現在位置:
  1. 2010参院選
  2. 特集
  3. 記事

《現場から問う:9》高校無償 消えぬ格差

2010年7月8日

印刷印刷用画面を開く

このエントリをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真「私立も無償化」を掲げて集まった高校生たち=東京都千代田区

図拡大  

 「公私格差をなくせ」「私たちを親不孝にしないで」。東京都心の日比谷公園から銀座まで、約3200人の列にのぼりが翻った。

 参院選公示直前の6月20日。私立高校に通う各地の高校生と保護者、教職員らによるデモ行進だ。訴えは一つ、「私立も無償化を」。

 民主党政権の目玉の一つとして、今年4月に始まった「高校無償化」制度。全国平均で年間約12万円の全日制公立高校の授業料をすべて無料にする一方、私立の生徒にも同額の12万円を補助している。しかし、私立高校の授業料の全国平均は約32万円(2008年度)。低所得層では補助額が加算されて24万円まで認められることもあるが、なお届かない。「学校から授業料の督促状が来た」「友だちは弟も私立高校に入り、学費を工面するため自分が退学した」。家計が厳しくても、公立に落ちれば私立に行くしかない。他に選択肢がなかった生徒たちの訴えがビル街に響いた。

●「何も恩恵ない」

 苦しい生徒は、公立にもたくさんいる。

 「うちは、なーんにも恩恵無いですよ」

 高2の次女が公立高に通う秋田県の女性(48)は、ため息をつくように言った。

 家計はずっと限界にきていて、次女は国の無償化制度の前から、県の制度で授業料が全額免除になっていた。こうした家庭は、新制度が始まったからといって支援に上積みがあるわけではない。教科書代、通学の交通費、制服代、修学旅行の積立金……授業料以外にかかる様々な負担は変わらないままだ。

 女性は4年前に夫を病気で亡くした。4人の子供のうち上の3人は既に家を出て、今は次女と2人で暮らす。自治体の臨時職員として働き、給料は手取りで月11万円。ほかに、夫の遺族年金が月11万5千円。これで生活費と教育費の一切をまかなうほか、夫が残した借金を月に3万円返す。次男(19)を東京の専門学校に通わせるために金融機関から借りた200万円も細々と返済している。

 次女にはお小遣いもあげられない。「早く働きたい」。最近の次女の口癖だ。

 高校進学率が100%に近づくなか、一国の教育制度の構えとして、所得に関係なく高校生の学びを一律に支援すべきだ――。民主党はずっとこう説明してきた。実際、高校無償化はすでにほとんどの先進国で実施されている。

 ただし、民主党政権には、無償化が子育て世帯にアピールする格好の材料になるという思惑もあった。財政が厳しい中で4千億円の原資を絞り出し、朝鮮学校の除外問題を棚上げにして今春のスタートにこだわったのも、参院選に向けた戦略だった。

 しかし、苦しんでいる世帯を置き去りにしたままでは、格差はさらに開くばかりだ。「制度には致命的な欠陥がある」。当の文部科学省の幹部も、こう認める。

◆奨学金創設も不透明

 改善を目指した動きはあった。文科省は昨年、苦しい家庭の高校生を対象に返済不要の奨学金の創設を模索し、2010年度に向けて予算要求した。その額、123億円。無償化予算の3%に過ぎないが、実現すれば年収350万円以下の世帯の45万人の生徒を支援できる計算だった。しかし、政府の査定は結局ゼロに終わった。

 そして、今回の参院選。自民、公明、共産、社民、立ちあがれ日本、みんな……と主要政党が一斉に返済不要の奨学金を公約に明記する中で、民主党のマニフェストには出てこない。同党の国会議員の一人は「必ず実現するとは約束できないから……」と口ごもる。

 文科省の08年度の統計によると、全国の公立高校生230万人のうち、経済事情で授業料の減免を受けたのは1割の23万人。私立高校生では全110万人のうち2割弱の20万人。文科省幹部の一人は、この間の政権の動きを踏まえてこう言った。「全体でみれば数が少ない低所得層への手当ては、どうしても優先度が低くなる」

 募金をもとに、病気や自殺などで親を失った子どもに奨学金を交付する「あしなが育英会」。たくさんの高校生を見てきた工藤長彦(としひこ)理事は言う。「負担に耐え切れず高校を中退する子は多いが、そこから正規雇用の仕事を見つけるのは本当に厳しい」「親から子への貧困の連鎖。そんな悲しいことは断ち切らないといけない。切に、政治に望むことです」(青池学、原田朱美)


候補者データベース

主な政治日程

6/16(水) 通常国会閉会
6/24(木) 参院選公示
7/11(日) 参院選投開票

携帯でも最新情報を

朝日・日刊スポーツ 選挙特集

移動中や職場でも選挙の最新情報をチェック。QRコードから携帯サイト「朝日・日刊スポーツ」の選挙特集にアクセス。