スマイルを浮かべた巨大な顔がそこにあったもんだから、朱鷺子は盛大に酒を噴出してしまったのであった。

 「おお!! どうした朱鷺子殿、行儀が悪いぞ」
 「やかましいわよ! というかアンタ、まだそれかぶってたの!!?」

 それは、昼間にちょっとした事件の際に頭にすっぽりとかぶってしまったきぐるみの頭部。
 あれから随分と立つというのに、桂は今もまだそれをかぶったままだったのである。

 「いや実はな、あれから外そうと試みたのだが、これがすっぽりはまっているらしくて外れんのだ」
 「何!? その間抜けすぎる恥ずかしいカミングアウト!!?」

 本気で頭が痛くなってくる。どうしてこう、コイツと相対すると冷静でいられなくなるのかと、朱鷺子は深いため息をつく。
 それもそのはずで、元々朱鷺子は気の短いほうなのだから、仕方がないといえばそうなのかもしれない。

 「大体さー、アンタ昼間どこに行ってたのよ。真選組……だったっけ? アレに追われてるみたいだったけど」
 「なるほどねぇ、そういえばヅラはゴリラ達とは仲が悪いみたいだったからねぇ」

 ケタケタと可笑しそうに笑いながら、ミスティアが朱鷺子の言葉に納得したように声をこぼす。
 当の桂はというと、かぶりもののせいで表情がまったくといっていいほど読み取ることは出来なかったが、小さくため息をこぼす音が聞こえた。

 「生憎、奴等とは色々と因縁があってな。今更、仲良くは出来んさ。昼間、同士と国の行く末のために話し合う会議でも奴等は無遠慮にあがりこんでも来るしな」
 「国の行く末……、ねぇ。私が聞いてもイマイチパッとしないんだけど、ヅラって本当に何者なわけ?」

 桂の言葉を聞きながら、そんな返答をしたのは朱鷺子。焼酎を片手に小さくため息をこぼし、それを煽ると、気だるげな視線を彼に向ける。
 相変わらずかぶりもののせいで表情はわからないが、桂は特に隠す気も無いのか、淡々と言葉を紡いでいく。

 「攘夷志士、と言ってもわからぬか。かつて、江戸に現れた天人(あまんと)たちを排斥しようとした戦争に参加した侍達、あるいは、今の天人(あまんと)が牛耳る幕府を快く思わぬ者達の集まりだ。
 俺もその中の一人。かつては、爆弾を使ったテロも行ったことすらもある」
 「か、桂さんが……ですか?」

 普段の彼の様子からは想像できないのか、大妖精が驚いたような声を漏らす。
 確かに、幻想郷での普段の桂といえばカフェでバイトをしているか、もしくはミスティアの屋台で飲んでいるか、とそんなものだったからだ。
 だが、そんな桂も元の世界に戻れば有名すぎるといっても過言ではない。聞いたことなど無い、などという人物は、それこそほとんどいないだろう。

 「あぁ、だが今は違う。最近では、そんな昔の俺を恥じることも多い。当時の俺は、国を救うと謳っておきながら、今を生きる人々のことを何も考えていなかった。
 ……だが、それでは駄目なんだ。俺達が出来ることは、そう多くはないやも知れぬ。それでも、今の幕府を、国を内側から変えていくことぐらいは……できるはずだ」

 その声に嘘の色はかけらもなく、ただ淡々と、まるで誓いのように紡がれていく言葉。
 それはミスティアも、大妖精も、そして朱鷺子も、初めて聞く桂の声の色。少なくとも、ここまでまじめな様子の言葉を聞いたのは初めてだっただろう。

 (ふぅん)

 知らず、朱鷺子は心の中で相槌を打つ。
 いつもはつかみ所が無くて、いざ話してみればムカッと来るときもあるし、ド天然で、奇妙な生物を連れてる変人で、でも―――

 (ただの馬鹿じゃ、ない……か)

 そう、ただの馬鹿なんかじゃ、決して無かったのだ。
 今までそれなりに顔をあわせることが多かった朱鷺子だったが、今初めて、桂という人物が少しだけ理解できた気がした。

 「私は、そういうのよくわかんないけどさ……まぁ、応援ぐらいはしてあげるわ」

 だから、それだけを言葉にして、またコップを口につける。
 正直、朱鷺子には国がどうのとか天人(あまんと)がどうのとかよくわからない。というよりもむしろ、ぶっちゃけどうでもいい。
 でも、応援ぐらいなら別にしてあげてもいいんじゃないかって、そう思うのだ。

 「そうだな、ありがとう」
 「どういたしまして。じゃ、そのお礼といっちゃ何だけど、今度なにか本をよろしく」

 苦笑しながら紡がれたらしい言葉に、朱鷺子はクックッと意地の悪い笑みを浮かべながら、そんな言葉を紡ぎだす。
 そんな様子に、ミスティアも大妖精もクスクスと笑みを浮かべ、また陽気な雰囲気が漂ってくる。
 「抜け目が無いな、君は」という、苦笑交じりの言葉も今は気になりもしない。
 湿っぽい話はこれまで。後は飲んで楽しくなればいい―――

 「ところで頼みがあるんだが……、このお面誰かとってくれまいか? そろそろ……酸素、が」
 『って、うぉぉぉぉぉぉい!!?』

 筈だったのだが、いきなり呼吸が怪しくなり始めた桂のそんな一言に、思わずミスティアと朱鷺子が素っ頓狂な声を上げる羽目になってしまった。
 よくよく考えればそれも当然か。これがズッポリとはまってしまったのが昼ごろ。それからずっとつけっぱなしだったという事を考えれば、中身がどうなっているかなど考えるまでも無い。
 要するに、中身は酸素がほとんどなく、ほぼ二酸化炭素状態であることは想像するに難くねぇのである。

 「だ、大丈夫ですか桂さん!!?」
 「お、俺は……もう、駄目のようだ。後は、頼んだ……」

 大妖精がその献身振りを発揮して、慌てた様子で桂に近づき声を掛けるが、残念ながら帰ってきたのはそんな言葉で、「ガクリ」と声に出して桂はとうとうぶっ倒れたのであった。
 まぁ、時間を考えれば無理も無い話ではあるのだが。




 その後、朱鷺子と大妖精とで永遠亭に運ぶ羽目となり、桂は無事に命を取り留めた。
 その救助方法というのは、因幡てゐが木槌を持ち出し「少林寺撲殺拳ッ!!」などと叫びながら木槌で被り物を滅多打ちにして破壊するという荒療治であったという。
 ちなみに、語るまでも無いことではあるが、当然、酸素不足よりもてゐによる打撲の怪我のほうが酷く、永琳がてゐを叱りながら彼に治療を施したのは言うまでも無い。



 ■あとがき■
 今回は桂な話……と見せかけて、第6回東方人気投票が始まったみたいなので、朱鷺子支援のつもりで書いてみました。
 そんなわけで、随分と朱鷺子の出番が多いです。

 さて、最近考えてるのは遊戯王ネタで一本かこうかなとか思ったり思わなかったり。
 カードバトルをする銀さんや東方キャラたち。
 ……うん、書くのすんごい難しそうですね……。
 故にまだ未定。

 それでは、今回はこの辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第二十四話「アルビノの悪魔は誰のために」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2009/01/30 21:05






 魔法の森に入り、そして抜けるにはそれ相応の慣れというものが必要になってくる。
 何故ならば、魔法の森は慣れぬ人間が入れば道に迷うことでも有名で、とある妖精たちの悪戯がそれに拍車をかけている。
 そんなわけで、森に慣れない人間が入り込んでしまったらどうなるのか?
 つまり、今現在の三人の状態が答えなのである。

 「よし! 何一つわからない!!」
 「どのへんがよしぃぃぃぃぃぃ!!? 全然良くねぇよ! リアルタイムで迷子になってんじゃねーかっ!!」
 「ぎ、銀さん落ち着いて……」

 グッと握りこぶし作りながらキッパシ言い放ったアオに、銀時が半ばキレる様にツッコミをいれ、撫子が慌ててそれを宥める。
 辺りは一面見回してみても木、木、木! いけどもいけども出られないことに鬱憤がたまっているのか、銀時は疲れたようにため息をつく。
 木々の枝が空を覆い、昼かも夜かもわからない現状。先の道はまったく見えず、未だに戻れる目処はまったく立っていない。
 そもそも、何故彼女達が魔法の森で迷っているのか?
 その理由は、いつもいつも紅魔館の地下の図書館から本を借りていくという名目でちょろまかして行く霧雨魔理沙から、本を返却してもらうためである。
 現在、アオと撫子は諸事情により、家が直るまで紅魔館の世話になっていた。その代わり、彼女達はメイドとして紅魔館で働いており、魔理沙から本を取り返すのが今回の仕事であった。
 それに同行したのが、パチュリーから依頼を受けたよろず屋の面々。
 その中で男手として銀時が同行することになり、他のメンバーは皆して図書館にて小悪魔の負担を減らすように尽力することにしたのである。
 実際アオがいるワリには珍しく、幸運にも魔理沙の家には到着できたし、全部というわけではないが読み終わったらしいものは全て返却してもらえた。
 このあたり、アオと撫子が二人して何とか魔理沙を説得し、それでも説得するのにだいぶ時間はかかったが、そのくらいは予想の範疇だ。
 しかしながら、ことがうまく運んだのはココまでだ。あとはアレよとアレよと道に迷い、今現在にいたるというわけである。
 オマケに、手にはそれなりの量になる本が三人の体力をより多く消耗させる一因になっていた。

