小惑星探査機「はやぶさ」が7年ぶりに地球に帰還し、日本中を熱狂させてからはや2カ月。人気はいまだ衰えず、総見学者は19日、10万人を超えた。老若男女の心をわしづかみにしたはやぶさの魅力は何なのか。カプセルの展示会場に行ってみた。【山寺香】
「感動して、言葉になりません」
JR東京駅前の商業施設「丸の内オアゾ」で15~19日、はやぶさのカプセルなどが一般公開された。見学を終えた自由業、浜田健作さん(34)は、半ば放心状態でこうつぶやいた。「耐熱カバーが部分的に炭化していて、大気圏再突入時の衝撃が伝わってきた。はやぶさは満身創痍(そうい)で帰還し、自らは燃え尽きながらも、卵(カプセル)を地球に生み落としてくれたんです」
カプセルの公開は、7月末の2日間で約3万人を集めた相模原市立博物館(神奈川県)を皮切りに、オアゾが3カ所目。夏休みとあって、初日の15日は午前2時から人が集まり、整理券配布が始まった午前7時には約1800人が行列を作った。
公開されたのは、小惑星「イトカワ」の試料を納めたカプセル本体や耐熱カバー、搭載された電子機器など。カプセル本体の大きさは直径約40センチほど。長時間並んだ割には見学時間はわずか1分ほどと短いのだが……。
前日に大阪から上京し、午前6時から並んだ会社員、松吉由佳さん(28)は、「技術的なことはよく分からないが、はやぶさは通信途絶など何度も危ない目に遭いながら、技術者の呼びかけにけなげに応えてきた。実物を見られてうれしい」と満足そう。千葉県市川市の無職男性(60)も「今時、こんなに奇跡のように明るい話はない。(終戦から27年ぶりにグアムのジャングルから帰還した)横井庄一さんを見た時の感動に似ている」と感慨深げだ。
宇宙を題材にしたゲームキャラクターのぬいぐるみを抱いた男性もいた。福島県の自営業、矢吹圭一さん(39)で「少しでも多くの人に日本の科学技術に関心を持ってほしくて、この格好で来た。はやぶさは本当によく帰ってきてくれた」としみじみ。
カプセルが公開された広場の向かいにある大手書店「丸善」には、はやぶさ関連書籍がずらり。ビル内の飲食店やショップでは、「はやぶさそば」「流星みつ豆」「いん石おむすび」などの特別メニューが用意された。普段はビジネスマンが多いエリアだが、まるでプロ野球の優勝セールのような雰囲気だ。
毎日新聞 2010年8月20日 東京夕刊