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[21322] 【習作】とある転生者の麻帆良訪問(ネギま!×とある魔術の禁書目録 オリ主憑依)
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa
Date: 2010/08/21 03:08
はじめまして、カラーゼというSS投稿初の素人です。

これは『とある魔術の禁書目録』に登場する一方通行にオリ主が憑依し、わけもわからず『ネギま!』の世界へぶっ飛ぶという初っ端から非常にややこしい作品です。

舞台が『ネギま!』となるため一方通行に関しては『とある魔術の禁書目録』を知らないとわからないかもしれません。

ちなみに一方通行ですが、一般人が憑依しているため異様に丸いです。

こんなの一方通行じゃねえ!?と思うかもしれませんが、そこらへんは憑依してる一般人のせいということで。

また、憑依してる一般人は原作知識持ちで、原作はそれほど崩壊しない予定です。

少なくとも大筋は変わらないはずです。

カップリングは原作キャラと一人か二人くらいを予定しています。

一方通行は打ち止め以外受け付けませんってミサカはミサカは(ryの方はご注意を。

感想、よろしくお願いします。



[21322] 第1話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa
Date: 2010/08/20 22:32
トラックに轢かれたら転生した。
二次小説の世界にだけある者だと思っていたら本当にあるんだな。
……いや、何故こんなにも冷静なんだ俺。
流れ的に言ったら普通取り乱す所だろう。
……とりあえず、現状を確認しておこう。
周りを見まわす。

木と、木と、木と、木。

森である。
林なのかもしれないが、些細な違いだ。
上空を除き、前後左右が森だった。
遠くに文明の明かりが見えるのでどうやら遠い山の中とかではないようだが、それにしても転生して山の中とは、俺は捨て子なのか?

ばぶー。

……いかん、俺の脳はかなり限界を向かえているらしい。
どうやら自分でも気付かない内にパニックに陥っていたようだ。
つまり、最高にハイって奴だ。
脳内でボケると痛烈な寒さを感じるので一旦何も考えずに呆然と寝転んだまま空を見上げる事にする。

空は綺麗だ。

雲一つないが、文明の明かりに邪魔されて星が全く見えない。
十八年間都会の中で生きてきて見なれた夜空だ。
むしろ、こちらの方が綺麗に見える。
山に囲まれたおかげでマイナスイオンでも発生しているのだろうか。
思考が全く関係ない方向に傾き、最終的に『昨日、隣の佐々木さん家ってカレーだったんだよな』という思考に辿り着き、ようやく冷静になったと判断した。

何で判断できたのかは秘密だ。

さて、転生したばっかりなので動かせるはずもない体を動かしてみよう。
なんとかして這ってでも文明の明かりに辿りつかなければ。
そう思い、俺はずるずると赤ん坊なりに這おうとするが、ここでとんでもない事に気付く。
自分の身体は幼児ではなくフツーに高校生か中学生くらいの体つきだったのだ。
気付くの遅くね?と思うかもしれないが、これは実際に転生した奴にしかわからない感覚だろう。
だいたい一瞬前までトラックと全面衝突してたんだぞ。
それから一気にこの場面になったんだから、混乱していても仕方ないのだ。
そう納得しなければ虚しくなる。
それはともかく、俺は自分の身体を動かして見る事にした。

体つきはかなり細い。

そっとズボンの中に手を突っ込んで確認してみると男だったので安心する。
TSは見てて滑稽かもしれないが、実際になったほうからすればかなり切実な問題だからだ。

……前より小さいか。

あまり自己主張をしない息子を放っておいて、次は自分の手を見て驚いた。
白い。
驚くほど白い。
どこぞのコマーシャルの美肌宣伝に出れるほどだ。
ボー○ドとか。
……アレは漂白剤だったか。
ダメだ、非現実的な美肌を自分が持っていることにまた脳が混乱しているらしい。
着ている服は、まあ普通の長袖長ズボン。
ちょっとイカした模様が入っているのが特徴だ。
長ズボンは真っ黒であるが。
俺はあまり着飾る性格ではないので、そこらへんは楽に許容する事ができた。
なんだかこの服をどこかで見たような気がするが、どこだったか。
ぼんやりと思い浮かぶんだが、どうにも先から出てこない。
どこぞの10万3000冊とは違うのだ。
あそこまで俺の脳は良くできていない。
まぁ、思い出せないものは仕方がない。
別に、服ごときどうでもいい。
とりあえずどうしたもんだか。
都市に下りて警察の助けを請うのが一番だろうが、転生した上に更に他の人物に憑依している場合、十中八九厄介事のど真ん中に出現するのがセオリーだ。

正直に言うと、戦いは御免だ。

どこぞのヒーローっぽく恋人やら親やら友達を護るのならともかく、厄介事に首を突っ込むつもりはさらさらない。
だからそういう現場に遭遇したら逃げる。
まず心の鉄則その一だ。
逃げれなかったらおそらくオーバーキルであります軍曹殿。
いきなり転生して殺されるのは勘弁だ。
俺の身体が何やら超能力や宇宙の不思議パワーが目覚めているとしても、その自覚もないままに操れるものとは到底思えない。
ウルトラ○ンも変身しなければただの人であるからして。
ま、近くで爆音でも響かない限り大丈夫だろう。


ドォオオン!!


……着ました。
いや違う、来ました。
そちらの方に目をやってみると、木々が舞っていた。
いや、ホントね、空気読みなさいよね。
慌ててそこから飛び退くと、一瞬前まで寝転んでいた所に木が激突した。
墓標のように突き立つその木を見て、俺は違和感を感じた。
突き刺さっている個所が、まるで鋭利な刃物に切り裂かれたような滑らかな切り口をしているのである。
何かに切り飛ばされた感じ。
で、俺が後ろを振り向くと何かいる、と。


「おお、なんやまた人間がおったで」


ビンゴーッ!?
俺の後ろには身長2メートルを超える筋骨隆々な方々がいた。
ていうか、関西弁!?
その筋骨隆々な方々は見るからに人間ではない顔つきをしている。
額に角があり、あるいは一つ目の者もいる。

化物。

鬼だ。
俺がその怪物の群れに呆然としていると、彼等はどこか見た目に反してフレンドリーな仕草で会話を始めた。
「えらい派手な見た目しとる坊主やな」
「魔力も気も感じられへんな……ただの雑魚か、つまらんなぁ」
「ま、ワシらを見たからには生かしておけんのや。悪いが兄ちゃん、死んでもらうで」
死亡フラグを通り越してまんま死亡直結フラグキターーーーッ!?
目の前で一つ目の鬼が巨大な棍棒を振り上げる。
ここに来て何故か震えない立派な足を総動員してそこから退避しようと走り出す。
だが、鬼の身体能力は凄まじい。
俺より更に速い速度で一瞬にして間を詰めると、既に振り上げていた棍棒を振り下ろした。
俺はそれをどこか冷めた感じで、『二度目の人生って短かったなあ……』と感慨にふけながら見るのであった。






私、桜咲刹那は師匠である葛葉刀子さんと共に陰陽術師が召喚した鬼達と戦っていた。

「斬岩剣!!」

いつ見ても我が師匠、刀子さんの剣は強力の一言に尽きる。
このごろの悩みは出張が多いせいで恋人ができないということらしいが、彼女は同性の私から見ても美しいと思える外見をしている。
私の美的感覚が一般人と違うのなら刀子さんはモテないのだろうが、一応彼女の評判は良い。
影ながらファンクラブまで設立されているとの話だ。
……今ここで話す事ではないだろうが。

「百烈桜華斬!!」

私も負けじと奥義を使い、鬼達を吹き飛ばす。
この鬼達、情報で聞いていたよりも数が非常に少ない。
刀子さんが出てくるまでもなく、私だけでやれる仕事だった。
最後の一体を片付けると、辺りを警戒しつつ、私と刀子さんは言葉を交わした。
「終わったようですね」
「はい。残党は……どうやらいないようですね」
辺りに荒ぶる鬼の気配はなかった。
私はそれに安堵しながら夕凪を鞘に収めようとすると―――突如背後に殺気が膨れ上がる。
「ッ!?」
ゴッ!!と迫って来る棍棒を、瞬時に刹那の横に出現した刀子の刀が横に弾き飛ばす。
出現したのは鬼。
その後ろから、ぞろぞろと他の鬼達がやって来る。
「新手か……!?」
「いえ、違います」
私の疑問を刀子さんは短く否定した。
「そこのねーちゃんは察しが良いみたいやな」
現れた鬼はそれぞれ身体に張りつけていた札を剥がした。
すると、それまで遮断されていた鬼の気配が溢れ出す。
「ワシらの主がくれたもんでな。気配を遮断しちまう優れもんや」
「奇襲は失敗してもうたが、ただじゃやられへんで」
同時に襲いかかって来る鬼ども。
私達はそれを真正面から迎え撃つ。
神鳴流はいわゆる剛の構えだ。
相手が化物で在る事を前提とした一撃必殺の剣こそが神鳴流の境地。
真正面で衝突し、力ずくでねじ伏せる。
それの原初こそが、この剣。

「「斬岩剣!!」」

化物相手に一歩も引かぬ、化物を超えるために手にした超人の奥義。
それこそが斬岩剣だ。
私の斬岩剣では鬼を一体しか断ち切ることができないが、刀子さんは一撃で二体もの鬼を軽々と葬る威力を出す。
いつか私も刀子さんのような強い剣士になりたいと思う。
今の彼女は剣よりも色気らしいが。
それにしても、今回の鬼は少々手ごわい。
鬼以外にも烏族がいる事が大きいだろう。
鬼と同等の腕力を持ちながら、彼等を上回る瞬発力を持つ烏族。
彼等は独自の高度な剣術を持っており、熟練の烏族は刀子さんクラスの実力を誇る。

烏族が三体に鬼が十二体。

なかなかに厳しい布陣だ。
早速刀子さんがかかってきた二人の烏族の内一人を切り伏せた。
私はもう一人の烏族を相手にしている。
「そらそら、どうした神鳴流のお嬢ちゃん!!」
そしてこの私が相手にしている烏族、なかなかの実力者だ。
叩きつけられる剣の重みは凄まじく、更に速い。
神鳴流は奥義を出す隙が大きいことにあり、はずれた時のリスクも非常に大きいのが弱点である。
烏族のような動きの速いうえに人外の腕力を持つ彼等は神鳴流とは相性が悪い相手だ。

だが、それがどうした。

相性が悪かろうが、たたっ切るのが神鳴流剣士だ。
刹那は気で強化した足を使い、剣を振り下ろした烏族の横に回ると、驚愕(しているのかどうかは顔ではわからない)の表情をした烏族を、
「百烈桜華斬!!」
背後にいた鬼もろとも切り刻む。
ボッ!!という風切り音と共にカマイタチが発生し、まさしく百回切りつけられたかのように細切れにされた烏族と鬼が消え去っていく。
「ぐわあああああ!?」
その頃には刀子さんは既にもう一人の烏族を倒し、鬼の殲滅にかかっていた。
流石だ。
私も慌ててそれに加わった。
しばらくすると、烏族を先に倒した事もあり、簡単に殲滅作戦は終了した。
一息つく私達だったが、他にどんな奇襲が待っているかわかったものではない。
今度は気を抜かずに刀子さんに話しかける。
「まだいると思いますか?」
刀子さんも警戒を怠らずに辺りを見まわした。
「おそらくいるでしょう……高度な気配の隠蔽の札をあれほど作る術者です。あの程度の烏族たちが親玉とは思えません」
あの程度、と軽く言う刀子さんだが、アレは結構強かったと思う。
アレで親玉ではないというのだから、親玉は私が相手できるものではないだろう。
「増援を頼みますか?」
「高畑先生が近くにいるはずですから、一応連絡しておきましょう。もしかしたら取りこぼした鬼たちがいるかもしれませんからね」
あえて戦力増加ではなく、取りこぼした鬼達の撃破に向かわせる、か。
そういう組織的対応術は私も学んだ方が良いのかもしれない。
私は高畑先生に連絡した後、油断せず前を睨みつけて歩く刀子さんの後ろを歩きながらそう思っていると……私の人外としての鋭敏な感覚が鬼気を捉えた。
「刀子さん!向こうに鬼がいます!」
私が飛び出すと、刀子さんも私の跡を追って来る。
私の人外に対する察知能力は自慢じゃないが刀子さん以上。
察知するだけなら高畑先生や学園長以外の魔法使いに負ける気はしないほど自信がある。
それがわかっているから刀子さんも私の後ろについてきてくれるのだ。
私達が全速力で鬼達のほうに向かうと、驚いた事にその近くに人間の気配が感じられた。
微弱だ。
鬼を前にしているというのに、魔力も気も感じられない。
一般人!?
「何故、こんな所に……!?」
「刹那、私は先にいきますよ!!」
私なんかよりも遥かに速い速度を出す事ができる刀子さんが先導して先に進む。
刀子さんも人間の気配を捕らえたらしい。
しかも、酷く無防備な。
私の目に見えてきた光景は、巨大な鬼が棍棒を振りかぶり、逃げようとしている青年を今まさにその棍棒で押し潰す所だった。
「やめ―――!!」

ゴゴン!!という轟音が聞こえた。

私はその光景に絶句した。
私は今まで人が死んだ光景と言う物を目にしたことがなかった。
しかし、今、目の前で鬼が棍棒で一般人を押し潰した。
絶対に死んでいる。
言うまでもなく、即死だ。
「あ、……」
私の口から何故かそんな情けない声が漏れた。
目の前で一般人が鬼に殺された。
それが、何故かひどく私の心を揺るがせたのだ。
昔、お嬢様を助けられなかった私の姿と、今の私の姿が被る。
やはり、私は人を守る事ができないのか?
危機が迫っていた一般人を助ける事もできない私が、どうしてお嬢様を護れるんだ?
刀子さんは既にギリリと音がなるほど歯を食いしばり、鬼達へ殺気を向けている。
人の死と向き合うのが一度や二度じゃないからだろう。
私も刀子さんのその覇気を見て、気合を入れなおした。
弔い合戦だ。
私が夕凪に気を込め、一般人を殺した鬼に向けて斬岩剣を放とうとしたその時。

グシャア、という硬い物を握りつぶすような音が聞こえた。

「なっ……!?」
私と刀子さん、おそらくその場にいた鬼までもが驚愕する。
その音は、振り下ろされた棍棒から響いていた。
鬼が慌てて身を引くと、その手には根元から折れている棍棒があった。
おそらく今の音は遅まきながら叩きつけられた衝撃に負けて棍棒が折れた音なのだろう。
私はそう思ったが、どうやら違ったらしい。

「そうか……そうだよなァ」

どこかダルげなくぐもった口調が聞こえた。
「どっかで見た服装だと思ってたンだ。まさかチート設定満載の身体とはよォ」
ドガン!!と陥没していた地面にめり込んでいた超重量の棍棒が吹き飛んだ。
人間には到底弾き飛ばせないそれが、まるで気の棒のようにくるくると回転して飛んでいく。
陥没した地面から起きあがったのは、白。
真っ白な、銀髪というよりは色素が抜け落ちた無気味な白色の髪。
美白というよりは病的なまでの白さを持つ肌。
そして、ギョロリと鬼達を睨みつける赤い瞳。
ひょろっとしたその身体のどこから棍棒を跳ね飛ばすほどの力が出るのか……いや、そもそもどうして今の攻撃をまともにくらって無傷でいられるのか。
だいたい、彼は見た事もない人間だ。
これほど印象的な容姿で鬼の一撃を真っ向から受けとめられる人物を、私が知らないはずがないのだが……魔法生徒なのだろうか。
白い彼は、私達の驚愕も露知らずに立ち上がった。
挑戦的に鬼達を睨みつけながら、その口元に鬼達に勝るとも劣らない邪悪な笑みを浮かべる。

「来いよ、三下」

その兆発に上等だとばかりに吼えた鬼達は、それぞれの得物を振りかぶって青年に殺到した。






攻撃が直撃した俺は、俺自身に何の衝撃も痛みもない事に気付いた。
ダイビングするように伏せて、それでも食らった、という事実はわかっている。
なのに、全くダメージがない。
目を恐々と開けてみると、そこにはヒビが入ってボロボロな鬼の棍棒が見えた。
俺はハッとして自分の髪を抜いた。
そこには色素が抜け落ちたかのような不健康そうな白い髪があった。
これを見て、確信する。
「そうか……そうだよなァ」
そのまま俺は自覚する事によって得た能力を発動し、俺の上に乗っかっていた鉄の固まりを吹き飛ばす。
夜空の上でヒュンヒュン回っている棍棒の残骸が見えた。
そこまで吹き飛ぶもんなんだな、と思いつつ、俺はむっくりと起きあがった。
前方には己の得物を砕かれたからか呆然とする鬼と、そのほかにもまともにあの一撃を食らって生きているとは思っていなかった鬼達が呆けた顔をしていた。
くっく、と俺は笑う。
「どっかで見た服装だと思ってたンだ。まさかチート設定満載の身体とはよォ」
俺はそのまま、パンッ、という軽い音と共に、バネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。
どうにも奇妙な感じだが、これであの能力が使えることは証明された。
こいつ等程度なら楽勝で倒す事ができる。
俺の顔には知らず知らずの内に笑みが浮かんでいた。
「来いよ、三下」
前方の鬼達が咆哮する。
この程度の小坊主に、と怒り狂っているのだろう。
怒りに吼える鬼たちが怖くないといえば嘘になる。

だが、足は震えなかった。

どうせ一度死んだ身だ。
もう一つの生がすぐに終わっても未練は無い。
ドコォン!!と俺の背後にさっきの棍棒の残骸が突き刺さるのを合図とするように、鬼達は我先にと俺に殺到してきた。
俺は圧倒的な鬼気を巻き散らす鬼達に向かってノーアクションで立ち尽くす。
ビビったわけではない。
まさか、チビって動けないわけでもない。
俺の能力を信頼しての賭けだ。
鬼達は何のアクションも起こしてこない俺に疑問を持ったようだが、怒り狂った彼等の何人かはそのまま俺に得物を振り下ろしてきた。
斬撃。打撃。衝撃。
俺に大剣や棍棒などが叩きつけられた。
だが、俺は生きている。
それどころか、鬼達の腕や得物から粉砕音が聞こえた。
痛みと意味不明な反撃による混乱からか、鬼達は悲鳴のような咆哮をあげる。
眼前で無防備に腕を抑える鬼達は俺にとって格好の獲物である訳で。
そのまま俺は、無造作に右腕を振りぬいた。






私と刀子さんはありえない光景を眺めていた。
それは一方的な虐殺だった。
最初に白髪の青年に武器を叩きつけた鬼達が、逆に自分を傷つけ、更に獲物が粉砕した後に青年の反撃が始まった。
どうして自分を傷つけたのか、獲物を粉砕したのかはわけがわからなかったが、青年は更に素人のような構えで拳を振りぬいた。


ドゴンッ!!


全く威力が乗っていないはずの喧嘩拳が、ミサイルの如き威力を発揮する。
霞んで見えなかった青年の拳は鬼に直撃し、思いっきり肋骨を圧砕した。
殴られて吹き飛ばされた鬼は後ろにいる鬼も巻きこんで倒れ、空気の解けるようにして消えていく。
青年は追撃を行った。
隙だらけとしか思えない跳躍を行うと、消え行く鬼ごとその下敷きにされている鬼達を拳でぶち抜いた。


ゴゴンッ!!


なんの気も魔力も込められていないその一撃で、地面が割れた。
鬼の上に着地した青年を狙って鬼が四方から武器を振り下ろすが、それは青年に当たると砕け散り、鬼達は自身の手首を圧し折って苦痛にうめく。
「おォおおおおおおッ!!」
青年が吼える。
両手を上に掲げると、いきなりそこに風の渦が生まれた。
西洋魔法……ではない、かと言って陰陽術でもない!
だいたい魔力も気も使われていない。
無防備になった彼に向けて鬼達が拳を放つ。
もしかしたら武器に対してだけ絶対の防御力を持つと考えたのだろうが、青年は全ての物理攻撃を無効化するどころか、鬼達の拳そのものを粉砕した。
蹲る鬼達に、青年は容赦しない。
青年が両手を掲げた上空には、何か鉄の溶接作業を思い浮かべるような眩い白光が生まれる。
最初は一メートルほどだったそれは、ギュゴッ!!と空気が渦巻いたと思うと一気に直径十メートルに膨れ上がる。
それは上空に存在しているはずなのに、こちらにもビリビリと肌を焦がすような痛みを植え付けて来る。

あれは、なんだ?

「刹那!!」
呆けている私を叱責し、その手を掴んでこの場を離れようとする刀子さん。
あれがなんなのか、わかったのだろうか。
十メートルのそれは更に二十メートルの巨大な火球と化した。
青年が何事か叫んだ気がした。
それと共に、その火球が地面に急降下した。


ズッ ゴォオオオオオオオオオンッ!!


