――光が見えた。
ドアの隙間から差し込むほどの僅かばかりの光。
とてつもなく小さな灯は、見渡す限りの真っ暗な蔵の中に閉じ込められた私とって、それしか縋るものがなかった。
――――どれぐらい歩き回っただろう.
《わからない。わからない》
何故ここに居るのかわからない。どうして私は私としてここに居るのか……。
寂しいという感覚が理解できるのかわからない。
誰かが命を与えてくれたのなら何故。
こんなにも葛藤を生む曖昧な存在として生み出したのか。
……問題だ。これは問題だぞ。
《誰も……いないの?》
だめだ心細い。一人では耐えられない。
どこか出口はないの?
外の世界へ通じる道は……、
その光を見つけたのは偶然なのか必然なのか、私はたどり着いた。
外の世界へ通じる唯一の道。
だが、それはただ窓を通して見た風景でしかなかった。
どんなに足掻こうとそれ以上先には進めない。
まったくの……行き止まりだった。
……私は絶望した。
手を伸ばせば届く距離なのにその間には見えない越えられないか壁があった。
その透明に澄んだ壁は地平線を超えたところで関係のない。
む世界が違うのだと明確に指し示していた。
……私は悔しい。
私はこの一人ぼっちの世界で何をしろというのだ。
……
…………
意味がないのなら意義を作ればいい。
なんだ……そうだ……。
《簡単じゃないか》
意味がないことにウダウダ考えてるより適当に最もらしい理由を作って前に進めばいい?
ふふふふ。
この退屈を潰せるならせいぜい楽しませてもらおうじゃないか。
それが例え戦争だとしても。
《祭りは楽しむためにある》
「ねぇお腹空かない?」
僕と魅月は近くのファストフード店にいた。
「疲れたほんとお腹空いたね」
「魅月はどうするんだ?」
「うん? 私? 私はゲーム続けるわよ」
「やっぱりゲーム好きだもんな魅月は」
「ゲームは楽しいし、憂さ晴らしというかね。
私にとっては一番身近な先生かな。哲学、音楽、夢全部そこにあるから」
「ゲームでそこまで語るヤツは珍しいな。そっか、魅月はしっかり自分の考えでゲームやってんだな」
「あっあ~、一般ユーザーはそこまで考えてるわけじゃなくて。
ただ理由なく楽しめばいいんじゃないかな」
「人が死んでるのにか?」
魅月が口を閉じる。
「僕は今までただ何となく過ごして来たように思う。いつかは『本物』になりたいと思っていたんだ。
『本物』ってのはなんだろう本当に力がある存在なんだ。マヤカシじゃなく本当に……」
「う~ん貝錠君が言ってる『本物』ってよくわかんないけど。それってイメージ?
なら仕事するのが手っとりばやいんじゃないかな」
「仕事って言っても僕はまだまだ学生だし」
「これよ」
そういって取り出したのは一枚のカード。
見覚えのあるゲームのカードだった。
「口座は入力した? 私も試してみたけど九紗の言うように給料が本当に支払われる。
詐欺とかじゃないわ。試してみたら?」
僕はファストフード店内のATMで銀行のカードを挿入し、暗証番号を入力する。
「1,036,534円? えらく具体的な数字だな一万もなかったのに……」
僕はいまだ信じられない顔をして席に戻る。
「どう? 入金されてた?」
「あぁ、ゼロの桁が違った」
「私は続けるわよ。自分の力もっとも手っ取り早くお金を稼げ、しかもゲームをしながらなんて最高よ」
「僕は……」
「自己実現なんてしょせん他人に評価してもらった自分でしかない。
一番わかりやすい他人の評価はお金よ。
社会に出たら自分の力に見合った給料が手に入る。それが自分の価値。
ちなみに私は今回の出撃で三百万円稼いだわ。これってすごいことなのよ。
ギャンブルじゃないまっとうな労働で手に入れたお金じゃ精々月々二十万程度。
それがこんなにあっさり……当然私みたいなゲームの腕があればだけど」
「あれを仕事っていうのか……」
「労力を提供して給料を貰う。それを仕事っていうんじゃない?
見合った報酬がなけれはそれは単なる趣味よ」
「……」
「それで最後まで聞いたのか?」
学校の授業の放課後、勲が聞いてきた。
「あぁ」
「で、あのムカつく女はなんて言ってたんだよ。」
「昨日の話では本当に世界が戦争が起きてるのが間違いないようだ。
あのゲームは戦場に投入されてる試験運用型のロボットを遠隔操作できる。
でもそれを動かすことができるのはEXTRA STAGEに参加できた者のみで、それ以外は普通のゲームらしい。
そしてその作戦に参加した報酬として口座に給料が支払われるシステムで、
これはリピーターを増やす手らしいが……」
「話を信じるのか?」
「……」
「お前はあの話を信じるのか?」
「わからない。でも信憑性はあった」
「はっきりしないなお前」
「だが久々におもしろいと思ったよ」
やれやれとため息をしつつ勲は言う。
「お前はいつも面白いかどうかで物事を判断するのが悪い癖だな。
その癖、面にでないもんだから楽しんでんのかどうか傍から見てわかんねぇよ」
「十分楽しんでる。わざわざ表情に出すまでもないだろう」
「それがけしからんって話だよ。七海ちゃんにも頼まれてんだよ」
「何て?」
「『一日一回でいいから笑わしてあげてください』とね」
「いい迷惑だ」
「そう言うな。あまりにも笑わないから兄貴の将来が心配だと言ってくれる妹は貴重だぞ」
「心配するところはそこかよ」
僕は苦笑する。
「よっし! 今日のノルマ終了!!」
「これもカウントされんの?」
「もちろん! 笑一回に付きジュース一本だからな」
「おいおい。大丈夫か僕の妹……、
もし僕が大爆笑したらどうするつもりだ。破産だぞ?」
「それはないな。絶対に」
「なんで言い切れる?」
「親友としての経験上」
「わっははははっ」
「故意は駄目だ」
「以外に採点が厳しいんだな?」
「俺は常に公明正大だ」
「あぁ~ちょっといい?」
いきなり声をかけてきたのは魅月だった。意外。
「どうしたんだ」
魅月はあのゲームを一緒にプレイするまで話したことはなかった。
同じクラスメイトだがグループが違うのだ。
まず、男女で大きな垣根が生まれる。
そしてそこから派生して各仲良しグループに分かれる。
クラスにはたまにその壁を乗り越え自由自在に行き来する猛者がいるが、僕にとってはそれは才能に等しかった。
クラス替えの際初めにまとまった繋がりはその後もクラスが変わるまで継続される。
よほどのイベントがない限りは同じクラス内でもほとんど話さない奴もいるし、それが当たり前だと思っていた。
「今日、転校生が来るんだって知ってる?」
「え、今の時期に」
九月の半ばを過ぎ、えらく中途半端な時に転校してくるものだ。
僕達は男か女かで意見が分かれ、勲は美人にこしたことはないと期待していた。