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天声人語

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2010年8月19日(木)付

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 暦の上ではとうに残暑となるが、名残とするには濃厚な暑気である。30度近い熱帯夜は虫にもこたえるとみえ、セミの朝鳴きは心なしか弱々しい。路上の水を吸うアゲハの羽も重そうだ▼内側からも冷やそうと、そうめんや豆腐が絶えない食卓も多かろう。ただ、冷たい物が過ぎると胃腸の働きが鈍り、食欲が衰えるのでご用心。口からの涼は、たまにとるから心地よく五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡るらしい。俳句の日ということで、まず涼やかな句を一つ。〈冷麦(ひやむぎ)に氷残りて鳴りにけり〉篠原温亭▼東京でも38度を超えた猛暑は、西日本を中心になお暴れる気配である。この夏、熱中症で病院に運ばれた人は3万を超え、死者は東京区部だけで約100人。独り暮らしのお年寄りが息絶える例が多い▼フランスを熱波が襲った2003年、炎暑に不慣れなパリなどで約1万5千人が亡くなった。かなりの死者がやはり独居の高齢者で、天災ながら、都会の孤独として社会問題になった▼酷暑そのものが、ある意味で人災だろう。車やエアコンの排熱、昼の吸収熱が都市を暖めるヒートアイランド(熱の島)現象だ。ゲリラ豪雨の一因とされる。だから高浜虚子のように、〈見苦しや残る暑さの久しきは〉と、突き放して残暑を腐すわけにもいかなくなった▼梅雨明けに添えて、ひと月前の小欄は「天変地異のない、しっかりした夏を願う」と書いた。以来、ひどい台風がないのはいいとして、ここまで「しっかり」するとは思わなかった。自業自得とはいえ、われらが熱の島の空調、甘くない。

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