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第二十九話 ネット番長LOVER
※作品中に出てくるWeb拍手の設定は2010年5月当時の仕様を想定して居ます。
作者である私はそれ以降Web拍手を使っていないので、現在の仕様は知りません、申し訳ありません。

<第二新東京市北高 SSS団(元文芸部)部室>

放課後、部室にやって来たハルヒは先に部室に来て本を読んでいたレイとユキと軽くあいさつを交わすと団長の席に座り、窓から外を眺めながら静かにたそがれていた。
次に部室にやって来たキョンは、そのハルヒの姿を見て、ハルヒがまた落ち込んでしまったのか思って声をかけずには居られなかった。

「どうしたんだ、元気が無いようだが」

キョンにそう声をかけられたハルヒはキョンに軽く謝るように答える。

「あ、別に心配事があるってわけじゃないのよ。ただ、5年前の地震の事を思い出しちゃって」
「そういえば、あの大震災が起きた日だったな、今日は」

2010年1月17日、山陽大震災と呼ばれる広島・兵庫県を中心とする大地震が起こった。
セカンドインパクトのつめ跡から立ち直った日本に、地震のために避難した人数は10万前後、死者が約2,500人と言う被害をもたらした。

「お前は、確か納豆を食べた事が無いとか言ってたな。小さい頃は関西に住んでいたのか?」
「あたし達の家族が兵庫に住んでいたのは、あたしが5歳の時までよ。地震が起こった時には兵庫に親戚のおじさんが住んでいたのよ」

ハルヒはそこまで行って悲しそうな顔をしてため息をついた。

「そうか、それで亡くなったおじさんの事を思い出していたのか」
「ちょっと、勝手におじさんを殺さないでよ、おじさんの家が地震で潰れちゃったりしたから、被災地に親父が様子を見に行ったのよ」

ハルヒはゆっくりと立ち上がって窓辺へと近づいて腕を窓枠に置いた。

「あたしはまだ小さい子供で被災地には行けなかったわ。後で親父に写真を見せてもらったけど、ビルとかみんな廃墟になっていた」
「俺は募金ぐらいしか協力する事が出来なかったな」
「親父とボランティアに来ていたゴメスさんが会ったのはその頃よ。ゴメスさんのパワーレスリングダンス協会の人達は凄い力でがれきを取り除いたりして大活躍だったそうよ」

話しているうちにハルヒは興奮して来たのか、拳を窓枠に叩きつけ、目を輝かせながらキョンを見つめて話し続ける。

「ボランティアに参加した人数は延べ20万人よ、凄くない? 新東京ドームに入る4倍の人数よ!」
「素晴らしい事だよな」

キョンもハルヒの言葉に素直に感心してうなずいた。
2人が話しているうちに、シンジ達が部室へとやって来る。

「ずいぶん盛り上がって話しているようだけど、何の話をしてたのよ?」
「山陽大震災の話。シンジ、あんたの親父さんも被災地にいったりしてたの?」

アスカに聞かれたハルヒはそう答えて、シンジに質問を投げかけた。

「うん、父さんも任務で……」

そこまで言いかけたシンジを、アスカが思いっきり足を踏んで止める。

「バカ、司令ってことがばれたらどうするのよ」
「僕はおじさんの家に預けられっぱなしだったから、よく分からなかったけど、多分ボランティアで行っていたんじゃないかな、あはは」

アスカに怒られたシンジはそう言ってごまかした。
イツキが部室に入って来てハルヒに報告をする。

「どうやら生徒会は次の日曜日に学校の裏山の清掃活動を行うようですよ」
「お疲れ様、古泉君!」

嬉しそうにイツキの報告を聞くハルヒにキョン達は予感めいた視線を集中させる。

「みんな、今週の日曜日の予定は裏山の清掃ボランティア活動に決まったから!」



<第二新東京市北高 裏山>

日曜日の早朝。
生徒会が主催するボランティア清掃活動の会に、ハルヒ達は悪びれずに堂々と姿を現した。
生徒会長は露骨に嫌な顔でハルヒをにらみつけ、生徒会役員も渋い顔で見ている。