 「あ! なぁなぁ、銀ちゃん!! あそこに家があるよ!!」
 「マジか!! こいつぁ助かったぜ」

 そんなだからこそ、その家を見つけたときの喜びも大きかった。実際、何時間も歩き尽くめで早く休みたい気持ちで一杯だったこともある。
 だから、その森の奥でぽつんと佇む家に向かう足は速い。今までの疲れなんて忘れたといわんばかりに盛大に走り出すアオと銀時に遅れまいと、撫子も必死に後に続く。
 ジメジメした魔法の森の中、その家はぽつんと佇んでいた。特別大きいわけでもなく、木造のこじんまりとした家である。
 そのドアを、アオがトントンと丁寧にノックしてみると、数秒としないうちに足音がして、ドアが開いてこの家の住人らしい少女が姿を見せた。
 雪を思わせる白のロングヘアーに、つり上がり気味の真紅の瞳、真っ白なコートに身を包み、そのわずかばかりの覗く肌も病的なほどに白い。僅かに尖った耳が、少女が人ではないことを証明する。
 アルビノを思わせる……などという表現はもはや適切などではないだろう。この少女は見てわかるほどに色というものが抜け落ちた、アルビノだった。

 「こんな森の奥に、人間二人と妖怪だなんて珍しいわね。それで、一体何用かしら?」
 「いやぁ、実は道に迷うて出られへんようになってしもうてな。出来れば、道を教えてほしいんやけど……」

 それで大体の事情は察したか、しばらく考え込むような仕草をして、少女は銀時たちに視線を移す。
 外見は150cmあるかないか程度の小柄さだが、文字通り見かけどおりの年齢ではないのだろう。「しょうがない、か」と小さく紡ぎ、ドアをギィッと大きく開け放った。

 「今日はもう夜遅い。その様子だと疲れてるみたいだし、ウチに泊まっていきなさい。明日、森の外まで案内してあげるわ」













 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第二十四話「アルビノの悪魔は誰のために」■













 「小悪魔さーん、これどこに置いたらいいですか?」
 「それはあそこの棚にお願いします。神楽さんはその本をこっちに持ってきてくれますか?」
 「わかったアル」

 新八の言葉に返答し、そのまま小悪魔は下にいる神楽にそんな指示を飛ばした。
 元気に帰ってきた返事に満足しながらも、もくもくと作業を続けていた小悪魔だったが、とある三人組が帰ってこないことに不安を覚えていた。
 かえって来ない人物、それは魔理沙の家に本の返却を求めに行った銀時、アオ、撫子の三人である。
 もう夜の十時を回る。だというのに、昼前に出発した三人が未だに帰ってこないことが、どうにも不安で仕方がない。
 サボリではないか? と思いもしたが、生憎ながら銀時はともかく、 アオや撫子がサボるのはどうにも想像できなかった。
 では、何か危険な目にあっているのだろうか? と思いもしたが、あの銀時がいるのだ。そこら辺の野良妖怪がどうこうできるとも思えない。
 じゃあ、どうして帰ってこないのか? 一番ありえそうなのとして、魔法の森で迷子になっている可能性ではあるが……。

 「あー……」

 その可能性に行き着いて、小悪魔はしまったといわんばかりに声を漏らした。
 よくよく考えれば、あの森は下手をすれば妖怪だって迷う危険性があるのだし、あの三人が迷っていても何の不思議もないように思えた。
 よっぽどあそこの地理に詳しくなければ、あっさりと迷ってしまうだろう。
 まぁ、実際問題として飛べばいいのだが、残念ながらあの三人は誰も飛べなかったりするのである。
 うっかりしていた。これは実際問題として人選ミスだ。

 「どうしたアルか、こぁ」
 「いやですね、もしかしたらあの人たち迷ってるんじゃないかなぁって」

 本を持ってきた神楽の元に降下すると、彼女がそんなことを問うてきたので気難しげにそう言葉をもらした。
 実際、まさに迷子になっていたりする三人だったが、小悪魔もまさか魔法の森の誰かの家に泊まっているなどとは露にも思っていなかったのである。





















 コポコポと紅茶が注がれ、それを客人である銀時たちに少女は振舞う。
 紅茶の上品な香りが鼻腔をくすぐり、疲れを取ってくれているかのよな錯覚すら覚える。
 家主の少女はルリと名乗った。それにともない銀時たちもお互いに自己紹介を済ませ、今はこうしてティータイムとしゃれ込んでいる。

 「ふーん、強奪された本をねぇ。それは疲れたでしょうに」
 「疲れたなんてもんじゃねーよ。ほぼ丸一日歩き尽くめだぞ?」
 「あっはっは! そりゃそうだ、違いないわね!」

 不満を隠そうともしない銀時の様子がよほど面白かったのか、ケタケタと笑いながらルリは言葉を紡ぐ。
 それが気に障った……などという事もないのか、銀時は小さくため息をついて紅茶に砂糖を投入する。
 そんな様子が可笑しくて、つられるようにアオと撫子も苦笑してしまう。

 「おーい、オメェ等。何くすくす笑ってんの? 銀さん何かおかしい事しましたかねーコレ?」
 「い、いや、ちゃうんよ。なんか、銀ちゃんが拗ねとるみたいでなんかおかしゅうて……」
 「ご、ごめんなさい。なんだか、今の銀さんかわいいです」

 銀時にしてみれば失敬な話ではある。失敬な話ではあったが、事実、その様子は疲れからかどこか拗ねているように感じられた。
 無論、年下の少女に拗ねてるところがかわいい、などといわれて喜ぶような神経構造をしていない銀時は、ちょっぴり落ち込みつつまた砂糖を投入。
 ちなみに、先ほどので大さじ10杯分の砂糖が投入された紅茶を、銀時はぐるぐるとかき回している。

 「……ところで、アンタはそれを入れて大丈夫なの? 砂糖が結構入ってるんだけど」
 「心配いらねーよルリきゅん。銀さん甘党で糖尿病一歩手前だから」
 「駄目じゃないのっ!!」

 バッと銀時の手から紅茶を掻っ攫うルリ。微妙に青筋が浮かんでいるのは多分、目の錯覚なんかではないと思う。

 「何すんだールリきゅん。大丈夫だ、心配はいらねぇって」
 「その根拠がどこにあるって言うのよ!? あとルリきゅんとかいうな!!」
 「根拠なんてもんはねぇよ。ほら、よく言うだろルリきゅん? 心頭滅却すれば火もまた涼しいってかの有名な将軍、武田杉謙信公がだなぁ」
 「誰だそのミックス大名! 武田信玄でしょう!! しかもそのことわざ使い方間違えてるし!? いや、それ以前にそれ信玄じゃなくて快川和尚の言葉だし!? あとだからルリきゅんとかいうなっつってんでしょうが!!」

 初対面にもかかわらず盛大に銀時に振り回されることになるルリ。一瞬、コイツだけ外に締め出そうかとも思ったが、冷静な部分がそれに待ったをかける。
 結局、彼女は小さくため息をつくだけにとどめ、気を紛らわすように手元の紅茶を口に含む。

 「うん、見事なツッコミだルリきゅん。今回は新八不在なもんでツッコミ役に不安があったんだが、オメェなら大丈夫だ。ルリきゅん改め、これから新八2号って呼んでいいか?」
 「……ねぇ、アオと撫子って言ったっけ? コイツ殴っていい? 殴っていーい!?」

 もはや怒ってるのを隠しもしないまま、ルリは銀時と一緒に来た少女達に問うていた。
 まぁ、彼女の気持ちもわからないでもないのか、アオと撫子は困ったように苦笑しただけ。
 そして未だに怒りが収まらないらしいルリに、銀時が肩にポンッと手を置いた。

 「おちつけー新八2号。大丈夫だ、オメェにならできるって」
 「……OK、わかったわ。お前の言いたいことはよぉーっくわかった。わかったからさ、グーで殴らせろやテメェ」

 どんどん言葉使いが悪くなっていくルリ。まぁ、それも仕方のないことなのか、銀時のおちょくり方もわりと容赦ないレベルだったりするのである。
 そんな二人を「まぁまぁ」と宥めるアオと撫子。それでルリは仕方無しといった風に渋々と引き下がる。

