IWCセントキッツ・ネーヴィス 現地レポート・ブログ

IWCセントキッツ・ネーヴィス会議を終えて

水産庁 森下丈二 漁業交渉官からのメッセージ

会議を終えたばかりの水産庁 森下丈二 漁業交渉官より,鯨ポータル・サイト読者のみなさんに向けたメッセージを受け取りましたので,ここに紹介致します。(鯨ポータル・サイト編集室)


セントキッツ・ネーヴィス宣言の衝撃

今回のIWCで一番大きなポイントは,やはり3日目の「セントキッツ・ネーヴィス宣言」でしょう。鯨類資源の持続的利用を主張する我々の宣言が採択されたことは,大きな意味を持ちます。過去を振り返ると,商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)ができてから,我々の主張は投票になると負け続けてきました。それがじわじわと票数の差が詰まってきて,そしてとうとう今回,正面から当たってはじめて過半数を取ったわけです。

インターネットライブ中継を見ていた人はわかると思いますが,セントキッツ・ネーヴィス宣言が採択された後の騒ぎを見れば,反捕鯨国のショックの大きさが理解できるでしょう。採択後に「(持続的利用支持国の)アイスランドの票は認めない」と言い出したり,あの反捕鯨国の混乱ぶりは,はじめて負けて衝撃を受けた現れです。この宣言が採択されたことで,すぐ商業捕鯨再開というわけではないのですが,この宣言がこれからの動きを大きく変えていくというのは誰にでもわかることです。

会議の流れを見ると,我々は2日目にIWCの正常化を主張し,3日目にIWC正常化を盛り込んだ宣言が採択され,正常化準備会合を4日目に実施しました。順番がうまくかみ合ったのです。正常化準備会合は,ともすれば持続的利用支持国のみ集まって「IWCの両極化を増幅する」というリスクもありました。しかし「参加をオープンにする」という呼びかけに37か国もが集まり,その中にはアメリカ,オーストラリア,オランダ,スウエーデンなどいわゆる反捕鯨国も参加していました。それらの国は発言こそしませんでしたが,会議の内容を聞いて,決して我々が変な思惑を持っているわけではない,ということを感じてもらえたはずです。正常化会合は,来年1月か2月に日本で行う予定ですが,そこでの話し合いも,透明化して公表していく予定です。鯨ポータル・サイトの読者のみなさんも楽しみにしておいてください。

ビジョンは「対決でなく対話」

今回は,会議の後半から雰囲気が変わりはじめました。会議前半の「対決姿勢」ということが薄れていったのです。ここにポイントがあると思います。

セントキッツ・ネーヴィス宣言が採択されたことは確かに大きいことなのですが,1回過半数を取っただけで,それも1票という差です。当然反捕鯨の国も,いろんな方法で巻き返してくるでしょう。一つ言えることは,お互いが票を増やしながら過半数を取り合ったり,4分の3を取り合ったりというような姿勢だと,結局今の分裂が続いてしまいます。商業捕鯨モラトリアムを外すには4分の3の票が必要ですから,これはそう簡単には動かない数字です。

そもそも,「対決が中心だ」という議論は変えなければいけないと思います。今回の宣言採択は,逆にそのきっかけになっているのかもしれません。次回からの議長がアメリカから,副議長が日本から選任されました。反捕鯨と持続的利用という,立場が異なる二つの国が選ばれたわけですが,これがいい方向に動くと,IWCももう少しまともな議論ができてくると思います。我々としては,捕鯨再開,捕鯨文化を認めてもらうということに,「合意」はできなくても,「対話を通じて受け入れる」という雰囲気が生まれていけばいいと思うのです。

ちょうど,来年のIWCはアメリカのアンカレッジで開催されます。来年は,先住民生存捕鯨の枠が5年ぶりに改正される年です。アメリカも関係が深い先住民生存捕鯨をどう議論するかを,「対決でなく受け入れ」という姿勢で,両方が勝った,という形で落とし込みたいと思っています。とてもむずかしいですが,がんばります。

海外メディアの反応の違い

今回,たくさんの海外メディアに取材を受けましたが,圧倒的にオーストラリアとニュージーランドが多かったです。ただ,両国のメディアは特異なところがあり,偏っています。今回のようにIWCで持続的利用支持国が過半数を取ったら,「あっと言う間に世界の鯨が取り尽くされてしまう」「「日本は票を買ったり,悪いことをしている」という論調で記事を展開するのです。

これに対して他の反捕鯨国のメディア,たとえばアメリカなどは,比較的さめた目で見ている,という感じでしょうか。海外メディア向けに作った「ブリーフィング資料」が効いているかはわかりませんが(笑)。

IWCに感情的な部分があるのは,メディアにも責任があります。センセーショナルな見出しと写真を載せるとメディアは売れるし,対決があるほうがおもしろく見える。そもそも,本会議をメディアに公開するというのは日本が要求して実現したことです。今では,インターネット中継もやっていますね。それまでは,閉じた中の会議の内容を,反捕鯨NGOがバイアスのかかった情報を流している状況でした。それをメディアに公開することで,公平に見てもらい,メディアに判断してもらおうと思ったのです。うまく行ったところもあるし,先ほど言ったようにうまく行かないところもある。メディアには,ジャーナリズムの正しい姿を期待したいです。

ブリーフィング資料は,日本語版も用意しています。クジラの持続的利用をめざす考え方が書かれていますので,鯨ポータル・サイト読者のみなさんも,ぜひご覧ください。


去年に続き,今年も森下丈二 漁業交渉官作成のブリーフィング資料の最新版が公開されています。捕鯨問題を考えるための入門資料としてぜひご活用ください(AdobeAcrobatReader等のPDF形式が読めるリーダーが必要です)。

ブリーフィング資料→http://www.icrwhale.org/eng/58BriefingNoteJap.pdf

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