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「これからは中国」でホントに大丈夫?

なぜ日系企業でストが起きるのか
本当の理由を話します

第2回:日系企業社員が本音座談会


 中国全土で頻発する労働争議。賃金や待遇への不満からリストラに対する抗議まで原因はさまざまだが、最近は、ホンダ系部品工場をはじめ、日系企業が巻き込まれるケースも増えてきた。実は、外資系企業の中でも、日系企業は今、とりわけ労働争議が置きやすい状況にあるという。日系企業の実情を、そこで働いた経験を持つ4人の中国人が打ち明ける。

 A氏 39歳 男性 電子部品メーカー現役社員

 B氏 45歳 男性 精密機械メーカー現役社員

 C氏 36歳 女性 貿易会社OG

 D氏 36歳 女性 金属加工メーカーOG

――本日、皆さんに集まっていただいたのは、日系企業に勤務しているか、勤務した経験を持つ中国人の方が、日本型経営や日本人経営者に、どんな印象を持っているかお聞きするためです。ここ数年、日本企業が中国へ進出する動きが活発になっていますが、どうお感じですか。

A 進出してくるのは勝手だけど、少なくとも働き先としては、もう日系企業は人気ないよ。工場や店舗をつくっても、都市部で働き手を集めるのは大変だと思う。日本から社員ごと連れてくるなら別だろうけど。

――人口が10億人以上いる国で、日系企業が人手不足に陥るのはなぜですか。

B ケチだからだよ。10年ぐらい前までは、日系企業の給料は、欧米系と並んで高かった。でも、今は中国資本のローカルと変わらない。例えば、ウチのワーカーさんの基本給は月970元(約1万2000円)。これにいろいろ手当がついても、1カ月で1500元(約1万9000円)ぐらいにしかならない。ローカル企業の中には2500元(約3万2000円)の会社もある。昔は評判の悪い外資系と言えば、「台湾系>韓国系>日系」の順だったけど、今は「日系>台湾系、韓国系」と逆になった。

日系企業はケチ。働いても貯金ができない

不動産価格の高騰は労働者階級にも大きな影響を残した(写真はイメージ)

A ウチは、ワーカーが500人いたけど、去年1年だけで80人ぐらい辞めた。都市部に働きに来ていた出稼ぎ組が続々と田舎に帰っている。

B 物価が上昇しているから、1500元もらっても、都市部で暮らして家賃を払ったら貯金なんかできない。一方で、経済成長の結果、田舎でも月800元(約1万円)ぐらいもらえる働き先が増えてきた。田舎に帰って実家の近くで勤めたほうが、よほどカネが貯まるんだ。都市部に拠点を置く日系企業は、賃上げをしないと人は集まらない。日系企業はそういう中国社会の根本的な変化を十分に理解していない気がする。

――最近は、広東省仏山市のホンダ系部品工場をはじめ、賃上げの労働争議に日系企業が巻き込まれるケースが増えてきました。

C 日系企業に賃上げをするだけの余裕がないのか、今まで通り中国人労働力を買いたたこうとしているのか、どちらなのかは分からない。だけど、現状のままでは、労働争議や人手不足に日系企業が当分悩まされるのは間違いないと思う。

D 日系企業は変化に弱いから、急激に進む賃上げのペースについていけないのでは。ウチは去年10%アップして、今また、7%アップの交渉を日本本社としているところ。台湾のフォックスコンは今年、中国のワーカーの給料を倍にした。

住宅など労働者を取り巻く課題は山積している(写真はイメージ)

B ただ、あれはフォックスコンが自発的に賃上げしたというより、そうせざるを得ない形に追い込まれたと言ったほうがいい。フォックスコンは、フォローしてくれなかった中国政府に相当強い不満を持っているらしい。大陸から撤退するといううわさも聞いた。

D いずれにしろ、昔と違って今は政府の方針が「企業優先」から「労働者優先」に変わった。「安く作る」という目的の中国進出はもう成り立たないと思う。

A ケチに話を戻せば、日系企業の場合、給与の絶対額だけでなく、給与システムに対する不満も多い。ウチは残業代を出さないし、複雑な手続きを踏まないと休日出勤手当ても出ない。

D 私が日系企業に入って一番驚いたのは、両面コピーを指示されたこと。何で日本の会社はこんなにケチなのかと。

C 1角(元の10分の1=約1円25銭)や2角、節約してどうなるものでもないのにね。

日本人は「両面コピーが無意味だ」となぜ分からない?

――いやいや、その1角や2角を節約するために、中国へ進出したのですから……。

B 最近は中国人も「コツコツ節約することの大切さ」自体は理解するようになっている。問題は、その方法が果たして両面コピーなのかという点。中国のコピー機で両面コピーをするとすぐに壊れて、その度に仕事が止まる。意味ないんだよ。

 それを考えたら、例えば裏面をメモ用紙代わりにするとか、同じ節約するにしてももっといい方法があるはずじゃない。どうも日本人は、そういう本質的なことを考えず、パフォーマンスばかりして、“仕事をした気”になっている傾向が強いと思う。

A あと、あいかわらず「班車」を整備しない社長も、日系企業に多い。

――朝晩の送迎用バスのことですね。

A 中国では、外資系企業がある工業団地は、市街地から何kmも離れているのが一般的で、自分の家が班車の周回ルートから外れていると、通勤にとんでもない時間がかかる。

C 私が理解できないのは、班車の数やルートを増やさないのに、社員が遅刻するとペナルティーを課す社長がいること。

――班車と遅刻に何の関係があるんですか?

