【ローマ藤原章生】日本の総選挙で民主党が大勝したことについて、イタリアで2度にわたり中道左派政権を率いたロマーノ・プロディ前首相(70)=前欧州委員会委員長=は31日、毎日新聞の電話取材に応じ、民主党を「中道左派政党」と位置付けたうえで、「中道左派の圧勝は日本にとり大きな革命で、うれしい驚きだ」と述べた。さらに「安定した議会運営ができる新政権は、富の分配や失業対策など世界中が抱える課題に取り組む条件が整い、国家設計が欧州に与える影響は大きい」と期待した。
前首相は90年代から民主党の菅直人代表代行と親しく、互いを「協力者」と呼び合ってきた。「祝いの電話での話題は、私の最初の政権が連立崩壊で98年に総辞職した時に菅氏が語った『選挙に勝つだけではだめだ。安定多数を取らねば』という言葉だった。11年後に実現させた彼らをたたえたい」と述べた。
中道左派の立場を貫いてきた前首相は「国は違っても菅氏らと私の政治姿勢はよく似ている」と民主党が弱者に焦点を当てていくとの見方を示した。
前首相は「日伊は、高齢化と年金破綻(はたん)の危惧(きぐ)、規制と緩和で揺れ動く外国人対策、若者の失業、さらには国内総生産を上回る国の借金など、共通点が多い」とみる。「失業者や格差に配慮した、民主党政権による新たな国家デザインを、同じ問題で苦しむ欧州諸国は期待と共に注視している」と語った。
アジア重視で日米関係が弱まるとの見方については「『ブッシュ・小泉』のように、オバマ米政権と民主党政権は波長が合う。日中関係に劇的な変化があるかもしれないが、日米関係は大きく変わらない」と話した。
◇
イタリアでは主要メディアが「右派・自民党に中道左派・民主党が圧勝」(レプブリカ紙)と大きく伝え、日本の「左旋回」を強調する論調が目立つ。08年、中道右派のベルルスコーニ政権誕生で下野した中道左派、民主党のフランチェスキーニ党首も31日、「イタリアも(中道左派への)政権交代に備えよという一つの指針だ」との声明を発表した。
イタリア以外でも民主党を「中道左派」と表現するメディアが目立っている。
AFP通信は30日、自民党との対比で「日本の有権者は、未知数の中道左派政党を圧勝させた」と伝えた。AP通信も「中道左派」と報じている。
鳩山由紀夫・民主党代表は、8月下旬に世界の英字メディアに掲載された論文の中で、金融危機の背景として「米主導のグローバル化」を強く非難しており「左寄り」の印象があるようだ。
一方、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは9月1日、民主党を「中道」とした上で、連立政権を組む見通しの相手を「左派の社民党」と「保守系の国民新党」と紹介。ワシントン・ポスト紙(電子版)は1日の社説で、民主党を「自民党出身者や元社会党員、市民活動家の集まり」とした。【鵜塚健】
【ジャカルタ井田純】1日付のインドネシア有力紙は、民主党政権の誕生で日本の東南アジアへの関与が低下する懸念を専門家の見方とともに伝えた。発行部数最大のコンパス紙は、インドネシア大のシャムスル・ハディ氏のインタビュー記事で、鳩山政権で北東アジア諸国との関係改善が進むと指摘。「代わりにインドネシアなど東南アジア諸国連合(ASEAN)の外交的な重要性は下がる」との分析を紹介した。
【北京・浦松丈二】中国外務省の姜瑜副報道局長は1日の定例会見で、政権交代後の日本との関係について「ハイレベル往来の良好な勢いを維持し、中日関係を不断に発展させていきたい」と述べ、首脳往来の継続を呼びかけた。
日本の新首相と中国首脳の初会談の具体的な日程については明言を避けたが、中国共産党関係者は今月22日から米ニューヨーク、ピッツバーグで開かれる一連の国際会議で胡錦濤国家主席が個別に会談するとの見通しを明らかにした。姜副局長はまた、鳩山由紀夫民主党代表が靖国神社に参拝しない意向を表明していることについて「アジア諸国との関係改善、発展にプラスとなる」と評価した。
毎日新聞 2009年9月2日 東京朝刊