 「ごめんなさい、銀さんあれで悪気はないんですけど……」
 「あったら余計悪いっつうに。まぁ、私も大人気なかったわ、ごめんなさい」

 申し訳なさそうに謝る撫子を見て、ルリは自分がいささか冷静さを欠いていたことを思い返して、彼女にそんな謝罪を述べる。
 今考えてみると随分と恥ずかしい限りで、ルリは困ったように苦笑するしかなかった。

 「そや! ココであったのも何かの縁って言うし、お互いの理解を深めるために自分らのことを話すんはどうやろーか?」
 「あら、それは素敵ね。私も乗ったわ」

 アオの名案だ! とでも言わんばかりの一言に、ルリも楽しげに便乗する。
 そんな様子を見て、銀時も撫子も、その案に異論はないのかお互い苦笑しただけで頷いて見せた。



 さて、そんな調子で始まったお互いの身の上話であるが、今現在テーブルに並んでいるのは紅茶ではなくお酒だった。
 そのおかげで饒舌になったせいもあるが、まぁ飛び出すのは素っ頓狂な体験談から真面目な話までピンきりだった。
 最初に自分のことを語ったのは銀時だった。自分がよろず屋を開いていることや、最近居ついている居候たちの話等々。
 酒が手伝っていたこともあるのだろう。サンタクロースの話など、子供の夢が平然とぶち壊れそうな話まで語る始末。
 次に語ったのはアオである。特に、彼女の語った珍事はルリの度肝を抜くのには十分すぎたといえよう。
 何しろ、何度も死にかけた経験があったり、実の姉の厳しさを語られたりと、まぁ出るわ出るわ他人が聞けば不幸な身の上としか思えない話がわんさかと。
 それを不幸だと思っていないのは、そのあたりはこの少女の強さなのかもしれないと、内心、ルリはそう思った。極度のプラス思考、とも取れなくもないけど。
 そして、ルリの中で一番印象深かったのが、撫子の語ったことだった。
 彼女が余りお酒に強くないことも起因しているのだろう。アルコールによって麻痺した思考は、普段なら絶対に人には漏らさないだろうことを喋ってしまっていた。
 それは、里の人々から迫害を受けていた過去や、母親との別離。
 人に人一倍気を使う撫子が、その事を語ることは無かった。今この場面でなら尚更、彼女はこんなことは話さなかっただろう。
 だが、アルコールが入ったという事実は、確実に脳に異常をきたす。アルコールの入った体は、普段は語らない弱音、本音を容易に語ってしまうこともある。

 「そんなときに銀さんに出会って、私は救われたんです」

 だが、それを語る撫子の表情は晴れやかだった。
 意外な人物の名が出たことに一瞬驚き、その件の人物に視線を向けると……何時の間に外に出ていたのやら、盛大に嘔吐しているらしい音が聞こえてきた。
 よし、後であいつ一回しばき回す!! と心の中でひそかに誓いつつ、ルリは撫子の言葉に耳を傾けている。

 「確かに、今も里の人たちとはあんまり折り合いは良くないです。お母さんが死んだときも、凄く……悲しかった」

 出来うることなら、母と共に一緒に暮らしたかった。
 だけど、それをするには母は病に侵されすぎていたし、時間は余りにも短すぎた。
 だがそれでも、銀時がいたからこそ、彼女は最後の最後で、母親の愛に触れられた。彼が、後押ししていられたからこそ、最後の最後で、母の愛に再びふれることが出来た。
 彼女は銀時に感謝していた。もちろん、自分が孤独にならないようにと、今も一緒にいてくれているアオや、よろず屋のメンバー達にも。

 「でも、私は大丈夫。確かに、幸運とは言いがたいかもしれないですけど、今、私は皆と居られて幸せですから」

 だから、彼女は自信に満ちた笑顔を浮かべて、そう断言することが出来た。
 儚げで、だけど満ち足りていて、幸せそうな、そんな表情。吹けば消えてしまいそうで、抱きしめたくなるような、そんな笑顔。
 その笑顔を見て、ルリは、不思議と胸が締め付けられるような思いになった。
 その姿が……その笑顔が、ルリが大昔に友人として共にいた少女と、重なってしまったからか。

 「そっか。いい笑顔ね」

 その事をおくびに出さないまま、ルリはそう告げた。内心、かつての人間の友人と重なった面影を、心の奥底に仕舞い込む。
 さて、彼女もそれだけのことを話してくれたのだ。自分も、それに見合った話しをしなければなるまいと、ルリは薄く笑った。

 「それじゃ、今度は私の話ね。さてさて、ひと時の間、私の話にごゆるりと耳を傾けてくださいまし」

 芝居がかった口調でそういいながら、三人で苦笑する。そのころになってようやく銀時が戻ってきたが、心なしか顔色が悪そうではある。
 まぁいいか、とそんな風におもって、ルリはつらつらと言葉を紡ぎだす。



 彼女は悪魔として生を受けた。珍しくもアルビノとして生まれ、その弊害かはわからないが、彼女は悪魔としては致命的に能力が低かった。
 あっても、せいぜい人間の成人男性と同程度。全身に魔力を流し、身体機能を向上させたとしても人間の4倍程度と、そこまでしてすらも悪魔としての平均以下といったところだった。
 しかも、彼女が生まれた当時はまだ魔法と言うものが現役であった時代だという。それだけで彼女が長い時間を生きているとわかるものだったが、それ以上に毎日生きることで必死だった。
 力の無いものは淘汰される。そんな時代に、彼女のように力の低い悪魔が生き残るのは至極困難を極めたといえる。
 当時、そんな彼女が憧れたのが人間の騎士達だった。悪魔が人間の騎士に憧れる……と言うのも妙な話だったが、彼女は騎士たちの訓練を覗いてみては、その真似事に夢中だった。
 不屈の信念を持って、自分よりも巨大な敵を打倒する。そんな騎士たちの姿に、彼女はある種の希望のようなものを覚えたのかもしれない。
 見よう見まねで騎士の技を習い、騎士の心得を心に刻み、騎士道と言う概念を、彼女は己が支えとして毎日を過ごしていた。
 騎士の英雄譚があれば、それを夢中で読んで、その華やかさ、そして苛烈さ、悲惨な終焉などに心を打たれた。
 彼女の存在は、悪魔としては酷く異質だっただろう。
 いつの日か、悪魔であるはずの彼女は、騎士道と言う信念を持って、弱者を守るために何かしたい。そう思うようになっていたのだから。
 はっきり言ってしまえば、彼女は戦いには向いているとは言いがたかった。
 身体のスペックは悪魔としてははるかに劣り、魔力許容量も人間よりも多少多い程度で、氷系の魔法しか扱えないなど、悪魔として彼女は落ちこぼれに等しかった。
 だが、その歴然たる差を埋めたのが、騎士たちの技術、そして騎士道と言う信念に他ならない。
 実際、彼女はスペックで劣りながらも、その技術と機転を生かして自分よりも強い相手を倒したこともある。そうして、旅する先で理不尽に襲われる誰かを救いながら、ふらふらと当ても無く旅をしていた。

 そんな時、一つの村に立ち寄ったときに、ある少女に出会ったのだ。
 きっかけはなんてことは無い、いつものように盗賊連中を蹴散らした際に襲われていた少女を助けたことだった。
 いつものようにその後を立ち去ろうとしたのだが、この少女が中々強引で、結局は押される形で少女の家に招きいれられた。
 両親は居らず、一人で生活しているらしい少女は、寂しいだろうに儚げにも、元気に笑って見せるのだ。
 何度も話しているうちに、彼女に情が移ってしまったといえばそうだろう。だが、そうだとしてもルリは結局この家を出るタイミングを逃してしまっていたのだ。
 そして、いつしかこの友人を守りたいと、守って見せると、そう誓うようになったのは何時の頃からか。

 だが、その思いは非情とも思える結末で締めくくられた。
 その少女の家に居ついてからはすっかり日課となりつつあった山での狩りを終えた彼女が戻ったときに目にしたものは、無残にも火炙りにされた少女の亡骸だったのだから。
 異端審問、悪魔裁判、思い当たる節はいくらでもあったが、こんなことをされた原因は明らかだった。
 少女は誰にも好かれるような性格だった。誰かの恨みを買うなど考えられるはずも無く、事実、少女の亡骸の傍には何人もの人が涙を流していた。
 自分が傍にいた。自分が、彼女の家にいついてしまったから、彼女は異端として裁かれ、悪魔の手先と断じられて、そして―――火炙りにされた。
 こんなことがあるだろうか? こんなことがあっていいのだろうか?
 守ると誓った。守ると誓ったのに、彼女を殺す原因を作ったのは、他でもない……自分自身だったのだから。



 「それから、私は人と関わるのを避けるようになった。流れに流れて、そしたらこの幻想郷にたどり着いてたわ」

 自重するように言葉にして、ルリはそう話を締めくくった。
 自分が未熟で、まだまだ大馬鹿だったときの話。自分が人と関わることで、その人の人間性が全て否定されてしまう、そんな宗教が力を持っていた時代の話。

