ここは忘れられたもの達が集う世界。
外の世界、いわゆる『現代』から忘れ去られたモノが流れ落ちる場所。
名を『幻想郷』と言う。
この世界には人は勿論、妖怪や妖精、幽霊や神が存在し、ごく自然に人と関わりを持っている。
関わり方は種族や個人の趣向に左右され、悪戯などの可愛いものから捕食や殺意という人間からすれば最悪な形の物まで実に様々。
だがこの世界は幾つかのルールに則る事でバランスを保ち、今日も平和に過ぎていくのだ。
そんな幻想郷の唯一の人里。
人里に置いて最も大きな屋敷の一室で座布団に座って机に向かっている男性がいる。
年の頃、二十代後半。
伸ばした髪を無造作に背中に流し、黒縁の眼鏡を掛けた彼は幻想郷では珍しい鉛筆を使って紙に何かを書いていた。
拝啓
おじいさん、おばあさん、お元気ですか?
月日が経つのは早いもので俺がこの『幻想郷』に来て一ヶ月になります。
来た当初、というか唐突にこの場所に来てしまった当初は非常に混乱しましたが落ちた場所が良かった為か俺は今もこうして生きています。
仕事も始めましたし居候している家の方々にも良くしてもらっています。
ここでの生活に不満は何一つないと言ってもいいでしょう。
強いて文句、と言うと恐れ多いので愚痴を言わせてもらうならば。
よくわからない理屈でこっちに来てしまった俺の事を『あいつら』が心配していないかだけが気がかりです。
まぁ義鷹辺りは「あ、いなくなったんだ」くらいで気にしなさそうですがお仙や玉兎が切れてそうで怖いです。
特に玉兎とは絵本の約束もありますし。
……約束破って蒸発したとか思われていたら帰れてもあの世行きっぽい気がします。
義鷹、助けてくれんやろか? 無理っぽいなぁ。なんか煽りそうやし。
管理人ちゃんは……やっぱ無理やろなぁ。たぶん心配してくれてるから一緒になってボコってきそう。
ああ、ますます帰る気がなくなっていく。
手紙を書き進めながらどんどん顔色を悪くしている青年は傍目から見ると非常に奇妙に見える。
それは今、彼の部屋に入ってきた少女から見ても同じ事。
「あの……福太郎さん。顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
障子越しに声をかけても反応しなかった青年が気になり、無礼と理解しつつも部屋に入ってきた少女は気遣わしげに声をかけた。
「うおっ!? びっくりした!!!」
「ひゃっ!?」
青年は突然、声を掛けられた事で全身を硬直させ、勢いよく振り返る。
そこには耳元が完全に隠れた髪を両サイドから首筋まで流した頭に花飾りを付けた少女が驚いている姿があった。
「あ、阿求さんやないですか。すいません、驚かしまして」
ヘコリと頭を下げ、頭を掻く青年『田村福太郎(たむら・ふくたろう)』に少女『稗田阿求(ひえだの・あきゅう)』は気にしないでと首を横に振った。
「お気になさらないでください。……それより顔色が悪いようですがどこかお体の具合が良くないのですか?」
「ああ、いえ。そういう事ではなくてですね。ちょっと考え事しとったんですわ」
彼の視線が部屋の隅に立てかけてある額縁に移る。
まだ描きかけの『どこかの邸』と、その門の前に並んでいる『八人の住人』の絵。
その意図を読み取った阿求は笑みを浮かべた。
「ああ。一緒に住んでいた方々の事を考えていらっしゃったんですね?」
「ええ……何分、なんの前触れもなくここに来たもんですから。今頃、怒ってないかなぁと」
情けない話ですがと付け足し、苦笑いをする福太郎に阿求は笑顔のまま首を横に振った。
「怒っているという事はそれだけ心配したという事です。そして心配したという事はそれだけ貴方がその方々にとって大切な存在だと言う事。怒られる事くらい受け入れないとバチが当たりますよ?」
その笑顔と告げられた言葉に福太郎は数瞬、呆然とするとまた頭を掻いた。
「ははは、確かに。殴られるくらいはされな釣り合いが取れませんな。心配かけてるんなら……」
「そうですよ」
