「阪神4-5広島」(24日、京セラ)
京セラドームを悲鳴が包んだ。同点の九回だ。虎の守護神、藤川球児投手(30)が嶋にまさかの被弾。首位から陥落した。負けなし3連勝だった“黒虎”の4試合目。初回に3点を先制、二回にも1点を加えたが、その後はダイナマイト打線が不発。下位チームに痛い取りこぼしとなった。
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口元にかすかな笑みを浮かべながら、最後の攻撃を見守った。まだ終わっていない。ベンチに戻った球児がチームのためにできるただ一つのこと。それはもはや、奇跡を信じて祈ることしかなかった。
最後のチャンスも実らず試合終了。守護神まさかの被弾とともに、猛虎が首位の座からすべり落ちた。
「しゃあないね」。薄暗い駐車場。笑みを交えながら振り返る球児の背中に、自責の念がにじんだ。
右翼に舞い上がった打球を、ただぼう然と見送るしかなかった。4‐4で迎えた九回1死。嶋への初球フォークが狙いよりやや真ん中をかすめた。したたかすくい上げられた打球は虎党の悲鳴を振り切りながら、スタンド内のブルーのフェンスに着弾した。「甘かった?それを言い出したらきりがない。こういう時もある。打った相手がうまかったということ」。今季5本目の被弾となる一発は、痛恨の決勝被弾だ。まさかの光景にどよめくドーム。小高いマウンドの上で守護神はうつむき、唇をかみしめた。
試合後のベンチ裏で、真弓監督が球児をかばう。「ちょっと(登板間隔が)あきすぎてたかな。きょうはなかなか追加点が取れなかったのが敗因かな」。8月17日の横浜戦以来、中6日でのマウンド。高めた緊張感をその都度リセットしながら、いつ訪れるか分からぬ連投に備える日々の調整は、困難を極める。だがそれは守護神の宿命。球児で負けたなら仕方がない…と人は言う。しかしそれが何の言い訳にもならないことを球児は知っている。自らが背負った黒星の重みを、守護神は知っている。
巻き返しを誓った地元戦を接戦の末に落として4連敗。8月15日以来守り続けた首位の座を、巨人に明け渡した。目前に躍り出た宿敵の背中。そして背後には落合竜の荒息が背中を焦がす。息つくひまなき三つどもえの攻防。一つの敗戦を悔やむ間もなく、戦いは続く。
「週頭なんで、まだ5試合ある。明日また頑張ります」
痛む心に手を当てながら、球児が明日へのドアに手を掛けた。うつむいてはいけない。振り返ってもいけない。この痛みを振り払う場所は、まだ有り余るほど残されている。