実働でこき使われる(ブルーカラー)アルエットに対して、
ダークは彼女を使役する頭脳労働専門(ホワイトカラー)なので、
彼女が直接キュロットに調教を行うということはありません。
ということで今回はエロシーンは一切無し。
全編ダークさんのお説教なのでちょっと退屈なパートかも(笑)
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ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 2−7話
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ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 2−5話
ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 2−4話
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ラ・ピュセル†ラグナロック 二次創作小説 イントロダクション
アルエットがキュロットを尋ねてきた晩から六日目。
彼女がポトフの街へ帰る日の前夜。
「そんな……、お姉様。わたしを手放さないって言って下さったじゃないですか!
お願いです! わたしも一緒に連れて行って下さい!」
帽子を脱ぎ、半ズボンからスカートに履き替えたキュロットは、
涙ながらにアルエットに詰め寄っていた。
「落ち着いて、コレット。もちろんわたしは貴女を連れて帰りたいと思っているわ。
わたしはそのためにやってきたのですから。
でも、最終的に判断なさるのはご主人様よ」
「お姉様のご主人様……ダークアルエット様……」
「そう。貴女がポトフに戻るための条件は二つ。
一つはキュロットという過去を捨て、
コレットというまったく別の人間に生まれ変わること。
そしてもう一つは……」
「もう一つは? もう一つは何なんです?」
「あとはご主人様が直接お話し下さるわ。
ダークアルエット様は貴女にとってもご主人様。失礼のないようにね」
「は……はい」
アルエットが目を閉じると、その体の闇の魔力が急速に膨れあがっていく。
一瞬全身から黒い炎のようなオーラが吹き上がり、
また体に吸い込まれるように引いていった。
そして再び瞼を開いたとき、彼女の涼やかな蒼い瞳は、
爛々と輝く紅い瞳に変化していた。
「ダークアルエット……様……?」
「久しぶりですね。キュロット君。失礼、コレットさん……だったわね」
「は、はい……」
キュロットの想像とは異なり、ダークアルエットの表情はアルエット以上に穏やかで、
丁寧な口調の中にも、依然見たときのような嫌味が感じられない。
「今のあなたの容姿と同じくとても可憐な名前です。
アルエットもなかなかいい名前を考えたものね」
「あ……ありがとうございます」
「さて、本題ですが、まずは魔王プリエ様のことをお話ししましょう」
「え!? ぷ……プリエ姉さん?
ダークアルエット様はプリエ姉さんがどこにいるかご存じなんですか!?」
「プリエ様は魔界の最深部、自らの居城にてご健在でいらっしゃいます。
ですが、近いうちにまたこの地上に還ってこられるでしょう。
復讐を果たすために……」
「姉さんが生きている! ……よかった。で……でも復讐って、一体誰に……」
「もちろん聖女会ですよ。そして彼らが祀り崇める光の女神ポワトゥリーヌ」
「な……まさか!? どうして!?
どうして姉さんが聖女会に復讐するんです!? それに女神様って!?」
「コレットさん。口調が元に戻っているわよ?」
「あ……す……すみません。わたしったら……」
「ふふふ、わたしは気にしませんので、無理はしないでください」
「は……はい。でも……なるべく……」
「さて、話を戻します。
闇の王子クロワ、聖母神教主ノワール、この二つの脅威が滅びた今、
大魔王プリエは最後に残った最凶最悪の神敵として、
聖女会から追討命令が出ています」
「ちょっ……ちょっと待って下さい! クロワさんが……滅びた?
プリエ姉さんが神敵? 一体どういうことなんです?」
「プリエ様はそのことについては固く口を閉ざしておられるので、
詳しい経緯はわたしも知りません。ですが二人を倒したのは間違いなくプリエ様。
教会としてはそんな強大な力を持った悪魔の存在を許しておく訳にはいかない、
ということね」
「そんな……、
聖女会のみんなはプリエ姉さんを助けようとしてくれていたんじゃ……」
「それは貴女がサラド神父に騙されているだけだわ」
「わたしが騙されている?」
「そうです。聖女会の総帥である彼は、今、
教会の総力を挙げて魔王プリエの倒滅を果たそうとしています。
貴女にそのことを隠し、一人この村へと遠ざけたのは、
サラド神父の精一杯の情け……ということなのでしょう」
「そ……そんな……」
「信じられないのも無理はありません。ですから論より証拠。
実際にコレットさんに見てもらいましょう。真実をね」
そう言うとダークアルエットは、突然右手を伸ばし、キュロットの額を掴んだ。
「え!? な……何!?」
「スリープ!」
「ッ!…………」
たちまち魔法は効力を発揮し、キュロットはそのまま床に崩れ落ちた。
「やめて! 師匠! 師匠とは戦えないっ!」
「問答無用! ぬうあああああっ! 真・聖拳突きぃぃい!」
「きゃあああああああああっ!」
(……う……ん……この声は……姉さん?)
