コラム

ジョージ・ソロスがバッド・バンクに反対 (2009/01/25)

ジョージ・ソロス(George Soros)氏のホームページに現在の金融危機に対する新しいコラムが載っていたので紹介したいと思います。

原文はこちらをお読み下さい。(英語は得意ではないので、適当な部分もあるかと思いますが、ご容赦ください。。)
The right and wrong way to bail out the banks

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金融機関救済の正しい方法と間違った方法
by ジョージ・ソロス

Published: January 22 2009 20:06 | Last updated: January 22 2009 20:06

   ワシントンの報告書によると、オバマ政権は、不良資産救済計画のための基金として1000億ドルの公的資金を使用して、"アグリゲータ銀行(aggregator bank:公的資金で不良資産を買い取る機関でバッド・バンクとも呼ばれています。)”を設立しようとしているようです。この計画は連邦準備金制度理事会の資産を使用することで、10倍のレバレッジ効果を生み出し、1兆ドルの不良資産を銀行システムから取り除くことができるとされています。

   詳細はまだ決まっていないのですが、このアプローチは、ハンク・ポールソン元米国財務長官が以前に行おうとしていたアプローチを思い起こさせます(しかし、これは結局は破棄されました)。この提案は、不良資産というものは 、その定義からもわかるように、「価格をつけることが困難である」という以前と同じ短所に苦しむことになるでしょう。主要な買い手を導入するということは、不良資産の価格を明確にするという結果ではなく、その価格を歪めるという結果をもたらすでしょう。

   そのうえ、それらの担保というものは均質ではありません。つまり、この事は、たとえ競売という手法を行ったとしても、価値のない資産が売れ残るという逆選択的な方法によって、より劣化した資産がアグリゲータ銀行に残っていくという事を意味しています。多くの銀行は、人為的に価格を高騰させたとしても、自らのポートフォリオを市場に示す余裕はなく、追加救済措置を受けなくてはならなくなるでしょう。最も簡単な解決策は、こうした資産をリングで囲ってしまう事です。これには、連邦準備制度理事会がある限界を超えるところまで広がってしまった損失については吸収することです。

   もし制定されれば、この政策は銀行の生命維持装置を高額な費用をかけて納税者に提供するということになるでしょう。しかし、それでも銀行が競争料金で営業再開するということは無いでしょう。銀行が資本を再形成するためには、十分な利鞘と高い収益が長期間必要になります。

   私は、現実的な評定価格に基づく資本注入計画とそれに続く最低資本金額のカットというものが、経済が再び動き出すためには、はるかに効果的であると考えています。経済の下落傾向は、1兆ドルを大きく超える資本を必要とすることになるでしょう。それは、次第に、良い銀行も悪い銀行も巻き込んでいくことになり、銀行の資産の大部分を政府のものとすることで、既存株主の権利とリスクを薄めていくことになります。

   オバマ政権は、銀行を国有化するか、もしくは、銀行の不良資産を国有化しながら、銀行そのものは個人の手に残すのかという困難な選択に直面しています。最初の選択をとるならば、非常に広い範囲の人々に対して重大な痛みを与えることになるでしょう。それは、銀行の株主たちだけでなく、年金受給者に関しても痛みを及ぼすでしょう。しかし、この対策は、世間の空気を入れ替え、経済を再び回転を始めるでしょう。

   後者の方法は、傷ついている経済の現実を理解し、折り合いをつけなければならないという困難さを避けることができるでしょう。しかし、それは銀行システムをあるジレンマにおくことになるでしょう。つまり、ファニーメイやフレディーマックのような政府が支援した企業(GSEs)が無駄であったことを証明することになります。世論は、銀行がすぐにでも魅力的な条件でお金を貸すことを再開するように求めるでしょう。しかし、銀行は、自らの利益を考えたとき、自己の資本を守り、再建することに集中するでしょうから、これは政府の強権発動によってなされなければならないでしょう。

   政治情勢は、オバマ政権が後者の選択をしようとしていると伝えてきます。銀行の資本増強のため、追加の1兆ドルを拠出することは、議会や有識者が許さないでしょう。なぜなら、ポールソン元米国財務長官が毒をばらまいた井戸を救済するために不良資産救済プログラム(Tarp)に大金を費やしてしまったからです。できることは、Tarpの2番目の部分(残りの3500億ドル)を議会操縦によって緩和することだけでしょう。つまり、オバマ政権が、”アグリゲータ銀行”を解決策とするために、Tarpの残りから最大1000億ドルを取っておくと熟考するように導いていることです。

   株式市場は、金融株に圧力を加えることによって、早期解決を求めています。しかし、この新しいチームは、以前の過ちを繰り返すことを避け、それが徹底的に考え抜かれる前にプログラムを発表するのを避けるべきです。 2つのコースの選択は重要で、 いったん実施されると、それは後戻りできなくなるでしょう。 対策の実施は、選択肢を慎重に評価した結果に基づくべきです。

   バラク・オバマ大統領は、ただ単に以前のチームとの不連続を確立することによる大胆な新しいアプローチによって、彼の公約を充足できます。議会や公衆は、銀行に多くのことをしすぎている一方、追い詰められた家計には十分な対策が取られていないと感じている点で正しく認識しています。政府は、辺境にあるような状態からGSEsを連れ出して、住宅市場を安定させるために、より活発に活用するべきです。それがなされるならば、有識者たちは銀行システムを正常化させるための資本増強に賛成し、議会へ戻ることも可能となるでしょう。

The writer is chairman of Soros Fund Management
Copyright The Financial Times Limited 2009
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 つまり、これは銀行を個人の手に置いておくとまずいよ。政府管轄の公共機関にして、公共のために働くようにしないとという警告ですね。
 確かに銀行は、景気の良い時には莫大な利益を上げて、不況になったら税金が投入される。こうした状況は市場原理からすれば許されることはないはずなのです。しかし、一方で、銀行システムが止まると、他の健全だった事業にも影響が出てしまう。したがって、銀行は経済のインフラということができ、長年の慣習からは外れるのですが、理にかなった意見です。
 こうした考えが、ジョージ・ソロスという投資家から出てくるというところが、面白いところですが、それだけ激しい被害をだしているわけです。(ここのところの認識は重要でしょう)
 
 資本主義の象徴的な存在である銀行が、道路や電力と同じようなインフラになりえる歴史の節目なのかもしれませんね。

[こちらのページもどうぞ]

投資家列伝「ジョージ・ソロス」

著名投資家の知恵「再帰性理論」by ジョージ・ソロス-PAGE1

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