「何でお前らがここに居る」

生徒会長は表向きの仮面を早々に脱ぎ捨てて、ハルヒに吐き捨てるように尋ねた。

「世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒと惣流アスカの団だからよ!」
「おいおい、答えになって無いぞ」

堂々とそう言ったハルヒにキョンがツッコミを入れた。

「いいのよ、言ってみたかっただけだから。ボランティア活動なんだから、参加は自由なんでしょう?」
「ちっ、余計な事をするなよ」

生徒会長は舌打ちしてその場を立ち去ろうとしたが、ハルヒ達の後ろに北高のヤンキー達が気まずそうに立ちつくしているのを見てギョッと驚いた。

「げっ、何でお前らがこんな所に居るんだよ!」
「アニキ……」
「行きがけにアイスを買いに行ったコンビニで迷惑をかけていた所を捕まえたのよ。暇でする事が無いって言うもんだから連れて来たわ」

ハルヒが余裕たっぷりにそう言うと、生徒会長はさらに不機嫌そうな顔になる。

「情けねえな、こんな女の言いなりになるなよ」
「リーダー、涼宮と惣流のやつはケンカにとっても強いんですよ」

疲れた表情でヤンキーの1人がそう答えた。
ほっぺたにはハルヒから食らったドロップキックの靴跡が付いていた。

「情熱を持て余して居るんだから、解消しなくちゃいけないのよ! さ、あたし達はあっちに行きましょう」
「ちょっと待て! こいつらを置いて行くつもりか?」

立ち去ろうとしたハルヒを生徒会長が呼び止めた。

「誰かがまとめないとまた悪さをするかもしれないんだから、頼んだわ」
「俺はもう番長じゃねえ!」
「だって、あんたは元番長なんでしょ? 責任持ちなさいよ」
「お前が番長をやればいいじゃないか」
「いやよ! あたしは団長で番長じゃ無いもの!」
「怒る論点がズレている気がするんだが」

ハルヒと生徒会長の言い争いにキョンがツッコミを入れた。

「このわからずや!」
「うるせえ!」

ハルヒが食らわせようとしたドロップキックを生徒会長は横に飛びのいて交わした。
そして生徒会長は反撃として、ハルヒにジャブを放ったが、ハルヒの腕にがっちりと防がれた。

「なかなかやるじゃない」
「お前もな」

さらに戦いを続けようとする2人の間にキョンが割って入って止める。

「ここは生徒会長が彼らを改心させてボランティア活動に参加させたと言うシナリオにした方が、教職員への受けがいいのではないでしょうか?」
「私もそう思います」

キョンと副生徒会長の喜緑エミリに説得されて、生徒会長はヤンキー達の身柄を引き受けた。

「キョン、危ない事するわね……」
「お前に怪我して欲しくなかったしな……」
「そ、そうね、団員は団長を守るのが当然なのよ!」

キョンの言葉を聞いてハルヒはぶっきらぼうにそう言って裏山の奥へと駆けて行った。
それを見たキョン達は慌ててハルヒの後を追いかけて行く。
ハルヒ達は生徒会長達の側を離れて、裏山の奥の方を清掃する事にした。

「こんな奥の方までゴミが捨ててあるなんて、本当に腹が立つわね」
「キャンプの時も山奥にゴミが捨ててあったよね」

アスカとシンジはそうブツブツと言いながら空き缶などをゴミ袋に入れた。
ハルヒ達は手分けして、七月に笹の葉を取った熊笹の林を中心にゴミを集めて行った。

「ひゃあ!」

悲鳴を上げて斜面から滑り落ちそうになったミクルの腕をイツキが引っ張り上げた。

「ごめんなさい、私、迷惑ばかりかけて……」
「いえいえ、先日の雨で滑りやすくなっているから気をつけて下さい」

イツキはそう言った後もミクルが心配なのか、側を離れようとしない。
ミクルは落ち着かない様子でしばらくゴミを拾っていたが、突然イツキの方に振りかえって話し始める。

「お願い、古泉君。これ以上私とあまり仲良くしないでください」
「どうしてですか?」

ミクルに突然言われて、イツキは驚いた顔になった。

「私の方が、気持ちを抑えきれなくなるから……」

そう言ってミクルは大粒の涙を流し始めた。

「ちょっと古泉君! 何でミクルちゃんを泣かせているのよ!」
「古泉君は何も悪くありません。私が悪いんです」

ミクルは涙をしゃくり上げながらハルヒにそう訴えかけた。
その後、清掃活動が終わってからハルヒはもう一度イツキを問い詰めたが、心当たりの無いイツキには全く答えようがなかった。