獣の咆哮のような生々しい轟音が聞こえた。
私は思わず後ろを振りかえると、そこはまさしく炎の渦だった。
巨大火球が落下したそこは、獄炎地獄と化していた。
為す術もなく範囲内にいた鬼はすべて焼け死に―――いや、焼ける以前に吹き飛び、跡形も残さずに消滅した。
木々はバラバラに吹き飛び、散弾のようになって破片が飛んで来るが、私がそれを迎撃した。
もはや巨大な爆弾としか思えないその威力。
詠唱などを必要としない上にたった五秒程度立ち止まるだけで爆弾が作られる。
しかも、それを自分に向けて直撃させるなんて正気の沙汰ではない。
その爆弾の衝撃波が収まると、私達は青年の存在を確かめに向かった。
気配を殺しながらそっと彼を覗いてみると、

何故か『ぜーはー』と苦しそうに息をする彼がいた。

「…………」
「…………」
明らかに青いあの顔はどう考えても酸素不足。
酸欠である。
あの火球をモロに食らって火傷一つ……というか塵一つついていないその体にはもはや何も言えない。
爆撃された地に花瓶が無傷で残っているような、そんな違和感を感じさせる。
何せ、焼け焦げた大地に真っ白な青年がいるのである。
これで違和感を感じなかったらどんな感性なのか疑う所であった。
「(……刀子さん、どうしましょうか……)」
「(鬼の一撃をまともに受けても平然としている人です、我々では太刀打ちできません。おそらく特殊な障壁なのでしょうが……鬼の得物を粉砕するなど奇妙な点が多過ぎます)」
「(放っておくのですか!?)」
「(そうは言っていないでしょう?……あなたはここにいなさい。私が彼の前に出ます。もうすぐ高畑先生も来るでしょうから、その時に指示を仰ぎなさい)」
そう言い残し、刀子さんは気配を現して立ちあがり、茂みから青年の前に進み出ていった。






ミスったーーーッ!!
いやぁ、ここまで見てくれた君ならわかるだろうが、俺の能力はぶっちゃけ一方通行(アクセラレータ)だ。
知らない人はググれ。
知らないだろうから、お母さんには聞いちゃダメだ。
まあ、つまりその能力―――自分の肌に触れたベクトルを全て操作するという能力を使い、早速件の不幸少年とビリビリ少女を死の縁に追いやった技を再現してみたのであるが、まさか酸素が全て持っていかれて窒息寸前になるとは。
そういえば粉塵爆発のど真ん中にいた一方通行さんは死ぬかと思ったと言ってたし、咄嗟に口閉じてなかったら危なかったかもしれない。
調子に乗った罰だという事か。
焼け焦げた大地の上で酸素を求めて息をしていた俺だったが、その前にとある人が現れた。

美人だ。

流れるような長髪だが、残念ながら黒ではないので大和撫子ではない。
しかしそのキツめの顔やかなり良いと言えるスタイルは問答無用で美人と断言できるそれであり、腰にはそんな凛とした美人に何故かマッチする長大な刀があった。
あるぇー、もしかして聖人さんですか?
天草式の聖人さんですか?

イメチェンしたな。

そう思っていた俺だったが、いくらなんでも例の堕天使エロメイドの聖人さんではないことに気付いた。
七天七刀はもっと長いように見えたからだ。
それに、いつものエロい格好じゃないし。

ぶっちゃけ、全然エロくないし。

論点はそこなのか、という突っ込みは認めない。
なんとか息を整えて立ちあがり、俺はその美人さんを見た。
美人さんは何故かめちゃくちゃ緊張したように顔をこわばらせ、こちらに敵意のようなものをバリバリ向けながらこう尋ねてきた。
「……あなたは何者ですか?」
漠然としすぎてるのだが。
ていうかどうしよう。
転生者と言っても信じてくれるかくれないかではまちがいなくNOだ。
言ったが最後、間違いなく頭の病院に連行されるからだ。
ならばどうするか。
敵対したくないのだが、そのためには何と言えば一番良いのか……。
俺はじっと悩んだ。
悩んで悩んで……名案を思いついた。
「何者かって、俺が聞きてェくらいだ。俺ァ誰なんだ?」
記憶喪失を装う、だった。
「は?」
案の定、向こうは呆然としている。
俺はいかにも周りの状況がわかんねえですよー、とばかりに頭を掻いて辺りを見まわす。
「つーか、さっきのデケェ化物はなんだったんだ?思わず迎撃しちまったが、倒して良かったのか?」
これは本音だ。
もしも今倒した鬼達がこの世界に置いての天然記念物とかだったらヤバいからだ。
まあ、ここは転生体である一方通行が存在するとある魔術の禁書目録の世界に間違いない。
いくらなんでも、こんなファンタジックな存在がいるわけないだろう。
よってこれは何らかの実験と見た。
一方通行に最新の生体兵器を向かわせ、迎撃させたという所だろう。
そして目の前の美女はおそらく連絡員だ。
学園都市にいるはずなのになんででっけー刀を持ってるのかはわからんが。
「は……はい、あれは倒して良い物でした。それにしても……あなたは自分が誰なのか、全くわからないのですか?」
そう疑問に思うのも当然だ。

何しろ俺は一方通行。

いきなり記憶喪失になっちまった、なんておフザけとして見られる可能性があるからな。
「あァ、ちっとは思い出せるけどな、あンまり詳しい事ァわかんねェわ。とりあえず責任者のトコに連れてけ。いるだろ、ここにも責任者みてェな奴が」
「…………」
美女がどうにも困った表情をしていた。
ありゃ、流石にアレイスターはないと思っていたが、まさか責任者がアレイスターってことはないよな?
やだよあんな逆さ人間とあうのは。
そう思っていると、草むらから更に二人、誰かがやってきた。
「あ、高畑先生……」
安堵したように、その美女はその名前を呟いた。
ナニ?
タカハタ?
まさか、高畑・T・タカミチ?
いやいやいやいや、まさかそんな。
だって俺ってば一方通行だぜ?
まさかオリキャラ来訪ではなく別世界からの来訪モノだと……!?
しかも、とある魔術の禁書目録からネギまに!?
そんな御都合展開が、あるわけ―――。

「彼がこれをやってのけたのか?」

渋いオッサンキターーーーーーッ!?
メガネをかけてポケットに手を突っ込んでるところが更にダンディさを増してるぜ、タカミチ!
ポケットに手を突っ込んでいる事から彼は臨戦体制と思っていていいだろう。
ということは、こいつは本物のタカミチだと!?
しかもその横には何やら百合疑惑がある翼がある神鳴流剣士が!?
ってことは、この野太刀……目の前の女は葛葉刀子か!?
うはぁ、いきなり原作キャラに出会っちゃったよ。

……まぁ、いいですけどね、原作。

どうせ、数ある二次小説と同じ展開になるんだろうから。
「ええ、そうです。それで……どうやら彼は記憶を失っているようなんです。本人が言っているだけですからまだ確証はありませんが」
「記憶を?それなのに、こんな破壊を生み出したのか?」
「私も信じられないのですが、実際にこの目で見てしまっては信じるしかないのです」
まあ、信じろというのが大体怪し過ぎる。
記憶もなしに森の一角を吹き飛ばす大破壊をやってのけたというのだから、怪しいにも程がある。
だが、この世界での知識がない、と言う意味ならそれは真実なのだ。
「頭ン中で今の状況を整理したから、言っていいか?」
「……どうぞ」
俺は自分の頭を人差し指でトントン叩く。
それだけで向こうは身体を強張らせるのだから、困ったものだ。
「俺にスッポリ抜け落ちてンのは思い出だけだ。金の使い方とか、日本語はどうだとか、能力の使い方ってのは覚えてンだよ。もし仲間だったら悪ィが、テメェ達は俺の仲間だったのか?」
そう聞かれると、やはりタカミチも混乱したようだった。
難しい顔をしていたが、やがてタカミチは携帯電話を取り出して応対し、しばらくしてこちらに顔を向けた。
かけたのは、おそらく学園長の携帯だろう。
「僕達も君の事は全く知らないんだ。悪いけど、君の事を調べさせてもらうよ。名前は?」
「あァー、ナマエ。名前ねェ……よく思い出せねェが、一方通行って呼ばれてた気がする」
「……アクセラレータ?偽名なのか?」
「さァな。どこぞの研究所の番号名じゃねェのか?」
つまらなそうに言った俺の言葉に、研究所?と小さく呟いてから、タカミチは電話の相手に何事か言い、ポケットに携帯をしまった。
「ついてきてくれないか?ここの事を話そうと思う」
「あァ、願ってもねェことだ。よろしく頼むぜ」
タカミチを先導、後ろに俺、その後ろに刀子、刹那と続く。
何やら刀子はともかく刹那の殺気がバンバン背中に直撃しているのだが……その辺りは気にしない方向でスルーすれば良いのだろうか。
刀子も気付いているだろうに、何気に悪い奴だな。
一応反射は展開させておく事にして、俺はタカミチの後についていくことにした。






~あとがき~

とまあ、こんな調子で進めていきます。
1話ごとの長さはこれくらいがちょうどいいんですかね?
個人的にはこれの半分くらいでもいいんじゃないかと考えてるんですが。
誤字、脱字などがあれば遠慮なく報告してください。



[21322] 第2話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa
Date: 2010/08/21 08:58
SIDE 一方通行

そこからタカミチに先導されて、俺は暗い街中を通り、漫画などで見覚えがある中学校へ向かう階段を上っていた。
後ろからの視線と殺気が痛い。
ポケットの中を探り、何故か入っていたガムを取り出す時は非常に緊迫した空気になったことを覚えている。
いくらなんでも警戒し過ぎだと思うのだが。
特に、今にも夕凪を抜こうとしているそこのサイドテール。
いくらこのちゃんが大好きだからといって何もかも排除するのはやめなさい。

ていうか、今気付いたんだが、俺がこうやって思っていることと俺の肉体の喋り方が全く違う事に疑問を持った。

勝手に脳内変換されているのだろうか。
これはこれで便利だが、一方通行って敬語とか使うのか?
初対面の相手にいきなりタメ口はまずかった。
おそらくあそこでオドオドして見せればこんな対応は取られなかったんだろうが―――いや、鬼を吹き飛ばした段階で既に言い訳は不可能か。
実際に、この三人もそれを警戒しているんだろうし。
タカミチも笑顔を見せてはいるが、その両手は油断なくポケットに突っ込まれているのがその証拠だろう。

……なんだかなぁ。

そんでもって、知らず知らずの内にこの状況に笑みを浮かべている自分がいる。
どうやら、まだ色濃く以前の一方通行の表情や感情などが残っているようだ。
だから鬼を殺すのも躊躇しなかったのだろう。
殺すという行動自体は俺はした事がなかったが、一方通行は腐るほどある。
人とは違う異形であるが、その異形を躊躇なく葬り去った自分の容赦のなさに、少しだけ恐怖した。
もしかしたら今考えているこの考えも、一方通行と交じり合っているのかもしれない。

今の自分が自分ではない気がした。

だが、その考えは学園長室の前に来ると心の中にしまった。
今考えるべきはあの学園長対策だ。
あのぬらりひょんは言葉巧みにこちらを向こうの都合の良いような思惑に乗せようとしてくる。
断るべきことはしっかり断らなければならない。
もちろん、一方通行がこちらに戸籍なんてないのだから、その辺は学園長に頼らなければならない。
警備員になるくらいなら良いだろう。
住居はできるだけ森の近くが良い。
のんびりできるからだ。
そんな事を思っていると、タカミチがドアをノックして扉を開いた。
「失礼します、学園長。先ほど連絡した彼をお連れしました」
その中に入ると……いるわいるわ、見覚えのある魔法先生や魔法生徒がずらり。

まず正面に座るのは言わずと知れたぬらりひょん、近衛近右衛門。

麻帆良最強の魔法使いらしい。
魔法を使ったところは一回も見た事がないが。

その右手にいるあの黒人タラコ唇はガンドルフィーニだろう。

その隣にいるのは高音・D・グッドマンと佐倉愛衣。

他にも原作では見た事がない人達もいた。
皆、俺を警戒した目で見ている。
特にガンドルフィーニや高音の視線は刹那に匹敵する鋭さを持っていた。
タカミチと刀子が学園長の左手につき、後ろでは刹那が扉を閉めた。
四方を囲まれる形になる。
このまま脱出するには学園長、ガンドルフィーニ、タカミチという三大防壁がある目の前の窓からは無理だし、後ろから行くとしても何か行動を起こしたらタカミチの居合拳が飛んで来る。
怯んだ瞬間を刹那やガンドルフィーニが見逃すはずがない。
まあ、もちろん正面突破は可能だし、その気になればさっきのプラズマをここに召喚して阿鼻叫喚の地獄絵図を再現してやってもいいが。
……待て、今の思考はかなり一方通行よりだったぞ。
やっぱり混ざってんのかなあ……。
そんな事を思っていると、学園長がバル○ン笑いをして話しかけてきた。
「早速じゃが、ワシはこの麻帆良の学園長を務めておる近衛近右衛門じゃ。気軽に学園長と呼んでくれい」
それに俺は辺りを見回しながら、
「……気軽に発言できる状況じゃねェな。いくらなンでも雁首揃えすぎてンじゃねェのか?」
実際、タカミチやガンドルフィーニはともかく刀子や刹那、高音までいるのは異常としかいいようがない。
タカミチ、ガンドルフィーニの二人がかりならば俺のようにひょろっとした青年などイチコロだろうに。
それほど俺の実力を買っているという事か。
俺の発言に学園長はフォフォと苦笑する。
「それもそうじゃな。じゃが、怪しむ理由くらいはわかっておるんじゃろう?」
「まァ、化物を倒しておいて記憶喪失だなんて都合が良いにもほどがあるからな。……で、本当にここはどこなんだ?麻帆良ってのは地名か?」
というわけで、俺は学園長からこの世界の常識などを教えられた。
まず、ここは麻帆良という学園都市だという事。
日本でも最大規模の学園都市で、その裏は関東魔法協会と呼ばれる魔法組織の総本山でもある。
ここにいる人物は全て魔法関係者であるが、魔法は秘匿される情報なので我々が魔法使いである事は極秘である事。
あの化物については、関東魔法協会と昔から仲が悪い関西呪術協会から送られてくる刺客で、この麻帆良のどこからでも見える世界樹と呼ばれる大きな木の情報を知るため、あるいは関東魔法協会の戦力を削ぐために鬼や悪魔を使役して襲撃をしてくるらしい。
今回はそれの迎撃をしていたのだが、そこに突然俺が現れたという事。
そして、一般人にはとてもではないが倒せない鬼を無傷で倒すなど常識では考えられないので俺をここに呼んだ、とのことだ。
「で、ワシにも聞きたい事があるんじゃが、いいかの?」
「あァ」
「君は鬼の一撃を食らっても平然としていた……それに、呪文詠唱を行なわずにアレほどの破壊を巻き起こしてのけた。一体どうやったのじゃ?」
それについては、俺は白を通すことにしていた。
「さァ?」
その瞬間、俺の横から怒声が響いた。

「ッ、私達をおちょくってるんですか、あなた!?」

噛みついたのは高音だった。
まあ、そろそろ誰かが噛みついて来る頃だと思ってたがな。
俺はそっちにジロリと目を向けた。
「俺は学園長と話してンだ。口出すンじゃねェよ」
「ぐっ、だからって―――」
「よすんだ、高音君。彼の言っている事は正しい」
横にいるガンドルフィーニの言葉によって、高音はこちらを睨みつけながらも引き下がったようだ。
そう、それが賢明って奴さ。
俺は視線を学園長に戻す。
「アンタ達魔法使いってのは、魔法を使うときにムニャムニャ呪文を唱えなきゃならねェのか?」
「その通りじゃ。佐倉君、少し見せてやりなさい」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
いきなりのご指名に佐倉はびっくりしたようだった。
その狙いも何もない純真ないじめられっこ体質の佐倉を見て、思わず俺は笑ってしまった。
それに釣られてか、タカミチからも苦笑が漏れる。
もちろん、ガンドルフィーニや高音は良い顔をしなかったが。
「ぷ、プラクテ・ビギ・ナル。火よ灯れ」
佐倉が掲げた小さな杖から、ポッ、と小さな火が出た。
それを見て俺はふーんと呟いた。

「百円ライターの方が速ェんじゃねェの?」

「身も蓋もないのう、お主……」
この『プラクテ・ピギ・ナル。火よ灯れ』は初心者が魔法を使うために行うものであり、これを行うにもそれなりの練習がいる。
それを百円ライターで済むんじゃね?といわれれば、学園長としても頬を引きつらせる事しかできなかった。
まあ、一般人の感覚なんてこんなもんだ、と思って欲しい。
「他にもいろいろと呪文のバリエーションはあるんじゃ。使う者によっては山も軽々と吹き飛ばす呪文を唱えられる者もおる」
「山を?すっげェな」
実際、漫画ではナギの雷の暴風が山を吹き飛ばしていた。
千の雷辺りを使えばものすごい事になっていただろう。
俺が正直に感心したので、ライター発言に不機嫌な顔をしていた高音の顔が少し緩んだ。
緩んだとは言ってもまだ厳しい表情をしていたが。
「……話を戻すけどよ、呪文詠唱がどうのこうのなンざ、俺ァ知らねェ。アレは風を操っただけだ」
「風を?どうやったんじゃ?」
「なんつーんだ、あァー……こう、ぐるっ、て感じ?そんな感じでやったらできたンだよ」 
呪文を必要とせず、ただイメージするだけで風を操れる、と学園長達は思っただろう。
本来は頭で膨大な演算をしているのだが、別にそこは明かすべき事柄ではない。
「刀子君。彼は魔力や気を使ってなかったと言うが、本当かね?」
「はい。彼は一切魔力や気を使っていませんでした。これは私の考えですが、我々とは違う系統の魔法使いなのかと思われます」
「ふむ、我々も認知できない未知の力による魔法か……」
まあ、そう捉えてもらって構わないだろう。
どうして超能力が発動するのか、明確な原理そのものはとある魔術の禁書目録の作中では明記されなかった事だし。
AIM拡散力場が関係しているのかもしれないが、あれはそもそも能力者が作り出す力場だ。

脳内にある幻想を現実に呼び起こす。

それこそが能力の発動原理だと俺は思っているが、それなら一方通行は常時脳内に自分の周りのベクトルを反射するように意識しているというのだろうか。
しかも、無意識に。
意識しているのに無意識とは、これまた意味不明な事だ。
……まあ、考えても無駄なことだ。
ネギま!でも詠唱して魔力を込めるという行為自体自己暗示のようなものだろうし……とある炎の魔術師、ステイル・マグヌスは詠唱や殺し名を名乗るようにしていた。
あれも自己暗示だとすれば、究極的には能力者と同じような考えにいきつく。
出鱈目だろうが、脳内の妄想を現実に引きずり出す、と言う認識でいいだろう。
こんな自論を今ここで発表する事もないので、俺は黙っておく事にした。
「鬼の攻撃に耐えられたっていうのは、俺もよくわかんねェ。夢中だったし、俺のこの風を操る力が無意識に発動したのかもしれねェ」
「君は記憶がないと言っていたね?どうしてその風を操る力とやらがわかったんだ?」
ガンドルフィーニが話しかけてきた。
あァ、とダルげに答えながら、俺はガンドルフィーニに説明してやる事にした。
「アンタ、脳医学ってのは習ったコトあるか?」
「脳医学?いや、私はあまり詳しくないが・・・」
「人の頭ってのァ便利にできててな。頭が混乱したり、パンクしねェようにいくつか担当する記憶が別れてンだよ。言葉や知識を司る意味記憶。運動の慣れを司る手続記憶。そして思い出を司るエピソード記憶って感じにな。記憶喪失ってのァよく本とかに出てくる話だが、ソイツがいきなり言葉を忘れたり、鉛筆の持ち方がわからなくなったりすることはねェだろ?俺はその内、エピソード記憶を忘れちまったみてェだから、知識として俺の能力の扱い方は覚えてンだよ。経験は全くねェけどな」
その流暢な説明に、その場の全員が驚いたようだった。
「……ンだよ。気味悪ィぞ」
「君、歳はいくつなんだ?そんな知識は普通の学校では習わないはずだが……」
「知るか。記憶喪失だっつってンだろ?」

自分でもびっくりだ。

この身体、流石に学園都市最高の優等生だけあってブレインの方はかなり優秀らしい。
すらすらと言葉が出てきた。
自分で言っててなんだが、自分が気味悪い。
平凡かつ平凡かつ平凡の俺は説明するのに向いていないし、頭もあまり良くはなかった。
やはりここはチート肉体に感謝しなければならないだろう。
「で、結局俺って何者なんだ?」
まずはそこだ。
自分が何者か、それを確立しなければ話にならない。
一応事情を聞くにしても俺が何者なのかはっきりしないと進展も望めないのだ。
「まあ待ちなさい。既に魔法で君の顔写真のようなものを作って調べさせておるよ」
「慣れてンだな?」
「記憶喪失というケースも麻帆良じゃ少なくないからの。対応にも慣れるというもんじゃよ……おっ、噂をすれば」 
ドンピシャ。
プルル、と鳴る受話器を取り、学園長が何事か話し、受話器を置いた。
こんなに近くにいるというのに、俺には全くその内容がわからなかった。
声そのものは聞こえるのだが、内容がわからない。
今思いだそうとしても無理なのだから、いくらなんでもおかしい。
これも魔法と言う奴なのだろうか。
そう思っていると、学園長が済まなさそうに言ってきた。
「……ちょっと困った事になったのじゃが」
「俺の住所がわからねェのか?」
「言いにくいが、その通りじゃ」
学園長が言うには、俺のようなケースの……自分の名前を知らない人間でも個人情報はきちんと存在するので元いた所にちゃんと戻せるようだが、いかんせん俺は異世界人だ。
この世界に戸籍が存在している事がおかしい。
「ってことは、彼は正体不明の人間と言うことになりますね……」
タカミチが言うと、周りの警戒心は一気に高まった。
バラバラにはされないが、このままでは戦闘になりかねない。
そうなれば原作はパーだし、戦闘は極力避けたいし、人殺しなんてしたくない。