 「そんな……ルリさんは何も……」
 「そうね。私自身、むやみやたらに人に害をなしたわけでもない。けどね、当時の悪魔って言う存在はさ、存在そのものが【悪】だったのよ」

 沈んだ撫子の声に、ルリはただ自重するように言葉にした。
 宗教にとって、悪魔とは人心を惑わす人間の敵であり、それと関わったものは等しく異端の悪魔の手先。
 そんな概念が、どこもかしこにも蔓延していた。そもそも、彼女のような考えを持った悪魔自体が、当時も今も異端には違いないだろうから。

 「そういうもんかね」
 「そういうもんよ」

 無気力とも思える銀時の言葉に、少しだけ寂しげに笑って、ルリは言う。
 あー、やっぱりこんな話はするべきじゃなかったかなぁと一人呟いて、ルリは苦笑した。

 「じゃあ、あそこに立てかけられてる槍は……」
 「えぇ、アオのご想像の通り、当時私が使ってた相棒よ」

 部屋の一室、そこに彼女の武器があった。
 シンプルながら、しかし美しいと思わせるフォルムをした2mもの槍。華美な装飾が施され、見るものの心を奪う造りは、類稀なる名匠の作であると推測できた。
 その槍の名を、ブリューナクといった。
 彼女が手にすれば刀身が淡く青白い光に包み、ひとたび投擲すれば、その槍は神話の通りに雷のごとく相手を貫き、強大な魔力で敵の大群を屠る事すら可能とした。
 この槍は、昔どこぞの魔法使いに譲られたものだった。本物かどうかはわからなかったが、その威力、効果はまさに神話に語られるそれと遜色も無かった。
 だから、この槍の真贋はどうでもよかった。彼女にとっては、何度も命を救ってくれた相棒にかわりは無いのだから。
 もっとも、その槍の力を解放すると、彼女の魔力の半分以上を消費してしまうので、使いどころが難しい困った相棒でもあったけれど。
 今では、その相棒を使う機会もほとんど無い。精々、朝の鍛錬で感を鈍らせないように振るうぐらいであり、その後は隠遁生活と言ってもいい生活を続けてきた。
 今日、こうしてアオたちと話せたのは、本当に久しぶりの会話だったから、ついつい嬉しくて饒舌になってしまった。結果的に、話した内容に盛大に失敗してしまったわけだが。
 そんな風に自分の間抜けさに辟易していると、ガッとアオから両腕を掴まれた。
 へ? と間の抜けた声がこぼれる中、アオはいつに無く真剣な表情でルリの瞳を覗き込んでいた。

 「ルリちゃん、一緒に暮らそう!!」
 「はい!?」

 だからこそ、その驚きも一際大きかった。同情だとか、そんな理由でそんなことを言っているなら断るつもりだったが、そんなことで言っているわけでもなさそうだった。
 じゃあ何で? そんな思考がぐるぐると巡る中、アオはさらに言葉を続けた。

 「言っとくけど、同情なんかやないで? ウチは、ルリちゃんと今まで話をして、楽しいと思ったからこんなこと言うとるんや。自分勝手とか、人の事情も知らずに、とか、そんなこと言われてもかまわへん!
 だから、ウチらと一緒に暮らそう! ウチは、ルリちゃんと一緒にいて、一杯楽しいこともしたいし、こうやって一杯笑いあいたい」

 自分勝手な理由。そういわれても仕方がないような、アオの言動。
 だけど、その笑顔はただ眩しかった。明るくて、きっとこの先も楽しいことがあるんだと、そう言っているかのようなそんな笑顔。

 「私も、ルリさんのこと一杯知りたいです。こうやって出会えて、そして話して、お互いを知ったから。だから、私はあなたのことをもっと知りたい」

 撫子も、彼女に語りかける。儚い笑顔を、かつての友人を思い起こさせる笑顔を、自身に向けて。
 正直、迷っているのも事実だった。自分がいて、彼女達が酷い目にあわないだろうかという思いが、ルリの心には根付いている。
 あの一軒は、あの時の友人の喪失は、この小さな悪魔の騎士に間違いなくトラウマとして深く根を張っていた。
 そんな迷いを見透かしたように、口を開いたのは銀時だった。

 「いいんじゃねぇの? こんなところで燻ってるより、こいつ等の傍にいたほうがよ」
 「でも、私は……」
 「建前はどうでもいいさ。オメェはどうしたい? こんな森の奥深くで、一人暮らすほうがいいってか? 違うだろ? さっきまでのアンタは、本当に楽しそうだった。
 アンタのここにあるのは、心にあるのはなんだ? 騎士道、っていうテメェの曲げちゃならねぇ信念があるんだろう?
 だったら、本音に従っちまえばいい。ココに刻まれた……魂に刻んだ騎士道っていう信念は、決してアンタを裏切らねぇ」

 力強い言葉。それが、先ほどまで自分をおちょくったものの言葉なのかと、そう疑いたくなるような、強さの中に優しさを持った頼もしい声。
 そして、初めて彼女は坂田銀時と言う男の本質に触れた。撫子が、彼に救われたと言った理由が、今ならわかるような気がした。

 「まったくさ、そんなこと言われちゃあ、私も断るわけにはいかないじゃない」

 なんでもないことのように、内心の喜びをひた隠しにして彼女は苦笑する。
 そうして、彼女は一旦席を立つと、アオと撫子、二人の傍に近づいて、跪き、頭をたれた。
 その光景に『えぇ!?』と驚きをあらわにするアオと撫子だったが、そんなことにも構わず、ルリは言葉を紡ぎだしていた。

 「あなた達の言葉に、私は感謝する。私は、あなた達の傍に付き添い、あなたたちに牙を向ける全てを貫く槍となりましょう。私は騎士として、ここにそれを誓う」

 もう、あの時のように手遅れなんかにはしない。あの時果たせなかった誓いを、今度こそ守ってみせる。
 自分の魂に刻んだ騎士道の全てをもってして、あの時のように、自分に歩み寄ってくれる彼女たちを守る騎士となろう。
 その姿は、本当に物語の中の王に忠誠を誓う騎士のようだった。凛々しい佇まいと、凛とした言葉が、この少女の行動をより明確に提示する。
 そうして、スッと彼女は立ち上がった。どこか照れくさそうに、頬を染めながら苦笑して。

 「そんなわけだからさ、これからよろしく頼むわ。アオ、撫子」

 その様子が、さっきとはまるで違ったからか、皆して可笑しそうに苦笑をこぼした。
 この日、この時の偶然の出会いを持って、アルビノの悪魔は誓いを立てた。
 彼女達の騎士となり、槍として敵を貫き、盾として攻撃から身を守ろうと。
 弱い誰かを救いたい。そう願い続けてきた悪魔の少女は、今始めて、その願いを現実のものとすることになった。





























 「ふーん、そんなことがあったんだねぇ」

 銀時から説明を受けて、レミリアはそんなことを呟きながら外で騒いでいる三人に視線を向けた。
 用事から帰ってきたらしい三人に+一人という奇妙な自体に、流石のレミリアも驚きはしたが、「まぁいいか」と適当に納得して銀時に説明を求めたのである。
 実に平和そうである。メイド服に身を包んだ二人と、未だになれないのか恥ずかしそうにするアルビノの新人に視線を向け、レミリアはあとでからかってやろうと苦笑をこぼす。

 「んじゃ、俺はこのへんでー」
 「あぁ。じゃ、向こうに帰ってもフランのことはよろしくね」
 「わかってるよ。つーかオメェ、その傷どうしたの? 何、熊にでも襲われた?」
 「強いて言えば赤色の破壊神に迎撃を喰らったわ」

 銀時の疑問になんと無しにレミリアは返答した。
 昨日の夜、久しぶりに我が家に帰ってきたフランを愛でようと彼女部屋に突貫したところ、「お姉さまは部屋に入らないでよ!」という悲惨な言葉と共にレーヴァテインVer.バット仕様でものの見事にホームランされた結果であった。
 思春期って難しいわね、と魔女の治療の際にレミリアはそうこぼしたという。
 495年も生きている少女に、果たして思春期なんていう言葉が該当するかどうかは不明だが。
 銀時が部屋を退出して、あらためて部屋にはレミリアだけが残る。
 眼下に視線を向ければ、そこには種族を超えた友情で結ばれた少女達が、本当に幸せそうに笑いあっていて、レミリアはその光景を慈しむように見守り続けていた。




