6月8日、菅直人氏が第94代内閣総理大臣に就任した。
「第三の道」を掲げる氏の経済政策は、基本的にはこれまでの民主党の路線と変わらない。それは、環境・健康・観光・介護・社会保障という特定産業に焦点を当て、再分配を起点にして成長戦略を考えようとするものであり、基本的に経済への政府介入色が強いものである。
しかしここにきて、注目すべき動きが出てきた。財政再建への積極姿勢である。今度は増税と政府支出増加を同時に行なう。そこには菅氏のブレーンとして知られる内閣府参与・小野善康大阪大学教授の経済理論という裏付けもあるという。
さらに首相は最初の所信表明演説で、超党派での「財政健全化検討会議」の設立を訴えた。民主党、自民党の2大政党が参議院選挙のマニフェストに財政再建を掲げる現状で、財政再建はほぼ日本政治の既定路線になったといってよい。
はたしてそうした路線でよいのだろうか。ここで少し歴史を振り返ってみたい。
回顧録を書かないといわれている日本でも、政治家の回顧録というのはそれほど珍しくない。しかし、日記の公開、しかも生前の公開となるときわめて珍しい。細川護熙元内閣総理大臣の『内訴録』(日本経済新聞出版社)は、そうした数少ない例である。日記の読み解きは難しい。意識的無意識に自己編集が入るし、生前での公刊ともなると事後編集もありうる。しかし、日記には同時代の雰囲気を伝えてくれるという利点がある。
まず気が付くのは、いかに政治家がその時々の問題に拘束され、振り回されるかだ。ウルグアイ・ラウンド、政治改革法案、対米貿易摩擦、国民福祉税構想、北朝鮮有事対応と、わずか8カ月の内閣であっても課題は目白押しだった。
とくに多大な政治的エネルギーを費やしたのが政治改革であった。その過程で、経済問題への対応は後手後手に回った。とくに1990年代前半は、日銀がバブル後もバブルつぶしを続け、アメリカが超金融緩和政策を採用したこともあり、じわじわと円高が進行した時期である。当初景気についてあまり認識のなかった細川首相も、次第に景気対策に意を砕かなければならなくなる。
さて財政問題である。細川政権の人気失墜のきっかけとなったのが、1994年2月3日未明の国民福祉税構想発表である。これは、消費税を廃止し、新たに7%の国民福祉税を創設するというものだった。名称からわかるように、年金などの社会保障の財源としての役割を意識していたし、当時の厚生省はエンゼルプランと称して少子化対策を打ち出してもいた(1995年から実施される)。
このときは連立政権内部の政治問題に発展し、結局取りやめることとなった。細川首相は痛恨の言葉を次のように残している。
「なによりもコメと政治改革に忙殺されて、私自身が本問題につきてとりまとめる余裕をもたず、党に丸投げしおりしこと(即ち大蔵の意向が通りやすき状況)がかかる結果を招きたる原因なり」
しかし、増税はやってきた。1997年4月、橋本龍太郎内閣は、消費税率を5%に上げるなど、総額9兆円に及ぶ負担増を行なう。
残念なことに当事者である橋本元首相は回顧録を残すことなくこの世を去った。その代わりになるものとして軽部謙介&西野智彦著『検証経済失政』(岩波書店)がある。これはいまでこそ再読すべき本だ。当時の人びとはまことに真剣に財政再建に取り組んでいた。96年の総選挙では橋本氏は財政再建を掲げ、そして選挙で勝っている。
「負担増の影響はある。しかし、いま財政や医療保険の改革をやらないと、将来たいへんなことになる」
これが当時の合言葉だった。
もちろん、当時の大蔵省がすべてを仕切っていたわけではなかった。むしろ政界からマスコミまでが財政構造改革という名前のもとに、財政再建に前のめりになっていった。
橋本元首相は、自ら財政再建の目標年度を前倒しした。当時のマスコミの社説は財政構造改革賛成で塗りつぶされている。具体的な数字は最後まで首相は知らなかった。総額9兆円の負担増という数字に驚いたのは、なによりも首相本人だったという。
結局、97年の秋に三洋証券、山一證券、北海道拓殖銀行が相次いで破綻する金融危機が勃発した影響もあり、日本経済はもっとも厳しいときを迎える。その後、必要な情報を上げてこなかった旧大蔵省に、橋本氏は不信感を抱きつづけた。
現在はどうだろうか。あのときとは違う、というかもしれない。あのときとは違って日本の金融システムは安定している。あのときとは違って今回の財政再建は時間をかけて行なう。あのときとは違って、政府支出も同時に増やす。
だが、安心できるのだろうか。
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