ヨシュエス短編 エステル・ブライトの憂鬱
※この作品は、作者の私が涼宮ハルヒの憂鬱の曲「Lost my music」を聞いているうちに妄想したヨシュエスの場面を文章化したものです。
※ゲーム中ではSCの4章ぐらいだと思います。
眠れない夜、あたしはそっと自分の部屋を抜け出してバルコニーへと出た。
すっかり寝静まったロレントの街の灯りがほとんど消えているせいで星空が綺麗に見えた。
ねえ、ヨシュア。
あんたは今どこに居るのよ。
あのボクっ子のジョゼットと仲良くなってるんじゃないでしょうね!
……いけない、ヨシュアが無事で居てくれた事を喜ぶべきなのに、あたしったらこの写真を見てからその事ばっかり考えている。
あたしはドロシーから受け取った写真を胸のポケットから取り出して星明かりの下にさらす。
写真には山猫号に乗って遠くを眺めているヨシュアの姿が映っている。
「マントなんか着て、格好付けちゃってさ……」
あたしの目から写真を濡らす涙が垂れ落ちた。
写真の中のヨシュアの表情は見えないけど、大人びて冷たい感じのヨシュアの様子がビンビンと伝わってくる。
違う、こんなのは”あたしのヨシュア”じゃない。
家のアルバムには父さんが撮ったあたしとヨシュアとの思い出の写真たくさんある。
その中のヨシュアはもっと優しくて柔らかった。
この家でも裏庭の池で釣りをしたり、父さんを驚かせるために落とし穴を掘ったり、いろいろ遊んだよね。
そして、ここではヨシュアはあたしに『星の在り処』をハーモニカで吹いて聞かせてくれたよね。
寂しくなったあたしは、腰のポケットからハーモニカを取り出してそっと口にくわえた。
辺りに響くハーモニカの音色。
あたし一人きりの演奏会。
ヨシュアが居なくなってから、あたしは一生懸命、この曲を練習したんだよ。
いつかこの音楽が星空の向こうに居るヨシュアに伝わって欲しいと願って。
大好きだったヨシュア。
いつも側に居てくれたヨシュアが遠くに行ってしまって、あたしは毎晩泣きそうになるの。
あたしが演奏を終えると、誰かが拍手する音が聞こえた。
驚いたあたしが振り返ると、そこにはシェラ姉が立っていた。
「ずいぶん上手になったじゃない。まるでヨシュアが吹いているみたいだったわよ」
シェラ姉はいろんな所を旅してまわっていたから、『星の在り処』の楽曲もシェラ姉から教えたもらった。
「ごめんシェラ姉、起こしちゃった?」
シェラ姉はあたしが寂しさに耐えられなくなって眠れなかった事をすっかりお見通しだったみたい。
「さあ、これで気分は少しはスッキリしたでしょう? 明日もヨシュアを見つけるために頑張らないといけないんだから、もう寝なさい」
「うん、おやすみ!」
あたしはシェラ姉にそう答えて自分のベッドに戻ったけど、胸の高鳴りは治まりそうになかった。
ずっとずっと好きだったヨシュアがせっかく告白してくれたのに。
あたしはずっとずっと好きだと言う言葉を待っていたんだよ。
ヨシュアが好きだって言うあたしの気持ちは止められないの!
「ヨシュア、大好きっ!」
そう声に出してあたしは自分の体を強引にベッドに横たえた。
やっとあたしにも眠気が来たようだった。
まどろみの中で、あたしはあの日の事を思い出した。
ヨシュアと2人で準遊撃士の試験に合格した時。
「一緒に遊撃士になろうね」
あの言葉はウソだったの?
泣きたい時はいつでも胸を貸してくれるって時計台の上で抱きしめてくれたのに。
その約束は王都でのあの夜に消えてしまった。
夢の中でもヨシュアを探してしまうあたし。
抱きしめられた感触が幻だとわかっていても目を覚ましたくない。
あたしはヨシュアを見失ってしまった。
ヨシュアはあたしにハーモニカと『星の在り処』を残して消えてしまった。
もう会えないなんて事無いよね?
「そんなことない!」
あたしは目を覚ますと同時にそう叫んで起き上がってしまった。
そして、遠くに居るヨシュアの事を思い出してまた涙があふれてくる。
あたしもずっとずっとヨシュアが好きだったって返事をしたい。
その時が来るのをずっとずっと待ち焦がれている。
ヨシュアに会いたいって言うあたしは誰にも止められないの!
気がつくと、あたしの部屋の入口にシェラ姉が立ってこちらを見ている。
もしかして、あたしの独り言とか聞かれてた!?
穏やかに微笑んでいるシェラ姉の表情が全てを物語っていた。
あたしはそんなシェラ姉に聞かずにはいられない。
「あたし、もう一度ヨシュアに会えるよね?」
「もちろんよ」
シェラ姉の自信に満ちた返事に、あたしの憂鬱な気持ちも吹き飛んだ。
そして今日もヨシュアを取り戻すための旅が始まる。
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