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きょうの社説 2010年8月26日
◎東西合同万燈会 「真宗王国」も歴史都市の財産
真宗大谷派金沢別院(東別院)と浄土真宗本願寺派金沢別院(西別院)が9月23日に
営む「彼岸万燈会(まんとうえ)」は、来年の親鸞750回忌を機に、東西が手を携えて「真宗王国」の活性化を目指す大きな一歩である。金沢では城下町の財産を生かした街づくりが進んでいるが、城下町の前には一向一揆の 拠点だった金沢御堂(みどう)(尾山御坊)を中心に寺内町が形成され、これが金沢の都市の原型になった。一向一揆も前田家の時代も等しく大事な歴史であり、現代に引き継がれる「真宗王国」の信仰土壌や寺院群もまた歴史都市の貴重な財産といえる。 万燈会では東西別院の境内と金澤表参道を千個の灯明で照らし、稚児行列が行われる。 別院境内ではフリーマーケット、子供縁日も出店する。金沢駅に近接する地域だけに、にぎわい創出で東西本願寺が手を組むことは北陸新幹線開業へ向けた心強い動きである。金沢市は都心軸をエリアの特徴に応じて整備する事業に乗り出したが、東西別院を中心とする一帯は金沢一の「真宗エリア」といえ、その性格を際立たせることが金沢の魅力を高めることになる。 東西別院の前身である金沢御堂の歴史は、本願寺が一つだった時代の象徴であり、この 共通の歴史があるからこそ東西連携は大きな意味を持つ。蓮如500回忌にちなみ、1998年に金沢御堂跡の金沢城公園で東西合同法要が営まれた。今年は北陸を対象にした真宗調査も合同で行われている、今回の彼岸万燈会は、地域づくりに資する取り組みとなる。 東別院は金沢駅前にビル街がない時代、列車が駅に近づくにつれ巨大な屋根が見えるた め、「宗教都市」金沢のシンボルになっていた。今は駅から望めないとしても、東西本願寺が力を合わせれば金沢のなかで真宗の存在感をさらに高めることができるだろう。 江戸期の都市計画でつくられた非真宗系の寺院群の整備が進むなか、市内に数多い真宗 寺院も都市の奥行きを深める存在である。長寿社会は真宗の教えが力を発揮できる時代でもある。来年の宗祖の節目を「真宗王国」浮上のきっかけにしてほしい。
◎戸別所得補償拡大 「強い農業」になれるのか
農林水産省が、来年度から本格的に実施する予定の戸別所得補償制度の概要をまとめた
。民主党の政権公約に基づき、コメだけでなく畑作の6品目にも対象を拡大するが、戸別所得補償制度によって日本農業が本当に強くなるのかという、制度開始当初からの本質的な疑問が依然として付きまとっている。民主党政権は新成長戦略の中でアジア太平洋地域における自由貿易圏の推進を掲げ、現 在、オーストラリアや韓国、インドなどとの経済連携協定(EPA)をめざしている。そのためには、農産物自由化に関する政府の考えをそろそろ明確にしなければなるまい。 農水省の制度案によると、麦、大豆など畑作6品目についても、今年度に試行したコメ と同様、作付面積10アール当たり1万5千円を支給し、生産農家を支援する。 農家の戸別所得補償制度は、農業生産のコスト割れを防ぎ、農業を産業として持続させ ることが狙いである。コメの場合は、減反への参加を条件とするが、規模の大小を問わず、すべての販売農家を対象とする手厚さである。 ただ、そのことが農業の生産性向上につながるとは必ずしも言えない。生産性を高める 有力な方法は経営規模の拡大であるが、小規模な農家を支援することで、農地の集約化、大規模化が進まなくなる恐れもあるからだ。所得補償制度の一方で、生産性を高める政策を考える必要もある。 農業の体質強化は、貿易自由化に連動して絶えず指摘されてきたことである。民主党内 には「所得補償で農家が守られるのなら、自由化も進められる」という声が聞かれる。理屈ではその通りだろうが、国際競争に太刀打ちできないとして、農産物の自由化に反対する意見は根強い。財源確保の問題を抱える補償制度自体を持続できるのかという不安もある。 それにしても、所得補償と高関税という二重の保護政策をいつまでも続けることはでき ないのではないか。EPAが成長に不可欠なら、農産物自由化に関する国の意思決定と政治決断をいつまでも先延ばしすることもできまい。
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