取り上げられた人:西聡美(ピアニスト・プロンプター)
記:出水奈美(毎日新聞記者)
2009年11月18日(木)毎日新聞夕刊 3面 夕刊ワイドより
サブタイトル:大きな安心 ささやく力持ち
全く。
自分の不明を棚に上げて言うが。
世の中には、知らないことが多過ぎる。
まるで、自分がこれまで知り得た知識は、浜の真砂の一粒だよと。
言わんばかりに、日々押し寄せる新たな驚き、新たな学び。
だからこそ、人生は楽しいのだけれど。
その反面。
自分の浅はかさに、寂寥感が募ることにも(泣笑)。
今回、僕をそうした思いにうっちゃりを掛けたのは。
「プロンプター」という職業。
恥ずかしながら、告白しよう。
僕はこの記事を読むまで、プロンプターなる仕事があるとは
露知らなかった。
プロンプターと言えば、例の政治家その他のスポークスマンが
演説の時に利用する原稿投射版という認識しかなかったのだ。
その認識が。
今回の記事を読んで、がらりと変えられてしまった。
(まぁそりゃ、サポートするものという意味では同意だけれどさ)
その後。
色々と、紐解いていくうちに。
そもそも、プロンプターの歴史は演劇の歴史と同義と言っても
よいほどに古いらしいこと。
更に、オペラに於いては。
声楽と楽器との協奏というその特性上、プロンプターも指揮まで
行ったりと独特の進化を遂げていること。
歌舞伎や文楽、能といった日本伝統芸能においてもやはり、
プロンプターという役割は存在していること。
こういった、様々な点が分かってきた。
こうなってくると、知らなかった方が間抜けにしか見えてこない。
僕が少々凹んでいるのも、ご理解戴けるであろう…。
さて。
今回の記事は、上述したように特殊な進化を遂げてきたとされる
オペラのプロンプターを務める西聡美さんを取り上げている。
オペラにおけるプロンプターの役割は、役者に”きっかけ”を与える
という本来の意味からは、特段逸脱している訳ではない。
それでも。
役者に。
発声のタイミングや、その音階までも示唆し、”きっかけ”を
与える。
それが、プロンプターの仕事であるならば。
単に話し出すタイミングを指示することに留まらず、時には歌唱の
音階さえも正確に示唆しなければならないとすれば。
西氏が、ピアニストでもあることも、十分に理解できるというものだ。
指揮者と役者。
両者を結ぶ、目に見えない絆としてプロンプターは舞台に君臨する。
本来、役者たるもの。
自分の台詞くらいはその言葉は元より、音階までもきっちりと身に
つけてからでないと、舞台に上がる資格なんてない。
そういった声も、あるだろう。
実は、自分もその意見にかなり組する一人であった。
それでも。
舞台は、生き物である。
指揮者の感覚も、変わる。
脚本だって、手が入る。
役者の動きだって、変わってくることもある。
そうした様々な変化をうまく取り持って、舞台が上手く回るように
誘導するコーディネーター。
それが、オペラにおけるプロンプターである。
そう、考えれば。
その役目も、肯定的に捉えることが出来るというものだ。
実際。
西氏は、プロンプターの役割についてこう語る。
「プロンプターは言葉を語ることではなく、歌い手に安心を
与えることが大事ですから」
また。
西氏がプロンプターを務めた「火刑台上のジャンヌ・ダルク」にて
主演のジャンヌ・ダルクを演じた石橋栄美氏は。
「プロンプターは本番中に見ることはなくても、
いてくれるだけで安心できる。
分身のような存在です」
と、語る。
通常の芝居と異なり。
器楽奏と声楽が一体化したことによって、オペラの舞台は多層化し、
複雑化した。
#元よりこれは、どちらがより難易度が高い、という性格のもの
ではない。
オペラの方が、構成要素が多いということを表しているものである。
その、オペラを上演するに当たっては。
プロンプターという存在が、舞台に立つすべての人にとって。
石橋氏が語るような役柄をもって輝きを放っているのだろう。
それでありながら。
黒子として、決して前に出ることは無い存在。
なんと。
格好のいい存在なんだろう。
こういう存在に、僕もなりたいものである。
(この稿、了)
(付記)
このコラムを書いていて、思い出したこと。
ずっと昔。
龍角散のコマーシャルで。
歌舞伎の一シーンを扱ったものがあった。
もっとも、舞台は一切写らない。
舞台袖で、黒子が台詞を呟く。
「深い縁の〜」
1978 ACC CMフェスティバル グランプリ受賞作品
その台詞を受けて、遠く舞台から役者が発声する。
『深い縁の〜』
その際に、黒子の喉に異変が。
(ごほん)
振り返って、小声で龍角散を求める黒子。
(おい! 龍角散)
その声をそのままに啖呵を切る役者。
『ごほん。あ、りゅうううううかくさぁぁぁあんんn』
頭を抱える黒子。
何とも言えない間と表情が魅力的だったこのCMも。
歌舞伎における、プロンプターが主人公だったんだな。
今、初めて得心した。
記:出水奈美(毎日新聞記者)
2009年11月18日(木)毎日新聞夕刊 3面 夕刊ワイドより
サブタイトル:大きな安心 ささやく力持ち
全く。
自分の不明を棚に上げて言うが。
世の中には、知らないことが多過ぎる。
