2006年06月22日 12:00 IWCセントキッツ・ネーヴィス会議を終えて
水産庁 森下丈二 漁業交渉官からのメッセージ
会議を終えたばかりの水産庁 森下丈二 漁業交渉官より,鯨ポータル・サイト読者のみなさんに向けたメッセージを受け取りましたので,ここに紹介致します。(鯨ポータル・サイト編集室)
セントキッツ・ネーヴィス宣言の衝撃
今回のIWCで一番大きなポイントは,やはり3日目の「セントキッツ・ネーヴィス宣言」でしょう。鯨類資源の持続的利用を主張する我々の宣言が採択されたことは,大きな意味を持ちます。過去を振り返ると,商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)ができてから,我々の主張は投票になると負け続けてきました。それがじわじわと票数の差が詰まってきて,そしてとうとう今回,正面から当たってはじめて過半数を取ったわけです。
インターネットライブ中継を見ていた人はわかると思いますが,セントキッツ・ネーヴィス宣言が採択された後の騒ぎを見れば,反捕鯨国のショックの大きさが理解できるでしょう。採択後に「(持続的利用支持国の)アイスランドの票は認めない」と言い出したり,あの反捕鯨国の混乱ぶりは,はじめて負けて衝撃を受けた現れです。この宣言が採択されたことで,すぐ商業捕鯨再開というわけではないのですが,この宣言がこれからの動きを大きく変えていくというのは誰にでもわかることです。
会議の流れを見ると,我々は2日目にIWCの正常化を主張し,3日目にIWC正常化を盛り込んだ宣言が採択され,正常化準備会合を4日目に実施しました。順番がうまくかみ合ったのです。正常化準備会合は,ともすれば持続的利用支持国のみ集まって「IWCの両極化を増幅する」というリスクもありました。しかし「参加をオープンにする」という呼びかけに37か国もが集まり,その中にはアメリカ,オーストラリア,オランダ,スウエーデンなどいわゆる反捕鯨国も参加していました。それらの国は発言こそしませんでしたが,会議の内容を聞いて,決して我々が変な思惑を持っているわけではない,ということを感じてもらえたはずです。正常化会合は,来年1月か2月に日本で行う予定ですが,そこでの話し合いも,透明化して公表していく予定です。鯨ポータル・サイトの読者のみなさんも楽しみにしておいてください。
ビジョンは「対決でなく対話」
今回は,会議の後半から雰囲気が変わりはじめました。会議前半の「対決姿勢」ということが薄れていったのです。ここにポイントがあると思います。
セントキッツ・ネーヴィス宣言が採択されたことは確かに大きいことなのですが,1回過半数を取っただけで,それも1票という差です。当然反捕鯨の国も,いろんな方法で巻き返してくるでしょう。一つ言えることは,お互いが票を増やしながら過半数を取り合ったり,4分の3を取り合ったりというような姿勢だと,結局今の分裂が続いてしまいます。商業捕鯨モラトリアムを外すには4分の3の票が必要ですから,これはそう簡単には動かない数字です。
そもそも,「対決が中心だ」という議論は変えなければいけないと思います。今回の宣言採択は,逆にそのきっかけになっているのかもしれません。次回からの議長がアメリカから,副議長が日本から選任されました。反捕鯨と持続的利用という,立場が異なる二つの国が選ばれたわけですが,これがいい方向に動くと,IWCももう少しまともな議論ができてくると思います。我々としては,捕鯨再開,捕鯨文化を認めてもらうということに,「合意」はできなくても,「対話を通じて受け入れる」という雰囲気が生まれていけばいいと思うのです。
ちょうど,来年のIWCはアメリカのアンカレッジで開催されます。来年は,先住民生存捕鯨の枠が5年ぶりに改正される年です。アメリカも関係が深い先住民生存捕鯨をどう議論するかを,「対決でなく受け入れ」という姿勢で,両方が勝った,という形で落とし込みたいと思っています。とてもむずかしいですが,がんばります。
海外メディアの反応の違い
今回,たくさんの海外メディアに取材を受けましたが,圧倒的にオーストラリアとニュージーランドが多かったです。ただ,両国のメディアは特異なところがあり,偏っています。今回のようにIWCで持続的利用支持国が過半数を取ったら,「あっと言う間に世界の鯨が取り尽くされてしまう」「「日本は票を買ったり,悪いことをしている」という論調で記事を展開するのです。