プラズマに吹き飛ばされたスプラッタ死体なんざ見たくもない。

「まあ待ちなさい。彼が正体不明の人間であろうとなかろうと、敵でない事は明らかじゃろうて」
「どうしてそう言えるんですか、学園長!?」
ガンドルフィーニが叫ぶが、重みのある声で学園長は言った。
「彼がその気になれば、我々など瞬く間に殺されてしまうからじゃ」
「……誤解を招く言い方はやめて欲しいンだが」
こいつは思考を読めるのか、と冷や汗を流した。
「一応、俺はアンタらと敵対する気はねェ。戸籍もねェ、金もねェじゃ生きていけねェからな」
そう言うと、学園長は悩んだようだった。
どうやら、こちらの意図に気付いたらしい。
戸籍がないんなら、学園長が作れば良い。
金がないんなら、学園長が働き手を見つければ良い。
俺は現在戦力不足であるあの仕事にはうってつけの実力を持っている。
そして、俺に恩を売っておけば後々頼み事も……とか思っているんだろうが、俺はそこまでお人よしじゃない。
好きに動かされると思うなよ。
そう思っていると、学園長は諦めたようなため息をついて呟いた。
「……わかった。君の戸籍を作り、雇い先として君を警備員として雇おう」
「学園長!?」
俺が学園長の言葉にしてやったりとばかりに笑みを浮かべると、ガンドルフィーニが過剰に反応した。
やはり、彼は正体不明な存在、悪と定義される存在に排他的だった。
ガンドルフィーニが納得しきれないと思ったのか、学園長は『ただし』と一つだけ条件を付け加えた。
「君を一ヶ月間、監視させてもらう」
「あァ?」
俺が不満げな声を上げるが、こればかりは譲れないと学園長は強い目でこちらを見やった。
おそらく、それが学園長の最大限の譲歩なのだろう。
それが学園長が俺を信頼してくれた証拠なのかはわからないが、学園長がこちらに敵意を抱いているのではないと言う事が確信できた。
……いや、こちらが見抜けないほどの演技なのかもしれないが。
しかし、ここで断れば麻帆良に俺の居場所はない。
戸籍もない状態で日本で生きて行けるわけがないので、俺はこの提案を了承するしかなかった。
「シャワールームとか覗くんじゃねェぞ?」
それは事実上、了承の言葉だった。
「無論じゃ。ただ、部屋の中は覗かせてもらうぞい?」
「構わねェ。別に、俺は寝てるだけだと思うしよォ」
とりあえず首輪のような物がついたことにホッとしたのか、学園長がこう問い掛けてきた。
「で、君の名前はどうするんじゃ?田中太郎にでもしておくかの?」
「ブッ殺すぞ」
そう言って少し殺気を放ってやる。
すると、魔法先生たちの顔色が変わった。
ガンドルフィーニは即座にナイフを取りだし、刀子は刀を抜き、タカミチは重圧のこもった目でこちらを睨んでいた。
正直に言うとチビりそうに怖い。
俺がもし元の姿なら、この場で土下座して『調子こいてマジすんませんしたーッ!!』と謝っていることだろう。
だが、俺は一方通行。
俺の肉体は恐ろしい事にこれくらいの殺気ではびくともしないようだった。
それどころか、彼等の動きを捉えて感想まで述べる余裕があった。
「反応が遅ェぞ。もォ少し速く行動できねェのか?」
高音や佐倉に至っては俺の殺気に当てられて動けないようだ。

あれほどうるさかった奴が顔を真っ青にして黙ると言うのは思いがけないほど爽快だった。

俺の言葉に周りは更に緊張した空気に陥るが、頃合を見て俺は肩を竦める仕草をした。
「ジョーダンだよ、ジョーダン」
くくっ、と笑いながら告げる。
これで彼等の警戒指数は上がっただろうが、しょうがない。
思わずぶっ殺すと言ったこの身体が悪いのだ。
どうやら、アクセラレータに冗談は通じないらしい。
内心でため息をつきながら、俺は少し虚空を見つめた。

名前のことを考える必要があったからだ。

生前の名前でもいいが、魂だけの存在に名は不用だろう。
ならば、この肉体の主の名前を借りるべきだと思う。
「俺の名前は一方通行だ」
「アクセラレータ?」
「あァ。ポッと頭に思い浮かんで来やがった。もしかしたら、俺はそんな風に呼ばれてたのかもしれねェと思ってな」
「・・・しかし、戸籍にそんな名前を書くわけにはいかんの」
「なら、漢字で一方通行(ひとかた みちゆき)って書いてくれねェか?日本人っぽい名前にはなるだろ」
これで、俺の名前は一方通行に決まった。
みちゆきでもひとかたでもいいが、できればアクセラレータと呼んで欲しい。
多分、この一方通行の肉体がアクセラレータ以外の呼び名を拒絶するだろうから。






SIDE 近衛近右衛門

いや、あのような目をする若者と言うのは実に久しぶりじゃのう。
そう思いながら、ワシは彼の細い背中を見送っていた。
刀子君、そして付き添いとして刹那君の案内によってとある開き部屋へ案内される事になっておる。
流石に野宿はかわいそうじゃからの。
刀子君、刹那君、そして彼が学園長室から去ると、ガンドルフィーニ君が険しい表情でワシを睨んできた。
「あんな未知数な者を麻帆良の中に招き入れるとは、どういうことですか、学園長」
「どうもこうも、これ以外に方法はなかったじゃろうて」
彼のオーラというべき気配は、裏の匂いしかしなかった。
時折表の気配も混ざるが、おそらくそれは記憶喪失しているからなのだろう。
彼の背後に見える大きな闇。
彼の抱えるそれがどれほど大きいのか、それがわかっているのはおそらくワシとタカミチ君以外におらんじゃろう。
ガンドルフィーニ君もそれをわかっていない大多数のものに入る。
どうも、ガンドルフィーニ君は頭が硬いのじゃよ。
「彼……アクセラレータ君を今外に放ってしまうのはあまりにも危険じゃ。下手をすればあの能力を使われて強盗や殺人まがいの事を起こすかもしれん。魔力や気を察知できん力を使うのじゃから、全世界に飛びまわられたら厄介じゃ。それを防ぐためにも麻帆良に閉じ込め、彼が生きることができる環境を整えてやらなければならないのじゃよ。そうすれば、少なくとも麻帆良を攻撃する事はあるまいて」
「……しかし、彼は危険です」
その深刻そうな表情を見て、ガンドルフィーニ君は彼なりの感覚でアクセラレータ君の闇を捉えたようじゃった。
ただ、どうやらその大きさを掴んでいるようではなさそうじゃな。

彼の闇そのものを捉えられたのなら、手元において監視した方が良いとわかるじゃろうに。

「あれほどの殺気、常人が放てるものとは思えません。おそらく相当数の修羅場を潜って来た者かと思われます。あの見た目では驚きですが……それにしても、中学生や高校生レベルの年齢の者ができる真似ではありません。もしかしたら彼も『闇の福音』のように見た目では判断ができない年齢なのかもしれません。そして人外ならば、魔力でも気でもない力を使う魔法の行使も可能かと思われます」
「それらは全て推測に過ぎんのじゃよ、ガンドルフィーニ君」
そう、全ては推測じゃ。
ガンドルフィーニ君が言っている事は、確かにもっともな事じゃろう。
彼は危険じゃ。
それに間違いはない。
だが、だからと言ってこの麻帆良から追い出すというのは限りない下策だ。
「彼を恐れるのはわかる。彼が何かしでかさんと言う保証もない。じゃが……彼は何か我々にとって重大な事件を起こしたりするとは思えんのじゃよ」
「根拠はあるのですか?」
「カンじゃ」
ワシは取り繕ったりせず、スッパリサッパリそう言った。
そう、彼を疑ったりせん理由は他の何でもない。

カン。

それだけじゃ。
「ワシの長年のカンは彼が危険じゃないと訴えおるんじゃよ。大きな力は確かに正義と悪に二分されやすい。悪の力は確かに我々魔法使いが討滅すべき存在なのかもしれん。じゃが、彼が扱うのは莫大な力その物であって、決して悪ではないと思うのじゃよ。莫大な力はそれだけでは決して危険ではない。彼も口調は悪いようじゃったが、頭の中はどうやら利口な青年のようじゃからな。この一年間で一切問題を起こさなかったら、ワシは彼を危険視する事はやめるつもりじゃ」
「僕も同意見ですね」
今までずっと黙っていたタカミチ君がワシに同意した。
やはり、タカミチ君はわかっとるようじゃな。
「彼の殺気は、僕は意識的ではなく無自覚にやったものだと思うんです。あれがただムカついただけで放たれる殺気なら、明確な殺すという意志で放たれた殺気は凄まじい物になりますが……彼はそういう『裏の力』と言うべき純粋な能力ではない力の制御ができないのではないかと思います。だからさっきはあのような状況になってしまったのだと思います。おそらく、記憶を失う前は裏社会を幼い頃からくぐり抜けてきたのでしょう。それに……彼の目には理性がありました。彼の事を良く知らないのに否定するのはよくないことですしね」
「……なら、この麻帆良に突如として出現した理由はどう説明されるのですか?」
「それは僕にも……」
「ワシにもわからん。転移魔法か何かで麻帆良にやってきたと考えるのが妥当じゃろうが、それが彼の意志なのかどうかは誰にもわからん」
ワシらがイマイチ彼を信用できない理由、それがどうしてあそこに彼がいたのかわからないからじゃ。
ワシの見立てによるとおそらく彼は何らかの事故に巻きこまれ、転移魔法を食らってしまった。
その過程で記憶を消失してしまい、転移魔法で結界を突き破って麻帆良へやってきた。
どうして麻帆良なのか、というのは偶然の一言で片付けられるレベルの事柄である。
まあ、それもこれも彼が記憶を取り戻してからの話になりそうじゃわい。
兎にも角にも、いざとなればワシが全ての責任を負って決着をつける。
彼が良からぬことを企む輩であるのならば、
このかや生徒達を危険な目にあわす悪党なのだとしたら、
迷わず、私の杖で貫いてやる。






SIDE 一方通行

刀子に案内された場所は小さなアパートだった。
事情を聞くと、何やら事情のある子たちや寮の人間になじめない子たちがこういう所に住んでいるらしい。
クラスに一人くらいは不登校の奴がいると思っていたが、この麻帆良でも例外じゃないみたいだな。
その中には、俺のようなわけありの人物もいるらしい。
まあ、別に係わり合いになる訳じゃないからわりとどーでも良い話ではあるが。
「ここがあなたに割り当てられた部屋です」
どこか作業的な声で刀子が言う。
おそらく、殺気を放ったり未知の力を使う俺を恐れているのだろう。
あるいは、敵とみなしているのだろうか。
どちらでも良い。

来る敵は拒まずに叩き潰すまでだ。

そう思っていると、刀子から携帯が投げ渡された。
「この携帯で、明日学園長から呼び出しがかかると思います。十時ごろといっていましたから、それまでに起きていてください」
「わァーったよ。それにしてもホントに用意がいいな」
「これだけ大きい学園都市だと、それだけ問題が起こるんです」
「……それにゃ同意するな」
実際、一方通行のいた学園都市なんてひっくり返せば血と肉の渦のようなもんだったからな。
麻帆良はまだ平和なのか、それとも学園都市が異常なのか。
……またどうでもいい話だ。
「で、俺ァもう寝てもいいのか?」
その言葉に刀子は少し面食らったような顔をした。
「別に何をしようがあなたの勝手ですが……まだ七時ですけど」
「……なンか眠くてたまんねェんだよ。別にいいだろ俺の就寝時間が速くてもよォ」
そう言いつつ、俺はその部屋のドアノブに手をかけた。
そこで、何かを思い出したかのように振り向く。
「あァ、悪ィな、案内させちまって。じゃあな、オヤスミ」
ひらひらと手を振って、俺はドアを閉めた。
ドアの隙間から見えた彼女達の表情は、実に滑稽だった。
刹那もそうだが、刀子のぽかんと呆けた顔というのはレアだ。
やはり、生真面目な人間ほどからかうのは面白いらしい。
あの二人はどうやら俺が礼を言うなんて思わなかったようだ。
俺はそう思ってこみ上げて来る笑いを噛み殺しながら、靴を脱ぎ、真っ直ぐ廊下を歩いてそのままベッドに寝そべる。
しかし、改めてこういう場所に隔離されると、俺がこの世界に一人で取り残されたのだと実感してしまう。
クラスでは友達もおらず、極平凡の成績で標準的な生活を送ることで目立たなかったおかげで話せる相手はほとんどいなかったが、それでも失って初めてわかる我が家の大切さと言う物を実感する事ができた。

今からは一人で生きていかなければならない。

俺の武器は最強のチート肉体と負けず嫌いな根性だけだ。
この武器を持って、これから現実に戦いを挑まなければならなくなる。
俺の頭脳は原作知識を元に凄まじい勢いで大雑把なこれからの計画を立てていく。
たいていの人物像は掴んでいるので、明日は麻帆良を探索するという計画となった。
あのジジイのせいで狂うかもしれないが。
今回わかった事だが、あのジジイは基本的に善人だ。
お気楽でもないが、お人よしだ。
巨大な麻帆良という組織をまとめるのなら、ガンドルフィーニの方が適任だと俺は思う。
だが、ジジイが学園長でやりやすいのは確かだ。
せいぜい足掻かせてもらうよ。
俺はずるずると硬い枕を抱くように移動し、そのまま寝入った。
この世界に出現した最強の超能力者の最初の一日の終わりだった。






SIDE 桜咲刹那

私が同行を申し出たのは、決して刀子さんの腕を侮っているわけではない。
私は私でこの男を見極めたかったのだ。
おそらく、見た目からして年上の、一方通行と名乗るこの男。
こいつがお嬢様を狙う刺客じゃないと言う保証はないからだ。

私もバカじゃない。

……いや、確かに学校の成績はちょっと悪いが、そんな意味ではなく。
直にお嬢様を狙う刺客かと聞けば早いだろうが、もしイエスだったら学園長のやった取引などはパーになる、ということだ。
学園長達は良い顔をしないだろう。
それに、彼の実力は未知数だ。
鬼の腕力を持って振り下ろされる棍棒の一撃は、私でも容易に受け止める事はできない。
それを身じろぎもせずに受けとめ、反撃さえしてのける。
私より細いんじゃないか、と錯覚させるほどひょろっとした細い腕や脚からは想像もできない威力で鬼達を殴り飛ばし、蹴り飛ばす。
おそらく、私だけでは敵わないだろう。
だが、この男が張っているのはおそらく障壁。
私の雷鳴剣と刀子さんの雷鳴剣は地形を変える威力を持つ。
まともに食らえば彼とて無事ではすまないだろう。
……まともに食らえば、と言う話ではあるのだが。
さて、私達は夜の道を歩いているわけだが、この男、緊張感の欠片もなく欠伸などをしている。 
しかも御丁寧に『ふぁーあ、眠いなァ、オイ』というおまけ付きだ。

斬ってやりたかった。

刀子さんや私がどのような気持ちで歩いているのかなんて全く知らないし、わからないのだろう。
彼の言う事を信じるとすれば、彼は記憶喪失。
人の感情を察する『エピソード記憶』が不足しているのなら、空気が読めなくなったと思ってもらっても良いだろう。
それであの殺気を放つのだから、冗談ではない。
裏の者独特の匂いもするし、記憶喪失が演技なのか、それとも本当なのかは曖昧なのだ。
学園長の気持ちがわからなくもないが、それでもこの男を麻帆良にとどめておくのが危険とは思わないのだろうか。
あの学園長の事だから、何か考えがあるのかもしれないが。
そう思っていると、アパートの前についた。
私も何回か訪れた事があるが、相変わらずボロい、古びたアパートだ。
何か幽霊でも出そうな感じだ。
とあるドアを指差した刀子さんは携帯を取り出して彼に渡し、明日に呼び出しがある事を告げた。
彼は用意がいい様子に呆れていたが、私だってそう思う。
いつの間にあの携帯電話を渡したんだろう、学園長は。
無駄なところで強者スキルを発揮したりするから困ったものだ。
そう思っていると、彼はぽつりと言った。
「で、俺ァもう寝てもいいのか?」

はぁ?

何故そんな事を許可する必要があるのだろうか。
私の困惑は刀子さんも同じだったらしく、少々戸惑いながらも答えた。
「別に何をしようがあなたの勝手ですが……まだ七時ですけど」
「……なンか眠くてたまんねェんだよ。別にいいだろ俺の就寝時間が速くてもよォ」
そう言いつつ、彼は再びその部屋のドアノブに手をかけた。
そこで、何かを思い出したかのように振り向く。
「あァ、悪ィな、案内させちまって。じゃあな、オヤスミ」
私達は思わず呆気に取られて彼を見つめてしまった。
失礼かもしれないが、とても彼は礼を言うような人間には見えなかったからだ。
粗暴な言動、不良を思わせる三白眼、身体から滲ませる『近寄るな』と警告するようなオーラ。
経験上、そんな人物はまともな奴ではないので、そんな雰囲気を漂わせている彼が素直に礼を言うなんて思えなかったのだ。
そして最後。
ドアが閉まる直前に見えた、彼の背中。
見た目にも頼りないその背中は震えていた。
笑いか、それとも悲しみか、それは私にはわからない。
だが、その姿はとても哀愁を漂わせていた。
まるで、過去の私のように。






~あとがき~

ようやく書けた……いや、書きすぎか?
ていうか、改めて見直したらぬらりひょんがカッコイイwww
なんで俺こんなにカッコよくしたんだろ?
その場のテンションって、怖いっす。



[21322] 第3話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa
Date: 2010/08/21 12:48
SIDE一方通行

覚醒して鏡を見ても、俺は一方通行のままだった。
何故か身体がもっと寝ろ!!今すぐ寝ろ!!さあ寝ろ!!というダルさを脳に向けて発信してくるが、俺はそれを拒絶するために冷水で顔を洗った。

……冷た過ぎるだろ!?

顔を洗ってから数秒硬直し、俺は慌てて顔を拭いた。
心臓に悪いな、こりゃ。
寝覚めが悪い体というのはどうも馴染まない。
一方通行は低血圧なのだろうか。
ちなみに『俺』は毎朝七時に起きる優良な学生だった。
あの時は楽に起きることができたのに、この身体はこう言う時だけは不便だ。
体に纏わりつくダルさを振り払いながら、俺はベッドに腰を下ろし、テレビをつけた。
チャンネルは僅かしか通っていない。
他の番組はくだらなかったので、結局ニュースを見ることになった。
意味もなくそれを流し見ていると、腹が鳴った。

ダルくても腹は減る。

なんとも一人暮らしには不便な身体だろうか。
俺はそう思いながら、冷蔵庫の中を見ると、中は空っぽだった。
せいぜい、ペットボトル1本の水が置かれているくらいだ。

どないせーっちゅうねん。

俺は二リットルペットボトルを片手で持ちながら呆然としていると、傍にある食器棚に目をやった。
その下はタンスになっており、その中もくまなく漁ってみると、カップ麺がいくつかある事が判明した。
賞味期限は切れてないようだ。
何故か新品同然だったヤカンを取りだし、それにペットボトルの中の水をどぼどぼと適当に注ぎながら火をつける。
電気ではなく、ガスだ。
俺の中の一方通行の知識はガス式は今時珍しいと言っているが、今は刹那が麻帆良にいて行動している事からおそらく二〇〇一年から二〇〇三年だと思われるので、珍しいのではなくこちらではこれが当然なのだ。
おそらく、と推測しているのは、今が何年何月の何日なのか、昨日聞くのを忘れたのだ。
学園長達と対面していた時ならともかく、刹那や刀子と一緒にいた時なら間違いなく聞けただろうに。

我ながら間抜けである。

ニュースで確認してみるか、とニュース番組に視線を移してみると、今は二〇〇一年の十一月九日。
肌寒くなる頃だ。
俺は長袖一枚とトランクス、そして長ズボンという十一月前半にしては軽装気味なスタイルだ。
これはまず学園長から金でも借りて服を買い揃えなければならないだろう。
警備員として雇うとか言っていたから、前借りで。
ピョー、という想像していたよりも腑抜けた音でヤカンが沸騰を知らせてきた。
俺はそのヤカンを手に取り、カップ麺に注ぐ。
御丁寧に割り箸や取り皿もあったので、それらで蓋をした。
三分はニュース番組の時計を見て計った。
寒くなりつつあるこの季節で暖かいカップ麺は何故か心に染みた。
単身赴任のサラリーマンってこんな感じなんだろうな、と思う。
まさかこの歳でサラリーマンの気持ちを理解するとは思わなかったので、なかなかに切ない気分になる。
ハァ、とため息を一つ付き、俺はズルズルとカップ麺をすすった。
早くも望郷の念が押し寄せて来るが、数あるネギまSSのようにどーせ帰る事はできないだろう。
しかも帰れたとしてもおそらくそこはとある魔術の禁書目録の世界。
どちらかというとネギまの方がマシだ。
猟犬部隊やら『ヒューズ・カザキリ』やら『ドラゴン』やら……アレイスターの計画には関わりたくないし、この世界で一方通行の反射を無効化できる奴というのはそういないだろうからだ。

神楽坂明日菜の魔法無効化能力は通じるのか、少々試してみたい感じはするが。

どうせ帰れないのならせいぜい楽しもうと思うが、学園長などにあれほど警戒されていては楽しむ事なんざできやしない。
それに、既に監視も動いているようだ。
窓の外……いや、窓の傍から視線を感じる。
スナイパーで俺が知っているのは龍宮真名だが、彼女はこんな面倒くさい長期任務を請け負うとは思えない。
魔法か何かでの長距離監視だろう。
ふと、視線が時計に移る。
現在時刻、午前九時六分。
十二時間以上も寝てたのかよ、と俺の睡眠量に呆れていると、突然電子音が携帯から響いてきた。
なんだなんだと思うと、メールの着信であった。

学園長だ。

内容は、俺のいるアパートからじゃ場所はわからんだろうから地図を送るとのこと。下を見れば確かに簡略的な地図が載っていた。
メールを返すのは面倒なので、俺は学園長室で挨拶する事に決め、後三十分ほどはゆらりと過ごそうと思い、淡々と流れていくニュース番組を眺めていた。






SIDE どこぞの魔法先生

「こちらアルファ。目標、起床しました」
『こちらベータ。了解、引き続き監視せよ―――ってやめねえかこの口調?』
監視魔法によりアクセラレータと名乗る奇妙な男を監視して報告する。
それが私の任務だ。
それ以上でも以下でもない。
ただやることを行うだけだ。
通信相手が何か言っている気がするが、聞こえない。
報告する時にこの口調は普通だろう。

まさかそれ以外になにかあるというのか!?

