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根本正雄(TOSS体育授業研究会・TOSS体育よさこいソーラン学校づくり研究会代表)


組織づくり やる気化の原則



 組織づくりには三つの原則がある。
 一つはやる気化である。組織の一体化を図るために、どのようにやる気を持たせるかを明確にする。
 二つ目は包み込み化である。包み込み化を達成するために、どんな方法があり、どのような手順ですすめていくのかを明らかにする。
 三つ目は人間化である。組織づくりの根本原理は人間理解である。どのように人間を理解し対応していけば、組織の一体化が図れるのかの方法を考えていく。
 今回はやる気化の原則について述べる。組織づくりの第一はやる気化である。やる気化によって、教職員が一体になって取り組む体制が出来ていく。

1.やる気化 3つの原則

 佐々淳行氏は『平時の指揮官有事の指揮官』の中で次のように述べている。

 志気の第一条件は「共通の目的」、第二条件は「各個人の役割意識」、第三条件は「我々感情(仲間意識)」である。集団が共通の意識を持ち、すべての構成員が同じ目的意識と、自分の役割意識を意識して、同じ目的のために努力するということになると、集団の団結力は強まり、凝集力が生まれる。

 佐々氏の述べているように、やる気化の原理の内容は次の三点である。

 1.共通の目的を持つ
 2.役割意識を持つ
 3.仲間意識を持つ

 どのように共通の目的を持たせ、役割意識を持たせ、仲間意識を持たせるかである。
 また、小山正彦・石渡明著『船井流経営計画の立て方』(実業之日本社)の中に次のように述べられている。

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 船井流のヤル気づくりの原則に「1:1.6:1.6」の法則という考え方があります。強制されて仕事をした場合の成果や効率を一とすれば、納得して仕事をした場合はその一.六倍、自分たちで知恵を絞って企画に参加して仕事をした場合は、一.六乗倍の成果や効率がえられるというものです。

 やる気は強制されては生まれない。納得し、自分たちで知恵を絞って企画し参加させていくところに生まれてくる。
 学校づくりも同じである。管理職が上から強制しても効果は上がらない。教職員のやる気を生み出すには、共通の目的を持ち、役割意識を持ち、仲間意識を持つ組織を作ることである。
 そして、自分たちで知恵を絞って企画し参加していく組織を作ることである。
 やる気を出させ、効果を上げた例としてマラソンの小出義雄監督の例を紹介する。
 小出監督は高橋尚子選手を見事、シドニーオリンピックで優勝させた。その指導には、やる気化の原則が活用されている。学校づくりでも同じように行っていけば、効果が上がる。

2.共通の目標を持つ

 高橋尚子選手は、見事シドニーオリンピックの女子マラソンで優勝した。脚光を浴びているのは高橋選手と小出監督であるが、その陰には栄養士、トレーナー、マネージャーと多くのスタッフがいた。まさに組織の力であった。
 組織をやる気にさせたのは、オリンピックで金メダルを獲得するという共通の目標である。
 志気については「一人がやる気を出して熱くなると、その熱意がまわりに伝播して、みんなの志気が昴揚するものである」と佐々氏は述べている。(『平時の指揮官有事の指揮官』)
 まさに小出監督のやる気が高橋選手をはじめ、まわりに伝播し共通の目標にまで高まった。
 また、「共通の目的」として最も効果的で、かつ最もよく使われている政策は「危機意識」を持たせることであるとも佐々氏は述べている。
 金メダルを獲得するまでの高橋選手には、多くの危機があった。危機があるたびにスタッフは連帯感を強くした。そして金メダルという目的を認識していった。
 2000年3月12日、名古屋国際女子マラソンが行われた。シドニーオリンピックの女子マラソンの最終選考会である。
 積水化学の高橋尚子選手は、2時間22分19秒で優勝を成し遂げた。翌13日には、代表選手が発表され、高橋選手は選ばれた。
 テレビ中継を私も見ていた。重圧の中で、高橋選手は勝つことができるのだろうか。2時間22分台を出せるのだろうかと見守った。22分台が選考の基準であった。
 最初5キロまではトップを走っていたがそれ以後、2番手で先頭の後ろを走っていた。「なぜ先頭を走らないのだろうか」とずっと疑問に思っていた。22キロを過ぎてスパートをかけ、独走体勢に入りそのまま優勝した。
 ゴールした瞬間、高橋選手は小出監督に「これで大丈夫ですよね」と声をかけた。小出監督は「よくやった、よくやった」とだけ言った。
 代表選手になるという目的が達成されたのである。

