菅直人首相は、ある外交官に言わせると、「外交・安全保障問題に関心も自信もない」とのことです。それで、その手の案件は基本的に仙谷由人官房長官に丸投げしており、仙谷氏が仕切っているというのが実情のようです。確かに、日韓間、そして周辺諸国との間の新たな波乱材料となりそうな菅首相談話にしても、首相自身のリーダーシップや思い入れで進めたというよりも、仙谷氏や鳩山由紀夫前首相の主導で進められたのが明白ですね。
そこで本日は、少し長くなりますが、菅首相の安保認識の一端を示すであろう事例を紹介したいと思います。新聞各紙はすでに取り上げていますが、ここでは、あるがままを判断してもらうため言葉の省略なしに、そのままお伝えします。
ちょっと以前のことですが、今月2日の衆院予算委員会で、菅首相と自民党の石破茂政調会長との間で、次のような質疑がありました。
《石破氏 どうやって国益を確保するか。軍事による国益の確保。これが有効に機能するためには、一つは最高指揮官たる総理大臣が安全保障について正確な知識を持つこと。もう一つは専門家である制服の意見を虚心坦懐に聞くことです。これが無ければ有効な文民統制は機能しえない。
普天間問題を尋ねるが、何でこんなんに迷走したのか。鳩山前総理が、統合幕僚長、航空幕僚長それぞれすぐれた見識を持った自衛官から何度、直接話を聞いたのか。現在の状況について。なぜ沖縄に海兵隊が必要かについて何度、意見を聴取したか。総理の日誌を見る限り無かった。菅さんが就任以来相当な日がたっている。防衛大臣を通じてではなくて、自衛隊の最高指揮官として今まで何回制服組から意見を聞いたか
菅首相 普天間の問題については、政権のこういう総理という立場になったときに、最も今取り組まなければならない最重要課題の最上位に近い一つという認識を持ちました。そこでまずはそれまでの経緯を直接にも聞こうということで、もちろん防衛大臣、外務大臣はもとよりですが、その元のいわゆる防衛省、外務省のスタッフから何度か話を聞き、また官房の方からもいろいろな形でみなさんとの状況把握につとめました。また、沖縄の関係者についてもまだまだごく限られた中ではありますが話を聞きました。
自衛隊幹部との会話はいろいろな防衛大綱の問題とかそういう会議の席では同席はしているが、まだ個別の沖縄のことについて、話を聞くという機会はまだ設けておりません。順番にそういう話をする中で、今の石破議員の話もありますので、機会をみつけて話を聞きたいと思っています。
石破氏 一度も聞いていないのはよく分かりました。総理、自衛隊の最高指揮官として直接意見を聞く機会はもっと設けるべきです。きちんとそれを聞いていれば普天間問題はこんなに迷走したはずがありません。彼ら命をかけて平和と安全を守っている。日米同盟は日米だけのものではありません。極東の平和と安定、それを目的とされている。命をかけて日米同盟を遂行している米軍の能力がどうであり、あるいは他の能力がどうであり、そのことを命をかけて一番知っているのは自衛官じゃないですか。この国において(首相と制服自衛官との会話が)行われないのは極めておかしい。直接聞く機会を設けるのは是非お願いしたい。もう一度。
菅氏 そういう機会はできるだけ早い段階で設けたいと思います。》
参院選敗北後はひたすら低姿勢となり、予算委でも怖い先生(石破氏)から指導を受けているように神妙な面持ちだった菅首相はそれから17日後、実際に統合・陸海空4幕僚長と首相官邸で初めて意見交換の場を持ちました。こんなの、わざわざメディアのカメラを入れて仰々しくやる性質のものではなく、日常的にさりげなくやればいいのにとも感じましたが、まあ、とにかくやらないよりはマシです。
ただ、このときの菅首相の言葉にはだれもが絶句していました。まずは、意見交換会の冒頭あいさつ前に、菅首相と北沢俊美防衛相が交わした脳天気でピント外れな会話を聞いて、周囲に動揺が走りました。この国は大丈夫だろうかと…。
《菅首相 大臣だけが背広組で、寂しそうですね。
北沢氏 夏休みとらせてもらって、今日復帰したんです。
菅首相 そういう意味ではなくて、制服を着ている…
北沢氏 お互い元帥だけど、制服作ってくれない。
菅首相 昨日、事前にですね。予習をしましたらね。あの、大臣は自衛官じゃないんだそうです。制服はしなくても上なんですよね。
北沢氏 この皆さん(各幕長等)も退任するときは(制服を)返していく。それで後の人が着るかと思えば、そうじゃない廃棄するから。人生の一番の記念品だからなあ。あげりゃあいいと思うんだけど。
菅首相 大臣いいんですか?(挨拶をする順)まず大臣が。
北沢氏 いえいえ総理からじゃないですか?》
背筋が寒くなるような菅首相による「怪談」話はまだ続きました。あいさつに立った菅氏は、今度はこんなことを述べました。マキャベリは、君主が最優先で考えなければいけない問題は「軍事」だという趣旨のことを書いていますが…。
《菅首相 本日は自衛隊、特にいわゆる制服組の幹部の皆さんにこうして、来ていただいてありがとうございます。まず日頃からアデン湾の海賊対策とかハイチの緊急援助とか、さらには宮崎県の口蹄疫などにおいてもそれぞれの陸海空それぞれが大変頑張っていただいていることを私からも感謝を申し上げます。
まあ日頃から、大臣や比較的制服ではない背広組の皆さんとの会話は多少あるんですが、制服組の皆さんとは、観艦式とか、いろいろなセレモニーではご一緒するんですが、なかなかあの、お話をお聞きする、あるは意見交換をするという機会が少ないということもありまして、私もそういう指摘も国会の中で聞かれたもんですから、是非直接のご意見を聞かせてもらいたいと言うことで今日はお集まりいただきました。
