2010年6月28日 21時35分 更新:6月29日 9時7分
高速道路の無料化に向けた社会実験が28日、37路線50区間(計1626キロ)で始まった。国土交通省によると、同日午前0時から正午までの全区間平均の交通量は、前週比1.6倍に上った。国交省は、渋滞緩和や物流コスト低減、観光地の集客増などの効果を検証した上で、来年度以降に無料化区間を拡大するかどうか判断する。だが、民主党の公約である全面無料化には毎年1.3兆円必要という財源の壁があり、実現への道筋は描けていない。【木村光則、横田信行、山本真也、川畑さおり】
日本海東北自動車道(荒川胎内-新潟中央)が無料化された新潟県では、通勤時間帯の午前7時すぎ、同自動車道と並行して走る国道7号で、普段は混雑する阿賀野川大橋付近の流れがスムーズになった。無料化効果で、渋滞する一般道から高速に車が流れたためとみられる。国交省によると、同自動車道では、午前0時から正午までの交通量が前週の約3200台から7800台と2.4倍に増えた区間もあった。全国的には、椎田道路(築城-椎田)の3倍を最高に、東北中央道(山形上山-山形中央)の2.7倍など、19区間で2倍を超えた。
関西では、舞鶴東-大飯高浜の交通量が2.8倍となった舞鶴若狭道で、舞鶴港から京阪神への大型車の利用増や観光客誘致に期待がかかる。京都府北部と福井県西部の6市町でつくる「若狭・中丹広域観光誘客協議会」は、近隣のサービスエリアなどにドライブマップ10万部を配布する予定だ。
全国最長の5区間計319キロが無料化された北海道では、道東道の音更帯広-池田間が2.8倍、道央道の深川-旭川鷹栖が2.1倍になるなど、5区間のうち3区間が2倍超え。旭川市内から車で1時間余りの層雲峡温泉では、マイカー客の増加を当て込み、宿泊客に3000円のガソリン券を提供したり、2000円をキャッシュバックするなどのサービスを始めた。
ただ、鉄道など公共交通事業者などは今後の経営への影響を心配している。
北海道では、道東道の夕張-占冠間が来年度中に開通する予定で、札幌市から帯広市が高速道路1本でつながり、所要時間は現在の3時間半から30分短縮される。この区間がもし無料化されれば、札幌-帯広を2時間あまりで結ぶ鉄道利用者の一部はマイカーに流れる可能性がある。
「経営上の影響は極めて甚大」(中島尚俊社長)とみたJR北海道は6月、札幌-帯広、札幌-旭川間の特急列車を利用する1泊2日のツアーを2000~6000円値下げし、顧客の囲い込みを図る。
物流業界では、料金負担が軽くなる一方で、高速道路の渋滞が増えるという懸念も浮上している。特に片側1車線の道路は渋滞が起きやすく、物流大手は「急ぎの荷物を運びたいときに時間が読めず、運転手の出発時間を早めざるを得ず、労務コストがかさむのでは」と警戒する。
無料化初日は、通勤時間帯に新湘南バイパス(神奈川県)で約5キロの渋滞が生じた程度で大きな混乱はなかったが、宅配便最大手のヤマト運輸は「メリットはまだ測れない」(広報)と明言を避ける。