 ■あとがき■
 どうも、白々燈です。
 今回、どうにもオリキャラメインな話になってしまいましたが、いかがだったでしょうか?
 正直に言えば、この話は色々と書き換えまくりました。三回ぐらい描きなおしたと思います。
 何しろ、最初はルリをレミリアとガチバトルさせる気満々だったという無謀なシナリオがあったくらいです。
 それはさておき、オリキャラの子達は元々、三人でよろず屋をさせたいと思っていたので、これでようやく幻想郷のよろず屋はそろったことになります。
 実は少し前、ディアというオリキャラがいたのですが、コレは諸事情により没になってしまいました。
 ルリはそのディアを基にして色々と設定やらを変えてみたのですが、気がつけば身長以外は面影がゼロになってしまったという罠が……。
 元々、ディアが設定的にどうにも友人に中二病くさいといわれたこともあり、色々変えては見たんですが、それでもやっぱり設定的にはイタイ種類のものかもしれません。むしろ、以前より悪化した可能性すらあるかもしれません。
 このルリ、イメージ的には外見が白レンで性格的にはランサーに近いと思っていただければ。うん、もうこれで既に中二病くさいかも……。ガクガク(((;゚Д゚)))ブルブル
 強さで言うと美鈴に近い形。個としてはあんまり強くないけど、体術や技術でそれをフォローする感じ。
 正直、このルリと言うキャラクター、皆さんに受け入れてもらえるかどうか不安で仕方がありません。^^;
 最後に、このオリキャラメインになってしまった話を最後まで読んでくださった皆さんに、多大な感謝を。


 そして皆さんに懺悔せねばいけないことが一つ。
 東方の人気投票……気がついたら終わってた(;ω;)
 投票してねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!(泣)


 それでは、今回この辺で。



[3954] 東方よろず屋【第二部】 第二十五話「ライバルの存在ってすっごく大事だって偉い人はいった……気がする」
Name: 白々燈◆7529948c ID:4e6b5716
Date: 2009/02/03 22:59







 紅魔館の門の前。そこには本来、門番である紅美鈴の代わりに、見慣れない純白の少女が、小さな欠伸を噛み殺していた。
 少女の名はルリ。今現在、諸事情で紅魔館に居候している悪魔であり、その手には淡い光を放つ矛先をした槍が握られている。

 「暇だ暇だって聞いてはいたけど、まさかココまでとはなぁ」

 ポツリと独り言をこぼし、ルリは気だるげに空を見上げた。
 朝焼けの色が空の彼方に見え始め、どこからか雀の鳴き声が朝の爽やかさを演出する。
 演出するが、生憎ながら今のルリには大層退屈なものとしてしか映らなかった。
 何もないってことは平和でいいことなのだが、だからといって門番の任についたからには厄介ごとの一つぐらい到来してはくれまいか? などと、ついつい不謹慎にも思ってしまう。
 メイドの仕事はそもそも柄じゃないので、こっちの部署の仕事に移してほしいとメイド長に頼み込んだのにコレではいくらなんでもつまらない。
 ふぁ~っと、また欠伸を一つ。昨夜からずっとココで何事もなく立っているだけなのだ。欠伸の一つもでる。
 暇つぶしに片手で相棒である槍をぐるぐると回転させる。ペン回しと似たような感覚で無意識にやっている暇つぶしは、門の内側、つまり紅魔館のほうから誰かが出てきたことで中断することになった。

 「おはようございます、ルリさん」
 「あら、おはよう美鈴。もう交代の時間だったかしら?」

 赤い長髪に緑を基調とした中華風の装いをした少女、紅美鈴の挨拶が聞こえてきて、ルリは手元でくるくると回していた槍を止めると彼女に向き直りながらそう声を返した。
 自分よりも頭一つ半ぐらい身長差がある彼女を見上げながら、ルリは暇つぶしが出来る相手が来たことで内心喜んでいたりもする。
 そんな彼女の内心に気付いているのかいないのか、美鈴は飄々とした様子でんーっと背筋を伸ばした。

 「いえいえ、まだ交代時間は先ですけどね。私としては、朝の運動に付き合ってもらえないかと思いまして」

 伸ばした背筋を戻し、にやりと笑って美鈴は構えを取る。こうなるのも半ば予想できたことだったのか、驚きもせずに、ルリはクッと喉の奥で笑って槍を構えた。
 驚かないのも無理もない話で、何しろこの二人、最近はこうやって時間を見つけてはお互い決闘をもちかけるような間柄になっていたのだから。

 「OK。やっぱり、貴女はわかってるね。話がわかる奴は嫌いじゃないわ」
 「ふふふ、3勝2敗1分けで私が勝ち越してますからね。このまま勝ち星を稼がせて貰います!」
 「ハッ! よく言ったな、美鈴。あとで吠え面かくなよ!!」

 紫電のような一閃と、烈火の如き一撃がぶつかり合う。
 思えば、この二人はお互い似たもの同士であったのだろう。
 妖怪の中ではそれほど強くはないものの、その武術の才を持って接近戦においては上級の妖怪相手にすら互角以上の戦いに持ち込める美鈴。
 悪魔としては落ちこぼれのスペックしか持たず、しかしその信念と槍術、時には魔法を駆使してそのスペックを補って戦うルリ。
 言葉にすれば差異こそあるものの、お互い高い武の技術を持つという点は変わらない。
 拳、槍に限らず、剣や弓を使った技術に関しても同じことが言える。そもそもの話、そういった類の技術は、弱いものが自分より強いものを打倒するために生まれた技術だという。
 自分が生き残るために、自身が守りたいもののために。
 二人はこうして、お互い競い合うように技術を高めあっていた。
 朝が、もうすぐ到来しようとしている。









 ■東方よろず屋【第二部】■
 ■第二十五話「ライバルの存在ってすっごく大事だって偉い人はいった……気がする」■










 ところ代わり、ここはかぶき町のヘドロの森。
 植木に植えられた花や植物を眺めているのは赤を基調としたチェック柄の衣服に身を包み、薄桃色の日傘を差している少女、風見幽香である。
 そんな彼女の傍にいるのは二人。この店の主人であるヘドロと、幽香の従者であるエリーであった。

 「さすがヘドロね。土もいいし、水分も定期的に供給してる。何より、植木というのも高いポイントね。場所によっては花束にしてる……なんてところもあるけど、アレは駄目」

 満足そうに言いながら、幽香は一輪、手に触れて眺める。そんな様子の幽香を見て嬉しそうにしているのはヘドロで、意外なことに目を丸くしているのはエリーだった。

 「珍しいですね。幽香様が他の方をお褒めになるなんて」
 「心外ねぇ。私だって、褒めるときは褒めますわ。ただ、その褒めるに値する者が少ないのよ。お店にしたってそう。花束を置くなんて、死体を飾るのと同じことだわ」

 花は大地に根を宿しているからこそ生きている。茎から切られ、飾られた花たちはいわゆる標本のようなものだ。花束なんてもってのほかで、彼女にしてみればそれは死体の山にしか感じられないだろう。
 花と会話することができ、花を操る能力があり、花を愛するからこその、彼女独特の価値観。
 事実、幻想郷で風見幽香に送ってはならないものTOP3には間違いなく花束が君臨することだろう。実際、幻想郷の花屋には花束なんて置いてない。
 幻想郷でそんなことをしている奴がいたらそれは、残念ながら自殺願望の持ち主と勘違いされても文句言えないだろう。

 「そうですよね、幽香さん。あなたの言うとおり、勉強になります。殺生はいけない」
 「えぇ、そうよ。殺生はいけないわ」
 「……うわー、白々しい」

 お互い笑いあいながら殺生はいけないと発言する二人に、エリーがボソッと一言呟く。その言葉は全面的に彼女の主である幽香に向いていたりするけど。
 さて、非常に唐突ではあるがここで幽香が帰っていれば、後々起こった面倒ごとは回避できたかもしれない。
 何故って? それは実に簡単かつ単純明快な惨劇がこの後巻き起こるからに他ならないわけで。
 幽香はにっこりと笑顔を浮かべ、次の花の様子を見ようとした瞬間―――

 上から奇妙な生命体、えいりあんが落下してきて花は幽香の目の前でぐしゃりと潰れてしまったのである。

 意外と臆病なヘドロが慌てて飛び退き、ことの事態をいち早く察したエリーは顔面蒼白にして恐る恐るといった様子で幽香に視線を向けた。
 エリーからは顔をうかがい知ることは出来ない。花を愛でようとしていた体勢でピタッと綺麗に硬直したままの幽香の姿は、逆に恐ろしさを感じさせた。
 あたりはえいりあんが落下した衝撃で植木や花が散乱し、無残にも植木が割れ、路上に投げ出されたままの花がいくつもある。
 顔は見えなくともわかる。そもそも、状況的にものすごくヤバイ。危険域はイエローゾーン余裕でぶち抜いてレッドゾーンすらも軽々と突破しようとしている。

 「ったく、娘の姿ちょっと見ようと思っただけなのに、なんで地球にまで来てまたえいりあん退治なんぞせにゃならねぇんだっつーの。こちとら二日酔いで頭痛いんだっつーに。
 おーい、そこのあんた等、怪我はないか?」