これに対して他の反捕鯨国のメディア,たとえばアメリカなどは,比較的さめた目で見ている,という感じでしょうか。海外メディア向けに作った「ブリーフィング資料」が効いているかはわかりませんが(笑)。
IWCに感情的な部分があるのは,メディアにも責任があります。センセーショナルな見出しと写真を載せるとメディアは売れるし,対決があるほうがおもしろく見える。そもそも,本会議をメディアに公開するというのは日本が要求して実現したことです。今では,インターネット中継もやっていますね。それまでは,閉じた中の会議の内容を,反捕鯨NGOがバイアスのかかった情報を流している状況でした。それをメディアに公開することで,公平に見てもらい,メディアに判断してもらおうと思ったのです。うまく行ったところもあるし,先ほど言ったようにうまく行かないところもある。メディアには,ジャーナリズムの正しい姿を期待したいです。
ブリーフィング資料は,日本語版も用意しています。クジラの持続的利用をめざす考え方が書かれていますので,鯨ポータル・サイト読者のみなさんも,ぜひご覧ください。
去年に続き,今年も森下丈二 漁業交渉官作成のブリーフィング資料の最新版が公開されています。捕鯨問題を考えるための入門資料としてぜひご活用ください(AdobeAcrobatReader等のPDF形式が読めるリーダーが必要です)。
ご意見・ご感想については,下記にコメント/トラックバック頂くか(日本語のみ),kujira@e-kujira.or.jpまでメールをお願い致します。(鯨ポータル・サイト編集室)
固定リンク [http://blog.e-kujira.or.jp/iwc2006jp/entry/199]
- # 石川誠人 2006-06-22 14:13:39
- はじめまして。私は今ニュージーランドに住んでいるのですが、やはりメディアの脅威を感じます。最初の頃(10年位前)は、オーストラリアやニュージーランドで日本人が必ず聞かれる質問「鯨問題についてどう思うか」というのが不思議でした。正直考えたことも無いというのが当時の返答でした。しかし最近6時のニュースで、連日血だらけの海を報道されるのを見てある疑問が生まれました。「これは放送していいのだろうか」というものです。もちろん真実を知る権利は尊重するべきだと思います。しかし、牛や豚はスーパーマーケットで作っているかのような幻想を保護して、鯨だけ食事時のテレビ番組で殺してキャスターは「悪い奴がいます。」と報道。環境保護団体のやさしそうなお姉さんは、嘆き悲しんでました。なぜ比較的緩やかな外交を行う日本が、これだけの批判を受けながら主張を続けるのかという事にとても興味を持ちました。その際ICRのホームページは大変参考になりました。英語ホームページのおかげでこちらの友人との話し合いの中でも、鯨の種類についてや日本人が鯨が嫌いなわけではないという基本的なことから海上資源の重要性や将来の環境特に人口問題のことなど、話し合える機会を持てて幸いです。私のような一般市民では、このように偏見を持った人について、1人、2人という単位でしか誤解を解いていくことは出来ないですが、少しだけども偏見を取り払ったまともな話し合いが持てるよう変わっていけたらと思います。あなたたちのホームページや活動には励まされると同時に誇らしく思います。これからも、反対意見にめげることなく活動を続けてください。
なお、資料を色々読むうちに、反対国は、主に日本に対する牛肉輸出国のように感じたのですが、そういう観点での資料は手に入るのでしょうか。少しタブーとされるところのようにも感じるのですが、やはり輸出入の利害関係が強く影響しているような気がしてなりません。そしてその影響力とグリーンピースとの兼ね合いについても興味を持っているのですが、重い過ごしでしょうか? - # Nana Kurosaki 2006-06-22 14:24:03
- Why not you farm the whales in Japan sea and don't come to Australia and steal the whales. Whatever you say we don't agree the things you are doing and you will make the whales disapear from the earth.