キュロットが目を覚ますと、目の前には拳を突き出したサラド神父が、
深く腰を落として構えている姿が目に入った。
「グッ……ううっ……師匠ォ……」
(サラド神父! 姉さんはどこ? 声はするのに姉さんの姿が……)
そこは見慣れた聖女会の礼拝堂だった。
瓦礫や砕け散った長椅子が散乱し、あちこちに人が倒れている。
(あ……あれは……ボク!?)
サラドの背後にうつぶせに倒れているのは間違いなくキュロットだった。
よく見れば、ほかにもアルエット、エクレール、オマール、
それに聖女会のシスターたち。
いずれも酷いケガを負っているようで、ボロボロになって転がっている。
(こ……これはあの時だ! 姉さんが魔王になって、そして……。
ボクたちの前からいなくなったあの日!)
「仲間たちをここまで傷つけておいて、俺とは戦えないだとぉ?
騙されるものかよ!」
(それじゃあ、姉さんがいる場所は……)
「俺はおまえさんの師匠として……、プリエ! おまえさんを必ず止めるっ!」
(そうだ。この視線は……)
「もう戻れないの……? 戦うしかないの……?」
「そうだ! きやがれ、プリエェ! 俺を倒してみろォ!」
(今、ボクが見ている光景は……)
「うおおおおおっ! 師匠ォォォォォっ!」
(プリエ姉さんの記憶!?)
プリエは自分からは一度も攻撃を仕掛けなかった。
だがサラドは持てる奥義を尽くして戦いを挑んでくる。
どれも『魔神殺し』の名に違わない一撃必殺の威力。
その中にはキュロットが一度も見たことのない技も数多く含まれていた。
サラド神父とはここまで強かったのか。
その攻撃力はプリエのそれを大きく上回っていた。
殴られる。蹴られる。投げられる。折られる。砕かれる。
プリエの瞳を通して、キュロットは彼女の痛みを体感していた。
サラドの凄まじい気迫と殺意に身がすくむ。
攻撃を受ける度に、死の恐怖に心が引き裂かれる。
(……殺される……殺される……殺される……殺される……)
プリエが人間であれば、もう何度でも死んでいるだろう。
だが彼女の身を守る魔王の肉体は強靱だった。
あらゆる攻撃が通らず、あらゆる傷が瞬時に塞がる。
(……殺された……殺された……ころされた……またころされた……)
『殺しなさい』
(……え?)
崩壊寸前のキュロットの心にどこからか声が聞こえてくる。
『殺さなければ殺されてしまうわ』
(ころされる? いやです……もうころされたくない……)
『殺しなさい。殺されないために殺しなさい』
(ころされない? ころされないために……ころす?)
『殺しなさい。生きるために殺しなさい。助かるために殺しなさい』
(ころす……いきるために……ころす……たすかるために……ころす……)
『殺しなさい。殺しなさい。殺すために殺しなさい』
(ころす……ころす……ころすために……ころす……)
『殺しなさい』
(殺す!)
「うわああああああああ!」
(……あ……今のは……ボク? それとも姉さん?
そうだ……一度だけ……たった一度だけ、サラド神父に反撃を……。
でも……その一撃でサラド神父は……)
キュロットの目の前には血に塗れたサラドがうずくまっていた。
「……師匠……」
「……ゴホッ……ぷ……プリエぇ……。
俺を生かしておくと……こ、後悔するぜぇ……。
俺は師匠として……おまえさんを止めなきゃならねぇんだ。
俺は命ある限り……ぐ……カハッ! おまえさんを……追い続ける……。
そして必ず……滅ぼす!」
(姉さんを追い続ける? 姉さんを滅ぼすために!? そんなのひどい!
