ホーム > タイガース > タイガース最新紙面記事

球児で陥落、黒虎で陥落…魔さかの被弾

 9回、嶋(左)に勝ち越しのソロを浴びる藤川(撮影・高部洋祐)
 9回、嶋(左)に勝ち越しのソロを浴びる藤川(撮影・高部洋祐)

 「阪神4-5広島」(24日、京セラ)

 京セラドームを悲鳴が包んだ。同点の九回だ。虎の守護神、藤川球児投手(30)が嶋にまさかの被弾。首位から陥落した。負けなし3連勝だった“黒虎”の4試合目。初回に3点を先制、二回にも1点を加えたが、その後はダイナマイト打線が不発。下位チームに痛い取りこぼしとなった。

  ◇  ◇

 口元にかすかな笑みを浮かべながら、最後の攻撃を見守った。まだ終わっていない。ベンチに戻った球児がチームのためにできるただ一つのこと。それはもはや、奇跡を信じて祈ることしかなかった。

 最後のチャンスも実らず試合終了。守護神まさかの被弾とともに、猛虎が首位の座からすべり落ちた。

 「しゃあないね」。薄暗い駐車場。笑みを交えながら振り返る球児の背中に、自責の念がにじんだ。

 右翼に舞い上がった打球を、ただぼう然と見送るしかなかった。4‐4で迎えた九回1死。嶋への初球フォークが狙いよりやや真ん中をかすめた。したたかすくい上げられた打球は虎党の悲鳴を振り切りながら、スタンド内のブルーのフェンスに着弾した。「甘かった?それを言い出したらきりがない。こういう時もある。打った相手がうまかったということ」。今季5本目の被弾となる一発は、痛恨の決勝被弾だ。まさかの光景にどよめくドーム。小高いマウンドの上で守護神はうつむき、唇をかみしめた。

 試合後のベンチ裏で、真弓監督が球児をかばう。「ちょっと(登板間隔が)あきすぎてたかな。きょうはなかなか追加点が取れなかったのが敗因かな」。8月17日の横浜戦以来、中6日でのマウンド。高めた緊張感をその都度リセットしながら、いつ訪れるか分からぬ連投に備える日々の調整は、困難を極める。だがそれは守護神の宿命。球児で負けたなら仕方がない…と人は言う。しかしそれが何の言い訳にもならないことを球児は知っている。自らが背負った黒星の重みを、守護神は知っている。

 巻き返しを誓った地元戦を接戦の末に落として4連敗。8月15日以来守り続けた首位の座を、巨人に明け渡した。目前に躍り出た宿敵の背中。そして背後には落合竜の荒息が背中を焦がす。息つくひまなき三つどもえの攻防。一つの敗戦を悔やむ間もなく、戦いは続く。

 「週頭なんで、まだ5試合ある。明日また頑張ります」

 痛む心に手を当てながら、球児が明日へのドアに手を掛けた。うつむいてはいけない。振り返ってもいけない。この痛みを振り払う場所は、まだ有り余るほど残されている。

(2010年8月24日)
Copyright(C) 2010 デイリースポーツ/神戸新聞社 All Rights Reserved.
ホームページに掲載の記事、写真などの無断転載、加工しての使用などは一切禁止します。ご注意下さい。
当サイトは「Microsoft Internet Explorer 4.x」「Netscape Navigator/Communicator 6.x」以上を推奨しています
Email : dsmaster@daily.co.jp