中国では渋滞が深刻化している(写真はイメージ)

C 班車がないと、バスか自転車で出勤しなければならない。工場の近くに公共のバス停があればいいけど、なければ自転車で行くしかない。でも、自転車通勤は人とぶつかってケンカになったり、パンクしたりして大変です。私達も、別に遅刻したくてしているわけではありません。

――だったら、トラブルに巻き込まれることを計算して、早めに家を出ればいいじゃないですか。日本人の多くはそうすると思いますが。

A 実際に人とぶつかることなんて、年に1度か2度。そんなことのために、毎日早起きなんてできないよ。

――うーん、そのへんは、日本人と中国人の考え方の違いがありそうですね。

日本人はなぜ通訳の方だけ見て話すのか?

D でも、日本人の現地のお偉いさんって、我々が遅刻しているのを怒っても怖くないよね。

A 通訳の方だけ見て話すからだよ。

C 不思議なのは、怒鳴っているから「かなり厳しい注文をつけているのかな」と思って後で事情を聞くと、そうでもなかったりすること。

B それは通訳が、正確に訳していないだけ。本当はかなり激しい言葉を使っているが、通訳が柔らかい表現に直している。

――正確に訳さないのは、どうしてですか。

B 通訳が、日本人経営者と一緒になって怒っていると、「あいつは何で日本人の肩を持つんだ」って、現地のワーカーから怨まれるようになる。だから、通訳は後々自分が不利になるようなことは訳さない。

A ワーカーへの指示がうまく伝わらないぐらいならまだいいほう。日系企業の場合、総経理は日本人が、副総経理は中国人が務める場合が多い。日本人総経理は長くても5年もすれば変わるが、副総経理はそうはならない。

 通訳は当然、副総経理の顔を見て仕事する。日本人総経理が本社からの指示を伝えようとしても、副総経理が気分を害しそうなことや不利なことは訳さない通訳も多い。日本企業の中国現地法人がコントロール不全に陥る典型的なパターンだよ。

日本人総経理がいじめられる理由

D 言葉の壁があるから仕方がない部分はあるにしても、日本人は経営者、駐在員に限らず、地元の人間とはコミュニケーションを取りたがらないと思う。

C ウチの社長もそう。一日中、社長室でパソコンして、あまり具体的なアドバイスや指示を出さない。

B それは人それぞれで、積極的にコミュニケーションを図ろうとする人もいる。

A 肩を持つわけじゃないが、日本から赴任して現地法人をコントロールするのは相当にストレスが大きい仕事。昨年赴任してきたウチの総経理は今や完全に孤立している。副総経理以下、ローカルの人間が結託して、いじめているからね。

――どんないじめですか。

A 情報を渡さないんだよ。例えば「現場から賃上げ要求が出ていて、応じないと労働争議に発展しかねない」と伝える。しかし、総経理が要求額を聞いても、相談に乗らず「自分で考えろ」と突き放す。

B 日本から赴任してきた日本人が、通訳を介して現地の中国人を統治しようとするシステム自体に無理がある。日本で“本社側の人間”として採用した中国人社員を責任者として送り込むか、現地の中国側責任者に信頼してすべて任せるかのどちらかにした方がいい。

A 統治のシステムとか、いろいろと現地法人の管理の仕組みを見直さないと、労働争議の温床はなくならないと思う。

日系企業は“見せかけの根性”さえあれば事足りる

――現地の中国人が技術を習得したら、すぐ転職や独立をしてしまうというのも、日系企業の悩みの1つです。

D 日本と中国では働き方のシステムが違って、「転職することで給料を上げていく社会」だから、それは仕方のないことでは。

C 台湾系や韓国系、欧米系、ローカル企業とほかに選択肢はたくさんある。

B でも、台湾系や韓国系は仕事がきつい。勤めるには根性は必要。その点、日系企業は給料こそ安いけど、居心地が良くて簡単にクビにされないという安心感がある。出世欲とか向上心など持たず、のんびり暮らしていきたいという人には向いている。なんとなく残業するとか“見せかけの根性”さえあれば、やっていける楽な職場だと言える。

注:座談会は2010年7月下旬に東京都内で開催。出張などで来日した日系企業の現役あるいは元社員4人を集めた。4人はすべて別の会社に勤務経験を持つ。

(次回は8月30日に掲載を予定しています)

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このコラムについて

「これからは中国」でホントに大丈夫?

 アパレルや飲食などのサービス業を中心に、日本企業の“中国進出ラッシュ”が続いている。かつてはさまざまな高いハードルが指摘された中国進出だが、最近は「商習慣の近代化や投資環境の整備が進み、日本企業が現地で商売できる環境が急速に整ってきた」とも言われ始めた。だが、それは本当なのか。いまだ残る「中国進出の落とし穴」を探る。

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