「息、止まってるよ」。ある日突然、妻に指摘された。長い間不眠に悩み、首筋にはいつも寝汗をかく。不安がよぎり、自宅近くの病院を訪ねた。就寝中の検査を受けた結果、7時間の睡眠でいびきは844回、10秒以上の呼吸停止は計102回あり、最長2分間続いた。医師は「立派な睡眠時無呼吸症候群です」。新幹線の居眠り運転で世間に知れ渡った病名である。睡眠中に舌の奥などが垂れ下がって気道をふさぎ、呼吸ができなくなる。加齢や肥満が原因とされ、頭痛、記憶障害、突発的な心停止、高血圧、糖尿病を誘発するとされる。患者は推定200万人とも300万人ともいわれる。
空気圧で呼吸が楽になる治療法を試そうとしたが、予約待ちで装着は2カ月以上先。待っていられず、日大松戸歯学部付属病院のスポーツ・睡眠健康歯科を訪ね、マウスピースを装着して寝る治療法を試した。すると、これまでにないすっきりとした寝起きだ。疲れて体力が持たない悩みも解消し、少々大げさに言えば「人生が変わった」。
渡り鳥やカツオのような回遊魚は脳の半分を眠らせ、残り半分で体を動かすとされる。不器用な人間は寝られないと疲れがたまり、ストレスの原因になる。 「QOL(生活の質)の問題。眠れなくても死なない」と不眠は医学的に軽視されてきたが、自殺者が12年連続で3万人を突破する中、うつ病と不眠の関係が指摘され、最近は不眠の研究・治療が本格化している。
「眠りは生きることの活力源」。がんと闘うジャーナリスト、鳥越俊太郎さんは、専門医の塩見利明さんとの近著「眠って生きろ」でこう言っている。健康に不安がある場合、一度、自分の睡眠を点検するのも一考と思うがいかがだろう。【船橋支局長・橋本利昭】
毎日新聞 2010年8月24日 地方版