【コラム】北朝鮮の最近の事情(下)
現在、北朝鮮の食糧問題は、1990年代後半の大規模な餓死事態とは異なった状況にある。貨幣改革の影響で数カ月にわたり崩壊していた市場が活気を取り戻し、住民たちは必死に市場に集まっている。当局による統制も、これ以上は不可能だ。海外からの支援が途絶えているため、軍部や権力層も徐々に追い詰められている。
現在、朝鮮労働党幹部の間でも、「後継者とされる金総書記の三男)ジョンウン氏とはいったいどのような人物なのか」「かつて何をしていたのか」などについて、知る人はほとんどいない。党の宣伝扇動部は、金総書記に権力が移ったときのように、ジョンウン氏を迎えるに当たって何かを作り上げなければならないが、そのような作業もほとんど行われていない。以前、金総書記は労働党内に「10号」と呼ばれる秘密組織を立ち上げ、自らの家系についてあれこれ口出しする人物を粛正する権限を与えていた。そのため、ジョンウン氏への世襲が行われる際も、この家系が聖域となるのは間違いない。ただしそうなると、ジョンウン氏の母親である故・高英姫(コ・ヨンヒ)氏についても宣伝しなければならず、最終的に、金総書記の私生活や家系の問題へと飛び火するのは避けられない。そのため、自らの私生活と家系が明らかになることを極度に恐れる金総書記が、どのような選択をするのか、注目に値する。
世襲における矛盾はまだある。世襲が行われるに当たって最も大きな障害は、皮肉にも金総書記自身だ。金総書記は金日成(キム・イルソン)主席をあやつり人形とした経験があるため、権力を息子に譲った場合、自らが悲惨な立場になるのではないかと恐れている。権力は継承すべきだが、一方ではそうしたくないという矛盾が、後継者構図を不透明なものにする要因となっているのだ。
姜哲煥(カン・チョルファン)東北アジア研究所研究委員