<第二新東京市北高 コンピュータ研究会部室>

SSS団の部室の隣に位置するコンピュータ研究会の部室。
様々な経緯からコンピ研がSSS団のサーバーやサイトを管理する事になっていた。
コンピ研の部長は、怒りに震えながらパソコンの画面を眺めている。

「何だこのスレッドは……くそっ!」

部長は規模の大きい掲示板サイトの記事を読んで回っているうちに、涼宮ハルヒを観察すると言う記事を見つけてしまったのだ。

------

1:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

北高に入学して来た涼宮ハルヒって、バカっぽい女の臭いがしてこないか?

2:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

あいつ、学校の全ての部活に仮入部したって話だぜ

3:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

今じゃ変な部活を作ってるらしいじゃねえか

4:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

SSS団だっけ? 俺、サイト知ってるぜ

5:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

え? あいつ、サイト持ってたの?

6:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

ttp://www.xxx.jp/sssdan/

7:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

>宇宙人、未来人、異世界人、超能力者に関する情報大募集!
>不思議な現象でお悩みの方は是非ご相談のメールを!

8:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

天然記念物級の電波少女、保存、保存

9:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

涼宮ハルヒ大人気だな

10:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

なんでこんなバカが学年で成績上位なんだ?

11:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

後ろの席の惣流の答えを写してるんじゃないの?

12:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

担任教師の葛城に模範解答見せてもらってんだよきっと

13:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

最低だな

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「こんなの事実無根の言いがかりじゃないか!」

そこまで読んだコンピ研部長は、我慢しきれずに怒りにまかせてキーボードを叩いて書き込みをしてしまった。

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21:正義の使者:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

違う、涼宮さんはそんな不正をする人じゃない!

22:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

はぁ!? お前は何を言ってるの!?

23:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

本人が来た!?

24:正義の使者:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

僕は涼宮さんじゃない!

25:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

性別を偽って口調まで変えて演技に必死だな

26:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

涼宮の信者さん、お疲れ様

27:正義の使者:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

涼宮さんは言動に個性的な所もあるけど、不正をするような人じゃない!
とても常識的な人なんだ!

28:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

SSS団って集団も、怪しい事をしているカルト組織なんだろう?

29:正義の使者:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

そんな事は無い、涼宮さん達はこの前の日曜日も清掃のボランティア活動をしていた。

30:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

周りをだますための猿知恵だろ?

31:名無し:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

これから涼宮を猿Aって呼ぼうぜ

32:正義の使者:20xx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:????????

君達は涼宮さんの才能に嫉妬してるだけじゃないのか?
涼宮さんを猿呼ばわりする君達が猿なんだ!

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「うわっ!」

キーボードを打つことに集中していたコンピ研部長は後頭部を思いっきりハリセンで叩かれた。

「そこまでよ! あんたも相手を挑発してどうするのよ!」
「す、涼宮さん?」

コンピ研部長が振り返ると、そこには大きなハリセンを持ったハルヒが立っていた。

「でも、僕はSSS団が誤解されるのが悔しくて……」
「そんなの、放っておけばいいのよ。アンチが出て来たってことは、SSS団も人気が出始めたって事よね、古泉君?」
「その通りです」

落ち込むコンピ研部長に向かってハルヒはそう言い放った。
イツキは平然とハルヒに答えた。

「SSS団のサイトにはたくさんの応援のWeb拍手コメントが来ているんだから問題は無いのよ。まあ、不思議事件の解決依頼がなかなか無いのは残念だけどね」

穏やかに落ち着いてコンピ研部長に話しかけるハルヒの後ろで、事実を知るキョン達はボソボソとハルヒに聞こえないように言葉を交わす。

「あのWeb拍手コメントは、長門の仕業か?」
「そう。Web拍手はIPが完全に一致しないと同一人物だと判断されない。接続するたびにIPが変わるプロバイダと契約すれば1人で多人数に見せる事は可能」