3.役割意識を持つ

 ヒーローインタビューが行われ、風が相当に強かったことが語られた。自分の判断で、自然に22キロ付近でスパートしたという。高橋選手は頭に冠せられていた月桂冠を小出監督に被せた。
 夜のNHK「サンデースポーツ」では、高橋選手、小出監督が出演していた。満面笑みの高橋選手の顔は美しく輝いていた。満足感がただよい、苦しさを乗り越えた達成感が滲みでていた。
 そのインタビューで風を避けるために先頭を走らなかったと語っていた。6〜8メートルの風があり、先頭を走れば4〜5分は遅くなったという。
 小出監督の話では、先頭が100の力を使うとすると、後ろは20くらいですむと話していた。それほど名古屋の風は強かったのである。
 名古屋マラソンの前に徳之島で合宿をしていた。「なぜ、徳之島で合宿をするのだろうか」とずっと疑問に思っていた。
 小出監督の話で氷解した。徳之島の風は強いのである。私も徳之島の海岸線を車で回ったことがあるが、立っていい場所だったのである。
 名古屋に対する万全の対策がされていた。作戦も練りに練られ、体が自然に反応するくらい、イメージトレーニングも十二分になされていた。
 選手と監督とスタッフの役割がきちんと出来ていたのである。名古屋マラソンで勝つためにはどんな練習をすればよいのか、どんな走りをすればよいのか、どんな食事をすればよいのかスタッフの役割が分担されていた。
 それぞれの役割をきちんと果たすことが金メダルへの条件であった。

4.仲間意識を持つ

 朝日新聞の「天声人語」は次のように紹介している。

 たとえばそんなふうに、マラソンのレース運びは微妙で、むずかしいものらしい。
 高橋尚子選手の名古屋国際女子マラソン優勝は、大変なことだ。しかし、二選手の体験談を読むと、これは考える以上に偉業なのだ、と思えてくる。
 なにしろ挫折につぐ挫折。「いつ振り返っても、時間は世界選手権を故障欠場した「去年の八月で止まったままで」「十月、十一月も暗い日々を送っていた」うえ、今度のレース前の調整も狂っていた。最後の名古屋で好タイムで優勝しなければ、五輪への切符は手に入らない。五輪以上の重圧だったに違いない。
 小出監督は「大丈夫だよ。大丈夫だよ」と励まし続けた。高橋さんもこたえた。「だんだんその気になってきて、これまで全部否定だったものが全部肯定になるチャンスが名古屋にはある、って切り替えたら、それを全部プラスにしようって気持ちで臨むことができて」。褒めること、安心させることの大切さ。
 「この子は人がいい仕事をしときに、同じく自分で喜べる心を持っているんですよ。すなおに一緒に喜べる。人間これが大事かなって、ぼくも教えてもらってるんですよ」。小出さんのこの話もいい。

 ここで紹介されている内容は、「サンデースポーツ」で二宮清純氏の質問に答える中で語っていた。
 この語りの中に二人の仲間意識の強さが出ている。小出監督は「大丈夫だよ。大丈夫だよ」と励まし続けたという。選手を全面的に信頼し受け入れる。全てを受け入れてくれる人間に対してだけ、心を開き全てを任せることができる。
 「ぼくも教えてもらってるんですよ」という小出監督の言葉に、二人の関係が滲み出ている。共通の目標に向かって、役割を分担して、仲間意識を持って取り組んでいる姿が伝わってくる。
 同じ日の朝日新聞スポーツ欄に西村欣也氏は次のように書いている。

 それは確かに、美しい形容してもいいシーンだった。十二日の名古屋国際女子マラソン。優勝した高橋尚子は小出監督に抱きついた。「監督がいつも太陽なように私を照らしてくれました」「おれについてくれば大丈夫、と監督はいつも言ってくれました」

 「監督がいつも太陽なように私を照らしてくれました」は、優勝インタビューで語った言葉である。いつも自分を暖かく受け入れてくれる人間がいれば、プレッシャーにも負けずに自己の力を発揮できる。
 「これまで全部否定だったものが全部肯定になるチャンスが名古屋にはある、って切り替えたら、それを全部プラスにしようって気持ちで臨むことができた」心境は素晴らしい。
 信頼出来る師に巡り会えた人間は幸せである。期待に答えてくれる弟子をもった師も幸せである。二人の仲間意識がシドニーオリンピックでの金メダルをもたらしたのである。
 学校づくりも教職員の仲間意識が大切なのである。



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