いずれにしても、我が国の国民の平和のために働いてくれる自衛隊の役目は、ますます大きな役目を果たしていかなければいけないと言うことで、私も改めて法律を調べてみましたら、総理大臣は内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有するというふうにされております。そういう自覚を持って、皆さん方のご意見もしっかりと拝聴しながら今後のそういう仕組みを果たす役目を担っていきたいと考えておりますので、今日は忌憚のない話しを聞かせていただきたいと、そのことをお願いしてあいさつとします。よろしくお願いします。》
ここから実際に、菅首相と4幕僚長との間でどんな意見交換がなされたかは分かりません。1時間ちょっとの意見交換会後、折木統合幕僚長分は記者団に次のように語りました。
《記者 総理の方からはどのような。
折木氏 こういう機会をいただいて、我々としても、大変意義のある時間を過ごすことができました。自衛隊に対する色んな意見を交換することができましたし、またご指導をいただきました。内容については、色んな個別的なことになりますので控えさせていただきたいと思いってますけども、非常に充実した時間だったというふうに思っています。
記者 総理が一番関心を持って聞かれたことは。
折木氏 そこのところも、全般色々ございまして、コメントを差し控えさせていただきたいと思っております。
記者 統幕長の方から概算要求のこととかは。
折木氏 特定のこととかではなくてですね、時間も1時間という時間だったんですけども、色んなお話しをさせていただきましたので、そういう概算要求とか特定の話だけではなくて、色々とお話をさせていただいたということでご理解願いたいと思います。
記者 繰り返しになりますが、今回民主党政権になってはじめて、こういう場を持たれたことの意義については。
折木氏 民主党政権下というよりも、我々の最高指揮官でございますので、そういう意味で時間をいただいて、意見交換できたというのは非常に意義のあることだという風に思ってます。大変、ありがたいことだと思ってます。
記者 総理が冒頭、大臣は自衛官じゃないと昨日初めて知ったとか、率直な発言があったが、総理の自衛隊あるいは文民統制のご認識というものは、今日意見交換されて…。
折木氏 いや、あれは、本当に冗談の話だと思いますので。非常にそういう指揮官としての立場というのは十分ご自覚されているうえでのお話しだと私は認識しております。
記者 総理からまたこういう機会を求めたいというような話は。
折木氏 また、必要に応じて、こういう機会を設けていただければというふうに、私の方は思っておりますが。
記者 パキスタンへの派遣の話は懇談ででましたでしょうか。
折木氏 ええ、一部ございました。それは大臣の方からお話があると思います。大臣の方でされていると思います。》
さて、折木統幕帳は「冗談だと思う」とフォローしていましたが、どうなんでしょうね。ジョークにしては、あまりに切れがないというか、誰もウケないどころか相手を青ざめさせるだけで無意味というか。これについて、意見交換会の発端となった石破氏は20日のブログで、こう書いていました。
《菅総理が四幕僚長と初めての会合を持ち、新聞によれば「石破の提言を受け入れ、野党に一定の配慮を見せた」ことになっています。
こんな会合は実にあたりまえのことで、野党に一定の配慮とかそういう性質の問題ではありません。定期的に開くべきですし、総理は常に制服組の意見を真摯に聞くマインドを持つべきです。
そもそも防衛局長、事務次官、大臣の了承がなければ制服トップが総理に会うこともできないこと自体がおかしい。それでは伝達が遅くなるし、生の情報が伝わりません。「軍の暴走」が不安なのであれば彼らも同席し、見解が異なるのであればそれを述べればいいだけの話です。
それにしても、総理が「昨日勉強してみて、防衛大臣は自衛官ではないこと、内閣総理大臣は自衛隊の最高指揮官であることが法で定められていることを知った」と発言したというのは、会合後折木統合幕僚長がコメントしていたように「単なる冗談」であったと信じたいものです。もしそうでないとしたら!!!・・・絶句するしかありません。
それでもきちんと会っただけ、鳩山前総理よりは遥かにマシで、誠実だと評価します。》
確かに私も、菅首相就任時、「現実主義者」を自認しているぐらいだから、現実と変に遊離した「ルーピー」と呼ばれた人物よりはマシだろうと予想していたのですが、最近は同僚たちからも「どっちもどっちなのでは」という声をよく聞きます。4幕僚長と会ったのだって、参院選に勝っていたら、石破氏の言葉なんて歯牙にもかけなかっただろうし。
かといって、「起訴される可能性がある方が代表、首相になることに違和感を感じている」(岡田克也外相)というのもまさしくその通りだしねえ。有権者の投じた1票の重みが、どっしりとのしかかってきています。
小沢一郎氏が首相になったら日本はどうなるか。周囲にも「怖いもの見たさ」で一度やらせてみたいという人や、その方がいっそすっきりするという人はけっこういますが、私はやはり強い抵抗感を覚えます。それこそ冗談じゃない、と。それに、そうなると私は迷惑防止条例違反か何かで逮捕でもされるんじゃないかと、そんな心配も…。
by xxg5678tr8g
民主党代表選と西岡参院議長の…