ユキはキョンに対して軽くうなずいてそう答えた。

「長門さんは読書量もかなりの物ですから、様々な表現を用いて別人物のように感想を書くことも簡単でしょう」
「悪口以外のWeb拍手コメントが全部長門の仕業だとばれたら、ハルヒは特大の閉鎖空間を発生させかねないな」

そう言うイツキに対して、キョンは冷汗を垂らしながらそう呟いた。

「あなたの祖母にも協力を要請している」
「ばあちゃんにもかよ!?」

キョンの祖母も田舎で暇を持て余しているようで、SSS団のサイトにアクセスしてくれている。

「また問題が起こらないように、コンピュータ研究会の部長があのサイトに二度とアクセスできないようにパソコンにフィルターを設定させる」
「まるで保護者だな」

ユキの言葉を聞いて、キョンはやれやれとため息をついた。

「そういうわけだから、もうこんな書き込みを相手にするのは止めるのよ」

そう言って待っているキョン達の所へ戻ろうとしたハルヒをコンピ研部長は呼び止める。

「待ってくれ!」
「何?」

振り返ってハルヒがコンピ研部長の方を見ると、コンピ研部長は勇気を振り絞って叫ぶ。

「僕は、涼宮さんがこんな事を言われているのを見て耐えられなかったんだ!」
「何でよ?」
「それは、僕は涼宮さんの事がす……」

コンピ研部長がそう言いかけた所を、キョンが大声を出して邪魔をする。

「ハルヒ、もうすぐ5時だ、アニメ『腰パンマン』の時間だぞ!」
「本当!? 後は任せたわ、キョン!」

ハルヒはそう言って勢いよくコンピ研部室を出てSSS団の部室へと向かって行った。
ワンセグ機能がある自分のパソコンでアニメを見るためだ。

「あ、涼宮さん……」

コンピ研部長はぼう然とハルヒの後ろ姿を見送った。

「何か、ハルヒのやつに伝える事がありますか?」
「別に何も無い……」

キョンに尋ねられて、コンピ研部長はガックリと肩を落として下を向いた。

「それじゃあ、失礼しますよ」

キョン達はそう言って、コンピ研の部室を出て行った。
部室を出て行く途中で、アスカはキョンの方を見て笑いをこらえている。

「アンタって本当に分かりやすい嫉妬の仕方をするわね」
「笑わないで下さい!」

キョンは顔を赤くしてアスカに言い返した。
そして部室にはガックリと肩を落として落ち込んだコンピ研部長が残された。
ハルヒがまたコンピ研部長に会いに来る機会が訪れるのはまたずいぶん先になるだろう。

「部長は、ネットの中なら強気なんだけどな……」

一部始終を部室の中で見ていたコンピ研の部員がそう呟いた。
コンピ研部長は気を取り直して、ハルヒが夢中になっていると言うアニメ『腰パンマン』を自分のパソコンで観る事にした。
『腰パンマン』は幼さとクールを兼ね備えた小学生の少年、正義が、中学生のセーラー服少女の藍と高校生の剣道少年である勇樹と力を合わせて悪党を倒すストーリーだった。
主人公の正義と殴り合った悪者が、倒された後に正義と年齢差を超えた友情を築いて仲良くなって、1話分が終わる。

「そうか、涼宮さんは格闘アニメが好きだったのか……」

アニメを見終わって、納得したようにそう呟いたコンピ研部長は腕をまくって力こぶを作ろうとするが、全然できずにため息を突く。
実際にハルヒが気に入っているのは主人公の小学生の正義の決めセリフ『青春を粗末にするんじゃねえよ』なのだが、コンピ研部長はちょっと誤解をしてしまった。

「まず、体を鍛えて筋肉をつけないといけないのかな……」

コンピ研部長はネットで検索して、ゴメスのパワーレスリングダンス協会のサイトを見つけてしまった。
強そうな会長のゴメスの写真に興味を引かれたコンピ研部長は、ネットで入会申し込みをしてしまったのだった……。
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