「ホメオパシーは非科学であるから医療の場から排除するべきだ」という見解を、日本学術会議会長が示した。しかしこれは、ピンボケだ。
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この見解は、日本学術会議会長が示した。部分引用すると、次の通り。
「科学の無視」
「科学的な根拠がなく、荒唐無稽としか言いようがありません。」
「ホメオパシーが非科学的である」
「ホメオパシーのような非科学を排除して正しい科学を広める」
以上をまとめると、「科学ではない(非科学だ)から、排除するべきだ」となる。
しかし、その説が正しいとすれば、以下のものはすべて、科学ではないがゆえに、排除されることになる。
・ 恋愛
・ 文学
・ 美術
・ 音楽
さらには、科学性が疑われているものとして、下記のものも排除される必要がある。
・ 気象の長期予報
・ 経済学
・ 地震学
ついでに言えば、近代科学だって、初期のころはあやふやだったのだから、初期の近代科学もまた、「そんなものは駄目だ」と否定されかねない。
要するに、「科学だけが偉い」というような「科学王様主義」は、学術会議会長の尊大な自惚れにすぎない。彼は「科学には届かない領域がたくさんある」ということを、理解できないのだ。そのせいで、「科学でないものは人にあらず」というような、威張り腐った主張をするわけだ。
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この点は、実は、「トンデモマニア」と共通する。
トンデモマニアは、ホメオパシーを見て、「トンデモだ」「偽科学だ」と主張する。それもまた、「ホメオパシーは非科学だ」と主張している点で、学術会議会長の立場と同じなのである。
というか、学術会議会長は、トンデモマニアと同じレベルにすぎない。少なくとも、科学者のレベルになっていない。
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では、科学者のレベルとは? 次のようになる。
「科学はこの世のすべてを解決できるわけではない」
という謙虚な自覚が必要だ。この自覚が、科学的な態度だ。(「科学は万能だ」という非科学的な態度とは正反対。)
その上で、
「非科学的なもの(科学の領域外)については、科学は何も言えない」
とわきまえて、口を閉じるべきだ。
たとえば、「恋愛」「文学」「美術」「音楽」などは、科学の対象外なのだから、それらを「科学的でないから駄目だ」などとは罵らず、「科学ではわかりません」と察して、口を閉じるべきだ。
その一方、科学の領域内では、科学に反する言説を否定するべきだ。これを簡単に言えば、次のように言える。
「反科学を否定する」
ここで、反科学とは、科学の分野において科学に反する言説だ。簡単に言えば、オカルトだ。「水の記憶」というのも、その一例である。
このような反科学(オカルト)は、科学の分野内で、科学に反することを主張する。それゆえ、それは否定されねばならない。
なぜか? 科学の分野内で、科学を否定するのであれば、それもまた、科学の方法(科学主義)に従う必要があるからだ。つまり、科学を否定するものもまた科学である必要がある。(古い科学を新しい科学が否定する。)……これが原則だ。
しかしながら、反科学は、そうではない。反科学は、科学の方法(科学主義)に従っていない。かわりに、迷信のようなものを持ち出す。水の記憶など。……それが反科学(オカルト)だ。
この点で、トンデモないし偽科学は、全然異なる。これらは科学の方法(科学主義)に従っている。その意味で、反科学ではない。
一例として、ホメオパシーを科学的だと信じた人(ベンヴェニスト)がいる。彼はホメオパシーが正しいことを科学的に証明しようとした。そして笑いものになった。……この点では、彼はまさしく「トンデモ」「偽科学」と言える。(科学的にふるまったので。)
しかしながら、彼を利用してホメオパシーを商売にしようとした人々(詐欺師集団)は、違う。これら強欲な人々は、ホメオパシーが正しいことを科学的に示そうとはせず、単に宣伝によって客を洗脳しようとした。その宣伝の典型が「水の記憶」である。……これはもはや科学ではなく、反科学(オカルト)となっている。
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以上を整理すると、次のようになる。
科学
↑
↓
・ 非科学(科学の範囲外) …… 科学はそれについて何も言えない
・ 反科学(科学の範囲内) …… 科学はそれを明白に否定する
・ 偽科学(科学の範囲内) …… 本人だけはそれが正しいと信じる
科学に反するものは、「非科学」と「反科学」(オカルト)と偽科学とがある。
そして、ホメオパシーが該当するのは、「非科学」や「偽科学」ではなく、「反科学」(オカルト)である。
したがって、ホメオパシーを批判するのであれば、「科学的でないから」という理由は、ちっとも理由になっていない。科学的でないこと自体は、ちっとも悪いことではないのだ。たとえば、赤ん坊がにっこり笑うことは、ちっとも悪くない。(赤ん坊は科学的ではないが。)
ホメオパシーを批判するのであれば、「科学に反することを科学的に語るから」(反科学的であるから)というふうに理由を示すべきだ。ホメオパシーは、科学的な治療効果などはないのに、科学的な治療効果があるかのように見せかける。このような業者の欺瞞が悪なのである。
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その一方で、科学とは別のところで、気分のためにホメオパシーのレメディを服用することは、悪でも何でもない。煙草を「有害だから」という理由で禁止することは科学的だが、レメディを「有害でないが」と禁止することは非科学的だ。その程度のことは利用者の自由裁量とするのが、科学的な態度だ。(ただの倫理でやみくもに禁止するのは、科学ではなくて、行き過ぎた倫理主義だ。)(ただし、高額販売することは詐欺なので、悪だ。)
学術会議会長の見解は、科学的であろうとするあまり、かえって非科学的になってしまっている。「おまえは非科学的だ」と主張しながら、自分自身が非科学的になってしまっている。あまりにも踏み込みすぎて、勇み足になって、自分で勝手に土俵を割ってしまっている。
今回の発表のあと、「学術会議会長が批判したから、ホメオパシーは間違っている」と批判する烏合の衆が、イナゴの大群のように湧き起こるだろう。しかし、そういう権威主義は、ホメオパシー信者がホメオパシー医学協会の権威を信じるのと、五十歩百歩である。
学術会議会長の批判はピンボケである。その批判を信じるべきではない。
正しくは? ホメオパシーは、非科学(トンデモ)ではなく、反科学(オカルト)である。……そう理解した上で、ホメオパシーを否定するのが正しい。
また、レメディの摂取は、現代医療を否定せず、無料である限り、禁止するべきではない。
→ 無料ホメオパシー
[ 付記 ]
学術会議会長の見解は、妥当な点もある。引用しよう。
「は科学的な根拠がなく、荒唐無稽としか言いようがありません。」
「ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています」
ここでは、ホメオパシーを反科学と見なしていることになる。これらの点では、妥当である。
つまり、このくらい厳しい批判をすれば、妥当になる、ということ。他の箇所は、舌鋒が甘いので、妥当さに欠ける。(もっと厳しくやれ、と叱咤したい。)
[ 余談 ]
学術会議会長の話は、朝日が Twitter で実況中継した。下記にまとめがある。
→ http://togetter.com/li/44398
学術会議会長談話は、公表資料PDFがある。
→ http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d8.pdf
2010年08月24日
◆ ホメオパシーは非科学か反科学か
posted by 管理人 at 21:49
| Comment(2)
| 医学 ・統計
→ http://33616.diarynote.jp/201008242132232502/