「……むっ」
心の中で叫びながら監視を続けていると、低血圧なのかフラフラと洗面所へ行き、『のわァ!?冷水じゃねェか畜生ォ!!』という怒声が聞こえてきたのでおそらくお湯ではなく水で顔を洗ってしまったのだろうと思う。
だろう、というのは洗面所辺りまでは私も監視できないからだ。
しかしこの時期に水で顔を洗うとは……ショック死するぞ。
更に監視を続けていたが、やがてアクセラレータはソファーに寝転び、何やらニュースを見始めた。
……こっちは寒い早朝でさっさと起きて監視なんていうクソ暇な任務についたってのに良いゴミブンですね。

グシャア!!と嫉妬と共に眠気覚ましの缶コーヒーを握り潰した。

血のように滴るコーヒーを手を振って飛ばしながら監視を続けていると、向こうはカップラーメンを食べ始めた。
何やら残業で疲れた親父みたいな雰囲気を発しているが、どういうことなのだろう。
……ああ、そういえば怒りに我を忘れていたが学園長に連絡を取らなければならない。
何やら学園長がアクセラレータにメールをするとか。
そういえば私も久しく友人たちにメールを送っていないことに気づく。
高速で携帯をいじりながら、
「こちらアルファ。現在メール送信中です、どうぞ」
『こちらベータ。いい加減そのフレーズが気にいってんのは認めてやるからいちいち報告すんのは―――ブホァ!?テメェなんてもん送りつけてきやがる!?っつか何時撮ったんだコレ!?どうぞ!!』
「こちらアルファ。黙秘権を行使します、どうぞ」
『こちらチャーリー。詳しく事情を聞きたいでゴザル、どうぞ』
「こちらアルファ。具体的には教師のくせに女子生徒と喫茶店でデート中な映像でゴザル、どうぞ」
『ふざけてんじゃねーッ!!ありゃあ向こうから誘われて仕方なくだな―――っつか誰だチャーリーって!?なんで自然と念話に入り込んできてるわけ!?誰だ念話傍受してるクソ野郎は!?』
『こちらチャーリー。むしろ画像をいただきたく候、どうぞ』
「こちらアルファ。だいたいその口調で誰か読めましたがとりあえず送っちゃったりしてみます、どうぞ」
『……こちらチャーリー。あまりのリアルな画像に失神寸前です、どうぞ』
『あァああああああああああああッ!?』
少しからかいすぎたか。
まあいい、別にいつものことだしな。
余計な時間を食ってしまったなあ、とくつくつ笑いながら、私は絶叫するベータの声をBGMに学園長へメールを送った。






SIDE 一方通行

十時ちょっと前。
徒歩で辿りついたのは良いものの、女子中学校に入るのは抵抗がある。
と思っていたのだが、案外すんなりと入れた。
授業中だったことが幸いし、誰もいなかった事が大きいだろう。
それにしても女子中学校校舎に学園長室を作るとか、あのぬらりひょんは何を考えてるんだか。
まあ……大方孫がかわいいとか言っておきながら超や明日菜、エヴァンジェリンの監視をやりやすくするためだろう。
麻帆良祭のあの件は、何やら学園長は訳知り顔だったし……だいたい、学園長の目をかいくぐって超や葉加瀬達が地下の鬼神などに手を出せるとは考えづらい。
おそらく、学園長も心の中では変革を望んでいたのではないだろうか。
本気で変革を望んでいないのなら、交渉事ならば超と比べ物にならないキャリアを持つ学園長だ、容易に超の思惑を無視することはあるまい。
言葉で聞かないのなら大多数による武力で制圧してしまう事だろう。

いくら超の内に存在するスプリングフィールドの魔力が強大だと言っても、一人ではできる事に限りがある。

茶々丸、葉加瀬、龍宮の力を借りても無理だ。
なにせ、こちらには学園長とタカミチがいるのだ。
茶々丸と葉加瀬は問題外。
超はタカミチが潰し、一番厄介な龍宮を学園長などが追いつめるだろう。
麻帆良祭でなければあの『最強の弾丸』も使えないことだし。
現在でも超の計画が進行している以上、学園長が超の計画を知っている事は明らかである。
明日菜に至っては言うまでもなく、彼女は魔法使いの天敵である魔法無効化能力者であり、更には『黄昏の姫巫女』でもある。
彼女を傷つける事はタカミチが絶対に許さないだろう。

ガトウに彼女を任された男として。

もちろん、その感情は決してLOVEではないが。
LOVEなのだったら、どんな光源氏計画だ、それは。
そんなくだらない事を思っていると、学園長室の前についた。
携帯の画面に映っている地図では学園長室を示す場所を『秘密の花園♪』と書かれている。

殺してェ。

思わず一方通行モードで扉をブチ殴って侵入しようかと思ったが、なんとか思いとどまって普通にノックした。
誰だと聞かれるまでもなく許可された。
そういえば、監視がついてるんだったな。
そう思いながらドアを開けると、そこには学園長一人だけがいた。
「よう来てくれたの、アクセラレータ君」
「あァ」
俺はダルげに答えを返しながら、視線だけでぐるりと周りを見まわす。
「昨日のうっとォしィのは来てねェみてェだが、どうかしたのか?」
「……ガンドルフィーニ君は授業、高音君は生徒じゃ。この時間はそれぞれ一般人と変わらない事をやっておる」
鬱陶しいのと言われて誰かわかるか。
流石学園長だ。
別に誉めてないが。
「そォいえばここは学校だったな……で、用件は?」
「うむ。君がこれから働く場所について。それと、面倒じゃから色々と質問も受け付ける。なんなりと聞きなさい」
学園長が話したのは、これからの俺のことだった。
麻帆良は重要な霊的拠点なので妖怪などの魑魅魍魎が発生しやすい。
その上、関西呪術協会の連中も攻め入って来るので非常に麻帆良の防衛範囲が広くなる。
それに何やら魔法使いたちには以前に第二次世界大戦とは異なる大きな戦があったらしく、それにより魔法先生の数は少ないので、魔法生徒まで動員することになっており、今回俺という強力な戦力が手に入ったのは実に助かるとのこと。

基本的に警備員は複数で行動し、主に魔法生徒と魔法先生の混合のグループで行動する。

それは三人であったり、四人であったりするが、優れた実力を持つ魔法生徒ならば魔法生徒だけで迎撃に出たりする事もあるらしい。
ま、NAR○TOで言うスリーマンセルである。
ちなみに、その優れた実力をうんたらというのは刹那と龍宮だ。
俺は魔法先生ではなく歳から魔法生徒に該当するらしいが、それはどーでもいい。
問題は、俺をどこのグループにくみこむか、らしい。
素性が知れない俺は他のグループに組み込まれると言うのを強く反対している一派がいるらしく、単独戦力として運用すれば良いという見方が強いらしい。
だがそれでは俺を野放しにする事になる。
それも危険だ、とのことで俺はガンドルフィーニ、刀子が受け持つグループに編入されることになった。
「おいおい、ガンドルフィーニってあの面倒臭ェ奴だろ?良くアイツ等が俺と同行する気になったな?」
「君を抑えこむにはそれ相応の戦力がいる、とのことでな。タカミチ君、刀子君、ガンドルフィーニ君のグループは我々の中でも最強クラスの戦力じゃ。タカミチ君は単独戦力じゃから二つのグループに編入させるしかなかったんじゃよ」
「俺をここに馴染ませようってェわけか?」
「ま、君もそんなに悪い青年には見えないしの。麻帆良は未知の力を使う者に対して非常に排他的な者が多いから、馴染むのは難しいと思うのじゃが……」
「構わねェよ、しばらくは俺も俺のことで精一杯だろうからな」
今日の朝、望郷の念がまた膨れ上がったのだ。

そんなに簡単に切り捨てられる事ではない。

俺の真剣な雰囲気に気づいたのか、学園長は話を変える事にしたようだ。
「どうじゃ?一晩たって何か思い出した事でもあったかの?」
「さっぱりだ」
おそらく、学園長は嘘発見器のような正直な事しか言えないような魔法も使っているのだろうが、それは別に問題ない。
記憶を失っているというのは嘘だが一晩たって何か思い出すにしても、記憶を失っているわけではないので思い出す事は何もないのだ。
だから嘘ではないのである。
屁理屈だが、通っているようなのでこれでよしとする。
もしかしたら、外部からの魔法を無意識的に反射しているのかもしれないが。
「アンタ達がどう思ってンのか知らねェが、俺ァ多分まともな人間じゃねェ。アンタ達が俺の正体を知るために俺の記憶の復活を願っているのはよくわかってる。だがな、俺は記憶が復活したら何しでかすかわかんねェぜ?アンタ達にとっては俺の正体を知るほうが重要なのかもしれねェが、俺は怖ェんだ。俺じゃねェ俺がこの身体を乗っ取るかもしれねェからな」
あながち、これは嘘ではない。
一方通行の思考がたまに混じる事から、おそらく一方通行の意識とやらは存在していると思う。
一つの身体に意識が二つある場合、普通は殴り合いなどといった喧嘩を起こす。
……と、俺は半端な漫画知識で推測している。
その時に俺の意識が負けてしまうと、俺という存在は消えてしまうのではないか、と言う錯覚が俺を襲うのだ。

転生し、身体がチート肉体で、転生先が漫画の世界。

味方はほとんどおらず、孤独な状態。

更に魂の危機という状況にまで陥ったら流石に俺も不安になると言う物だ。
もしかしたら考え過ぎなのかもしれないが、想定しておく事は悪い事ではない。
いざとなれば異常事態に対して冷静に対処できるからだ。
俺のそんな思惑も知らず、学園長は深刻そうに唸っていた。
「そォ気にすンなよ。いざとなりゃ、アンタが俺を殺せば良い」
「……君はそれでいいのかの?」
「いざとなりゃァ、な。俺は自殺志願者じゃねェ。ま、バカなことしねェように自重はしてやンよ」
それは本音だ。
一方通行の人格が目覚めてしまうと、彼が暴走する危険もある。
一方通行に首輪型のチョーカーがついてない時点で打ち止めと出会う前だということがわかる。

つまり、打ち止めというリミッターがないのだ。

反射の能力を持つ一方通行は、初見の人間に対しては絶大な優位性を持つ。
おそらく、『紅き翼』の連中を相手にしたら何らかの打開策を打ち出される可能性が高いので粉砕されるだろう。
理知的な感性のない……例えばリョウメンスクナとかであれば一方通行は無敵なのだが。
だから、一方通行が暴走すればこの世界で止められる人物はほとんどいないのである。
原作を見るに、彼は他人を傷つけるのが嫌であえて他人を遠ざけている節があったので、よっぽどの事がない限りそれはないだろうが、垣根帝督などの件もある。
あの黒い翼がでないという可能性を否定しきれない以上、一方通行が暴走するのだけは避けなければならない。
どうしても暴走するのなら、反射を解除して自刃でもしてやる。
介錯は刹那にやってもらおう。
そんな事を思い始めると、学園長はため息をついた。
「自分の事はわからんというのに、どうしてそんなことばかりに頭が回るかのう」
「元は優秀な頭脳だったんだろォよ」
こればっかりはそうと言わざるを得ない。
「ンで、今日は誰と行動すりゃいいんだ?っつか、集合時間は?」
「まあまあ、慌てるでない。まだワシの話は続いておるんじゃ」
どうでもいいが髭を撫でるな。

ウゼェ。

内心で思いっきりため息をついたが、それを知らない学園長はまだまだ語る。
「君を広域指導員に任命しようと思っての」
「……何だ?俺に教師になれってか?」
「そうじゃないんじゃ。言うなれば見まわりという生温いのよりもよからぬ輩などを鎮圧する部隊なんじゃよ」
「ハァ?そんなもンは警察にでもまかせりゃいいだろうがよ」
「麻帆良には警察は少ないんじゃ。公安に所属しとる魔法使いは少なくての、隠蔽工作が大変なんじゃ」
ああ、そういうことか。
原作を読んでいて全く警察が出てこず、広域指導員が輩を退治しまくっている理由がやっとわかった。
考えて見れば魔法は秘匿なのだから、公安の末端といえど一般の警察官を麻帆良に招き寄せるのはいささか抵抗があるのだろう。
公安というのは場合によっては学園長も逮捕する事ができるのだから、学園長の権力が絶対である麻帆良ではそれは不都合以外の何者でもない。
だからこそ、この広域指導員という治外法権がまかり通っているのだろう。
……ていうか、まともな警察があればネギが麻帆良に教師としてやって来るのは違法だと通報されてしまう。
麻帆良の結界とやらでゆるく対応される事になっているが、流石に警察官をごまかす事はできないだろう。

ネギは再来年の二月に麻帆良にやって来る。

おそらく、向こうの魔法学校の校長とも連絡を取り合っているのだろう。
あの校長と学園長は気が合いそうに見えるし。
「おそらく君の場合説得は無理そうじゃから、拳で黙らせるといい。それなりに体術も使えるんじゃろ?あと、君の風の力は使ってはいかんぞ。相手は一般人じゃからな」
「あァ、魔法は秘匿だったな。……緊急事態には?」
「構わん。迅速に対応してくれ。後の処理はワシらがやる。……ま、そんな事は滅多にないじゃろうから安心してくれ」
後の処理、というのは記憶の消去だろう。
毎回思うのだが、この麻帆良の魔法に関わる者たちは記憶を消去する事を何とも思っていないのだろうか。

普段正義正義と語っておいて、いざとなれば魔法使いとしての秘匿を優先し、他人の記憶を改ざんする。

これが『仕方がない』とか『決まりだから』とかほざきつつ『立派な魔法使い』を目指している連中が多いのだから、ホントにため息が出る。
ちなみに、こう言う連中は学園都市では真っ先に死んでいくタイプだ。
だがいざそうなってみれば向こうで適応していくのが人間なのだから、不思議な物だ。
「……あのよォ、一つ言っておくが、俺ァ体術なんざできねェぞ?誰だそんなデマ流しやがった奴は」
「ふぉ?刀子君と刹那君じゃが。見た目素人の拳なのに鬼をぶっ飛ばしたらしいの?合気道か何かかと思ったんじゃが」
「まァ、こんな体つきじゃそう思われても仕方ねェよな」
俺の身体は見た目病弱にも貧弱にも見える。
筋肉なんざ必要最低限しかなく、贅肉もほとんどない。
腕はガリガリ。
足もガリガリだった。
まあ、最弱状態のエヴァでも合気道はできたのだから、あまり見た目の腕力とかは関係ない武術らしいが。
「多分だが、そりゃ俺が無意識的に拳に風を纏わせたんじゃねェか?」
「ふむ?それなら刀子君達も感知するはずじゃが……」
「俺の風には魔力とか気ってのがねェんだろ?魔法とかじゃねェんだから感知できなくても仕方ねェことだろ」
「ふぉ?……そういえばそうじゃったの」
今更ながら学園長は気付いたらしかった。
比較的頭は柔らかい(むしろ長い)学園長だが、どっぷりと魔法使いの世界に浸かってしまっているので、魔法や気を使わない超常現象が理解できないのだろう。

真相はベクトルを操作してありったけのベクトルを殴ることに使ったからぶっ飛ばせたわけだが。

地球の自転もベクトル操作で力に変換できるチート能力がある一方通行なら、風のベクトルなどを全て集め、収束することができると考えたのだ。
どうやったのかよく説明できないが、そういうことだ。
わかりやすく言えば元○玉に近い。

みんな、オラにベクトルを分けてくれ!みたいな。

「俺がただ机を叩いた程度じゃせいぜい小さな音を出す事しかできねェよ」
実際に叩いて見ると、ドン、という音がしただけだった。
タカミチなら余裕でぶち抜いてみせるだろう。
「ま、最初は手加減が難しいから、救急車の手配はしとけよ」
「善処はしてみるぞい」
二回目からはそんな事はないだろうが、人を殴る事になれていない俺は確実に最初加減を間違うだろう。
……できるだけ急所は狙わない方向で。






昼間は散歩して麻帆良を回ることにした。
学園都市よりは小さいとはいえ、麻帆良はかなり広い。
とてもではないが一日で回りきれる量ではなかったので、とりあえず家の周辺を探索してみた。

この白い頭は目立つのでパーカーを深めに被って隠しておきながら。

俺は男か女かわからない体形をしているから女子中等部の方に向かっても多少違和感があるくらいで済むだろうが、あっちには刹那がいる。
数あるSSでは『このかお嬢様の敵か?』と尋ねて来るのが定石なので、できる限りそっちには近づかない事にする。
遭遇率が下がるからだ。
他人に嫌われるのが嫌、なんて可愛らしい事は口にしないが、それでも敵対視されるのは良い気分ではない。
それに、背後から感じられる視線が鬱陶しくてしょうがない。
暇な魔法先生の尾行だろう。
お勤めご苦労様。
そんな事を思いながら、俺は麻帆良を練り歩いた。
改めて麻帆良という土地を見ると、実に綺麗な土地だった。
路地裏は流石に汚いが、表通りにガムが吐き捨てられている事はなかったし、ゴミが無造作に散らかっている事もなかった。
おそらく、お節介な誰かがゴミを捨てると注意するからだろう。
バカ正直な正義感を抱く誰かとか。
高音の顔を思い浮かべて肩を竦めながら、俺は小腹が空いたのでチェーン店っぽいところに入って適当にカロリーの高いものを注文した。

……腹が減るんだ、この身体。

そういえば原作では一方通行はステーキを日常的に食ってたりしたな。
それでこの体形だから、たいしたもんだ。
もしかしたら膨大な演算を行うのに過剰なエネルギーを使っているのかもしれない。
俺のその予想が当たっているのなら、反射をあまり使わなくなったのでこの身体も鍛えなおせるかもしれない。
おそらく15,6程度の肉体だ、今から鍛えなおしても間に合うはず。
エヴァンジェリンの別荘が使えれば良いのだが、流石に十五、六歳で修行しまくると外見まですぐに変わって来るのでむやみに使うことはできない。
ネギが来るまで大きな事件もあるまい。
のんびりと鍛えていけばいいさ。
そう思いながら運ばれてきた注文―――ラーメンとチャーハン、餃子と唐揚げを見た。
ぐー、と正直な身体は匂いだけで耐えられないらしかった。
かぶりつかん勢いで料理を捕食する……まさに生還した遭難者のようなその姿にウェイトレスのねーちゃんもドン引きだ。

しかし美味い。

麻帆良祭の時期には是非超包子に行きたいと思う。
超や古菲、茶々丸などといったトンデモ連中がいるが、その時はその時で対処するしかない。
俺程度の人物が超相手に何ができるのか、と言う感じではあるが。
正直『最強の銃弾』でも俺を仕留めることはできないと思うが、それならそれで超は改良を加えるだろう。
銃弾そのものを時限爆弾のように改造し、何百メートル進んだら炸裂する、とか。
龍宮とかなら余裕でやりそうだから困る。
改造する期間は一年半近くもあるのだから、超と葉加瀬であれば十分可能だと俺は考えている。。
物理魔法攻撃に対してほぼ無敵の俺を封じるためならありとあらゆる手を使うはずだろうし。

もっとも、反射の事実を知っているのは俺一人。

ネギが来ていろいろと起こるまで、俺はこの事実を隠しておくつもりだ。
能力が発覚したら『いろいろと実験してたらわかった』とか言い訳しておけば良い。
それで向こうが文句を言って来たら監視でもしてたのかとか言って脅せば良い。
向こうは正義を主張する魔法使いだ、姑息な真似を嫌うだろう。
十分、監視も姑息な真似ではあるのだが。
そう思っていると、突如目の前に誰かが座った。
席はいくらでも相手いるというのに、わざわざ目の前に座るというと、俺に用がある人物としか思えない。
俺はラーメンの汁を飲み干すと、口元を拭ってからソイツを見た。
「そんなに一生懸命な姿を見てたら声をかけられなくてね。勝手に座らせてもらったよ」
「……アンタか、オッサン」
まさしく『オッサン』という概念を捏ねて型にいれて焼いたらこんな感じになるんだろうという人物、タカミチ・T・高畑がそこにいた。
タカミチはいきなりオッサン呼ばわりされた事にちょっと傷ついたのか、がっくりと肩を落とす。