まるで、自分がこれまで知り得た知識は、浜の真砂の一粒だよと。
言わんばかりに、日々押し寄せる新たな驚き、新たな学び。
だからこそ、人生は楽しいのだけれど。
その反面。
自分の浅はかさに、寂寥感が募ることにも(泣笑)。
今回、僕をそうした思いにうっちゃりを掛けたのは。
「プロンプター」という職業。
恥ずかしながら、告白しよう。
僕はこの記事を読むまで、プロンプターなる仕事があるとは
露知らなかった。
プロンプターと言えば、例の政治家その他のスポークスマンが
演説の時に利用する原稿投射版という認識しかなかったのだ。
その認識が。
今回の記事を読んで、がらりと変えられてしまった。
(まぁそりゃ、サポートするものという意味では同意だけれどさ)
その後。
色々と、紐解いていくうちに。
そもそも、プロンプターの歴史は演劇の歴史と同義と言っても
よいほどに古いらしいこと。
更に、オペラに於いては。
声楽と楽器との協奏というその特性上、プロンプターも指揮まで
行ったりと独特の進化を遂げていること。
歌舞伎や文楽、能といった日本伝統芸能においてもやはり、
プロンプターという役割は存在していること。
こういった、様々な点が分かってきた。
こうなってくると、知らなかった方が間抜けにしか見えてこない。
僕が少々凹んでいるのも、ご理解戴けるであろう…。
さて。
今回の記事は、上述したように特殊な進化を遂げてきたとされる
オペラのプロンプターを務める西聡美さんを取り上げている。
オペラにおけるプロンプターの役割は、役者に”きっかけ”を与える
という本来の意味からは、特段逸脱している訳ではない。
それでも。
役者に。
発声のタイミングや、その音階までも示唆し、”きっかけ”を
与える。
それが、プロンプターの仕事であるならば。
単に話し出すタイミングを指示することに留まらず、時には歌唱の
音階さえも正確に示唆しなければならないとすれば。
西氏が、ピアニストでもあることも、十分に理解できるというものだ。
指揮者と役者。
両者を結ぶ、目に見えない絆としてプロンプターは舞台に君臨する。
本来、役者たるもの。
自分の台詞くらいはその言葉は元より、音階までもきっちりと身に
つけてからでないと、舞台に上がる資格なんてない。
そういった声も、あるだろう。
実は、自分もその意見にかなり組する一人であった。
それでも。
舞台は、生き物である。
指揮者の感覚も、変わる。
脚本だって、手が入る。
役者の動きだって、変わってくることもある。
そうした様々な変化をうまく取り持って、舞台が上手く回るように
誘導するコーディネーター。
それが、オペラにおけるプロンプターである。
そう、考えれば。
その役目も、肯定的に捉えることが出来るというものだ。
実際。
西氏は、プロンプターの役割についてこう語る。
「プロンプターは言葉を語ることではなく、歌い手に安心を
与えることが大事ですから」
また。
西氏がプロンプターを務めた「火刑台上のジャンヌ・ダルク」にて
主演のジャンヌ・ダルクを演じた石橋栄美氏は。
「プロンプターは本番中に見ることはなくても、
いてくれるだけで安心できる。
分身のような存在です」
と、語る。
通常の芝居と異なり。
器楽奏と声楽が一体化したことによって、オペラの舞台は多層化し、
複雑化した。
#元よりこれは、どちらがより難易度が高い、という性格のもの
ではない。
オペラの方が、構成要素が多いということを表しているものである。
その、オペラを上演するに当たっては。
プロンプターという存在が、舞台に立つすべての人にとって。
石橋氏が語るような役柄をもって輝きを放っているのだろう。
それでありながら。
黒子として、決して前に出ることは無い存在。
なんと。
格好のいい存在なんだろう。
こういう存在に、僕もなりたいものである。
(この稿、了)
(付記)
このコラムを書いていて、思い出したこと。
ずっと昔。
龍角散のコマーシャルで。
歌舞伎の一シーンを扱ったものがあった。
もっとも、舞台は一切写らない。
舞台袖で、黒子が台詞を呟く。
「深い縁の〜」
1978 ACC CMフェスティバル グランプリ受賞作品
その台詞を受けて、遠く舞台から役者が発声する。
『深い縁の〜』
その際に、黒子の喉に異変が。
(ごほん)
振り返って、小声で龍角散を求める黒子。
(おい! 龍角散)
その声をそのままに啖呵を切る役者。
『ごほん。あ、りゅうううううかくさぁぁぁあんんn』
頭を抱える黒子。
何とも言えない間と表情が魅力的だったこのCMも。
歌舞伎における、プロンプターが主人公だったんだな。
今、初めて得心した。
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そういう風なことが書いてあったんだ。オペラか・・・よくわからん・・・ってことでスルーしたが、立ち読みするのだったなぁ
今、改めて読むと、今回のは(も?)読みにくいなあと、反省しています。
さて、今回紹介した本は、プロンプターというよりも、オペラ全体について紹介されている本だよ。
でも、あの「怖い絵」の著者のことだから、色々と趣向を凝らした、かつ読みやすい本なのではと思っている。
是非ご一読を。