- # David 2006-06-22 14:45:20
- 森下さん、
コメントありがとうございました。
週末の間に、興味深く生放送を拝見しました。おかげで、英語のblogでIWC58の情報をいっぱい記録するとことができました。
僕はニュージーランド人ですが、捕鯨というのが、「持続的利用」の一例ということを理解しており、日本の立場は正だと思っています。今ごろ、鯨だけではなく、他の動物に関しても世界中様々な人たちは攻められるようになっているわけで、非常に残念に思っています。苦しんでいるのは、日本人だけではありません。ニュージーランドは母国ですが、週末にIWCの総会の場面を見て、恥を感じてたまりませんでした。僕には自分一人ニュージーランド国民として、できることだけはやっていきたいと思います。
幸いに、世論の中で変化が起こっています。ニュージーランドで人気のあるwww.kiwiblog.co.nzでは捕鯨の話題は取り上げられたのですが、そちらのコメントの中で、「持続的利用」に理解を示したコメントは今年以外に多かったです。
また、科学的な調査ではありませんが(笑)、ニュージーランドの大手新聞もネットで意見調査を行ったところ、過半数の参加者は商業捕鯨に理解を示したのです。
http://stuff.co.nz/stuff/poll/viewresults/1,1294,13828|10,00.html
こういうふうに理解は毎年高まっているというふうに認識していますから、政府もそのうち立場を和らぐに違いないと思います。
週末に、森下さんのAUSとNZに対する反論は素晴らしかったと思います。僕もこれから頑張って、興味のある人たちに正しい情報を提供していきたいと思います。「持続的利用」という原理は幅広く人に評価してもらわないといけないと思います。
e-kujira関係者の皆様も、ありがとうございました。お疲れ様でした。 - # ぽい 2006-06-22 19:27:56
- おつかれさまでした〜m(_ _)m
- # noe 2006-06-23 18:38:06
- 初勝利ですね! 勝利した後の、反捕鯨側の狼狽ぶりが映像で見られておもしろかったです。これからもがんばってください。
- # Joji Matsumoto 2006-06-23 23:04:22
- 今回の会議で捕鯨支持国の主張が認めらたことをうれしく思います。私はオーストラリアのパースに住んでいますが、こちらの新聞の反捕鯨の狂信的な報道に接して、いやな思いをしていました。
日本がいかにも残酷な野蛮国であるかのように、意図的に日本の捕鯨船の鯨を捕獲するシーンを新聞紙上に載せることに、いやな思いをしていました。今回の会議の結果、メディアの報道が変わるといいのですが、こちらの人たちの反捕鯨の姿勢は狂信的なもので理性的に考える能力を失っているように思います。こちらでは、羊や牛などの家畜を生きたまま船に乗せて、アラブの国へ輸出して現地で殺されて食用に供されるわけでが、この方がもっと野蛮で、残酷と思いますがなんとも思わないようです。自分の文化、習慣は正しくて、それ以外の文化は野蛮だと決め付ける偏狭な姿勢が我慢できないのです。 - # やす 2006-06-24 07:47:43
- ブリーフィング資料読みました。日本の主張がわかって勉強になりました。
- # crawlingchaos_g 2006-06-26 12:42:42
- お疲れ様でした。
今回の総会で「セントキッツ・ネーヴィス宣言」が可決されたことは、たいへん喜ばしいことですね。
- # Y/H 2006-06-29 22:43:10
- 大変お疲れ様でした。堂々と反捕鯨国相手に主張される姿に日本はまだまだ捨てたものじゃないなと思いました。しかし某反捕鯨NGOのオブザーバー権剥奪が議題はのらなかったのは至極残念。(ニューズウイーク日本版にごり押しをしなかったと書いてありましたが)これからもがんばってください。
- # ミンクたまお 2006-07-01 03:55:33
- クジラ食害論という世界の珍説を是認したという意味では、
「セントキッツ宣言」は、おそらく国際機関の採択した珍決議の仲間入りをするのではないか、ということはさておくとして、
喜納参院議員の質問に対して全く応えようともしない態度には、ある意味で驚きを覚えました。
喜納参院議員の質問は、極めて控えめ極まりない質問といえます。
ソロモンなど一部の国ではもはや公にされている
投票買収行為の真相、
もし不適法な事実があるとするならば、
法に基づいた処断こそ必要であるとすら
いえるのかも、知れません。 - # たごさく 2006-07-04 02:48:04
- 給食でさんざんまずい鯨を食べさせられ、鯨を食べたいとは思わない世代なので、生態系保護とか、地球規模の環境保全の中にあって、どうして鯨を食べろといわれるのか分からない。
今の鯨は美味しいのかも知れないけれど、年を取るほどに、動物は食べたくなくなる。
大海原を泳ぐ鯨のほうが私は好きです。
1票差とか。命って悲しいものです。
私たちも切り捨てられる側ですから、多数決の怖さを痛感します。
先は短いですが、鯨を食べることはこの先、一生しないでしょう。
そういう人も、少なくないと思いますよ。 - # yos 2006-07-05 10:15:47
- ニューズウイーク日本版、読みました。冷静な論調でしたね。やはり、海外メディアにも捕鯨に対する理解が少しずつ進んでいるということでしょうか。