 となりに隣接している家屋の屋上から、ゴーグル付きの帽子と外套に体をすっぽりと隠した格好をし、片手には江戸時代特有の紙傘を持ったちょび髭が特徴的な男性が、覗き込んでいた。
 その男の言葉に、ピクリと、今まで動かなかった幽香が僅かに反応した。
 ゆらりっと、まるで幽鬼のように立ち上がった幽香は、日傘を閉じ、俯いたまま言葉を紡ぎだす。

 「これをこっちに落としたのはあなた?」
 「あぁ、そうだ。スマン、怪我はなかったか?」

 あぁ、オッサンの馬鹿。と、その言葉を聞いてエリーは恐怖に身を震わせる。
 まるで嵐の前の静けさとは一体誰の言葉か。「へぇ、そう」と、無感情な言葉が幽香の口から滑りでた瞬間……。
 さて、その動きを一体どれだけの人間、または妖怪が知覚出来ただろう。ほんの刹那の間、気がつけば風見幽香は男の隣に出現し―――

 「死ね」

 そんな物騒な一言と共に愛用の日傘を、真横に薙ぎ払った。
 はたして、それは本当に日傘による打撃だったのか。わき腹に直撃した瞬間、肉が、骨が、その衝撃を突き抜けて軋みを上げ、内臓を蹂躙しただけでは飽き足らずに男の体を吹き飛ばす。
 数メートル、などという生易しい吹き飛び方ではない。2tトラックに撥ねられたってこんな吹き飛び方はしないだろう。
 ン十メートル、下手すれば百メートルに届こうかという距離を、男の体はきりもみ回転をしながら吹き飛ばされ、何度も跳ね回り、住宅の家屋に直撃してようやく止まったのだ。
 その光景を、呆然と見上げるヘドロとエリー。そして、エリーは直感した。
 ヤバイ、アレはマジギレしてる、と。
 さて、いささか唐突ではあるが稗田阿求が書き記した幻想郷縁起には以下のような意味合いの言葉が記されている。
 花、その中でも特に太陽の畑に咲いた向日葵に危害を加えたものには、問答無用で滅ぼしにかかる。
 今この場に見せたそれは、まさしくその片鱗。ギラギラと殺意に満ちた赤い目は、やがて興味を無くしたかのように殺意を霧散させ、静かに閉じられた。

 「エリー、手伝いなさい。まだ間に合う子たちがいるはずよ」
 「は、はい!!」

 幽香からかけられた言葉に、エリーは慌てて返事して投げ出された花を集め、ヘドロも彼女に何か言いたそうにしていたが、しばらく迷ってから土を用意しはじめる。
 正直、男性は運がなかったのだろう。実際、男性にほとんど非はないだろうが、残念ながらココにいたのは風見幽香であり、彼女にとって花の命は人間の命よりも重いものだ。
 もっとも、彼女自身、あまり生命の重さには頓着しない性質ではあるのだが、今回はついついカッとなってしまった。
 そんな自分に呆れたように小さくため息を一つつき、彼女は屋根の上から降りようとして……。

 「……オイ、いきなり何しやがるんだテメェ。盛大にふっ飛ばしやがって、残りの毛根死滅したらどうしてくれやがんだコノヤロー」

 その声を聞いて、思わず足を止めてしまった。
 まさか、と半信半疑で男を吹っ飛ばした場所に視線を向ける。土煙のはれた先、そこには多少の怪我を負いながらも平然と立ち上がっている男の姿があった。
 本気で殺すつもりで放った一撃のはずが、しかし男はしっかりとした足取りでこちらに向かってくる。屋根と屋根の間を飛び越え、一歩一歩だが確実に危なげなく近づいてくる。
 その事実に、幽香は二ィッと口の端を歪めて笑みを浮かべた。

 「さぁ? お望みとあらば、死滅した毛根の変わりに花を添えてあげますわ。手向けとしてね」
 「それどんなびっくり超人? そんな頭で人生送りたくねぇよ。……いや、それ以前にオメェ、その白い肌に傘とあの一撃、夜兎族か?」

 苦虫を噛み潰したような表情で、男は幽香に言葉を返す。
 白い肌に、日傘、そして常識では考えられない戦闘能力。確かに、幽香には戦闘民族、夜兎に類似した共通点が多く、男が勘違いしたのも無理はない。
 くるくると傘を弄び、幽香は上機嫌に笑顔を浮かべる。先ほどまでの不機嫌さがまるで嘘のように、彼女は男を見据えている。
 その様子を見ていたエリーは、まるで新しい玩具を見つけた子供のようだと思った。その表現は実に的確で、幽香の内心はまさしくその通りのものであった。
 喜びと期待。その辺の人間が今の幽香の一撃を喰らえば、それこそ即死だっただろう。
 だというのに、男は立ち上がった。弱者にはまったく関心を示さない幽香が興味を持つには、十分すぎる理由。

 「さて、どうかしらね? 私が夜兎かどうか、自分の目で確かめて御覧なさい!!」

 期待に満ちた声を上げながら、幽香が動く。
 彼女の踏み抜いた屋根の一部が圧壊し、まさしく弾丸の如き速度で男との間合いを詰める。
 50mもあった距離を、彼女は秒に満たぬ時間でゼロにした。振りぬかれる日傘の一撃は、予備動作の大きさなど関係無しに風を唸らせて瞬きの間に男に叩きつけられた。
 そんなもの喰らえば、ただの人間は即死だろう。だが、男は己が持った傘で防ぎきり、微動だにせずに傘と日傘が鍔迫り合いのように鬩ぎあっている。

 男の名は星海坊主。第一級危険生物の駆除をしてまわる宇宙最強の掃除屋(えいりあんばすたー)。
 対する風見幽香は、幻想郷最強クラスの実力を持った四季のフラワーマスターの異名をとる大妖怪。
 最強対最強。何の因果か、ほんの些細な理由で最強同士の激闘が幕を開けたのだった。






















 「幽香さーん!! 殺生はいけませんってばー!!!」

 幽香と星海坊主の戦いが幕を開けた直後、ヘドロが大声でそう叫んではいたが、それもおそらく聞こえちゃいないだろう。
 何しろ、二人とも目で追うのがやっと、などという馬鹿げたスピードで戦っており、遠くからは微妙に一般人と思われる悲鳴らしきものも聞こえてくる。
 その光景を見て、エリーは小さくため息をつく。
 男性のほうは知らないが、幽香がああなったらもう止まらないだろうという事は永い間、彼女の従者を勤めていたエリーは理解していた。
 していたのだが、まさかこのまま黙ってみているわけにもいかず、どうするべきかと頭を悩ませることになった。
 正直、自分が止めに入っても幽香は止まらないだろう。というか、止める自信がまったくなかった。
 せめて幻月さんがいれば……と思ったが、イヤ待て待て自分と慌てて思い直す。
 もし、この状況で幻月がいた場合、彼女もあの輪に加わって三つ巴の争いになることは目に見えている。余計に被害がでかくなるだけだ。
 何しろ、幻月も幽香も似たもの同士なのだし。
 一体どうしようかと考えて、一つの妙案を思いついた彼女は慌てた様子で走り出した。
 今、頼みの人物がいるかどうかはわからないが、それでも自分よりはましなはずだと、エリーは走るスピードを上げたのだった。





















 ダンプカーが人を跳ね飛ばした時のような豪快な音が、かぶき町の一角に響く。
 それだけ表現すれば、その一撃がどれほど強烈なものかわかるだろう。大上段から振り下ろされた一撃は風を切り、守りのためにと少女が間に挟んだ日傘に打ち付けられる。
 その衝撃は腕を伝い、体を突き抜け、踏みしめた足が衝撃で僅かに大地に陥没する。それほどの一撃を受けて尚、風見幽香は楽しげに笑って星海坊主の体ごと力任せに攻撃を押し返した。
 僅かに離れる間合い。腕の痺れを無視するように、幽香は反撃とばかりに前進して日傘を眼前に突き出す。
 狙いは顔面。空気の抵抗をまるっきり無視したとしか思えない馬鹿げた速度の刺突は、しかし星海坊主が僅かに顔を逸らすことで皮一枚切り裂くだけに終わった。
 耳に届く風きり音と、わずかに遅れて到来する突きによって生じた風。それを肌で感じながら、しかし、それに恐れることも無く星海坊主は幽香の日傘を掴み、グンッと思いっきり引き寄せる。
 引っ張られることによりつんのめり、前方に体勢を崩された彼女に、星海坊主は容赦なく顔面に頭突きを見舞った。
 グシャリ、などという、傍から聞けば頭骸骨が陥没したとしか思えない拉げた音を響かせて、幽香の頭が後ろに跳ねる。
 まだ終わらぬといわんばかりに、星海坊主はグルンッと日傘を掴んだまま半回転し、強烈な回し蹴りをわき腹に叩き込むと、ゴキャリと、耳を覆いたくなるような悲痛な音が鳴り、ズルリと傘から幽香の手が離れた。
 蹴りに使った足が大地を踏みしめる。僅かに大地を陥没させた足は一種の踏み込みであったのか、回し蹴りの遠心力が生きている状態のまま、握りこぶしを作った右腕が弾丸の如きスピードで幽香の鳩尾を捉え打ち抜く。
 打ち抜いた衝撃は彼女の肉を、臓腑を蹂躙し、それでは飽き足らずに体をくの字に曲げさせて土煙を上げながら何十メートルもの距離を豪快に吹っ飛ばした。
 傍から見れば、今の一連の攻撃で幽香が死んだと皆思うだろう。事実、今の攻撃をただの人間が喰らえばよくて戦闘不能、悪ければ即死しているだろう。
 だが、そんな凶悪な連続攻撃を喰らって尚、幽香は立ち上がって見せた。