二人笑い合うと、福太郎は気を取り直して机に向き直り、書いていた手紙を屑籠に放り投げた。
「捨ててしまうんですか?」
「ええ。手紙言うても幻想郷からじゃ届きませんからね。これはあれです。自己満足というか愚痴をツラツラと書き殴りたい衝動に駆られたというか、ストレス発散のようなもんなんで適当に切り上げても構わんのですよ。そういう意味じゃ丁度良い時に声かけてくれましたよ、阿求さん」
「……そう、ですか」
よっこらせと立ち上がり、敷いていた座布団を部屋の隅に置き、押入れの中の商売道具を取り出す。
「あ、今日もお出かけですか?」
「ええ。居候の身で日がな一日ダラダラしてるわけにもいきませんし……せっかくこんなよくわからない場所に来てるんですから楽しもうかなっと」
「人里の中は不可侵ですから大丈夫だとは思いますけど、気をつけてくださいね? 殺傷沙汰にはならないまでも騒ぎは起こるかもしれせんから」
「ええ、それじゃいってきますわ」
重そうに荷物を背負い、彼は私室を後にする。
残された阿求はいつも通りの飄々とした彼の言葉に笑みを浮かべながらこう告げた。
「はい。いってらっしゃい」
人里で最も人の行き来が激しい通り。
客寄せの威勢のいい声が聞こえる中、彼はそっと定位置である場所に荷物を置いた。
イーゼルを立て、画板を置きその上に何十枚もの紙を乗せる。
香霖堂という外の世界の品物を取り扱う店から格安で買ったパイプ椅子に腰掛け、鞄から鉛筆を取り出し、イーゼルに立てかける。
最後に阿求の好意で作ってもらった看板を通行の邪魔にならない場所に置いた。
『絵、描きます』
彼のいつものお仕事が始まる。
この世界に落ちて、阿求に助けられた彼がまずやろうと思った事。
それは勿論、元の世界に帰る事だ。
混乱する頭をどうにか静め、阿求に話を聞き、人里の守護を行っている女性『上白沢慧音(かみしらさわ・けいね)』に土下座して博麗神社に連れて行ってもらい、巫女である『博麗霊夢(はくれい・れいむ)』にこれまた見事な土下座を行った。
必死に外へ帰ろうとする彼に心打たれたのかどうかはわからないが霊夢はあっさりと願いを受け入れた。
短いながらも世話になった人々にお礼を言い、つつがなく進行していく準備に福太郎が胸を撫で下ろすのも束の間。
いざ還るという段階で問題が発生した。
霊夢が準備を整え、彼女の号令で神社の入り口である鳥居を通り抜ける。
内心、ドキドキしながら鳥居をくぐったその先は。
見慣れた、グチャグチャでゴミゴミとして何もかもが混ざり合った『あの世界』ではなく。
少し寂れて何かあれば賽銭を要求する巫女がいる、ついさっきまでいた博麗神社だった。
そう、何故か彼は自分の世界に帰れなかったのである。
何度と無く試してみたが結果は変わらず。
意気消沈しながら慧音と共にその日は人里に帰る事になった。
博麗神社から帰る事が出来なかった事に阿求も大層、驚いていたが帰る目途が立つまで住居を提供してくれると言ってくれた。
恥も外聞もなく、その言葉を受け入れた彼だが、さすがにただそのままじっと阿求邸に引き篭もるほど落ちぶれてはおらず。
自分に出来る事はないかと模索した所、数秒と経たずに浮かんだ事があった。
それは『絵を描く事』。
幸いにも彼と一緒に使っていた道具も落ちてきたので用意する物は紙くらいで良かった。
絵の具の量が心もとなかった為、最初は鉛筆だけで書くつもりだったのだがひょんな事から行く機会に恵まれた香霖堂で見つける事が出来た。
保存状態も良好で数も多く、当分は絵の具や鉛筆が切れるという状況にはならない。
ならばと阿求に断りを入れてから邸の庭を気の済むまで絵の具を使用して描き上げ、彼女にプレゼントした。
「今までお世話になったお礼と今後もお世話になってしまうお詫びです」
その時の阿求の笑顔は正に花が咲いたというほど綺麗な物で。
今でも福太郎の脳裏にその時、感じた気持ちと一緒に焼き付いている。
『ああ、こんな風に笑ってもらえるならこれを仕事にするのも悪くないなぁ』