怒らないところが大人だ。

「いきなりオッサンかい?」
「名前も知らねェオッサンはオッサンで十分だ」
ようやく自分が名乗っていない事に気付いたタカミチは一本取られた、とばかりに頭を掻いた。
「そういえば名乗ってなかったね。僕はタカミチ・T・高畑。君と同じで麻帆良の広域指導員をやっている」
「あァ……で、そのタカミチさんが何の用なンだ?」
「これを渡しに来たんだ」
タカミチは懐からカードのようなものを取り出す。
「君の麻帆良での身分証明書みたいなものだよ。ここのマークが広域指導員の証。君が騒ぎを鎮圧した時、被害者達にこれを見せれば安心してくれるよ」
「ま、鷹を追い払った鷲が敵だった、って事実は良くあるモンだからな。このくらいは当然だろォよ」
俺はそう言うと、から揚げを頬張りながらカードをポケットに突っ込む。
いつの間に撮ったのか俺の顔写真まで張ってあった。
後でこの事を詳しく学園長に問い詰めてやる必要がありそうだ。
どーせ、また魔法か何かなんだろうが。
「どうだい、麻帆良は?」

かなり突然だった。

そのせいか、ぴたり、と思わず俺の箸が止まる。
「……悪くねェ所だ。ただ、あんま落ちつかねェ場所だ」
「どうしてかな?かなり住み心地良い場所だけどね?」
「だからこそだ」
俺は淡々とした調子で言う。
「なんとなく、こう言う仲良しこよしみてェな空気は好きじゃねェ。平和が一番ってェのはわかってンだが、なんとなく慣れねェんだよ。俺は記憶がなくなる以前はとんだ廃れた生活を送っていたらしい」
それは俺も、一方通行も同じ気持ちだ。

平和が一番。

もちろん、一方通行もそれがわかっていないはずはない。
だが、どうにも落ちつかないのだ。
監視されているから、と言うのもあるかもしれない。
しかし、おそらくそれとは関係なく俺は麻帆良に漂う空気その物が嫌なのだろう。
生温く、のほほんとしていて、急激な変化が感じられないのだ。
麻帆良には変化を嫌う魔法使いがいるのだからそれも当然なのだろうし、麻帆良大結界が認識を適当にさせる効果を持っているのだから生徒の反応もお気楽で非常に緩い。
十五年も正気でいられるエヴァンジェリンや常識的観点を持つ長谷川千雨がこの空気に耐えて来た事は賞賛に値する。
エヴァンジェリンのような廃れた生活を送っていた者からすれば、この麻帆良は地獄の牢獄でしかないし、千雨のような者からすればクラスから浮くことになる。
漫画の中の出来事だった彼女達の気持ちの一端が、ようやくわかった気がしていた。
「…………」
タカミチはタカミチで何か思い当たる事でもあるのか、どこか厳しい表情をしている。
彼は麻帆良にいる魔法使いとは違い、全世界を飛びまわり、紛争地帯などに行ってNGO活動をしてきた常識人だ。
理想と現実は違うということを理解しているからこそ、俺の言う事が多少はわかるのかもしれない。
「じゃァな」
俺はタカミチにそれだけ言い残すと、代金をレジにおしつけてその場から去っていった。
もうちっと周りを探って見るか、と思いながら。






SIDE タカミチ・T・高畑

僕はコーヒーを注文していたが、ハッと我にかえるとすっかり冷めてしまっていた。
どうやら、考えこんでしまっていたらしい。
彼が別れの言葉を告げた辺りまでは覚えているんだが……集中しだしたら周りが見えなくなる癖は直したほうがいいな。

咸卦法の弊害って奴かな。

それにしても、彼と一緒の椅子に座った直後に頼んでいたから、それほど時間は経っていなかったと思うんだが……冷たい。
僕は冷めてしまった苦いコーヒーをちびちびと啜りながら、ガラス張りの大きな窓の外を見た。
今は一時少し前。
学生達は勉強の最中なので人通りはほとんどない。
がらんとしている商店街はとても寂しく思える。

だが、彼はこれでも麻帆良の穏やかな空気に慣れないという。

彼にしか感じられない麻帆良の空気と言うものがあるのだろうか。
僕も裏では結構長い経験をつんできた方なので、それなりに世界の汚い所も見て来たつもりだ。
学園長には経験では遠く及ばないが、それでも麻帆良で二番目の実力者として、魔法世界で英雄と呼ばれている『紅き翼』の一員として、地球上の大きな闇はあらかた見て来たと、そう思っていた。

だが、それは彼が来た事で夢想だと悟った。

彼の目を見ればわかる。
あれは地獄以上の光景を見て来た目だ。
彼の場合わかりづらいが、アルビノ独特の赤い瞳は非常に綺麗だった。
あの目は人間としては何なのか、確立している目だ。
自己というものが確立しているから他者に惑わされない自分の答えをはじき出す事ができる。
そんな真っ直ぐな目をしていて、纏っている空気は濃密な深淵の闇そのもの。
はっきり言うと、彼は異質そのものだ。
あの歳で地獄という光景を見て来た物はすべからく目は濁っている。

そして、堕ちる。

犯罪者に手を染め、生きる事なら何でもやり、生き残るためなら他者の命を奪う事も躊躇しない。
そんな人間になってしまう。
僕はそんな醜い人間の感情を目の当りにしてきた。
だが、彼は堕ちた人間では決してない。
堕ちて、這いあがってきた人間でもない。

ドン底にまで堕ちた人間なのだという事を悟った。

深くに堕ちた人間と言うのは、ああいう物なのだという事を僕ははじめて知ったんだ。
記憶喪失であのように素直になれるのなら、多分彼は本質は善人なのだろう。
もしも本質が悪人なのだったら、あんな綺麗な目をしていないはずだ。
ガンドルフィーニ先生は警戒しているが、僕達が具体的な敵対行動を起こさない限り、彼は僕達に攻撃してくる事はないと思う。
言い切れないのは、彼の態度や見た目のせいなのだろう。
あれのせいで、彼の内面は非常にわかりづらい。
昨日の彼の殺気には思わず反応してしまったしね。

……それにしても、一方通行、アクセラレータか。

彼の感情は確かに一方通行なのかもしれない。
「難儀なもんだな、彼も……」
この僕でさえ彼と話して見て、ようやく彼への疑心が晴れてきた所だ。
常人なら、彼の表向きの面のみを見て彼という存在を判断してしまうだろう。
僕から見れば、あれはどこか演技しているようにも思えるんだ。
敢えて人に嫌われようとしているような……そんな感じがする。
何が彼をそう言う態度にさせたのか、それは誰も知らない。
彼自身も知らないのだろう。
しかし、それで彼が損をするのは素直に悲しいと思う。
「誰かさんと少しにてるかもな」
素直になれないが故に十三年も現在進行形で罰を与えられている吸血鬼を思い出し、僕は静かに笑った。






~あとがき~

一方通行という規格外が麻帆良の人間に信用されるには一年くらいの時がかかると思ったので、彼がやってきたのはこの時期にしました。
ネギが来るまで一年以上……自分でやっておいて何だが、それまでちゃんと書けるだろうか。
感想も随分頂いたし、頑張らなきゃな、と思います。
次回は多分、話はあんまり進まない予定です。
~そして一年が過ぎた~なんてことはありませんので。



[21322] 第4話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa
Date: 2010/08/21 20:35
SIDE 一方通行

俺はその後、いろいろと各地を巡ることにした。
超包子の路面電車を見たときは思わず開店時間を覗こうと思ったが、なんと開店期間は麻帆良祭だけだという。

絶望した。

俺の半端な原作知識に絶望した。
絶望して疲れてしまったので、必要最低限の買い物を済ませる。
とりあえず生活必需品を中心に。
今日の夕食がラーメンとか、惨め過ぎる。
俺は真っ先に炊飯器を購入した。
そして替えの服や動きやすい靴などを買い、最後に食料を確保。

これでも俺は自炊派だ!

このかには敵わないがな!

虚しい叫び声を上げつつそれらを購入し、俺はマイホームへと帰還した。
買ってきた物を整理し、それぞれクローゼットに閉まったり台所においてきたリ冷蔵庫に入れたりして保存する。
家電製品などは送ってもらう事にした。
主に炊飯器とか。
どうして自炊にこだわるのかというと、この一言に尽きる。

外食は金がかかり過ぎる。

……俺が食い過ぎるだけだが。
俺はその整理を終えると疲れたので、一旦寝ることにした。
ぐっすり。
軽く3時間も眠ってしまった。
昼寝にしては長すぎるだろう。
やはり、俺の身体は無駄にエネルギー消費が激しいのだろうか。
よくわからんが、大きな力にもやはりデメリットは存在するんだと思った。
デメリットだとしたら、凶悪なメリットのわりには地味に困るデメリットだと思った。
それから、俺はまたもや外に繰り出した。
周辺の地理は理解したので今度は世界樹方面の探索に向かうことにした。
もっとも、漫画で世界樹を見たときにやってみたいと思った事をやるためだが。

歩いて十分ほど。

世界樹公園前広場にて、その全景を拝める事ができた。
俺は目の前にあるバカみたいにでかい大木を見上げる。

ト○ロか。

思わずポツリと呟いてしまうほどデカかった。
広場は特筆すべき点は見当たらなかったので、俺はそのまま世界樹の上で一服する事にした。

ベクトル変換。

足先で軽く地面を蹴るだけで、俺は十何メートルもジャンプする。
もはや飛翔と言ったほうが良いかもしれない。
一回の跳躍で世界樹の中間辺りまでやって来ると、手ごろな太い枝に捕まり、その上に着地する。
一つ一つが巨大な丸太のような枝なので、異常なまでの安定感を感じた。
どれだけ揺らしても枝一本折れないような頑強さが感じられる。
流石、麻帆良の地下深くまで根を生やしているだけはある。
そう思いながら俺は上へ上へと登っていった。
どうやら監視を振りきってしまったらしく、視線が感じられない。
俺にとってはどうでもいいが。
登るのは空を飛んだほうが早いのだが、他の一般人に見られるとまずいのでジャンプして枝に飛び移りながら登っていく。
そして、頂上にやってきた。
買った安物の腕時計を見ると、今は五時半頃。
世界樹の頂上から見下ろすと、小さな人の群れがいくつも見える。

ふはははは!人がまるでアリの……いや、やめておこう、そんなキャラじゃないし。

相当な高さだな、と思うことにしつつ、俺は自分の横顔を照らす赤い光に目を向けた。
見事な夕日だった。
それがゆっくりと山の向こうに沈んでいく。
良く晴れた日だったので、真っ赤になった夕日がじりじりと静かに地平線の向こうに消えていく。
一日の昼と夜との一瞬の隙間。
少ししか見れないから綺麗というのは、まさにその通りだと思う。
ホタルと一緒に東京タワーの上というのもいいが、世界樹の上で見る夕日もなかなか良い。
無意識的な反射で紫外線などをすべて跳ね除けつつ、だが日の光によるジリジリとした温度だけは受けつつ、俺は夕日を見てポツリと呟いた。
「……綺麗だ」
俺がロマンチストなのか、一方通行がロマンチストなのか……それはわからない。
おそらく俺だろう。
一方通行はリアリストの気がするから。
だから、そう素直に言えたのかもしれない。
この世界に来て初めて言えた心の底からの本音が誰かに聞かれていると気づいたのは、この三秒後の事だった。






SIDE 桜咲刹那

昨日が濃い一日だったせいか、私はいつもより疲労していた。
アクセラレータという謎のイレギュラーの出現によって、このかお嬢様がさらわれたりしないだろうかと言う気苦労が増えたから、と言うのもあるだろう。
寝るのが遅かったから、と言う単純な理由が一番だろうが。
そんな私は、今日もお嬢様の身辺警護をしている。
もちろん、気づかれないように、だが。
こう言う時は麻帆良大結界は重宝している。
何故かというと、この結界はどんな人でもおおらかにしてしまう効果を持つらしいので、些細な事など気にもとめない状況を作り上げてしまうのだ。
こうやって私がお嬢様を尾行していても、私に怪しいと注意しないのは気配を消しているというだけではないのだ。

決して私の影が薄いからというわけではない。

もう日が沈んできたのでお嬢様が寮に入ると、私は木刀で素振りをするために世界樹の周辺にある公園に向かった。
都会で日が沈む夕暮れの公園というのは女子中学生が向かうところではないが、ここは学生の街。
もちろん大学生や高校生、はたまた中学生でも変な考えを持つ者はいるが、私はこれでも剣道部最強の実力を持つ。
古さんや龍宮ほどの実力者でなければ負ける気はない。
ジャージ姿に着替えて、私は体をほぐすために軽く走りながら公園に向かった。
寮で同室である龍宮には既に周知の事実。
気軽に留守にできる家というのは良い物だ。
そう思っていると、私は公園に辿りつく。
いつも通り夕凪を地面に置き、素振りを始めようとする。
だが、一振りした瞬間、念話が私の頭に飛び込んできた。
『桜咲刹那君かい?』
「は……その声はガンドルフィーニ先生、ですか?」
私は魔法生徒ではあるが、西洋魔法のことには疎い……というか興味がないので、担任である高畑先生以外の魔法先生のことはよく知らない。
だが、この声はガンドルフィーニ先生のものに間違いはなかった。
しかし、どうして特に接点もない私に念話を掻けて来るんだろうか。

異常事態か?

『そうだ。実は情けない事に、君のいる周囲でアクセラレータを見失ってしまったんだ』
「!」
私の考えを読んだかのようにガンドルフィーニ先生が言った。
アクセラレータ……例の白髪の青年だ。
『世界樹の方にいたのはわかっているんだが……私の部下が周辺を捜索するから、君は世界樹の上の方を頼みたい。いいかい?』
「はい、わかりました」
夕凪を持ち、全速力で世界樹の方に向かった。
ものの数秒で辿りつくが、辺りの気配を捜索しても確かに見つからない。

ここにはいないのか。

得体の知れない彼の事だから、もしかしたらどこかに隠れて私達を狙い撃つつもりなのだろうか。
彼の使う風の無詠唱魔法のようなものなら捕縛する事も容易だろう。

変な気配があったら夕凪で叩き切ってやる。

私はその決意を固めながら、抜身の夕凪をもち、上に目をやった。
この巨大な世界樹の中を探すのは骨が折れるが……その内見つかるだろう。
ネコとなんとかは高い所が好きというから、とりあえず一番上まで行ってみて、そこから虱潰しに探そう。
カヒュ!と風を切って私はそこから飛びあがる。
気で強化された私の体は古さんのそれを遥かに凌ぐ。
長瀬さんには流石に負けるが。
なにしろ、あれは生粋の忍者だ。
本人は否定しているが、全然忍んでないしモロわかりだ。
……関係ない話になってしまった。

とにかく、今はアクセラレータの捜索だ。

緊張で汗ばむ手をグッと握り締め、辺りを警戒する。
アクセラレータは正体不明の風の魔法を使う。
それも、かなり強力な。
それにまだ鬼の一撃をまともに受けて無事だった原理もよくわかっていないらしい。
彼の記憶がないからのようだが、本当なのだろうか。
かなり胡散臭い。
彼の態度や見た目は言葉使いもそれに拍車をかけている。
鬼と戦ったのは関西呪術協会の敵だと誤認させて、本当は世界樹やこのかお嬢様の情報を探りに来た間諜なのかもしれない。
それがすんなり通るほど麻帆良も甘くはないが。
学園長が許しても、私は許さないからだ。
決意を固めつつ、私は更に先を急いでいると……。

止まった。

気配が感じられたからだ。
世界樹の、頂上。
天辺に一般人ほどの小さな気配が感じられる。
だが、ただの一般人がそこまで登れるはずがない。
魔力も気も一般人並みの者でここまで登れる者。

アクセラレータだ。

一体何をやっているのだろうか。
私は好奇心にかられ、彼の動きを観察する事にした。
もちろん、よからぬことをやっていれば即座に拘束できるように夕凪を握り締めながら。
見てみると、どうやら彼は手ごろな枝の上で幹を背にして空を見上げているようだ。
不可解な行動だが、何をしているのだろうか。
私は更に近づく。
近づく。
近づく。
「……綺麗だ」
は!?
不意打ちだったが故に、私は思わず動揺してしまった。
き、き、綺麗!?
わ、私が!?
いやいやいや、ありえないありえない。
何を自惚れてるんだ、そそそ、そんなわけないだろう。
その動揺が命取りになり、私は木の葉をがさりと鳴らしてしまった。
「誰だ?」
心臓が止まるかと思った。






SIDE 一方通行

心臓が止まったかと思った。
まさか、斜め後ろ十メートルそこそこの位置に刹那がいるとは思わなかった。
いつの間に接近されたのか、全く見当がつかない。
気配とか消されたらここまで近づく事ができるというわけか。

今度、誰かに教えてもらおうかな。

そんな事を思いながら、俺は刹那を一瞥して前を向いた。
「テメェか。何か用か?」
内心のビビりを押し隠しているが、一方通行の体は豪胆だった。
余裕や見栄を張るときの仕草が普通過ぎる。
刹那は俺の余裕の仕草に何か感じたのか、それとも舐められているとでも思ったのか多少硬い声で聞いてきた。
「あなたこそ、何をしてるんですか?監視を振りきって世界樹の中に消えたと聞いて、探しに来たんです」
「あァ、そりゃあ悪かった」
監視はウザかったが、それにより刹那に迷惑がかかってしまったのは申し訳なかった。
しかしあの程度の速度、タカミチや刹那とか楓とかならすぐに出せると思うのだが……それを追って来れない人間が監視についてどうするんだ。

監視は監視するからこそ監視なのだ。

できないのなら、それはただの役立たずだ。
こうやって生徒にも迷惑かけるんだしな。
俺の事は棚に上げながら、俺はえらそうに心の中でそう思った。
「こっち来いよ。いいモンが見れるぜ」
俺が手招きしても、刹那は最初動く気配を見せなかった。
ま、当然か。
俺は正体不明の魔法使いという位置付けなんだし、警戒されてて当然だ。
少し寂しい気持ちになっていると、刹那がそろそろとこちらに動いて来ていた。
ゆっくり動いて辺りを警戒しながらこちらに向かってきている様子。

別に警戒するならこっちに来なくてもいいんだが。

たっぷり三十秒くらい経ってから、十メートルの距離を刹那はほぼ一メートル前後までに縮めた。
「いいものとはなんですか?」
「あっちだ」
俺が葉と葉の隙間を指差すと、そこからは地平線の彼方に沈む真っ赤な夕日が見えていた。
既に半分沈んでいるが、この光景が誰もが簡単に想像する『夕日』だろう。
ゆらゆらと山の境界線を陽炎のようにゆらめかせ、目に見える速度でゆっくりと沈んでいく。

実に美しい光景だ。

夜桜を一人で眺めながら静かに酒を飲むのが密かな夢である俺にとって、こういう感性は必然らしい。
そういえば最後にこんな高いところで夕日を眺めたのは小学校の時に東京タワーの展望台に上ったとき以来だったか。
学生の街であるから、暗くなりつつある現在の時刻はそれほど街はうるさくない。
無音、とはいえないが、それなりに静かな場所で夕日を眺めるというのは俺の感性に深く響く物だった。
大自然の儚さ、偉大さを象徴している……といったら言い過ぎか。
だが、俺はそう思える。
ロマンチストだろうと何とでも言え。
この光景を美しく思わないのは感性がイカれているとしか思えない。
俺の感性がまともなのかどうかは定かではないのだが。
そんな事を思っているうちに、夕日は沈んでしまった。
目の中に残る夕日の残滓を脳内に焼きつけていると、隣にいる刹那が尋ねてきた。
「これを見るために、わざわざここに?」
「悪ィか?」
「監視を振り切った事は悪い事です」
「……違ェねェな」
俺は軽くため息をつくと、じっと夕日の赤みを眺めた。
刹那に怒られてしまったが、必要経費として諦めよう。
それにしても、どうしてわざわざ刹那なのか。
監視を振り切った事は知っているそうだから……もしかして刹那が監視だったのか?

このかはどうした?