 「いったーい!」

 プリプリと怒ったような声を上げながら立ち上がり、服についた埃を軽く叩いて健在振りをアピールする。
 馬鹿げている……としか思えない光景。何しろ、本当に先ほどの攻撃を喰らったのかと思うほど、少女はケロリとしているのだから。
 手ごたえはあった。事実、幽香の額からは僅かながら血が流れている。あの回し蹴りにいたっては、肋骨をへし折った感触が未だに残っているし、鳩尾に入れた一撃は改心の一撃だった。それこそ、内臓破裂を引き起こしてもおかしくない位に。
 だが、あの少女は立っている。首の調子を確かめるように、コキッコキッと音を鳴らしながら、幽香はゆったりとした足取りで歩みを進める。
 その様子に、ダメージを受けた様子は、ほとんど見受けられなかった。
 知らず、星海坊主に冷や汗が伝った。最初に打ち合った時から直感していたが、コイツは予想以上だと内心愚痴をこぼす。
 コイツはヤバイ。これほどの危機感を感じたのは、あの夜王・鳳仙と三日戦い続けたとき以来。
 対して、幽香は内心を喜びが支配していた。
 自分の動きについてきて、なおかつ痛手を与えることが出来るこの男に、幽香は素直に称賛を覚えた。
 頭はズキズキと痛むし、肋骨の2、3本は折られ、内臓……胃か腎臓辺りが破裂したようで、痛みでおかしくなってしまいそうだ。
 込み上げてきた鉄錆に似た味の液体を、吐き出すこともしないままそれを飲み込んだ。
 一歩、二歩、三歩と歩き、肋骨も内臓も綺麗に修復が終わったのを確認して、幽香はにっこりと笑顔を浮かべる。

 「それじゃ、今度は私の番ね」

 まるで、遊戯で順番が回ってきたかのような物言いで、幽香の体が前方に疾走した。
 助走など無く、既にトップスピード。風が、景色があっという間に後ろに流れていくのを感じながら、無手の幽香は大きく拳を振りかぶる。
 コレだけ予備動作が大きければ、避けるのはたやすい。予備動作から直撃までの間隔が恐ろしく短いものの、ここまで予備動作が大きいと攻撃を予測するのもたやすかった。
 狙いは顔面。ココまでわかりやすいと避けるのに難も無く、星海坊主は身をずらす。そして彼の予想通り、顔面への軌道を取った幽香の右拳は勢い良く繰り出され―――

 ピタリと、あらゆる法則を己が腕力で捩じ伏せて、ピタリと停止した。

 その事実に驚愕する暇も有らばこそ、星海坊主の腹部に幽香の左拳がミシリッとめり込む。
 ゴプッと盛大に彼は吐血して、生暖かい鉄錆の匂いがする液体が幽香にぶちまけられる。ニィッと、幽香の口が三日月のように歪む。くの字に身を折った星海坊主に、幽香は思いっきり仰け反り。

 「コレはさっきのお返し、よ!!」

 反撃の狼煙と言わんばかりに、頭突きを星海坊主の頭部に叩き付けた。
 星が散った。などと言う表現がよく用いられるが、星海坊主自身、まさか頭突きを喰らって星が散るという体験をするとは思わなかった。
 衝撃が脳を揺すり、軽い脳震盪と眩暈を起こして思考能力が奪われる。額が割れたか、盛大に血飛沫が上がるが、それがどちらのものなのか判断がつきにくい。
 今まで幽香の日傘を握っていた星海坊主の腕から、彼女の愛用の日傘が滑り落ちる。それを空中でキャッチすると、幽香は迷いも無く日傘を振りぬいた。
 横薙ぎに振るわれた一撃は、星海坊主の肩口を捉える。しかしその刹那。
 まったく逆側から、思わぬ衝撃が体を襲い幽香の体を盛大に吹っ飛ばした。
 頭突きを喰らい、本来なら無意識のうちに頭部をかばう為に動くはずだった星海坊主の体は、しかし、本能がそう命じたのか幽香に傘による薙ぎ払いの一撃を叩きつけていた。
 結果、相打ち。お互い弾かれたように吹き飛び、ゴロゴロと無様に転がり受身も取れないままダウンする。
 背中を強打したせいか、カハッと肺から空気がこぼれる。予想外の一撃を喰らい、混乱しそうになる頭を必死に押しとどめ、体を起こそうとした瞬間ゾクリと、嫌な悪寒が背筋を駆け抜けて慌てて回避行動に移したが、既に遅い。
 杭打ち機を使ったような、豪快な轟音が響く。
 幽香の肩口に星海坊主の傘が突き刺さる。肩を貫かれ、大地に貼り付けにされた幽香の口から、僅かばかりの苦悶の声が漏れる。
 幽香に馬乗りの状態になった星海坊主。彼は、血走った目を彼女に向け、自身の拳を握りつぶさんばかりに力を込め始めた。
 その事に気付いた幽香が、抵抗をする時間を与える間もなく、星海坊主の拳が振り下ろされたのだ。顔ではなく、正確に、心臓へと。
 さて、その時の音をどう表現すればいいのだろう。あえて例えるとすれば、雷が至近距離で落ちたときのような轟音に似ているのではないだろうか?
 雷にも似た轟音を響かせ、星海坊主の拳は正確に心臓に振り下ろされ、その衝撃は柔らかい脂肪を貫き、骨を軋ませ、心臓に到達した衝撃は繊細で健気にも鼓動する命の象徴をことごとく蹂躙する。
 それだけでは飽き足らず、背骨すらも蹂躙した衝撃はとうとう大地に到達し、冗談のような大きさのクレーターを作り出した。
 ゴボッと、幽香の口から鉄錆の匂いがする液体が吐き出される。それっきり、ピクリとも彼女は動かなくなった。

 「はっ、はっ……っく」

 馬乗りになったまま、苦しそうな息をこぼし星海坊主は幽香を見下ろす。
 血濡れになった少女の体は、見ていて痛ましい。すっかり動かなくなった少女の体を見据え、加減出来なかった自身への怒りが噴出してくる。
 夜兎の血。戦いを求める忌むべき血は、この少女と戦っていくうちに徐々に、だが確実に呼び覚まされていった。
 最後の一撃は、ほとんど意識が残っていなかったといっていい。辛うじて繋ぎとめた精神は、しかし、夜兎の暴虐にたやすく飲み込まれた。
 その結果が、コレだ。しかも、この少女との戦いを楽しいと思っていたのは、紛れもない自分。
 因果な血だと毒つきながら、痛む体に鞭を打って少女の体を貫いていた傘を引き抜く。

 果たして、その時の星海坊主の心情はどういったものだっただろうか。彼が幽香の肩から傘を引き抜いた瞬間、ギョロリと見開いた幽香の赤い目を見たときの心情は。

 「なっ!?」

 背筋に薄ら寒い何かがゾワゾワと這い回るような嫌悪感。その様子に満足したのか、先ほどまで死体だと思っていた少女の口が、ニィッと凶悪につりあがった。
 それは一瞬の、ほんの僅かな隙だっただろう。しかし、この妖怪が反撃を試みるには十分過ぎる時間だった。
 不完全な体勢から放たれた拳が鳩尾にめり込む。内臓に痛手を負ったのか、星海坊主が大量に吐き出した鉄錆の赤色の液体は、結果的に下にいた幽香にびちゃびちゃと降りかかる。
 その事実を気にも留めず、幽香はさらに凶悪な笑みを貼り付けてそのまま星海坊主の腹部をぐしゃりと握り潰さんばかりに指をめり込ませて掴み取った。

 「ぎっ!? ぐっ! あぁっ!!」

 ギリギリと、星海坊主の腹に根元まで埋まった指が万力のように握力を加えていくごとに、彼の口から苦悶の悲鳴がこぼれ出る。
 幽香の腕を振り解こうと両腕で掴み、何とか逃れようともがくが彼女の腕は微動だにしなかった。
 そして、幽香は身を起こし、星海坊主の体をその状態で支えたまま立ち上がった。傍から見れば、少女が片腕で成人男性を持ち上げているという、奇妙な光景に映ったことだろう。