そんなのってないよ!? 姉さんはサラド神父を攻撃しなかったじゃないか!
戦いたくないって言ってたじゃないか!)
プリエが目を閉じたのか、あたりは暗闇に閉ざされた。
ガシッ!
突然視界がブレた。
(な……なんだ!?)
「街の真ん中に悪魔が出るなんて、きいてないわよ〜〜〜!!!!」
ビシッ!
「うえ〜ん! 悪魔、こわいよ〜〜〜!!! 助けて、シスター!!!!!」
ガシンッ!
「あ、悪魔なんか、聖女会のシスターが、やっつけてくれるんだから〜〜〜〜!」
ガンッ!
「あ、悪魔だ〜〜〜! 女神さま、助けてくれ〜〜〜!!!」
(これは石だ! 石を投げられているんだ!)
目の前には見慣れたポトフの街の大通りが広がっている。
プリエが歩みを進める度に目の前で扉が閉まっていき、
物陰に逃げ込む人々の姿が視線をかすめる。
そして安全な場所を確保した人間たちは、聞くに堪えないような非難と中傷、
あらゆる罵詈雑言を吐きながら、プリエの体に石をぶつけてくるのである。
彼らは隠れているつもりだろうが、魔族の視覚と聴覚は全ての隠れ場所を把握し、
全ての言葉を聞き取っていた。
だが彼女はどれだけ石を投げられても、どれだけひどい言葉を浴びせられても、
黙って歩みを進めている。
(なんだよ、これ! 姉さんは何もしてないのに!)
プリエは一切街を破壊していない。
ただ街を歩いているだけだ。
だがその外見が人間のものではないから……。
「悪魔!」「悪魔!」「悪魔!」「悪魔!」「悪魔!」
どの人間も彼女を悪魔と恐れ、罵り、そして攻撃してくる。
そのほとんどがプリエとキュロットが見知っている人たちだ。
(姉さんはみんなのことが大好きだったのに!
みんなのことをずっと守って戦ってきたのに!)
『殺しなさい』
(そうだよ!)
『殺さなければ殺されてしまうわ』
(殺しちゃいなよ、姉さん!)
『殺しなさい。恩を仇で返す人間たちを殺しなさい』
(こんな人たちを守ってあげる価値なんかない!)
『殺しなさい。悪魔を虐げる人間たちを殺しなさい』
(どうして黙っているんだよ! どうして耐えているんだよ!)
『殺しなさい。殺しなさい。殺すために殺しなさい』
(姉さんがやらないならボクがやる! 姉さんを守るためにボクが殺す!)
『人間を全て殺しなさい』
(人間共、みんな殺してやるっ!)
どろどろとした黒い殺意がキュロットの心を塗りつぶし、
やがて視界をも深い闇へと沈めていく……。
「あ……ああ……うあああああ……姉さん……ねえさあああん!」
気づいたとき、キュロットは両手で顔を覆ってむせび泣いていた。
「どうだったかしら? コレットさん。これが差別。これが迫害です。
プリエ様の内面は以前と何も変わっていない。
それなのに外見が変わるだけで、悪魔と罵り、石を投げてくる。
「あんなことがあったなんて……。
姉さんが街の中で暴れ回ったって聞かされていたけど、
全然そんなことなかったじゃないか!」
「クロワもノワールも少なくとも、外見上は人の形を保っていたわ。
彼らは各地に災害を撒き散らしたけれど、
王家のお膝元――城下町や教会で派手に暴れたことはなかった。
それに対してプリエ様の罪状は
『多数の魔族を率いて突如教会の中枢を襲撃。パプリカ第一王妃エクレール、
聖女会総帥サラド神父をはじめとする多くの重要人物を殺傷。
礼拝堂を破壊し尽くした後、城下町でも暴れ回り、市民を多数負傷させた』
こんなところかしら。人々に刻まれた恐怖・印象は最悪です」
「で……でたらめです。市民を多数負傷させただなんて……。
わたしはこの目で見ました! 姉さんはただ歩いていただけです。
一人として街の人を襲ったりしていない!」
「逃げ惑っているうちに転んでケガをした人がいるのよ。
それも驚かせたプリエ様のせいということになるのです。
それが“多数”いたかどうかはあやしいところですけどね」
「そ……そんな……」
「魔王の正体が聖女会の元シスター、プリエであることは既に広く知れ渡っています。
変身能力を備えたプリエ様にとって人間の姿に戻るのは容易いことですが、