「オイ、テメェが俺の監視って訳じゃねェよな?」
「違います。私は近くで素振りをしていたところを協力要請が入ってあなたを探しに来たまでです」
「律儀だな。与えられた役割でもねェのに?」
「麻帆良に協力することになっていますから。頼まれれば断れません」
「生真面目なこった」
やがて赤みがなくなると、俺はベクトルを操作してはね起きた。
日常的にこれを使うと癖になりそうだ。

楽だし。

刹那は俺を見て目を見開いている。
まあ、足を伸ばして座っていたのにケツが跳ねあがって立ち上がったように見えるからな。
不自然といえば不自然だろう。
「さて、俺も帰って飯にすっかァ」
「……本当に夕日を見に来ただけだったんですね」
「他にナンだと思ってたンだよ」
俺はまだ疑っている刹那にため息をつきながら、そこからバッと飛び降りた。
「なっ!?」
刹那が驚いている。
無理も無い。
魔力も気も使えない一般人並みの力しか持たない俺がこんな高さから飛び降りたらどうなるか、わからない彼女ではないからだ。
だが俺はことごとく常識を覆す。

風を操作する。

下から見える太い枝を避けるように、横に風を吹き出してブースト代わりにする。
もちろん肌に当たる葉は全て反射。
太い枝をいくつか避けると、ものの数秒で密林のような空域を抜けた。
そのまま、一秒と経たずに地面に着地する……のではなく、下へ風を爆風のようにして吹き降ろし、俺の体を一瞬浮き上げる。
そして、着地。
そのまま俺が歩き去ろうとすると、遅れて刹那が木から飛び出してきた。
俺の横に着地する。
「い、いきなり飛び降りないでください!びっくりするじゃないですか!」
「あァ?俺からすれば鬼が出て来た時の方がよっぽどびっくりしたがな」
「そう言う問題じゃありません!しかもなんで傷一つなく無事なんですか!?」
「そりゃァなンかこう……壁みてェなのを張ってだな」
「なんで感覚的にそんな事ができるのか謎過ぎるんですが!?」
彼女達魔法使いや神鳴流剣士などといった存在からすれば、魔力も気も使わないのに魔法のような現象を起こす俺は異常な存在なのだろう。
まあ、超能力者も能力を使いすぎると疲労するから、精神力でも使ってんのかな?
あれ?
そうなると俺も魔力を使ってるんじゃないのか?
精神力は魔力ってネギまでも説明されてなかったっけ?
……まあ、いいや。
別に能力を無限に使えるわけじゃないって覚えておけばそれでいい。
俺には他人とは別の魔力があるっていうことだ。
その方が認識が楽で済む。
俺はギャーギャー喚く刹那の声を反射で遮断し、手をひらひらと振ってその場から立ち去っていった。






SIDE 桜咲刹那

しまった、と思ったが既に遅い。
アクセラレータはこちらに気付いて顔を向けていた。
その赤い目の中には密かな動揺が覗えたが、すぐにそれも覆い隠され、いつも通りどこか尊大な口調で告げる。
「テメェか。何か用か?」
なんだかそれが威圧感を持っている気がして、私はその場から動けなかった。
エヴァンジェリンさんの尊大な口調とは違う……あっちの口調が形式的な物だとしたらこっちは実践的なものだ。

……やはりよく説明しきれない。

こちらの方が重みがある、と言ったほうが良いのだろう。
その重みに負けないように、私は緊張で声を硬くしながら言った。
「あなたこそ、何をしてるんですか?監視を振りきって世界樹の中に消えたと聞いて、探しに来たんです」
「あァ、そりゃあ悪かった」
拍子抜けした。
前々から思っていたが、アクセラレータという男は非常に思考が本人の纏っている空気とはそぐわない。
こうやって素直に謝ってくるのが良い例だ。
だからこちらはペースが乱される。
まさかそれを狙っていないだろうな、と思うが。
「こっち来いよ。いいモンが見れるぜ」
アクセラレータは手招きをした。
彼は得体のしれない風の魔法を使うので、まさか罠に誘っているのかと勘ぐってしまった。
緊張を最大限にし、暫く様子を覗うが……彼はこれ以上行動する気はないらしい。
ずっとこちらを気配でうかがっていたようだが……やがて彼は別の方向に興味を向けたようだった。
何故か気の幹からはみ出している彼の半身がやけに寂しそうに見えた。
あのドアが閉まる時に一瞬見えた哀愁を漂わせた背中は嘘ではなかったのだ。
しかし、彼ほどの人物がどうして寂しさを覚えるのだろう。
俺に近づくな、みたいな雰囲気を纏っているから話しかけられないのだろうに。
もしかして気付いていないのだろうか。

流石にそれはないと思うが。

私は彼が私に対して興味を失ったと判断し、そろそろと罠を警戒しながら彼に近づいた。
彼とは一メートルほどの距離に来ると、彼に尋ねる。
「いいものとはなんですか?」
「あっちだ」
彼が葉と葉の隙間を指差すと、そこからは地平線の彼方に沈む真っ赤な夕日が見えていた。
既に半分沈んでいるが……何故だろう。
夕暮れの空に浮かぶ夕日よりも、地平線に落ちこんでいる夕日の方が夕日っぽく見える。
ゆらゆらと山の境界線を陽炎のようにゆらめかせ、目に見える速度でゆっくりと沈んでいく。
さきほどの『綺麗だ』という言葉はこれを見ていて言っていたのか。
まったく、私は何を勘違いしていたんだか。
警戒をある程度までといて、私は彼と同じく夕日をじっと見つめる。
暖かい陽射しが私の肌をジリジリと照りつける。
肌寒い季節なので、これくらいが丁度良い。

しかし、見事な夕日だ。

この辺りには同じ高さの建物が多いから、地平線に沈む夕日なんてくっきりと見えることはないだろう。
私も、これほど見事な夕日を見るのは初めてだった。
横目で彼を見た。
彼はじっと、変わらずに夕日を眺めている。
記憶喪失だと言っていたが、夕日に何か感じるものがあるのだろうか。
早く思い出して欲しい、と思う。
そうすれば彼が敵か味方かはっきりするというのに。
そんな事を思っているうちに夕日は沈んでしまった。
私はどこか残念そうにしている彼に尋ねる。
「これを見るために、わざわざここに?」
「悪ィか?」
開き直るな。
「監視を振り切った事は悪い事です」
「……違ェねェな」
認めた?
……素直なんだか素直じゃないんだか、はっきりしてくれ。
対応に困る。
ため息をついていると言う事は、悪い事をしたと反省しているのだろうか。

ますますわからない。

混乱していると、彼は思いついたかのように私に聞いてきた。
「オイ、テメェが俺の監視って訳じゃねェよな?」
「違います。私は近くで素振りをしていたところを協力要請が入ってあなたを探しに来たまでです」
「律儀だな。与えられた役割でもねェのに?」
「麻帆良に協力することになっていますから。頼まれれば断れません」
「生真面目なこった」
と言われても、しょうがない。
私のような禁忌の存在は魔法使いや、同じ異端の種族にも忌み嫌われる存在である。
そんな私を一般生徒としてここに置いてくれている学園長には本当に感謝しているし、麻帆良の空気も嫌いではない。
彼等の願いなら、できる限り聞いてあげたいのだ。
そんな事で多大な恩を返せるとは思っていないが……。
こう思うのは私が生真面目なのだからだろうが、生まれつきだ。

しょうがない。

やがて空に赤みがなくなると、彼ははね起きた。
……馬鹿な。
なんだ今のは?
足を伸ばして座っていたのに、下から跳ね上げられるようにして立ちあがったのだ。
物理的に……いや、常識的に考えて不可能だ。
これが彼の能力の一端なのだろうか。
無詠唱だから尚更良くわからない。

……こんな事に魔法を使う自体、おかしいのだが。

そう思っていると、彼は暢気にも間延びした声で言った。
「さて、俺も帰って飯にすっかァ」
「……本当に夕日を見に来ただけだったんですね」
「他にナンだと思ってたンだよ」
不機嫌そうに彼はそう呟くと、いきなり枝から飛び降りた。
「なっ!?」
私は驚愕する。
彼には一切魔力も気も纏っていなかった。
重力に逆らわずに猛スピードで落下していく彼を慌てて追いかける。
すると、彼は太い枝にぶつかりそうになると空中で横にすべるようにして回避しているのがわかった。
はっきり言おう。

出鱈目だ。

しょーもないことばっかりに魔法のような能力を使う。
マギステル・マギとやらを目指す魔法使いからすれば考えられないことだ。
私は遅れて世界樹から飛び出すと、彼の隣に着地した。
私は思ったより動揺していたらしい。
思わず彼に詰め寄った。
「い、いきなり飛び降りないでください!びっくりするじゃないですか!」
「あァ?俺からすれば鬼が出て来た時の方がよっぽどびっくりしたがな」
「そう言う問題じゃありません!しかもなんで傷一つなく無事なんですか!?」
「そりゃァなンかこう……壁みてェなのを張ってだな」
「なんで感覚的にそんな事ができるのか謎過ぎるんですが!?」
本当に理解できない。
前に鬼と戦闘していた時も『ぐるっ』とかいうふざけた表現をしていたが……彼の能力は非常に感覚的なものなのだろうか。
魔法や私達神鳴流剣士も呪文や技名を唱える事で一種の自己暗示をかけ、特定の技を繰り出すことができる。
無詠唱魔法は自己暗示をかけなくてもできる簡単な魔法しかできないらしい。

よく知らないが。

私が一通り不満を吐き出していると、彼はまるで私の言葉が聞こえていないかのように背中を向けると、ひらひらと片手を振って立ち去ろうとした。
「ま、待ちなさい!」
しかし、彼は止まらなかった。
そのまま広場の方に消えていく彼を見送って、私はため息をついた。
「……あんな訳がわからない人なんて、初めてだ」
訳がわからないといえば学園長の頭だが、それよりも遥かにややこしくてわかりづらい人格を持っているようだった。
本音が分かりづらいのか、それとも他人に興味がないのか。

まったく、いろんな意味で厄介な人だ。

私は疲れてため息をつくと、今日の鍛練はサボることにして、念話でガンドルフィーニ先生に報告を行う事にした。






~あとがき~

見づらいかもしれませんが、一つの場面でアクセラレータと刹那の心情をそれぞれ描写してみました。
二つに分ける方が二人の気持ちが良く描写できると考えたからです。
混乱しないように注意してください。



[21322] 第5話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa
Date: 2010/08/22 22:23
SIDE 高音・D・グッドマン

今現在の時刻は午後十時二十二分。
私とガンドルフィーニ先生、そして愛衣は、いつも通りチームを組んで麻帆良に侵入しようとする悪党を蹴散らすために巡廻を行っていた。

それにしても、肌寒くなると夜回りもキツくなる。

隣の愛衣なんてセーターの上に更にジャンパーを着込んでいる。
更に貼るカイロまで服の中にしこんであったかそうな顔をしていた。
くっ……私も見栄を張らないで貼れば良かった。
ちょっとガンドルフィーニ先生も羨ましそうな顔をしていた。
色々と外国に飛んでいるガンドルフィーニ先生は寒さに強いと思っていたのだが……。
やはり、日本の気候に慣れてしまったのだろうか。
その適応能力は各地を飛び回る魔法使い故だと思うが、適応し過ぎて寒さに弱くなるのはどうかと思う。

まあ、飛びまわっていない私がそんな偉そうなことを言うのもおかしいんですけど。

それはともかく、今日の巡廻は一味違うものになるとの事。
昨日森の中で鬼と交戦している所を見つかった謎の人物、アクセラレータとかいう奴が同行するらしい。

彼は危険過ぎる。

ガンドルフィーニ先生も言っていたが、彼の纏うオーラのような物が尋常ではないらしい。
ある程度の実力者になれば雰囲気とか気配とかで相手の実力をかなり正確に測れるようになるのだが、実戦経験が少ない私や愛衣はそんなことはできない。
せいぜい、強いと弱いと判別できるほど。
しかも、大方見た目に頼って。
この辺りは外に出て実戦経験を積むしかないのですが……そんな私でも、彼の雰囲気や殺気には度肝を抜かれました。
あれが戦場の殺気……本気の殺気と言う奴なのだと、初めて知った。
鬼や悪魔が向けて来るのも確かに殺気。
だがそれは強引に術者に制御されているがゆえに、しょうがなくとか、戦いが楽しいからとかそういう理由で向けてくる事が多かった。

しかし彼の殺気は違う。

あれは『殺す』という一念をそのままぶつけてきていた。
それも、あれは学園長に向けられていたもので、私への殺気はその余波に過ぎない。
それでも、私は思わず影に攻撃命令を出しそうになった。
腕を掴んでプルプル震える愛衣の存在がなければ、私は取り返しのつかない事をしていたかもしれない。
彼女が頭をブンブンと横に振っていたから踏みとどまることができたのだ。

私は良い相棒を持ったと思う。

まだ少し手がかかるが。

それにしても、あの殺気をまともに受けて椅子から動かない学園長の肝の強さにも驚いた。
いつもおどけているから麻帆良最強の魔法使いがどれほどの実力なのか想像もできなかったが、やはり今の私には遠く及ばないような実力者なのだと思う。
素直に、あの時は尊敬したものだ。
それもあの時だけだった。
アクセラレータと今夜一緒に仕事をしろ、と言うのだ。
本当に何を考えているんだか、あの学園長は。
学園長に対しての評価が急降下した瞬間だった。
ガンドルフィーニ先生、私、愛衣は集合場所に十分前には必ず来るようにしている。
自分でも少し早いとは思うが、これは魔法使いとしてうんぬんではなくマナーの問題でもある。
待ち合わせ時間に遅れるなどもっての外だ。

それにしても寒い。

「ねえ、愛衣。ジャンパー貸してくれない?」
「えへへー、嫌です。むふふー」
ぽふぽふとジャンパーの温かそうな胸元を叩いている愛衣が羨ましくて、ちょっと恨んだ。

まあ、叩かれているそこは平原だが。

私達はその場で五分ほど待っていると、ようやく街灯に照らされる暗い夜道を歩いて来る白い影が目に入った。
彼のような粗暴そうな人物がきっちりと時間を守るのは意外だった。
「時間をきっちり守るとは、意外と律儀なんだな、君は」
「うるせェよ、ガンドルフィーニ。……にしても、テメェ等と組むとはな。まァ、あそこにいたからそれなりの実力者とは思ってたンだが」
アクセラレータがこちらを見る。
思わず体が強張るが、こちらを見る目つきには敵意や殺気が全くなかった。
あるのはピリッとしたような緊張感だけ。

あれ、こんな人だったかしら。

案外話し方が粗暴なだけの普通の人のように感じられた。
アクセラレータは私を見た後に愛衣を見ると、鼻を鳴らした。
「ハッ、ンな顔しなくても何もしねェよ」
愛衣を見下ろすと、彼女はまだまだ警戒した……というよりは怯えた目でアクセラレータを見ていた。

無理もない。

度胸はそれなりにあると自負している私が体を強張らせたのだ。
ビビりの愛衣はアクセラレータのような人物とはまったく初対面でもあるし、元々人見知りもするのだから、怯えるのも当然だ。
私が愛衣をかばうように前に出ると、アクセラレータは興味をなくしたように視線を愛衣から逸らし、ガンドルフィーニ先生を見やった。
「俺ァよくわかんねェからテメェ等についていく。先導してくれ」
「ああ、わかった。高音君、佐倉君、行くぞ」
私達が歩き出すと、アクセラレータが後ろからついて来る。
彼に背後を任せるのは非常に落ちつかないのだが、彼の手前、そんな本音が言えるわけもない。
どこか気まずい雰囲気で沈黙したまま歩いていくと、突然アクセラレータが口を開いた。
「オイ、お前。高音とか言ったか」
「……高音・D・グッドマンですわ。なにか?」
いきなりお前とはなんだと思ったが、こちらは自己紹介をしていないのだ。
咎めるのもなんだか違うと思い、ムカッときた感情を心の奥に押し込めて答えた。
アクセラレータは怪訝な表情をして私を見る。
「寒ィのか?やけに震えてンじゃねェか」
そんなに震えていたのだろうか。
愛衣に目線で訪ねてみると、彼女はコクコク頷いていた。
震えていたのかどうかはともかく、寒いのは事実だ。

私は正直に頷いた。

すると、そんな私の頭に何かがバサリとかかった。
思わず手にとって見ると、それはアクセラレータが着ていた黒い大きめのコートだった。
「使え」
後ろを振り向く。
そこには昨日の格好……つまり、白を基調にした薄手の長袖に長ズボンをはいたアクセラレータの姿があった。
真っ白な彼の色のせいかもしれないが、どう見ても寒い格好だ。
私はアクセラレータにコートをつき返した。
「私だけ暖かくなって、あなたが寒くなるのはよくありません。お返しします」
「テメェが震えてるとコッチも寒くなンだよ。さっさと着ろ」
それを拒否し、彼はズボンの中に手を突っ込んだ。

どうあっても受け取らないつもりらしい。

基本白一色の彼の格好は……彼の言葉ではないが、見てるこっちが寒くなる格好だ。
親切心としてなのか自分の寒さを抑えるためなのかはわからないが……こういう申し出の無下に断るのもいけないと思う事にし、私はそれを着ることにした。
さっき断っておいてなんだが、暖かい。

受けとって良かった、と素直に思った。

「ありがとうございます」
「……帰るときには返せよ」
つまりは彼と別れるまでずっと着ていて良いといわれ、私は頷いた。
なんだか、合流してたった一分のやりとりで随分と彼の印象が変わった。

見た目は怖い。

髪を白に染めている生徒もいるにはいるが、目も赤い生粋のアルビノのせいでもあるだろう。
纏っている雰囲気も、三白眼も怖い要素だ。
だが、喋っている口調とは裏腹になんだかとても優しい物を感じることができた。
「……ンだよ」
何時の間にか彼を見ていたらしく、彼は不機嫌そうな声でジロリとこちらを見た。
普通ならビビるその視線も照れ隠しの裏返しかと思えば、あまり怖くなかった。
「いえ、なんでもありません」
第一印象って大事なのね、と思いながら、私はガンドルフィーニ先生の後についていった。






SIDE ガンドルフィーニ

意外だった。
彼に後ろを任せたのは、ここで攻撃して来る事があれば敵として排除するためだったのだが、まさか高音君にコートを着せると言う紳士行為をやってのけるとは。

悪いが、似合わない。

だが、彼の印象を大きく変えることができた。
もちろんまだ警戒は解いていない。
むしろ、あれがカモフラージュではないかという疑惑も沸いてきている。
仲間の信頼を得ている人物が裏切ると、精神的ダメージも与える事ができるからだ。
彼なら平然とやってのけるだろう……と思っていたのだが、どうもさっきの紳士行為が演技なのか心からの親切なのか判断がつかないのだ。
まだ会って一日、実際に彼を視界に収めているのは一時間にも満たないというのに、警戒し過ぎるのは浅はかだったか。
まあ、それでも警戒を怠る事はないが。
私はアクセラレータに向けていた警戒を多少外に向ける。
たいてい結界を破って入って来るのは関西呪術協会の陰陽師が扱う鬼達や、我々麻帆良の魔法使いに良い気持ちを持たない西洋魔術師が召喚した悪魔や邪精霊達だ。
これらはまだ良い。
探知ができるからだ。
だが、極稀に麻帆良の敷地内に妖怪が姿を現す事がある。
一昔前にはぬらりひょんも現れたとか。

学園長と見間違えたのでは―――げふんげふん。

過去最強の敷地内で確認された妖怪は鵺の一種。
複数の生物を融合させた姿を持っている強力な雷獣だ。
この前の世界樹の大発光の時期に現れたらしく、学園長も鎮圧に出たとか。
次が確か、巨大ながしゃどくろだったか。
それは私も参加していたのだが、何よりも戦闘後の隠蔽に苦労した。
何しろ森の木々など優に越す巨躯なのだ、葛葉先生も神鳴流の決戦奥義を使うし、神多羅木先生も雷の暴風を撃つしで大変だったのだ。
その翌日は瀬流彦君をつき合わせて飲んでしまった。
あまり強くないのに。

……愚痴はともかく。

そんな妖怪達を早期発見するのも、我々広域指導員の役割でもあるのだ。
今の所一般人に被害がでたことはないが、食われでもしたら大変なことになるからだ。

と、そんな事を思っていると携帯がなった。

とある古い日本のアニメの音楽を着メロにしている。
妻も私のその趣味はよくわからないと賛成の意を示してくれない。
北斗百○拳はカッコ良いと思うのだが。
娘も幼い頃は喜んでくれたのだが、今ではその趣味については距離を取られているのが実情だ。
明石教授はわかってくれるのだが……非常に寂しい。
電話に出ると、学園長の声がした。
『ガンドルフィーニ君かの?S12地区で陰陽師の襲撃が始まったそうじゃ。数は四十前後。すぐに鎮圧に向かってくれ』
「はい、わかりました」
ちなみに、学園長は宇宙戦艦ヤ○トを始めとしたSFアニメには目がなかったりする。

この数字と英語をあわせた地区指定も完全な趣味らしい。

私達としては昔は西の方とか東の方とかアバウトな指示だったから、案外役にたってはいるのだが。
「どうしたのですか?」
「陰陽師の襲撃だ。すぐに鎮圧に向かおう」
私の言葉に高音君と佐倉君の顔が引き締まった。
だが、どうにも後ろのアクセラレータの顔が締まらない。
というか、いつも通りだ。
緊張感のない……いや、彼の場合はいつも緊張しているのか?

どうにもそんな風には見えないのだが。

兎にも角にも、私達は鎮圧のために森の中へ向かった。
慣れている私達ならともかく、アクセラレータがついて来れるのかと思ったが、それは杞憂に終わった。
涼しい顔で木々を避けて余裕でついて来る彼を見て、運動能力はさほど悪くないのだと思った。
どう見てもまともに筋肉がついているとは思えないのだが。
これも風の力と言う奴なのだろうか。

全く出鱈目だ。

「もうじき目的地に到着する。準備はいいな?」
「「はい」」
「あァ」
真面目な声にダルげな声が混じる。
それに文句を言う前に、目の前に鬼の気配が出現した。

数は六。

私は正面にいる鬼に銃を撃った。
……弾き返したか。
やるな。
私が突っ込むと、後方から高音君の影の使い魔が飛来して来る。
彼女の技は大多数を相手にするとき、とても有効だ。
有効なのだが……。
今回は少し相性が悪かったようだ。
この鬼、質が良い。

「なんやこんなひょろいのは!?まともな奴はおらんのか!?」

そう言いながら棍棒を振りまわし、高音君の影達を紙のようにふっ飛ばしていく鬼達。
最近では影達でも鬼や悪魔達に十分通用していたから、それは彼女にとっての油断となった。
彼女は一旦動揺すると動揺が収まるまで戦闘力がかなり落ちるという欠点があるのだ。
何故かこの欠点は昔から変わらない。
慌てて『黒衣の夜想曲』を展開しようとするが、その前に高音君にクナイが飛来する。

―――避けきれない!?