福太郎の感謝が込められたその絵は今も阿求の部屋に飾られている。
それからと言う物、彼は昼間に外に出て有料で絵を描くようになった。
駄菓子一つ買うような安価で。
流石に手の込んだ絵を書く場合は別途で料金を請求するし、『人間』の似顔絵を描くのを嫌がるという周囲から見ると非常に奇妙な事をしていたが。
それでも珍しさからか客は集まり、人里の絵描きの噂はあっという間に幻想郷中に広まった。
色々な事があった。
鴉天狗の『射命丸文(しゃめいまる・あや)』がここぞとばかりに新聞のネタとして取材を申し込んできたり。
霊夢が元の世界に還せなかったことを気にして様子を見に来たり。
霊夢から話を聞いてきたと全身を白黒で表現できる魔法使い『霧雨魔理沙(きりさめ・まりさ)』や人里で人形劇を行っている人形遣い『アリス・マーガトロイド』が興味本位で顔を出したり。
慧音が営んでいる寺子屋の講師として福太郎に臨時教師(勿論、教えるのは絵の描き方)をお願いしたり。
他にも吸血鬼やメイド、兎妖怪やお姫様(えらく垢抜けた雰囲気には驚かされた)、果ては幽霊(半霊含む)や神様が何柱か(威厳があったり無かったり)と非常にバラエティに富んだ客が彼の元を訪れた。
彼女らとの会話は福太郎自身にとっても非常に楽しい物で。
仕事を始めてから一ヶ月が経過した今、彼はこの世界に非常に馴染んできていた。
「お、福太郎さん。今日もお仕事に精が出ますね」
「はは。まぁ自分のやりたい事をやってるんでやる気だけはありますから」
通りすがりのおばちゃんの挨拶にのんびりと答え、視線を今日一番目のモデルに戻す。
目の前でカチコチに固まっている少女は鬼である『伊吹萃香(いぶき・すいか)』である。
小柄な、小学生か良くて中学生にしか見られないような体格。その体格と不釣合いな長さの二本の角。腰には瓢箪を引っさげ、なぜかその両腕には囚人のような鎖に繋がれた重しがついている。
こういう事の経験がまったくない為(まぁ恐れられている鬼という立場からすれば当然であるが)、度を越えた緊張でピクリとも動かない。
その表情も引き結ばれ、必死で動かないように自分を抑えようとしているのが見て取れた。
「あー、萃香ちゃん萃香ちゃん。別に動いても問題ないんよ? 全体像は掴んだからあとはこっちで修正するし」
「えっ? そうなの?」
何が不安なのか上目遣いに福太郎を窺う。
以前、博麗神社での小さな宴会の席で酒を水のように飲みまくっていた時の豪気な雰囲気は微塵もない。
「そ。やからまぁ適当に気を抜いててええよ。絵が出来るまで暇やろうしね」
そう言って笑みを浮かべながら彼は鉛筆を走らせる。
萃香は大きく息を吐き出すとさっそくというかなんというか腰の瓢箪を開け、酒をあおり始めた。
「ん、ん、ん! ぷはぁ……。はぁ、やっぱり慣れない事するもんじゃないなぁ。なんか肩凝っちゃった気がする」
「何言ってんの。始めてから十分も経ってないじゃない」
満足げな表情の萃香に呆れて声をかけたのは霊夢だ。
買い物に来た所を偶然、萃香と一緒になり彼女が前から興味を持っていた仕事中の福太郎に引き合わせたのである。
「うーん、でもあんまり動かないのは好きじゃないなぁ。なんかじっと見られて緊張したし……」
「鬼が人間に見られるのに緊張してどーするのよ。襲い襲われる関係の癖に」
「いやそーいうのとは違うじゃんか。今回のは」
とめどなく会話する二人の声を聞き流しながら、福太郎は絵を仕上げていく。
そしてこの五分後、仕上がった絵を満足そうに胸に抱いて去っていく萃香の姿があった。
「嬉しそうやったねぇ」
萃香が去った後、何故かその場に残った霊夢に話題を振る。
「ええ。まぁあの子、あれでも鬼ですからね。怖がられるのが当たり前ですし、絵を描いてもらうなんて事もなかっただろうし。それに……」
じっと福太郎の目を見る霊夢。
彼はそのもの珍しげな物を見る視線に首を傾げた。
「? なに?」
「貴方みたいに妖怪を恐れない人間なんてなかなかいませんから」
