米カリフォルニア州の子どもたちが学校に戻ってきた。ここ数週間、小売店には「バック・トゥ・スクール」売り場ができ、学校指定の文具などを買い求める親子連れでにぎわった。通勤に通学が加わり、朝夕の道路渋滞も激しさを増してきた。
しかし、地方財政の苦境が全米各地で伝えられるなか、新学期の始業を最も印象づけたのは、次々と舞い込んでくる寄付依頼ラッシュだ。公教育が各州に委ねられ、学区ごとに運営されている米国では、各州政府・学区の懐事情次第で公立の小中学校でも、PTA、学区教育委員会など様々な団体から様々な名目の寄付依頼が来る。
アップルやグーグル、インテルなど有力IT(情報技術)企業が集まり、比較的裕福な家庭が多いシリコンバレーでも例外ではない。
事務処理コストを節減するために年度初めの登録や納金を電子化したシリコンバレーのある小学校では、学校や学区のサイトに接続すると、「1人年間1000ドルを目安に寄付をお願いします」「金額の多寡を問わずご協力を感謝します」と寄付を促す文言の「歓迎」を受けた。
必要事項を記入していくと、そのままグーグルの「グーグル・チェックアウト」やイーベイの「ペイパル」など、地元企業が誇るネット決済サービスで簡単に寄付できるサイトに誘導される。
不動産関連税収入を財源とする学区財政は、住宅価格の下落に伴い苦しいまま。州政府の補助も減り、学区は教員の人件費やカリキュラムの削減、ボランティアの活用などリストラを進めるが問題解決には収入を増やすしかない。
19億ドルの財政赤字を抱えるカリフォルニア州は、さらに苦しい。昨年に引き続き、「IOU」と呼ばれる借用書を発行する可能性が出てきた。IOUとは「I owe you(私はあなたに借りがあります)」の略。現金の代わりに業者や住民への還付などに充てるが、昨年のIOUは金融機関が現金化に難色を示し、混乱した。
シュワルツェネッガー州知事は23日、州内の教育関係者にあてた書簡のなかで、「州民に学区予算の使途や財政状況について情報を公開するように」と指示した。納税者の理解を得て、寄付など支援を得やすくすると同時に、教育行政や現場の効率化に向けて圧力をかける狙いもある。
カリフォルニアに限らず、米国では初等・中等教育が劣化したと指摘される。財政面だけでなく、教育内容も含めた話だ。一方で高等教育は世界から俊英を集め、そのまま米国に残った逸材が切磋琢磨(せっさたくま)して米国経済の活力を生んできた。
米国はいわば世界から優秀な人材を「中途採用」し、国力を維持している国だ。そうした求心力も、移民を受け入れる用意もない日本は、若年人口の減少に加え、円高だというのに留学に出かける若者も減り、国内外で競争力のある人材を育て、用いる機会が減り続けている。
始業と同時に寄付に走るほど苦しいカリフォルニア州の初等・中等教育だが、教育の財源や担い手についての議論は真剣そのものだ。財源や担い手のない公共サービスはありえない。教育だけではない。医療や福祉、警察や消防も同様だ。誰が資金を負担するのか。誰が受益し、効果をどう検証するのか――。カリフォルニアの寄付依頼ラッシュは、日本にとっても人ごとではない。問題を先送りすれば、いつか、「寄付依頼」から始めないと社会が動かないようになる。
シュワルツェネッガー、アップル、IOU、イーベイ、インテル、カリフォルニア州、シリコンバレー
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