背中に冷たい物が走った気がして、私は銃を向けて迎撃しようとするが、数は八つ。
多すぎる。
愛衣君が唱えていた魔法の射手を迎撃に出そうとするが、その前にせまっていたクナイを爆風が吹き飛ばした。

「締まらねェ戦いしてンじゃねェよ。出し惜しみってなァ格下相手にやるもンだぜ?」

アクセラレータだった。
私は目の前の鬼の棍棒を裂け、頭に銃弾を叩きこんでいると、その横を白い疾風がつき抜けていく。

速い。

空間に解けるように消えていく鬼の背後で、肉を打つ鈍い音とと鬼のうめき声が同時に聞こえた。
「まとめてぶっ飛ばしてやンよ」
その声に、私は高音君と佐倉君に後退命令を出す。
彼の言葉を証明するように、風が彼の周りに収束を始めたからだ。
普段なら後退命令を渋々ながら聞く二人もアクセラレータがいることで不吉な何かを感じたのか、そのまま後退する。

数秒後、ギュゴッ!!という空気が渦巻く音がして、目の前に巨大な竜巻が出現した。

その回転数は凄まじいものになりつつあるらしく、私達が後退していなければ確実に吸い込まれていた規模の物だ。
退避しきれなかった鬼達……いや、おそらくアクセラレータが全員巻きこむような位置に竜巻を出現させたのだろう、鬼達は全て巻きこまれ、体のあちこちを折れ曲がらせながら上空に吹き飛んだ。
地面に叩きつけられて戦闘不能になった鬼達はそれぞれ消えていく。
竜巻によって木などがへし折れた空間の中央に、アクセラレータは立っていた。
破壊され尽くした自然の闇の中、まるでその空間から拒絶されたかのように不自然な白。
あの竜巻の中央にいたはずなのに、砂一つついていない。
風の使い手だとしても異常過ぎる。
おそらく、神多羅木先生もこんな真似はできないだろう。
そう思っていると、彼は私達に向き直った。
「ボサっとしてンじゃねェ。次が来るぞ」
あんな事をしてのけた後に息一つ乱れず、さっきと同じ調子で彼は告げる。
こんなことも、彼にとっては造作もない事なのか。
私は彼の力に恐怖と共に頼もしさを感じながら、迫って来る数十の鬼の気配に向かって突撃した。






SIDE 佐倉愛衣

す、スゴイです……。
私が見た感じ、アクセラレータさんは全く呪文を詠唱していませんでした。
学園長から聞いたとおり、彼は無詠唱の強力な風の力を使うようです。
お姉様も多少は風の魔法を使うことができますけど、アクセラレータさんの使う風に比べればそよ風みたいなものです。
大きな竜巻を起こしたアクセラレータさんは突っ込んでいったガンドルフィーニ先生を援護するように小さな風の砲弾を撃っているようです。
彼が空気を押し出すように手を振るうと、その先にいる鬼達が怯むからです。
気弾に少し似ていますね。

……うう、魔力でも気でもない能力なんて目じゃ確認できません。

能力で見ればアクセラレータさんは神多羅木先生と同じような感じだと思います。
無詠唱の魔法の実力が段違いですけど。
あ、ちなみに私は後方から魔法の射手で援護しています。
私は肉弾戦なんてできないので、こうやって後方支援するのが一番なのです。
お姉様の最強の操影術、『黒衣の夜想曲』を起動したお姉様はたいてい敵の中に突っ込んで鬼達を吹き飛ばしていくので、これが相性は良い、と思っています。

本音を言うと、今でも怖いんですけど。

ええ、わかってますよ?
魔法世界じゃ本物のドラゴンが出たり、キメラドラゴンに滅ぼされた村なんていくつもあるってお姉様が言ってましたから、外に出る事になったら今とは比べ物にならないほど怖い目にあうことくらいは。
でも、敵の前で怯えてなんかいられません。
私は『黒衣の夜想曲』の鞭で追い込まれた鬼達をまとめて焼き尽くすために詠唱します。
「メイプル・ネイプル・アラモード!ものみな焼き尽くす浄化の炎、破壊の主にして再生の徴よ!」
私が使える中ではかなり強い方の魔法。
最強と言っても過言ではありません。 
雷の暴風?燃える天空?
あんなものと一緒にされては困ります!
「話が手に宿りて敵を食らえ!」
それはともかく、いきます!

「紅き焔!!」

ドカン!!と私の魔法が一箇所に集められた鬼達を包みます。
その爆風と爆炎に飲まれ、四体の鬼が消えました。
「いいわよ、愛衣!その調子!」
お姉様からもお褒めの言葉を戴きます。

ちょっと嬉しいです。

ちらっとガンドルフィーニ先生のほうを向いてみると、まあ、なんというか、地味な戦いでした。
派手さを求めるのは戦闘では間違いだと思うのですが……アクセラレータさんが撃ち出した風弾が直撃して怯んだ鬼の首をガンドルフィーニ先生が刎ね飛ばすのを延々と繰り替えしています。
ガンドルフィーニ先生は身体能力もハンパないので、たまに瞬動も使います。
もちろん通常移動速度や攻撃速度もかなり速いです。
接近戦において最強はナイフ、というのを理論ではなく実戦でいくタイプの人ですよね。
速度と威力に特化されたナイフの攻撃は鋭く、速く、怯んだ敵の首を切り落とします。
アクセラレータさんの風弾は不可視でなんの反応もないので、向こうも避けられないようです。
風を肌で感じられる人はなんとか避けられるかもしれませんが、そんな超人は葛葉先生くらいで十分です。
そんなことを思っていると、アクセラレータさんが風弾と平行して近づいてきた敵を吹き飛ばしてました。
こう、掌を突き出した状態なのに横の敵を吹き飛ばしてるんです。
もしかして、あれも風弾?
掌を突き出してるのはもしかしてカモフラージュなんでしょうか?
私は魔法の射手で迫り来る鬼達を倒し、その二つの無詠唱魔法を平行して扱うアクセラレータさんの異常性に呆けていると、

「油断は禁物やで、譲ちゃん」

「ハッ!?」
お姉様の鞭の渦を抜けてきた巨躯の鬼が私に向かって棍棒を振り上げていました。

―――いつもならこんな失敗なんてしないのに!

慌てて待機状態にしてあった魔法の射手を放ちますが、鬼は振り上げていた棍棒を横薙ぎに振り払って魔法の射手を撃ち落します。
振り払う衝撃波が私に襲いかかってきて、私は吹き飛ばされました。
「きゃあ!?」
「愛衣!?」
お姉様の声も、私の耳には入ってきませんでした。
衝撃波で頭を揺らされたようで、立てません。
呪文詠唱をしようにも時間がありません。
視界の端でお姉様が『黒衣の夜想曲』で鬼達の侵攻を食い止めながら、他の影達を出して私を援護しようとしてくれますが、私の前にいるこの鬼はどうやらリーダークラスの実力者のようで、見てもいないのに後ろを棍棒で振り薙いで吹き飛ばします。
「譲ちゃん、こっちも命令があるんや、悪く思わんといてな」
振り薙いだ勢いを利用して、さっきよりも更に高く棍棒を振りかぶる鬼。
戦う者として、ここは最後まで敵を睨み付けて果てるのが普通なのかもしれませんが……私は目に涙を溜めて怯える事しかできませんでした。
と、銃声が聞こえました。
鬼がしゃがんでガンドルフィーニ先生の弾丸を避けます。
しかし、しゃがむ勢いのまま棍棒は振り下ろされ、私は棍棒に押し潰されて―――。


ゴォン!!


―――え?
「ったく、ガキのお守りは趣味じゃねェっての」
目を硬く閉じていた私の目の前にいたのは白い影。
アクセラレータさんでした。
葛葉先生の報告にあった通り、鬼の一撃を片手で受けとめて平然としています。
それどころか、鉄でできているはずの棍棒が砕け散っていました。
目の前にいる鬼は踏みこむアクセラレータさんが左腕を薙ぐ事で簡単に吹き飛ばされました。
「なんやとぉおおおぉぉぉ!?」
吹き飛ばされてドップラー効果を出しながら木に叩きつけられる鬼。
それを無視し、アクセラレータさんは砕けた棍棒の破片―――とは言っても大きい石くらいはある鉄塊を掴みます。
「どけェ、高音!!」

そのまま、投擲しました。

まるでそれは、砲弾のようでした。
爆発はしないから鉄鋼弾でしょうか。
しかし、ものすごい勢いで着弾したそれはソニックブームで鬼をまとめて三体くらい吹き飛ばしました。
あれは爆発したと思っても不思議ではないでしょう。
お姉様が避けていなければ同じように衝撃波に巻き込まれていましたけど。
そのトンデモない威力と彼の細い体がどうにも一致しなくて、というよりも事態の推移についていけなくて私が呆然としていると、アクセラレータさんに肩の辺りを蹴られました。
「えうっ!?」
結構痛かったです。
アクセラレータさんは私を見下ろしました。
私も思わずアクセラレータさんを見上げます。
思えば、アクセラレータさんをまともに正面から見たのはこれが初めてでした。
月明かりが色素が抜けたかのような不健康な白髪を輝く銀髪のように照らしています。
いつもは怖いその顔も、今ではどこか優しげに見えました。

カッコいい、と思ってしまいました。

ときめく私の心を無視し、アクセラレータさんは言い放ちます。
「手間かけさせんじゃねェよ。立て。腰が抜けて立てねェのか?」
お姉様が取り逃した鬼を爆風で吹き飛ばしながら、アクセラレータさんは挑発するような言い方で言いました。
ムカッと来ました。
私は立ちあがると、箒を構えます。
「それでいィんだよ」
アクセラレータさんはそう言い残すと、砂煙を残して掻き消えました。

―――瞬動術!?

お姉様を先頭にして、アクセラレータさんはお姉様が取り逃した敵を滅茶苦茶な速度で叩き潰しにかかりました。
私は武術をやってないからわかりませんけど、振るわれる拳はなんだか素人くさい感じがします。
でも、まるで隕石にも匹敵するかのような威力を持っています。
地面を踏みしめるたびに砂煙が上がり、次の瞬間には鬼の懐で拳を突き出し、続けてくるりとその場で回転して踵落としを決めます。
肩の辺りに直撃した踵落としは、鬼の足元に放射状のヒビを入れるくらいの威力でした。

さっきの後衛としての仕事ぶりはどこにいったのでしょう?

その身のこなしや速度は神鳴流剣士の葛葉先生と比べても遜色ないものです。
私は目で追うこともできませんでした。
ガンドルフィーニ先生やお姉様は私と同じように驚愕した面持ちでアクセラレータさんを見ていましたが、思い出したかのように鬼達へ攻撃を開始します。
私も負けてはいられません。
前衛の三人を援護するために、私は魔力を漲らせました。
「……メイプル・ネイプル・アラモード!!」






SIDE 一方通行

一言言わせてもらおう。


俺TUEEEEEEE!!


踏みこみんで殴り飛ばして蹴り降ろすだけでここまでの威力が出るのかよ一方通行!?
古菲のトンデモ身体能力と比べても遜色ない。
もちろん、俺は意識的にベクトル操作をやっているわけではない。
演算とかそんなややこしいのは無意識的に俺のスーパーコンピュータ並みの頭脳がやってくれている。
原作じゃ演算式をちゃんと一方通行は認識していたようだが、俺は認識してもそんなんはわからない。
頭の中に数字の羅列がどんどんどんどん流れていくだけだ。
それよりも大切なのはイメージだ。

前に進む。

それをひたすら意識すると、一瞬で7メートルもの距離を詰める事ができた。

投げて、吹き飛ばす。

それをひたすら意識すると、鉄隗は隕石のような威力の砲弾と化した。
体内電流を加速させ、俺の認知速度を上げる。
筋肉に指令を伝達させる速度を向上させるのだ。
後は殴る、蹴る、殴るの繰り返し。
もちろん反射はできるので、攻撃されても全くの無傷。
自分でも思うが、チート過ぎるだろ。
空間を何とかされる魔法(例えば空間断絶魔法とか空間消滅魔法とか万華鏡写○眼とか)を使われると反射は役にたたないが、鬼達相手ではなんともない。

物理系の攻撃には無敵だ。

よくわからんのがタカミチの居合拳とか雷の暴風や闇の吹雪に代表される魔法だが……炎を跳ね返せるんだから大丈夫だよな?
そう思いながら俺は拳を鬼に向けて振り下ろす。
どうやらこれが最後だったらしく、『ぬかったわぁあああ!!』と消えていく鬼に駄目押しの蹴りを加えて閉めとなった。
俺達は辺りを警戒するが、鬼の大部隊はこれ以上こないようで、ホッと一息つけるようだった。
「オイ、これで終わりか?」
「そうみたいだ。……それにしても、君は肉弾戦も強いんだな。葛葉先生や高畑先生と真正面からやりあえるんじゃないか?」
「さァな」
つまらなそうに俺は言う。
どうも、徐々に口調や対応が一方通行に似てきている気がする。
それでいて行動は俺の意志だ。
だからどうにもツンデレっぽい口調が抜けないのだ。
体に思考が釣られているのだろう。
残虐性のない一方通行か……。

……都合良過ぎね?

「あ、あの……」
「あァ?」
そう思っていると、どこかオドオドした様子の口調で話しかけて来る者がいた。
佐倉愛衣である。
「さっきは、その、危ない所を助けていただいてありがとうございました」
そういえばあまりにも見てられなかったから助けたんだったか。
ヤバい、更に思考が一方通行よりになってきている。

言い訳っぽい感じになってるし、これは完全にツンデレの方向だ。

「あァー、別に気にしなくていい。危ねェ目にあってる味方を助けるのは当然だろ?こっちの頭数減らされりゃァ困ンのは俺だしよォ……だからそンなキラキラした目でコッチ見ンじゃねェ!テメェさっきまでの目つきとかはどォしたンだ!?」
「やはり、こう言う場合は謙虚に言うのがヒーローって奴なんですね!あ、でもアクセラレータさんはどっちかって言うとダークヒーローって感じですよね?色は白ですけど」
「人の話無視すンじゃねェ!何でそンなポジティブに考えられンだよ!?っつーか俺の言葉のどこをどう解釈したらヒーローって結末に辿りつくンだかキチンと説明しろ!!」
「こう、危機に陥っている所を颯爽と助けに来るなんてもうホントヒーローじゃないですか!私そんなヒーローに憧れてたんです!ホントにカッコよかったですよ!私も一生に一度くらいあんな登場の仕方をやってみたいです!」
「高音ェえええええええッ!!この暴走してやがるクソガキをどうにかしろ!!手におえねェ!!」
「い、いえ、私もこんな愛衣は初めて見るので……頑張ってください」
「ガンドルフィーニ、テメェ教師だろ!?生徒くらい制御して見せろ!!」
「Good luck!」
「流暢な英語とクソ爽やかな笑顔で親指立てて喋ってンじゃねェええええええええええッ!!」
キラキラした『そんけーします!』みたいな純真な少女の笑顔と生暖かい二つの視線に挟まれて、俺は生きた心地がしなかった。
この無限地獄から開放されたのは、俺の叫び声を聞いたタカミチが様子を見に来る十分後の事だった。
ちなみに俺は知らないが、この騒ぎの件で俺の警戒度がかなり下がったらしい。
……不名誉な事この上ないが。






おまけ
俺は疲れた体を癒すために自室のバスルームに入ってシャワーを浴びようとした。
キュッ、と蛇口を捻ってシャワーを浴びようとした瞬間、反射で全て跳ね返されてちょっと鬱になった。
反射を切り忘れたのである。
ビシャビシャになった壁を雑巾で拭く一方通行。
シュールな光景にも程があった。






~あとがき~

いつも感想をくださる方、本当にありがとうございます。
深夜まで書いてて結局投稿できなかった第5話をお届けします。
一般人憑依一方通行が初めて鬼と遭遇した時以来の戦闘シーンですが、いかがでしたか?
満足してもらえると嬉しいです。
次の更新は早ければ夜、遅ければ明日になりそうです。
明日の朝はちょっと早いので。
次回の予告をしますと、待ちに待ったあの方が出てきます。
あの方をフルボッコしてしまおうか否か……悩みます。



[21322] 第6話
Name: カラーゼ◆68f6dca0 ID:11f779aa
Date: 2010/08/22 22:07
SIDE 一方通行

ありがちな表現だが、俺が麻帆良にやってきて……または一方通行の体に転生して一ヶ月という時が過ぎた。
この一ヶ月はいわゆる調整期間のようなものだ、と俺は思っていた。

実際その通りだった。

学園長は俺を麻帆良に慣れさせ、俺を警戒している教員達に俺という存在がどんなのか見極めさせるのが目的だったらしいが、それは見事に成功した。
まず、最初はギスギスしていた魔法先生からの視線がほとんどなくなった。
俺が初仕事の時などに魔法生徒を助けたのが受けが良かったらしい。
それに、俺と愛衣の騒ぎの噂まで流れているらしく、危険な魔法使いから小生意気なガキというようにランクアップだかランクダウンだかわからん評価の変動が起こっていた。

ちなみに、ガンドルフィーニやタカミチとは仲が良くなっていることも大きい。

この二人はかなりの実力者なのでそれに影響される事も大きいのだ。
ガンドルフィーニは初仕事の一件で俺を信頼してくれるようになったらしい。
なんでも、『一緒に戦った戦友は信頼するものだ』という理論らしいが、本当は北○の拳のネタがわかったからというのが本音のようだ。
タカミチは言うまでもなく、とある友人と俺が非常に似ているから付き合いやすい、とのことだ。
まあ、たいてい想像はつくのだが。
この前ピザマンの人とかシャツがだらしない人とかに会ったが、反応は結構友好的だった。
一部、刀子のような警戒心がある人物の受けは悪いようだが、贅沢は言っていられない。
エヴァのような孤軍にはなりたくないのだ。
そういえば俺はまだ幼女吸血鬼と会ってないな。
いずれ出会うと思っていたが、あんなビッグネームとこれまで出会ってないとは……意図的にエヴァと出会わせることを避けているように思える。
確かに、俺とエヴァが出会えばどうなるか俺にもわかる。

どーせ、喧嘩になるだろう。

客観的に見ても主観的に見てもそれは明らかだ。
茶々丸は止めないだろうし。
んでもって決闘でも挑まれたら目も当てられない。
彼女の魔法では俺を倒す事はできないからだ。
『おわるせかい』などといったリョウメンスクナを一撃で倒すような強力な呪文を使えるのは停電の時のみ。
停電の時にできるかどうかも少し怪しいが。
更に、既に二回目の停電は終わっているため、次は春を待たなければならない。
もしかしたら幻想空間なんて場所で戦うかもしれないが。
ちなみに、『おわるせかい』などの放出系の魔法は俺には効かないし、体術なんて物理法則を無視する俺には通用しない。

俺の反射には限度がない。

例え闇の魔法を使われたとしても負けるとは思わない。
結果としてコテンパンに倒すことになるだろうが……面倒だ。
真祖の吸血鬼としての力を発揮しているのならどれだけフルボッコにしても死なないだろうが、万が一死なれてもらっては困る。
ネギを誰が鍛えるんだ。
ご都合主義的なオリキャラが出てくるんじゃないだろうな。

―――まさかクウネルか?

十分にありえるが、ネギが小型クウネルのようになってもらっては困る。
クウネルのようなタイプは俺が絶対に苦手だろうからだ。
舌戦でネギに負けるなど、想像もしたくない。
まあ、そんなエヴァとの戦いはマイナスしか生まないのであわさずにいるだけなのだろう。
やけに取り繕った笑みを浮かべている魔法先生が強引に俺の歩く道を変更した事も何度かあったし。
後変わった事は、高音や愛衣、そして龍宮とある程度仲良くなった事だ。

女性ばかり?