ああ、なるほどと福太郎は言われた言葉に相槌を打つ。
「でも君かてそうやろ? 阿求さんから聞いたで? 今まで色んな『異変』を解決したって。その時あのレミリアお嬢さんやらかぐや姫さんとかと戦ったんやろ?」
名を挙げた二人はどちらも彼の描いた絵を高く評価し、御代とは別に自分の邸に招待したいと言ってきたほどの上客である。
なにやら絵以外にも福太郎に興味を持っているようだがそれはそれである。
「そりゃまぁ『博麗の巫女の役割』は異変の解決ですからね。妖怪が怖いなんて言ってたらやってられません」
「まぁそうなんやろなぁ。でも俺の場合やって君とそう変わらんよ? 環境が環境やったからね」
「環境って鬼より怖い人が近くにいたんですか?」
暢気に笑みを浮かべる彼との会話に、よくわからない安心感を抱きながら霊夢は質問する。
すると彼は少し遠い目をしながら応えてくれた。
「うん。寺子屋みたいな所で教師しててなぁ。その時の生徒に吸血鬼やらサキュバスやら狼男やら狸娘やらロボットやら色々おったし。俺の住んでる、こっちでいう所の長屋みたいなところには悪魔やら天井下りやら外国の精霊やら鵺やら兎の変化やら住んでたからねぇ。あ、ちなみにそこの管理人さんは七本尻尾の猫又やったね」
その話の内容に霊夢は噴出した。
なんだ、その長屋は。
幻想郷よりごちゃごちゃしてるじゃないか。
「ええ!? ちょっと福太郎さん。それって冗談ですよね?」
「え? 冗談っぽく聞こえたん?」
きょとんとして聞き返してくる彼の顔をじっと見る。
目をパチクリさせているその様子には嘘を言っている様子はない。
少なくとも彼女にはそうは思えない。
「で、でも外の世界って魔法だとか妖怪だとか神様を信仰する心なんてなくなってそういう存在はもうほとんど残ってないんじゃ……?」
「あー、こっちじゃそういう伝わり方しとるんやったっけ? それな、二十年前に変わってしもたんよ。色々あってな。やから今、俺らの世界には人間以外の存在って珍しくないよ」
そう言うと彼はまた遠い目をした。
口元を引き結んで空を見上げるその姿はまるで思い出したくない記憶から目を逸らしているように霊夢には見えた。
「今のお話、もっと詳しく聞かせてくださる?」
「はい?」
艶のある成熟した女性の声に思わず福太郎は周囲を見回す。
だがそこにはいつも通りの風景が広がっているだけで霊夢以外、自分に声をかけるだろう人物、今の声に該当するような者は見当たらない。
「違うと思うけど、今の妙に色気のある妖しい声って霊夢ちゃん?」
「違いますよ。でも今の声の主は知ってます。また唐突に現れるわね、アイツ」
そう言って霊夢はため息をついて肩を落とした。
クエスチョンマークが頭の中を乱舞する福太郎。
その目の前で唐突に空間が割け、中から女性の上半身が出てきた。
「うおぅ!?」
「はぁい、霊夢。そちらの外来人の方は初めまして」
「出たわね。スキマ妖怪……」
衝撃的な光景に思わずパイプ椅子から転げ落ちる福太郎。
そんな彼の反応を面白そうに見ながら扇子で口元を隠して挨拶する女性。
そして厄介事がやってきたと嫌そうに彼女を見つめる霊夢。
ウェーブがかかった長い金髪に紫と白を基調にしたゆったりとした衣服を纏い、白い帽子に日傘を差した女性。
非常に美しいのだが浮かべている笑みが余りにも胡散臭い上に相変わらず身体の半分が妙な裂け目の中にある為、素直に見惚れる事が出来なかった。
「ど、どうも。田村福太郎、言います」
立ち上がり、服についた汚れを払うと福太郎は目の前の美女に頭を下げた。
「ふふふ、よろしく。私は『八雲紫(やくも・ゆかり)』。妖怪の賢者なんて呼ばれているわ」
「ただのぐうたら妖怪の間違いでしょ。それで? 年がら年中、食っちゃ寝のアンタが人里に何の用よ?」
警戒心むき出しの霊夢をなにやら微笑ましそうに見ながら、紫は福太郎に視線を向けた。
「彼が話していた外の世界の話に興味があるのよ。出来ればもっと詳しく聞きたいわね」