 「フフフ、貴方って本当に凄いわ! 意識がトンだのは本当に久しぶりよ!!」

 男の腹部を掴んで宙吊りにするという離れ業をやってのける少女の口から、惜しみない称賛の声が紡がれる。
 宙に浮いた足をじたばたと動かし、苦悶の表情を浮かべたまま、星海坊主はそんなこと知ったことかと彼女を睨みつける。
 クスクスと、幽香は哂う。柔らかい腹部に突き立てた5本の指を、腸ごと締め付けるようにギリギリと力を込めて、彼が苦しむ様を見て、喜び、楽しんでいた。
 そのまま、野球のオーバスローのように勢い良く、彼を放り投げる。盛大な音があたりに響き渡り、一軒のコンクリート製の建物の壁にぶつかってようやく、星海坊主の体は止まった。

 付近に目立った建物は少なく、広い空間が出来上がっている。おそらくは空き地か何かなのだろう、随分と広い場所であった。
 どれだけの距離を投げ飛ばされたのか、正直見当もつかない。星海坊主の目に映る幽香の姿は、ほんの豆粒程度にしか映っていなかったのだから。

 「ハッ、やってくれるじゃねぇか」

 それだけの痛手、それだけの傷を受けて尚、星海坊主は笑みさえ浮かべて立ち上がった。
 そんな彼の様子に満足そうに笑って、幽香は傍らに落ちていた愛用の傘を拾う。
 アドレナリンが分泌でもされているのか、痛みをちっとも感じない。スカッとした爽快感と、危険性のはらんだスリルが心を躍らせる。

 「ふふ、貴方は最高よ。こんなにも楽しいのは、本当に久しぶり」

 お互い、痛みがとうに快楽に書き換えられている。
 二人とも血払いをするように傘を振るい、一層深い笑みを浮かべて相手を見据えた。
 そして双方、まったく同じタイミングで疾走する。大地を踏み抜く、などと言う生易しいものではなく、文字通り大地を踏み砕きながらお互いの敵に肉薄した。
 日傘の一撃と、傘の一撃がぶつかり合う。それだけの衝撃が辺りの塵芥、はては小さな石や握りこぶし台の道具が吹き飛ばされ、近場にあった民家の窓がビリビリと振動する。
 互いに壮絶な笑みを浮かべながら鍔迫り合い、ギチギチと耳障りな合唱が傘から発せられた。
 ギュルリ、と力をうまく受け流されて、幽香の体が傘ごと泳ぐ。そこを狙い澄ましたように星海坊主が拳を作って右ストレートを顔面に狙って放たれた。
 ライフル弾の如き速度と威力をともなって飛来したその拳を、無茶な体勢から幽香はくるりと回転して紙一重で避けてみせる。
 まるで踊りを思わせるような優雅な回避。しかし、それだけで終わるほど風見幽香は甘くなど無い。
 傘をくるりと回し、傘のU字になっている持ち場所を星海坊主の足に引っ掛け、力任せにグルンとひっくり返す。
 それだけで、1mほど中に浮かせられ、まったく身動きが取れなくなった星海坊主に、幽香の拳が打ち下ろすように放たれた。
 交わすことも出来ず、咄嗟に腕を十字に重ねて防御する。
 そうして、直後にその馬鹿げた一撃が星海坊主の体を打ち抜いた。響いた轟音は、それこそ巨大な鉄槌が大地を砕いたような音としか表現のしようが無い。
 衝撃はガード越しに星海坊主の体を蹂躙し、地面に叩きつけクレーターを作り出すだけでは飽き足らず、バウンドした星海坊主の体は空高く舞い上がった。
 一体、どれだけの腕力があれば、人間をバウンドさせて空高く舞い上がらせる、などという芸当が可能になるのか。信じがたい少女の攻撃力に驚きながらも、星海坊主はなおも哂ってぐるりと空中で体を半回転させた。
 落下と共に、幽香のこめかみに落下と遠心力がプラスされた膝が叩き込まれ、彼女の体は盛大に吹き飛ばされて地面を転がった。
 常人が喰らえば、頭が粉々に砕け散っただろう強烈な一撃。着地のことすらも視野の外に置き放った一撃は、確かに幽香に届いた。
 受身を失敗して地面に叩きつけられる。お互い無様に地を這いながら、だがしかし、何が可笑しいのか笑い声をこぼしながら幽鬼のように立ち上がる。
 誰がどう見ても満身創痍。だが二人とも、日傘を、傘を、構えて相手を見据えて笑いあう。

 「貴方、名前は?」
 「そうさな……星海坊主、なんて呼ばれちゃいるがね。嬢ちゃんの名は?」
 「幽香よ、風見幽香。それで、私が夜兎だって確信できたのかしら?」
 「さぁな。正直、どうでもよくなってきたぜ」
 「あら、奇遇ね。私もよ」

 一体どんな理由でこうなったんだっけ? そんなことをぼんやりと思いながら、幽香はくすくすと笑った。
 ま、覚えてないのならどうでもいいことなんだろうと、さっさと原因の検索を放棄して、グッと傘を握る手に力を込める。
 正直、今ではそんなことどうでもいい。今は一秒でも長く、この楽しい戦いを長引かせたい。
 まだまだ終わらない。それは相手もわかっているようで、血だらけでありながらも尚、その獣のようなギラついた目をこちらに向けてくる。
 たまらない。ゾクゾクする。愉悦にも似た快感が背筋を駆け巡り、いっそう気分を高揚させる。

 「さぁ、踊りましょう!!」
 「ハッ! 生憎、踊りには縁がねぇが、コイツぁ別だ!!」

 お互い、疾風のように駆け出した。熱も冷めぬ内に、この戦いを続けようと二人の獣が声を上げる。
 ゴウッと振りぬかれる一撃。その一撃がまさに交差せんとした瞬間―――



 ギィンッと甲高い音が、辺りに響き渡った。



 「はーい、そこまでー」

 場違いの無気力な声が、二人の耳に届く。
 幽香の日傘は木刀で止められ、星海坊主の傘は緋色に輝く宝剣に止められていた。
 二人の間に入ったのは、坂田銀時と、比那名居天子の二名。涼しげに受け止めて見せているものの、銀時と天子の持つ武器からはギシギシと軋むような悲鳴が上がっていた。

 「銀……さん?」

 あんまりにも彼の登場が予想外だったのか、彼女にしては珍しくぽかんとした表情を浮かべる。それと同時に力が抜けて日傘がぶらりと頭垂れる。
 そして、次に聞こえてきたのはどたどたと駆け出す音。その音に気がついてそちらに視線を向けてみると、定春に乗って爆走している神楽の姿があった。
 ある程度近づくと、神楽は綺麗にジャンプして星海坊主に向かい―――

 「テメェクソ親父!! 姉御に何てことしてるアルかコノヤロー!!!」
 「ぐぼぁっ!!?」

 見事なライダーキック……もとい、強烈なとび蹴りをぶちかましていたのだった。
 ズッタンバッタンと盛大に跳ね回り、終いには壁に激突したことでようやく止まる。むくっとすぐさま身を起こす辺り、さすがと言えばそうなのだろう。

 「何すんの神楽ちゃん!! 実のお父さんに向かって顔を蹴るなんて!!」
 「うるせぇんだよハゲ!! 大体何しにこっち来たアルかハゲ!! このハゲ!!」
 「三回も言った!? ハゲって三回も言った!!? いくら神楽でも言っていいことと悪いことがあるぞ!!」

 ギャーギャーと騒がしくなる星海坊主と神楽。その光景を一部始終眺めていた幽香が、ポツリと一言。

 「……親子?」
 「アハハ、そうなんですよ幽香さん。というか、大丈夫ですかその怪我?」
 「大丈夫よ。それよりあっちの方を見てあげなさいよ。私は勝手に治るから」

 うっかりこぼした一言に新八が言い、彼の心配そうに紡がれた言葉にも遠慮して鈴仙をつれて星海坊主のほうに向かわせた。
 実際、幽香の傷はもうほとんど完治していた。肩の傷もほぼ塞がっているし、調子を確かめるためにぐるぐると回してみる。
 まさか、神楽の父親だとは思いもよらず、もう一度、親子喧嘩を勃発させている二人に視線を向けた。
 ……正直、まったく似てない。遺伝子って、本当に不思議。きっと母親になんだろうと勝手に納得して、それにしても……と、小さくため息をこぼす。
 せっかく楽しくなってきたのに、興がそがれてしまった。もう戦う気もすっかりうせてしまい、ぼんやりと親子喧嘩の仲裁に入っている新八たちに視線を向ける。

 「大丈夫か? 痛ぇなら、ちゃんと言えよ。おぶってやるぐらいならしてやらぁ」
 「あら、随分優しいこと。でも大丈夫よ、銀さん。もうほとんど治ってるから」
 「……まぁ、幽香様ですから