文句言うな。
俺が会う人間なんて魔法関係者でしかもガンドルフィーニ、刀子の管理下にある生徒なんだぞ?
四人しかいねェじゃねェか。
高音は言うまでもなく初任務の時から仲が良い。
ただ、よく自分の正義の理想を語るのはやめて欲しい。
論破する事もできるが、面倒なのでやらない。
そして愛衣だが、彼女はこう、なんというか、やりづらい。
純真で圧倒的な表向きの世界の住人の思考だからだろうか。
アクセラレータもラストオーダーを心の支えにしてたしな。
あんな純真なタイプに弱いのかもしれない。
次に龍宮。
彼女とは以前、俺と刹那を交えて戦い方の討論をした事がある。
その時に意見が一致したので、それから気があってしまったのだ。
麻帆良四天王の龍宮、刹那と知り合っているので、古菲や長瀬楓も時間の問題だと思ってきている。
さて、それでいてどうして刹那と仲良くなっていないのか。

その理由はズバリお嬢様である。

彼女は何よりもまずこのかを重視する。
どうやら俺を悪人とは思っていないようだが、まだ警戒している。
この辺りは刀子に似ている。
一緒に仕事をするときにギスギスしていては空気が悪いので改善しようと思っているが、何しろ一緒にいるのは刀子、刹那、龍宮と来たもんだ。

どないせーっちゅうねん。

三人とも仕事だから、と割り切るところがある為になんとか助かっているが、それぞれ個人の技量が高すぎる上に団体行動に向かない攻撃力を持っているので愛衣のようなイベントが起こる事もない。

……困ったものだ。

とある彗星の台詞を吐きながら、俺は早朝にランニングをしていた。
そう、俺は体を鍛え始めたのである。
なにしろアクセラレータの体は貧弱にも程がある。
せめて素で殴り合ってカミジョー君に勝てるくらいにはなりたい。
そして気を使えるようになりたい。
何故かって?
おま、素で斬岩剣を使って更にベクトル操作してみ?
斬岩剣が決戦奥義並みの威力になるのだ。
もちろんたった一年で斬岩剣を使えるようになるとは思わないが、ある程度気を使えるようになりたいのだ。
そのためにはどーしても刀子か刹那の協力が要るのだが……。

「無理だな」

ぼそりと断言する。
少なくとも、今の状況では。
というわけで、健全な体作りから始めました。
おそらくこの体は十五歳か十六歳。
この頃の体でひょろくてもまだまだ急激に成長する事もある。
肉体的にみれば数ヶ月で常人の体を作り上げる事も可能だ。
大人とガチで殴り合って勝ちたい。

とりあえずはそれを目標に。

ネットで学んだランニング走法でリズミカルに走っていると、後ろから声がかかった。
「おはよーございます」
俊足で横に並んで新聞を手渡して来る。
オッドアイに鈴の飾りをつけたツインテール。

神楽坂明日菜だ。

何故か俺は彼女とも気が会うらしい。
毎朝早朝ランニングをしていたら、お互いの名前も知らずに愚痴やらなんやらを言い会える仲になってしまった。
ちなみに、俺はフードを被って更にバイザーをつけているので素顔を見られたことはない、はず。
容姿に突っ込まれた事はないから。
俺は手渡された新聞を背中のリュックに放りこむ。
「おゥ。いつもより遅ェんじゃねェのか?」
「実は今日ちょっと寝坊しちゃって。おかげでちょっと息が切れちゃってるのよ」
ちなみに俺がナチュラルにタメ口だからか、こいつは最初は敬語だったが次に会った時はタメ口だった。
この馴れ馴れしさは賞賛に値する。

嫌ではないが。

愚痴をいえると言うのは、存外楽なモンだ。
ちなみにガンドルフィーニの格闘漫画オタクっぷりは既にバラしてある。
あれの論議に長々と付き合わされた翌日だったからな。
思いっきり不満をぶちまけてやった。
すると、数日後に例のパパラッチの耳に入ったらしく、ガンドルフィーニの格闘漫画オタクが麻帆良中に発覚した。
ガンドルフィーニは怒るのかと思えば、それの愛好家達に話しかけられ、現在は非常に充実しているとか。

悔しい。

こないだなんて『なあアクセラレータ君!ペガ○ス流星拳と北斗百○拳のどちらが強いか論議してるんだが、君も加わらんかね!?』とハァハァ言いながら迫ってきた。
問答無用で殴り飛ばしてやった。
ちょっとは気分が晴れた。
アスナは昨日珍しくこのかの新作料理が失敗したらしく、どんな料理だったか、味はこんなんだったと事細かに説明してくれていた。
このかは和風だけではなく中華もやるのだと知った。
「俺ァ和洋中のどれがいいかって言われたら洋だな。ボリュームが欲しい」
「そうなの?……前から思ってたんだけど、走り込んでるのって痩せた体を鍛えたいからなの?」
「そォだよ。太るのは御免だが、痩せたまんまってのもやなんだよな。アバラなんて浮き出てンだぜ?」
「うは。そりゃあまずいわね」
鍛え始めて現在二週間目。
ようやく筋肉がつき始めたと実感できた。
毎日続けたかいがあったと思っている。
ちなみにタカミチに筋トレの仕方を教えてもらっているので体を壊したりはしない……はず。
まあ、一方通行がどれだけ肉体に対して惰眠を貪っていたのかわかる二週間だった。
体内電流を操作できる一方通行はその気になれば色々と成長に関して干渉できるっぽいのだが、なんだか筋肉の寿命とかが縮まる気がしてそれはやめることにした。

無意識的にやっているかもしれないが。

そのせいか、俺の筋肉のつき方は常人に比べて速いらしい。
タカミチの指導が良い、といったら笑って照れていた。
そういえばアスナはタカミチに惚れてたな。
今度ブロマイドでも作って売ってやろうか。
「あ、じゃあ私こっちの道だから。さよならー」
「あァ、じゃあな」
手を振ってアスナと別れる。
それから俺は広場に向かい、いろいろと筋トレを行う。
この体、運動は嫌いではないらしく、一人だけで黙々と鍛えていてもそれなりに楽しかった。
まあ、生前の俺が運動が好きだったのもある。
黙々とトレーニングをしていると、辺りが騒がしくなってきた。
もう登校時間か……知らぬ間に二時間近くやっていたようだ。
俺の体もびっしょりと汗で濡れている。
そろそろ帰るか、と思い、俺は立ちあがろうとすると……。
「…………!」
後ろを振り向き、視線を固定してじっと視線の先を凝視する。

教室の屋上。

一番高い給水器の傍。

そこから誰かが俺のことをじっと見ている。
流石の俺も何キロも離れている建物の上にいる人影が誰か判別する事はできないが・・・その人影が小さい事はわかった。
その建物を見て、俺はポツリと呟く。
「……エヴァンジェリンじゃねェだろォな……」
その建物は良く見たことがある女子中等部の校舎だった。
こんな早くから登校する優等生だったか、彼女は?
他に超人的な目をしているのは茶々丸か龍宮くらいしか知らない。
俺はパーカーを着て素顔を隠しながら、そこからランニングモードになって走り去る。
ちらりと校舎の方を見て、もうそこには人影がいないことに気付いた。
まさか、俺の存在を伝えてないとは言わせねェぞ、学園長。






SIDE エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

暇だった、と言うのもある。
たまたま今日は早く起きれた、と言うのもあった。
理由はただそれだけなのだが、今日は私は早めに登校しようと思った。
家にいてもやることなんてないしな。
登校地獄の呪いのおかげでかれこれ十三年も麻帆良に閉じ込められると、登校するのにも違和感はなくなった。

一つ変わった事といえば、最近私の従者になった絡繰茶々丸の存在だ。

麻帆良工学部が作り上げた機械人形らしい。
科学というのはどうもわからんが、ここまで人間に似ている精巧な人形を作ると言うのは素直に感心した。
今日も茶々丸は私の後ろをついて来る。
なかなか世話を焼いてくれるので私としては楽なことこの上ない。
良い買い物をした物だ。
戦闘についてはそれほど問題ない。
茶々丸の製作者の超鈴音と葉加瀬聡美が共同開発したおかげであらかたの武器の使用方法はインプットされており、超の体術をプログラム化したデータを積んでいる。
茶々丸は機械人形だから機械人形独特の戦い方もできるだろうから、そういう体術は後々教えようと思っている。
最初はロケットアームや目から光線なんていう馬鹿げた装備を見たときは呆れた物だが、あれはあれで便利だしな。
私達が教室につくと、通称本屋と呼ばれている宮崎のどか、理屈っぽい話し方をする綾瀬夕映などといった真面目な面々がそれぞれ談笑していた。

くだらん。

私はいつも通りサボタージュすることにし、鞄を机にかけるとそのまま教室から出ていった。
向かうのはいつも通り屋上。
屋上から外を眺めて見ると、まばらに人が学校に登校して来るのが見えた。
いつもは見れない光景だが、私にとっては興味がない事だ。
太陽とは逆の西の空をぼーっと見やっていると、私の視線に妙な物が映った。

あれは、誰だ?

世界樹の近くにあるここから数キロ離れた開けた広場。
そこでひたすら腹筋をしている者がいる。
学校をサボタージュして体を鍛えている筋肉馬鹿かと思うが、どうやらそうではないらしい。
かなり遠い距離にいるが、その目つきは裏の者特有のギラついている目つきだった。
よくよく観察して見ると、奴は気も魔力も一般人並みで、裏の者とはとても思えない。

体つきも貧弱そのもの。

喧嘩に慣れた男子高校生と戦えば負けてしまうほど貧弱だ。
なのに、何なのか、あの目つきは。
あれは何度も死線をくぐり抜けた目だ。
私にはわかる。
正義正義と温い麻帆良の空気を拒絶されたような存在が、私のほかにもいたとはな。

面白い。

特徴はアルビノだったな。
それに、あんな雰囲気を放つ生徒なぞそういない。
ジジイなら何か知っているだろう。
私はそう思って奴を視線から外そうとすると、強引に戻された。

奴が、こちらを見たのだ。

間違いない。
今もじっとこちらを見ている。
そんな馬鹿な。
ただの人間がこの距離で私を確認できるというのか?
視線を合わせていたのはほんの数秒だった。
奴はパーカーを羽織ると頭を覆い隠し、その場から軽やかなランニングスタイルで走り去って行った。
偶然じゃない。
奴は私の視線を感じて、私を見たのだ。
正直に言うと、そんな事ができる奴はジジイかタカミチ、そして龍宮真名くらいしかいないだろう。
それ相応の実力者と言う事か?
魔力や気を必要以上に抑えているという事か?

……くく、尚更面白い。

学校にも通っていないようだから、呼び出させてやる。
私はもはやいつ浮かべたか忘れた凶悪な笑みを顔に貼りつけながら、ジジイの部屋へと向かった。






SIDE 一方通行

来たというか、やっぱりか。
俺が自宅でシャワーを浴び終わった後、携帯電話を確認してみると学園長とタカミチからの着信記録があった。
いつもの長ズボンをはきながら、俺は首と肩で携帯を挟み、学園長に電話をかけた。
今の時刻は八時三十五分。
タカミチはショートホームの時間か、授業中だろうと思ったのだ。
ワンコールですぐに出た。
「なンだよ、学園長。朝っぱらから鬼でも出たか?」
『アクセラレータ君、魔法使いのルールは教えたと思うんじゃが』
律儀に答えやがる学園長。
こっちは冗談のつもりなのにマジに捉える。
律儀だ。
「冗談に決まってンだろ?で、用件は?」
『うむ。いますぐ学園長室に来て欲しいんじゃ。五分くらいでつくじゃろ?』
ほら、呼び出しだ。
ってか、この距離を五分?
いけないことはないが、能力発動してたら一般人のバレると思うんだが。
大方、エヴァに急かされているのだろう。
待つのは得意な吸血鬼の癖して。
「あァ、ダラダラ行くから二十分くらいはかかると思うしヨロシク」
『ふぉ!?いやいや、それはちょっと困―――』
ブチッ。
切ってやった。
せいぜい困れクソジジイ。
俺の朝の安眠を妨害しやがった罰だ。






SIDE 近衛近右衛門

切りおった。
困るのう、今目の前にはマジでうずうずしている吸血幼女がいるんじゃが……。
「おい、今とても失礼な事を考えなかったか?」
「はて、何のことかのう」
とぼけ、ワシは内心でため息をついた。
どうしようどうしようと迷いに迷ったツケがここで来よったか。
早めにカチ合わせてしまうとガンドルフィーニ君達が文句を言うため、一度彼らが沈静化してからアクセラレータ君を紹介しようと思っていたのじゃが、最悪のタイミングでバレてしまった。
彼も彼で不機嫌なようじゃったし、まさかここで殺しあうことはないじゃろうが……困る。
既にタカミチ君という道連れの用意はできておるから、ちょっとは気が楽なんじゃが……気が重いのう。
「で、奴は五分でくるのか?」
「二十分はかかると言っておった……言っておくが、ワシのせいじゃないからの。ワシはちゃんと五分って言ったんじゃ!」
「……く、くくく……そうか、私を二十分も待たせるのか。これは相応な出迎えの仕方をしてやらねばな」
にやぁ、と不吉な笑みを浮かべるエヴァちん。
ワシ、もー知らねっと。






SIDE 一方通行

結果的には十分くらいで校舎にはついた。
ま、流石に二十分っていうのは寄り道に寄り道を重ねないと時間が稼げないので、眠い俺はさっさと用件を終わらせるためにやって来たというわけだ。

それにしても、エヴァはどうするか。

たいていのSSじゃエヴァは転生者にとって安全圏ということは知っている。
最初に生命の危機にさらされるのもたいていエヴァだが。
麻帆良でも1,2を争う実力者であるエヴァと敵対しても百害あって一利なし。
と俺の明晰な頭脳は判断しているのだが、あのエヴァの性格と俺の性格がマッチするとはとてもではないが思えない。
一方通行と俺の性格がいい具合に混ざっているのだが、そのせいで一方通行と俺の欠点も浮き彫りにしているのだ。

まず、一方通行は学園都市最強というプライドがある。

反射は健在。

故に、彼は例え600年も生きている吸血鬼が相手でも馬鹿にされたら間違いなくキレる。
今のエヴァは一般人並みの力しかない。
アクセラレータがキレれば彼女を一瞬にしてひき肉にする事も可能だ。
なにしろ、エヴァを初めとする魔法使いは俺のような魔力も気も使えない一般人を舐めてかかる節がある。
600年も生きてきた最強の魔法使いを自称するエヴァなら尚更だ。

だから、彼女は油断している。

アクセラレータは容赦なくそこを突くだろう。
俺も自制してはいるのだが、どうしてもキレやすくなっているし、性格がアクセラレータに似てきているのも自覚している。
波乱が起きそうだ。
自分で言うのもなんだが。
汗くさいパーカーは洗濯機にぶちこんできたので、今の俺の服は麻帆良にやってきたナチュラルな一方通行スタイルだ。

モノクロが好きらしい。

女子中学校の中を私服で歩く男子高校生というのは非常にアレだが、場合が場合なので仕方がない。
まぁ、何度か入った事はあるのでもう緊張感の欠片もないが。
俺は校舎の中を歩いて行き、学園長室の手前にやって来る。
なんだか扉が禍禍しい気配を醸し出している。
エヴァがいるのは間違いないだろう。
ハァ、とため息をついてから、俺はドアをノックせずに扉を空けた。
「何の用だ、学園長……あァ?」
早速だ。
早速、俺の体が糸により拘束された。
なるほど、武道会で刹那が受けたのはこれか。
確かにまともな力技では脱出できない、か。
「糸……魔法使いならもうちっとファンタジーな拘束の仕方をしろよ」

「悪いが私は魔法は使えなくてな」

俺が声がした方に視線を向けると、そこには腕を組んで仁王立ちしている幼女の姿があった。
なんだか間近で見てみるとそれは子供が背伸びしているようにしか見えないので、思わず吹き出してしまった。
「き、貴様、何がおかしい!」
「いィや、なンでもねェよ。オイ学園長、このクソガキは誰だ?なんで中学校に小学生がいンだよ」
ぬがッ……!?と言葉に詰まるエヴァ。
それを見た学園長と傍にいたタカミチは顔を引きつらせた。

まあ、そりゃそうだろう。

エヴァにまともに初対面でこんな事を言えるのは俺かナギ、ラカン、アルビレオ・イマくらいしかいないだろうからな。
しかし俺もスラスラと良くこんな事が言えるな。
良くも悪くも一方通行の身体に馴染んできた、と言うことか。
学園長はため息をつきつつ言った。
「彼女はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルというこの学校の一年生じゃよ。中学生じゃ」
「もっと言うと、彼女は600年生きている真祖の吸血鬼だ。……エヴァ、そろそろ彼を開放してやってくれないか?彼、そうとう頭に来てると思うんだが……」
「ふん、私を待たせたんだ。これくらい当然だろうが」
おお、流石タカミチ、察しが良い。
実を言うと、今にもこの糸をブチ切って飛び出しそうだ。
俺なら糸が肌に食い込んで来るベクトルを反射して糸を強引に引き千切る事も可能だからな。
さて、俺は当然の疑問をこいつ等にぶつけることにする。
「吸血鬼ィ?なんで吸血鬼が昼間動いてンだよ?っつか、なんで吸血鬼が中学一年生なンだ?」
「彼女は吸血鬼の真祖……つまり始まりの吸血鬼じゃ。ハイデイライトウォーカーと呼ばれる彼女は昼間、太陽の光を浴びても平気なのじゃよ。まあ、夜に比べれば力は劣るがの。後者については色々と事情があるのじゃ」
「色々ねェ……」
登校地獄の呪い、か。
不便なもんだな。
「で、そのエヴァンゲリン・A・K・マクスウェルが何の用だ?」
「ワザとだな貴様!?」
「ワザとだが、それがどうしたンだ?」
開き直ったかのように俺が言うと、エヴァはますます不機嫌そうな顔で俺を睨みつけてきた。
「貴様、今の状況がわかってないのか?その気になれば貴様の首の一本くらい、すぐに刎ねてやれるのだぞ?」
「やれるもンならやってみやがれ、クソガキ。ま、俺を殺したらテメェの末路がどうなるか、わかんねェ筈ねェだろ?」

「……死にたいらしいな」

エヴァの空気が硬化する。
こんなになめられた事は彼女の過去の中でも全くなかったのだろう。
しかも、俺は魔力も気も使えないただの人間(と、エヴァは思っている)。
本気でキレるとは思っていなかったが、かなり頭にきているようだ。
まあ、それと同じくらい俺も頭にきているわけで。

「クソガキが何言っても戯言にしか聞こえねェよ」

キュッ、と糸が狭まってきた。
流石にそこまでするとは思っていなかったのか、学園長とタカミチが目に見えて焦り始める。
短気な上司を持つと部下は苦労するな。
俺もここまでされて大人しくしているタマではないが。
「がッ!?」

ドン!!とエヴァの背後で爆発が起こった。

それは瞬時に凝縮させた空気を解き放ち、爆風を作り出したのだ。
当然、エヴァはこちらを向いているのでこちらに吹き飛ばされる。
俺は反射を使い、エヴァの糸をブチブチと引き千切るとその首を掴み上げた。
「ぐ、がッ……!?」
エヴァは何か喋ろうとしているらしいが、苦しくて何も言えないようだ。
俺はエヴァを睨みつけながら、ハッ、と鼻を鳴らした。
「真祖の吸血鬼だかなンだか知らねェが、自惚れてんじゃねェぞクソガキ。ほれ、謎の吸血鬼パワーでなンとかしてみろよ。それともやっぱり昼間は人間なのか?人間じゃァ俺にも勝てねェのか?あァ?」
「や、やめるんだ、アクセラレータ!」
流石にタカミチが止めに入り、俺の腕を掴むが……その程度では俺の腕を動かす事はできない。
俺は依然としてエヴァの視線を受けとめながら、告げる。
「虚勢張って何が楽しい?威張って何が嬉しい?他人の上に立って喜んでンのか?それでテメェは自己を形成してンのか?」
「…………!!」
「テメェがここで中学生してるのも何か理由があンだろうが、600年も生きてりゃ少しは聡明にもなってるもンじゃねェのか?こんなことして俺を脅して、力で屈服させて従える。でなけりゃ排除すンだったら、テメェはただワガママなクソガキに過ぎねェよ」
エヴァは糸を使って俺の腕を切断しようとしたようだが、その糸は俺の腕を締めつけようとして千切れる。
「600年も生きてきて得た答えが今のテメェか?クソガキとして生きていくのがテメェの道か?テメェみてェな強者なら、それ相応の王道があンだろォがよ。光なら光。闇なら闇。貫きとおせる道は一つしかねェ。交わる事は決してねェ、ってな」
そう言って、俺は腕を振ってタカミチごとエヴァを投げ飛ばす。
タカミチはエヴァを受けとめ、窓に激突した。
うっすらと激突した場所には魔法陣のような物が浮かんでいた。
学園長室は魔法による防弾処理がしてあるようだった。
エヴァは受けとめてくれたタカミチを押しのけて立ちあがる。
彼女は憤怒と困惑をゴチャゴチャに混ぜた顔をしていた。
「貴様に……貴様に私の何がわかる!?」
「テメェも俺と同類だ。だからわかる。闇に生きて、光に出会い、光を守るために闇の底に堕ち、それでもまだ光を諦めきれねェ。そうだろ吸血鬼」
俺はピクリとも笑わずに言った。

「テメェみてェな闇の象徴が光に憧れたことがないたァ言わせねェぞ」

そう言って、俺はエヴァを睨みつけた。
キレている俺が言うのもなんだが、彼女にはキツい言葉だと思う。
エヴァは600年生きてきているが、基本思考は十歳の女の子なのだ。
それでいて彼女は訳もわからぬうちに追われる身となったのだから、流されるままに生きてきた。
次第に彼女は時代に抗う力を失っていったのだ。

何もかもが嫌になって。

闇の中で沈んでいた彼女は、ある時光を見つけた。
それがサウザンドマスターだった。
だが、光は散々自分を照らした後にどこぞに去り、二度と自分を照らす事はなかった。
約束を破り捨てて。
その時彼女は疑心暗鬼になっただろう。
だが、今は持ち直している。
俺が見たところ、彼女は『闇の福音』としてのプライド、そして強さを心の支えにしている。
それが叩き折られたらどうなるか。
まあ、この程度で潰れる女とは思っていないが。

「つまンねェな」

その一言に、エヴァはびくりと震えた。
俺はエヴァから視線を外し、学園長を見やる。
「……学園長、俺ァ放課後にもう一度ここに来るぜ。今のままじゃ、ここにあるモン全部ブッ壊したくなっちまうからな」
それは嘘ではない。
まったくもってイライラする。
やはり、俺とエヴァは会うべきじゃなかった。
闇に染まった似たもの同士が出会うとこうなるのか。
後学のために覚えておこう。
俺はそう思いながら、騒然とする学園長室を出ていった。






~あとがき~

第6話を投稿しました。
エヴァとの出会いは、まあこんな感じです。
どうしてもアクセラレータとエヴァを争わせたくて、こういう展開になりました。
無理矢理感が溢れてますwww
ちなみにアンチエヴァではないのでご安心ください。


皆さまのコメントを見て考えた結果、ネギま板に移動することを決定いたしました。
次回の第7話を投稿した時にネギま板へ移動させます。
これからも応援、よろしくお願いします。


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