教会に戻ったところで送られるのは絞首台でしょうね。
仮にサラド神父やエクレール姫が助命を願ったとしても、
市民が元魔王の生存を許さない。
プリエ様にとって、もう帰る場所はどこにもないのよ」
「うう……わたしは……いつの日か、姉さんの心から闇を取り除いて、
元の姉さんに戻すことができる……。そう信じて……」
「人々は皆、教会が魔王を滅ぼすことを心から願っています。
そして教会もその声に応え、光の聖女の名において
魔王を討伐することを正式に発布しています」
「光の聖女……? アルエットお姉様が……?」
「わたしが聖女だということは人々には知らされていませんからね……。
こういうお題目ではいまだに名前が使われるのよ。
本当に光の聖女とは……存在自体があまりにも罪深い……」
それまでずっと穏やかな笑みを浮かべていたダークアルエットが、
その時はじめて苦しげな表情を浮かべた。
「プリエ様を闇に堕としたのはわたし。
プリエ様が愛した人の命を奪ったのもわたし。
本来人々に責められ、追放されるべきなのはわたしなのに……」
『でも、どっちかっていうと、姉さんには光の聖女より、
魔王のほうが似合っているような……』
「違います! プリエ姉さんを闇に堕としたのは……アルエットお姉様じゃありません!
わたしが……わたしがあんな冗談を言わなければ……。
わたしも……、わたしも……同罪です……。うう……。
わたしのせいで……、わたしのせいで、姉さんがあんな辛い目にっ!
知らなかった。ただ漠然と姉さんに会って連れ戻そうと思っていたけど、
姉さんの心の中を想像してなかった。わたしは結局自分の事だけ考えてっ!
あんなに酷い目に遭ってたなんて、あんなに悲しい思いをしていたなんて……。
う……うう……ねえ……さぁん……」
「闇の王子クロワ。聖母神教主ノワール。
プリエ様はたった一人で二つの大きな闇を討ち滅ぼし、地上に光を取り戻しました。
魔族に身を堕としたのは、ある意味平和を取り戻すために
プリエ様が支払った大きな犠牲であり代償です。
それなのに人間たちはプリエ様を称えるどころか、恐れ、忌み嫌い、
滅ぼそうとしています」
「そんなのって……!」
「なぜプリエ様が地上を追われなければならないのか?
なぜ今プリエ様の側に誰もいないのか?
仲間と離され、孤独に耐えて生きていく辛さは、
一人ここに送られたコレットさんにも良く理解出来るんじゃないかしら?」
「……そ……そうだ。姉さんもわたしと同じ……。
わたしにはまだ神父さまがついていてくださった。
でも姉さんには本当に……誰一人……」
「クロワさんが生きていたなら、彼が支えてくれたでしょう。
でも彼は闇の王子として、光の聖女であるわたしのかわりに死んでいった。
だからわたしは、クロワさんのかわりに
プリエ様のお側に仕えることを決めたのです」
「クロワさん……」
「コレットさん、貴女はプリエ様を救いたいですか?」
「はい、もちろんです」
「あのお方の抱える闇は深いわ。
心だけでなく肉体まで魔に染まったプリエ様はもう二度と人間の体には戻れません。
光の力ではあの方は決して救うことはできない……」
「光では……救えない……?」
「そうです。光の下にいる限り、わたしたちはあの方を救えない。
それどころか女神の尖兵としてプリエ様に刃を向けることになるでしょう」
「そんな……そんなことは絶対に出来ない! わたしはあの人たちとは違う。
無抵抗の姉さんに石を投げることなんて出来ない!
姉さんと戦うことになるぐらいだったら……」
「ふふふ、コレットさんにもわかっているようね。
そう、プリエ様をお救いするには、プリエ様と共に闇に堕ちるしかない!
光と闇は決して相容れることが出来ません。
光としてプリエ様と戦うか、闇に堕ちてプリエ様を守るか、
選べる道は二つに一つです」
「闇に堕ちて……姉さんを守る……」
人間に絶望させて闇に引き込んで行く…ダークアルエット様流石ですw
キュロット君…いやコレットちゃん、
ここまで引き込まれてしまってはもう戻れませんねw
完堕ちが楽しみです♪