「はぁ? 別に構いませんけど。……ああ、すみません。まだ仕事の時間なんで終わってからじゃ駄目ですかね?」
彼は夕方くらいまでは基本的に仕事をするようにしている。
事前に申し出があった場合は夜に阿求の許可をもらって家で書くこともあるが基本方針はそうしている。
だからそれまではこうしてこの場で座って客が来るのを待つつもりだし、このサイクルは出来れば変えたくないと考えているのだ。
「ええ。でもすごく気になるから早速、今夜でも構わないかしら? 阿求には私から話を付けておくから。貴方は仕事が終わったら真っ直ぐ稗田邸に帰ってくれる?」
「了解了解、かしこまり~~」
「ふふ、それじゃまたね」
何かを含んだ、いかにも裏があるぞと言う笑みを浮かべて彼女は空間の裂け目の中に消えていった。
その裂け目のあった空間を福太郎は興味本位で撫でてみるが、裂けていた痕跡のような物は当然、わからない。
「なんや凄い人やったねぇ。あの裂け目なんなん? なんか裂け目の中から妙な目がぎょーさんこっち見てたけど」
「あれは『スキマ』って言って……まぁ空間の裂け目って認識でいいですよ。色んなところに繋げられて便利だって自慢げに語ってましたから」
へぇ、ほう、ふぅ~んと興奮した様子で空間を撫で続ける福太郎。
奇行に走っている彼を見て霊夢は右手でコメカミを抑えた。
「自作どこでも○アやね。すごいなぁ、中がどうなってんのかも気になるわぁ」
「やめておいた方がいいですよ? どうせ碌なもんじゃないし下手をしたら命を落とすかもしれませんから……」
「ん~~、そうかぁ。すっごく気になるんやけどなぁ」
本気で残念そうにしている彼に霊夢は苦笑いしながら告げる。
「だったら今日、会った時にでも頼んでみたらどうですか? それにあいつならスキマで外の世界と行き来できますからもしかしたら帰れるかもしれませんよ?」
「えっ!? それ、マジで霊夢ちゃん!」
「うひゃぁっ!?」
ガシッと両肩を捕まれ、霊夢は思わず奇声を上げる。
色々と異性に対する経験が不足している彼女にとって福太郎のこの行動は刺激が強かったらしい。
「そう言えば阿求さんもスキマ妖怪に会えればどうにかなるかもって言ってたなぁ。そっかぁあの人がそうなんや!」
喜ぶ余り、霊夢の肩をぶんぶんと前後に揺すりながら笑う。
いつまでも終わらないそのシェイクに霊夢が怒鳴るまで、通りには福太郎の笑い声が響き渡っていた。
勿論、彼女らの様子は通りを歩く人の注目の的になり、しばらく人里では二人の関係についての噂が囁かれるようになる。
買い物の帰り道。
霊夢は紫の態度に疑問を抱いていた。
「(紫のやつ、普段は外来人なんて放置する癖になんで今回に限って……しかも外の話を聞きたいなんて言い出したの? あいつが今更そんな事を聞く必要なんてないじゃない)」
福太郎に話した通り、彼女は自由に外の世界に行く事が出来るのだから態々、外来人に話を聞く意味はない。
ただの気まぐれかもしれないとも思う。
だが霊夢は直感で、そうではないと確信していた。
「(もしかしてあたしが知っている外の情報と福太郎さんの世界の情報が食い違ってるから? それにしたって……)」
霊夢のこの疑問は神社に帰っても解ける事はなく、彼女は漠然と気になったので翌日、福太郎に会いに行く事にした。
その際、里での二人の様子をどこからか聞きつけた文が『文文。新聞』の号外にこんな記事を書いてばらまいており、彼女の顔を羞恥と怒りで真っ赤にする事になる。
題名は『博麗の巫女についに春が!?』。
その新聞を見た巫女が彼女をボコボコにする事を誓うのは自然な流れだった。
あとがき
初投稿になります。白光(しろひかり)です。
思いつきのネタとしてこんな作品を投稿しました。
足洗邸ってマイナーな分類になるので分かる方がいるか不安なのですがその作品の主人公が幻想入りです。
ちょっと彼の口調に自信がないのですが、全体を通してご意見などあればどうぞお書きください。
短編でネタではありますがまだ続きますので暇潰し程度に考えて楽しんいただければと思います。